368 :名無しさん@ピンキー:2008/10/16(木) 02:27:04 ID:TcaKScjs

レヴィとロックは憔悴していた。
薄汚れた…などという表現じゃ生温いようなボロを纏い、やつれ果てていた。
もう何も考えたくはない、ただ貪るように…泥のように眠りたい。
いつもなら熟睡できないと不満ばかりのラグーンの硬くて粗末な簡易ベッドだって天使の羽に包まれているかのごとき至福の
寝床。
一人で寝るにも狭苦しい小さなそれに二人分の身体を器用に収め、今まさに夢の世界への旅路へと出立せんとしている。
疲れた。
だが、人間不思議なもので、あまりに疲労が重なるとどんなに眠くても眠れない。

ロックは、眠いはずの瞼をこじ開け腕の中の女の顔を眺める。
あどけない顔で眠るその顔は少しやつれ、隈が酷い。
労わるつもりで頬に触れると、酷く荒れてボロボロの肌。
ああ、そう言えば。
この女は南国の空の下、どんなに陽光を浴び、偏食、深酒、喫煙しても、常に健康的な肌をしていた。
こんな女でも、一応手入れのようなものをしていたのだろうか…いやまさか。
謎だ、ロアナプラの7不思議の一つに違いない。
あとの6つなど彼の知ったことではないが、こうして荒れた肌を見ると彼女も人間なのだと思う…言ったら殺されるだろうが。
頬に残る切り傷を舐めながらそんな心底どうでもいいことを考えていると、レヴィがうすぼんやりと瞳を開ける。
起こされた事に不満げに口を尖らせ、むずがるように身体をもぞもぞと動かす子供のような仕草。
「大丈夫だよ、まだ寝てても。陸には当分つかない」
あやすように頭を撫でてやると、「狭い」と呟く声。
「だから俺はハンモックで寝るって…」
「うるせぇ、いいんだよ、コレで」
そう言って彼のシャツを握り締めると頭を摺り寄せる。
狭いと言ってみたり、添い寝しろと言ってみたりと我が侭この上無い。
そのクセ、一人で再び睡魔の虜囚にならんとする彼女。
ロックは、意味も無く構って欲しくて、眠らせまいとわざと問いかける。
「陸に戻ったら何したい?」
「…………シャワー浴びる。まともな寝床で寝る。具合悪くなるまで酒とヤニをしこたまヤる。人間のメシを食う。」
鬱陶しそうにぞんざいに答える彼女にリクエスト。
「最後に『俺とゆっくりいちゃいちゃする』も付け加えといてよ」
「うるせぇな…寝るんだから黙ってろ…」
そう言いながら頭を摺り寄せて来る。
この様子だと『NO』ではないのだろうが………疲れているのだ。
そう、彼女は疲れている。
彼だって本当は疲労困憊だ。
先程までの12日間を思い出し改めて沸き起こる疲労感に、たまらずレヴィを抱く腕に力が篭った。


369 :名無しさん@ピンキー:2008/10/16(木) 02:28:10 ID:TcaKScjs
組織が巨大になれば、いわゆる内輪での揉め事の数も多くなる。
今回のきっかけだって三合会の内部抗争だ。
その日の仕事を一言で言えば【親書を渡す】、それだけのはずだった。
そう、遠洋の豪華なクルーザーにてお待ちの香港マフィア急進派幹部様へ張の親書を手渡し、「では、ご機嫌よう」とお別れ
する、ただそれだけ。
肌の色に著しいコンプレックスをお持ちの先方に配慮し、黒人のボスや白人の同僚ではなく同じ肌色のロック、そして彼の護
衛としてレヴィが先方の船に乗り込み、相手幹部と会見したのだ。
初めから雲行きは怪しかった。
彼ら二人が広東語どころか北京語すらもまともに解さなかったことが先方の悪感情を煽った。
それでもどうにか英語で挨拶を交わし、ロックから手紙を受け取った男は、その封を開けることもなく、さもつまらなさそうに灰
に帰した。
張の依頼内容に、親書を「読ませる」ことまでは含まれていない。
それ故、手紙をどうしようと先方の自由であり、特段支障は無かった。
だが、あとはロックお得意の社交辞令で座を辞そうという段となり、突如響く爆発音。
それと同時に唸るクルーザーのエンジン。
取り敢えず、只では返してもらえないらしいことを察した二人ではあるが、何分相手は三合会の大幹部様。
張からも可能な限りコトを荒げるなと言い含められているため、母船と引き離されそうであることを察しても派手に行動を起こす
ことが出来ない。
ロックが相手の意図を探ると、要は親書などという遠まわしなものを、偉大なる中華の言語も解さず…しかも正装すらできない
ような人間に持たせるなど自分を舐めているにも程がある、後悔させてやる…的なことのようだ。
どうやら彼・彼女を辱め、なぶり殺して死体かその一部を送りつける腹づもりらしいが……彼がどれほどいたぶられ、彼女が凌
辱の限りを尽くされようと……果ては死体になろうとも、張は痛くも痒くも無いだろう…何の疑問も無くそう思う。誰だってそうだろ
う。にも関わらず、だ。
……いるんだよなぁ…どこの国や組織にも、こういう人…と頭痛を覚えながら、さてどうしたものかと考えた。
確かにこういう類の面倒な人間に会うにあたり、レヴィの服装はマズかったかなぁ…などとは思うが、だからと言って今更どうこ
うしようもない。
自分がリンチされるのはもちろん歓迎しがたいが、彼女がレイプされる様など更に耐え難い。
実力行使に出るにも、脱出先は、無い。
さすがのレヴィも彼を守りながら相手を薙ぎ払うのは…無理だろう、何せ張と肩を並べる大幹部だ、本人はいざしらず腕こきの
部下位侍らせているに違いない。
張の顔を潰せないとでも思っているのか、レヴィも随分静かなものだ…そう思い窺うと、退屈そうにあくびを噛み殺していた。
この期に及び、更に相手を煽りかねないその態度…人の気も知らないで暢気なものだと文句の一つも言ってやりたくなる。
相手はあからさまな不快の目で彼女の全身を舐めるように睨め回し、何を思ったか視線を好色なそれに変えてこう言った。
いわく、自分の愛人になるならば彼女だけは助命してやろう…と。
…とりあえず、目の前の男が可哀相な位に解りやすく、有能か無能かで計れば後者に分類されるであろうことは理解したが、
だからと言ってそれだけで力関係を逆転できるハズも無く…。
相手の機嫌を損ねず、かつ彼女を「守る」方法…彼は必死に考えた。


一方の彼女も考えた。
自分一人ならばいざしらず、2人無傷でこの状況を切り抜けるのは…正直厳しい。
かと言って彼を放ってどうにかするなど…自分には逆立ちしたって出来よう筈も無い。
ならば適当に相手に合わせて機を伺うしかあるまい。
そう、この場で役立たずの彼を生かすにはそれしかない。
「あたしは手がかかるぜ?」
薄く笑って、寝る時以外はいつだって肌身離さない硬く冷たい相棒をベルトごと身体から外すと、隣で唖然としている男に委ねる。
彼の顔を見ることなく、向かいに腰掛け薄笑みを浮かべる男に膝立ちで跨がった。
いきなり腰から手を突っ込んで尻を揉みしだかれ総毛立つが、派手に喘いで相手を煽る。

「レヴィ!?」
思わずその場に立ち上がって悲鳴のように彼女を呼ぶロック。
彼女はそんな彼を振り返り、鬼のような形相で睨み付ける。
「うるせぇな…命あっての何とやらさ。あんたにゃ悪いが、やっぱ自分が可愛いモンでね。残り少ない余生、有り難くソコでマス
 かいてろ、馬ぁ鹿」



370 :名無しさん@ピンキー:2008/10/16(木) 02:29:19 ID:TcaKScjs
レヴィが相手のイチモツを引きずり出して口にくわえ込んだ時点で、控えていた部下達は無言で部屋を辞した。
相手の悪趣味から、ロックはその場に残ることとなったのだが、当然というか何というか…彼女によって託された二挺の銃は敢
なく没収と相成った。
彼女に立てる面目が無くて情けない。そして何より…目の前で繰り広げられる光景に気が狂いそうになる。

自惚れではなく、自分達の間ではそれなりの信頼関係が成立していると思っている。
彼女が本心からあのような発言をしたわけではないのも解っていた。
解ってはいるが…だからと言ってこの光景に…何故堪えられよう。

二人の男の間にある広いテーブル。
彼女は今…その上で大きく股を広げて自慰をしている。
股間を相手に向けているため、ロックは彼女の背中しか見ることが出来ないのだが、彼はそのことにどこか安堵していた。
まじまじと顔を見れば…そう、掻き抱かずにはいられまい。
だが、それをすれば彼女もろとも身を滅ぼす。
「……レヴィ…もう…いいから……」
目の前の彼女をこちらへ引き寄せようと腕を動かすと、それを見咎めたように彼女は一際派手に喘いで制止する。
顔を上げ、何故気取られたかを考える。
船首に位置するこの部屋は、ほぼガラス張りで海を見渡せる設計となっている。
光の差し方の妙か、丁度彼等に対面する窓は鏡とまではいかないまでも目の前の光景をそれなりに鮮明に映し出していた。
彼女は窓に映る彼の挙動で、彼の短絡的な行動を見咎めたのだ。
つまりは、ずっと彼を見つめているということに他ならないのだが、何故自分にはそれを振り切り、彼女を抱きしめるコトが出来
ないのか…。
彼は自身の不甲斐なさに唇を噛んだ。


「女、どうしてほしい?」

二人と向かい合って座る男が問う。
レヴィは一瞬ガラス越にロックを窺ってから、「あんたのコックをあたしのナカにぶち込んで。突きまくって」といかにも淫欲に溺
れた声でせがみ、自らの指で性器を割り広げて顕わにする。
男はおもむろに立ち上がると、彼女の髪を掴んで自らの側へ引っ張り寄せ、再び悠然と腰掛ける。
「そこで死にそうな顔をしている男に見えるように…してみろ」
そう言って彼女の顔をロックにも向かせ、腰を自らの方へ引き寄せる。
レヴィはロックを一瞥し一瞬だけ悲しそうに顔を歪ませ…それでも男に向き直ると言われた通りに自らを貫いた。
苦悶と屈辱を、目を固くつむることでやり過ごす。
ロックとする時には恥ずかしい程に淫らに溢れる体液も、枯れてしまったかのように出てこない…。
あんな状況下の自慰では濡
れないのも当然かもしれない、事実全く気持ち良くなんかなかった。
男のモノを文字通り「捩込んだ」苦痛のあまり暫くは息が出来ずにパクパクと口を動かす。
「何をしている?自分で動け」
冷ややかに命じられ、彼女は痛みをこらえながら抽送を始めた。
髪を振り乱しながら、腰を振る彼女の尻を割り、揺すりながらも結合部を見せ付ける男。

肉のぶつかり合う乾いた音が室内に響く。


371 :名無しさん@ピンキー:2008/10/16(木) 02:33:10 ID:TcaKScjs
「イイ…!ぁっ…突いて…お願いだから……あん…はぁっ…あ、あ、あ…イイ!あ…」
普段レヴィはこんな感じ方をしない。
その言動から性に関して奔放と思われがちな彼女だが、余程でない限りは声を殺して快楽に耐え続け、堪え切れなくなって初
めて声を上げる。
彼女の素顔を知っているからこそ、ロックには今の彼女の有様が白々しく思えて仕方ない。
どんな顔をしているのか気になって、視線を自分の足元から正面へと向ける。
彼女は、男の身体にしがみ付き、髪を振り乱して喘ぎながらも…じっと彼を見据えていた。

自ら腰を振る彼女の目には、唇を噛み締め俯き、拳を震わせる相棒の姿が映っていた。
彼の名前を呼び、そんな顔をするなと言ってやりたいが、今は駄目だ、今はまだ…その時ではない。
さっきあんな言い方をしたコトで嫌われただろうか…まさかアレを言葉通りに受け取るような馬鹿タレだとは思わないが…あの
様子では相当キているに違いない。
運よく揃って戻れたならば、独占欲の強いこの男は嫌というほど求めて来るのだろう、…内心うんざりする。…それでも胸糞悪
い下衆に媚を振りまき犯される屈辱に比べれば遥かにマシなことだと、訪れるアテの無い二人きりの時間を想って薄く薄く微笑
んだ。

彼の目に映る彼女は微笑っていた。
苦しげに顔を歪ませ喘ぎながら、それでも尚彼を見つめて微笑っていて…そんな彼女を綺麗だなと、そう思う。
目が合うと、彼に向けて「待ってろ」と動く唇。
待ってろってナンだよ…そんなにされてもまだそんなコトを言うのかよと、えもいわれぬやるせなさに襲われる。
駄目だ、やはり正気ではいられないと視線を逸らした彼の目にはエメラルドグリーンの海と澄み渡る空。
一面に広がるその光景に逃げ塲など何処にもないことを思い知らされた。


425 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/10/28(火) 16:06:24 ID:Fi0muHCY

腕の中で寝息を立てる女を眺めながら、こうやって大人しくしていればレヴィは掛値無しに美人だと、そう思う。
そりゃ起きていたって綺麗なのだが、常に口を歪ませ、そこから出て来る言葉は口汚いスラングばかり。
笑うと可愛い大きな目だって、常に剣呑に細められ、周りを威嚇している。

なのにあの男に犯されながら浮かべた笑みは、日常的に寝所を共にする彼ですら滅多にお目にかかれないような穏やかなも
ので、この女にはおよそ似つかわしくない慈愛という言葉すら脳裏をかすめた。
きっとそれを本人に言えば、二度と見ることは叶わないだろう。だから胸に秘める。この女は存外に照れ屋なのだ。
そう、そういえばそんな照れ屋な女の顔をこうしてじっくりと観察する機会は、意外なほどに少ない。
最近はそれほど拘らないが情事の際は明かりを消してしまうことが多く、点いていても顔や身体を長いこと見つめていると、気
まずそうに目を反らし、行為を終えると背中を向けてさっさと眠ってしまう。
明るい場所でこんな風に甘えて眠るなど、かなり珍しい。
すっかり身体に馴染んだラグーンの振動に身を任せながら、それでも最近はかなり無防備になっていると思い直す。
彼女の部屋で初めて身体を重ねた時など、キスもさせてくれなかったし、彼女から自身を抜いてスキンを外した途端に、「抜
いてスッキリしたなら帰んな、あたしゃもう寝るから」と、余韻を噛み締める間も2回目に誘う間もないまま部屋から追い出され
た。
その日は何となく勢いで寝てしまったことも否めず、この街ではみんなそんなものなのかと諦観したものだ。

そうして何となくで始まった関係は何となく続き、何となくいつも隣にいる。
はじめは固かった関係も何となく軟化して何となく自然にキスを交わし、何となく気負いの無い自然体のセックスをするようにな
った。
ロアナプラに来て、様々な葛藤や決断を経て今ここにいて、そんな中には彼女との衝突や言い争いだってあったのだが、彼女
と重ねる肉体交渉は全てが「何となく」の延長だ。
女性経験がそれほど豊富なわけではないが、それでも彼女とのセックスはとりわけ気持ちがいいと、そう思う。
いわゆる締まりがいいとか悪いとか、テクニックに秀でているとか、そういう類の肉感的なことでは無く、飢えや渇きを満たされる
感じであるとか、彼女の一番近くで一番深いところに触れることが出来る…そんなような充足感がたまらなく心地いい…と。
はじめからそうだったろうか。
初めて彼女と寝た時は、そんな事を考える余裕なんか無かったように思うが、かと言っていつからそんな心地良さを覚えるよう
になったかもわからない。
これだって気がつけば何となくそう思うようになった、それだけの話だ。
何となくの繰り返しだった筈なのに、気が付くと狂おしいほどに彼女が欲しい。
欲しいだけじゃない、他の誰にも触れさせたくなどない…だから。

あの日のことを思うと、わめき立てたくなる。やめてくれ、この女は俺のモノなんだ…と。

426 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/10/28(火) 16:08:54 ID:Fi0muHCY
男の行為は、どちらかと言えば自身の快楽を追うよりもレヴィをなぶることに重きをおくようなものだった。
声をあげながら腰を振る彼女の姿を、発情した野良犬でも見るかのように冷ややかに眺める。
彼女の動きが鈍ると不意打ちのように責め立て、その度に演技なのか素なのかも判らぬ彼女の悲鳴が部屋に響く。
もうかれこれ20分は、そんな具合だ。
日差しの角度が変わったのか、船が進路を変えたのか。
目の前の窓は、その向こうにある海を見せるのみで、彼の目に入るのは、犯され続ける彼女の後ろ姿。
見慣れているはずのハダカ。なのに陽の降り注ぐこんなに明るい場所で見る機会は彼にとってもそう多くは無く、ピンクに染ま
った汗ばんだ背中がしなる様も、そこに張り付く髪も、やけに鮮明でいやらしく見えた。
男が殆ど服を脱いでいないため、余計に淫靡だ。
脳が拒むため直視していないが、結合部はかなり濡れているに違いない。彼女の淫声の他にくちゅくちゅと湿った音が聞こえ始
めてかなり久しい。
さすがに長時間男を受け入れ続けて膣も柔らかくなっているのだろう、演技の中に垣間見えた苦悶の色は声からは消え失せ、
認めたくはないが……喘ぐ声に演技とは違う艶が顔を覗かせる。
一方の男の顔からも徐々に余裕がなくなり始め、疲れ始めた彼女が項垂れると腰を掴んで思う様責め始める。
何度目かわからぬ悲鳴を上げ、程なくして彼女の身体が大きく痙攣、硬直する。
傍目からも上り詰めてしまったのだとわかるその様子に、目を固くつむる。

