恋を制するのは駆け引きか本能か男女の仲とは難しいものである。 特に「恋人」と呼ばれる二人の仲はより一層難しく、表面上の愛情だけでなく裏に打算や駆け引きが隠されていたりする。 人間には本能という物が備わっている以上男女がそういった仲になるということはごく自然なことだが、そんな関係になった当初は戸惑いを隠せない人間も少なからずいるだろう。 特に、それまで円満な友人関係を続けてきた者達にとってはそれは時としてとても大きなハードルとなって襲い掛かってきたりする。 「それじゃ俺、お茶入れ直してくるよ」 「いや、私が…」 「俺が入れたいからいいの。キッチン借りるよ」 そう言ってレックスは目の前のテーブルに置かれた湯飲みを両手で持つとその場を立つ。 いそいそと部屋を出るその姿を見送るとアズリアは「はぁ」と盛大に溜息を吐いた。 「―…なんていうか、その、何時もと全然変わらないじゃないか…」 誰もいなくなった部屋でそんな事を呟いてみる。 ――二人が俗に言う「恋人同士」という関係になったのはつい最近のことである。 友人兼良きライバル、敵同士、そして仲間…と様々な関係を続けてきた腐れ縁のような二人だが、何の偶然かうっかり再会を果たしたその日に遂にそういった関係への第一歩を踏み出したのだ。 長年の片想いの末ようやく辿り着いた関係ということもあってか想いが通じ合ったその日の内に恋人としてのステップを一気に駆け上がってしまった二人だがまだまだ残されているハードルは多い。 特に色気ということに関しては、友人という関係が長かったせいか全くと言っていいほどない。 そして今日はその「恋人」という関係になってから初めて二人きりで会った日だったりする。 お互いに期待半分不安半分という微妙な時期だ。 しかしそんな中、今日した事を思い返してみても何時もと同じ他愛のない会話やら剣の手合わせやら取り留めのない世間話やら昔話という友人時代と全く変わらないことだけだったりする。 甘い会話や態度を期待していたわけではないが余りにも前と変わりのない態度に自分達は本当にそういう色気のある関係になったのかと疑問すら覚えてくる。 「…いや、確かにあんな事したんだから立派にその、恋人同士というやつだよな…?」 アズリアは頭に浮かんだ疑問を振り払うように言葉にしてみる。 あの夜のことは今思い出してみても顔が火照ってくる。 あの時は勢いでやってしまったが今考えると物凄く恥ずかしい。 愛し合う男女が行って然るべき行為であることは頭では理解しているのだが冷静になって思い返して見るとどうしようもない羞恥が湧く。 だって普段人に見せることなどないあんな所やそんな所まで見られた挙句触られて舐められてその上とんでもない所にとんでもないモノまでぶち込んだりしてるわけで。 しかも相手が好きだった男だったりするわけだから尚更恥ずかしかったりする。 まあ、好きでもない男が相手だった場合は体に触れると考えるだけでもおぞましかったりするわけだが。 「―…今日も、するんだろうか…」 誰もいない事をいい事に脳内に渦巻く疑問が次々と口から垂れ流される。 こんな事を考えてるのは自分だけだろうか…と思いつつ今晩の事を考えると何となく気が重い。 抵抗や不安があるわけではない。現に一応備えてとして三枚セットで叩き売りの下着ではなくきちんとした可愛げのある物を今日の為にわざわざ買いに行ったりもした。 しかし、だからといって羞恥が消えたわけではない。 それに会う度にやってたら、はしたない女と思われるのではないだろうか。など色々な事を考えてしまう。 好きな相手と二人で気持ち良くなるのは悪くはないが相手の事が好きだからこそ悩んでしまう。 人は両想いになると誰もが皆こんなにも悩んでしまうものなんだろうか。 これだったら片想いの方が楽だったのではなかろうかと思いつつアズリアはまた大きく溜息を吐いた。 「―…何で俺たち、いっつもこうなんだろ…」 アズリアが溜息を吐いているのと時を同じくしてレックスもまたキッチンで独り大きく溜息を吐いていた。 二人でいる時間が楽しくないわけじゃない。特に不満があるわけでもない。 むしろとても楽しいし幸せだとも思う。 しかし、どう見ても恋人同士という空気ではない。 傍から見てれば仲の良い友人以外の何物でもない雰囲気だ。 その空気に何だか物悲しくなる。 