235 :さんろくぜろ:2008/08/21(木) 22:48:13 ID:yb+EqjYC

ロックこと岡島緑郎がその日の朝起きたとき横になっていたのは『自分の部屋のベッド』だった。

いや、こう書くと何の問題も無いではないか、そう思われるかもしれない。
だが、これは天地がひっくり返えらんばかりの由々しき大問題だ。

何故ならば、『そこ』がタイのロアナプラではなく…東京の実家の自室…それも彼の高校時代の
それなのだから。
                            
夢だ、これは夢だ。
それにしては随分と情景がリアルだが。
母親が作る朝食の味噌汁の懐かしい匂いまでしてくる。

ナンなんだ、一体。
こんなことは有り得ない。
自分は高校どころか大学まで卒業し、就職し、そして今はその会社すら飛び出してタイの暗黒街
で悪党見習いとしての日々を過ごしているのだから。

そうだ、ありえない。
昨夜は一体何をしていただろうか。
イエローフラッグでレヴィと飲んだくれて、酔いどれの彼女を引き摺って部屋まで送り届け、自室
に戻って眠りについた筈。
いや、違う。
昨日は終日オフで、一日かけてレヴィの部屋の掃除に勤しみ、その後ベッドメイクしたばかりの
シーツに再び皺を作る共同作業に勤しんだ。
それも違う。
タイ軍の武器をどこぞのテロリストに横流しするべく洋上で夜を過ごしていた。
これも…決定的ではない。
夜遅くに予備校から帰宅し、軽くノートをまとめてから就寝した。
そうだ、今日は日曜日だ。
本屋に行くのだ、昨日見せて貰った構文の参考書はユニークで解りやすかった。
ついでにCD屋に寄って、息抜き用のCDでも買って来よう。
緑郎はのそのそと立ち上がりと盛大に欠伸を一つかますと朝食を摂るべく階下へと向かった。

だが、食卓には、いるはずの母はおらず、母の作った朝食だけが並んでいる。
白い飯とわかめの味噌汁、焼き魚。
冷蔵庫からタッパーに入ったきゅうりの漬物と海苔の佃煮を取ってもそもそと食う。
何故だか解らないが異様に美味い。
「やっぱ和食だよなぁ…」
最近ナンプラーにも、彼女の大好物であるジャンクフードにも少し飽きていた。
そんなコトを考えて「ナンプラ?彼女?」と自らの思考に疑問符一つ。
だがそんな些細な疑問はどうだっていい。
問題は、この日曜日をどう過ごすかだ。
まだ本屋は開いていないが、天気も良いし散歩をしよう、暑くもなく過ごしやすい初夏の日和など
久しぶりではないか。
そう決めて立ち上がると目の前に玄関があった。
そして、いつのまにかジーンズに着替えている。
あれ、さっきまで何を着ていただろうと考えながら目の前の戸を開けると……そこは広大な公園
だった。

236 :名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 22:49:38 ID:yb+EqjYC
ちょうどいい。
散歩をするつもりだったのだ。

心地良い陽射しに目を細めながらゆっくりと歩く。
あちこちで小鳥が鳴いている。
何故だか、スズメの声など何年も聴いていないような気がする…受験勉強疲れるのかな、俺。
遠くで銃声。
何処の誰が撃っているのだか…。
そう辟易していると…近づいて来るソレ。
こっちに来るなよ、せっかくいい気分で散歩をしているんだ。
ベンチに腰掛けると、尻ポケットからタバコを取り出し一服つける。
一本味わったところで、「君、何歳だい?」と背後から呼び掛けられた。
彼が振り返ると、勝ち誇った顔の、中年の警察官が高圧的に仁王立ちしている。
何故か知っているような気がする小肥りの彼の額には脂汗。
相変わらず、色んな意味で暑苦しい御仁だと思って、改めてふと思う。

この人、誰?
と。

というか、何故自分は未成年の分際で当たり前のようにタバコなんか吸っているのか。
ワケがわからないが、まあいい。
何故か知っている。
この人には少しばかりの心付を渡しておけば、万事事足りる…と。
財布を出そうとポケットに手を入れる…が、無い。
あるはずのソレが、無い。
さて、どうしよう。
ツケにしておいてもらおうか。
というか、財布が無ければ参考書も買えないな、これは困った。
ニヤニヤとこちらを見下ろすおっさんを前に、考えあぐねいていると、銃声とともに二人の間を
駆け抜ける弾丸。
さっきの銃声と同じだ…そう思って弾丸の飛んで来た方へ視線を遣り、そして後悔する。
そちらからは、気が狂っているとしか思えない奇妙な衣装を纏った奇妙な女が、子犬のように
目を輝かせてハアハアいいながらこちらに駆け寄って来ていた。


「ラージカール!レーヴィちゃん!参っ上っ☆」
やけにテンションの高いこの奇妙な女は、彼等の前に到着するなり、片足でクルクルと回った
後、中腰で口元に指を立てるという一昔前のアイドルのような恥ずかしいポージングでこちらを
見ている。
改めて見ると凄い恰好だ、襟元の冗談のように大きなリボン。その下は谷間を強調するかのよ
うな大胆なデザインのワンピースで、スカートはパニエでフワフワと広がっている。
一際目立つのは右の首筋から腕にかけて彫り込まれたトライバルのタトゥー。
こっちを見ないでくれ、頼む…そう念じて視線を反らそうとすると、彼の視線を追ってチョコマカ
と移動する女。
げっ!ウィンクされた。