「ぁ…ああっ!も…ダメ!…やめ……!ダメだっ!ヤだぁぁああっ」

達したばかりのレヴィを尚も責める男。
泣きわめきながら快感の波から逃れようとするが、相手を殴り飛ばすわけにもいかないためにそれもかなわず…声を震わせな
がら達し続ける。
そんな彼女に促されたのだろう、男の動きが止まる気配。
溜息の後の男の荒い呼吸と、レヴィの鳴咽混じりの引き攣った呼吸。
低いエンジン音がやけにうるさいように思う。



レヴィは、何年かぶりに覚える惨めさにただただ唇を噛む。
無敵の女海賊として名を馳せて以降、こんなに惨めたらしく涙を堪えることなど無かったのだ。
相棒の前で散々イかされた揚句、体内で男の精を受け止めて…力の抜けた身体を目の前の男にもたれかけるしかない…この
上なく許せないことだ。
そういえば、2日前ロックが中で出した時には怒鳴り散らしてやったんだ、今日は出してイイと言っていない、種を蒔きたきゃ別
の女を捜しなと。
彼との口論を思い出し、こんなことならロックの方が万倍マシだったと…今更ながら思う。

熱で溶けていた脳みそが冷えて固まっていく。
………自分は今、ロックに何て姿を晒しているのだろう。
あまりの惨めさに、本格的に泣きそうだ。



時が止まったかのような沈黙の後、男は一言「悪くないな」と呟き「随分乱れていたが、そんなに良かったか?」とレヴィに問う。
良かったかだと?そんな筈があるものかと内心で唾を吐きながら、男にしな垂れかかったまま「サイっコーだった」と媚びを売る
レヴィ。
男はそんな彼女を「淫乱な女だ」と鼻で笑い、褒美だと言ってソファで股を開くよう命じた。

男の死角で嫌悪を顔にしながら、そういえば先程から不気味なほど静かな男はこの有様に壊れていないかと少しばかり心配
になる。
かといって振り返り確認するわけにもいかず、逆らう権利も与えられていないため、結局は男の命令に従うしかない。
「まだヤり足りねぇのか?…腹の中でデカくなってる」
そう耳元で囁きながら膝を立てると、ずるりと彼女の性器から男の性器が抜けた。
彼女の女の穴からどろりと粘着質な白濁液が零れ落ち、男のスラックスを汚す。
あーやっべー…などとロクでもないことになりそうな予感に気を滅入らせていると、案の定…彼女の中のソレをテーブルの上に
残らず垂らし舐めとれとの命令。
…このド変態野郎、ぜってぇ楽に殺さねー。
張との約束も忘れ、どんな風に殺すかとシュミレートしながらテーブルに乗るべく後ろを向くと、先刻から気に掛かっていた男が
一瞬目に入る。
彼は…何かをこらえるように片手で顔を覆い、震えながら俯いていた。

427 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/10/28(火) 16:10:44 ID:Fi0muHCY
男の前での2度目の淫らなショウタイムを終えたレヴィが、広いソファに仰向けになると、物のように男の方へ引っ張り寄せられ
た。
ジャケットを脱いだ男が脚の間に陣取るのを他人事のように認識しながら、男の脇にぶら下がっている回転式拳銃を視界の隅
に入れる。
先刻抱きついた時に気付いてはいたが、直に見るとなかなか威力がありそうなシロモノだ。
さて、こいつを奪えば形勢逆転と相成るか、などと考えるも…前提である奪う行為すらリスクが高い。
それが出来れば最初からこんな惨めなことなどしない。

そんなことを考えているうちに入り口にこすり付けられる、身体に馴染んだそれとは違う男性器の感触。
そうだ。これからまた犯されるのだ。
気持ちが悪い。
湧き上がる嫌悪感を顔に出さぬよう深呼吸するレヴィに、男はショウタイムを見る気の無い観客のため行為の実況をしろという。
こんな胸糞悪いことを更に口に出せというのだ、しかもすぐ隣で耐えている相棒に聞かせるために。
いやだ。
本当は言いたい。
触るな。
気色悪い。
こんなコト、ロックとでなけりゃいやだ。


そんな泣き出す寸前の裏返った声音を、どうにか淫欲に溺れたそれに聞こえるよう必死でコントロールしながら、不本意な台詞
を紡ぐ。
「…ぁ…アンタの…アンタのペニスが…擦りつけられてる」
「何処に」
「……あたしの…ヴァギナに」
復唱を命じられ、それに応じると…何故だか解らないが再び股が濡れてくる。
悦んでいるかのようなそんな反応に、たまらなく吐き気がした。

男は従順な彼女に気を良くしたのか、次はおねだりを強要する。
うぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇ!!!!!
ヤるならさっさとヤれよ。こっちはさっさとこんなのは終わらせてぇんだ!
男への殺意がますます燃え盛るが…だからと言って出来ないなどと言えるはずがない。
押しつぶされそうな憂鬱の中、もう煽るだけ煽って終わらせようと腹を決め、ロックにしかしたことのないような甘えたおねだりを
してやると勿体つけるようにゆっくり彼女の中に押し入って来る張り詰めた男根。

「ほら、どうなっているのか言え」
「ん…アンタが入って来た…ぁ…デカ…いっ…奥まで…奥に…当たって…ぁ…抜けて…また…入って来たっ…」
何ヤってんだろ…あたし。
冷め切った頭で自嘲する。

「気持ちがいいのか」
「イイ!はぁ…太くて…擦れて……ぁん…」
別に馬鹿みたいにデカくなくたっていい。
仮に下手糞だろうとナンだろうと、アイツに抱かれればきっとそれだけで気持ちイイようにあたしのカラダは出来ている。

「浅ましい女だな。もっと寄越せと締め付けてくるぞ」
「はぁ…ぁ…アンタの…がっ…すご…気持ちイイから…ッ」
「そこの男のモノよりそんなにイイか」
どっちがイイかなんて比べるまでもないのだが…肯定にしろ否定にしろ下手なコトを言って彼に矛先が向かうのだけは嫌だった。
「…そんなヘタレとっ…ヤっ…たコトなんざ無ぇ…よっ!…どうせ…大したナニなんか…ついて無ぇ…」

レヴィは叫ぶ。
違う。違う。違う。違う。ロック。違うんだ。
聞くな。本当は気持ち悪くてたまらねぇ。
本当はお前じゃないといやだ。
だから…そんな顔で見ないで。

気付けば相棒である男が…恐ろしいくらいの無表情でこちらを見つめていた。

428 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/10/28(火) 16:11:52 ID:Fi0muHCY
ロックはレヴィの口から紡がれる行為の詳細を聞きながら、様々な感情が溢れ出しそうなのを必死に堪える。
このままで二人生きて戻り、昨日までのように抱き合うことが出来るのだろうか。
望みは果てしなく薄い気がする。
どうせ彼女が犯し尽くされる様を見届けた後、自分は殺されるのだろう。
それならば、このまま此処にボケっと座り唯一無二の女が凌辱されているのをただ眺めていることに何の意味があるだろうか。
彼女が待っていろと言ったところで、当の本人は丸腰どころか全裸ではないか。
日の入り方から推測するに、船は北西に向かっていると思われる。
太平洋に向かっているのではないのなら、そのうち小さな島の一つでもあるかもしれない。
……結局荒事は彼女任せになるのだろうことは心苦しいが、今更それを気にしても仕方がない。
とりあえず男の動きを封じてしまえば、この部屋には自分達だけ。
確認できる範囲に監視カメラも無い。
船の大きさからボスの私室も兼ねている可能性は高い。恐らく、入って来たものとは別に備え付けられている出入り口は寝室
だろう。
そう考えれば、部下によって監視されていないことに賭けてみるのも…悪くない。
うまくやれば彼女と二人必要な準備も出来るだろう。
仮にカメラがあったとして…女を抱いている時まで監視するだろうか…これはあるとも無いとも言い切れないが…もうどちらだろう
と構わなかった。
見られていたならその時は地獄で彼女に謝ろう。許してくれるかは解らないが。

ああ、そうだ、その前に。
どちらかが死んでしまう前に、逃げずにちゃんと言わなければいけないことがある。






429 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/10/28(火) 16:12:25 ID:Fi0muHCY
男がレヴィの身体を愉しんでいるのは明らかだった。
それはそうだろう、彼女は綺麗で、そして魅力的だ。
とりわけセックスの時には上気して桜色に染まった頬、切なげに潤む大きな瞳が扇情的でたまらない。
そんな彼女の表情に堪らなく興奮するのは…ロックにとっていつものことだった。
身体だって男の劣情を煽る。
無駄な肉の無い身体は、だからといって貧相なのではなく、女としての象徴はいつだって男達の目を釘付けにする。
カタチの良い豊かなバストは柔らかく温かで、愛撫すれば眉を寄せて快感に喘ぎ、顔を埋めて甘えると彼女の匂いが鼻を抜け
る。
程よく張った腰は抱き締めるのに丁度良く、強引に掴んで荒々しく突き上げる時には掌によく馴染む。
意地っ張りな彼女の快感を伝えてくれるしなやかな四肢。
温かな愛液に満たされた性器の中に潜り込むと、内壁がひくひくと蠢きながらぴったりと彼を包み込む。
何度抱こうと決して飽きることのない身体。
夢中にならない男がいる筈がないと、そう思う。
男は、彼女の両の足首を乱暴に掴み、自分が快感を得られる角度を探すように押し上げたり開かせたりと、彼が愛してやまな
い身体を道具のごとく扱う。
そのたびに上がる嬌声と、男の欲望が彼女を蹂躙する音を聞きながら、沸き起こる怒りややるせなさを悟られぬよう努めて無
表情を装う。
だから。
男が彼女の唇を舐めるべく身を屈めたことにより遮られていた視界が開けた時に、遥か彼方の島影に手を叩いて喜びを表現し
なかったのは奇跡だと思う。

進行方向に島。
男は両手で彼女の身体を抑えつけて可愛い唇を奪っている。
返せ。その女は俺のものだ。
押さえ付けていた様々なものを一瞬で爆発させるように一気にテーブルに乗り上げ、豪奢な石製の灰皿を男の頭に振り下ろす。
自分の欲を女へぶつけることにひたすら熱心な男は…呆れるほど無防備だった。
異変に対する反応が一瞬遅れ…その脳天へまともに鈍器を受けることとなる。
ゴスッという鈍い音。
反射的に頭を覆う手を掴み、クッションを顔に押し付けた。
期待通り、レヴィもそのあたりは要領のよい女である。
一瞬驚愕の顔を浮かべはしたが、すぐに男の懐から銃を奪い、それまで自分を犯していた身体を押さえつける。
「クソっ…また中で出しやがった」
堪えていた嫌悪感をここぞとばかりに顔に出し、打撲のショックで射精した相手を更に殴る彼女に真顔で告げる。
「レヴィ…喘いで。大声で」
女の喘ぎ声が聞こえれば、部下もおいそれと踏み込んでは来ないだろう。
彼の意図を察し、彼女は先程以上に派手に声をあげ始めた。
もがく男を二人がかりで押さえ付け、殴りながら頬を寄せて唇を軽く合わせる。
「ああぁぁあっ…もうダメっ…ダメぇ!ヤ…っ…ぁあ、あっ、あ、あ!来てる来てる…あぁあ…ぁ…ダメぇ!」
こんな具合に喘ぎながら、彼女はさも面白そうに笑っている。
喘ぎ声の合間に彼の耳元で「堪え性が無い野郎だ」と小声で囁く。
「これでも我慢したんだ。これ以上我慢したら気が狂っちまう」
彼に出会うまでの人生、望む望まないに関わらず何人のナニをブチ込まれて来たか…本人ですら覚えていないのに。
そんな女にしゃあしゃあとそんなコトを抜かす男に笑みを堪えられない。
彼のお陰で事態はややこしいことになったというのに、そんなことはどうだってよかった。どうせあのままあの男に犯されヨがっ
ていたところで、事態が好転する見通しなど無かったのだから。
気絶し、すっかり力の抜けた男の腹を尚も殴り付けるレヴィ。相変わらず喘ぎ声を上げてはいるが、心なしか語尾に殺気が篭
っている。ジャケットを脱いで彼女のむき出しの肩に掛けてやると殴るのをやめ少しだけ嬉しそうにはにかみ、ポスッと身体を預
けてくる。
頬を撫でてやると擽ったそうに身体を震わせ、甘いため息を一つ。
演技なのか、素なのかははっきりとはわからないが、ドアの外まで聞かせる気はなさそうなところを見ると、素なのだろう、多分。
気を取り直して再び声を上げ始めた彼女の耳に口をつけ小声で囁く。
「…レヴィ。進行方向に島がある。船に乗り込む時に小型のボートがあったよな?」
耳にあたる彼の吐息に、身体を震わせて声に演技ではない艶を載せる彼女は、それでも島を目視し言われた意味を理解すると、
深々とため息を吐く。
「相変わらず無茶言いやがる。ったくよぉ、薙ぎ払うのは誰だと思ってんだ…」
そう小声で言いながらも笑顔で立ち上がると…途端に顔を青くし「ロック、ティッシュくれ…股がどうにも気持ちわりぃ」と彼に向
けて手を伸ばして来る。
彼女の脚は…股間から零れ落ちる粘度高めの体液で激しく汚れていた。

430 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/10/28(火) 16:13:19 ID:Fi0muHCY
嫌なことを鮮明に思い出し、ネガティブな思考が頭の中で堂々巡りだ。藪蛇に陥っている、明らかに…。
お互いを相棒と呼び合う彼女と何となく持つ、それ以上の深い関係について意味を確認合ったコトなど一度たりともない。
どちらかが求めればそれに応じる。
彼女の思惑について、自分に都合の良い理由付けならいくらでも出来る。
だが、彼女がどんなつもりでそんな関係を受け容れているかは解らないままなのだ。
解らないが…、気付けば何となく互いにセックスの相手は固定化されていて…だが、だからといって誰と関係を持とうと干渉す
る類の問題ではない。
それなのに、彼女が自分以外の男を受け入れたのだと思うだけで、あんな行動を取った彼女が、彼女を犯した男が、自分達
をあそこへ遣った張が…何より、あんなことをさせてしまった自分の不甲斐無さが…あらゆることが許せなくてたまらない。
ロックはどす黒い澱が己の腹の底に溜っていくのを感じていた。

だめだ、ガマンができない。
腕の中で安心しきった顔で眠るレヴィを寝台に押し付け、首筋に鼻を埋める。
再び寝しなを起こされたレヴィは、眼を閉じたまま眉をしかめると、不機嫌を隠しもせずに彼の身体を押しのけようと激しくもがく。
「ってめ…『いちゃいちゃする』は最後じゃねぇのかよっ…」
暴れる腕ごと身体を抱きすくめて縋り付く。
「うん。でもごめん、一回…だけ…」
「『一回だけ』じゃねぇ!クソ馬鹿が!眠いんだよ…ダッチとベニーも居やがるし…」

ロックは真っ赤な顔で言い淀むレヴィの胸に顔を埋めて擦り寄せると「うん。でもエンジンの音で聞こえないよ…。あのさ、
俺はさ、『レヴィと』シたい。レヴィじゃなけりゃ嫌だ。…レヴィは?」と甘えるように見上げてくる。
ああ、とレヴィは思う。
この男はどうせまたロクでもないことを思い出したのだ。
意地悪をして『別に誰とヤったって変わるか。でも今は誰ともヤりたくねぇ』とでも言ってやろうかと思ったが、それを言って痛い
目を見るのは、まことに遺憾ながらも自分だということは容易に想像がつく。
それに、先日の出来事で彼が傷付いたことも承知していた。
そう、想像はしていたが…あれから彼は事あるごとにこうして縋りつくような不安げな目で彼女を見る。




431 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/10/28(火) 16:16:15 ID:Fi0muHCY
男から奪った銃は悪趣味ににカスタムされたコルトパイソンで、全弾装填されていた。予備の弾薬も6発。
身体の外も中も隅々まで洗いたくてたまらなかったが、そうも言っていられずとりあえず脱ぎ散らかした自分の服を着込む。
ロックに、合図をするまで陰に隠れているように言い付けると、彼は何かを言いたげな瞳で彼女を見つめる。
だが今は彼の「逆切れ」に付き合っている暇も余裕も…一切無い。そう判断してネクタイを引っ張り噛み付くように乱暴なキス
をかましてやると、ドアに耳を宛てて外の様子を探る。
気配から、控えている人数はそう多くはなさそうだった。
まずは手持ちの装備でどうにかするしかあるまい。
愛用のカセットプレイヤーが無いのが惜しまれる、アレは集中力を上げる絶好のアイテムだ。
頭の中でお気に入りのナンバーを掻き鳴らす。
トリガーに掛ける指で小刻みにリズムを取りながら大きく深呼吸。
脳内のツインギターが競い合うように凶暴なフレーズを奏で、ベースとドラムがそれを盛り上げる。
…今だ。
目を見開き、ドアを引く。
目の前に現れる男の後ろ姿。
咄嗟に振り返ろうとする首筋に狙いすまして一発。
驚愕の表情で崩れ落ちる身体の向こうには更に二人。距離は4メートル。物に成り下がりかけの身体を摺り抜け、新たな獲物
を仕留めるべく標準を合わせ身体を翻した。