だからと言ってそういう色気のある雰囲気に持っていく方法があるかと聞かれれば、それすらも持たないという答えしか返せず尚更切なくなる。 友達から入ったのが悪かったのかなぁなんて思いつつもとりあえず目の前の問題をどうするかで頭を悩ませる。 一番の問題はこのまま今日ここに泊まるか、帰るか。 泊まるという事はつまりはそういう事になるというわけで個人的にはそりゃもうとても嬉しいが、それが果たして相手にとっても嬉しいことなのかと聞かれればそれは違う気がしてならない。 ある程度手練れた相手だったのなら何の躊躇いも持たないが、ちょっと前まで処女だったという事を考えると悩まずにはいられない。 ――ケダモノとか思われたらどうしよう。 そんなことを無意味に心配してしまう。 ヤる為に会いに来てるのかと問い詰められた挙句ケダモノやら大嫌いやら言われてスピード破局なんて物を迎える事だけはなんとしてでも避けたい。 しかし手を出さないで帰って愛が疑われても困る。 友達から入った遠距離恋愛はなんて難しいんだと思いつつレックスは新たに温かな茶が入った湯飲みを手に部屋に戻る。 「お茶、入ったよ」 「ああ、すまない…」 とりあえず表面上は平静を装って相手の出方を窺ってみる。 レックスは試すかのようにアズリアの顔をじっと見つめる。 その視線に気付いてかそれまで湯飲みに向けられていたアズリアの顔が上げられ一瞬目が合うが、それは即座に逸らされる。心なしか顔も少し赤らんでいるように見える。 ――今の反応はどう取ればいいのか。 もしかして考えてる事を見透かされて思わず目を背けられてしまったのか。 これはダメって事か?その辺どうなのよ。 と、頭の中だけで自問する。 レックスがそんな阿房みたいな自問を繰り返している時、アズリアもまた同レベルのことで頭を悩ませていた。 じっと見つめてくる目が自分の心を見透かしてくるようで恥ずかしくて顔が上げられない。 あんな破廉恥な事を考えていたということだけは知られたくない。 こんな自分は相手の目にはどんな風に映っているのか。 その答えはあまり考えたくない。 「と、ところで覚えているか?学生時代にもほらお前が入れたお茶がだな――」 そんな考えを振り払いたくて口にした話題は先程まで繰り返されていた物とそう大差のないもので、それに続いた会話と共に二人の労力は虚しく場の雰囲気はどんどん色気や駆け引きといったものとは無縁のものへと戻っていく。 「それじゃ、そろそろ帰るよ」 あのまま他愛のない話を繰り返しながら昔のように二人で笑い合っていれば、時が過ぎるのはあっという間であった。 日はもう沈み、月が高々と天に輝いている。 「そ、そうか…。宿はちゃんと取ってあるのか?」 「いや、まだだけど何とかなると思うし」 それだったらうちに泊まっていったらどうだ――。 胸にせり上がるたった一言が口に出来ない。 だってきっとこんな事思ってるのは自分だけなんだろう。 両想いのはずなのに何だか何時まで経っても一人で片想いしているみたいで切なくなってくる。 どうして自分は「帰らないで」の一言が言えないこんなに可愛げのない女なんだろう。 そう思っても言葉は思うように出てこない。 「…そんな顔、しないでよ」 俯いていると不意に近くで声がした。顔を上げようとしたらそっと抱き締められた。 「―…帰りたくなくなるから」 もう駄目だと思った。この温もりを手放したくない。 本能がそう叫んでいて抱き締め返す腕にも力が入った。 結局の所、駆け引きやら相手の気持ちなんかよりも本能が先走ってしまうのはやはり人の性だろうか。 そんな事を思っていると耳元にそっと唇が寄せられる。近づいた唇が囁く。甘く、熱を帯びて。 「…止まれなくなるけど、いいの?」 「―…いい」 短く返事を返した後、腕を首筋に廻して爪先で立つ。少し高い位置にある唇に自然に唇が触れる。 「…ん……んんぅッ…」 最初は触れるだけだったそれは段々と荒々しいものへと変わり、唇を割って押し入ってきた舌がまるで生き物のように口内を動き回り、体が段々と熱を帯びてくる。 いやらしく絡み合う唾液と舌に体中が反応して興奮を目覚めさせる。 「…ふ……ぷはっ…―ってお前、せめてベッドに行ってからにしろ。そういう事は」 「あ、ごめん」 キスの後すぐにアズリアの服に手を掛けているレックスの手をアズリアは制すとそのままベッドに向かおうとするが、途中で立ち止まると振り返り、少し遠慮がちに口を開く。 