レシィ×ユエル 第四話(…ユエルさんが悪いんです) 色々な感情でぐちゃぐちゃになった頭で、どうすればいいか考えた。 (本当は男は皆獣だってのに、僕以外の男の人にも平気で抱きつきますし、どれだけ自分が可愛くて魅力的なのか、ちっとも自覚していませんし!) どうしたら、ユエルは自分だけを見ていてくれるのか? (大体、道端に落ちてるお饅頭を勝手に拾って食べちゃったりしますし、ミニスさんと、酷い時は一人だけで危ないのに町の外に遊びに行きますし! なんか知らない人にお菓子貰ったらついて行っちゃいそうな所ありますしっ、塀の上には上がるし、屋根の上には上がるしっ、木の上にも昇るしっ! 特にいつだったかなんて、自分も料理したいとか言い出して、僕に手出し無用だなんて言っといて、それでも僕がはらはらしながら見ている側で、でも結局指ザックリ斬っちゃって、ドバーッて血が出ちゃった時なんか、どれだけ、どれだけっ、どれだけ僕が心配してたと思ってるんですか!? どれだけ僕が……心臓止まるかと思ったか、判ってるんですかっ!?) …どうしたら、ユエルを自分から離れられなくしてしまえるか? (危なくて、見てられなくて、そんなユエルさんを、僕がどんな気持ちでいつも見てたのか、知りもしないで、それなのにこんなにユエルさんは可愛くて、可愛くて…ああ、もう! もう絶対に許さないんですからね!? 絶対に!) 一体何を許さないのか、レシィ自身よく判っていない頭で結論づける。 …そうする為の方法は、知識でも本能でも知っていた。 「…さぁ、ユエルさん、教えてください。気持ちよかったんですか?」 そう問われても、まだ迷っているようにおろおろと目を左右させているユエル。 「えっ…? え…」 たっぷりそんなユエルの右往左往する様を観察した後、「…じゃあ『お仕置…」 とレシィが言いかけたところで、慌てたようにコクコクコクと首を振り始めた。 …だがレシィは、それでは許さない。 「…ダメですよ、ちゃんと『気持ち良かったです』って口で言わなきゃ?」 出来の悪い子供に言い聞かせる親のような、優しく、しかしどこか責めるような口調でユエルに言い聞かせると、彼女はきゅっと身を竦ませて再び黙ってしまった。 …だから、薄く笑うと。 「…きゃふっ!?」 思い出させるように、再度中のモノを軽く引きずって。 「言えますよね? 口で言うだけですもんね、『気持ちよかった』って」 レシィは執拗に、ちりちりとユエルをいたぶり追い詰める。 そんな、口と刺激とでの両方の責めに耐えかねたのだろう。 「き…気持ち、よかった、よ…」 顔を俯かせて震える口調で、とうとうユエルが口を緩めた。 だが、今の意地の悪いレシィはそれですら許さず。 「ダメです、良かったよ、じゃあなくて、『気持ち良かったです』ですよ? …ね? ユエルさん。…ちゃんと人とお話しする時には、敬語を使わなきゃ」 「……そ…そんなの…………む、無理だよぉ…」 恥ずかしいのを我慢して頑張って言ったのに、それすら邪険に扱われて。 ユエルはそう漏らして、またきつく口を結んでしまった。 普段は「です」「ます」などの格式ばった口調なんて、一度も使った事がない彼女にとっては、ひょっとしたらある意味その事自体が「気持ちよかった」と口にするのと同等なくらいに恥ずかしい事だったのかも知れなかった。 そんなだから、今度は妥協の意志が全く見えない事を見て取ったレシィは、暖かいのだけれども、しかし確かに冷たさも交えた笑いを浮かべ。 「じゃあ仕方ありませんね…」 「…っ!?」 ぐっと一番奥まで、押し付けるように自分のモノを差し込んだ後。 「やっ…」 「…はい、『お仕置き』です♪」 「や、ややややあああぁ――――――――――――っっ!!」 先程同様、ユエルの内部を一番奥から出口付近までかけて存分にこすり引き擦った。 …弓矢の鏃部分が三角状になっているのは、刺さるときには刺さりやすく、抜ける時には抜け難くしかも引っかかって傷口を悪化させる為。 再び自分の内部を上から下までまんべんなく嘗め尽くすそんな鏃の感触に、ユエルは身を震わせて叫び声を上げずにはいられない。 …だが、抜くときに抜き難いという事は、同時に得物にかかる負担も大きいのだという事実につながる。 途中で折れて体内に鋭利な破片を残すことがむしろ喜ばれる弓矢はともかく、剣や槍ではそうはいくまい。 ……ましてや、自分の体の一部であれば。 相手の受ける負荷が強ければ、自分の受ける負荷も当然強く。 (…ちょっと、これは、ヤバイです…) 内心の焦りを必死で隠しながら、レシィはこっそり考えていた。 ユエルは自分だけが気持ち良くされていて、レシィの方は全然余裕でいるのだと信じきっていたが、実際は全然そんな事無い。むしろ。 (…なんでこんなに、締め付けて、…っっ!) 黙っていれば大した事はないのだが、問題は動いている時で。 ただ、こちらがユエルの内部を擦ると。 ユエルに刺激を与えると。 それに反応して、ユエルの膣壁がクックッと締め付けるので。 …それでなくとも、ゆっくりと強くながぁ~く擦り付けることは、小刻みに何度も擦りつけるよりも実はかなり辛いのであって。 連続なら10回、今しているように所々にばれない様に休憩入れながらだったら誤魔化し誤魔化し20回は攻撃できますかねぇ、なんて事を考えていたレシィは、心の中では冷や汗を垂らしながら計算を立て直してたりするのだが、けれど絶対にそれは表には、ユエルにはバレてはならないと、本当はレシィの方も必死だったのだ。 …こんなに誰かに対して――たとえそれが虚勢であったとしても――自分は強いんだと見せかけたいと、自分の方が強いんだと思い知らせたい気持ちになったのは、彼もまた初めての事だったから。 そうやって絶頂を迎えたばかりなのに更に与えられた快楽に、あそこの周りがピクピクと経験するのを感じながら、ユエルは震えていた。 何だか判らないけど、胸が切なくて、彼女のお腹がキュンとなる。 そうやって再び火が灯ってしまった自分の体に、しかしおそらく、もう一度『お仕置き』を繰り返そうとしているのだろう、軽い快感と共に再び奥へと押し込まれて来るそれに、ユエルは… 「…まだ言えないんですか? じゃあもう一度…」 レシィのそんな、とても楽しそうな声が聞こえて…… 「きっ、気持ちいいですっ! ユエル気持ちよかったですっ!」 思わず叫んでしまった自分に、一瞬後でユエルは気がついた。 「…はい、よく言えました。偉いですねぇ、ユエルさんは。やっぱり気持ちよくて気持ちよくてしょうがなかったんですね。ユエルさんって、やっぱりとってもエッチな女の子です♪」 そう言いながら、レシィが頭を撫でてくれるのだが、 「ぅ… ふぅ……ッゥぅ……ゥ」 ユエルとしては、レシィに面と向かってそんな事を言われると、もう恥ずかしくて恥ずかしくて仕方が無い。 彼女としては、痛みにだったらいくらでも耐えられる自信がある。 でも、これは… こんなのは… 今は別にレシィのは中で動いていないというのに。 『ユエルさんって、やっぱりとってもエッチな女の子です』 理由は判らないが、普段は優しい、絶対にそんな事は言わないであろうレシィの声で、そんな事を言われちゃったんだと考えていると、そこがじゅんっと熱くなって、なんだか息が苦しくなるのを感じるユエル。 (…ユエルさん? ……! …やっぱり、もしかして、ユエルさんって…) そんな、別に肉体的快楽は与えていないのに、切なげな顔で震えているユエルを、いや、これまで自分が見てきたユエルを思い出して、レシィは自分の中で確信に代わりつつあったそれを、思わず口に出した。 