何なんだ、この女は。
だが、何故だか自分はこの女の顔を知っている。
こいつが名乗ったレヴィという名前も知っている。
断じて認めたくはないが、知っている。
何でだよ、何で知ってるんだ?
そう言えば朝起きた時に浮かんだのはこの名前だったような…?
そんな彼の混乱などいざしらず、ラジカルレヴィと名乗った気違いは飽きずにクルクル回りな
がら一人勝手に喋り続ける。
「イマイチ社会性のない引きこもり君の貴兄をスナック感覚で助けるために、ヘストンワールド
 からやって来た正義と平和の使者なのよん!!」

237 :名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 22:50:19 ID:yb+EqjYC
社会性?こんな女にどうこう言われる筋合いは無い上に、自分はヒキコモリでもなんでもない。
以下の台詞はあまりに理解不能であるため聞かなかったことにする。
何にせよ、このガイキチは人違いをしているのだ、そうだ、そうに違いない。
「さぁ!!悩み事、お願い、何でもいいわ!言ってみて!!何だってしてあげる!!!」
目をキラキラさせて悩みを言えとせがむ女。
「…別に、無いけど…ていうか、人違いじゃない?」
無駄と知りつつ言ってみる。
「そんなハズ無いわよ!!だってあんたはあたしを知ってる筈だもん!言え!悩み事言いや
 がれっ!ゆえ〜〜〜〜〜!!!」

そう、確かに何故だか彼女のことは知っている。誰だかは解らないが。
やはり初対面ではないのだろうか…どうやら人違いはしていないらしい彼女は、彼の襟首を掴
むと悩みを言えとガクガク振りまくる。

「あっ…やめ…くるし…あー…と…、とりあえず、『帰ってくれ』ってのは…駄目かな?」
「NO〜〜〜!!!駄目に決まってるじゃない、そんなの!無い筈無いわ。あんたは困ってる!!
 絶対絶対困ってるっ!」
「あー、お取り込み中スマンが…今からこの坊主を連れていかなくちゃならんモンでな、話なら
 後にしてくれ。」

目の前の『レヴィ』があまりに衝撃的で存在を忘れていたおっさんが話に割り込んで来た。
ちょうどいい。
コイツに着いて行けばとりあえずこの変態からは逃れられる。
さっきは欝陶しくてたまらなかった男が天の使いに見える
「誰?コイツ」
口を尖らせ、首を傾げる変態。
彼はその様子に何故だか一瞬、「ああ、もう、可愛いなぁ」と欲情し、そしてそんな自分に激しく
自己嫌悪。
「あー、折角だけどさ、喫煙が見つかっちゃってね、今からこの人に警察に連れて行かれるん
 だ、だからここでさよならなんだよ」
心底残念そうな顔で、さようならと手を振ると、変態女は我が意を射たりといった笑顔で応じる。
「なぁんだ!そんなコトならレヴィちゃんにお任せねっ!」
そう言うと、先ほどまでのように片足を上げてくるくると回りながら呪文のような何かを唱え
始めた。

「トカレフ・マカロフ・ケレンコフ〜!ヘッケラー・コックで見敵必殺ぅ!」
何故だか理解できる。全て銃にまつわる単語ではないか。
彼女はそんな謎の言葉を高らかと謡い上げると…何処からともなく取り出した二挺の銃を両手
に、躊躇いもなくその場で乱射し始めた。
「キャハハハハ…!やっつけてやるぅっ!サーチアンドデストロ〜イ!死〜ん〜じゃ〜えぇ〜!」
物騒極まりない銃声と、さも愉快そうな高笑いの声が青空に響き渡る。
緑郎は目の前の光景に唖然として軽く意識をトバしかけ…「物事何でも即効解決!銃で!」
そんなキメ台詞で我に返った。

女は血まみれでピクピクと痙攣するおっさんを背にニコニコとこちらを見ている。
「お…お前!何やってんだよ!」
「善良なる市民の敵、憎き官憲をやっつけたの!」
漫画ならばエッヘン!という擬態語が聞こえてきそうな得意げな様子。
「ご褒美ちょうだい?」
そして、更にそう言ってにじり寄ってくる。
「誰も頼んでねぇよ…!ていうか、お前誰だよ、何なんだよ…」
「ラジカルレヴィちゃんよ!ヘストンワールドからやって来たの」
気違いだ、そうだ、間違いない。彼は自分に言い聞かせる。
「何だよソレ、イキナリ人殺して何でそんなに得意げなんだよ、おかしいよ」
「言ったでしょ?物事は何でも銃で解決するのがヘストンワールドの掟なの。おかげで争いゴト
 も無くいつも平和なのよ」
もうコイツの話は聞きたくない、頭がおかしくなりそうだ。
「ああああ…品行方正に生きて来たのに…本屋に行くついでに散歩してただけなのに……
 殺人鬼に関わってしまうなんて…!終わりだ…終わりだぁぁぁ!」