「…その、風呂に入ってからでは駄目か?」 「なんなら一緒に入る?」 その言葉にアズリアの右ストレートが綺麗に炸裂する。 といっても、加減されたそれは大したダメージにはならないのだが。 「もう二度とその口が聞けない様にしてやろうか?」 「すみません、失言でした…ってゆーか、せめて平手にしようよ。女の子なんだし」 「お前じゃなかったら紫電絶華を叩き込んでいた所だ。それだけで済んだんだからマシだったと思え」 この調子じゃ一緒にお風呂に入れるのは相当先になりそうだなぁと思いつつレックスはアズリアのその腕をグイっと強く引くと半ば強引にベッドの上に座らせた。 「我慢できそうもないって言ったら怒る?」 そう言ってもう一度軽く口付ける。その言葉にアズリアは少し頬を朱で染め上げると控えめに声を出した。 「―…灯り、消すんだったら許してやる」 「…そっか」 返ってきた答えに軽く返事を返しながらそっと灯りを消す。 そしてまた口付けてそのままその体をベッドの上に押し倒す。 その日交わされた何度目かのキスが終わると同時に長い指が衣服に掛けられる。 その手に対抗するかのようにアズリアもまたレックスの服に手を掛けた。 「そんなにがっつかなくても…」 「お前だって人の事言えないだろうが」 先を急かすかのようにどんどん剥ぎ取られていく衣服に二人で苦笑いを浮かべる。 恥ずかしさはあるが触れ合う体温は温かくて、先程までの葛藤が嘘のように晴れていく。 たぶんきっとこうしたいと思っていたのはお互いに同じで、不安になる必要などどこにもなかったのだと温もりが教えてくれる。 これはたぶん自然なことで、きっと人である限り誰もが皆本能には逆らえないのであろう。 「ん…は……ぁっ…」 ゆっくりと胸への愛撫が始まる。 大きさはそれ程でもないが整った形をしたそれが手の中に収まり、丁寧に揉みしだかれる。 「やぁ……んぁっ!」 乳首を撫でるように擦られた後舌でなぞられ、高い声が上がった。 舌先で転がされたそれを甘く噛まれると快楽が全身を支配し、艶を帯びた声が抑えられなくなる。 アズリアの荒くなる息を感じながら、レックスは口での胸への愛撫を続けながらも手を秘所へと伸ばす。 「…ひぁッ!あッ…はぁ…ん……」 一番敏感な部分を指で擦られ、アズリアの口から甘い叫びが零れる。 秘口から愛液が溢れ、堪えようのない快感が頭を白く染めていく。 「…気持ちいい?」 不意にレックスが口を開く。その問にアズリアは与えられる快楽に耐え、更に頬を染めながら答える。 「ん…ぁ…ぅ……聞、くな…そんな…こ、と……」 「いや、でも二人で気持ち良くならなきゃ意味ないから一応聞いといた方がいいかなぁと思って。俺ばっかり気持ち良いのも何か悪いし、前回痛い思いさせちゃったし」 意図的に恥ずかしいことを言わせようとしているのなら怒れるのに純粋な好意で聞いてくるので始末に負えない。 それでも自分の欲望だけを優先させずにきちんとこちらの事も気遣ってくれるのはやはりちゃんと愛されているような気がしてきて何となく嬉しい。 アズリアはレックスの言葉に黙って頬を染めるしかなかった。 そんなアズリアの態度を肯定と取ったのかレックスは先程まで指で弄っていた部分に今度は口を近付ける。 口付けると同時にアズリアの体がビクンと跳ねた。 そのままいやらしい水音を立てながら舌で愛撫する。 「あッ、ああッ…んんッ……ダ、ダメだ…そんな所…汚い、だろ…?」 アズリアの口から搾り出された言葉にレックスは一度顔を上げると少しだけ眉を顰め、言葉を放つ。 「君だって前、俺のあんな所舐めたんだからお相子だろ?それに汚いなんて言うなよ。俺は綺麗だと思ってるんだからさ」 そこまで言ってまたその場所に口付ける。秘裂の間に舌を差し入れ、溢れる蜜をそれで掬い取っていく。 その度にアズリアのそこは轟き、その体は小さく痙攣した。 「はぁん…あッ…んぅ……ックス、も…いいから……」 抑えきれない快楽に身を委ねながら艶やかな声を上げ、両手で顔を隠すアズリアはなんとか言葉を紡ぐ。 その言葉にレックスは口を離すと今度はそこに大きく膨らんだ己の性器を押し当てる。 「それじゃ、いくよ…」 そう言って腰を少し持ち上げるとゆっくりと自身を押し入れる。 