107 :98:2007/03/17(土) 08:51:55 ID:xnaOgyKL
 夢を見た
アタシがモットストリートのドブの中を這いずって生きてたころの夢だ
何時ものように金目の物を掠め取れそうなカモを探している所にそいつはやってきた
 いや違う
あの時そこに現れたのは胸糞悪い児童福祉センターのクソババァだったはず
でも現れたのは、カモに向いた頼り無さそうな東洋人の若い男だった
 
「やあ、君がレベッカかい?探したよ、僕は児童福祉センターから派遣されてきた
 ロクロウ・オカジマだ、今日から君の担当をする事になったんだ、よろしくね」

ガキのアタシは通りのまン中につばを吐くとこう言った

「消えろ、クソッタレ」

バッグとコートをかっぱらってやろうかと思ったけど福祉センターから来たなら後が面倒だ
それだけ考えるとロックから逃げ出すために細い路地に向かって駆け出した

「あ、えっ、ちょ、ちょっとおい、待ってくれ!」

 目が覚めた
床に落ちていたタバコとライターを拾って火をつける
今思い返すと、あの時の事は結構覚えていた
メリンダ・シンプソンと名乗ったクソババァに向かってアタシはこう言ってやったんだった

「失せな、クソババァ」

逃げ出したのも同じ、でも百戦錬磨のクソババァはそういうのは慣れっこで
少しもあわてずにアタシの立ち回り先に先回りしてやがった

 大違いだ
慌ててアタシを追いかけようとあたふたしていたロックを思い出すとくすくす笑いが止まらない
次に夢を見るのが楽しみだ


150 :98:2007/03/21(水) 19:09:14 ID:+DRCct6A
 不機嫌だった
あの後何度か夢を見た、見ているだけだった
夢の中のアタシはガキのままで、その後ろにチューインガムみたいに今のアタシがくっついてる
ガキのアタシはロックに向かって、つばを吐きかけ、口汚く罵り、脛に蹴りを入れた
唾をかわし、罵りは聞き流し、蹴りを防いで見せた(脛当てを付けていやがった)クソババァと違って
唾の付いたスラックスに唖然とし、罵られて傷つき、蹴られた脛を抱えてうずくまった
ガキのアタシはロックを徹底的に、信用の置けない人間として扱っていた
クソババァの方がまだましに付き合ってたろう、ババァの抜かすきれいごとは本音が透けて見えてたからだ
ロックの抜かすホンモノのきれいごとがガキのアタシには心底胡散臭かったんだ

「いつまでも付いてくるんじゃねえよウゼェ、稼げねぇだろ!」

そう怒鳴りつけた、ロックは曖昧な笑顔でこういった

「こんな事をいつまでも続けられるわけじゃないだろう?」

 カッとなった

「死んだら確かに続けられねぇ、テメェに言われるまでもねぇよ!」

ストリートで暮らすガキには、先の事を心配する知恵も無ければ必要も無かった
あるのは今に対する不安と怒り、くだらねえガキの自尊心

とりあえずこのままだと本当に稼げないから、アタシはロックから逃げ出した

 思う 
今のアタシはこうして生き延びることが出来た
でも、まだガキのアタシにそんな先は分からない
ロックの事を知らないアタシは
ロックが本当にアタシの事を案じてくれているのもわからない

アタシはガキのアタシを絞め殺してやりたくなった


168 :98:2007/03/23(金) 01:41:21 ID:J4iaN2yk
 夢を見ている
相変わらずクソババァのかわりにロックが出てきてガキのアタシがそれに噛み付く夢だ

「揚げ立てのドーナツなんだけど、どうかな?」
「ガキじゃねぇンだよ、そんなモンで喜びゃしねえ!」

そいつはツーアウトだよ、ガキのアタシ
ガキじゃねえなんて抜かすのはガキの証拠だし、手に入りそうな食い物にケチをつけるのは許されねえゼイタクだ

ストリートじゃ揚げ立てのドーナツなんて簡単にゃ手に入らねえ、でだ
案の定ガキのアタシは自分の感じた物欲しさにキレちまって
その日ありつけるはずのメシを喰いっぱぐれた

 目を覚ました
一服をふかすと今日はどうするか考える

「事務所にでも行くか…」

事務所にはロックしか居なかった、ノートPCに向かって何かしてやがる

「おい、ロックちょっといいか?」
「なんだい?」
「コーヒーが飲みたい、入れろ」
「はいはい」
「あと揚げ立てのドーナツが喰いてぇ」
「やれやれいい鼻してるなあ、さっき買ってきたところだよ」
「早く出せ」
「コーヒーは?」
「砂糖とミルクをたっぷり入れろ」

アタシは喰い損なったドーナツを楽しんだ


212 :98:2007/03/27(火) 19:44:46 ID:4R67Deie
 そいつは来るべくしてやって来る
アタシはまた夢を見ている、まだガキのアタシの夢を
最近思うことは、もしこの夢がホンモノだったらって事だ
あの時出会ったのがクソババァでなく、本当にロックだったならアタシの人生って奴はどう変わってたんだろう?
ちょっとはマシだったかもしれない、もっとひどくなったかもしれない