「…あれ、でもユエルさん、もしかして僕にいじわるされてて気持ちいいって感じちゃってるんですか?」 まるで心の中を見透かされたみたいでビクリとし、ユエルは慌ててかぶりを振る。 「…そ…そっ、そんな事あるわけないよっ! ユッ…ユエッ…」 「…でもユエルさん、なんだか恥ずかしいと気持ちよくなっちゃってるように見えるんですけどね。…恥ずかしいの、ダメなんですか?」 しかしレシィは、そんなユエルを見ながら実に楽しそうに何度も何度もユエルに訪ねるのだ。 「ね、ユエルさん、今度はこの事について教えてくれませんか? ユエルさん、さっき僕のこと意地悪だっていいましたよね? でもユエルさん、僕に意地悪されて気持ちよくなっちゃってるんですよね? 僕にこんな恥ずかしい事されてエッチな気分になっちゃってるんですよね? 僕、ユエルさんの口から、はっきりと訊きたいな♪」 「ちっ、違っ…」 畳み掛けるようにレシィにそう訊かれ、ユエルは違うと言いかけるが、…ドキリとする部分が無いわけではないので、僅かに言い淀んでしまい。 その一瞬をついて、レシィが言った。 「じゃあそれ、なんですか?」 「…え?」 すっとレシィが指差した先、自分の股の下辺りを見ると、自分の股下で下敷きになり、少し湿った自分の尻尾が、窮屈そうにパッタパッタと右に左に動いているのが見えた。 「……ユエルさん、自分に嬉しかったり気持ちよかったりすると、勝手に尻尾を動かしちゃう癖があることくらいは、知ってますよね♪」 ………… 「…………ぁ」 「ユエルさんの尻尾は正直ですね。本当はず~っと言いたかったんですけど」 にやっという笑みを浮かべて、レシィはトドメとばかりにユエルに言った。 「さっきから、ずっと動いてましたよ?」 そう言うと、ぐいっとばかりにユエルの体を抱き起こし、そのまま抱きかかえるような形で座り直した。 ユエルは擦れる感覚に呻き声を上げたが、逆に窮屈さから解放されたユエルの尻尾は、また元気よく左右に揺れ動き始める。 「ユエルさんがこういう風に言葉でいじめられるのが大好きな女の子だっただなんて、僕、知りませんでした♪」 答えるように、ぴょこぴょこと揺れる尻尾。 嬉しかったり悲しかったりすると、勝手に尻尾を動かしてしまう癖が自分にある事は知っていた。 トリスや皆は感情表現が豊かでいいことだと言っていたし、止めようと思えば止める事だって出来た(またすぐに動き出すのだけれど)そんな自分の癖をとりわけ別段不便に感じた事はなかった、というか、気にしてすらいなかった。 …いままでは。 「……ちっ、違うっ! 違う違うっ! 違う違う違う違う違うぅっっ!!」 ユエルは慌てて後ろ手に尻尾を押さえようとしたが、しかしその時レシィがユエルの中に差し入れた自分のものをすかさず動かした為にその手はすぐに地面についてしまった。 …相変わらず尻尾は止まっていない。 「違いません。…どうして我慢するんですか? 僕は嬉しいですよ? ユエルさん、僕の事エッチだって言ってましたけど、でもユエルさんも本当は僕と同じくらいエッチだったんですよね?だから僕、とっても嬉しいんです」 ニコニコしながらユエルを抱きしめてそう言うレシィを横目に、しかしユエルはきゅっとお腹に力を入れることで尻尾の動きを止める事に成功した。 そうだ、その気になれば止めるのなんて簡単…… 「違うのっ! 違うの違うの違うのっ! エッチなのはレシィでっ…だよっ! レシィがエッチ過ぎる事ばっかりするから、ユッ、ユエルっ……」 「…じゃあ実験してみますか?」 「ユエルさんは、」 そこで大きく息をついて、レシィが言った。 「こんな僕みたいな、気弱で、女の子みたいで、ユエルさんよりも弱い、エッチで、スケベな、変態メトラルのを、ユエルさんの、大事なところに、一番奥まで入れられながら、感じちゃってるんでしょう?」 「…っ!!?」 一言一言区切るようにそう言われて、ビクッと、ユエルの尻尾が激しく痙攣するが、しかし痙攣しただけで………… 「…だったら、ユエルさんだって十分変態ですよ♪」 次の瞬間、バタン、と音が鳴るくらいにユエルの尻尾が上に半円を描いて反対側の絨毯に叩きつけられた。 そのまま、もの凄い勢いで左右へと行ったり来たりを再開し始める。 呆然としながら(レシィに)何故か動いてしまった尻尾を(ああ言われるの)、ものすごい勢いで(聞いたら)左右に振れている(なんか胸が切なくなって)尻尾を見つめながら(お腹がキュンとなって)、ユエルはどうして(あそこがキュッとして)お腹の力が(だからお腹の力が)(抜けちゃって)(尻尾が)(ユエルなんでそんな)(あれっ?)(えっ?)(えっ?)(えっ?)(えっ?) 「…ほらっ、やっぱりユエルさん、こういう事言われるのが好きなんだっ!」 「…………!!!!」 突き切るように断言されて、 「…ちっ、違うのっ! 違うよぉレシィッ! …なんでっ、なんで、なんでっ、なんで止まんないの? やだぁ、やだあっ、止まって、止まってよぉ…っ! …こんな、こんなエッチな尻尾っ、ユエルの尻尾じゃないぃっ、ユエルの…」 「いいえ、違いませんっ!」 そう言って、両手でぐっとユエルの体を掴むと自分の体との間に距離を取り、ユエルの中から自分のモノを三分の一ほど抜き出して角度を固定した。 「くぅんっ!?」と小さな悲鳴をあげるユエル。 「…んんっ、レシィやだ、そこっ……」 「ここっ! さっきユエルさんをイかせてあげた時に判ったんですっ! ここがユエルさんが一番感じちゃうところですよね!?」 「…えっ…っぁ! ひっ、やっ、そこっ、だめぇっ、そこはだめぇぇっ!」 先程散々ユエルの中をひっかき回した際に見つけたポイントに限定して、小刻みな集中攻撃を仕掛けるレシィ。 臆病で、ずっと居場所が無い中、相手の顔色を伺いながら生きて来ざるを得なかったレシィは、しかし、皮肉にもだからこそ観察眼に長けていた。 「隠したってダメですっ、ユエルさん本当に判りやすいんですからっ! 初めての僕にでも判っちゃうくらいに判りやすいんですからっ! なのにどうして嘘つくんですかっ! 気持ちよかったら気持ちいいって、なんで言ってくれないんですかっ、どうして我慢するんですっ!」 ユエルの心の壁に、確実に大きな亀裂が走ったのを確信して、レシィは休む間も与えず、己の全技術を駆使した最大攻撃を続けるが。 もう少しで、もう少しで彼女は自分の前に完全に屈服するはずなのに。 「叫んだって怒りませんから! 泣いたって呆れたりしませんからっ! 叫びそうなら叫んじゃってください、泣きそうなら泣いちゃってください! 聞かせて欲しいんですよっ、僕、ユエルさんの声で聞きたいんだっ!」 どうして歯を食いしばるのか。どうして耐えようとするのか。 確実に決定打は入ったはずなのに、しかし崩れない最後の薄い防壁に、連続使用に伴う自身の危険も感じて、レシィが焦り始めた時。 「やっ、そんっ、きぃっ、っと、はっ、はっ、できっ、うっ、うあっ、っ、っ…」 自分に必死に抱きついてくるユエルの口の動きを見ていたレシィには。 ユエルが必死に主張している事の趣旨は聞き取れた。 「えっ、ってっ、んっ、あっ、ふっ、はっ、んっ、ふうぅっ、ふうぅぅ、んっ」 『そんな恥ずかしい事なんて出来ないよぉ、ユエルだって女の子なんだもん、ユエルだって女の子なんだもん…』 …そう、ユエルは言いたいらしかった。 奔放で、屈託のなく、しかしおよそ恥じらいに欠けると彼女の事を評する人間が決して少なくない事をレシィは知っていたが。 けれど、レシィにはすぐに判った。 