379 :蒼空の続きぃ?00-1:2008/06/04(水) 23:15:01 ID:jrrvHsgU
ロックは狼狽していた。
とにかく今夜はこれまで経験したことの無い事態が次々に展開され、
いったいどうしたらいいのか、すっかり困惑の態だ。

今、自分はベッドの上にいて立ち膝の姿勢。ちなみに全裸で。
目の前にいる、と言うより自分が跨っている女性、当然こちらも全裸。
その女性はうつ伏せ、正確には少しだけ左半身を上げて斜めの横臥。
両手を尻に当てている。
と言っても尻たぶを開けっ拡げて誘っているわけではない。
逆だ。膝を閉じ、排泄器とおぼしき辺りに両手の甲を当て、たぶんギュッと括約筋を締めている。
『ソッチはイヤ』
言葉にこそ出していないが、全身で必死にそう懇願している。

二人の間で、“後門”の方での経験が無いわけではない。
彼女はよほど意識を飛ばさない限りあまり歓迎はしなかったが、それでも被虐の快楽を求めないわけではない。
いつもなら、やれ「変態」だの「くたばれ」だの「後ろが良けりゃオカマ掘ってろ」だの、
罵詈雑言のオンパレードで抵抗して来るのだが、結局最後は受け入れてくれる。
それが、今夜の抵抗の仕方は尋常ではなかった。
口をキュッとつむり、少し震えている。それどころかロックから視線を外した瞳は明らかに濡れている。

彼女、レヴィは怖かった。
別に後ろでされるのが怖いわけではない。そんなことは今まで散々経験済みだ。
何しろこの男、オツムのどっかのネジが抜けると欲望の趣くままヤリ放題、
あの手この手であらゆるプレイを強要して来る。
そんな野郎に惚れたのが、自分のウンのツキ。別に今更気にしちゃいない。
せいぜいこの変態ジャップのイチモツを、こっちの『ウン』付きにしてやる。

まあ、彼のためなら大概のことは受け入れる覚悟があるし、
自分の中で否定してはいるが、何のかんの言ったところで、結局はいつも悦ばされてしまっているのだ。

だけど……………
とにかく今夜はイヤだった。優しくして欲しい、普通に愛して欲しい。
ただそれだけだった。自分でも理由はよく分からない。

じゃあ何が怖いというのか。
それは拒否することで彼に捨てられることだった。これは今の彼女にとっては致命的だった。
だから言葉で明確に拒否できないでいる。
そのクセ、彼女のプライドは「優しくして」等と甘ったるい言葉を口にすることを許さず、
その結果どうしたら良いのか自分でも理解できず、体を硬直させ、ただ枕を濡らすしかなかった。


380 :蒼空の続きぃ?00-2:2008/06/04(水) 23:16:06 ID:jrrvHsgU
レヴィ一人を残した沖仕事から戻った日の晩、ロックは彼女を自分のモーテルに誘った。
建前としては、例の“事件”の後遺症を心配して引き続き彼女を庇護するためだが、
本音を言えば海上で溜まってしまった3日分のナニを処理したいのだ。

果たして本音の方を見透かされてしまったのか、
「アタシは大丈夫だっての。ガキじゃあるまいし、いつまでも添い寝してもらわなくたってよ。」
てな感じであっさりフられてしまった。
メゲずに、もう少しあれこれ誘いをかけてみたが、結局レヴィは自分のアパートに一人で戻ってしまった。
ロックは、ぽっかりと心に穴でも空いたような虚しさを感じながら自分のヤサに戻ると、
一人寂しくヤケ酒を呷り、アルコールの勢いでやっとこさ就寝にこぎつけた。

ところがその翌日、仕事を終えると今度はレヴィの方から酒瓶抱えて押しかけてきた。
天にも昇る気持ちとでも言うのだろうか、ロックは飢えた犬コロ状態(通称ハァハァ)になってしまった。
しかし、困ったことに明日は早朝から仕事の予定が入っているので、あまりアッチの方にばかり励むワケにもいかない。
その辺りはレヴィも心得たもので、持って来たのはラム1本だけ。
つまり、さっさと飲んでさっさとヤることヤって一緒に寝ようという意思表示、とロックは勝手に解釈した。

ロックは、レヴィが呆れるほどのハイピッチでとっととラムを片付けた。
「飲み足りないか?」
真面目に心配そうなレヴィだったが、ロックの方はもう我慢の限界だった。
「レヴィっっ!!」
彼女の名前を叫びながら有無を言わせず跳びかかった。
が、彼女はひょいと避けると
「フザけんな、このアホ!、いきなり何シヤガル!」
「オ、オレはフザけてなんかない! 本気なんだぁ!」
性懲りも無く再度跳びかかったロックだったが、
レヴィは今度は避けるどころか鳩尾(みぞおち)に膝蹴りをお見舞いして来た。
「ぐげぼぉっ」
胃への直撃は回避されたのでラムの逆噴射はやらずに済んだが、その場に崩れ落ちるには十分な打撃だった。

「…痛ぅ………な、何すんだよ……」
その場にうずくまったロックは、何とかそれだけの声を絞り出した。
レヴィは無様な相手を見下ろして
「テメエはなぁ、ちったぁロマンスってモンがねぇのかよっ?!」



381 :蒼空の続きぃ?00-3:2008/06/04(水) 23:17:10 ID:jrrvHsgU

???
ロックは鈍い腹痛と予想だにしなかったレヴィの言葉の相乗効果で目を白黒させていた。
何言ってんだ、レヴィは?
このトリガーハッピーな破壊神の口からよりにもよって『ロマンス』だってぇ???

過去に「アタシをそこらの淫売(ビッチ)と一緒にするな」と憤慨されたこともあった。
「……ただの性欲処理の道具だと思ってるのか?」と聞かれた時は即否定した。
しかし、ヤり方についてこれほどの実力行使で拒否食らったのは初めてだ。

「先にシャワー借りるぞ。」
そう言って、無様に悶絶しているロックを放り出したまま、レヴィはバスルームに行ってしまった。

?!!
ここはいつまでもノびている場合ではない。ハダカに触れ……、じゃなくて体を洗って差し上げなければ。
まだ残る腹痛を堪えて、あくまで懲りないロックはバスルームの戸口に向かった。
ところがどっこい、これも過去に例が無いことに、しっかり中から錠がされていて中への侵入は不可能だった。

シャワーへ行ったということは、プレイのお相手はして頂けるのだろう。
こうなれば諦めて大人しく待つしかない。

数分後、出てきたレヴィの格好にロックは再度唖然として目を白黒させた。
大き目のバスタオルを体に巻いて肩を露出したスタイル。片手で胸の辺りを押さえている。
プレイ前の女性の格好としては、まあ一つの典型的パターンだろう。
しかし、ここに居るのはロアナプラの二挺拳銃ことレヴィだぞ?
今日はいったい何が起きたんだ? 恐怖の大王でも降ってきたか?