「あッ……んんぅッ…!」 熱の侵入に声が上がる。 処女ではないとはいえ、まだ一度しか男を受け入れたことのないそこは熱くきつく締め上げてくる。 「ごめん…大丈夫?」 その締め付けのきつさに相手の体を心配してかレックスが繋がったまま心配そうに問う。 そんなレックスにアズリアは少しだけ眉を顰めながらも笑いながら答える。 「だ、大丈夫だから…気、にするな…。い、いから続けろ……」 アズリアのその言葉にレックスはできるだけゆっくりと自身を奥まで押し入れる。 その感覚にアズリアは漏れそうになる声を抑える代わりにシーツを強く握り締めた。 奥まで押し入れた所でレックスが声を掛ける。 「アズリアの中…凄く温かい」 「…お前のも熱い、な……」 交わす言葉も吐息もひどく近い。恥ずかしさはあっても溶け合う体温に体の興奮とは裏腹に心は安らぐ。 「…動くよ?」 その言葉を終えるとレックスはゆっくりと腰を動かし始める。 「んぅッ…ぁ……あぅッ…!」 レックスが腰を突く度アズリアから声が漏れる。 締め付けはきついもののかなり濡れていた事もあり、以前に比べればとても楽に動くことができた。 「あ、ああッ、んんッ…!」 狭く、きつく締め上げてくるアズリアの中の心地良さにレックスの腰の動きも激しくなっていく。 その度にアズリアの口からは甘い声が漏れ、繋がった場所がいやらしい音を立てた。 「あッ、あんッ、んふぁッ…!…ックス…レ、ックス……!」 響く水音と強烈な快楽が理性を奪っていく。 気が付けばアズリアもまた自ら腰を動かし、より深い快楽を求めていた。 獣のように貪欲に快楽を貪り合う。 「ああッ、んあッ!レック、ス…私…わた、し……もうっ…!…ふぁッ、ああぁぁッ!」 「…ぅ、あ、アズリア…っ!」 アズリアが一段と高い声を上げ体を大きく仰け反らせる。 それと同時にレックスも素早く自身を引き抜くと、そこから溢れた白濁液がアズリアの下腹部へ降りかかった。 「アズリア……」 絶頂の余韻に浸り、肩で荒く呼吸を繰り返しているアズリアにレックスの顔がそっと近づく。 そしてそのまま目を閉じるとまた深く唇を重ねた。 「―…中で、出さないんだな」 「え?」 力強く温かい腕の中でアズリアはそっと呟く。その顔はほんの少しだけ桜色に染まっている。 「うん…まあ、子供できちゃったら不味いかなって…」 「―…すまない」 苦笑いと共に返ってきた返事にアズリアは俯くと小さな声で謝る。 できることなら彼の子供を産んでやりたいとは思う。ささやかな夢を叶えてやりたい。 それでも、それすらも許されていないこの身が憎いと同時に申し訳なさがこみ上げる。 本当ならこんな女に縛り付けておくよりきちんと子供が産めるような、他の誰かに譲った方がいいのかもしれないと考えた事もあった。 けれどそう思うと同時にもう取り返しのつかない所まできてしまっている事を知っている自分もまたいて、どうしてもその選択肢を選べずにいる。 「何で君が謝るんだよ。こうしている事を選んだのは俺自身の意志なんだから君に謝られる筋合いはないよ。君が側にいてくれる。それが今の俺にとって一番大事な事なんだから」 「…そうか」 その言葉にそれまで胸を支配していた暗い気持ちが消え、暖かな感情が湧く。 何千何百という可能性のある未来。その中にはきっともっと幸せになれるようなものもあったはずだ。 夢を諦めずにいられる選択肢だってあったはずだ。 それでも自分の意志でこの未来を選び取ったのだと。今が大切だと。 それが当然の事であるかのように言ってくれるのはやはり嬉しかったし、それと同時に安心もした。 「…それとな、前も言おうと思ったんだが…その…胸、小さくて悪かったな…。やっぱり男は、その…ああいうのは大きい方がいいのだろう……?」 しどろもどろになりながらも紡がれる声が段々と小さくなっていく。 口にするのは恥ずかしかったが、やはり長年のコンプレックスであり、これからも付き合っていかなければならない問題だと考えると気になって仕方ない。 そんなアズリアの様子にレックスは笑う。 「君ってさ、結構細かい所気にするよね?じゃあさ、君はもし俺がそこら辺の召喚師より貧弱な体だったりとか、もしくはギャレオの数倍は筋肉付いてるあきらかにやりすぎな位にマッチョな筋肉マンだったりとかしたら嫌いになるの?」 