彼女が自分と同じように、本来の性別らしくない自分を実は気にしていて。 いつも失敗ばかりだけれど、料理や洗濯、掃除などに挑戦していたり。 ついさっき、ずっと好きだった男の子が誰かを教えてくれた。 意外と恥ずかしがり屋な所があって。実は自分の胸の小ささを気にしてて。 …年頃の女の子なのだから、彼女だって本当は持っていたって当然なもの。 それが今、彼女が最後に必死になってしがみ付いている物の、正体。 だが、そんなユエルを、改めて『可愛い』と感じてしまったのが失敗だった。 その感情こそが、現在の彼を支配している黒い衝動の動力源なのであって、ほんの少しだけ効いた彼の心のブレーキも、次の瞬間には破壊される。 「ふぁっ、ふっ、ふぅっ、あっ、ああっ、んっ、んっ……」 ……口を閉じ、両目を見開いて、再び限界に近いユエルを観察して。 やがてユエルの喘ぎ声が鳴き声にも違いものになり。 瞳の焦点が合わず、耳の先がピンと張り、自分に抱きつく力が段々と強くなってきて、最後にきゅっと尻尾がくねるように上がりかけた所で。 ――レシィは、ピタリと腰を動かすのを止めた。 「フアッ!?」 いきなりレシィの動きが止まったので、為されるがままだったユエルも違和感を感じて失いかけていた目の焦点を取り戻す。 所要時間の少なさと強引さの為に、二度目のよりは弱めだったが、しかし間近に迫っていた三度目の絶頂を、まさに寸止めされた形になった。 その間、レシィはじっとユエルを観察していたのだが。 10秒ほどで、ユエルは自分の心をさい悩ます燻りに気がついたようだった。 20秒ほど経つと、頭もしっかりして来たのか、目に見えてソワソワし始める。 30秒後、目に見えて狼狽し始めながら、ようやく異常に気がついたようだ。 「レ、レシィ……」 困惑と、しかし微かにだが確実に物欲しげな視線を宿して自分を見る彼女の目に、目論見の成功を確信するレシィ。 「……それじゃあ仕方ないですが、こっちにも考えがあります」 人差し指を出して、つっと軽くユエルの浅めな起伏の谷間を辿ると、「ふぅっ」という喘ぎ声を彼女が漏らした。 …でもそれだけだ。人差し指で軽くなぞるだけ。 そうやって、さっき彼女が触られたり、撫でられたり、舐められたりすると、何か特別な反応があった部分を、浅く攻める。 「ふぅ……ふ……レ…レシィ…?」 「『止めてって、休憩してって言ったのに、どうして止めてくれなかったの、レシィの意地悪!』って、さっき僕に言いましたよね、ユエルさん?」 …でも浅くだ。浅くしか攻めない。 しかも、ユエルの耳の先端部が細かくピピピピピピッと震え始めると、すぐに手を離してその軽い愛撫すら止める。 彼女が達しそうになる寸前、彼女の耳がこういう風に細かく痙攣し出すのを、レシィはさっきと今、彼女をつぶさに観察していたせいで覚えてしまっていた。 「…ぁ、レシィ、なんで、止めっ……」 「…あれ? ユエルさん、もしかして止めて欲しくない、とかって言ったりしませんよね? さっきは止めてくれなかったからって、僕を怒ったくせに…」 困ったようにビクッをする彼女を。 「…ねぇユエルさん、認めますか? 認めてくださいよ」 クスクスと忍び笑いをこぼしながら。 「ユエルさん、『僕』に意地悪な事言われると、とっても感じちゃうんですよね? 『僕』に大切な所の中をかき回されてるから、気持ちいいんですよね?」 肉食獣が獲物をいたぶる時のように瞳を細めて、言った。 「認めてくれたら、気持ちよくしてあげますから……」 「…ゃ…やだっ、レシィッ…、そんなの…、…い、いじわる、しないでぇ…っ」 「…じゃあ認めますか? ユエルさんがとってもエッチな女の子な事」 強くしてくれない。いたぶる様に、じわじわと体中を嬲るだけで、自分の中に入れたものは、これっぽっちも動かしてくれない。 ユエルは気づいていないが、彼女の耳が痙攣し出すと、レシィは止めて、それが収まるとまた始めて、し出すと止めて、始めて、止めて、始めて…。 「や…、やだぁ…やだよぉ…、レシィ、お願いっ、ユエル、ユエルッ…」 「…じゃあ認めますか? ユエルさん、恥ずかしくされるのが大好きな事」 荒い息をつきながら、目を潤ませてユエルは必死に首を横振る。 レシィにいい様に翻弄されてばかりの自分が悔しくて、レシィにあんな事やこんな事をされてしまうのが恥ずかしかったが、でも今彼にこうされる事で、自分がレシィが欲しくて堪らない事を改めて自覚させられてしまう。 そうだ、ユエルはレシィのが欲しかった。レシィのが欲しい、…でもくれない。 レシィが欲しい、でも動かしてクれない。気持チよくなリタい、でもナれナイ。 キモチイイノガ、レシィ、ホシイ、レシィ、ホシイ、ホシイホシイホシイホシイ… 「やだ…、ァッ…、やぁ…っ、ふぅぅんっ、クゥ…ッ、クゥ…ンッ、クゥンッ…」 イきそうでイけない、絶頂間際のその瞬間に保たれ続けるその辛さ。 レシィが動きを止めてから、もう10分近くが立つ頃には、無意識にガジガジと自分の爪を噛みながら、瞳を落ち着き無く動かして、まるで赤子のように指をしゃぶるしかない、ユエルがいた。 僅かに空いた口の隙間からは、クゥ…ッ、クゥ…ッという子犬の鳴き声に似た声を出し、いっそ自分で腰を動かしたいと思って試みても、レシィの意外に強い両足の力でがっちりと腰を固定されていてそれもできず。 そんなユエルを、しかし見ているだけで十分自分を保つ事ができるレシィは。 (でも、じゃあユエルさんをいじめて興奮してる僕って、やっぱり本当に変態なのかもしれません…)とか内心でちょっと色々思いつつも、容赦なく。 「ユエルさん、ほら、ユエルさんの尻尾も『オアズケやだ』って言ってますよ? …本当は僕も判ってますから、早く認めちゃったらどうですか?」 「…っ! ぅっ…ウウ…ウウ~~~ッ!!」 先程までの左右とは違い、パタン、パタンと床に叩きつけるように何度も上下されている尻尾を指差し、震えながら首を振るユエルに、さらに。 「ほら、判りません?気がついてますか? …ユエルさんのあそこ、さっきから僕のを食べたいって、キュッ、キュッって…ね? 判るでしょう? エッチな体ですよねぇ~♪ でもとっても正直です♪」 「っっ!!? ウアッ、ウアアッ!! ウアアアアアアアアアッ!!」 いつの間にか無意識に自分がしてしまっていた事を突きつけられて。 そうされている間も指でいじめられ続けて、さらに。 「認めちゃいましょうよ、ね?」 「ア… アアッ…」 さらに笑顔で。 「認めちゃえば楽になりますから、ね?」 「ウアアア…ア…ア…ア……――~~~~~~~~っっっっ!」 さらに囁かれて。 「認めちゃいますよ、ね?」 「…っっ!! …ミッ! 認めるっ! 認めるぅっ! 認めるからぁっ!」 とうとうポロポロと涙を零しながら、ユエルは叫んでしまった。 「…がいっ、お願いレシィっ、ユエル認めるからっ、いじめられるの好きでいいからっ、エッチな女の子でいいからっ、だからっ、だからぁ…っ!!」 「そうですか、判りました、それじゃあ」 にっこりと笑って顔を上げるレシィの笑顔に、途端に涙が滲む瞳に喜びの色を浮かばせ、尻尾がくいっと左にひねるユエル。 だが。 「……認めた証拠、見せて貰いましょうか♪」 (――――え?) 『認めれば、レシィから貰える』と思っていた彼女の表情が、カチンと固まる。 「さっき、僕、言いましたよね?『こんな僕みたいな、気弱で、女の子みたいなユエルさんより弱い、エッチで、スケベな、変態メトラルのを、ユエルさんの、大事な所に、一番奥まで入れられながら、感じちゃってるんでしょう?』