通りを奥に入ったゴミ捨て場でガキのアタシは仲間になじられていた
仲間っつったって、ようはストリートでつるんでるってだけの関係だ

 アタシはちょっとした顔だった
稼ぎが良くてケチでない、ストリートのガキはそれで十分、人望が集められる
もちろんそんなアタシを面白く思わねぇ奴らもいる
今アタシをなじってるニキビ面のビルってのもそんな奴らの一人だ
奴がわめいているゴタクを分かりやすく言うとこうだ
アタシがロックに骨抜きにされている、餌もらって尻尾振ってるんじゃねえクソアマ

 そんなとこか
アタシならそんなゴタクを許しはしねぇ、だが夢の中のガキのアタシはそうはいかなかった
ロックにあれこれと世話を焼かれているのが後ろめたかったから
で、アタシが骨抜きにされていない事を証明しなきゃならなくなった
ストリートのガキの間じゃ大人の言いなりになってるってのはコケンにかかわるからな

 悩んでいた
ガキのアタシがだ、アタシなら悩むどころかその場でニキビ面をベコベコにして終わらせてる
悩みながらアタシは稼ぎに出ていた、毎日ロックが来てくれるわけじゃねえ
他にも面倒見てる奴がいるんだろ、その事を考えるとムカついた
態度は相変わらずだが、結局ロックになついちまったんだろうな
ガキのアタシは

 どうすればいいのか
ロックに一発食らわせる、そいつをして見せないとアタシの顔が立たない
ハッ、くだらねえ
あんなニキビ面の言いなりでロックをどうこうしようってのか、このクソガキは
ま、悩んでるだけまだマシだけどよ

間抜けそうな白人のおっさんからブリーフケースをかっぱらった時もまだ悩んでいた
悩みながら戦利品を確認する
そこには1カートンの弾と真新しいベレッタが一丁あった


224 :98:2007/03/28(水) 23:21:54 ID:o7QuPoAa
  そいつを手に取った
それはアタシの二度目の誕生日、そう言っていい出来事
アタシは銃を手に取ったんだ

 まずい
ガキのアタシが何を考えているのか手に取るように分かる
こいつでロックを脅かせば、そんな事を考えてやがるな
銃で大人を脅かす、バカ共を納得させるには十分だが相手が悪すぎる
バカこのクソガキが、ロックがそんなモンでビビるわきゃねぇだろッ!

アタシと出会う前の、あるいはアタシと出会った頃のロックならビビってくれるかもしんねぇ
でもこの夢に出てくるロックはどう考えてもそうじゃない
たぶん、いや絶対にガキのアタシを穏やかに諭すだろう
だめだロック、それじゃあかえってガキのアタシを追い詰めちまう
分別臭い大人が筋を通して、なんていうのはああいう連中をいっとう逆上させる
たぶんぶっ放すだろう

 もう一つ思い浮かんだ
もっとまずい事だ、ロックが一切のアタシの事情を察しているかもしれない
なら、まず諭すのは変わらないだろう、そのあとは?
どうしてもガキのアタシにはそれをする必要があるって解ってくれたら?
だったらあのバカはどうする?
甘んじて撃たれかねねぇ

クソババァの時はどうだった?
アタシが銃を手に入れたときに最初に思いついたのは
クソババァで試し撃ちすることだった
ああそうだ、クソババァはあっさりコトを察知して
アタシがそのつもりでいるうちは決してアタシの前には現れなかった

察してでも偶然でもいい、ロックがアタシの前に現れない事を
銃をいじりまわしてるガキのアタシの後ろで祈るしかなかった


321 :98:2007/04/08(日) 19:14:39 ID:sciN+30d
 眠りが浅い
何故かって?あの夢のせいだ
夢とはいえ、ガキとはいえ、このアタシがロックに銃を向けるなんて…

 考えただけで胸クソ悪くなる
アタシは今まだあいつの銃だ、日本から帰ってきて突き返された覚えはないから、まだそうだ
そのアタシが…あーやめたっ、話がどうどうめぐりだ
シャワーを浴びて眠気を飛ばし、事務所に行くことにする
今のラグーン商会は開店休業、飛び込みの仕事もねえ

「働く時は大いに働く、休む時もまた然(しか)りだ」

先月大きなヤマを踏んでから開店休業を決め込んだダッチはそう言ってた、然りって何だ?
くだらねぇ事を考えながら歩いているともう事務所に着いちまった

「うーっす」

中にはロックしか居なかった、電卓片手に帳簿をつけてる

「ダッチとベニーはどうした?」
「ダッチは野暮用だってさ、ベニーはこの前台湾から取り寄せた何かのパーツを取り付けにラグーン号に行ってるよ」
「ケッ」
「まあ、海賊船が電子の要塞にっていうのは気に入らないとは思うけど、そいつがウチの強みだしね」
「フン」