「―…いや、そんな事はないが」 嫌いにはならないけどでもそんな体のお前は嫌だな。とは言わないでおいた。 「要はそういう事だろ。俺は君のそういう所も含めて好きなんだから細かい事気にするなよ。俺がこんなに惚れてるんだからもうちょっと自信持てって」 「…お前、今物凄く恥ずかしい事言ったぞ」 「つっこむなよ。言われると恥ずかしくなるから。雰囲気で流してくれよ、こういうのは」 微妙な空気の中二人の頬が赤く染まる。その様子に同時に吹き出す。 「はは…お前、自分で言ってて恥ずかしいと思ってるなら言うなよ」 「し、仕方ないだろ。照れ隠しで外して温度下げる奴よりかはマシだろ。それに君が恥ずかしい事全然言ってくれないんだから俺が言うしかないじゃないか」 「お前、人のせいにするなよ…。女の扱いは下手な癖に恥ずかしい事言うのは得意だなんて本当に変な奴だな」 「変な奴って…俺みたいなダメな男を辛抱強く好きでいてくれたどこかの物好きさんも同レベルじゃないの?」 「そんな女を選んだお前も物好きだろう?…結局の所、似た者同士ということか?」 「それでいいだろ?それとも君は今こうしていることを後悔してるの?」 「―…いや」 その言葉にお互いに笑顔が浮かんだ。 その瞬間に愛しさを感じる。 こうして自然に一人の女として、人間として、会話ができるのがとても嬉しいと思う。 軍人としての自分が守るべきものが国と国民なのだとしたら、女として守るべきものはたぶんこの幸せなんじゃないかと深く思う。 「何だか変な話だよね。ちょっと前まで本気で敵対してた君とこうして同じ道を歩んでるなんて…。 夢を見てるんじゃないかって今でも思うよ。俺はずっと…自分の歩んでいく道にはきっと誰もいないだろうと思っていたから…。 本当に変な話だよね。自分の中に他人がいることがたまに怖くなるなんて」 それ程までに独りで過ごしてきた時間が長かったから。 言葉にしなくともその寂しげな瞳がそう言っているような気がしてアズリアは胸が詰るのを感じた。 「フン…そんな事言ってられるのも今の内だぞ。その内私がお前の中にいるのが当たり前になるんだ。お前が逃げたくとも逃げられないくらいに深く根を張ってどんなに独りがいいと言ってもそんな我侭言えない位に追い詰めてやる。その内私なしじゃ生きられない体になるぞ」 不敵に笑ってそう言ったら一瞬だけ鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をされた。その後また笑顔が浮く。 「君さ、人の事言えないよ。今相当恥ずかしい事言ったもん」 「―…お前のせいだ、馬鹿」 突っ込まれてアズリアの顔は茹蛸のように赤くなる。 そんな様が可愛いなぁと思いつつレックスはもう一度その体を強く抱きしめた。 「うん、でもありがとう。やっぱり俺はこの道を選んで良かったと思うよ。…たとえどんな困難に襲われても君とだったら楽しいんじゃないかって思うし。独りで歩く平坦な道より二人で歩く獣道の方がずっといいね。 とりあえず俺の今のささやかな夢はどんな荒れ道でも君の事護れる位に強くなることかな」 「…強くなるって言えばお前、この前ギャレオみたいになると言った割には何も変わってなくないか?」 その言葉にレックスの眉がピクッと跳ね上がる。やはり未だに気にしているらしい。 「う、うるさいなぁ!俺だって暇を見つけて鍛えてはいるんだよ!」 「けどそう簡単にはならない…か。不憫な奴だな…」 「不憫とか言うなよ!もうこうなったら勝負だね。君の胸と俺の胸、どっちが先に大きくなるか。負けた方が罰ゲームで。きっと次会う時には厚い胸板が似合う男になってるだろうから君も吃驚するよ」 「そんな無謀な約束して後悔しても知らんぞ。負けて泣きっ面晒しても自業自得だからな」 そう言って笑い合う。 色気も駆け引きも何もないが、きっとこれが今の二人にとって一番いい形なんだろう。 どんな状況でも本能はきちんとついてくるから。だから安心して好きでいられる。 自分の望む未来を選び取れるだけの安らぎを見つける事が出来る。 今を愛しく思いながら二人はお互いに飽きるまで同じ未来を語り合った。 孤独に生きてきた寂しさを埋め合うかのように、ずっと隣で一緒に笑っていた。 おわり 目次 |
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