突如鳴り響いた銃声に、咄嗟に銃に手を遣る彼等は、結局引き金を弾く事なく崩れ落ちることとなる。そこに居合わせた不運な
彼等が確認できたのは、狂気を孕んだ瞳を見開き楽しげに薄く笑う女が一気に駆け寄る姿と、彼女によって向けられる真っ暗
な銃口だった。

3人を仕留めるのにきっちり6発使い切ったレヴィは、血だまりにしゃがみ込むと、血の泡を吹きながらヒューヒューと苦しげに
呼吸する男の懐をまさぐり、得物を漁る。
「お、ラッキー。ベレッタじゃねぇか。チャイニーズのクセにイカしてやがる」
自分も中国系のベレッタ使いのクセにそんなコトを口笛吹きつつ呟きながらまんまと銃と弾薬をせしめる。残り二人からも同じく
模造トカレフをせしめたところでバタバタと何人かの足音。

銃は四挺。
だが、この船のボスから奪った得物はあと6発。
そして使い慣れたベレッタはともかく、中国製の模造トカレフなどアテにし過ぎない方が賢明だ。
弾だって…決して多くは無い。
船の大きさから見積もって乗っているのは多くてもあと20人。
あとはいつも通り自分の悪運と腕を信じるだけ。
トカレフをサイズの合わない男物のガンベルトと腰のベルトに固定し、回転拳銃の弾倉に弾丸を装填する。
それにしても趣味が悪い。張の旦那以上だななどと苦笑しつつ再び集中力を高めるべく、ゆっくりと唇を舐める。

「レヴィ…」

彼の声が聞こえる。
足音は近い。振り返る猶予は無い。
だから銃声を響かせながら言ってやる。
「じゃ、征って来るからよ、いいコで待ってな、かわいいハニー!」
何だよ何だよ、アイツはヒロインかよ。
自分で言っておきながら何だか無性に可笑しくて…鉄火塲にありながら口元を緩めずにはいられなかった。


543 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/11/28(金) 22:48:22 ID:PCIU0klc

+++

結局、緊迫した状況に、彼が彼女に伝えるべきことは何となく宙に浮いたままとなった。
殺し合いに向かう彼女の気を削ぐ真似をしたくなかった…などと言えば聞こえは良いが、そんなのは後付けの理由でしかない。
そう、「何となく」だ。

レヴィは水を得た魚のようだった。
まずは、狭苦しい通路へ馬鹿正直に掛け込んで来た2人を仕留める。崩れ落ちる身体を盾にしつつ、敵連中との距離をつめる。
さすがにあとに続く連中は突っ込んでは来ず壁に身を潜めながら闇雲に撃ってくるがそんな弾がまともに当たるはずもない。
大体にして、壁から伸びる銃を持つ手を撃ち抜かれるか、いっこうに倒れ込む様子の無い標的の姿を確認すべく頭を出した時
点で脳漿を撒き散らすか頭蓋の中を弾丸でシェイクする運命と相成った。
レヴィは一人、また一人と相手を仕留めつつ一歩一歩対象へ近付くが、近付くほどにリスクも高くなる。
頬を掠めた弾丸が一筋の傷を彼女に残す。

さて、どう攻めるか。
用無しとなった回転拳銃を少し前方へと放り投げ、腰のトカレフを手に取り、いくつかの攻め方をシュミレートする。
シュミレートして…出した結論はただ一つ。

…メンドくせぇ!

小難しい戦術など必要な時に後ろの男が考えれば良い。自分には向かないことだ。
一気に駆け出しつつ、足元に転がる銃を思いきり蹴り上げる。
突如視界に飛び込む「何か」に敵は一瞬気を取られた。
だから、次に察した何かの気配に、視線をそちらへ向けた時には目の前に目標としていた女の姿。
だが、それを目視して認知、殺さなければと判断した上で標準を合わせ引き金を引く…その作業に要する時間は意外な程に
長く…対象が動くものであれば尚更だ。
恐れもなく舞うかのような身のこなしでそれをやってのけるレヴィが、ある意味で異常であるとも言えるのだ。

僅か数秒で新たな死体とその予備軍を5体作り上げたレヴィが、視界に立つ人間が消えたと判断し、新たな得物を頂戴するべ
く身を屈めると、突如ドタドタと豪快な足音が響く。
何だよ、どこにいたんだよと視線と銃口を向けてやると、官憲が持つようなアクリル盾を手にやけくそ気味に突っ込んで来る若
い男。
てめぇ何でそんなモン持ってんだよと思うのと、引き金を引くのはほぼ同時。
放った弾丸の何発かはかろうじて貫通し、相手の脇腹と肩に当たることは当たったが、当然ながら致命傷には至ることはなく、
勢いはそのままに突っ込んで来る相手に不自然な姿勢のまま押し倒される。
弾力のあるアクリルを男の体重ごと押し付けられて全く身動きが取れない。
真っ青な顔で血と涙を垂れ流しながらタガタ震え、広東語だか北京語だかで何やら喚き立てるチャイニーズ。
そんな滑稽な姿にいつもであれば失笑を漏らすところだが、今はそんな余裕は…無い。
必死に押し返そうともがくが、相手も必死に彼女を床へ押し付ける。

銃は先刻手放してしまった。
盾の透明な覗き窓から、上に乗る男が震える手で銃を抜くのが見える。こんな至近距離ではこんな板切れ意味が無い。
ああマズった。こんな雑魚に不覚を取るなんて。
今日は全くツイてない。下衆に犯され雑魚に殺される。
男の震える銃口が盾越しの自分の眉間とドテ腹の間をさ迷う光景は、スローモーションのようだった。
痛ぇかな、痛ぇよな、ったくよ。最低だ。

あ、そうだ、このままくたばったらロックも殺られるよな、あーあ、ツイてねぇよな、お互い。
守ってやるって、そう言っていたのに。
…ああ……畜生、こんなことならさっきちゃんとキスしとけばよかった。
最後のセックスだって喧嘩してふて寝して終わったんだ。
けどよ、ナンと言われようとアレはアイツが悪い。
でも…最後くらいちゃんとシたかった。
でも、ま、こんなモンかもな、死ぬ時なんざ思い通りにゃいかないモンだ。

一瞬で色んなことが頭を駆け巡ったが、どれもこれも相棒である男のことばかりで少しだけ悔しい。

544 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/11/28(金) 22:56:34 ID:PCIU0klc
男は頭も腹もやめて喉に狙いを定めたらしい。いい判断だ。イヤというほどあたしが苦しむ。
それにしても、いつ死んでもおかしくない稼業とはいえ……まさかこんな風に雑魚一匹に嬲られる最期など想像してなかった。
まったくもって厄災の大バーゲン。
あの世で神さんのカラダにケツ穴プレゼントしてやらねぇと。

そうは言いつつ、別に自殺志願者でもないから諦めは悪い。
あたしだって死んでるよか生きてる方が好きだっつーの。
そう言わんばかりにもがいていると、気付けば「………ロッ…ク…」と彼の名前を呟いていた。
別に助けを求めたわけではない。そんなコト、初めから彼に期待してなどいない。
理由なんて無いけれど、ただ…このまま死んでしまう前に名前を呼びたかったのだと思う。
目を見開こうか閉じようか迷って、閉じることにする。
最期に見るのがこんな雑魚の泣き顔だなんて冗談じゃない。どうせなら瞼の裏に相棒である男の姿を浮かべていたい。

……銃声と共に、自分を呼ぶ彼の声が聞こえた気がした。


545 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/11/28(金) 22:59:54 ID:PCIU0klc
何発かの銃声の後、人が揉み合うような気配とレヴィと若い男の喚き声が聞こえ、ロックはドアから通路を覗き見た。
彼の目に入ったのは、数メートル先で床に倒れ込みもがくレヴィの下半身と、暴れる彼女に馬乗りになる血まみれの男の姿。
「てめっ…ファック!泣きべそかくくらいなら退きやがれ!」
必死な彼女の声を聞き、助けたいと、そう思う。
だが、戦い、相棒である自分を守ることに己の存在意義を見出だしているフシのある彼女の自尊心を可能な限り傷付けたくは
ない。
だからいつだって自分は彼女が死んでしまわぬように祈るだけ。
それが自分の立ち位置だと認識してはいるが、それでも一番近くにいる女に守られるだけではなく、自分が守りたいと思ったっ
ていいではないか。
自尊心のために彼女が冷たい肉塊になるなんて冗談ではない。
そう結論を出すのと身体が動くのはどちらが早かっただろう。
足を踏み出す彼の耳に、自分を呼ぶ彼女の声。
目の前で彼女に跨がる男の手には銃。
一方の彼女は…丸腰だった、なんてことだと必死に手を伸ばす。
「レヴィ!!」男の首に腕を巻き付け、銃を持つ手を掴んでそのまま縺れ込む。
元よりパニックに陥っていた男は、何が起きたか理解出来ずに、彼によって逸らされた銃口から虚空に向けて引き金を何度も
引く。
連射式ではないとはいえ、あまり歓迎はし難い。
激しくもがきながら引き金を引き続ける相手を無力化するべく、レヴィによって開けられた脇腹の穴に思いきり掌を押し付け傷
口を爪でえぐり上げる。
激痛のあまり激しく暴れる男に拘束を振りほどかれるが、その後は痙攣しながら身体を丸めるだけの存在となった。
傷口を広げたことで出血が更に激しく、あと数分で気を失い事切れることだろう。

「…お前ってよぉ、たまにとんでもなくえげつないことしでかすよな…」
後ろからレヴィが「うわぁぁ」と言いながら覗き込む。
彼女に評価はともかく、無事な様子に感極まり…振り返って抱きしめようと腕を伸ばすと、露骨に顔を引き攣らせて後ずさられ
る。
「…え?レ…レヴィ?」
そんな拒絶めいた反応に思わず追い縋る。だが。
「ひぃ〜っ!馬鹿!触るな!」
気のせいではなく、明らかに拒否。拒絶。
助けてやったのに何が気に入らないのかと一瞬憤るが、自分の手を見ると、滴り落ちんばかりの血と肉片らしき何かにまみれ
ている。
シャツも返り血で真っ赤。
そりゃ逃げるよな、と理解したのは後々の話。
その時の彼に出来たのは………。
情けない悲鳴を上げながら、レヴィと二人でそれを洗い流す場所と着替えを探すこと位だった。

546 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/11/28(金) 23:06:11 ID:PCIU0klc
その後は血気盛んな荒事要員は残っておらず、何人かをふん縛ったり自殺を見守ってやったりしながら操舵室に入ると、開
きっ放しの無線チャネルから聞き覚えのある声が聞こえた。
「張さん…?」
応答するといつもの飄々とした調子で「よぉ、トゥーハンドか?健在か?」などと問うて来る。
「健在か?じゃねぇぜ、旦那。ひでぇ目にあった」
「そうかそうか、さっきお宅のボスから連絡をもらってなぁ。いやぁ悪かったな」
悪びれもせずにそんなコトを言う彼に言いたいことはテンコ盛りだが、とりあえず船は沈んだワケでは無いようだと少しばかり
安堵する。
「ヤツは生きてるか?」
「殺りたくてたまんねぇが生きちゃいる。骨の何本かは折れてるかもしんねぇけど」
「殺りたいならそれでも構わんよ、こうなった以上は黙っていて貰うほうが面倒は少ない。ケツはこっちで持つさ」
レヴィはご機嫌に口笛を吹いてその提案を歓迎する。
「それで、だ。君たちはこの後どうするつもりだった?」
「とりあえず近くの島にトンズラするつもりだった」
だが、こうしてクライアントと連絡が取れたからにはそれも必要無いだろう、二人そう思い安堵していた。なのに。
「おお、そうかそうか。なら悪いんだが、1・2週間ソコでバカンスと洒落込んでくれないか?な〜に、ほとぼりが冷めた頃合いに
 迎えを遣るさ」
「ちょっ…冗談キツいぜ?旦那!それに話が違…」
「想定外の事態による損害の補償とお前等の拘束期間延長による追加報酬についてはお宅のボスと話はついている」
「いや、そういう問題じゃなくよ」
「こっちにも色々と根回しが必要でね。脱出後船はそのままエンジンをかけたままでな、ま〜…『無人で』太平洋にでも向かわ
 せとけ」
それだけまくし立てると張は「じゃあな」と会話を打ち切る。
ノイズだけが虚しく響く無線装置を前に二人呆然と立ち尽くす。
「……追加のペイ…分け前貰えんのかな…」
あんまりな事態に、遠くを見ながら呟くレヴィを励ますことも出来ず、ロックは言葉を濁す。
「……さぁ…でもまぁ…わずかばかりなら…多分…うん。それより今『無人で』って…」
「あたしらを殺し屋か何かと勘違いしてねぇか…?あ〜!くっそ!なんかよくわかんねぇけど!すっげぇぇええムカつく!」
ガシガシと壁を蹴り始めるレヴィを制止することもせず、とりあえず時間的猶予が残されていないことを告げてみた。
「レヴィ、ともかく…島が遠退くし日も暮れる…」
「ぁあぁぁぁぁぁあああああ!!!!????おい、ロック!めぼしいもんガメてくぞ!どうせ酒なんか無ぇんだからよ!」
「だからそんな余裕無いって…」
「あぁぁああ!それよかカトラスだよカトラス!何処だよ!ファック!」
酒はともかくカトラスを諦めろというのはあまりに酷な話だろう、そう思い確認する。一応。
「…船、一旦停める?」
「当ったりめぇだ!ソレで足がついたって知ったことかよ!つーかそうだよ、あの野郎!アイツだきゃブチ殺さねぇと気が済まね
 ぇ!」
苛々とタバコに火を点ける彼女を尻目にため息を吐きつつ、ロックはクルーザーを停止させるべくエンジンレバーを引いた。

547 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/11/28(金) 23:11:50 ID:PCIU0klc
+++++++

ロックは諦観の面持ちで四肢を投げ出したレヴィのジーンズを下着ごと性急に引き抜く。
船の寝台は狭くて脚を開くことが出来ないため、膝を折って持ち上げることで彼女の性器を剥き出しにすると、スラックスを寛
げて筋に沿って自らをこすりつける。
眠そうな瞼を震わせる顔を両手で固定し、荒く乱れる呼吸もそのままに顔中舐めるように口付ける彼を「お前………犬っころか
よ…」と、呆れたように鼻で笑うレヴィ。
「嫌?」
「さっきから気分じゃねぇって言ってる」
「……………ごめん、すぐ終わらせるから」

諦めの表情でロックの首に腕を回すと、それを合図に圧し掛かる体重と侵入してくる彼のモノ。
切羽つまった様相の彼は彼女に入るなり唇を合わる。
狭苦しい寝台で、自らの腿で乳房を押さえつける不自然な姿勢。
その上、男の体重を押し付けられ…ろくに馴らされずに身体を貫かれ、唇まで塞がれて…息苦しくてたまらない。
「んーっ!」
突っ込むや無理矢理律動を開始した男の背中を抗議の意を込め叩き、顔を背けて唇を引きはがすと、「ザケんな、この体勢で
口吸われちゃ息が出来ねぇ」と怨みがましく睨み付ける。
「ごめん。でも我慢出来ないんだ」
「あの野郎は死んだぜ、あたしが殺った。アンタもいただろ?」
「ああ、でもさ、そういうんじゃなく、何ていうか…………その…」
「…何だよ」
「…………いや、いい。帰ってからにしよう、きっとそれがいい。………それより………こうした方が楽?」
そう一人勝手に何かに納得した彼は、押し上げていたレヴィの脚の一方を延ばし、もう一方を寝台の外へ投げ出す姿勢にして
やる。
彼女からは一心地ついたような溜息。
「大分マシだな」
ロックは今更慈しむように彼女の髪を撫でながら「……悪かったな」と詫びる。
だが。
これによってレヴィの機嫌は更に降下の一途を辿る。

彼女は思う。
悪いと詫びるくらいなら最初からやらなければいい。
しかも一人勝手にブツブツつぶやいて勝手に納得して…。
言いたいコトがあれば言えばいいのによ。
ロックが納得したってこちらには何が何だかわからない。
そう思うと異様に腹が立ってくる。

「全くだ、テメェが悪い。…で、提案なんだけどよ、お前専用の肉便器にで何にでもなってやるからさっさと終わら
 せねぇか?なぁ、相棒。眠いんだよ、あたしは」
冷ややかにそれだけ言うと、レヴィは膣の中の彼をキュっと締め上げつつ腰を揺らして刺激する。
ロックは突然の快感に顔を歪めて息を吐くが、当然内心では彼女の辛辣な物言いに言いたいことが多々あった。
だが、彼女が不機嫌なのは理解していたし、非が全面的に自分にあることも、これ以上機嫌を損ねることを言えば口論になる
だけなのも承知していた。
彼女が言うことは理解出来る。彼女の側から見ればただの男の排泄行為…そう言われても仕方のない所業だった。
…それは認めざるを得ない。
そして。
冷静になってそう自覚した以上、これ以上この行為を続けるわけにはいかなかった。

548 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/11/28(金) 23:14:06 ID:PCIU0klc
「………ごめんな。もう……シしないから」
そう言って依然キツく圧が掛かり続けるレヴィの腹から自身をズルリと引っこ抜き、彼女の剥き出しの下半身に掛布を掛けて
やると「やっぱりさ、俺はハンモックで寝るよ」とハシゴをよじ登った。
彼女に背を向けた彼は、彼女の悲しげな視線に気付くことは無い。
彼女も彼に背を向け、魚雷艇の無機質な壁を睨み付ける。
何だよ何だよ何なんだよ!
ヤりたいなら出すモノ出してスッキリしてから寝ればいいだろ?何でアイツがふて腐れてんだよっ!
そりゃ言い方は悪かったけどよ、元はアイツが悪いんじゃねえか!