238 :名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 22:50:43 ID:yb+EqjYC
頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
最悪だ。
このままトンズラするか?
いや、だが警官殺しの上に逃亡なんて、罪を重くするだけだ。
「ご褒美〜!」
大体日本でイキナリ銃乱射なんて、気が狂ってる。
ああ、神様、俺が何か悪いコトしましたか?
「ご〜ほ〜び〜ちょうだ〜い」
「うるさいなぁ!金なんか持って無いよ!」
緑郎が思わず振り向いて怒鳴ると、キョトンとした顔の女。
「金?…いらないわ。身体で払ってくれさえすれば」
そう言って彼の腕を掴むと、生垣の陰へと引きずり込み、そのままそこへ押し倒し馬乗りになる。
「毎日悶々とうだつの上がらない童貞くんの貴兄に…天国を見せてあ・げ・るvv」
「誰が童貞だ!誰がっ!退けてくれよ、俺は警察に行く!保護してもら」
「うるさ〜い」
皆まで言う前に唇を塞がれた。

これは強姦だ、そうだ、間違いない。
必死の抵抗の結果、彼は上半身を木に縛り付けられ、下半身を剥かれた。
今、そんな彼の涙目の先にあるのは、彼の股間に顔を埋め熱心にナニにをしゃぶり続ける痴女
の姿。
彼は、受け入れ難い現実を前に、自分の非運について考える。
女にレイプされたと言って警察は取り合ってくれるだろうか。
いや、きっと無理だ、「HAHAHA!ラッキーだったなぁ、坊主」などと適当なことを言われておし
まいだ、そうに決まってる。

「ねえ?あんたインポ?全然勃ないじゃない!」
変態女が何か言っている。
この状況で勃起しろという方が無理だ、誰に何と言われようと無理だ。
「無理に決まってるだろ?こんなところで真昼間から…」
しかも乱射魔の殺人犯に襲われている…命が惜しいので言わないが。
「大丈夫っ!覗いたヤツはやっつけてあげるから」
「冗談じゃない!コレ以上殺人行為に関わってられるかよ!」
悲痛な声で叫ぶ緑郎。
女は不思議そうな顔で首を傾げて、「エッチ…シたくないの?」などとふざけたことを言う。
「シたいなんて言ってない!一言もだ!」
「そうだっけ?」
「そうだよ!」
「………………………………チッ……ったくよぉ…コレだから……童貞はメンドくせぇんだよ」
舌打ちと共に聞き捨てならないコトを吐き捨てる女。
何より…口調が変わった気がするのは気のせいだろうか?否、気のせいではない。
だが、何故だかは解らないが、こちらの態度の方がしっくり来る気がする。
「仕方ないなぁ…外が嫌なら場所を変えましょ。そうそう、あんた本屋に行くのよね?何欲しいの?」
「え、あ…参考書だけど…」
不意に振られる極普通の話題に思わず正直に答えてしまう緑郎。
「ついでにそれも調達しましょ!?そうよ!どうせならヘストンワールド行くわよっ」
そう言うと、立ち上がる変態。
その段に至り、緑郎はそういえばコイツに本屋の話をしただろうかと考え、先ほどの独り言に思
い至る。
女が、自分のコトしか眼中にないようで、人の言動をしっかり把握しているという事実に愕然とし、
簡単には逃げられないことを悟る。
彼女は彼を縛り付けていたロープに発砲してそれをぶった切ると、満面の笑み(何故か押し倒し
たくなるような可愛さだった)を浮かべて「さぁっ!行くわよ!」と彼の手を取った。


239 :名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 22:51:18 ID:yb+EqjYC
案の定というか、何というか…参考書の『調達』手段は強盗だった。
涙目で制止する彼に目もくれずに笑顔で銃を撃ちまくるラジカル・レヴィ。
店員を薙ぎ払って店を占拠すると得意満面で「さぁ!好きな本を選んで!」と彼に促す。
「何だよ何だよ…選べって……俺は善意の第三者なんだ…無関係だ…巻き込まれただけだ…」
その場にしゃがみこみ、ブツブツと呟き続ける緑郎。
そんな彼を不思議そうに見つめ、適当にその辺にあった本を薦めて来るレヴィ。
「コレは『図解・30分で出来る死体のバラし方』で、こっちは『自宅でカンタン!鉄板から銃を作
 ろう』、そんでコレが『一撃必殺!失敗しない殺しのテクニック』。」
手に取った本のタイトルに自分で興味を持ったらしく、「新しい銃が欲しい」とか、「自分で作って
みようかなぁ」とか
一人勝手に盛り上がっている彼女の横で、彼は何だ、その本のタイトルは…と一層混乱する。
はしゃぎながら銃密造のハウツー本をめくる女を無視し、まともな本だってある筈と、ずらりと並ぶ
背表紙に目をやる。
だが、彼の淡い期待とは裏腹に、そこに並ぶのは非常識なタイトルばかり。
どういう本屋だ、何で犯罪のハウツー本ばかりなんだ!
逃げたい…が、彼の腰には罪人よろしく紐が結わえられ、その先を変態女が握っている。
夢中で本を読み耽る女の横で様々な脱出プランを練っては却下を繰り返す彼の耳に複数の靴
の音。
「また警察かぁ…しっつこいなぁ…危ないから離れちゃだめよ、あんたじゃ5秒で殺されるんだから」
「ぇっ…ちょっ……?」
彼が彼女の言葉を理解するより先に雪崩込む警察官、直後に飛び交う弾丸。
女はケラケラ笑いこけながら銃弾を縫い、一人、また一人と警官を仕留めていく。
化け物か。