 ちょっと面白くない
あっさりアタシの気分を読み取って見せたロック
何か言い返してやろうと思ったら、先手を取られた

「なあ、レヴィ」
「なンだよ」
「ひょっとしたら寝不足じゃないかい?」

 ますます面白くない
ロックの座っているソファーの隣にドカッと腰を下ろす

「おいおい、これじゃあ仕事になんないよ」

そのままロックの膝を枕に寝そべるとアタシは言った

「最近夢見が悪くて眠りが浅せぇんだ、お前アタシがうなされそうになったら起こせ、いいな」

 目を閉じる
アタシは夢も見ずに眠ることが出来た

「そんな切なそうな目で見上げられたら断れないよなあ…」

なんか聞こえた気がするが気のせいだ

その日、ロックは欠片も仕事が進まなかった
帰ってきたダッチはそれを叱るでもなく、ただ広い肩をすくめた


331 :98:2007/04/10(火) 21:36:33 ID:yodJS3O2
「ちょっとやそっとじゃ起きそうに無いな、レヴィの奴」

冷蔵庫から取り出したビールを器用に片手で開けて一口あおったダッチがそういった
さっきまでソファーの上でふんぞり返る様に寝転がっていたレヴィ
今は体を小さく丸めて膝に顔を擦り付けるようにして眠ってる
その寝顔からはいつもの険しさが消えて
ひどく幼くみえた

「こうしていると結構可愛いんだけどね」
「人に慣れねえ山猫を手懐(てなず)けるとは、なかなかやるじゃねえかロック」
「やれやれ、懐(なつ)かれてるのかなあ?」

うなされそうになったら起こせなんていっていたけれど
レヴィはオレの膝の上で気持ちよさそうに寝てる
鼻でもつまんでやろうか?
後が怖いからやめておこう

「さて、今日は日当を出さなきゃならないな、ロック」
「へ?」
「一応危険手当もつけておこう」
「何だよそれ」
「起きたらイエローフラッグにでも行って来い」
「だから何なんだよ、ダッチ」
「飼い主にペットの世話を頼んでるところだ、じゃあ俺はまたちょっと出るが、後はうまくやれよロック」

そう言うとダッチは片手をひらひらさせて出ていき、事務所でレヴィと二人っきりになった
動くに動けない

「オレも寝るかな」

773 :98:2007/06/03(日) 18:39:44 ID:U0MxEeto
 目が覚めた
目の前にロックの顔がある
かすかに眉をしかめて…、眠ってやがんのか?
アタシがうなされたら起こせって言っといたのにどういうつもりだコイツ

「む…、ン…」

まあいっか、ロックの顔をじっくり眺める機会なんてそうは無ぇし
改めて見ると…しかし…その…なんだ?
まあイケてる顔だよな、ロックの奴
普段からこのくらい締まった顔してりゃあけっこう見れるのに
ん?
げっ、コイツかなり睫毛が長げえ

「ったく、ヘラヘラしやがって…」
「誰がだよ?」
「てっ、テメエいつから起きてやがった!」
「そんな事はどうでもいい、人の顔見てニヤニヤするもんじゃない」
「はぁ? ニヤニヤしてたのはテメエの方だろ!」
「いーや、お前の方だ!」
「いや違う、テメエだ!」
「お前だ!」
「テメエだ!」
「お前だ!」
「テメ…「お前ら、楽しそうな事してるじゃねえか」
「「…………」」

顔がくっつきそうな距離で怒鳴りあっていたところにダッチが帰ってきた

「「どこが楽しそうなんだよ!」」
「ふん、仲までいいな」
「ロック、顔赤くしてんじゃねえよ!」
「レヴィの方だってそうだろ!」
「分かった分かった、仲良しさん達はとっととイエローフラッグでもどっかでも行っちまいな」
「「…………」」

追い出されたアタシとロックはイエローフラッグに向かった


892 :98:2007/06/25(月) 22:41:27 ID:NniX4xxS
 
 引いちまった
何を引いたって?
引き金に決まってる…だろ…

夢の中のバカなガキのアタシが
得意げに銃を突き付けたら
ロックは小さく溜め息をついてこう聞いた

「それで? それで何をどうするつもりなのかな?」

 どうにもならなかった
単純に銃を突き付けさえすれば、なんて
そんな甘い考え通りには行かず
言われてから事の重大さに気付いたガキのアタシは
ようやく分かった銃の重みに悲鳴を上げそうになりながら
逃げ場の無い場所に追い込まれた

そんな様子を見たロックは、悲しげに右手を差し出した

 足掻き続ける
そこまで追い込まれても
そりゃそうだ、ここで引いたら無くしちまう
ロックを信じきれないガキのアタシは銃を渡せなかった
あのクソッタレなストリートでの、全てと引き換えに


 やがて重みに耐え切れずに引き金が落ちた


銃を突きつけられても
右手に風穴が開いても
ロックは小揺るぎもしなかった

穴の開いていない手でガキのアタシからそっと銃を取ると

「こんな物は決して、君を幸せにはしてくれないよ」

悲しげでマジな顔がそう言った
前にどこかで聞いた偉いサムライの言葉
くそっ、何だったっけ?
ダッチでもいればウンチクたれてくれんだろうけど
ロックはその名の通り、その言葉のままだった




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