彼女は単に、陸に着くまでの数時間を彼とゆっくり眠りたかっただけ。
寝込みを襲われたのだから不機嫌なのはご愛嬌ではないのか?そう思う。
それでも彼の求めに応じると決めたからには、受け容れるためのスイッチだって入れていた。
なのに、突っ込んで、何度か出し入れしただけで放り出された。
腹は減ってる、睡眠は邪魔される、その上中途半端に性欲まで煽られて…何もかもが思い通りにならず、どうしていいか解ら
ぬほど苛立ち始める。
せめててめぇが煽ったナニくらいは完結させて行きやがれ!!
だが、元来素直には出来ていないためそれを伝えることも出来ず、腹立ち紛れにベッドサイドに脱ぎ散らかされた固く重いブー
ツを彼目掛けて投げつける。
「ぃた!!」
背中にそれを受けた彼は反射的に日本語で何か口にしたが、それが彼女のブーツだと知ると大仰にため息をついて「お休み」
とだけ言って
何も言い返しては来ない。
狭い船室の中わずか2メートルの距離を何万キロのように感じる。
遣り場を失った苛立ちからか、潤み始めた視界が悔しくてたまらない。

「……お前なんか大嫌いだ」

彼女のそんなつぶやきに気付かないふりをして彼は目を閉じる。
この間も言われたなぁ…そう人知れず自嘲しながら。

549 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/11/28(金) 23:15:42 ID:PCIU0klc
+++++++

レヴィが涙目で捜し求めたカトラスは程なくして見つかり、愛銃で自分を虚仮にした男に引導を渡した彼女は少しばかり機嫌を
上向かせた。
残ったヤツらも、ふん縛られたまま海を漂うか今死ぬかを選ばせると、皆が快く黄泉への旅路を選んでくれた。
中華ヤクザの都合で理不尽に無人島で過ごすことを不満に思わないではなかったが、裏を返せばその間は人目憚らずロック
と二人きりなのだ。
彼には言わないが、内心少しはしゃいでいた。
張の言う「バカンス」とは程遠かろうことは承知しているが、まぁ何とかなるだろう。
船からくすねた水と、僅かな酒と食料、その他ロック厳選の細々したものを積んだ定員3名のボート。
水よりも酒だと強弁した自分に滔々と非常時の優先順位を説いた男にイラつきはしたが、それでも何本かは持たせてくれたの
だから、オーライだ。
荷を積み過ぎたのか、馬力の弱いエンジンは彼等を目の前の島へと簡単には誘ってはくれない。
大丈夫か?途中で止まったりしねぇだろうな…そんな心配が無いわけではないが、このままでは暇だ。
だから、やっと二人きりになれたのに進行方向を睨み付けたままこちらを見向きもしない男の背中に抱きついてみる。
「ちょっ…レヴィ、危ない…バランスが…」
彼女が動いたコトでボートが一瞬傾くが、構うことなくしがみつく。
言いたいことは沢山あった。

あんなことしたくなかった。
それでもお前が無事で嬉しい。
でもな、お前に助けられるなんて何だか悔しい。
あーあ、今日は働きすぎてクタクタだ。
…なぁ、あの男に触られた場所が気持ち悪くてたまらないんだ。
でも、今はお前の体温が心地いい。

沢山あっても、一番伝えたいことは恥ずかしくて言えなくて、考えるほどに何を言っていいのかわからなくなって…。
出てきた言葉がコレだった。

「…ロック、見たか?アイツ真珠入れてたぜ?」


二人の間に沈黙が下りる。それはそうだ。
あまりに沈黙が続き、波の音がこの世の音の全てなのではないか。そう錯覚せずにはいられない。
沈黙の中彼は考えた。
抱き着かれたからには甘い言葉の一つでもくれるのかと思えば、相手の男のナニの話かよ。
相手のナニなんか見るものか。
必死に目を逸らしていたのだから。
だが、何か言わなければこのまま気まずい沈黙が続いてしまう…だからと言って何と返せというのか…?
考えて考えた揚句…。
「…………凄かった?」
…何で話を広げてるんだよ?俺。
彼は内心頭を抱えた。

レヴィは絶句する。凄かった?だと?何がだよ…!今も気持ち悪くてたまらないのに。


自分が振った話であることを棚上げて大いに逆切れる。
だが待て、確かに気持ち悪くてたまらなかったが、アイツのナニだけを「スゴい」かと聞かれれば……。
「………………超スゴかった。」
……何言ってんだ?あたし。

何だ何だ何だ!
何でそうなる?スゴかったって何がだよ!やっぱ男の価値はアレなのか?
彼は軽く落ち込みながら…悶々とのたうちまわり…苦し紛れにボソリ呟く。
「…へ、へぇ〜……………ぉ……俺も、入れた方がいい?」
ああ、もうヤだ。


550 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/11/28(金) 23:17:56 ID:PCIU0klc
ロックの爆弾発言にレヴィは二度目の絶句。
だから何でそうなる。
何の冗談だ…いや、そうだ、これは冗談だ。ジョークに違いない。
うん、そうだ。
だが、ここで更に心にも無いジョークで返してもロクでも無い気がする…、どうしよう。


大体、ただでさえ彼とする時には馬鹿みたいに感じてばかりだというのに、その上あんなモノで責められたら…考えただけでお
かしくなりそうだ。
先程散々カラダを出入りしたいびつなモノを思い出し、全身が粟立つ。
「べ…別にいい」
「何で?凄かったんだろ?」
「凄かった…けど…別にいい。大体よ、ダセぇじゃねぇか」
彼女のそんな言い草に彼は思わずプッと吹き出す。
「ああ、そうだな、ダサいな」
自分に抱きつく女の手を撫でる。
シャツを握り締める指の力が抜け、指が絡まる。
バランスを崩さぬよう慎重に身体を捩じらせ彼女の側を向くと、哀しそうな、怒っているような、でもどこか嬉しそうな、そんな不
思議な表情。
「……だろ?…ダサダサだ。」
何かを訴えるようなそんな顔。
「………なぁ、レヴィ」
「何だ?」
「ごめんな」
「………何がだよ」
「あんなことさせて」
彼女の顔が、更に苦しげに歪む。
彼女は無言で叫ぶ。
違う、謝って欲しいのではない。
ただ、今は抱きしめて欲しいだけだ。だがそんな願いを言葉にすることが出来ず、ひたすらに見つめ返す。
なのに、彼はそんな彼女の頬を撫で、額にキスを落とすと、元の通り前を向く。
与えられない悲しさに、思わず「……………嫌いだ」と口をついた。
そうだ、こんなヤツ大嫌いだと言い聞かせながら、そんな女々しい自分が一番嫌でたまらなかった。

その後は、彼らが危惧したようにエンジンがヘタり、日没されては敵わないと死にそうになりながらオールで島を目指すこと30分。
どうにか遭難だけは免れたが、薄暗い砂浜で、貴重な水を流し込むと二人同時に大の字に倒れ込み、しばらくは動くことが出
来なかった。
何がバカンスだ、恨むぜ、張の旦那とぶつぶつ呟くレヴィの隣で適当に相打ちを打つロック。
ようやく動く気になれたのは日もどっぷりと暮れた時分。
だが、悪いことに空に浮かぶのは針のような三日月で、周りの状況などさっぱり判らない。
暗黙の了解のように、今日は寝てしまおうという空気となり、ライターの火を頼りにロックのくすねて来たカーテンを広げて並ん
で横になるも、真っ暗闇の中でお互い考えてしまうのは昼間の出来事。
そうだ、中に出されてそのままだ、…どうしよう。
万が一の事があれば父親が誰だか判らないではないか。
誰の種だろうと子供を持つ気などないが、それでもどちらのかわからないままなのは気分が悪い…。
一時的にせよあの男の種が自分のカラダに根を張るのだと思っただけで嫌悪で死にたくなる。

そういえば、求めてくるとばかり思っていたロックはボートの上でのキス以降一度も触れては来ない。
やはりこんな誰にでも股を開く女など相手にしたくない、触れたくもない…そういうことだろうか。
だからさっきからまともに触れて来ず、今も背を向けて眠っているのだろうか。
あれこれと考えるほどに不安が募り、たまらずに目の前の背中に抱き着いて誘うように脚を絡ませた。
だが、彼のモノをまさぐるべく伸ばした手は寸前で止められる。

551 : ◆SDCdfJbTOQ :2008/11/28(金) 23:19:48 ID:PCIU0klc
「…レヴィ。今夜はやめておこう」
そう呟き彼女を拒むように身体を固く丸める男に抵抗し、抱き着く腕に力を篭めてしがみつく。
「やめてくれ」
尚も振りほどこうとする男のカラダに「ヤだ」と腕を巻きつけ顔を埋める。
「…お願いだから」
懇願してまで拒まれることに、臓腑が凍りついたような錯覚を覚える。
「……お願してまで……触れられたくないか?……こんなアバズレ」
「違う」
「汚ねぇって、思ってるだろ」
「…怒るよ…」
本気で怒っているような、そんな低い声。違うなら、触れてくれよ。あたしのカラダ中を隅々まで余さずに触って。
でないと不安で不安で…。
「……………眠れないんだ」
「………そ…う。……でもさ……その…優しくする自信が…無い」
そんなことはどうだっていい。ハナから優しくされるなんて思っていない。
「こうやって何もしねぇで黙ってるとよ、あの野郎が触ったトコが気持ち悪くてたまんねぇ。」
「…………………そっ…か…」
「……なぁ…今もまだファックされてる気がする」
――――だから早く。お前が抱きしめて。
彼女がそう口にするより早く、身体が砂に押し付けられた。

身体に容赦無く掛かる彼の体重。
鷲掴みされて激痛の走る乳房。
性急に露わにされた股間には硬く硬く張り詰めた彼のモノが擦り付けられ、遠慮もなく侵入してくる。
数時間前に散々犯されてほぐれているとはいえ、潤みが足りず少し痛い。
唇は隙間無く塞がれ、中を舌で掻き回されて息が上がる。
自分を慈しむ気の微塵も無いそんな態度すらようやく与えられた彼女には嬉しくてたまらず、彼の背中に抱き着きシャツ
を掴む。

突き上げられるたびに身体の下の布はよれて、汗ばむ身体に砂が貼りつく。
結合部だって例外ではない。
彼が入って来るたびに硬く細かいそれが巻き込まれ、膣の中も砂塗れ。
とめどなく溢れる愛液もすぐにその潤みを奪われるが、後のことに構っていられるほど二人とも余裕はなかった。
ハァハァと息を荒げながらカラダを撫で回すロックの手。そう、そうだよ。沢山触ってくれよ。もっと…もっと!!
足りないんだ。
身体の外も中も砂まみれになりながら、それでもまだまだ足りないとばかりにあらゆる場所を絡ませ合う。
埃っぽくタバコ臭い唾液が喉へと流れ込み、少しむせた。

お互いなりふり構わずに隙間無く触れ合い貪り合っている。
ロックが自分のカラダに夢中になっている。
レヴィはそんなことにぞくぞくとした恍惚を覚え、その瞬間に頭が真っ白になった。
絶頂により痙攣する自らの身体をどうにも出来ない。
彼の唇によって塞がれたままの口から零れるのは、意味を成さない悲鳴染みた嬌声と、彼の名前。
膣の内壁がビクビクと蠢いているのが解る。
合わせたままの唇からは、感じているらしき彼のうめき声。

……怒鳴ったりしねぇからよ、いいぜ。出せよ。
そう言わんばかりに彼のカラダに絡む四肢に力をこめる。
……先刻の不安も今はどうでもよかった。そう、そんなことを考える余裕なんか残ってなどいない。

ブルっとロックの体躯が震えて、満足気なため息が漏れる。
カラダの奥にじわりと広がる、少し低めの温度。
奥で精を放出したのだと認識してキスをしたまま満足気に笑むと、彼にしがみついていた腕を力無く砂へと放り投げた。

707 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:04:46 ID:CTHtYBJc

夜が明けてからは…何とも悲惨だった。
結局何回シたのだろう、熱に浮かされて曖昧だが、体位を換えながら恐らく5発はヤった筈だ。
そんなワケで自分達の自業自得であることは明らかなのだが、レヴィの身体に潜り込んだ砂は思いの外大量で、細かい傷
も見え隠れする有様。
よってロックは海に入って自分で洗うと言い張るレヴィを押さえ付け、貴重である筈の飲用水を用いてそこを洗浄するハメに
なる。
彼女の局部を凝視してもピクリともしないムスコに、婦人科の医者はこんな気分なんだろうなぁとか筋違いな思いを抱くロッ
クであるが、砂にまじって掻き出された自分の体液を見た瞬間、昨晩の熱を思い出す。
そうか、当分二人きりか、なのにこんなに腫れているのでは数日は出来そうにはない。
全く馬鹿な真似をしたものだと、これからの生殺しの日々を思って内心でため息をついた。

レヴィは真っ青な空を眺めながら、やはり張り倒してでも海で洗えばよかったと後悔していた。
事後の濡れた股間を拭われるのすら気恥ずかしいというのに、何故今自分は朝日を浴びながらロックに股を覗き込まれて
いるのだろう、そしてどうしてアソコに水を注がれているのだろう。
ロックはいいだろう、レヴィはそう思う。
今の彼は彼女にとっての胸糞悪い使命感から、彼女のソコを自分のナニをブチ込んで気持ちよく出し入れするべき場所で
はなく、自分が綺麗に掃除するべき場所としか見てはいない。
だが彼女は違う。
こんなに明るい場所でつい何時間か前まで局部同士を繋げた男にまじまじとそこを観察された揚句、いつも喘がされている
よく知った指に身体の奥を探られているのだ。
当然のようにいとも簡単に疼き始める身体。
感じないように意識を他へ遣ろうとするも、そんなのは徒労だ。
敏感になったソコを何度も何度も撫でられて身体が震えるのを止められない。
彼女のぷっくりと膨れた突起を掠める彼の指。

レヴィは思う。
こいつ、わざとか?わざとやってんだろ、絶対そうだ。
だが、それを口にしたところでからかわれて自分の腹が立つだけだ。
悶々と肉欲と羞恥を押し殺しながら堪えるように瞳を閉じる。
目を閉じても尚眩しい太陽の光が実に忌ま忌ましかった。

ロックはレヴィの身体の変化に気付いていた。
快感に堪えるように、大きくゆっくりと上下する腹筋や、もどかしげに揺らめく腰。
何よりも身体の奥深くから溢れ出し、とろりと指に絡み付く体液が、彼女のメスがオスを受け入れる体勢に入りつつあること
を伝えている。
立ち上る彼女の匂いに、早速生殺しにされつつあることを悟ったロックだが、様子を見る限り多分彼女もそうなのだ。
局部は可能な限り清潔にはしたが…さて、これからどうするべきか。
「レヴィ?もういいよ」
そう声をかけて、砂が付かないように抱え上げると、真っ赤な顔で睨んで来る。
「…………シねぇのか?」
瞳を潤ませる彼女の髪を撫でて告げる。
「うん」
「…シたくねぇのか?」
「もの凄くシたいけど、シたくない」
「意味わかんねぇ。ヤればいいだろ?」
「レヴィは見えないだろうけど。砂のせいで凄く腫れてる。」
髪を撫でながらそうなだめると、俯いたまま首に腕を廻して抱きついて来る。
意図が解らずに好きなようにさせていると、「お前も」と抱き締めるよう促された。
言われるままに抱きしめる彼に「もっと強くだよ、アホんだら」と不機嫌な声。
きつくきつく抱き締めても尚、「もっと。もっ…とだよ…」と苦しげに強請る。
身体の軋む音が聞こえそうなほどに強く抱くと、ため息の後消え入りそうな声で「なぁ」と問うてくる。
「あたしは学が無ぇからわかんねぇんだけどよ」
珍しく無学を前提とした物言いに彼女の真剣さが滲み出ているような気がし、下手に刺激せぬよう穏やかに先を促す。

709 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:06:40 ID:CTHtYBJc
彼女の疑問を要約すればこうだった。
悪友とのいつもの酒飲み話で所謂危険日というやつの話となり、それからそれとなく彼との性交渉を管理していた。
先日怒鳴り散らしたのは、それに該当すると思われる日に片足を突っ込んでいたからで、あの後すぐに洗い流した。
そして、つまりは今まさにその真っ只中だというのに、胸糞悪い男に二度も犯された挙句そのままで、昨晩の彼との名残は
早々に砂と一緒に流された。
もしものことがあったなら、それは彼のものなのか。それともあの男のものなのか、と。