彼は腰紐に誘導されるまま、右に左にと引きずり回され、床に押し付けられ、もの陰へ蹴り込ま
れ…とにかく生きた心地がしない時間を過ごす。
そんな具合で警察の皆さんに向けて二挺の銃から弾丸を放ち続ける彼女に引きずられ、街の中
を疾走する。
途中、車を強制徴収。
愉快なドライブに失神寸前。
街の至るところに奇妙なモニュメント。
銃を掲げた老人の像だ。
よくよく見ると、どれも同じ人物の像。
誰だっけ、見たコトあるような、無いような…。

彼が奇妙な像の群れに見とれていると、レヴィは突然街角のテレビの前で車を止める。

「大変!!ラジカルちゃんの時間!!!」
そう言うと、ショウウィンドウのガラスをブチ割って、陳列台のテレビのチャンネルをいじり始めた。
「ナンだよ、次は…」
何局かをザッピングしたところで、画面に現れるきらびやかな映像。
そして、フレームインして来る「魔法少女 ラジカルちゃん」の文字と、今女が来ているのと同じ
コスチュームのアニメキャラクター。

「………………………………………。」



240 :名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 22:51:55 ID:yb+EqjYC
レヴィは、お目当ての番組を映すテレビの隣に陳列されているテレビを歩道に置くと、椅子代わ
りにそこへ座る。
店内から飛び出て来た店員に、目もくれずに銃口を向け、近付く者を確実に射殺しつつ画面に
かぶりつく。
画面の中のキャラクターは、先刻彼女がしていたのと同じポージングでクルクルと舞い、銃を放ち、
同じ口調・同じキメ台詞でキメポーズ。
もうイヤだ、頭がおかしくなりそうだ。
画面で繰り広げられる人畜非道な大活躍に、目の前の変態は大喜びだ。
何やら目を輝かせながら「銃で悪を退治するのに何故か魔法少女なの」とか「この服も頂いちゃ
った♪銃で」とか熱心に語って聞かせてくれているようだが、いちいち聞いていられない。
画面の中ではヒロイン自ら事件を焚き付けて被害者を助けるという見事なマッチポンプを演じて
いる。
まさかさっきの脂オヤジもコイツの差し金か?そんな疑念で頭がいっぱいだ。
自作自演で『悪』を蹴散らしたヒロインは、流れ弾で満身創痍の被害者に『ご褒美』を強要し、身
ぐるみ剥いで去って行く。
彼女は実におぞましいその番組を、実に楽しげに鑑賞し終えると、「あー面白かった〜」と立ち
上がり、「さて、次は何をする?」と実に無邪気に問う。
「何もしたくない…もうイヤだ、帰りたい…帰してくれ、家で勉強するんだ…うぅっ…」
血だまりで膝を抱えて涙を堪える緑郎を心配そうに覗き込むと「お腹…空いたの?」と、実に暢気
に聞いて来る。
膝に顔を埋めたまま頭を横に振る彼を前にしばし考えこむと腕を取り立ち上がらせ、引きずるよう
に近くの建物に入る。
「ご飯食べよう!お腹空いてるから元気出ないんだよ!」
そう行って強引に椅子に座らせると向かいに腰掛け、両手で頬杖を着くレヴィ。
どうやら食堂か何かのようだ。
「…別に。腹なんか空いてない。頼むから帰してくれ」
「…………ヘストンワールドはどうだった?」
「どうもこうも無いよ!まともな人間が一人もいない!」
「あんたが今住んでる街と変わらないじゃない」
馬鹿を言うな、日本は世界一治安の良い国なんだ…そう思うと同時に、何故だか……。
――それもそうか…と、そう思う。
何故だか解らないが、何の違和感も無くそう思ったのだ。

「何食べたい?」
「……だから…要らない…」
「お酒は?何でも用意するよ?」
「どうせ盗んで来るんだろ?要らないよ、そんなもの」
「……何か、したいことある?」
やけに殊勝な、彼の機嫌伺うかのような態度。
「だからさぁ!帰してくれよ!さっきから言ってるだろっ!?」
大声で詰め寄る緑郎。
変態は口を尖らせ頬を膨らませると、しょんぼりと俯く。
「何で…?どいつもこいつも……」
「何だって?」
「いいわよ!か…帰して欲しかったら…寝てよ!」
「意味わからないよ!」
「うるさい!」
またしても腰を引きずられる。
ふいのことでバランスを崩した彼が倒れ込んだのは自分の部屋のベッド。
彼の部屋と言っても、今朝起きた部屋ではない。
小汚くて狭い、屋根と寝床があるだけ外よりマシ…といった風情の部屋だ。
今時の日本でこんな部屋を捜すのはある意味難儀としかいいようの無い部屋なのだが、それが
自分の部屋だと…そしてそれが第一印章に違わず日本では無いと、理解できる。
「ほら?お望み通りの個室よ?今度こそちゃんと勃てなさいよね!?」
変態女は宣告の行為を仕切直すべく、緑郎をベッドに押し倒すと、再び彼のベルトに手をかける。
「待てよ!個室だからいいって問題じゃなくてだな、そもそも何でキミとシなくてはならないか、と
 いう話だよ。そんなにシたけりゃヤリたい男を誘えばいいだろ?」
幸い彼女の容姿は人並み以上だ、誘えば着いてくる男はゴマンといるだろう。
だが、そう言ってから内なる何かが、他の男にこの女を抱かせるなど許してはならない…と悲鳴
を上げる。

