そよ風のキス
 

メンバーみんなで、海辺のホテルのテラスでバーベキューをして、満腹になって、それぞれが好き勝手にまどろみ始めた頃。
長野と坂本は腹ごなしに立ち上がって、テラスの手すりの際に行った。
「ん〜っ、風が気持ちいいね〜」
海からふくそよ風が、長野の髪をなぶり、白い首筋があらわになる。ピンク色の唇が心地よさそうに口角を上げた。
「そだな」
坂本は、風に気持ちよさそうに吹かれている長野をじっと見つめていた。しばらくそれに見とれていたが、ふいに長野の風を遮るようにテラスの手すりと長野の間に長野の方を向いて割り込むように長野の前に立ちはだかった。
「なに?風あたらないじゃ…」
文句をいいかけた長野の唇を、ゆっくりと覆い被さってきた坂本の唇が塞いだ。
「…っ!」
すぐに離れたものの、じっと長野を見つめている坂本に、
「なっなにすんだよっ」
と言って、頬を染めて長野は身を引こうとする。けれど、いつの間にか腰に回された坂本の両腕がそれをさせない。長野は坂本に抗議するような目を向けるが、当の坂本の方が少し不機嫌そうだった。
「…なんで…」
びっくりしてつぶやくと、
「だって今、そよ風が長野にキスしてった気がして…悔しかったから」
真顔でそんなことを言う。
「ばっ、ばっかじゃないの?」
長野はそう一蹴したが、本当にあきれたわけじゃない、少しだけ桜色に染まった頬がそう示している。坂本の体を押しのけて、また風にあたりながら、横に並んだ坂本にぴったりと寄り添った。また二人で手すりに肘を突いて海を眺める。
「…気持ちいいね」
長野は風に髪をなびかせながら、坂本の方を見て言った。坂本はその寄り添う体温を心地よく感じながら、照れたような笑顔を見つめてうれしそうににっこり笑うだけで応えた。徐々に落ちる太陽にオレンジ色に染められて、そこだけ完全に二人の世界だった。

「「「……んぎゃ〜っ!!!」」」
坂本長野の背後で、デッキチェアに座って食後のお茶を飲みながらおしゃべりしていたカミセン達が、うっかりその様子の一部始終を見てしまって、凍り付いた状態から解凍されると、小声で口をそろえて言いながら各々の身を抱くようにして体を震わせた。
「なんだなんだよ、いまのっ!」
「俺らがいること、忘れてんじゃない?」
「やっぱさかもっくんて私生活ミュージカルなんだね」
「ありえねぇっ、ありえねぇよっ」
「でもまぁ…坂本君だからね。長野君もああ見えてまんざらじゃないしね」
「うん、ま、あの二人はあれでいいんじゃない?」
順繰りに言いながら、それでもやっぱりそんな二人をかわいいとは思うのだ。結論は最後に岡田が言った通りなので、
「「まいっか」」
になる。そして、呆れながらも暖かい気持ちで年長二人の背中を見つめたカミセン達の横で、
「そよ風なんかに唇奪われてるくらいなら、俺にちゅーさせてもいいじゃんか…」
そうブツブツ言いながら、液体が空になったグラスの氷をストローでつついている井ノ原がいた。
「つっこみどころがそこなのかよ」
「所詮井ノ原君もトニセンだもんね、あのムード自体は気にならないんだね」
「もうあきらめなよいのっち」
「じゃあ岡田がちゅーさせてくれる?」
「嫌だよ」
「…そんなにきっぱり言うなよ」
「曖昧にしとくもんでもないでしょ」
岡田はばっさり切って捨てて、剛のグラスにコーラをつぎ足した。
「じゃぁ健ちゃんさせて〜」
井ノ原は今度は健に襲いかかろうとしたが
「じゃぁ!?」
と、“じゃ”をあり得ない程高いところから初めて健が素っ頓狂な声を出す。
「じゃぁってなんだよ!じゃあって!!ぜ〜っっっったいイ・ヤ!普通にだってイヤだけど、“じゃぁ”なんて、ついでか二番手みたいの、絶対許せないっ!」
「あ、いや別にそんなんじゃなくてっ」
「二番手じゃないぜ?お前、長野君と岡田の次だから、三番手」
剛がおもしろがって茶々を入れる。
「はぁっ?井ノ原君、ふざけてんじゃないのっ?おまえなんかこれでちゅーしてろっ!ばーかばーかばーか!!」
言うか健は、テーブルの上のフルーツのカゴの中に飾りにおいてあったまるごとのパイナップルを取って、井ノ原の口に押しつけた。
「いででっ、いでっ、いででででっ」

背後の喧噪を幸せな鳥の声のように聴きながら、V6の父と母は優しく微笑みながら夕日を見つめているのだった。

終わり

作成日:8/26/06 

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