彼は思う。
自分だって大した知識など持ち合わせていないが、学があろうと無かろうと、そんなことが判るものかと。
自らに必死でしがみつく女を抱き締めながらかけるべき言葉を捜すが、安心させるようなそれなど見つからない。
何を言えば安心するのか、想像すら出来ない。
「レヴィはさ……俺に何て言って欲しいの?」
酷と解っていながら、問い返す。
「大丈夫だよ、心配するようなことは何も無いよ、って言って欲しい?」
首を振る彼女の背中をポンポンとゆっくり叩く。
「…そんなの誰にもわからない、もしそんなことがあっても…俺かもしれないし、アイツかもしれない。」
「まるで他人事だな」
「…事実だし。…代わってやれないから」
「…お前がちゃんとしてればこんなに悩まずに済んだのにか?」
責めるような口調。昨晩誘ったのは彼女であることは、この際置いておくことにロックは決める。
まずは状況と彼女の意思を整理しなければ話にならない。
「どうして悩んでるの?まずそこをハッキリさせよう。どちらか白黒つくことでその後の結果が変わるの?さっきから、まるで
 俺の種なら構わないって言ってるみたいだ」
期待していたのかもしれない。お前なら、まぁ、仕方ないと言ってくれることを。
だが。
「んなワケあるか。どっちも願い下げだ。」
そう言われて、他に何と返せばいいだろう。
「なら、その『もしものコト』があった時に出す結論は一つしかないんだろ?どちらだって同じなんじゃないの?悩む必要なん
 か無いだろう」
最低なことを言っている自覚はあった。しがみ付くレヴィの腕がピクリと震える。
「…………………ちくしょう……野郎はいいよな、キモチヨク種まきすりゃそれでお終いなんだからよ」
「……それに関して否定は出来ない。けど、お前の出す結論に応じて果たすべき義務は負う」
「ナンだよソレ。決めるのはあたしってか。無責任だ」
「ならお前も俺にどうして欲しいのか言え。何だってしてやるさ。」
「…………別に…」
突っ掛かるクセに煮えきらぬ態度を取ることに少しだけ苛立つが、ここで更に煽ってヘソを曲げられでもしたら碌な結果には
ならない。
慎重に話しをしなければと、言葉を選ぶ。
「……そうだな、仮定でハナシをしようか。何も無かった場合…これは何も問題無い。ならあの男だった場合。お前はどうした
 い?」
「一分一秒でも早く引きずり出したい」
「…解った。なら次。俺だった場合は。…どうしたい?」
「お前を半殺しになるまでボコボコにする。」
「了解。その後は?」
「…………」
誰のものであろうと、邪魔なだけの厄介者でしかない。
だが、それをそのまま言えばまた「悩むことなどないではないか」と言われてしまうのがオチだ。
何と言えばこの言葉に出来ぬ焦燥感を理解ってもらえるのだろうか。それとも種を蒔くだけのオスには解らないのだろうか。
彼女は考えた。
ロックも、黙り込んだレヴィの頭を撫でながら辛抱強く返事を待つ。
そして待ち続けた彼に、彼女が口にした返事は否定でも肯定でもなかった。
「……………………………わかんねぇ」
欲しいだなんてこれっぽちも思わないが、かと言って別に一分一秒でも早く引きずり出してぶち殺したいと思うほどの嫌悪も
ないのだ。

710 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:07:31 ID:CTHtYBJc
「…うん…わかった。了解。……これでお前と悩みを共有できた。答えも解決策も無いけどね。さっきも言ったけど、そんなの
 は誰にもわからない」
「はっ…学なんざ持っててもナンも役に立ちゃしねぇじゃねぇか」
「全くだ」
ごめんな、怖いよな、などと呟いて優しく髪を撫でてくれる男の腕の中は存外に心地よく離れ難い。
そしてこのえもいわれぬ焦燥感の正体の一部に気付く。
そうだ、怖いんだ。
自分は、自分の身に起こるかもしれな何事か怖くてたまらないのだ。
「……怖ぇ……」
そう呟いて目を閉じる。
何でこいつは、自分自身でも正体の見えなかった焦りを言葉にすることが出来るのだろう。不思議だ。
だが、不思議でたまらないが不快ではない。いや、心地がいい。
根気よく髪を撫でる男に、大丈夫だと伝えて今すべきことをしようと伝えて立ち上がる。
そう、すべきことはこんなことではなく当面の間この島で生きるためのあれこれだ。

吹っ切るように立ち上がり服を身につける彼女を眺めながら、さて、ああは言ったが、それが現実となった時にどうしてやれば
いいものかとロックは途方に暮れる。
二人の間で最も意味を持つ問いに熟考の末「わからない」と答えた彼女に、自分を憎くは思っていないのだと期待めいた感情
が湧いたのは事実。
だが、だからこそ余計な葛藤が生じていることを思うとやり切れない。
準備が終わり、早くしろとせき立てる彼女に促され腰を上げる。
彼女の言う通り今すべきはまずは五体満足に生き延びる方法を考えること。
迎えだって、約束の日数でやってくるとは限らない。
頂戴してきたクーラーボックスからすっかり解凍された冷凍食を取り出す。
水を優先した結果、食料だってこれと僅かな缶詰と、いよいよどうしようも無い時用の砂糖だけ。
この先を考えると憂鬱でたまらなくなり、小さく嘆息する。
遭難生活の二日目はこうして幕を開けた。

711 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:08:29 ID:CTHtYBJc
繰り返すが、夜が開けてからは悲惨だった。
簡単な食事を終えて森へ踏み出した彼等を待っていたのは、大量の蚊。
「さぁ、お前ら満足するまであたしの血を吸ってもイイんだZE!」と言わんばかりの服装のレヴィは、この吸血虫達のご馳走
以外の何物でもなかった。
日本であれば、「HAHAHA、馬鹿だなぁ、そんな肌見せファッションで森を歩くからだよ」などと笑い者にした揚句、夜の営み
の際に疼く全身をくすぐったりして虐めたり…という楽しみも生じるところだが、生憎とここは熱帯の密林。
どんな病気を媒介するのやら、さっぱりわかったものではない。
よくよく見れば彼女の肌のあちこちには草木によってつけられた細かな傷まである。
自分以上に密林に向かない彼女を連れて闇雲に歩き続けるのは得策ではないと判断し、問題無いと言い張るレヴィをまたし
ても力ずくでスタート地点に引っ張り戻し、結局は島の外周を一回りすることにした。
浜辺にはココナツの木も点在している。
まぁ、当面の水分と糖分を補給するにはいいだろうとは思うが、それにしても水場が無いのはやはり困る。

「あ〜あっちぃ〜」
歩き始めて程なくしてそう喚きながらブーツを脱ぎ捨てるレヴィに何やらを察し、次にタンクトップを脱ごうと手を掛けたところで
「水浴びは傷が癒えてからね」と釘を刺す。
「水浴びくらい何でもねぇよ、うるせぇな」
「こんな島じゃ医者どころか薬だって手に入らない。お前に何かあってから後悔するのは嫌なんだよ。」
「はっ…日本人ってのは細けぇな………足だけならイイだろ?」
「勿論」
彼に嬉しそうに笑い返し、素足で波間を歩く。
「お前も歩けよ、気持ちイイぜ?」
「ん?手でも繋ぐ?」
「馬鹿か、てめぇ」
そう呆れる彼女の声を聞きながら、靴下を靴の爪先に突っ込みスラックスを捲くり上げる。
「冷たいね。確かに気持ちいい」
「だろ?あー水浴びしてぇ!」
「だからゴメンってば。良くなったらね?」
「その『良くなったら』ってのは誰が判断すんだよ。まさか毎日股ぐら覗き込まれんのか?」
言われて、確かにそうだと気付き、みるみる顔が赤くなる。
「オラ、何赤くなってんだてめぇは。頭ん中は下心でいっぱいかよ?」
…下心というのは、その先にある「何か」を期待して抱くもの。
彼女が回復するまでは手を出すまいと決めた彼には到底持ちようもないのだが、それでも先程の事を思い出し、何と恥ずか
しい真似をしたことかと今更ながら照れずにはいられない。
「ま、考えとくさ」
「ふ〜ん」
波の音とパシャパシャという二人が立てる水音だけが響く。
ロアナプラじゃ浜を歩いたってどこに人の目があるか分からない。
けれども、今は本当に二人だけ。
レヴィはブーツと革靴を両手にぶら下げて後ろから歩いて来る男を振り返り、無言で手を伸ばす。
「何?持ってくれるの?ていうかブーツはレヴィのだよね」
最初から自分で持てよな…とぶつくさ不平を垂れる男に「ちげーよ。手、繋ぐんだろ?」と更にずいと掌を突き付ける。
「あー…。その、繋いでくれるのは嬉しいんだけどさ、生憎両手とも塞がってて…」
だからブーツくらい持ってくれと言ってみる。だが。
「なら別にいい。お前は荷物持ちなんだよ。どうせそれしか役に立たねぇんだからしっかり持てよ」
「…言ったな、見てろよ。アウトドアは得意なんだ。それと、絶対手は繋ぐから待ってろ」
それだけ言って浜に向かってバシャバシャと走って行ったと思うと、ブーツに革靴を突っ込んで靴紐を肩に掛けて戻って来た。
「ナンだよ、ソレ」
鼻で笑うレヴィを無視して手を伸ばす。


712 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:08:56 ID:CTHtYBJc
「手、繋いでくれるんだろ?」
「やっぱヤだ」
「何でだよ」
「だってよ、やっぱダセぇもん」
「何だよそれ。お前が言ったのに。それにダサくたって誰も見てないんだからいいだろ?」
ロックはそう言いながら無理矢理レヴィの手握って前へ進む。
「ちょっ…てめ、ザケんな」
彼の掌の温度が妙に照れ臭くて堪らず、振り解こうと身をよじる。
そして、そういえばこんな風に手を繋いで歩くのは初めてだと気付き、いつも裸で引っ付き合っているというのにおかしな話だ
と眉をしかめた。
「俺達さ、まるっきり順番逆だよな。普通は手を繋いで、キスして、その後にセックスだよね」
自分の覚えた違和感と全く同じことを言っている男が妙に可笑しい。
「何だお前、そういうのがイイのか。悪いなぁ、全部すっ飛ばして股開くような女でよ」
「別に普通がいいとは限らない。俺達はこれでもいいさ。逆に新鮮でいいだろ?手を繋いだだけでドキドキできるなんて」
「誰が。気持ちわりぃコト抜かすな、アホめ。大体よ、手ぇ握ったコト無ぇワケじゃあんめぇしよ」
「そうだね。いつもベッドの上でだけど」
「……くたばれ」
キスをすれば、絡まる舌に呼応するように手の形をなぞり合いながら指と指とを絡ませる。
行為の最中は彼女の感じる快感に比例するように指に力がこもり、絶頂に達する間際には、きつくきつく彼の手を握りしめる。
彼女の手は、口で素直になれない彼女の色んなことを教えてくれることを彼は既によく知っていた。
今はどうだろう。
今はもう彼の手を振り払おうとする気配は無い。
彼の手を握り返しはせず、ただ握られるまま歩調を合わせて隣を歩いている。
そう、こういう時は受け身の合図。
ベッドの上であれは彼の気分の赴くまま好きなように抱かせてくれる。甘えさせてもくれる。
「レヴィ」
立ち止まって彼女の側に首を傾ける。
「んぁ?」
空いている手で頬を撫でるとくすぐったそうに目を細める彼女の顔に自らの顔を寄せる。
首が少し傾いて切れ長の大きな瞳が閉じられた。
そういえば。
部屋の外でこんな風にキスを交わすのも初めてだ。

しばらくの間触れ合うだけのキスを交わして顔を上げると、レヴィはとろけたような瞳で彼を見ていて、繋いだ手は中指と薬指
だけで軽く握り返している。
…こんな風に半端に握り返すのは満足していない時の反応。
「どうして欲しい?」
顔を覗き込んで尋ねると、視線から逃れるように顔を背ける。
人差し指がロックの手の甲を躊躇いがちに往復する。モジモジという擬態語すら聞こえてきそうなその様子に、改めて彼女の
指の表情の豊かさに気付かされる。
ロックも自らの指でレヴィの指を撫で摩りながら「もっとしてほしい?」と尋ねると、微かにキュッと手を握り返される。
自覚せずに返す反応だからこそ、これこそが普段口さがないレヴィという女の本質を表しているのではないかとすら思えて来る。
こんな風に手から伝わる反応で彼女の気分を読んでいるなどと本人に知られれば、ベッドの上ですら手を繋いではくれなくなる。
だから、そんなことはおくびにも出さず、再び唇を重ねて求め合い与え合う。
「もっと」とでも言いたげに彼の指をなぞる彼女に、ああ、本当に可愛い女だと一層深く口付けた。

713 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:10:08 ID:CTHtYBJc
*********************

一度頭を冷やそうとデッキに出ると、今にも降り出しそうな分厚く暗い雲。
雨に当たるのも悪くないと一瞬考えもしたが、ずぶ濡れのまま中に戻ればボスの紡ぎ出すウィットの効いた厭味の標的になる
こと受け合いだ。
想像するだにげんなりとして来て外は諦めるかとキャビンに戻る。
「よぉ、陸まではあと2時間はあるぜ」
暗に休まないのかと問うて来るビッグボスに、曖昧な笑みで「疲れ過ぎてね、少しばかりハイになってるみたいだ」と眠れないこと
を告げる。
「レヴィは?」
「………寝てる…のかな?」
「あいつはいつでも寝れるからな。お前さんも少しはあいつの図太さを見習っとけ」
「はは…」
図太いだけでは無い。
島で自分にしがみつきながら「怖い」と震えたレヴィは紛れも無くか細いただの女で、今だって彼女が眠ってなどいないこ
とをロックはよく知っていた。
もっとも、今は自分に対する怒りが先立っているのだろうが。
「…どうだった、無人島は」
「二度と御免被りたいね。特にレヴィとは。酒が無い、タバコが無いと暴れて駄々ばかりだ」
「何だ、お前らを迎えに行ったら3人に増えてんじゃあるめぇなって噂してたんだがなぁ、その調子だと2人っきゃいねぇのも頷け
 るな」
笑いながらそんな冗談を言うボスに、目眩を覚えながら言い返す。
「3人って…ハツカネズミじゃないんだから」
ハツカネズミでもこんな日数じゃ増えないよとぼやくロックに、ダッチは日数があれば増えてるってのかと困惑気味に肩を竦める。
「さてね。まぁ…そんなことにはならないとは思うけど。多分…」
差し出されたタバコを深く吸い込み、ため息のようにゆっくりと吐き出す。
「そう願いたいね」
自重しろということか。
雨に濡れてもそうでなくても結局は嫌味の標的だ。
何となく居づらかったが、かと言ってレヴィのいる部屋へ戻っても気まずくてたまらない。
それとなく話題を、自分達の不在時の経緯へと逸らし場を繋ぐ。
昨晩突如張から『あの周辺の島狩りをすることになったから従業員が惜しくばとっとと迎えにいきたまえ』と穏やかならざる…半分
脅迫のような連絡が来たのだと聞かされた。
取るものも取りあえず出てきたため、着替えも食料も無いのだと詫びられ気にする必要は無いと返す。
そう、迎えが来ただけで万々歳だ。
自分はともかく、レヴィは限界に近かった。

**********

714 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:11:53 ID:CTHtYBJc
「…疲れた」
「……まぁ……水があって良かったじゃない」
「こんなことならもっと酒積めばよかった」
「飲料水とは別だよ。このままじゃ飲めないしね」
「…ジャップってヤツぁホンットに細けぇな」

島の反対側へ差し掛かる頃、大きくは無いながらも海へ流れ込む小川を発見した。
よし、この辺りを拠点にしようと、1時間かけて再度スタート地点へ戻り、波打ち際を重いボートを引き摺ってここまでやって来た。
ここから「アウトドアは得意だ」と豪語したロックの本領が発揮された。
ロープと残りのカーテンで手早く2人が寝起き出来る程度の簡易テントを作ると、石と流木を組んでかまどまで完成させる。
「……お前、何でこんなモン得意なんだよ」
半ば感心しながら問うレヴィにロックが答えたのは彼女の機嫌を損ねかねない爆弾発言。
「大学のサークルでね、よくキャンプに行ってたんだ。こういうのが得意な方が女の子にモテたんだよ」
「………何のサークルだ?」
「名目は英会話のサークルだったけどね。留学生を交えて飲んだり、キャンプや旅行に行ったり」
「で、ガイジンの女にモテたい一心で身に着けた特技ってワケかい」
「否定はしないけどね。教科書だけじゃ会話は出来ないさ。お陰様でお前達の話すスラングだってある程度理解出来た」
「お前、それは映画で覚えたって…」
「それもあるけどね、映画を見ながら彼等に質問したり…使う機会は多い方がいい。よく言うだろ?外国語を覚えたければその
 国の人間を恋人にするのが一番の近道だって」
お陰様で今はそこらのアメリカ人よりもスラングのボキャブラリーは多いよと笑う。
彼からしてみれば、カマかけついでのアプローチだった。だが。
「ぁあ?てめぇ何言ってんだ?あたしゃてめぇの英会話の先生にも、ましてや恋人とやらになった覚えもねぇんだが」
レヴィは彼が過去の女性関係を匂わせて自分の反応を伺っていることには気付いていたし、遊び仲間たる留学生と自分とを同
列に語られたこともたまらなく許せなかった。
「お前、英語が喋れて穴が開いてりゃそれでいいんだろ」
「…そういう意味で言ったんじゃない」
「平和な国で『ガイジン』の女囲んでソーセージパーティかぃ、実に愉快なキャンパスライフだ」
若い盛りの話。誰ともそんなことにはならなかったとは言い切れず、「恋人っていうのは一般論を言っただけであって…大事な
のはコミュニケーションの量で…その…」と、しどろもどろに返すしかできない。
「別に怒っちゃいねぇさ。あんたがどんなキャンパスライフを送ってどんな穴に嵌めて来たかなんてあたしにゃどうだっていい話
 だ。そんなコトよかキャンプがお得意なロック様にゃ今晩のメシをどうするか、考えて頂きたいモンだね」
「…魚でも、釣る?」
「……こんな浅瀬にいる魚なんざ食うとこねぇぞ」
「とりあえずさぁ、ココナツじゃだめかなぁ」
「なぁロック。あたしがさっきから苛々してるのもあんたに突っかかるのも腹が減ってるからだ、わかるかベイビー。オーライ?」
苛々と突っかかっているという自覚があることに驚きだが、それを言ったところでますますレヴィの機嫌を損ねるだけで、自分の
溜飲すら下がらない。
「じゃあ……どうする?今から森に入る?」
「……鳥でも撃つか」
「…その恰好で森に入ったら全身虫刺されだよ」
ロックの一言に、心底嫌そうに眉を顰めたかと思うと、何を思ったか悪戯にニヤリと笑む。
「ロック………お前の服貸せ」
「……………。」