241 :名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 22:53:39 ID:yb+EqjYC
「何で好きでもない男とエッチしなきゃならないのよぉ〜アンタじゃなきゃ駄目よ」
ちょっと待てと彼は思う。
それではまるで、自分がこの変態に好かれているようではないか。
「あのさ、何でそんなに俺とシたがるの?」
恐る恐る尋ねる。
「あんたのコトが大好きだからに決まってんでしょ!?」
半ば予想していた答えとは言え、何てことだ。
「ていうかさぁ!初対面だろ!?」
「さっきも言ったじゃない!あんたはあたしを知ってる…」
「ちょっと待っ…」
「あ〜もう!うるさぁい!」
またしても…言葉を封じられた。


「あん…あっ…あ…ぁ…あン…イイ……イイよぉ…」
結局縛りつけられた。
「ああっ…はっ…あ…ん…突いて…お願…い……」
変な薬を飲まされた。
「…っ…はぁん……ぁ…あっ…あっ…きもち…いぃ…」
お蔭様で彼のムスコは…元気一杯。
「ぁぁ…ぁ…あン…イイの……ソコ…ソコなのぉ…」
レヴィは彼に跨り、一人で勝手に腰を振る。
「ん……はァ…ぁ…あ……ぁ……たまんな…い…」
彼女の身体が揺れる度に視線の先の肌蹴た胸元で乳房も揺れる。
二人の交わる箇所はぐちゃぐちゃに蕩け、濡れそぼり、体液と空気の交ざり合う音を響かせる。
彼とて若い男だ、それを見て興奮しないワケではない。
どうせヤられてしまうなら愉しんだ方がいいのかなぁ…などと、長いものには巻かれろ的なことを
一瞬考えないワケでもなかった。
だがしかし。
先刻から彼の口を吐くのは「お願いもうやめて」とか「許して」とか「誰が助けて」とかいう乙女の如
き力無く悲痛な懇願。
このままではこの女に全てを吸い尽くされ、殺される…!
ホンキでそう思う。


既にこの時点で、休み無しの5回目だった…。


もう何度目かも解らぬ絶頂を味わい、ようやく動きを止めたレヴィ。
「ねぇ?気持ちイイ?」
ベッドにグルグルに縛り付けられた彼の胸に甘えるようにぴったりと頬を寄せて来た。

気持ちイイはずあるか!
そうは思うが、声が出ない…サキュパスだ、コイツに生気を全部吸い取られたに違いない。
顔を真っ青にさせ、声にならない声を絞り出そうとする彼を不思議そうに眺める女。
そんな女の顔すら霞んで見える…。

242 :名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 22:54:09 ID:yb+EqjYC
「ヘストンワールドに残らない?」
だからヘストンワールドってナンだよ……嫌だって何度も言ってるだろ?そう思っても問う気力が
湧かない。
「そう!あんたは選ばれた人間よ!これからあたしと一緒に正義と平和のために戦うのよ!」
だめだコイツ、早く何とかしないと…。
気違いだ、誰か助けてくれ!
「素敵!己の使命に感激のあまり涙まで流して!一緒にガンバリましょ?」
違うと言いたい。嫌で嫌でたまらないと。だから涙目なのだと。
だが、彼の本心など預かり知らぬこの女は、音を立てて彼の顔中にキスの嵐を降らせまくる。
そしてロープを解くと彼の手を取り、上下に振りまくる。
まさにシェイクハンズ。
「さぁっ!そうと決まったら善は急げね!!まずはあんたの銃を用意しなくっちゃ!」
このままでは本当にこのワケのわからない場所から帰して貰えない!!
嫌だ!
とりあえず膝のあたりまで引きずり下ろされている下着を死に物狂いで履き直す。
記憶が霞み掛かって上手く思い出せ無いが、離れ難い人がいる気がする。
『彼女』は、自分が居なくなれば泣いてしまうだろう。自分のために泣いてくれることは嬉しいが、
そんなコトで泣かせたくなんかない。
「い…やだっ!放し…てくれっ!」
必死の思いで声を搾り出す。
不思議なもので、一度声が出せると淀みなく話すコトが出来た。
「こ…んなワケわからない場所ゴメンだ!」
「…………正義の味方になれるよ?」
「お断りだ」
「子供たちのヒーローよ?」
「万人のヒーローになる必要なんかない!」
「……おっかしぃなぁ…普通、貴方は今日から正義の味方!って指名されたら戸惑いつつも成り
 行きのまま流されるモンじゃないの?それがお約束じゃないの?」
「何のフィクションの中の話だよ」
「ラジカルちゃん」
「知るかよ。現実はそんなご都合主義にはいかないんだよ、いいから帰してくれ!」
「どこに?」
「俺が元いた場所にだよ!」
「えー…どうしよう…一緒にいてよ…」

そう呟いて少し考え込んだ末に、にやりと笑う女。
「…そうよ。責任取って」
「責任?何のだよ」
「たって、あんた7回も中で出したじゃない!お嫁に行く前の女の子を散々犯し倒した挙句、その
 ままトンズラ?鬼畜!」
「…!?お…お、犯されたのは俺だ!」
「ヒドイ!どうしよう、赤ちゃん出来た!何でだかそんな気がする!どうしてくれるのよぉ!」
「うるさい!知らないよ!この状況を見ろよッ!俺をベッドに縛り付けて勝手に跨がってたのは君
 だろ?」
「ならどうすれば一緒にいてくれるのよぉ!」
「その前提がおかしいだろ?何と言われても俺は行かないよっ!」
「なんでよ!?」
「こっちが聞きたいよっ!何で連れて行かれなきゃならないんだよ!」
「あんたのコトが好きだからって言ってるでしょ?」
「俺の意志は無視かよ!大体俺は君みたいな女は大嫌いだよ!」
そう言った瞬間、彼女は酷く傷ついた顔をする。
何故だかそんな彼女の様子に彼の心は馬鹿みたいに痛んだ。
…そんな顔をしないでくれ。