「あ、あのさレヴィ……」
先程までの激情は何処へやら、ロックには事態が飲み込めずにいた。
「何ボサッとしてんだよ、テメエもさっさと体洗ってキレイにして来い。」

これまた予想外の展開だ。
いつもなら酒の勢いでそのままベッドになだれ込むことが多いというのに。
ロックは、今度はお預け喰らって「お手」だのなんだのとやらされるワンコの気持ちが痛いほど理解できた。

とりあえず、まだ鈍痛の残る腹をさすりながらバスルームに向かうロックの背中に、
更にもう一発、困惑の弾丸が撃ち込まれた。
「歯ぁ磨いて来いよ。夕食何食ったか知らねぇけど、酒と混じって息が臭せえぞ。」



382 :蒼空の続きぃ?00-4:2008/06/04(水) 23:18:09 ID:jrrvHsgU
ベッドの縁に並んで座っている二人。
ロックは、とにかく言われた通りに体と口を念入りに磨き上げてきた。
考えてみれば世界で一番大切に思っている相手に直接触れるのだ、当然と言えば当然のこと。
そこには何の異論も無い。
ところがどうもいつもと勝手が違うせいで、この状態からうまく先に進めない。
チラリと横目でレヴィの様子を伺う。
少しうつむいて、口を真一文字に結んでいる。頑として先に声を掛ける気は無いらしい。

『弱ったな……』
とにかく普段と様子が違う。
かと言って、ロック自身の我慢もいつまで持つのやら、我ながら懸念している。
しかも、明日の仕事のこともある。今夜はあまり遅くまで起きていられない。
……とりあえず、ここは丁寧に行こう。

ゆっくりとレヴィを抱き抱えると、そのままベッドに横にする。
彼女も特に抵抗しない。
いきなり圧し掛からず、横から顔を近づけ、頬を撫でながら軽く口付ける。
最初は唇だけで互いについばむように交感し、次いで舌先でそっと彼女の唇をたどる。
『最近はいきなりグチャグチャと舌突っ込んでばっかりだったなぁ…』
ロックはキスに没頭しつつ、頭の中では過去の彼女の言葉を反芻していた

『ファックなんか大嫌いだ。けど、……』
『……あんな穴いらなかった、何でも突っ込まれりゃ悦びやがって…』
『…一人じゃ泣けないんだけどな』

少なくとも、昨日戻ってから今日までの様子を見る限り、何か泣きたいコトがあったワケではないだろう。
と、なると、問題なのはやっぱり“事件”の後遺症か、さもなければ最近の自分の態度だろうか?
確かに身に覚えがある、と言うかあり過ぎだろう。
このところ、すっかりここ(ロアナプラ)の流儀に染まってしまって、世間一般の善悪の区別が利かなくなりつつある。
快感さえ得られれば何も問題無し(ノープロブレム)。だけど………

あれほどセックスに嫌悪感を抱いていたレヴィ。
それなのに最近の自分ときたら……


383 :蒼空の続きぃ?00-5:2008/06/04(水) 23:19:15 ID:jrrvHsgU
互いの舌を絡め終え、ロックはスッと顔を離す。
お互いの口が、銀の糸で繋がっていた。
「…どうかしたのか? 今夜は随分と焦らすじゃねぇか……」

『どうかしたのか聞きたいのはコッチなんだけどな。』
とは言え、心当たりのあるロックはとりあえず沈黙していた。
返事の代わりにもう一度唇を軽く交わすと、胸元を押さえていたレヴィの手を取り、指を絡める。
そして、まるで果実の皮を剥くように、双丘を覆っていたバスタオルを引っ張って取り払おうとした。

ところが引っ張られたバスタオルに合わせてレヴィの身体も半回転して、うつ伏せになってしまった。
そう簡単には果実に触れさせないつもりか。
『焦らしているのはどっちだよ!』
レヴィには焦らすツモリなど毛頭無く、たまたまそうなっただけなのだが。
一方、僅か数秒前まで近来の行いを反省していたはずのロックは、暴走モードにスイッチが入ってしまった。
前がダメなら後ろだっ!
形の良い尻にむしゃぶりつくと、舐めたり噛んだりヤりたい放題し始めた。

レヴィはずっと黙ってヤりたいようにさせていた。
『自分から誘っておいて、どういう態度だよ! 何とか言えよっ!』
自分勝手なもので、彼女の態度が益々ロックの暴走に拍車を掛ける。
舌を強引に尻の谷間に捻じ込み、押し広げる。
そのまま穴へ突入を図ろうとしたが、そこでまた事態が急変した。

ロックはいきなり頬を叩かれた。
手で叩かれたわけではない。
それまで後ろの裂け目に顔を埋めていたのだが、その尻がいきなり力任せに左右へ往復したのだ。
その結果、尻たぶに両頬を引っ叩かされた格好になってしまった。

びっくりして我に返ったロックは、上体を起すと共に冒頭の光景を目にすることになった。
自ら濡らした枕にしがみついている彼女。
「…レヴィ………」



384 :蒼空の続きぃ?00-6:2008/06/04(水) 23:20:20 ID:jrrvHsgU
「…どうしたんだよ…ゥッ……続けろよ……グス………」
ロックに続けられる訳が無い。
「今夜は……もう…止めよう、レヴィ……。」
「……なんでだよ…ゥゥ……」
「………………」
とにかく泣き止んで欲しい。こんなレヴィは見ていられない。ロックはその一心で彼女の髪を優しく撫でた。

「……本当にシねぇツモリかよ……ック…ウッ………」
「………………」
掛ける言葉を見つける事が出来ず、
困惑した、そして許しを請うような、そんな目でロックはただレヴィを見つめていた。

やっと少し落ち着いて来たレヴィは、蚊の鳴くような声で訊いてきた。
「…それじゃあ……アタシが……上じゃイヤか?」
「え……いゃ、そんなことはないけど………」
「そうか……」
レヴィはノロノロと体を起すと、先ずロックのモノを口に咥え込むことから始めた。
「ちょっ! レヴィ、無理してないよね!?」
いきなりだったのと、未だ泣き腫らした目のまま無表情にフェラするレヴィに驚いて、ロックは本気で心配した。
先日の“事件”のこともある。
シてくれるのは嬉しいが、無理矢理は絶対ダメだ。ロックもそんなのはゴメンだった。

親の心子知らず。ロックのそんな気持におかまいなく、彼の愚息はたちまち元気一杯になる。
『昨日からお預け喰っているといってもなぁ……』
我ながら情けない。

起立を確認したレヴィは、まだ啜(すす)り上げながら、ロックに跨りいきなり受け入れた。
「…痛ッェ……っく……」
ほとんど濡れていないうちに自ら受け入れたレヴィは、少し顔をしかめて苦痛を洩らした。
「レヴィっ、そんな無理しちゃダメ……」


385 :蒼空の続きぃ?00-7:2008/06/04(水) 23:22:23 ID:jrrvHsgU
ロックの心配を余所に、レヴィはロックのモノを奥まで迎え入れると、そのまま上体も合わせて来た。
そして困惑気味のロックをギュッと抱き締め、放そうとしない。
最初は狼狽していたロックだったが、必死に抱きついている彼女が愛しくなって来て、両手を背中に回して抱き返した。

暫く繋がったまま抱き合う二人。
お互いに全身で相手の温もりを受け止め、まるで脈拍までが一つに溶け合っているかのような錯覚に陥る。
このまま永遠に時間が止まってくれたら………

ロックの上に乗ったレヴィが、ゆっくりと律動し始めた。
相変わらず、しっかりと抱き締めたまま。
ロックは下半身のみならず、胸元にも心地よい双つの刺激を受け、たちまち登り切ってしまいそうになる。
「レ、レヴィっ、ちょっ、スキンしてない………」
「……何も言うな……ぁ………」
「…あ、………う、うん………」

ロックはあっという間にレヴィの中に吐き出してしまったが、彼女はお構い無しに律動を続ける。
しかも次第に動きが激しくなり、レヴィとロックの分泌物が交じり合いグチャグチャと音を立て、刺激が更に高まる。
おかげでロックのムスコは萎えるヒマもなく、蜜壷の内壁を擦り続ける。

「…あぅ、……グス………ック、……ぁ……」
レヴィはまだ泣いていた。
「……ハァ…ハァ………レ…ヴィ………辛いなら…止めょ…」
「……ぁ、ウルセェ、……だ…黙ってろって……ぁぅ……言ったろ……」
髪を振り乱し、ギュウギュウと痛いほどロックを抱き締める。
「…今…は……オマエだけ……ぁ……感じていたいん……ぅ…だ………あぁぁぁ……」
レヴィの言葉が益々ロックの神経に刺激を与えた。

 ****

「…悪かったな……好き勝手にヤっちまって…………」
間もなくイった二人は、並んで寄り添うように横になっていた。
「俺こそ悪かったよ。ロマンスもへったくれも無く、いきなり無茶しようとして………」
「何言ってヤガル。何時もはあのまんまツっ込んで来るクセしやがって。……ったく。」
「…ゴメン。」