715 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:12:50 ID:CTHtYBJc
何でこんなことになっているのだろう。
有史以来、古今東西で狩りは男の勤めで、かまどは女が守るもの…そんな不文律が出来上がっているのに、だ。
レヴィによって身ぐるみ剥がされた結果、トランクス一枚で彼女の帰りを寂しく待つ。
そうだ、俺達は逆なんだ、レヴィが外に働きに出て俺は家庭を守るんだ…家庭ってナンだよ、かまどだよ、このテントだよ、そうだ、
そうなんだ。
そんな支離滅裂な自問自答を繰り返しつつ、今からかまどに火を焼べたのでは勿体ないと、蚊帳にするつもりだったチュールで
出来たカーテンで投網のような何かを作ってみる。
「そ〜れっ!」
投げてみた。
小学生の頃遠足で湘南に行って地引き網体験なんてことをしたなぁ、などと遠い日のことを思い出しつつ引いてみる。
薄っぺらい白いチュールに引っ掛かっていたのはレヴィのいう通りの雑魚2匹。
それも、南国独特の極彩色の…食欲をそそらぬものばかり。
「ま、何も無いよりマシだろ」
一人ぶつぶつ呟きながら海水を張ったアイスボックスに放り込む。
日本にいればかわいいなぁなどと愛でるところだが、生憎とそんな余裕などあるはずもなく。
煮るべきか焼くべきかを考えつつ第二投を放り投げた。


「よぉロック!見ろよ!デケェだろ!」
すっかりボロボロに成り果てたスーツを纏ったレヴィが、これまた極彩色のキジのような鳥の血まみれ死体を引きずって帰って
来た時、彼女の相棒は腰まで海に漬かりながら沖の方角に向かって白い何かを放り投げていた。
「っ!てっめぇぇええ!あたしにゃ海に入るなとか抜かしておいて、何一人で水浴びしてんだよ!」
「あ、レヴィ!お帰り。」
満面の笑みでバジャバシャと陸に歩み寄る彼は、下着一枚纏っただけの…所謂パンツ一丁…しかもびしょ濡れ…見たくもない
モノの輪郭がはっきり見て取れるという間抜けな姿。
見苦しいことこの上ない姿にげんなりした彼女だが、彼がしきりに「見てくれ」とせがむアイスボックスを覗き込み、そんな気分は
吹き飛んだ。中には色鮮やかな小魚が何匹かと、30センチは近いと思われる魚が1匹。
「でかしたじゃねぇか!よし、食っちまおうぜ!火ぃ起こせ!な?」
そう、彼の背中をバンバン叩いて手形をつけながら称賛を送ると、「ところでコレ、どうやって食えばいいんだ?」と、彼女の戦利
品を持ち上げ、問うて来た。
血まみれの鳥を前に二人途方にくれる。
そういえば中国人のメシ屋の脇でよく潰しているが、見ていて気分がいいものでも無いため、具体的にどうしているかなんてよく
知らない。
「とりあえずさぁ、首落とすんじゃない?で、吊して血を抜いて、羽根をむしって…内蔵を抜く…のかなぁ」
「羽根むしってから血抜くんじゃねぇの?」
「いや、抜いてから毟るんだとおもうけど…多分」
「………まぁ、順番が逆でもどうってことねぇよな?な?」
「うん、多分」
「じゃ、血抜きが先でいいからよ、あとヨロシクな〜」
「え〜……」
レヴィが好きで狩って来たのだから彼女が始末しろよ…と一瞬思わないでもなかったが、こんな時まで汚れ仕事を彼女に押し
付けるのもどうだろうと思い直す。
今日は…よくも悪くも初めてのコトだらけだ。良いことなど彼女と手を繋いで歩くというささやかにもほどがある、そんなコトだけ
だが。
「…………仕方ない…か。」
こんな状況だ。文句を言ったところで何も始まらない。
ため息をつきつつ、彼はナタ代わりになるだろうと持ち出した頑強な中華包丁を取りつつ立ち上がった。

716 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:14:42 ID:CTHtYBJc
「マズい」
自らの戦利品に齧り付き、開口一番レヴィはそう呟いた。
肉は硬い上に獣臭い。初めての処理にしては上出来とはいえ、ナンだか血なまぐさい。
「まぁ食用じゃないからね。それに海水でしか味付けてないし」
そのままでは飲み込むことが出来ず、そばにあった水で無理矢理喉を通す。
続いてロックの戦利品である魚に口を付けるも、不味くはないが味が無い、物足りない。
「………魚も味気ない…」
そう言って目の前の男に押し付ける。
「わがまま言うなよ。明日は塩を作ろうな」
ロックは一口味を確かめて、海水を振り掛け再度火にくべる。
「…缶詰開けようぜ」
「アレは本当にどうしようも無くなってからだよ。当分はコレ」
「………あーくそったれ」
「…体力勝負なんだからちゃんと食えよ」
「わかってるっつーの」

食は進まないがその分レヴィはよく喋った。
今は変わり果てた姿でこんがり焼けているこの鳥を見つけて仕留めるまでのこと。
そこの川を遡ったらそこそこの泉があったこと。
けれどボウフラが湧いてて入る気にはなれなかったこと。
蚊が纏わり付いて欝陶しかったこと。
臨場感溢れる語り口はロックが相打ちをうつ度に調子を上げ、賞賛を送ると嬉しそうに目を輝かせて胸を張る。
全く面白い女だと、彼は思う。
今は自分の話を親に聞いて貰いたくてたまらない子供のようなのに、ひとたび銃を取れば冷酷に人間を撃ち殺す戦いの鬼とな
る。
冗談のように豪快に酒を飲む口は、酒とヤニで臭い息と汚らしいスラングを撒き散らし、時には周囲に卑猥な罵声だって浴び
せ掛ける。
そのくせに寝所を共にすれば普段の言動とは裏腹に、彼の言葉や愛撫に戸惑い、恥じらうそぶりを見せることもしばしばだ。
全くもって面白い。
飽きることの無い女だ。
喋っているうちに気付けば、ついつい酒に手が延びる。
「レヴィ。それっきりなんだからな、考えて飲めよ」
つい言い咎める彼に、口を尖らせて了承すると、ボトルに直接口を付ける。
グラスが無いことを差し引いて尚豪快な飲みっぷりに「…どうだか」と白い視線を向けると、ずいっとボトルを押し付けてくる。
「くれるの?」
「少しだかんな」
「有り難く頂く」
疲れも相俟って、僅かな酒で酔いが回る。
酒瓶を彼女へ返すと、名残惜しそうに蓋を閉めている。
「もういいの?」
「無駄なチェイサーも無ぇし…計画的に飲めっつったのはてめぇだろ?」
「まぁね」
「…………で、どうする?」
「メシは食った、酒は無いものと考える、さりとてもう真っ暗」
寝る準備でもするかと言い掛けたロックにレヴィは躊躇いもなく提案する。
「…ヤるか」
「シないよ」
即答。
「別に痛みも無ぇからどうってコトねぇよ」
「オレもそう思うんだけどさぁ、こんな島では何かあった時が怖くてね。それに避妊具もないし」
あんな話をした後にきちんとせずに抱けるほど、彼女に対する慈しみの感情は小さくは無い。
「ナカで出さなきゃいいじゃねぇか」
あっけらかんと言い放つ彼女に、墓穴を掘ると知りつつ、日本の各種性教育で語り尽くされるあの事実を告げる。
「レヴィ…知ってる?中で出そうと出すまいと、ナマでヤればリスクはあるんだよ?」

717 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:16:31 ID:CTHtYBJc
「…ぇ?うそだ」
いかにも愕然とした表情で真偽を問うてくる。やっぱりなぁ、アホ可愛いなぁなどと決して口には出来ないことを考えながら、そん
な彼女に駄目押しするかのように、たった一言宣告する。
「ホント」
「ぁ…あぁあ……ま…まさかとは思うんだけどよぉ…最近お前がゴムつけたがらねぇのは……その…何だ…『そのつもり』だった
 …っつーワケじゃあんめぇな?」
ロックの左肩に右側から腕を回しつつドスを効かせて問う彼女の胸は、反面ドキドキと異様に高鳴る。
そんな鼓動を気取られぬよう、厳めしい視線で睨み付けながら「ぁあ?どうなんだよ」と恫喝する。
勿論『そのつもり』だったワケではない、さりとて理由など一概に単純化出来ない。
とは言え…今ここで彼女を追い詰めかねないことは言うべきではない、ロックはそれだけ判断し「まさか。その方がねっとり絡み
付いてて気持ちイイんだ」と至極単純かつ男の欲望まっしぐらな回答をするが、何せ一言多かった。
「……まぁ………実際かなりの綱渡りだけど」
一呼吸置いてから、そんなかなり際どいことを目を逸らしつつ言い放つ。
レヴィは、彼のシンプルな物言いに何故だか少しばかりの落胆を覚え、それをごまかすかのように彼の首をそのまま腕で力いっ
ぱい締め上げる。
一体自分は何を期待していたのかとよく解らぬ失望の中、自らの腕に絡めとられて「許して」ともがく男にただ一言しか返せなか
った。
「…てめっ………くたばっちまえ」

718 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:16:58 ID:CTHtYBJc
そうは言っても何度となく情を通わせて来た者同士。
大袈裟に役者染みた抵抗をする彼とふざけているうちに、気付くと砂に倒れ込んでのじゃれ合いとなり、上になりつつ下にされつ
つ、キスを交わす有様。
ねっとりと舌を絡ませ、お互いの肌を撫で回すうちに疼き始める身体と熱を帯び始める吐息。
「やっぱシようぜ?」
砂が着かない方法ならいくらだってある。それに今までだって、ゴムも付けずに適当にヤって来たが、何事も無かったのだから
きっと大丈夫。
「だから…ダメだって。」
なのに、この期に及んで尚そんなことを言う男。
だが、そうは言いつつしっかりモノを固くしているのはバレバレで、何だかおかしくってたまらない。
お互いに身体の準備は万全なのだから、このまま痩せ我慢するよりも深く交わることの方が自然であると、そう思う。
「うるせぇ、ガタガタ抜かすならふん縛ってでもヤるぞ。」
下着越しに、ガチガチになっている性器に指を滑らせる。
「ん…ゃめ…出来ればレイプはされたくないんだけど…あー…あのさ、レヴィ。もしも…もしもだよ?その…『何か』あった時にど
 うするか決めてるの?」
折角誘っている彼女にとって、そんな興ざめなことを口にするロック。
余計なことは考えないようにしていたのに。大丈夫、何も起こりはしないと、そう言い聞かせていたのに。
何故今こいつはあたしに「お前は他の男に股を開いたんだ」と突き付けるのだろう。
「………んなモン、決めてるかよ」
「ならやっぱりダメ」
「な…んでだよ…何も起こらねぇよ…アイツはもう死んだぜ?死んだヤツの種でなんか孕むわきゃねぇだろ?」
彼女自身…無茶苦茶を言っている自覚はあった。だが、そうでも思わないと、とてもじゃないがやっていられない。
「そんな馬鹿げた理屈、無いことくらい解るだろ?大体、その場合の結論は決まってるんだから、その理屈が通ったところで問
 題は解決しない」
「…はぁっ!?…ぅ…うるせぇ…っ…そんなこと言われなくたってっ………き……決めた。今決めた。ってかハナっから決まって
 る。どっちにしたって厄介モンなんだから、殺しゃいい。何も悩むコトなんざ無ぇ。ホラ、コレでいいだろ?」
彼女の敵愾心を煽ってしまったことを後悔しながら努めて冷静に確認する。
「それが結論?」
「不満か?」
「いや。不満は無いよ。今の状況じゃ仕方のないことだと思う」
「…はぁ?『今の状況じゃ仕方ない』?あたしが野郎に股ぁ開かなけりゃ、何か変わってたってのか?ナンも変わらねぇよ…畜生
 …馬鹿にしやがって…」
ロックの手を振り払ってその場にふさぎ込む。
しまった、と思う。
彼女の結論に納得していると伝えるつもりが、一言余計だったことに彼女の態度で気付く。今のレヴィは、想像以上にナーバスだ。
「…そうじゃないって…」
そうは言いつつ、何を返せば良いものか。何を言えば追い詰めず、かつ傷つけずに済むのか…。自分に何をして欲しがっている
のか…想像すら出来ない。
「…ごめん、おかしなことを言ったのかもしれない………疲れてるんだ……」
卑怯だ。物凄く。そんなこと自覚している。
けれど、疲労を理由にこの会話を打ち切らなければ、きっとお互いにとって不本意な結論にしか至らない。
「…少し早いけど、もう寝よう」
そう言って砂の上でうずくまるレヴィの腕を取り半ば無理矢理に即席のテントへ促した。
真っ暗闇の中並んで横になり、彼女のパーソナルスペースへ介入するべきか、そっとしておくべきかを迷う。
だが、朝の怯えた様子を思い出し、近くに寄って抱き寄せると「暑苦しい……汗くせぇし」と言いつつも、ため息と共に納まるべき
場所を探してもぞもぞと身体を動かす。
何か言おうか考えるが、何も浮かばない。汗ばんだ身体を抱きしめて目を閉じる。
不安要素は一向に減らないが、今は何も考えずに眠ってしまうのが最良だろう。
「おやすみ、レヴィ」
ようやく口に出来た一言に、彼女からの返事は無かった。

719 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:22:50 ID:CTHtYBJc
雨が、降らなかった。乾期にはまだまだあるはずなのだが、それでも、降らなかった。
幸い、飲料水は沸かせば確保できたし、ココナッツを割れば温いとはいえ新鮮なジュースも飲めた。海に浮かべておけばそれ
なりに冷たくもなる。だが、汗と潮でベタつく身体と髪は、拭いた程度ではさっぱりせずストレスばかりがたまる。
かといって、あのボウフラ塗れの源流を見てしまうとどうにもそのまま被る気にはなれない。
水だけで洗濯はするが、身体がベタついていては洗った気がしない。仕舞いには一向に綺麗になった気がしない衣服を纏うのも
煩わしくなり、下着だけで過ごすこともしばしば。
下着すら取り払って裸で海水浴に興じたり、そんな片割れを眺めたり、互いの身体で気持ちよくなってみたり…そんなことが数
少ない愉しみだった。

そう、その間、何とか飢えずには過ごせたのだ。
だが、限られた条件で料理のバリエーションがあるワケでもなく、口に入るのは指先ほどの小魚(極彩色)の塩煮と、運よく仕留
めた獣の肉を焼いたもの、さして美味くもない野性の果実。境遇に差はあれ、よくも悪くも現代っ子の二人。
魚はともかく、獣の肉は固くて臭くてとてもでは無いが塩だけでは喉を通らない。
だからヨーロッパ人はスパイスを求めて旅に出たのかと妙に納得し、キッチンから最優先でくすねるべきは胡椒や香草だった
のだと反省してみたところで後の祭り。
レヴィが素潜りをするにはしてみたが、裸眼でまともに漁などできるはずもない。
それでも小さなエビやらカニやら貝やらの目新しいものをとっては来るが、腹の膨れる量ではなかった。
ウダウダと不満ばかり垂れるレヴィをロックが宥めつつ、無人島生活6日目にして苛々は絶頂。
些細な口喧嘩を繰り返しては、その鬱憤のはけ口を異性の肉体に求める。
そうは言ってもオスとメスの違いか、疲労とストレスが溜まるのに比例するように性欲も高まるロックに対し、レヴィはその逆で
性欲が徐々に減退しているようだった。
こんな島で避妊具が落ちているはずも無い。いくら結論を出したからといって…否、出した結論がああだからこそ、そのまま抱
くことに躊躇いはある。
だが、その気も無いクセに彼の懐に潜り込んで眠る半裸のレヴィに、どうしても劣情は煽られる。

レヴィはロックの求めには義務的に応じるものの、それほど気乗りする様子も無く、後ろから絡み付いて自身を貫く身体が離れ
て体外に射精したのを確認すると、ため息と共に伏せた半身を起こしてずり落ちていた下着を上げる。
そんな迷惑そうな態度と、狭いテントに篭る独特の匂いに急激に頭が冷えて思わず「…ごめん」と口をついた。
「謝るくらいならヤルな。ヤルなら謝るな…ったく…。抜いてスッキリしたならとっとと寝るぜ。」
そう言って身体を丸める。促されて横になると、解っているのかいないのか、再び擦り寄って肩に額を載せて来る。
胸元に掛かる彼女の吐息と腰に絡み付く腕に再びいきり立ちそうになり、これではイカンと『お願い』をする。
「レヴェッカさん、そんな格好でくっつかないでいただけますか?」
「何だよ、嫌なのか?」
微かに残念さを漂わす声音に、慌てて「嫌っていうか、その、むしろ嬉しいんだけどさ、だからムラムラしちゃうっていうか、その…」
と言い淀む。
「この方が眠れるんだよ…」
このところ気分の浮き沈みの激しい彼女にそんな風に甘えられれば拒否できるはずもなく。とはいえ何日か前までは寧ろ彼女の方
から積極的に求めて来ていたことを思うと、実に不条理な生殺しだ。
ため息をつきつつ抱き寄せるロックにレヴィは満足気に喉を鳴らす。