243 :名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 22:54:50 ID:yb+EqjYC
彼女は唇を噛んで俯くと「また嫌われた」と呟き、身体を起こす。
「今日アンタが入口でウロウロしてるのを見て天に昇るような気分だった」
「……いり…ぐち?」
「だから飛んで来たの。アタシの世界のアンタはアタシのコト嫌いになって…。顔も見たく無いって」
言っている意味は見えないが、違う世界から来たと言いたいようだ…やっぱり気違いかと思いつつ、
よくよく考えれば朝から解せないコトが多すぎた。
「アンタのためなら何でもするから…だから…嫌いにならないで…?…一緒に…来てよ…」

コイツの言うコトを信じるなら…、自分の世界にもコイツがいるのか…。
「髪を撫でて?笑って?キスして?お願い。大丈夫よ、だって姿形は同じだもん」
「悪いけど…言ってる意味が…わからない…」
「それでいいの、思い出せばアンタは『アタシ』を愛してくれないもん。」
思い出すとはどういう意味なのか、彼女の真意を諮りかねていると、ボソリと言葉が続く。
「けど、大丈夫、……アンタは『アタシ』のコト……愛してる」

ああ、そうか。
すとんと音が聞こえた気がした。
納得した。
だから、『知ってる』のだ、と。
だから、泣きそうな顔をされるとこんなに哀しいのだと。
ふとした瞬間無性に可愛く思えてたまらないのだと。
…朝一番に考えたコトは何だったか。
何日も前の夢の出来事を思い出そうとするかのように…霞み掛かって上手く思い出せ無い。
不安げにこちらを見つめる顔。
頼むから…その顔でそんな表情をしないでくれ。
早く『彼女』の元へ帰らなければならないのだから。

待の目でこちらを見る女。
やめてくれ、そんな表情も…しないでくれ。
「はっきりと思い出せ無いんだけどさ、俺がいなくなったら泣いちゃうんだ…『俺のレヴィ』が。そん
 なのは御免だ」
無意識に口にした『俺のレヴィ』という響きも、妙にしっくりと身に馴染む。
「思い出せ無いクセに?アタシじゃだめなわけ?」
「ごめん」
「どうして?同じ顔で同じ名前で同じ声で同じカラダで同じ―――」
「――でも、『全て同じ』じゃない。第一、俺だって君が好きな俺じゃない…」
………彼の目の前で『レヴィ』が膨れっ面で泣いている。
「泣かないで。頼むから。」
彼は思う。
自分の女も、たまにはこれ位素直に感情を表現してくれれば可愛さ100倍なのに…と。

いや、だがあの常に斜に構えた態度も彼女の魅力なのだ、たまにカチンと来ることがあるが。
会いたい。
彼女が恋しい。
…いつのまにか、バラバラになっていた記憶のピースは全て収まるべき場所に収まっていた。


そう、人間生きていれば摩擦の一つや二つある。
どんなに愛おしい相手にだって、顔も見たくないほどに腹を立てる瞬間はある。
彼はよろよろと起き上がると口を尖らせる彼女の頭を撫でる。
「あんたが同じじゃないこと位わかってた。けど、あんたが嘘っぱちでも…、そばにいてくれれば
縋っていられるのよ。じゃないと淋しくて死んじゃう」
「何で嫌われたのか話してくれる?」
「あいつが浮気したのよ、なのに相談に乗ってただけだなんて言い訳してさ、問い詰めたら顔も見
 たくないって」


244 :名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 22:56:20 ID:yb+EqjYC
この女の言動を鑑みるに、問い詰めたなんて生易しいモンじゃなかったんだろう、それに加えて
相手の話など聞きもしなかったに違いない。
「そう、辛かったね。」
とりあえずは、心にも無い同情の意を示してみる。
「でももう一回冷静に話してみるといいと思うよ、俺に言ったコトをそのまま言えば良い。相手の話
 も遮らずにきちんと最後まで聞いてあげること。君は人の話を聞かなすぎる!!ウチのレヴィ
 ですらもっと話を聞くよ。」
「な…何よ、急に説教臭くなってんじゃないわよ!?ていうか、思い出してるしぃ?しかもアイツと同じ
 顔で全く同じコト言って……!」
いまだ涙の浮かぶ顔で食ってかかる『レヴィ』。
「ふーん…同じコト言われたの。てコトはこれは言い掛かりでも何でも無く、事実だね。ちゃんと謝
 った方がいいよ」
「何でアタシが謝るの?浮気したのはあっちでしょ」
「本当に話をしただけかもしれない」
「それだって浮気よ!」
「なら尚更謝らないと。君は他の男と話どころかセックスまでした。しかも7回もだ!」
「あ…ぁ…アンタとじゃなかったらしないわよ!あんなコト!!」
「別人だって解ってたって言ったよね?」
「『同じじゃない』コトを、よ!」
「違うの?」
「違う!」
「どう違うの?」
「赤ん坊のアンタと今のアンタは同じじゃないけど別人でもないでしょ?」
「…確かに」
「オナジようなコトよ」
「そんなモノ?」
「そうよ。けど精神は表裏一体」
「よく解らない」
正直に伝える。
「そうかもね」
彼女もそれ以上話を広げるつもりは無いらしい。