「…………やっぱダメだ………」
「え?」
「中にされるとキッショイ。」
「……だから言ったのに………」
「るっせぇ……」

395 :蒼空の続きぃ?01:2008/06/15(日) 21:00:53 ID:T9XFvYnr

このところ、ロックはひどく悩んでいた。

ラグーン商会の事務所。
ロックはテーブルに紙の伝票を広げてノートパソコンに打ち込む作業をしていた。
そのテーブルを挟んだ向こう側のソファには、
一人の女が寝転んで缶ビール片手に映画雑誌を読み耽(ふけ)っている。
言ってみれば彼女の定位置、珍しくも無い光景。

ビッグボスとマッドエンジニアはドックで船の手入れと機材のメンテに行っているはず。
だからココにはロックと彼女の二人だけ。
ワザと二人きりになるように仕向けられている面が無きにしも非ずだったが。

ロックの悩みの原因は仕事ではない。彼女にあった。
いつもなら二人きりで過ごす時間というのは決して悪いものではない。
別に何をするでも無く、会話を交わすわけでも無く、ただ二人きりで穏やかに時間が過ぎて行く。
それだけでも不思議と幸福感と言うか、満たされたものを感じることが出来た。
だがこの数日は違っていた。何と言うか、ある理由のせいで彼女と居るのが気まずいのだ。

打ち込み作業を終えると、いよいよロックはすることが無くなってしまった。
ノートパソコンを閉じ、紙をファイリングし、片付ける。
ソファに戻ると、机の上にはロックの既に冷めたコーヒーが入ったマグカップ、あとは彼女の缶ビールがあるだけ。
その向こうには寝転んだ彼女と雑誌しか居ない。

『さぁ、どうする。』
ロックは自問自答を繰り返す。
実はどうしても彼女に聞きたい事、聞かなければならない事がある。
二人きりというのは絶好のチャンスだった。
だが喉まで出かかった問いを、どうしても口の先へ吐き出すことが出来ない。
この状態がロックを鬱々とさせていた。

こういう時に限って、どうして顧客から電話の一本も掛かってこないのか。
普段だと、せっかく二人きりの時に電話なんぞ掛かって来るとムカッとくる。
幸福感に水を差され、その憤懣から対応する口調にトゲが出ないよう苦労するところなのだ。
まったく我ながら身勝手なモノである。



396 :蒼空の続きぃ?02:2008/06/15(日) 21:01:52 ID:T9XFvYnr
ロックの苦悩の大元は、このところ街に流れている妙な噂話である。

曰く、ラグーンの二挺拳銃が見かけない男と街中をバイクで爆走して回っていた。
曰く、その男は新手の組織(カルテル)が寄こした斥候で、二挺拳銃はそいつらに雇われたんだ。
曰く、新手の組織は二挺拳銃を案内役に仕立てて既存の組織(モスクワ・トライアド)と対決し、街を戦場にするつもりだ。
曰く、その男と二挺拳銃が組んで、街の若手のガンマンを蜂の巣にした。
曰く、二挺拳銃はぐでんぐでんに酔わされた挙句、その男にどこぞに連れ込まれ、レイプされたらしい。
曰く、いや、むしろ二挺拳銃の方が頼りにならない相棒を見限って新しい相手をナンパしたんだ。
曰く、イエロー・フラッグのカウンターで、その男にストリップを見せたそうだ。
曰く、いやいやそうではなく、昔とった杵柄(きねづか)でSMショーをやって見せたに違いない。

ロックにしてみたら、まったく何が本当で何がデタラメなのか、まったく眩暈がする思いだ。
いっそ、全て根も葉もない妄言ということにでもして欲しい。
こう言っては何だが、この街(ロアナプラ)が戦場になろうがどうなろうが、この際知ったこっちゃない。
問題なのは、男がらみという点。
そこが一番気になる。

嫉妬、は勿論ある。
自分が居るのに、という思いはある。
勝手な独占欲とは思うが、やはり自分は彼女にとって少しは特別な存在じゃなかったのか?

ただ、あの“事件”のことが気になっているのも確かだ。
先日、一人で街に残された彼女がまた情緒不安定になり、何か仕出かしてしまった可能性はある。
だとしたら自分に出来ることなら何でもしてやりたいし、何でもする覚悟はあるつもりだ。
ところが当の御本人は、あの日以来えらくご機嫌麗しく、心身ともに絶好調らしい。
普段の生活に限れば、あの“事件”の後遺症をすっかり払拭してしまった感さえある。

特にここに戻った、あの日の昼のサービス振りは何だ?
昼食は用意してあるは、自らコーヒー淹れるは、片付けまでやってのけた。
ベニーは気味悪がってあんまり食事に手を出せず青い顔していたし、ダッチはマジで妙なクスリか病気の心配をした。
あの後、ダッチの奢りでイエロー・フラッグに繰り出したのも、慰労以外に探りを入れる意味もあった。
結果は空振り。
彼女はいつもと変わった様子も見せず、愉快そうに喋りながら杯を重ねていた。
まぁ、強いて妙とも言えるのは、珍しくロックとの二次会を断ってさっさと自分のアパートへ帰ったことくらいだ。
彼女にはナイショにしているが、実は本当にアパートへ帰ったのか、後を付けて確認までした。
男の噂を耳にしたのはその数日後のことではあったが、勿論あの晩に後を付けた時も男の影は一切無かった。



397 :蒼空の続きぃ?03:2008/06/15(日) 21:02:45 ID:T9XFvYnr
男の噂にしても、実際のトコロ確証が全くと言っていいほど無い。

少なくとも逢引なんて不可能な筈だ。
普段は仕事でほとんど誰かしらメンバーと顔を会わせているし、ナイショ電話している気配すら無い。
彼女のことだ、メールなんぞ使っているとも思えない。
彼女が一人で買出し等に出た時に、もっともらしい理由をつけて事務所を抜け出し、後を付けてみたことも数度に及んだ。
ロックの尾行が下手と言われればそれまでだが、何回かは付けているのが彼女にバレた。
もっとも、それに気付いた彼女から文句が出たり不機嫌になったりすることも無かった。
逆に好都合とばかりに荷運び役を仰せつかるハメになった。

夜は夜で別段変わった様子も無いし、どこかへ行方不明になることもない。
彼女の方からロックのモーテルに転がりこんでも来たし、
ロックが不意に彼女のアパートへ押しかけても、別に拒否はされたり迷惑な顔されたりするわけではない。
さすがに仕事で疲れているとプレイ拒否のこともあるが、それはお互い様だ。
今のところ、いつだったかロックが見られてしまったような、
他の誰かさんとの真っ最中に遭遇なんて最悪な事態には出くわしていない。

あえて気になることを挙げるのならば、先日の如くアブノーマルなプレイをひどく嫌がるようになった。
口にこそ出さないものの、とにかく優しくして欲しいとせがむ。
まあ、これにしたって、あの“事件”のこともあるので、特段不思議とも思えない。
ロックが独占欲から暴走カマして無茶苦茶な嗜虐癖さえ出さなければOKだ。
彼の側に多少欲求不満が無いワケではないが、こんなことは彼女に辛い思いをさせるくらいなら屁でもない。

といった具合で、別段仕事に支障が出ている訳でもないし、
問題無い(ノープロブレム)と言ってしまえばそれまでだか、どうにも居心地が悪い。

この際、最悪のケースを考えてみる。
もしも本当に誰かに誑かされていて、街を転覆させる陰謀に知らず加担したとしたら、
早く手を打っておかないと自分達全員が街中を敵に回すことになる。
ダッチやベニーも同じことが気になるらしい。
「アイツのメンタルヘルスは、ロック、お前の担当だな。」
「まぁ、とにかく事情だけでも探ってよ。ざっくばらんにプライベートな話が出来るのは君だけなんだからさ。」
こう仲間から言われ、一応の配慮として二人だけの時間を多めに取れるようにされたものの、
正直なところ、ロックはどうすることもできずに途方に暮れていた。