720 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:23:51 ID:CTHtYBJc
「ハラいてぇ」
「悪い物食ったんじゃないの?」
「食ってるモンはお前と一緒だぜ」
「…その…食ったもの出てる?」
一応女であるレヴィに何を聞いているのかと思うが、自分の体調にとことん無頓着なこの女には聞いておかねばなるまい。
「…………言いたくねぇ」
明日からは、マズかろうとナンだろうと食物繊維を摂らせよう。そう決意する。
「……そんな格好だからかも。何か掛けろよ」
「暑いからいやだ」
暑いならくっつかなければいいのにと思うが、また喧嘩になるので言わない。自分は随分とガマンをしていると、先刻の行いを棚に
上げて自負する。
口にする代わりに彼女の身体を反して後ろから腰に手を廻して腹をさすってやる。
すっぽりと腕の中に納まり、背中全体と腹に感じる男の体温に安堵に似た溜息が洩れた。
「……お前、触り方がいやらしい」
「文句言うなよ、…イヤならやめますが」
「別に文句なんか言ってねぇさ。下心見え見えのお前のナニが憐れでよ」
半勃ちの自身をからかわれて、内心ムッとしながらも、「はいはい、そりゃどうも」とレヴィの頭に顎を乗せて目を閉じる。
精神力でこの状況を堪えるしかないと覚悟を決める。
どうにも小憎らしい小悪魔の腹痛が、次なる頭痛の種の前兆であることにまだ二人とも気付いてはいなかった。

721 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:25:22 ID:CTHtYBJc
そう、前兆だったのだ。
翌朝ロックが目を覚ますと、腕の中にいるはずのレヴィはおらず、いつまでたっても戻って来ない。
不審に思った彼が彼女を探しに行くと、波打ち際で腰まで水に浸かってうずくまっていた。
「腹が痛いなら冷やすなよ」
「うるせぇ。あっちいけ」
呆れたように後ろからそう呼び掛けるロックに、振り返りもせずに吐き捨てる。
「何その言い方。俺、何かした?」
「うるせぇ。あっちいけ」
「それしか言葉を知らないのか?」
「………うるせぇ。…あっちいけってば」
心配しているのに、壊れたラジオのように同じ言葉を繰り返す彼女に自然と苛々してくる。
バシャバシャとわざと音を立てて近づき、腕を掴んで引き上げる。
「何が気に入らないんだよ、言えよ」

「 「 うるせぇ。あっちいけ 」 」

重なる二人の声。振り返る彼女に勝ち誇った顔でにやりと笑うロック。
そんな彼が実に忌ま忌ましくて涙が込み上げる。
泣き顔を見られるのが悔しくてたまらず、腕を払って再びうずくまった。
突然真っ赤な顔で涙を浮かべるレヴィに、次はロックが狼狽した。
「腹が痛いの?…俺何かした?」
一度泣き始めるとどうにも声が出て来ず、鼻を啜りながら頭を横に振り続ける。
「…泣かなくていいから…な?ほら、深呼吸して……?」
このまま泣いていても埒が開かない。言われるまま何度か深呼吸して、どうにか一言搾り出す。
「…………………アレなんだよ」
「…アレ?」
レヴィの言わんとすることを初めは理解出来なかったロックだが、更に小さな声で「…生理…」と返す彼女に合点がいく。
「………あー…その…随分早いね………って、そうじゃなくて…何だ、まずは、そう…良かった。何も無くて良かった」
二人の間に落ちた気まずさを誤魔化すように声を掛けるが、きっと彼女が気にしているのはそんなことではない。案の定俯いた
まま黙り込んでしまう。
「その、あー…、いつもどうしてるの?」
何を馬鹿なことを聞いているのだろう。想像力を働かせればわかりそうなものを。
「………………………タンポン入れてる」
「そっか、そうだよね、あの格好だもんね…どうしようか、代わりになるものも無いしなぁ…」
何の意外性も無い極当たり前の答えに、自分の馬鹿さを誤魔化さんばかりに猫なで声で捲くし立てる。喋っていないと気まずく
て仕方ない。
「まぁ、とりあえずさ、それなら尚更冷やすのはよくないと思うし、こっちに来て身体を拭け」
そう手を引かれ、渋々歩き始める彼女。
だが、4〜5歩歩いたところで身体の奥に溜まった何かが外にあふれ落ちる感覚に、彼から隠すようにその場にへたり込む。
「…よく2日目が一番重いって言うけど、違うの?」
「お前、デリカシー無ぇ」
デリカシーなどという殊勝な概念を彼女が求めて来たことに多少なりとも驚きつつ、「体調を把握しないと対策を立てようもない
からね」などともっともらしくはぐらかす。
「……その時によって違う…」
俯いた彼女の耳とうなじがほんのりとピンクに染まっていて、何故だかそこに色気を感じる自分に内心呆れかえる。
「そっか…。ちょっと待ってろ」
最初は悪趣味だと辟易した真っ黒なカーテンをテントから剥いで身体に巻いてやる。
太陽の熱を集めたそれは、少し冷えた身体を心地よく包む。
「寝床、どうすんだよ」
「どうにでもなるよ。これなら多少汚れてもわからないし…ねっ」
言いながらレヴィの身体を横抱きに抱き上げる。
「………お前、フラついてるぜ?」
「う…るさいっ…」
「落とすなよ?」
「わかってるよ!」

この瞬間から、レヴィの仕事は食糧調達から洗濯へと変わり、代わって釣りと新たな住居作りに勤しむこととなったロックは、
既にボロボロだったとはいえ、シャツをも切り裂いて彼女に提供することに相成った。
そんな無人島生活7日目。

722 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:27:02 ID:CTHtYBJc
******************


ロックが出ていき、無機質な部屋に一人になってしまった。先刻まで身体を包んでいた体温が無くなり、室温に反して酷く肌寒
い気がする。
眠くて頭が働かないのだが、おかしなスイッチが入ったらしく、レヴィはこの状況を『嫌われた』ためと認識した。
レヴィは思う。
自分が彼にしてやれることなど命を守って、身体を与えてやること位なのに、何故あんな態度を取ってしまったのだろう、と。
陸に戻れば色香を振り撒く女など掃いて捨てるほどいるのだし、今回のことに懲りて荒事稼業から足を荒ってしまえば、別に
守ってやらずともそれなりに渡り歩いていく気がする。
この街の歩き方は叩き込んで来たつもりだし、第一今とて四六時中ひっついているわけでもない。もしかしたらふらりと日本に
帰ってしまうことだってあるかもしれない。
ならばせめて彼が自分を求めて来た時くらい身体を差し出さずに、どうして繋ぎ止めていられるだろう。
島でだって、彼の欲求不満を認識していながら、十分に応じて来なかった。
思えば散々迷惑をかけたのに、礼もしていない。
考え込むほど不安と後悔が募る。
愛想を尽かされるかもしれない。あいつが離れて行くのは嫌だ。あいつが他の女を抱くなんて堪えられない。
彼の目の前で他の男に抱かれた自分が言うのもおかしな話だが、勝手だろうと我が儘だろうと、考えただけで涙が出そうにな
るのだから仕方ない。
こういう感情を言葉にするのには馴れていないけれど、いくら自分がこういう話と縁遠くたってこれがどういう意味か位は理解で
きる。
言ったらどうなるだろう。面倒に思われるかもしれない。大体、肉体関係ばかり回数を重ねて来た者同士、何を今更、だ。
こういうことに馴れていないからこそ、本心を口にすることで惰性で続いてきた関係すら途切れてしまうのではないかと不安で
たまらない。
「早く戻って来いよ…」
彼女のそんな呟きも虚しく、船が減速していつもの桟橋に着岸するまで、重い金属の扉が開くことは無かった。

*****************

限界…だった。
ただでさえ汗で蒸れて気持ちが悪いというのに、それに加えて周期から外れた月のもので。
普段嗅いでいるものと、似ているようでどこか異なる血の臭い。
痒みやかぶれだって堪え難い。
化繊の布を宛てるだけでは少し動けば身体の奥から溢れる血液が脚を伝い落ちていく。
腹が痛い。
アレの痛みだけでなく腹を下しかけの感覚。
ナンだか吐き気までする。
ロックは心配しているようだが、今は側に来て欲しくはなかった。
文字通りの汚物にまみれた姿をまじまじと晒すなど、とてもじゃないが堪えられない。
洗濯を代わると言い出した男に、堪え切れずに自分にも自尊心くらいあるのだと怒鳴り散らした。
あまりのみじめさに知らぬうちに泣いていた。
ヒステリーを起こしてわめき立てるレヴィに、ロックは湯を沸かしてどこかへ行く。
有り難いとは思ったが、それを言葉にすることは出来ず、ぐずぐずと鼻を啜りながらそれで身体を拭いて、洗濯をするべく川へ
行く。
普段何気なく使っていたものですら、無くなってみるとこうも生活しづらい。
早く帰りたい。
脱水の出来ない壊れかけのおんぼろ洗濯機に汚れた服をブチ込んで、シャワーを浴びて、使い慣れた用具で清潔に過ごしたい。
適当なジャンクフードを腹に押し込み、ビールと一緒にしこたまアスピリンを飲み下して、ベッドに潜り込んで丸くなるのだ。
ロックが背中から抱きしめてくれていれば最高だ。
2日前、腹を撫でてくれた掌を思い出す。こんなじゃなければ、避けなくたっていいのに。最低だ。
流水でゴシゴシ擦っても、布についた汚れは一向に取れない
こんな状態のまま干すなど、ロックに汚物を晒すに等しい。
しゃがみ込んで染みを取るベく奮闘する彼女の奥から尚も溢れる赤い水。
今ならば掃除屋の気持ちがわかる。
うずくまって、何も考えることなく嫌なことから逃げてしまえばどれだけ楽なことだろうか。
今のこの有様は自分の意気や努力ではどうこうしようもない。
腹が痛い。
帰りたい。
帰りたい。
早く帰りたい。

723 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:29:25 ID:CTHtYBJc
ロックが戻って来た時目にしたのは、掃除屋よろしくうずくまったまま微動だにしないレヴィだった。
沸かした湯は無くなっているため、ずっとこうだったわけでは無いだろうが、放っておくわけにもいくまい。
「…そばに行ってもいいか?」
返事が無いのを了承と勝手に取り、すぐ傍に腰を下ろす。
「気にするなって言っても、気休めにもならないと思うけどさ……」
「…………。」
「ずっとこれが続くわけじゃない」
「………………………………………………………わかってる」
「腹痛い?」
こくりと頷くそんな動作すらいつもに比べて随分と辛そうに見えるのは何故だろう。
「…いつもよりひどいんじゃないのか?」
「…薬、飲んでねぇからよ…………泣いちまいたいくらい痛ぇ…」
後半は、信じられぬほどに弱々しい涙声。そういえばいつだって薬を飲んでも痛がっている。
尋常じゃない量の鎮痛剤を飲まぬよう目を光らせるのがその間のロックの仕事になっているくらいだ。
普通だってこんなに痛がらないのに、痛みに耐性のあるこの女が『泣いてしまいたい』と言っているのだ。
戻ったならば引きずってでも医者に連れて行こうと、そう思う。
「帰りてぇ…」
いつになく弱々しくこぼすレヴィが痛々しくてたまらない。
「気持ちは解るけど、叶えてやれない」
「……わかってる、言ってみただけだ………………………………………………………………ところでよ」
「ん?」
「あの木の向こうっかわに洗ったモン干してるんだけどよ…」
「取ってこようか?」
「っ…!?ちげぇよ!…あー…何だ。近寄るんじゃ…ねぇぞ…」
理由を察するくらいのデリカシーは持ち合わせているロックは、何も言わずにそれに同意すると「…ところでさ、今日はご馳走
なんだ」と話題を変えて、笑いながら今日の収穫物らしきヤシガニを見せて来る。
わざとそうしてくれたのは解っているから、彼の促す通りに見た手の中のそれは、石を叩きつけたのか若干潰れていた。
「それも3匹だ!」
一匹は朝の残りの椰子の果肉を入れてスープにしようとか、野菜不足だから食べられそうな草を取って来たとか、味見はした
から大丈夫とか。
返事をしないレヴィに向かってひたすら喋り倒すロックの手足は傷だらけだった。
「鈍いクセに木なんか登ってんじゃねぇよ…」
「あ、わかった?ガキの頃にはよく公園の木に登ってたんだけど、大人になると勝手がちがう」
「落ちたって知らねぇからな。指さして笑ってやる」
「つれないなぁ。」
やれやれと立ち上がったロックは、いまだに居心地の悪そうなレヴィの頭をくしゃくしゃ撫で回すと、「別に悪いことをしてるんじゃ
ないだろ、後ろめたい顔はしなくていい」とだけ言って火を起こすべく背を向ける。
暫くしてロックが焼き石を用意してくれた。それを布に巻いて腹に当てると程よい重みと熱が気持ち良かった。

724 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:30:52 ID:CTHtYBJc
果たして。雨が降ったのはその次の日の夕刻。
レヴィの忌み事も少しばかりの落ち着きを見せ、表情に明るさが覗き始めた頃。
シャワー代わりに雨でも降ればいいと話し始めて久しかった。
南国特有の厚い雲が空を覆い隠し始めた時には二人でにんまりと笑みを浮かべて雨を歓迎する体制に入っていて。
そしていよいよ空から落ちて来た真水に、レヴィは飛び上がらんばかりに喜び両手を広げてそれを浴びる。
滝のような雨の中、心底気持ち良さそうに目を閉じ天を仰ぐ肢体を透明の雫が滴り落ちる。
それだけでも十分に扇情的なのに、衣類が素肌にぴったりと貼り着いた様は、全裸よりよほど艶がある。
「レヴィ…何か凄くエロい」
劣情を隠しもせずに、後ろから抱き着くとひんやり冷たい水の感触のせいか、素肌の熱がいっそう強烈に脳髄を刺激する。
「発情すんな。あっち行け。まだ終わってねぇんだから」
お前だって流血プレイはごめんだろ?と、腰に巻き付く手を撫でながら笑う女。
可愛い女。俺の女。
「俺は別に気にしない。どうせ流れる」
「あたしが嫌なんだよ。腫れてるトコ突かれると痛ぇんだ」
…自分の女だとひそかな満足に浸っているというのに、この悪魔はさらりととんでもないことを宣う。
「……………いつそんなことしたの?誰と?」
「…さてね。…気になるか?」
「もの凄く。ジェラシーで叫びたい」
「戻って、ちゃんと痛み止め用意して来たらヤらせてやるよ」
その後の片付けはお前だけどな…。大惨事だぜ?そう笑う。
「ヤだよ。痛いんだろ?」
心底嫌そうな様子に、プッと吹き出して「別にお前が痛ぇワケじゃねぇだろ」と笑い飛ばす。
「解ってるよ、そんなの」
的外れだったかなぁとか考えながら、いつも二人でシャワーを浴びる時にシャンプーするように彼女の頭を掻き回してやると、
彼女の細く長い髪はギシギシと音を立てそうな位に軋んでいる。
「帰ったらさ、シャンプー一式買ってやるよ、目茶苦茶高いやつ。日本製だ。シセードーなんかどうだ?」
雨は徐々に強くなる。
「そんな何の足しにもならねぇモンいらねぇよ。酒がいい」
「言うなよ。俺がレヴィの髪を撫でるのが好きなんだ」
「だったら『買わせていただきますのでどうか何卒使って下さい』だろが」
「はいはい」
言われるままに言い直す。
仕方ないから使ってやるとうそぶくレヴィは、この島にたどり着いて以来初めて見るほどの上機嫌。
自らの忌み事から解放されつつあるからか、真水によって身体を清めることが出来たからか、ロックと思わぬプレゼントの約
束を取り付けたからか。
元来ポジティブに出来ているロックは、珍しく彼女の方から与えられた雨の味のキスを存分に堪能しながら、今度は服か口紅
でも貢いでみるか…下着でもいいななどと次なるプレゼントの口実を考え始めていた。

725 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:31:22 ID:CTHtYBJc
雨は、止まないということはないが、晴れるというわけでもなく、緩急つけながらだらだら空から落ちて来た。
現金なもので、火が起こせない、衣類も身体も乾かないとの状態が続くと、晴れていた時の方がよほどマシだったような気す
らしてくる。
ロックが、レヴィの腰巻きに成り果てたカーテンの代わりに屋根として厚く重ねた広葉樹の枝葉。
太陽の熱を冷まし、通気性にも優れているという意味ではカーテンより優れていたそれだが、雨を防いでくれたのもはじめのう
ちだけで、今はボートの空気を抜いて上に被せてできた僅かなスペースで雨を凌いでいる。
火を起こせないため、海で食料を調達したところで火を通せない。
わざわざ濡れに外に出るのも億劫…。
そんな暇を持て余した男女がすることなどいつの時代も一つしかないはずなのだが、繋がりを持とうにもレヴィの体調は再び
下降気味。
体温を奪われ末端が冷たい。
そんなワケで、こんなに美味しいシチュエーションだというのに、ロックがやっていることはレヴィとの睦みあいではなく、後ろか
ら抱きかかえた彼女の手足を、血行を促すべくマッサージするという涙ぐましいご奉仕。
しかも濡れてしまったため服は着ていない。
筋肉ばかりで皮下脂肪が少ないのも考えものだと随分と冷たい掌をさすりながら考える。
かと言って不思議と硬いワケでもなく抱き心地はいい、至極。
柔らかい割に弾力もあって…低体温でひんやり気持ちいい。
……帰ったら無理矢理にでも休暇をもぎ取って一日かけてじっくり抱き倒す。
レヴィの意見も聞かず勝手に決める。