って」 硬直したままの――尻尾まで硬直させたままの――ユエルに向けて、実に爽やかな、それこそ天使の様な笑顔で、レシィは突きつけて。 「…あれ、僕、ユエルさんの口から聞きたいな♪ 言い直して貰えます?」 次の瞬間、自分の緑色の瞳の力を使い、ユエルの精神を掴み上げ、そのままがっちりと万力で固定するかのように押さえつけた。 「ふあっ!?」 脳でも心臓でもない部分を強く掴まれるような感覚に、ユエルの首から下の部分に力を入れる事ができなくなる。 パタリと落ちる、腕と尻尾。 …そもそも呪いというものがそうなのだが、多くの魔眼の本質は精神支配、『吸い込まれるような瞳』という表現がある通りに、瞳を覗き込んで来た相手が、一瞬こちら側に心を奪われた瞬間をついて、相手の心、ひいては相手の本質を自分側の支配下に置くことによって完成される。 …故に、今の精神的に弱った、完全に自分に心を傾けているユエルの動きを押さえつける事なんて、レシィにしてみれば朝飯前なのであり…、 「…口は動かせますよねユエルさん? …さあどうぞ♪」 意地悪くユエルの乳首を――彼女が達してしまわないよう細心の注意を払いながら――そっと摘んで、呆然とするユエルに強く促す。 無意識にではあったが尻尾を動かす事で(あ…)、指を噛む事で(やだ…)、せめて自分の中に納まったレシィのものを締め付ける事で(やだぁっ!)、辛うじて、一生懸命我慢して、我慢して、我慢してきたユエルの精神は。 「や…だぁ…やだ、やだ、やだやだやだやだやだやだぁっ! …お願い、レシィ、お…お願いだから、お願いだからぁ、ユエル、もうっ、もうダメなの…もういじわ……やだ…じわる……ない…でぇ……ウッ……ウァッ…ァッ…」 …もはや臨界で、とうとう本格的に泣き始めてしまう。 そして、そんな泣きじゃくるユエルを見ながら、(……僕……もう、変態でもいいです……)なんてアブない事を考えつつ、泣いているユエルに(…僕…ユエルさん…泣かしちゃいました…)、自分がユエルを泣かしてやったんだという事実に、うっとりしながら痛いほど勃起している自分を感じるレシィ。 昔もっぱらイジメられる側だった為に、この歳になって好きな子イジメがこんなに楽しい事だったと知り、そのあまりの快感に夢中になりかける。 …けれど、もう一息なのだ。もう一息で、ユエルの羞恥心を、完全に。 「…さ、さあっ! 言ってください、言わなきゃ気持ち良くなれませんよ!?」 思わず腰を動かしかけ、声が震えかけた自分を叱咤して、レシィはユエルに最後の責めを与え始める。…負けちゃダメだ、と思った。 「うぁっ、あっ、あっ、あっ……」 ユエルの頬を伝って、自分の裸身にポタポタと落ちてくるものの暖かさを感じながら、知らず興奮に魔眼の輝きを強めつつレシィは叫ぶ。 「さぁ! 言ってください、嫌いになんて、絶対なりませんからっ! さあっ!」 「………………ル、……エル、は、…シィ、みたい…な、ッチで……」 「…声が小さいですよ?」 湧き出す興奮をぐっと堪えて、抑揚の無い声で釘を刺す。 「……ユッ、ユエルは…、レシィみたいな…、エッチで、スケベで…ユエルより…喧嘩弱くて…おっ、女の子…みたいな…」 「…ダメですっ、もっと大きい声で、はっきり!」 微妙に違うけどまあいいや、と思いながら、レシィは最後の一手を詰む。 涙に濡れたユエルの目が、くっと大きく見開いて、そして。 「ユエルはっ、レシィみたいなっ、エッチでっ、スケベでっ、ユエルよりも喧嘩弱くてっ、女の子みたいなっ、怖がりのっ、メトラルのっ、オチンチン、ユエルのエッチな所に入れられちゃってっ、気持ちよくなっちゃっててっ、恥ずかしくてっ、でも大好きなっ、女の子なんだよぉっっ!!」 言い切ってしまって、眼を大きく見開き、肩をガクガク震わせながら、カチカチと歯を鳴らしているユエルを見ながら、レシィは。 頭の中が真っ白になって。 「……こえが、ちいさいです。もういっかい…………っ!?」 …気がついたら、勝手に口を動かしてしまっていた自分に気がついた。 調子に乗っていた、と思う。 あんまりユエルが可愛くて、自分に虐められているユエルが、自分が一枚ずつ羞恥心という鎧を剥がしていくのに震えているユエルが可愛くて。 でも腹が立って、自分に気持ちよくされてるのをなかなか素直に認めようとしないユエルに腹が立って。…やり過ぎたと、後にレシィは認めている。 「…ユッ…、ユエルわあああああぁぁぁ―――――――っっっ!!!!!」 「…っつあっ!?」 パンッという頭の中で風船が弾ける様な衝撃に、レシィは思わず顔をしかめ、自分の魔眼が――その気にさえなれば、機械魔と化したメルギトスさえたじろがせれたはずの魔眼が――打ち破られ、弾き返されたのを知覚した。 (…なっ、なんでっ…ありえないですっ…!?) 魔力の逆流で霞む頭に、さっきまでのユエルの精神の押さえつける事の容易さを思い出し、何が起こったかに混乱しかけたが。 「そうだよっ! ユエルはエッチな女の子だよっ! エッチな女の子だよっ! エッチな!エッチな!エッチなエッチなエッチなエッチなあぁぁぁぁっっ!!」 「…っ!? ユッ、ユエルさん? ユエルさんちょっとっ!?」 これまでも色々と叫んでいたとは言っても、それはあくまで限度があって。 人の屋敷である以上、部屋の外までは聞こえないようにという注意は二人の中にあったのだが、それなのに突然叫ぶ、というよりも絶叫すると言った方が正しいようなユエルの変貌に、レシィはぎょっとなった。 …そして、ユエルの目の焦点が、合っていない事に始めて気がつく。 ユエルのあまりの可愛らしさに暴走していたレシィの脳みそが、冷水を浴びせられたかのように、一瞬にして正気に返った。 ユエルの純粋で、真っ直ぐで、けどその分こういう事には意外にも奥手で。 あんがい人見知りするだけあって、実は恥ずかしがり屋で、でもだからこそ、そういうユエルをいじめるのが楽しくて可愛くて。 何も知らない、初めてのなのに、ついつい肉体的にも、精神的にも、いじめて、いじめて、いじめ抜いてしまった結果。 (…ど、どうしよう、ユ、ユエルさんが、ユエルさんが、こ、壊、れ…?) もうさっきまでの興奮なんてどこかに行ってしまった。ひたすら怖かった。 羞恥心の鎧だけを全部取り除いて、丸裸の心を自分の目で確認したかっただけなのに、ひょっとしたらついつい力を入れ過ぎてしまい、むき出しの心そのものにまで傷をつけてしまったのでは?とレシィは恐怖する。 だとしたら、魔眼の呪縛が強制的に吹き飛ばされた事にも納得がいく。 …縛る先のものが壊れてしまえば、もう拘束のし様など……。 何よりもユエルを傷つけたくなかったからこそ、かつてユエルに酷い事をしたであろう人間達がやったようにではなく、『痛み』を一切使わない、『快楽』だけでのユエルの陥落をレシィは望んでいたのだ。…いたのに。 …だが、冷静に考えれば、『快楽』でも…、『快楽』でも…、 ――『快楽』だけでも、度が過ぎてしまえば十分人の心を壊せるのでは? 「…ユ、ユエルさん、しっかりしてください、僕が、僕がわかりま…」 「でも大好きなんだもんっ!でも大好きなんだもん!でもっ、でもでもでも、大好きなんだよぉっ! ユエルッ、ユエル大好きなんだあああ―――…」 どこも見てない目で叫び続けるユエルに、レシィは本当に心底恐怖した。 …何より、無駄に金の掛かった客室が30も余っているような屋敷とは言え、これだけの大声で叫ばれ続ければ誰かに聞かれるのも時間の問題だ。 …それだけは、こんな今のユエルを、誰かに見られるのだけは。 「ユ、ユエルさん、ユエルさん、僕……っぁああっっ!!?」 そうせずにはいられず、叫び続けるユエルの頭を抱きしめたレシィだが、その刹那、自分の肩口に突き刺さるような痛みを感じて顔をしかめる。 …肩に噛み付かれたのだという事を、一瞬遅れて理解した。 「ん―っ! ん――~~っ!! んん――――っ!! ん~~~っ!!」 噛み千切る事を意図した噛み付き方ではなくて、ただがむしゃらに、目の前にあったから噛み付いたという噛み付き方だったから、肉を食いちぎられるだなんていう事はなかったけれども。 でも肩骨に当たって止まりこそすれ、深々と食い込むそれは激痛だった。 だが、それでもそれは。 「…ご、ごめ…ごめんなさい、ごめんなさいユエルさん! ごめんなさい…っ」 聴こえていないのだとしても、それでも言わずにはいられなかった。 四本の犬歯に穿たれた痛みも、血も、贖罪の痛みと思えば楽になった。 ただただユエルが無事に正気に返ってくれる事を望み、レシィは震える手でユエルの背中を撫で続ける。…何度も、何度も。 ―――…やがて、意外と早く、ユエルの力は弱まり、唐突に自分に噛み付いた口から漏れるうめき声が、聴こえなくなった。 …一寸の間を置いて、肉に食い込むユエルの牙がするりと抜ける。 血がだらだらと四つの穴から垂れたが、レシィはそれすら見ていない。 「…ユ、ユエルさ「「ユエルっ…」」 そうして、何か言おうとしたレシィの震え声が、しかし途中でユエルの小さな声に遮られた。 そうしてレシィは、自分への血以外の熱い液体の滴りを思い出す。 「…ユエル、エッチなっ、女の子…、で、恥ずかしい、女の子、でっ…」 ヒック、ヒック、というしゃくり声を、とりあえず鼓膜には受け止めながら、呆然とレシィは泣きじゃくるユエルを見ていた。 「…ハシタ、ナイし、変態かも、しれない、し…、でも胸、ちっちゃい、しっ、男の子、みたいだって…、よく、言われっ、ちゃう、けどっ、でも、でもっ…」 (………あ…。…やっぱり、気にしてたんですね、ユエルさん、その事…) ふいに、自分が本来の性別にふさわしくあろうと努力していた裏で、彼女も同様本来の性別にふさわしくあろうと必死だったんじゃないかと、だからあんなに必死で『女の子』たろうとしていたんじゃないかと、思った。 …そう思った所で、つと、自分の股間に感じる違和感に気がついて。 そのままレシィが彼女の顔から下方に視線をずらすと。 「ユエル、ただっ、レシィのこと…、大、好きで…、優しいの、嬉しく、て、だから、嫌いになられるの、怖くて…っ、嫌われちゃうの…怖くてぇっ、なのに、意地悪なっ、レシィにも…感じ、ちゃって、嫌いになれなくて…レシィに、恥ずかしい事、されて…るって、思うと、興奮しちゃ…うの……だからっ、だからぁっ!」 ユエルは、そう言いながら、必死になって自分の腰を上下させていた。 …今じゃもうほとんど絶頂は遠のいてしまったはずなのに、すっかり正気に返り、もう半分近く硬さを失ってしまったレシィのモノに、それでも必死に腰を擦り付けていて、だけど当然上手くいかなくて。 「…もうっ、もうオアズケ、やだ…ぁ… …最後まで…して………」 そんな嗚咽を上げながら必死で腰を振っているユエルを見ると、レシィも。 (…あれ? じゃあ…) 急激に再び頭の股間の両方に血液が集中するのを確認しつつ、レシィの頭の中で今見た事実が分析される。 (僕、その、ひょっとして) レシィがユエルを自分だけのものにしたいと思った、その衝動は本当だ。 だからこそレシィは頑張った。必死になって、全力を尽くして努力した。 少しでもユエルを気持ち良く出来、少しでもユエルより強く在れるように。 ユエルの体が発情期で敏感になっている、今がチャンスだとも思ったし、なによりも第一印象、ファーストインプレッションはやっぱり重要だから。 (…本当に、ユエルさんを、その、『落とせちゃった』んですか?) でもそういうのはやっぱりその、経験が豊富でないと出来ない事で。 ユエルを自分無しじゃ生きていけない体にしてみせるだなんて、『もしもそうなったら』と渇望はしても、どこかで絶対無理だと思っていて。 ダメ元で決死のチャレンジをしている自分が確かに存在していたのだが。 でも今、目の前のユエルは、確かにレシィを本音で求めてくれている。 (…僕、ユエルさんを、本当に僕のものに、でっ、でき、できちゃ…っ) …次の瞬間、再度レシィは夢中でユエルを自分の下に組み敷いていた。 ただ、さっきと違うのは、もうそこにはドス黒い感情は存在していない事で。 ただ、満足感だけが。 「…ユエルさん! ユエルさんユエルさんユエルさんユエルさ んっっ!!」 ひたすらに名前を呼びながら、レシィは何度も何度もユエルの中に好きなだけ自分のモノを擦りつけた。…もう、我慢する必要なんてない。 「ユエルさん気持ちいいですか!? 僕にしてもらえて嬉しいですか!?」 「…んっ、…気持…ちいいよぉっ! ユエルっ、嬉しい、嬉しい、嬉しいっ!」 恥ずかしげもなく本心を晒してくれるユエルが、レシィも嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。激しい動きに肩の傷が痛み、たらたらと血が零れ出すのも、今の彼にはこの際どうでもいい事だった。 …だが、ユエルの方は、自分がその傷をつけたのだという事を朧気にだが覚えていたらしく、ふいに自分に零れ落ちる血に気がついて眉をひそめると、そのままレシィの傷口へとむしゃぶりつく。 …一番簡単な方法で、傷口を消毒する為に。 舐めても舐めても出てくる血を、吸うようにして傷口を舐めるユエルに、異様な興奮を隠し切れずに叫ぶレシィ。 「ユエルさん…美味しいですか…? 僕の血っ、美味しいですかっ!?」 傷口を舐めるのに夢中な彼女は答えなかったけれども、うっとりとしながら自分の血を舐めているのを見れば、レシィでも答えはすぐに判る。 (…僕も…ユエルさんに食べられちゃってます…) 肉食傾向が強く、生のまま狩りの獲物を食べる事もあると聞いていたので最初にユエル出会った頃は、食べられやしないかと怯えた事もあったけど。 でも今は、今はむしろ。 「ユエルさんだったら…っ、ユエルさんだったら、僕のこと食べてもいいですからっ! でもその代わり…ユエルさんを食べていいのも、僕だけだっ!」 そう言って自分の首に吸い付くユエルの頭を引き離し、そのままお互いに貪るような――これまでのどちらかが一方的に貪るのとは違う――深い深いキスをした。 絡め合う舌の間に挟まる唾液と血の味が広がるのを、お互いもはや言葉も忘れて何度も何度も貪っている。 ……だが、そんながむしゃらに味わう激しい快感は、同時に瞬く間に過ぎ去ってしまう儚いもの。 興奮とお互いの味、体温、匂いに意識が白霞む中、しかしレシィは自分がもう限界に近づきつつある事を切実に感じていた。 あと何度か抽送を繰り返したら、そこで自分は全てを放ってしまうだろう。 愛しいユエルの中に。自分の、全てを。 …それはとても危険だ、と。これほどまでに快感に溺れていても、頭の片隅で強い警告を放つ自分がいるのは自覚したが。 (でも…っ、気持ち良いです…。ユエルさんの中、とっても温かくて……抜きたくない、です。…僕、抜かないで、このまま、このまま……っ) 余りにもユエルの中が心地よく、締め付ける肉の感触がほの温かいので、このまま彼女の中に最後までいたい、中で果ててしまいたいという、享楽に流されてしまいそうになる気持ちが、容赦なく自分を侵食する。 …いや、それだけでもない。 このままユエルの最奥で自分の子種をぶちまけて、彼女に自分の子供を孕ませたいという動物的な衝動もまた、自分を支配しようと画策していた。 彼女がもう自分だけのものなのだという、絶対に消えない印をつけたい。 そうすれば、彼女を自分の手元に置いて、好きなだけ可愛がる事ができる。 やってしまえば。やってしまえばユエルは自分のものになる。 やってしまえば…… (……だ、ダメ、です…、ダメです、それだけは絶対に、ダメですっっ!!) しかし辛うじて、自分に残された理性と精神力を総動員して、ほんの一瞬だけではあったが、それら全ての衝動欲求を叩き伏せると、ユエルの中から抜け出ようと身を引くレシィ。 …が、そんなレシィの決死の努力も、次の瞬間全て無駄になった。 己の中から自身を引き抜こうというレシィの気配を敏感に察したユエルが、後退しようとするレシィの体にしがみ付いて、こう叫んだからだ。 「レシィッ!? いやだっ! レシィッ、行っちゃヤダッ! ずっと一緒にいて! ずーっとユエルの傍にいて! いっしょにっ、ずっと、いっしょに…………」 ガチャン、という音がしたかどうかは定かではないが。 強すぎる愛は身を滅ぼす、というその言葉通りに。 なけなしのレシィの理性は、そんなユエルのいじらしい言葉の前に木っ端微塵のみじんこちゃん♪に粉砕され。 「…う…あああああっっ!! ユエルさん、ユエルさん、ユエルさんっ! どこにも行きませんから、ずっと傍にいてあげますからっ、だからっ!」 ユエルを抱きしめ返すと、ユエルの一番奥、突き進めるところの限界まで自分の腰をねじり込んだ後、全ての欲望をぶちまけた。 「フッ…アアアアアアァッ! ふあっ……あっ……つ、い……よ……ぅ」 自分の奥底に、繰り返し痙攣と共に叩きつけられる熱い広がりを、同時に絶頂に達したその体でぐいぐいと吸い上げて。 …数秒後、ぴぃぃんと音がするくらいに立っていた二人の尻尾が、同時にへたりと力を失った。 …それこそ、獣の様な激しい交わりの後。 その最後の瞬間が、余りにも幸福感と達成感に満ち溢れた至福なものであったために。 最初はレシィもその事について深く考えなかった…というか、考える事ができないくらいに、思考が混濁していた。 汗だくになった体で荒い息をつきながら、それでも感覚を周囲に拡大すると、自分の下で同じように荒い息を吐いているユエルの存在に気がつく。 ぼんやりとした頭で、とりあえずしたかった事をするレシィ。 「……僕の、ユエルさん…………僕の……」 ユエルの体をしっかりと自分の腕の中に抱き止めていると、同様にぽーっとした眼で息をしていたユエルも、 レシィの胸に匂いでもつけるかのように頭をこすり付けて来てくれた。 「……うん……ずっといっしょ……だよね……ずっと……」 ……結局、二人とも言い方や欲する形式にこそ違えど、同じ事を望んでいたのかもしれなかった。 ころりとそのままユエルの横に転がるレシィ。 400m走でも全力疾走したかのように疲れていて、そうやって呼吸を整える必要を感じていた。 ほんの数時間前までは、キスどころか手を繋ぐのさえ恥ずかしくて、告白なんて…ユエルの側からはそれっぽいものも頻繁にされていたけど…夢のまた夢だとか思っていたのに。 今現にこんな事になっちゃってる自分がいるのだから、 (……本当に……世の中何が起こるか……判りません……) なんて、今更だけれども考えてみたりする。 その上、その数時間前の時点でなら諦められただろうに、今ではユエルに離れられて行ってしまわれたら…気が狂うかもしれない、なんて素で考えてしまっている自分が、自身で実感していてちょっと怖い。 (本当に……これじゃどっちが食べられちゃったのか、判んないですよ…) そう締めくくって、レシィははぁっと一つ溜息をついた。 「……あの、それにしても、…こんな事言ったら怒るかもしれませんけれど、…ユエルさん、女の子だったん…ですよね…」 あんまり返事が返ってくることを期待しないで隣に話しかけたが、 「…それを言ったら……ユエルだって、ちょっと吃驚してるよ。…レシィもやっぱり……男の子だったんだな、って……」 ころんと僅かに顔を赤くしてユエルもレシィの方を向いたので、そのまま、照れ隠しもあって、色々と言い合い始める。 「…あー、えっと、すみませんユエルさん、その、ユエルさんも知っての通り、僕さっきユエルさんがあんまり可愛かったので、かなり見境なくしてました。…なんか色々、その、酷い事しちゃったりして……ごめんなさいっ」 「…え? え、えっと、でもユエルの方も、その、いつもはユエルの方が喧嘩も木登りもかけっこも上手いのに、うんと、さっきはレシィに色々されたい放題されちゃってるのが悔しくて、ちょっと意地張ってて、レシィ、ユエルの本当の気持ち聞きたがってたのに…ごめんね?」 「…いや、ですが、こうやって今冷静に思い返そうとしてみると、僕自身、そのまま二度と思い出したくないような事ばっかり…」 「そ、それを言ったらレシィ、ユエルだってその、肩っ、肩、肩ぁ!」 そうユエルに指摘されて、レシィはそこで初めてユエルに噛まれた肩の傷の事を思い出した。…他にもすっかり忘れてたけれど、ユエルに引っかかれた背中とか、レシィ自身どこでどう怪我したのか覚えていない尻尾の付け根とか、なんか体中があちこちズキズキ痛い。 …っていうか、結構血まみれで、下の絨毯もなんか今じゃ何か赤黒いし。 「…うわぁ、もうどうしましょうねこの絨毯、これじゃ絶対こんな事してたのバレちゃいますよ、僕ちょっとファミィさん誤魔化しきる自信ないです…」 「…って、レ、レシィ? い、痛くないの?」 「……いや、そりゃ痛いですけど、幸い一番酷い肩の傷も噛まれただけの刺し傷だから、もう血も止まりそうですし、カサブタはいじるとダメですし…」 そう言って、どこか遠くから自分の傷を分析しているこんな今の自分に、レシィはちょっぴり悲しくなった。 (…僕、確か血とか痛いのが苦手だったんじゃなかったですか?) …そうだ、思えば変な光に包まれて、気がついたら知らない場所で、目の前にトリスとブルースライムがいた辺りからが運の尽き。 最初はどうせメイトルパに帰っても結局自分みたいな角無しっ子の居場所なんてないんだからと、半ばやけくそと自暴自棄で彼の主人にくっついてた部分が幾分あったのは認めるけど。 ちょっとこっちを本気で殺しにかかってくる野盗さん達に襲われたりとか、ちょっと恐怖の殺戮集団黒の旅団とかいうのに屠殺されそうになったりとか、ちょっと暗殺者とか、ちょっと調律者一族の亡霊とか、ちょっと蒼の派閥の幹部召喚師とか、ちょっとサプレスの中級悪魔三人組とか、ちょっとサプレスの大悪魔とか、ちょっと究極の機械魔らしいメルギトスとか、まるで祟られてるとしか思えないように次々そんなのに襲われまくって。 それでも決死で自分に価値を見出してくれたトリスのご恩に報いようと、歯を食いしばって、そりゃ腕を剣でスパッとやられたりとか、そりゃ足を爪でざっくり抉られたりとか、ちょっとパラ・ダリオやらガルマザリアやらジライヤやらゲルニカに巻き込まれたりで(注:味方が放ったもの含む)、大怪我とか、流血大惨事とか、三途の川日帰りの旅とかしている内に。 いつの間にかこんな『なーんだ、血か』で済ましちゃってる自分がいて。 …しかも気がついたら、どういうわけか『陰ながらリィンバウムを救いしトリス・クレスメントとその仲間達』の一人になっちゃってたりする自分を、かな~り(…僕の人生、何だかなぁ)とか思っちゃったりもするわけで。 