問い質(ただ)すったって、何て尋ねりゃいいんだよ。
タダでさえ詮索屋は嫌われるってのに、他にオトコでも出来たか? って?
だいたい最近も "Make Love" している相手に面と向かって聞けることじゃないよな……



398 :蒼空の続きぃ?04:2008/06/15(日) 21:03:32 ID:T9XFvYnr
ロックが事務所で孤独に煩悶を繰り返していた頃、イエロー・フラッグに二人の男が訪れた。
ドックへ行ったことになっているダッチとベニー。

とにかく、今回の噂話にこの酒場が絡んでいるのは間違いなさそうだ。
ところが、現場を直接見ている客が今のところ一人も居ないという摩訶不思議なことになっている。
ならば店主のバオが何か知っているはずだ。
そう踏んだ二人は直接確かめるべく、昼間の客の少ない時間を選んで乗り込んで来たのだ。

「よぉ、お二人さん、珍しい顔触れだな。『Face man』と『Howlin' mad』はどうしたい?」
「おぃおぃ、その『チーム』に例えるってのは無いぜ、バオ。
 『色男』の方はともかく『マードック』が聞いたら店の全壊記録を更新しに来かねないぜ。」
「メカ担当の僕が『コング』かい? 僕はあんなに体格良くないよ。」
「ま、いいさ。ところで何の用だ? まさか女中(メイド)の募集に来たわけじゃあんめェな。」
「冗談キツイな。そんなに女中分隊(キリングマシーン・プラトゥーン)大歓迎か? ここは?」

軽く一杯引っ掛けると、二人は本題について尋ねた。
近頃街で評判になってる噂の真偽を。
「それだったら『Howlin' mad』に直接聞いたらイイだろ。何しろご本人だろうが。」
「それが出来てりゃ、ココには来てねぇよ。」
「正直言って、ウルトラ短気が落ち着いているのでありがたいんだけどね、返ってそれが不気味でさぁ…」
「しっかしなぁ、はっきり言って、特別たいした事は何も無かったんだがなァ。」
「とにかく、何でもいい。あった事を正確に話してくれ。」
「いくらヒマな時間帯つっても、面白くもねェコト話す身にもなってくれ……。」

ダッチは黙って煙草の包をバオに手渡す。中に100ドル紙幣が入った特製煙草だ。
バオは包を受け取ると、記憶を手繰る様にして話し始めた。
「えーと、あの日は確か昼間に一騒ぎあってな、午後は片付けで臨時休業にしていたなぁ。
 1630頃だったかなぁ、お宅の『Howlin' mad』が来たのは。」
「一人で?」
「いんにゃ、男連れだった。」
「「男連れ……」」
顔を見合わせるダッチとベニー。



399 :蒼空の続きぃ?05:2008/06/15(日) 21:04:18 ID:T9XFvYnr

「……それで、その『男』の背後関係は何も無いんだな、同志軍曹。」
「はい、『男』と繋がりのある者はおりません。強いて言えば街中で同行していた『彼女』だけでしょう。」
「情報の信用性は?」
「『男』の身元を洗いました。出身は日本で、これは在日大使館筋より確認の連絡を受けています。
 ビジネスの赴任先で配偶者を殺害され、その後、現地の運び屋に加わっております。
 配偶者の死亡に関する現地警察の記録は当地の署長(ワトサップ)経由で、
 戸籍の死亡手続きについてはやはり在日情報により確認されており、
 こちらも偽装を疑う余地はありません。
 私見になりますが、何等かの国家・組織の関係者を疑うには、
 経歴の偽装が凝り過ぎているものと考えます。」
「ふむ……で、『転職』後も特に目立った動きは無いのだな?」
「今のところ『特別な』場所乃至人物への接触は一切確認されていません。」
「となると、さしずめロックの先輩といったところか。もっとも小物のようだが。」
「ただ……」
「ただ?、ただ、何だ同志軍曹。」
「現地警察の網の目を潜り抜けた点は、無視して良い能力を超えているとも考えられます。」
「…ふふん、成る程な………少々お手並みを拝見してみるのも一興か……。」
「はっ、直ちに仕込みを手配いたします、大尉殿。」
「ただの野良犬か、飢えた一匹狼か、これは見ものだな。同志軍曹。」

ほんの数日前、"BOUGAINVILLEA TRADE co. ltd." と看板を掲げたオフィスでの遣り取り。
噂はこの街でも、ある意味でトップクラスのオフィスさえ動かしたようである。
結果、その『男』は少々面倒な仕事で忙しくなったのだが、それはまた別の話。

※作者能書き
 能書きとゆーか、疑問。
 コミック7巻のP.118なんすが、バラ姐のトコの看板がありますよねぇ。
 ロシア語(キリル文字)はサッパリなんすが、下段のアルファベットが
 "BUGAINVILLEA" になっていて、花のブーゲンビリアの英語綴りとちゃうのですが、
 (2文字目の“O(オー)”が無い)あれ、ワザとなんでせうか?
 つーか、英語じゃないのかな?



400 :蒼空の続きぃ?06:2008/06/15(日) 21:05:02 ID:T9XFvYnr
再び数日後のイエロー・フラッグ。

「バオ、その男どんな野郎だった?」
「どんな、って言われてもなぁ……眼鏡掛けた風采の上がらない典型的東洋人ってくらいで、
 そこら辺にゴロゴロ居そうな奴だったとしか言いようがねェよ。
 このクソ暑い中グレーのスーツの上下着込んで、地味なネクタイしたドブネズミスタイルだったな。」

やれやれ、これじゃあ特売品のワゴンセールで無造作に並んでる代物みたいな野郎だな。
探そうにも当たりを引くまでに一苦労ってパターンだ。
ダッチはウィスキーのグラスを指で突付きながらハラの中で舌打していた。
「名前は?」
「えーと、なんつったかなァ……確かラスト・ネームがお宅の『Face man』と同じだったぜ」
「ベニー、ロックのラスト・ネームなんだった?」
「えーと、ちょっと待ってくれよ、……確か『オカ…』なんとか……」
「ああそれだ、思い出したぜ、『オカジマ』、『イクヤ・オカジマ』っつった。」

『ロックと同姓ね…………。』
二人は、それぞれ腹に一物感じていた。

「二人で飲んでたのか。」
「まぁ、あの野郎の方はあんまり飲んでなかったけどな。」
「酔う訳にはいかねぇ理由でもありそうだったか?」
「いやぁ、俺の見たところ単純に酒があんまり強くないだけだな、ありゃあ。」
この商売の長いバオの観察だ、まずそう考えて良いだろう。

「ただ飲んでただけか? 他に何かあったんだろう?」
「ああ、昼に続いてまた一騒動になっちまって、えらい迷惑だったぜ。…………」
バオは無鉄砲な若者の件を手短に話した。

「横っ飛びで撃って正確に腕を狙ったとしたら、たいした手練だな。」
「腕に当たったのは、まぐれって気もするがなァ。」



401 :蒼空の続きぃ?07:2008/06/15(日) 21:05:56 ID:T9XFvYnr
「そう言やぁ、アイツちょいちょいココに顔出すぜ。」
「レヴィと、か?」
「いやァ、お宅の『Howlin' mad』と来たのは最初の時だけだな。」
「いい加減さぁ、その呼び方止めない?」
「まあイイさベニー。
 で、何しにココへ来るんだ? 酒好きでも無い野郎が、まさか『射的』に来てるワケじゃなかろう。」
「ンな事しに来やがったら、とっくに出入り禁止にしてヤらァ。
 大人しいもんだぜ、ビール一杯と軽食とって、情報漁りに来るだけだ。」
「情報?」
「何処ソコの店は『モスクワ』の系列なのか、とか、誰ソレは何者か、とか、
 ま、新参者らしく何てことのない街中のハナシさ。」
「ビール代が高そうだな。」
「俺の方からタカっちゃいねぇよ。確かに金放れのイイ野郎なんで、ちょっとしたお得意様だがな。」
バオはさっきダッチから受け取ったスペシャルな煙草をかざして、
『アイツ』が情報料も支払ってくれていることを暗示していた。