「でも…やっぱりちゃんと話し合うべきだよ。さっきみたいに泣いて縋り付いてでも淋しくて死んじゃ
 うってちゃんと言えよ」
「無理よ、これ以上嫌われたら生きていけないもん」
「なら、君も少し変わらないとね、どうせ一方的に相手を責め立てただけなんだろ?自分のコトば
 かりじゃなく相手の事情も考えること。大体引きこもりじゃあるまいしさぁ、他の女のコと話をする
 のも許さないなんて、病気だよ、病気」
「だぁかぁらぁ!同じ顔で同じコト言わないでってばっ!!」
「何度も同じコト言われるのは君に原因がある!とっとと帰って謝って来い!」
「あー!何でそんなにそっくりなのよ!説教臭い男なんてムカつくだけだわっ!」
そう言って銃に手を遣るレヴィ。

ああ、なんだか恐ろしく既視感が…。

「…お前もそっくりだよ!口で敵わなかったり気に入らないコトがあるとすぐそうやって銃をちらつ
 かせる!そういうトコが嫌いなんだよ、何が『物事銃でソッコー解決』だ!フザケんな!!」
「うるさいうるさいうるさいうるさい〜!」
そう喚いて彼女が抜いた銃は………彼の眼前に降って来て………脳天の鈍い痛みと共に意識
が遠退いた。

ああ、何だかコレにも既視感…。


245 :名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 22:56:53 ID:yb+EqjYC
「…いってぇ…」
岡島緑郎氏が次に目を醒ましたのは彼の職場のソファだった。
日本の商社では無い、南国の海運会社の…だ。
周りにはだれもいない。
鈍く痛む脳天を摩りながら、『レヴィ』の姿を捜す。
探しているのは、ヘストンワールドからやってきたとかいう電波だろうか、それとも恋しくて堪らな
かった「彼のレヴィ」だろうか…一瞬の自問自答。
考えるまでもない、…後者に決まっている。
先刻までの出来事は夢だったのだろうか?
その割には、先刻は思い出せなかったことも含めて五感全てで生々しく起こった出来事を思い出
せる。
では、今の意識は現実か?
哀しいかな、自信を持ってYesと言えない。
そんなことを悶々と考えていると、外からバタバタと騒がしい足音が2つ。
蹴り破るように開かれる扉。
その向こうには涙目で顔面蒼白の「彼の」レヴィと、そんな彼女に炎天下を引きずられて来たらしき
真っ赤な顔の見知った闇医者の姿。
「ロック!」
彼の顔を見るなり悲鳴のように叫ぶ彼女。
「ヘイ!大丈夫かよ!頭は?痛くねえか?」
もの凄い剣幕でにじり寄って来る彼女に少々面食らう。
「…え?少し痛いけど、多分大丈夫…どうかした?」
そう言って立ち上がろうとする彼を「まだ座ってろ」と制して、引きずって来た男に「診てやってくれ」
と依頼する。
ワケも解らず診察を受けながら、そう言えばカトラスでぶん殴られたと思い出した。
白昼堂々、よりによって事務所のソファで、生理痛で重い身体を丸める彼女にしつこくじゃれつい
たのだ。
…これが夢の中で最初に考えたことの答え合わせ。
自室でほろ酔いで就寝したワケでも、彼女と有酸素運動に励んだワケでも、洋上で仮眠していた
ワケでも、受験勉強していたワケでもない。
悪ふざけの末に鉄拳制裁を喰らったのが真相、情けなさに泣けてくる。
そう、やはりアレはリアルな夢なのだ、それはそうだ、平行世界なんてあってたまるか。
そんなものは映画の中だけで十分だ。
ドクターに改めて状況を説明しているらしきレヴィ。
どうやら腹立ち紛れに銃でぶん殴って暫く放置したところ、気付いた時には真っ白な顔で呼吸数
も体温も下がっていたようだ。
夢の最後が、彼女に銃でぶん殴られる展開とは、よく出来たオチだ。
夢の中で彼女にカマした説教を思い出す。
嫌がる彼女を無視して自分のエゴばかりを押し付けた。
まさか本当にイタすつもりは無かったが、そんなことは彼女にしてみれば知ったことではない。
夢の中でのこととは言え、自分を棚に上げて偉そうなことを言ったものだと申し訳なく思う。
問診をするドクターの後ろから、右から左から…と、心配そうに覗き込む彼女に目を遣る。

「レヴィ…ごめんな」

「…お前の自業自得なんだからな」
「…全くだ」
「あのままくたばるのかと思ったぜ」
あんなんじゃ笑い者にしかならねぇぜ?ど強がるように笑うレヴィ。
そんな彼女に、愛しげに微笑みながら問うてみた。
「心配した?」