今自分が負っている怪我だって、もしもこちら側に召喚されたばかりの頃の自分だったら、きっと見ただけで確実に失神してるだろうし。 (いや、後悔どころかむしろ嬉しいくらいですけど、でも明らかにあの日目の前にブルーゼリーがいた瞬間から、僕の人生狂ったというか…) 川で洗濯したり、木の実を集めたりするだけだったメイトルパ時代と、今の、災難の方が向こうからやってくる『巻き込まれ型いきずり人生』とを比較して、レシィはちょっと寂然となった。 「レ、レシィッ!? なんでそんな遠い所見るような目してるのっ!? ま、まさか出血多量で死んじゃったり!?」 ただ、そんなレシィに勘違いしたユエルが明らかに狼狽し始めたので。 「あ、いえ、あのっ…。…と、ともかく、ともかくもう傷は大丈夫ですから! …それよりもユエルさん、……さっきは、とっても可愛かったですよ?」 適当にお茶を濁したのだが、その言葉に途端にユエルの顔は真っ赤になる。 もっともレシィの方とて、そんな彼女を見ると、やっぱり可愛いと感じて照れて俯いてしまうのはいつもの彼と同様だったが。 「…レッ、レシィも、レシィも結構かっこよかったもんっ。…それなのに、ユエルよりも美人さんなのは、ちょっとだけ、ムカつくけどねっ!」 「あはは…、いつも喧嘩じゃユエルさんに負けてばかりなのが、僕の方としてもちょっと複雑なんですけど……」 「でもレシィ、喧嘩する時は絶対魔眼使わないじゃない、さっきみたいに使えれば、ユエルにも喧嘩で勝てるかもしれないのに」 「…それはちょっと、ズルですから。それにそれを言うなら、ユエルさんだって、ちゃんと可愛い服を着ておめかしすれば、僕なんかよりも何倍も美人さんになると思うんですけど」 …そうやって、お互いに好きな相手に『男の子』だと、『女の子』だと、認めてもらえるのが、とても幸せだったのだけれども。 「…でもユエル、ちっとも知らなかったよ」 「? 何がですか?」 「お母さんになるのって、こんなに大変な事だったんだね…」 「…うーん、いや、それはユエルさんがおか…………」 ………… (…………はい?) あんまり幸せな気分だったので、すっかりその事を忘れて幸福な気分に浸っていたレシィの笑顔が、凍りついた。 ――お母さん? お母さん? おかあさん? オカアサン? OKASAN? おkaアさン? …皆、聞いてくれ。どうやら俺達はとんでもない思い違いをしていたようだ。まずはこのお母さんという文字をローマ字読―(って、こ、混線してますっ!) ――ソウイエバ、サッキ、ボク、ユエルサンノナカデ、ナニシマシタッケ? ……サーッと、自分の中の血の気が引いていくのを感じるレシィ。 見る見る顔が真っ青になっていくが、隣のユエルはとりあえず全然気がついてないので、幸いなのか不幸なのか。 (…そっ、そそ、そうですっ! 落ち着いて、落ち着いて考えてみましょう!) ようやく酸素の回り始めた頭をフル回転させ、レシィは必死に状況を整理する。 (…ま、まずっ! そうです、ユエルさんが発情期だったんですよ!) 【発情期→妊娠する準備ができた証→そこに中出し→(σ・∀・)σゲッツ!!】 ………… …数秒後、ガチガチガチガチと歯の根が噛み合わない音を出しながら、見てて可哀想になるくらいに目を右往左往させているレシィがそこにいた。 顔色はもう青を通り越し、バノッサもレイムも吃驚なくらいに素で真っ白だ。 …一応、人×亜人が可能であるように、亜人×亜人も可能である。 見れば判る事だが、レシィもユエルも決して羊や狼から進化した存在ではなくて、正確には『羊や狼の性質を体に取り入れた人間の亜種』、つまりは一部の特殊な猛獣的身体能力や獣性の魔力を保持する以外は、体の外見も構造も人間とほとんど変わらない存在というのが正しい。 『オルフル』も『メトラル』も、『亜人』という一つの種族の中の似たような特徴を持った者達による小集団、つまりは『部族』としての名称だ。 …つまり、『出来にくい』とかそういうのどころか、一欠片の不安要素すらなく、ふつ~に子供は、まるでバナナの叩き売りよろしく、出来るのであって。 (…え? ちょ、ちょっと待ってくださいよ? ユ、ユエルさん確か13ですよ? 13でもうお母さんですか? …ちょ、あ、えっ、ええっ? …あ、いや、いえ、そう、必ずしもユエルさんが妊娠したとは…、はい、そうでない確率も…い、いくら発情期だからってその、しかし、確率は遥かに高いらしいわけで、いや正確には知りませんけど、…っていうか、ぼ、僕、一番奥のところで、その、力一杯出しちゃいましたし、でも、ぼくだってまだ15、ですがそれは、あ、あんまり関係ないですし、いや、でもやっぱり父親は僕で…すか、はい。ユエルさんのお腹の中に僕の子供が? …や、今はまだいませんけどっ) 「……レシィ…? どこか具合でも悪いの? 顔真っ青だよ?」 「あっ、いえっ、そんな事はないんですがっ! そのっ、ユ、ユエルさんっ!」 ゼラム市青少年健全育成条例違反の罪で、お城の衛兵に護送馬車につめられ、「ドナドナド~ナ、ド~ナドナ~♪」というBGMの下、「僕は牛じゃありませんよぉ~(泣)」と泣きながら鉄格子をガチャガチャやっている辺りまで妄想を膨らませていたレシィは、けれど純粋に心配そうな顔で、こちらを覗き込んで来るユエルの顔に気がついた。 (……あ……) …段々、狼狽が後悔にとって代わって、レシィの心中を覆い出す。 まだ確実にそうと決まったわけでも無いのだけれど、しかし発情期が来た時に性交渉をするとはそういう事なのであって。 そうでないかもしれないという極々ほんの僅かな可能性にすがって、現実から目を逸らすなどという無責任は、律儀なレシィの性格上、絶対に許せない事であって。 だが、そんな難しい事を考えていれば、自然と眉間に皺も寄る。 「レシィ…ひょっとしてユエルがお母さんになるのが嬉しくないの…?」 不安になったのだろう、ふいにユエルがそう聞いた。 「そ、そんな事ないですけどっ! そりゃ…あの…もしも…産まれるんだったら…それは……」 慌ててそんな事は!と否定して。 「それは……僕……の、こど…も…………?」 ………… 「……僕、『お父さん』、ですか…?」 「…? そうじゃないの? こういう事すれば、赤ちゃん出来るんでしょ? ユエル、赤ちゃん作れる体になったから、おかしくなってたんだよね? だからユエル、本当は頭の奥でレシィとの赤ちゃんが欲しくって、あんな恥ずかしい事してても気持ちよくなっちゃってたんでしょう?」 首を傾げて純粋にそう聞いてくるユエルの姿に、レシィは今度は顔を俯けて赤くなった。…本当に、青→白→赤と、見ていて目まぐるしい。 (…や、やっぱりユエルさん、こういうとこ僕より野生の勘が鋭いと言うか、判っちゃうんですかね? ……だ、だとしたら凄いですけど、でも……) 「…で、でも、困りました。聖王都もファナンも、親の承認なしの婚姻は18歳以上の人達にしか確か許してませんで、そうなると僕達は、その、親は存在すれどもこちら側には居らず、そうなると戸籍とか、ええっと…」 レシィとしては責任を放棄するつもりはなくても、社会的、法律的、道徳的に何か問題があるような気がして、うーんうーんと脂汗を流して唸り出してしまう。 だが、ユエルはきょとんとしてそんなレシィを見ると。 「あれ? ユエル達召喚獣だから人間の法律は守ってくれないんだって、いつだったかレシィ、ユエルに教えてくれたよね? 召喚獣は『モノ』扱いだから、それでユエル達を酷い事に使おうとする奴らがいるんでしょ?」 