 ****

「さて、どう見たベニーボーイ。」
事務所へ戻る車中、ダッチからベニーに話しかけた。
「さぁて、何とも……と言うのが本音だけどね。
 街の仕組みを探っているとしたら、ちょっと怪しいと言えるけど。」
「本気で探りなんて入れていたら、今頃は港の桟橋あたりに浮いている頃合かもしれねぇ。」
「確かに、探られる側がロシア人や三合会となるとね。」
「コソコソ探られて気づかないほど間抜けじゃあない。バラライカにしろ、張にしろ、な。
 だいたいバオは本職の情報屋じゃあない。
 アイツから聞ける程度の話じゃあ、街の既得権益組に特に害は無いだろう。」
「となると、いよいよ分からない。いったい何者だろう?」
「ロックと同姓ってのが、ちょいと引っかかる。」
「家族か親戚が探しに来た?」
「その可能性も否定はできんが、
 だとしたらサツにも行かず無関係な街の情報を漁っている、その辺りの理由が分からねェ。
 ま、これはロック本人に訊けば自ずとハッキリするからイイだろう。」
「あとはレヴィとの関係だね。」
「それはロックのカウンセリング次第なんだが、コッチの方はあまりアテにできんだろうな。」
「ロックは何も聞き出せない、に10ドルでどう。」
「賭けにならねぇよ、ベニー。何か聞き出すどころか、何も話せないに30だ。」
「あはは、そりゃ違いない。」



402 :蒼空の続きぃ?08:2008/06/15(日) 21:09:15 ID:T9XFvYnr
「お帰りぃ…」
「……お疲れさま、…あー、…コーヒー淹れるよ……。」

二人が事務所に戻ると、残しておいた二人からそれぞれ反応が返ってきた。
片方はいつも通り、寝転んだまま気だるい声。
もう片方は、ホッとしたような、戻った二人から逃げるような、何とも複雑な表情と声。
あまりにも予想通りの反応に顔を見合わせて苦笑するダッチとベニー。

さて、ロックがコーヒーを入れたマグカップを配り終えると、それを啜りながらダッチは本題に入る。
「ロック、お前の親戚に『イクヤ』って野郎はいるか?」
いきなりの問いに、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔のロックだったが、
「いや、心当りはないけど、何で???」

「ダッチ、そりゃぁ『イクヤ・オカジマ』の野郎のことかぁ?」
訊かれもしないうちにレヴィから反応が返って来たのは、ダッチもベニーも予想外だった。
いや、二人にとっては予想外で済んだが、一人取り残された格好のロック。

「レヴィ、奴を知ってるのか?」
「元シー・ホースんトコの事務屋だよ。『オカジマ』ってェ一族はソッチの才に恵まれてンのかね?」
ケタケタと笑うレヴィ。
自分にも関係ありそうな話題になっているにもかかわらず、相変わらず一人だけ蚊帳の外のロック。

「あそこの連中は海上警察にヤられたんだよね? それが何でこの街に?」
今度はベニーが問う。誰もロックに状況を説明してくれない。

「事務屋なんで陸(おか)に居たんだとさ。
 船ごと仲間を一網打尽にヤられたんで、一人でココ(ロアナプラ)まで逃げて来たらしい。
 バイクに乗ってやがるんだが、マックイーンよりは手際が良かったんだろうな、
 鉄条網に引っかからずに済んだらしいぜ。」
「ずいぶん事情に詳しいじゃねぇか、レヴィ。奴と何かあったのか?」
「別にぃ。あの野郎から声かけて来やがったんで、街を案内がてら聞いた話さ。
 それより、アイツがどうかしたのか?
 どっかの組織(カルテル)と揉め事(トラブル)でも起して、とうとう死体にされちまったか?」
「いや、帰りがけにたまたまバオと会って聞いただけだよ。」
ベニーも結構調子がいい。
「なんでぇ、つまんねぇの………」
レヴィはこれで話題終了モード。

相変わらず孤立した人、若干一名。



403 :蒼空の続きぃ?09:2008/06/15(日) 21:10:10 ID:T9XFvYnr
「ああ、そうだ。
 ロック、クルマに積んだ荷物の片付けを手伝ってくれないか?」
ベニーがダッチにそれとなく目配せしながら言った。
察したダッチは黙って頷く。
話題から仲間外れのままのロックは、こうして釈然としないまま外に連れ出された。

 ****

「……………、
 という具合で、どうやら深刻な事態にはなって無い様だよ。」
停車したままの車の中。
それぞれシートに座り、ベニーがロックにバオから仕入れた情報を説明した。
「……ぅん…。」
とりあえず、先程のレヴィの話と合わせて考えてみれば、
ベニーの言うようにラグーン商会としては気にするような問題は無さそうだ。

しかし、ロックにとって一番の問題がまだはっきりしていない。
「……それで、………イエロー・フラッグを出てから……どうしたんだろう………」
「んん〜まぁ、そこんところはだね、ロック、君が自分で訊くしかないだろうね。
 何しろ当事者以外は知りようが無い。」
「……そう……なんだ……よね………」
それが出来てりゃこんなに深刻にはならずに済んでいる。
だからと言って、ダッチやベニーに愚痴る問題でもない。
結局、ロックの苦悩のタネはせいぜい数パーセントほど軽減されたに過ぎない。
ダッチもベニーもこれ以上はこの件にかかわる理由は無い。
無いと思われた。
ましてベニーは、自分がもう一人のオカジマと直接差し向かいで話をすることになろうとは、
予想だにしていなかった。

47 :蒼空の続きぃ?10:2008/07/06(日) 10:22:28 ID:JGryl0RG

ロックとベニーが“荷物の片付け”から戻ると、ちょうどダッチが電話の受話器を置いたところだった。
ダッチには珍しく、やや困惑した様子のまま突っ立っている。
「「?」」
戻った二人は容易ならざる雰囲気に気圧され、これまた互いに困惑した表情で固まる。
例外は相変わらず寝そべって組んだ脚をブラブラさせているレヴィ一人。

ダッチは頭を掻きながらソファーに戻り、一服つけると
「ベニー、お前に仕事(アルバイト)の依頼だ。」
「へぇ、誰から?」
「依頼を寄越したのはロボスの野郎なんだが、………」
どうも煮え切らない返事。やはり普段のダッチとはちょっと様子が違う。

「ひょっとして例の偽札の件かな?」
ベニーが心当たりを口にした。
「らしいんだが、……仕事の内容については、明日直接会って話したいそうだ。
 ただ……、会うのはロボスの野郎じゃねぇ。……」
「…………」
ベニーは黙って聞いている。今はダッチの続きを待つしかない。
「……相手は噂のMr.オカジマだとよ。」
「「ええぇぇっ!」」
二人が驚いた反応を返し、もう一人は眺めていた雑誌をどけて、チラと関心を示した。

「詳しい内容は奴から聞いてくれとさ。」
「だ、だけど、そこに何故…」
ロックが疑問を差し挟む。
「新参者なんかが首を突っ込んで来てやがるんだ? なんか面白そうじゃねぇかよ。」
レヴィは一人ニヤニヤしながら言う。
それを見て複雑な気分になるロック。

「会見場所は向こうが指定してきた。」
ダッチはメモをベニーに手渡した。倉庫街のとある場所。
「車で来てくれとさ。車中で話すそうだ。」
「僕一人でかい?」
「向こうはそれがご希望らしいが、不安なら護衛一人くらいはかまわんとさ。
 ちなみに向こうは一人で来ると約束した。信用できるかどうかはわからんがな。」
「アタシの見た範囲じゃ、アイツはそれなりに信用出来そうな奴だけどな。」
レヴィの口から見知らぬ同胞の話題が出る度、自覚できない嫉妬と不安と焦燥がロックを苛んだ。