246 :名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 22:57:14 ID:yb+EqjYC
殊勝な返事なんか期待していなかった。
うぬぼれるなとか、寝言は寝て言えとか…そんな返事しか返ってこないだろう、と。
なのに。
「…肝は…冷えたな」
一瞬儚げに歪む顔。
だが…それもあくまで一瞬。
「…だってよぉ、ガンマンが銃で相手を殴ってとどめをさすなんざ、何のジョークだっつーハナシ
 だぜ?周りには何て説明すりゃいい?笑われんのはお前だけじゃねぇんだぜ」
取り繕うようにまくし立てる。
かわいいなぁ。
「それなら後からでも銃弾をブチ込めばいい。」
我ながら意地が悪いと思うが、「非情事」の時にも夢の中の『レヴィ』のように、素直に求められて
みたかった。まぁ、ドクターがいるんじゃ無理だろうけど。

「……ぁ…あ…、アホかてめぇは!気持ち良く眠りこけてる相手に弾丸ブチ込むなんざ、それこそ
 ガンマンの名折れだっつーの」
「まぁ、そうだね」
「…っ…クソがっ…!!」
これ以上会話をしたくないと思ったかどうかは彼の知るところではないが、レヴィは何やらイラつ
いた様子で彼から顔を背けると、先刻から彼の脳天を覗き込む男に話を振る。
「……ヘイ、ドクター!どうなんだよ、コイツは」
「まぁ今んところは問題無ぇが、頭だからなぁ、何とも言えん。あと24時間は様子見だな、眠ると
 異常が解らんから起きたままでいること」
「おいおい、今わかんねぇのかよ、頼むぜ」
「無茶苦茶言うな、タイのド田舎で。大体お前、得物で2発もぶん殴っといて何が『ガンマンの名
 折れ』だ、語るに落ちてるな」
「…?何の話だ?あたしが殴ったのは一発っきりだぜ」
「頭に血が上ると自分のしたことも思い出せんのか、きっちり2つ台尻の跡が残ってやがるぞ」
「そんな筈無えって!」
このあたしがコイツを何度も痛め付けるはずがない!彼女はそう言いかけ、言葉を飲み込む。
そんなこっ恥ずかしい台詞を吐いてこれ以上の恥をかくのは御免だった。

一方、ロックも混乱していた。
レヴィが言っていることは本当だろう。
コトの発端は行き過ぎたスキンシップ。
初めはキスにだって応じてくれていたのだから彼との行為が嫌なのではなく、あくまで「今は嫌だ」
という彼女なりの意志表示が転じた事故だったのだ。
思いがけず事態が大きくなってしまったが、自惚れではなく自分に対して二度も三度も追い打ち
をかけることはまず無いだろうと思うし、彼女の態度を見ればそれで間違いなかろう。
そう、彼には心にひっかかることがあった。
夢で出会ったもう一人の『レヴィ』の存在である。
だが、夢を見ている間自分の身体は確かにここにあったのだ、なのに何故殴られた跡があると
いうのか。
頭の中で様々な可能性を擦り合わせては否定する。
夢だ、そうだ、そうに決まっている。
違ってたまるか。
退散するべく立ち上がるドクターに続いてドアに向かうレヴィ。
彼はドアまでで良いと彼女を制し、ロックにも聞こえるような棄て台詞を一つ。
「二度と俺に痴話喧嘩の尻拭いをさせようなんざ思うな。びーびー泣くくらいならハナっからやり
 合うなってんだ」
真っ赤になってわめき散らすレヴィを尻目に何やらブツブツと呟きながら、初老の男は去って
いった。



247 :名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 22:57:44 ID:yb+EqjYC
二人きりになった室内。
ロックにはどうしても言いたいことがあった。

あれが夢だろうと何だろうと…知ったことか。
「レヴィ?」
「ぁんだよ」
おいでおいでと手招きする。
かったるそうにため息を吐き彼の目の前に立ちはだかる彼女の腕を取り、傍らに座らせた。
まずは挨拶代わりに軽口の応酬でもするかと、頭を撫でながら「心配で泣いちゃったの?」と尋
ねると「んなわきゃねぇだろ」と手を払われる。
「ホント、レヴィは俺のコトが大好きだね」
とりあえず…思ったことを言ってみる。
「はっ…何だよそりゃ…馬鹿だろ、お前」
悪態は吐いても真っ向から否定しない彼女が途方も無く可愛い。
「誰もいないんだから照れなくたっていいのに」
目の前の身体を腕の中に閉じ込めるとそのまま身を任せてくれる。
「誰も照れてねぇよ!……お前、何かいつも以上にうぜぇな」
そう言いつつ、彼の肩に額を寄せる。
「ねぇ、レヴィ?」
「だぁから…、何だってんだよ」
「俺、24時間起きてなくちゃいけないんだけど」
「………だから…アレなんだって…」
「…俺、ナンも言ってないけど…?」

面白いくらいに真っ赤に染まっている目の前のうなじ。
「ねぇ、レヴィ…」
彼にしがみつく、小さいのに無骨な掌。
埃っぽく軋む髪を撫でる。

「会いたかった」

【余談】
「ご…ごめんなさい」
「………何がだよ?」
「えっと……は…話を聞かないで…?」
「何で疑問形なのさ?」
「…………ぁ……その…そばにいて?」
「………質問に答えてない…まあいいや……それで?何でそばにいて欲しいの?」
「あ…。さ…淋しくて死んじゃうから…?」
「だぁかぁらぁ!何で疑問形なの?」
「…ぁ…ごめんなさい……でも……何て言えば…嫌わないでいてくれる…?」
「……………………………あー………………………ごめん…」




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