「……あ」 はた、とレシィは気がついた。…そう言えば、そうである。 レシィが良く知る召喚師達のような、召喚獣を同じ生き物として見て接してくれる人達はいる反面、国側は召喚獣には『人権』を認めず、国法の庇護の下には置いていない。…でも、そうだというのなら… 「もうっ、レシィの悪い癖だよ、すぐにそういうフクザツな事考えちゃうの! …それにね、ユエルも嬉しいんだ! ユエル、こっちに来てから仲間やお友達はいっぱいできたけど…」 彼女は、ちょっと寂しそうな顔をすると、何かを思い出すように一瞬視線を彷徨わせた。…おそらくは二度と会えない、メイトルパ側にいる家族の様子を思い出していたのかもしれない。 「でも、やっぱり……、家族、欲しかったから……」 そう言ってそっと自分のお腹を撫でるユエル。 自分も家族が作れる体になったことに感慨を抱いているのだろうが、そうやって自分の腹部を見つめる彼女の目は、いつもの無邪気な子供のものでなくて、間違いなく大人の女性のそれであって。 …そんな大人びたユエルの姿に、レシィはちょっとドキリとした。 「…レシィがお父さんで……ユエルがお母さんで……ユエルとレシィの赤ちゃんがいるんだもん…、きっと素敵な家族になれるよ、ね…?」 目を細めてそう聞いてくる彼女に。 本当は、自分もずっと『家族』が欲しかった事を、レシィは思い出した。 角が完全に生えない限り、一人前の男とは認められないあの村の中では。 幼い頃の患いの為、もう二度と角が生えてこないレシィにしてみれば、つまりは一生半人前、女扱いされ続ける事を運命付けられた日々だった。 幼いながら、そんな大人になってもお爺さんになっても一生半人前扱いされ続けるのだと知っていた子供の彼は、だからこそ自棄になっていて。 どれだけ頑張っても誰も認めてくれないし、誰も自分を必要となんてしてくれない、角が無いのは自分のせいではないのにと。 自分の所には誰もお嫁さんに来てくれないし、だから子供も出来ない、ずっと一人で寂しくお爺さんになって死んでいくんだと、あの頃は、夜に布団の中でそんな自分の絶望的な人生を思ってよく泣いた。 だから、強くなろうだなんて思いもしなかったし、自分はなんて不幸なんだろうと思い込む事で、辛うじて自分を慰めて。 人の顔色を伺いながら、毎日毎日をどうしたらいじめられないで、どうしたら辛い思いをしないで、どうしたら痛い思いをしないで過ごせるか、その事だけを考えて『ただただ生きているだけ』の卑屈な自分がいた。 …本当は、家事だってあの頃は大嫌いだったのだ。 ただ、それしかやらせてもらえなかったから、それすらも出来ないと本当に村から追い出されて死ぬしかなかったから、必死になって覚えただけで。 ――でも、今は違う。 自分の価値を認めてくれる人達がいて。自分を必要としてくれる人達がいて。 守りたいと思うものが出来、その為に強くなりたいとも思えるようになった。 それらを守る為にだったら、少しくらいの辛さや痛みだなんてなんて事ない。 …その上、今の自分の腕の中には可愛いお嫁さんが、未来の家族が。 あの時の自分が諦めていたものが、今確かに収まっているのである。 「…僕が、『お父さん』で、ユエルさん、いいんですか?」 「うんっ!」 「…僕の、お嫁さんに、なってくれますか?」 「うんっ!」 「…僕の、赤ちゃん、産んでくれるんですか?」 「うんっ、いっぱいいっぱい作ろうねっ!」 きっと皆可愛いよっ、と言って笑うユエルを、思わずきつく抱きしめると、レシィはそのままお姫様抱っこの形でユエルを持ち上げた。 「…ひゃぁっ!?」 「はいっ! じゃあいっぱいいっぱい作りましょうっ! 男の子も女の子も、五人でも、十人でも、ユエルさんが欲しいだけっ!」 …災難は(主に彼の主人のせいで)次から次へと沸いてくるし、危険な目にあった事も少なくは無く(実際何度か三途の川見させられた)、痛い事も、辛い事も、苦しい事も、メイトルパに居た頃の何倍も感じる羽目になってはいるけれど、…でも、それでもやっぱりこっちに来て良かったと、レシィは痛切に感じずにはいられない。 …だって、そうでなければ、今自分の腕の中にいる人には。 そうしてそのままユエルをだき抱えて、今ではかなり酷い有様の絨毯の上から、彼女のベットの上へと移してあげた。 「え? …レ、レシィ? な、なんでもう一回『そういう目』してるのっ!? も、もうユエル赤ちゃん出来たんだよっ!?」 だが、おそらくさっきみたいなのをもう一度やられでもしたら、ちょっと堪らないのだろう、そうユエルが悲鳴をあげるのを聞いて、レシィはちょっと首をかしげたが。 「……あ。…そうですね、ユエルさんも詳しい所までは判らないんですよね。…あのですね、さっき見たいな事を、一回したからって言って、必ずしも赤ちゃんが出来るわけじゃあないんです。時期や体調なんかに依る所が大きいんですけど、むしろ出来ない事の方が多いみたいで…」 どうやら、こういう事は一回すればそれで子供が出来るものなのだと思っていたらしいユエルは、レシィのそんな、ある意味自分の死刑宣告とも取れ兼ねない言葉に、一瞬恐怖に大きく眼を見開いて尻尾を縮こめた。 「えっ、えええっ、さ、さっきみたいなの、な、何回もやらないとダメなのっ!? …そ、そんなのユエル、その内絶対ミイラになって死んじゃうよぉ!」 本気でそうなる事を怖がっているユエルを見て、レシィはクスクスと笑いながら、それでも安心させるかのようにユエルに囁く。 「…安心してください、今からは優し~くしますから。さっきみたいに意地悪な事言ったりとか、ユエルさんにオアズケさせたりとかは、絶対しません」 (…僕ももう精神力使い切っちゃいましたから、今日の所は、ですけどね) 内心で呟いてる事は内緒にして、レシィは彼女の顎の下の所にキスをした。 「…で、でももうユエル、今日は疲れちゃったよぉ…、きょ、今日はもうお休みして、つ、続きはまた明日にしない?」 自分の首筋を動く濡れた温かい感触に、微かに身じろぎするユエル。 でもレシィがにっこり笑ってこう言うと。 「い~え、ダメです、ユエルさん。一回機会を逃すと結構大変なんです。…僕も疲れてますけど頑張りますから、ユエルさんも頑張らないと、ね?」 そんなレシィの、一見何の邪気も無いように見えるこの『にっこり笑顔』に見つめられると、先程のこともあってか、目を行き場無くオロオロさせて。 「う……、わ、わかったよぉ……」 やがて観念したのか、こっくりと頷いた。 この笑顔の時のレシィに反抗すると、とっても怖いことになり兼ねないという事は、そろそろ彼女も薄々だけれども感づいて来たようだった。 「それじゃ、ユエルさん。これから毎日毎日、ユエルさんの体の奥に僕の赤ちゃんの素、いっぱいいっぱい出してあげますから。…絶対赤ちゃん、可愛い赤ちゃん、作りましょうね♪」 耳元で囁くレシィの『毎日』というフレーズに、一瞬身を硬くするユエルだったが、彼がぺろりと彼女の弱点の内の一つである耳の内側を舐めると、すぐに体を緩ませて熱い吐息を吐く。 …そんなユエルを見て、レシィは朝までたっぷり可愛がってあげようと、内心嬉しさに微笑んで。 「生まれて来る赤ちゃんも、ユエルさんも、絶対幸せにしてみせますから、皆、僕がちゃ~んと養って、面倒みて、守ってあげますから、ね…?」 そう言って、腕の中にいる彼の『家族』の事を、強く強く、抱きしめた。 おわり 前へ | 目次 |
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