48 :蒼空の続きぃ?11:2008/07/06(日) 10:23:15 ID:JGryl0RG
翌日の午後。

事務所でダッチは例によってマグのコーヒーとアメリカンスピリットをやっていた。
しかし、どうもノンビリ気分になれない。
何しろ、さっきから部屋の中に鬱陶しいことこの上ないヤツが居るのだ。
落ち着かずにアチコチをセカセカ歩き回ったり、
ソファにドカッと乱暴に座ってイライラと指でテーブルを突付いたりしてみたり、
頭を掻きむしって意味不明な唸り声を上げたり、
本来やるべきデスクワークに全く手が付かない使用人。
やれやれ、レヴィも相当だと思っていたが、コッチの方も予想していた以上に重症だな。
どいつもこいつもまったく世話の焼ける連中だ。
ダッチは苦笑を禁じえなかった。

ベニーは昨日依頼のあったアルバイトの件で話を聞きに行っている。
レヴィは護衛役を買って出て、一緒に出掛けた。
「アイツは一応武装してやがるし、用心に越したコトはねぇだろう。
 それに奴のツラなら知ってるしな。」
一瞬『俺も』と口から出かかったロックだったが、寸でのところで声を引っ込めた。
考えてみたら自分が同行する理由が無い。
相手は日本人らしいが通訳が要る訳では無いし、依頼された仕事とも自分は関係して無い。
勿論、護衛役なんてするよりされる側だから問題にならない。

ロックの焦燥感は、果たしてレヴィがスンナリ帰って来るか、その一点に集約される。
もし、今回の話がうまくいかずに決裂(トラブル)という事態になったら?
なら簡単だ。ほぼ間違いなくレヴィが自らの手で片付けてくれる。
気がかりなのは、話がまとまった後でベニーが一人で帰って来たら?
レヴィが護衛役を買って出たのは、奴と会いたいからじゃないのか?
会って、用件を済ませて、その後で、何をする?
くだらないと自覚はしているが、そのくだらない妄想がどんどんロックの中で膨らんでいた。

「どうだ、ちょっとはレヴィの気持ちが分かったか?」
「え?!」
心ココに在らずだったロックに、唐突にダッチの声が割り込んだ。
それにしてもダッチは何を言いたいのか。
レヴィの気持ちなんて皆目分からない。分かるわけも無い。分かるならこんなにイライラと悩んだりしない。
「…………」
「ふふん、勘違いするなよ、ロック。
 今のお前に拳銃でも持たせたら、部屋の壁を穴だらけにしそうに見えたんでな。」
??!!
何のことはない、レヴィの気持ちというのは、度々暴発する乱射タイムの時のことを言っているのだ。
例によってダッチの話術にまんまとハメられたロックは、照れて顔を真っ赤にしていた。
おかげで、ロックのイライラが一時棚上げに出来たのは、双方にとって益のあることだった。


49 :蒼空の続きぃ?12:2008/07/06(日) 10:24:03 ID:JGryl0RG
「まったく妙な依頼だったよ。」
戻ってきたベニーは開口一番、ヘンテコなアルバイトの件を話した。
ちなみにレヴィはケロッとした顔で一緒に戻り、ロックを安堵させていた。

「偽ドル原版作成の依頼じゃねぇのか?」
「いや、原版を作るんだけど、ヘンな内容でね。
 一見デキの良い原版に見えて、
 実際に刷ると素人でも一目で偽物とわかるようなものを吐き出すのが欲しいんだってさ。」
「何だそりゃ?!」
「まったく、コッチも誰かに聞きたい気分だよ。」
「ロボスの野郎の依頼か?」
「そこのところがハッキリしないんだよ。
 どうも原版が欲しいのはロボスで、Mr.オカジマはロボスを嵌める気じゃないのかな?」
「直接ロボスがコッチに依頼して来ねぇってのがわからねぇな。」
「金策じゃないかな。
 ロボスがMr.オカジマと何等かの取引をして、何かと引き換えに原版を得る。」
「なるほど。ロボスの奴、この間の件で国元筋に顔向けできなくなってる。
 何でもいいから原版が欲しいが元手が無い。
 で、噂のMr.が欲しがる物を提示して、ウチを紹介して原版を作らせる、と。」
「そんなとこかな。」
「もう一つ気になるのは、そのMr.、金持ってるのか?」
「それについては、信用出来ないなら仕方ないから断ってくれてイイってさ。
 別口の原版のアテがあるのかどうか知らないけどね。
 で、どうするダッチ? この仕事請けるかい?」
「どうせ実作業は“彼女”まかせだろ、ベニーボーイ。
 “彼女”の説得はまかせる。」
「了ぉー解。」
堂々と“彼女”と会って話せることになったベニーはご機嫌である。
レヴィは相変わらずゴロ寝モードに突入していて、ベニーの話には全く無関心。
また、焦燥感に苛まれ始めた人が一名。

「それにしても、素人にもバレるような玩具の札を刷るんだろ。
 刷り見本はどうするつもりだ?」
「それはMr.が既に準備していたよ。見せてくれたけど良く出来ていたね、アレは。
 ジェーンに見せたら卒倒するかもね。」
「アタシにもまるで本物と見分けがつかなかった。」
レヴィが横から口を挟んだ。
「ほう、じゃ何故その見本が贋札と分かる?」
「表と裏で逆さに印刷されてた。失敗見本だってさ。」
「なるほど。
 しかし自分でそんなの作れるヤツが何で他所に依頼するんだ?」
「さぁてねぇ……」


50 :蒼空の続きぃ?13:2008/07/06(日) 10:24:55 ID:JGryl0RG
「一見すると完璧に見えて、実は不出来なものを作り出すってのも技術的には面白いチャレンジでね…」

その日の晩のイエロー・フラッグ。
カウンター席にロックとベニーが並んで収まっていた。
ダッチとレヴィは少々物騒な件で出掛けたため、珍しくこの二人の組み合わせとなったのだ。
ロックはとっとと帰って一人になりたい気分だったのだが、
ベニーが話があると誘ったのでこの状態になっている。

ベニーはご機嫌で一人喋り続けている。
「1996年に合衆国は100ドル札を改刷したんだけど、この時に初めて米ドル札にスカシが導入されて…」
「なぁベニー、あんたの話したいことってアルバイトの件かい?」
半ばイヤイヤ付き合わされた格好のロックは、不機嫌な口調を隠しもせずにベニーの話の腰を折った。
ロックのボヤきに、ベニーは思わず吹き出してしまった。
「いやいや、悪かったロック。本題の前のIntroductionだよ。」
クスクス笑いながら謝罪されても説得力ゼロである。
ロックは相変わらずムスっとしたままラムを舐めている。

「とりあえず向こうの依頼を全部聞いて、持ち帰って検討すると約束したんだけどね、
 その後があったんだ。」
「………」
「レヴィの件でね……」
彼女の名前が出た途端、それまで呆けたような顔をしていたロックの顔色が変わった。
「な、何があったの!?」
「そう慌てない。順番に話すよ。」
ベニーはクスクス笑いが止まらない。一方ロックは急に焦れったくなって話を急かす。

「それで!?」
「僕とMr.は運転席と助手席に座っていたんだ。レヴィは後部座席ね。
 あのMr.はいい度胸してるよ。銃を抱えたレヴィにずっと背中向けて平気でいたんだから。」
「レヴィの件ってのは!?」
「話が終わった後で僕とMr.だけ、いったん車を降りたんだ。まあ、別れの挨拶だね。
 握手したらいきなり引っ張られてね、レヴィに聞こえないようにして小声で聞かれた。」
「何て!?」
「あのMr.、僕の耳元で『君が彼女(レヴィ)の思い人か?』って聞いてきたんだよ。
 よりにもよってこの僕にだよ。もうちょっとで大笑いするところだった。」
ベニーの笑い声のボリュームがちょっと上がった。
ロックの心拍数も一緒に上がった。


51 :蒼空の続きぃ?14:2008/07/06(日) 10:25:42 ID:JGryl0RG
「これはひょっとするとロックが興味を持つ話が聞けるかと思ってね、曖昧に返事したんだ。
 『だったら?』って。」
「うん、で?」
ついさっきまでの不機嫌さは何処へやら、ロックはベニーの話を一語一句聞き逃すまいと全神経を集中している。

「あのMr.も結構タヌキだね。コッチが曖昧な返事したんで、曖昧な謎掛けをしてきたよ。
 『そうだったら、…彼女を大切にな。
  “ハート”が砕ける寸前の繊細なガラス細工になってたよ。
  で、そうでないなら…そうだなぁ、あれでタバコ臭くなきゃ言うこと無いんだがねぇ。』
 これ、どういう意味だと思う?」

なんとなく見当は付く。というか、そのままだろう。
ヤったか、ヤってないかで言えば、たぶんヤったんだろう。
やっぱりか。
なんとなくロックは力が抜けてしまって、思わず溜息が出た。

「なぁベニー、その……そいつってどんな奴だった?」
「見かけの話かい?」
「うん…」
「なんて言うかなぁ、ただの貧相なオジサンだったよ。
 少なくともレヴィがああいうのがタイプとは思えないねぇ。」
そんなのと、何故……
ロックは急にアルコールが回ったような目まいに襲われた。

「笑ってるかと思えば、深刻な顔したり忙しいな、何の話だい。」
珍しいことに、バオが接客の合間に首を突っ込んできた。
普段のバオはめったに自分から客の話には加わらない。
別に無愛想なわけではない。この店の客の話題など、関わらない方が身のためなのだ。
ただ、この二人の話題なら心配ないだろうという、彼なりの判断である。


52 :蒼空の続きぃ?15:2008/07/06(日) 10:26:22 ID:JGryl0RG
「ちょうどいいや。ココは人生の先輩に助言を仰ごうよ、ロック」
「えっ? あ! いや、バオ、何でも無いよ。」
「連れねェな、俺だってテメエ等よりはちったぁ人生経験は積んでるつもりだぜ。」
「何でもないってば。」
「ははーん、オンナがらみか? どーだい図星だろ?」
ロックは必死になって否定したが、真っ赤な顔にはでっかく『その通りです』と書かれている。
ベニーはグラスを揺らしながらニヤニヤとそれを眺めていた。

「アレか? レヴィが例の旦那とヤらかした件か?」
もうロックはそっぽを向いて無視を決め込んだ。
「そうそう、それで焼きもち焼いてるワケだよ。」
ベニーが余計な事を言う。
「なっ! そんなんじゃ…」
慌てて否定するロック。

「なるほどなァ。
 けどな、大概のオンナなんてぇのはそんなモンだぜ。」
レヴィはそんな女じゃない。それは誰よりも自分が良く知っている。
ムスっとしたまま、ロックは黙ってやり過ごそうとした。
そんなロックを見透かしたように、バオが更に火に油を注ぐような事を言う。

「マァ、あれだ、野郎ってのは自分のオンナだけはそんなこはしねェと思いがちなんだが、
 これが大間違いってヤツなんだな。
 野郎が知らねぇトコロでとんでもない本性を見せたりすっからなァ。
 だからよ、あんまり深刻になることァねえぜ。」
ロックは初めてバオに殺意を抱いた。
いつもは店を破壊される度にバオのことを気の毒に思っていた。
だけど今は違う。
ダッチの言葉『今のお前に拳銃でも持たせたら…』
ああ、間違いなく店内で乱射してやる。
いや、そんなもんでは気が済まない。
いっそのことラブレス家から使用人の一個大隊くらい派遣してもらえないだろうか。
さぞ痛快なことになるだろうに。
ド派手なドンパチを脳内展開して憂さ晴らしするロックだった。


53 :蒼空の続きぃ?16:2008/07/06(日) 10:27:18 ID:JGryl0RG
「久しっぶりでド派手なドンパチをできると期待してたのによぉ、
 スンナリ話をまとめやがって、あのクソダッチ。」
穏やかでないことを、ケロっとした顔で話すレヴィ。

ベニーとバオに散々からかわれたロックは、早々にイエロー・フラッグから退散して自分のヤサに戻った。
一切払わずに出て来たが、今日はベニーの奢りだ。ロックは勝手にそう決めていた。
話を聞かせてくれたことには感謝している。
だけど、バオと一緒になって酒のサカナにしてくれたんだ。
それぐらい払ってくれたってバチは当たらないだろう?

色々とモヤモヤを抱えたロックはとっとと不貞寝を決め込むツモリだったが、そうはいかなかった。
ヤサに戻っていくらも経たないうちに、物騒な取引から戻ったレヴィが押しかけて来たのだ。
よりにもよって、あのレヴィが。
どこかのオッサンとヤらかしてくれたレヴィが。
まったく、今日はバイオリズムが最低最悪なのか、それともシスター・エダが黒魔術でも使ったのか。
バオのところに一個大隊どころの騒ぎではない、自分のところが一個師団に攻撃された気分だ。

無遠慮に上がり込んだレヴィは、勝手知ったる他人の家とばかりに、
戸棚からロックの酒瓶を取り出して飲り始める。
そんな彼女をぼんやりと眺めているロック。

「どうした。シケた顔してねぇで、オメエも飲め。」
誰が買った酒だよ。
何でそんなふうに好き勝手できるんだよ。
俺はお前にとってはタダの酒蔵で、やっぱり単なる性欲処理の道具なのかよ。
ロックはどんどん黒い思考に汚染されて行く。

ヤバイ、これは絶対にヤバイ。
このままでは自分は間違いなく大暴走をカマす。
そうしたら、彼女との関係ももう終わりだ。
The END
ならいっそのこと、彼女が本気で身の危険を感じて自分を始末してくれたら…
血風呂(ブラッド・バス)が出来なくて欲求不満なんだろ。
なら俺が襲ってやるよ。
俺の身体をカトラスの生贄に奉げてやるよ。


54 :蒼空の続きぃ?17:2008/07/06(日) 10:28:08 ID:JGryl0RG
「なぁ、どうかしたか。」
一杯目を干すと、一服点けたレヴィが何とは無しに訊いて来た。
そんな無警戒な彼女の態度が、一っカケラだけ残っていたロックの理性を揺り動かした。

『“ハート”が砕ける寸前の繊細なガラス細工になってた』

あれはどういう意味だ?
自分は今の今まで、ヤったかヤってないかの行為だけに焦点を当てていた。
レヴィは何故そんな行為に及んだのか。その“何故”を無視していた。

例の“事件”。
あの時はよりにもよってどこぞのヤク中に身体を売るところまで彼女の“ハート”はズタズタになっていた。
最近調子が良さそうに見えたので、すっかり気にせずにいた。
ひょっとして今回も何かあって、苦悩の末の行為だとしたら?

戻った翌日の晩の情事。
普段とは違ったあの態度。およそ彼女には不似合いな“ロマンス”という言葉。
あれは彼女なりの何かのサインではなかったのか。
自分はそれに応えられただろうか?

考えてみたら、今夜だってそうだ。
撃ち合いにはならなかったらしいが、緊張で胃がキリキリする思いだったろうに。
そんな現場から無事に帰って、ホッとするひと時。
何でそんな彼女を労わってやれないんだ。
一気に黒い霧が晴れたロックは、とりあえずレヴィと差し向かいで飲ることにした。

疲れが出たのか、レヴィは酒瓶が一本空いたところで早くもテーブルに突っ伏し、
お休みモードに突入してしまった。
「レヴィ、こんなところで寝たら風邪引くよ。」
肩を揺すってみても、
「……るっせぇなぁ、わぁってるよぉ……」
全然わかって無い。
タオルケットを掛けてやっても、すぐ身体をモゾモゾ揺らして床に落としてしまう。
処置無し。
「しょうがないなぁ…」
ロックはレヴィが椅子から落ちないように支えながら羽交い絞めにすると、
ベッドまでズルズル引き摺っていった。
どうにかしてベッドに上に横にし、彼女愛用のコンバットブーツを脱がし、
これまた愛用品で肩から提げっ放しのホルスターを外してやる。
こんな重いもの四六時中提げてて、よく肩が凝らないよな、と思いながら。
ついでで両手に張り付いたようなグローブも何とか引っ剥がす。
やれやれ、ロックは床に落とされたままのタオルケットを拾いに行こうとした。
その途端、背後から引っ張り戻されてベッドに尻餅をついた。
レヴィが腰に抱きついて来たのだ。


55 :蒼空の続きぃ?18:2008/07/06(日) 10:28:50 ID:JGryl0RG
『まったくよぉ……、
 目の前でオンナが無抵抗に寝ちまってるんだぜ。
 襲うだろ、フツー。
 ましてアタシとオマエの仲じゃねぇか。普段から散々ヤってるじゃん?
 だいたいナンだよ、ベッドにお連れするなら抱っこするのが礼儀ってモンだろうに。
 それを引き摺ったりしやがって、貧相なヤツめ。』

頭の中でブツブツ文句を並べながら、レヴィはついに実力行使に及んだ。
ロックの腰に両手を絡めて離そうとしない。
何とか手をどけようとしたロックだったが、何度か抱き着き直されてタオルケットは諦めた。
仕方が無い、ベッドの縁に座ると彼女の頭や頬を優しく撫でてやる。
レヴィは猫ならゴロゴロ喉を鳴らしそうな蕩けた表情になる。
そうやって手から力が抜けてきたところで再度立ち上がろうとするが、その度に引っ張り戻される。
『傍から見たらバカみたいなことやってるように見えるだろうな。』
ロックはそう思いながらも飽きもせずに同じ事を繰り返した。

「オマエ……イイ加減にしろよ………」
何度目かの引き戻しの祭に、とうとうレヴィの口から文句が出た。
ロックは、浮気しておいて何を言ってんだか、と呆れたが仕返しにちょっと意地悪したくなった。
「それじゃあどうして欲しいのか、はっきり言ってよ。」
「………」
『コイツ、分かってるクセしてワザと聞いてる。言えるかっ、そんな恥ずかしいコトっ。』
レヴィは相変わらず頭の中だけで文句をつける。

目を閉じたまま、ちょっと膨れっ面をしているレヴィが可愛くなって、ロックは更にイジメてみたくなった。
「黙っていたら分からないよ。」
「………」
「やっぱり数こなしたくなった?」
「………?」
「ヤったんだろう? 噂のオジサンとも。」
「………!」
レヴィは手を離すと、ゴロリとベッドの上を半回転してソッポを向いてしまった。


56 :蒼空の続きぃ?19:2008/07/06(日) 10:29:40 ID:JGryl0RG
「……レヴィ?」
「…………な………だよ。……」
「…え? 何?」
「だから、……どうせ、……アタシは、……
 ああ、そうだよ! すぐにヤりたがる、尻軽オンナだよ! 誰彼見境無くな!!」

ヤバ、失敗した。
ロックはうっかりでは済まない地雷を、思いっきり蹴飛ばしてしまったことを悟った。
別に問い詰めたいわけではなかった。
『知ってるぞぉ〜』ってな調子で、軽い気持ちで指摘したつもりだったのに。
ところが、レヴィは想像以上に深刻に受け止めてしまったらしい。

「……あ、いや、……別に、……その、そんなこと思ってないし……」
「ウソだ! そう思ってる。そう思って当然だ。」
ソッポを向いたまま、レヴィが悲鳴のような声をあげる。
「……お、思ってないよ。……えーと、……ゴメン、……」
何で浮気された方が謝っているんだ? ロックは何とも理不尽な気分になる。

少し肩を震わせていたレヴィは、黙ったまま起き上がると、ブーツを履こうとした。
「レヴィ!?」
「……悪かった。もうココへは来ねぇから……」
レヴィはそれだけ言うと、そのまま立ち上がろうとした。
が、それはできなかった。
今度はロックがレヴィを背後から抱き締めてベッドへ引き戻したからだ。
「は、離せロック! こんな、こんな淫売と付き合ってもロクなコト無ぇ。」
手足をバタつかせてレヴィは抵抗した。
「だからさ、前にも言ったろ。レヴィの話を聴く気が無い程ケツの穴小さか無いって。」
ロックが必死に抱き締めたままこう言うと、レヴィは抵抗を止めてそのまま俯いてしまった。
「……誰も……居なかった。」
「え?」
「あの時は、誰も…、オマエも、側に居なかった……。」
「……ああ、そうだったね。」


57 :蒼空の続きぃ?20:2008/07/06(日) 10:30:28 ID:JGryl0RG
一時間後。
レヴィはベッドの上でうつ伏せになり、四肢をだらしなく放り出していた。勿論素っ裸。

ぼそぼそとレヴィの悔悟の告白の後、二人は身体を合わせた。
前でノーマルに交わった後、ロックは“浮気のお仕置き”と称して後ろにも突っ込み、さらに上の口にまで咥えさせた。
そして今は、顎を突き出したレヴィの上の口はタバコを咥えていた。
鼻先には灰皿がある。シーツとマットレスを炎上させられてはかなわないと、ロックが置いたもの。
久しぶりでトライ・穴(三穴)を攻略したロックはご満悦だったが、レヴィはムッつりしている。

「なんかご機嫌斜めだね。」
「オマエなぁ、ケツに突っ込まれたモノしゃぶらされて愉快だと思うのか?」
ぐったりしてタバコを咥えたまま、レヴィが面倒くさそうに答える。

「まぁ、お仕置きだから。」
「けっ、オマエとはもうヤんねぇ。」
「それで?」
「イクヤのオヤジの方がよっぽど優しくしてくれらぁ。」
「ははー、そんじゃその度にお仕置きだ。」
「ぐっ。何でそうなるンだよ。」
「それじゃあ、改めて優しくシようか。」
「フざけんな。オマエがヤり足り無いだけじゃねぇか。」
図々しく頭を撫で始めたロックに、レヴィは口では拒絶するものの、身体は相変わらず放り出したまま。
腰が抜け切ってしまったのか、もう呆れて抵抗する気も起きないのか。

「なぁレヴィ……」
頭を撫でながらロックが訊いた。
「あん?」
「このところ妙に“ロマンス”なんて求めていたのも、オジサンの影響?」
「………怖かったんだよ…」
「怖い?」


58 :蒼空の続きぃ?21:2008/07/06(日) 10:31:20 ID:JGryl0RG
「あのスケベオヤジに抱かれて、溺れかかっちまったんだ。
 それが怖かった。
 そんな筈は無ぇ、アタシの大事な男は一人だけの筈なんだ……
 それで…、それを…、確かめたくて………」
途中でトンでもなく恥ずかしいコトを告白していると気が付いたレヴィは、段々声が小さくなる。
咥えていたタバコを灰皿に落とすと、顎を引いて顔をベッドに埋めてしまった。
心なしか耳が赤い。
ロックはレヴィがどんな顔しているか見たくて、撫でていた手で頭を掴むと、
顔を強引にこっちを向かせた。
目を閉じて真っ赤になった顔。
「止せ、見られたモンじゃねぇ。」
レヴィは直ぐに頭を戻してしまった。

「レヴィ……」
彼女の言葉と態度のダブルパンチで一挙にいきり立ってしまったロックは、
肩を抱いて仰向けにしようとした。
勿論、もう一発、今度は目一杯優しくスるツモリで。
だがしかし、そう簡単にはいかなかった。
レヴィの半身が上を向いたところで、ロックの顎に左アッパーが命中した。
奇襲を受けたロックは、もんどりうってベッドの下まで転がり落ちた。
「ロォォォック!」
「ふぁい」
「だ か ら そんなにヤりたきゃ、先ずシャワー浴びてキレイに身体磨いて来いっ!」

*****

「…んっ……ロッ…ク………ぁう…んっ……」

シャワーを浴びた後、二人は再度身体を絡めた。
レヴィの口から控え目の喘ぎ声が漏れ、吐息が身体を密着させたロックの鼻腔を刺激する。
『タバコ臭くなきゃ、もう言うこと無い』
悔しいコトではあったが、ロックは見知らぬ同胞の感想に同意だった。




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