「ビニールシートを貰って来ればよかった。それと毛布」
「お前、島に来てからそればっかだぜ…。スパイスだ着替えだタオルだ着替えだティッシュだ…あのボートのどこにそんな余裕
があった?」
「…そうなんだけどさ。こんなに蒸し暑いのに冷たくしてるから」
「今だけだ」
「レヴィの手はいつだって冷たいよ。たまに頬を撫でてくれるだろ?アレ、ひんやりして気持ちいいんだ」
中はとろけるほど温かいのにどうしてだろうと笑いながら抱きしめられ、どこか生々しい物言いが照れ臭くてたまらない。
「お前…死人じゃ無ぇんだからよ…」
「いつも歩く死人だって言ってるのに?」
「揚げ足取んな、死ネ」
「………あったかい?」
素直に頷くのは悔しいから、ついつい憎まれ口をたたいてしまう。
「………………暑苦しい………ぁ…あんまりひっつくと汚れるぞ」
「いいよ、別に。どうせすぐ外はシャワーだ。」
ロックの腕にことんと頭をもたせ掛ける。
腰のあたりにある彼のモノが可哀相なことになっているのには先刻からずっと気付いているが、無理なものは無理なのだ。
一瞬、口でしてやろうかとも思ったが背中を包む体温からだって離れがたい。
「…西の方は明るい。きっとそろそろ止むよ」
後ろから聞こえる声に相槌をうちながらも、こんな風に甘える口実になるのならばあと半日位はこれが続いてもいいかもしれ
ないと、そう漠然と考えていた。

726 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:33:52 ID:CTHtYBJc
迎えが来たのは、事の発端から12日目の昼過ぎ。
どんよりとした空模様は相変わらずで、それでも髪と服は半乾きにはなる程度に雨は遠のいていた。
缶詰もすっかり食いつくし、砂糖を舐めて空腹感を紛らわしていたのだが、いい加減海に何か取りに行かなければならないと
重い腰を上げる頃。

二人引きこもる間、これと言ってすることもないのでとりあえず話をした。
アウトドアが得意と言い放ったロックの詰めの甘さをレヴィがからかったのを皮切りに、お互いの面白くもない昔話が淡々と、
滔々と続く。
決して聞いて欲しいわけでは無かったが、聞かれた事に答えながら何となく会話は続いた。
子供の頃やらかした悪戯の話。
遊びの話。
アルバイトの話。
好きだった場所の話。
………異性の話。

興味がないわけではないが、知らずに済むのなら知りたくない…そんな話の合間、何となくお互い顔を寄せてキスを交わし
始めた、そんなタイミング。

遠く響く、聞き慣れたエンジン音に慌てて干したままのボロボロの服を身につけると、船から持ち出したまま唯一手付かず
だった信号弾を祈るように空へ向けて放つ。
ついでに狼煙でもあげようかと右往左往するも、数日続いた雨のお陰でまったく火は点かない。果たして気付いて貰えたか、
もっと近付いてから放った方がよかったか、だがこの当たりの島などここだけなのだから大丈夫だ。
やきもきと落ち着かない一時。
やがて低音が近付いて来た頃には、気が抜けて言葉も出なかった。

****************

ボスによる慰労の食事を丁重に辞退し、二人揃って事務所を出た。別に申し合わせたわけではない。
ボスの申し出を辞退した彼に彼女が追従し、帰宅すべく腰を上げた彼について彼女も席を立っただけの話だ。
無言で雑踏を歩きながら、ロックはこれからどうしようかと頭を巡らせる。
いつものように自室へと連れ帰りたいのはやまやまだが、今自分から言い出していいものか。
今の彼女は不機嫌丸出しで、下手なことを言えば揃って怪我をしてしまうだろう。
とは言え、自分に着いて歩くということは、何かを求めてのことと解らないわけではない。さてどうしたものか。
気付けば人で溢れ反る交差点。
真っ直ぐ歩けば彼の部屋。右に曲がれば彼女の部屋である。
いつもならば、こんなに悩むことの無いそんな岐路。
そんな場所だからか、帰還して初めて日常を肌で感じ変に気負うのは逆に不自然なように思える。
だから、いつものように尋ねた。
「レヴィ。帰る?………うちに来る?」
「…………………………………エアコン、ぶッ壊れてんだよ」
俯いたまま不機嫌にそう呟く彼女に吹き出しそうになるのを堪え、「決まりだな」と手をとり直進する。
その手を握り返されることは無かったが、拒絶は…無かった。

軽食を買って来ると言い置き、いまだ黙ったままのレヴィにシャワーを奨めて部屋を出たのは20分前。
適当な惣菜とビールと煙草とをぶら下げて自室のドアを開けた彼の眼に入るのは全裸で彼の冷蔵庫を漁るずぶ濡れの女
の姿。元よりそういったことに無頓着な女ではあるが、それでもいつも下着は身に着ける。
ここ暫くの野生生活で無神経に拍車が掛かったような気がする、絶対だ。
「…レヴィ。せめてさ、下着くらい履いてくれないかな…」
「…ビール。冷えてんだろうな?」
彼の提案には一切応じず、彼の手にぶら下がった飲料を要求する彼女に「何か食ってから飲めよ」と御所望の冷えたそれ
を手渡し、クローゼットから二人分の衣類を取り出す。
「脱ぐ前に用意しておけばいいのに」
そう言って早速プルタブに手を掛けている彼女に着るものを渡してやってから、何か食ってからにしろと念を押すも、聞こえ
ているのかいないのか。
全くの無反応だった女は、彼がシャワールームから戻った時、与えた大き目の室内着を纏ってベッドで丸くなり悶絶していた。
「何してるの?」
「ビールっ…飲ん…だら…痛ぇ…」
浅く息を吐きながら、涙を浮かべて何かを訴えている顔は堪らない。誘っているのかとすら思う。
数日まともな食事をとっていない胃袋にいきなりこんな刺激的な破裂物を流し込めばこうなるのは当たり前だろうと思う。
だから言ったのにと呆れつつも目の前の芋虫の背中を撫でてやる。

727 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:34:55 ID:CTHtYBJc
それにしても、自分の服を着る彼女など見慣れていて、少し大きめのそれを纏う姿はいつだって小さく見えるのだが今日は
一段とか細く見える。
痩せたな…と、そう思う。
そんなやつれた芋虫ことレヴィは、低い呻き声を上げながら身体を起こして若干前屈み気味でテーブルにつくと、ロックの
差し出した粥から黙々と人参を除け始める。
「食えよ」
無駄と知りつつ言ってみるも一瞬顔を上げただけで「嫌いなんだよ」の一言の後、細かな緑黄色野菜の掃討作戦に戻る。
「そんなんだから生理不順なんだ」
「…うるせぇ」
そんな応酬の後は会話も無く、咀嚼と食器の当たる音だけが響く。
たまらなく腹は減っているのにここ数日まともな食事を取っていないために胃がなかなか受け付けない。
それを見越して消化の良さそうなものばかりを選んだとは言え、二人の間の空気の重さも手伝い食が進まずため息が漏れる。
レヴィはそんな彼を横目に、おもむろに立ち上がったかと思うとベッドに向かう。
寝るなら俺のスペースを残しておけよと口を開きかけたロックに、彼女は一言宣言する。
「おい。ヤるぞ」

「はぃ?何、いきなり」
「このまま気持ちよくおネンネして、また起こされるのは イ ヤ なんだよ。考えてみればお前は溜まってる。溜まってねぇ
 はずが無ぇ。一発抜いてやらねぇと絶対あたしの睡眠を邪魔しやがる」
「……………………………もうしないよ、あんなコト…」
「あたしがヤらせてやるってんだからさっさと硬くして股に突っ込みゃいいんだよ」
「最中に寝られるのは興ざめなんだけど」
「眠くなるようなファックしか出来ねぇってか」
やれやれとため息を吐く彼女に歩み寄り、頬を撫でる。
「明日。一日中抱き倒すつもりだったんだけど…今日シて、明日もさせてくれる?」
「満足させる自信があるなら」
「頑張るから」
「何だそれ。いつもは頑張って無ぇのかよ」
「そんなことないさ。ならレヴィはいつも満足してなかったの?」
「満足させてたと思ってんのか?」
「……………………か……硬さはあると思うんだけど…」
あからさまに動揺する男を、レヴィはさも面白そうにニヤニヤと眺める。
男ってのは何でこうも馬鹿なのだろう、大きさだの硬さだのにこだわり、異物を埋め、それが凄かったと言えば自分も入れ
るべきかと尋ねたり。
そんなことは微塵も気にしてなどいないのに。
本当に馬鹿だ。あまりに馬鹿過ぎて何だかそれがたまらなく愛おしい。
先刻までの苛立ちも不機嫌も一気にどうでもよくなった。
考え込んだままの可愛い男の頬を両手で包み、顔を寄せる。
先刻のショックから立ち直れず躊躇いがちに口付けようとする男の唇をぺろりと舐めてやると、少し驚いたような顔で彼女を
見つめている。
ロックの目の前で、レヴィは微笑っていた。
そんな彼女をとても綺麗だと思い、前にもこんな風に綺麗に微笑ったなと凌辱される姿を思い出す。
あの時は窓に映った姿だった。
今は目の前で微笑っている。
「なぁ、ロック。一度だけ聞いておきたいんだけどよ」
「……な…に?」
何故だか妙に心臓がうるさい。レヴィがこんな風に笑うからだ。




「知ってたか?……あたしは…お前に惚れてんだよ」


728 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:36:55 ID:CTHtYBJc
顔に一気に血が集まる。カァッと全身が熱くなり、たまらずにレヴィを抱き寄せ首筋に顔を埋める。
突然のことにまともに彼女の顔を見ることができない。そう、自分は随分と情けない顔をしているに違いない。
「……多分、知ってた。というより、そうだといいなと思ってた。」
何て馬鹿な返答だろうとは思ったが、あまりに予想外の展開にこれ以外口にすることが出来ない。

レヴィもまたかつて無いほど鼓動を高鳴らせながら自らの肩に縋り付く男の頭を撫でていた。
逃げ出してしまいたい衝動を必死に押さえ付け、更に問い掛ける。
「よぉ、ならこれは知ってっか?……………お前はあたしにベタ惚れだ」
しばしの沈黙。
何で黙るんだよ、どうしよう今更ジョークになんて出来やしねぇとレヴィが顔を歪めているとロックはいかにもばつが悪そうに
顔を上げる。
「…………バレてた?」
間の抜けた返答に一気に緊張が解ける。安堵のあまり腰が抜けそうだ。過去何度となく殺されかけたが、一度だってここま
で緊張したことはない。
「…バレバレだ。………やっと白状しやがったな、このヘタレが」
呆れたような拗ねたような様子で口を尖らせる顔からは、先刻の笑みは消えている。

「今日こそは言おうと思ってた」
ロックの言い訳にすらならない物言いに、レヴィは「はっ…今日こそはか、ずっと言いたかったとでも言いたげじゃねぇか」
そう鼻で笑う。
「そうだよ、ずっと言いたかった。実は好きなんだ。…レヴィの髪を撫でるのが好きだ。レヴィとキスするのが好きだ。レヴィ
 と街を歩くのが好きだ。レヴィと喧嘩するのだって、まぁ、楽しい。その後もっと好きになる。レヴィに甘えて眠るのが好きだ。
 ああ、それと甘えられるのも。レヴィの声も目も鼻も口も舌も指も脚も…胸も腰も性器も――――」

「っ!?もういいっ…これ以上言ったら殺すからな!?こっ恥ずかしいことばっか抜かしやがってアホが!」
「ねぇ、笑って。そういう怒った顔も好きなんだけど、さっきみたいに笑って。ねぇ、頼むよ…………ねぇ…………………そう。
 ………………綺麗だ、凄く。」
啄むようにキスを交わし、どちらからともなくベッドへ倒れ込む。
ロックはレヴィの唇を吸いながらシャツの裾から腕を差し込み素肌に直接触れる。
指先だけで上半身をゆっくりとなぞるように撫で回し、舌はぴちゃぴちゃと首筋を舐め回す。
何となくもどかしいその所作に、レヴィは男の頭を自らに押し付けるように抱き寄せ、不満げに鼻を鳴らした。
「もっと?」
「……足りない」
「素直ないいコだ」
耳に舌を挿し入れ、右の乳房を揉みながら乳首を軽く摘む。
甘い吐息とともにのけ反る背中。
その隙間に手を差し込み、身体の前面を唇で愛しながら、背面はそのまま少しずつ下へ下へと移動する。
清潔感のある石けんの香りが鼻を抜けた。
彼女の体臭を疎んじるつもりはないし、それで興奮するのだって事実だ。
だが、こういう香りに包まれたレヴィとこうして改まった気持ちで情を交わすのもたまらなく興奮すると感慨に耽る。

729 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:38:50 ID:CTHtYBJc
レヴィはロックの半乾きの髪を撫でたり指に巻いたり軽く引っ張ったりと弄ぶ
自分の身体を夢中で愛撫してくれるのは嬉しいし気持ちがいいのだが、今はそれよりも顔が見たいと、そう願う。
鼻息荒く乳房にしゃぶりつく男の頭を片手で抱えたまま身を起こす。
胸元に蟠ったシャツを脱がされ、彼女もまたロックのシャツを上へと捲り上げる。
一度キスを交わし、顔をそのまま下へずらして部屋着の上からでも解るほどに大きくなった彼の分身にもキスをする。
髪を撫でてくれているロックを上目で窺うと、嬉しそうに微笑う細めた目と目が合う。
不思議とそれだけで満足感が沸き上がり、目は反らさぬまま男の着衣を剥ぎ取る作業に戻る。
目的のものを引きずり出して彼を見上げたまま先端にキスを落とすと、筋に沿って下へ下へと舌を這わせ、睾丸を口に含む。
途端に弾力を増して更に上を向くそれに「素直ないいコだ」と手で撫でながらもう一度キス。
唾液を溜めて口に含むと、先から溢れる液で少ししょっぱい。
他の誰かであれば嫌でたまらないはずなのに、もっと溢れさせてみたくて、先の割れ目のあたりを強く吸う。
「んっ…レ…ヴィっ…」
先端から更なる体液を溢れさせながら随分と可愛い声で鳴く男に、不思議な達成感。
そのまま一気に咽までくわえ込む。
ロックと目を合わせたまま唇を何度も何度も往復させる。
口に広がる体液の味が濃くなるほど下腹部が疼いて下着を濡らすのがわかる。
唾液と先走りで汚れぬよう髪を梳いてくれる手がうれしい。「上手だね」と褒めてくれる囁き声がうれしい。
視線の先の男の顔が快感で歪んでいくのがうれしい。
だから、バネのように上を向き、くわえにくくなる彼を両手で押さえて懸命にしゃぶりつく。
口に収まり切らなくなったアレやコレで彼女の手と口の回りがベタベタになり始めた頃には愛しげに彼女の髪を梳いていた
はずのロックの腕の筋肉は無意識に彼女の首の律動を促すべく動きを変えていた。当然そのまま口に放たれるものと思っ
ていた彼女は最後のタイミングを測っていたし、直前まで彼当人すらそのつもりだった。
だからその瞬間口から抜かれたそれが作った大量のシーツのシミを前に、彼女がいかにも不可解な様子で理由を尋ねたの
は当然で、それに対して「煙草…」と一言、無関係な名詞を呟いた彼に「ぁあ?」としか反応出来ないのも、まぁ当然といえば
当然だと言える。
「煙草、吸ってないからキスが煙草臭くないんだ。口に出したら台なしだろ?」
「………馬鹿だな、お前。白いの出さなくたってガマン汁出しまくってるだろ」
そう馬鹿にしつつ、そんな男を可愛く思う自分はあらゆる意味で終わっていると思う。
口に貯まったぬめりをティッシュに吐き出しながら「…口、すすいでくるか?」と言ってやるも、無言のままゆっくりとシーツに
押し倒される。
「それより…早く中に入りたい」
彼女の下着を下げながら耳元で囁き唇を重ねて来るロック。たった今まで自分の陰茎にしゃぶりついていた口の中を舐め回す
こいつはやっぱり馬鹿だと呆れながらレヴィは器用に下着を抜いて大きく脚を開く。
彼の下半身に手を伸ばして扱くそばから弾力を増す様に吐き出したばかりだというのにと更に呆れるが、まぁ一回きりで勃たない
よりマシかと思い直す。
ロックはレヴィのとろとろの割れ目に指を押し込み、わざとビチャビチャ音を立て聴かせる。
「触ってないのに。すごいよ?」
そう囁きながらベッドの下の小箱に手を伸ばす彼の腕は、レヴィによって止められた。
「いいから。そのまま突っ込めよ」
「文明社会に戻って来たからには…その、…『ちゃんと』するよ」
確かに自分も先日苛立ち紛れにそう言った。『ちゃんとしていれば』と。だが。
「………………今日だけ。終わったばっかだから問題無ぇ…だってよ…やっと…好きだって………プリーズ…そのままで…」
ぶつ切りの呟きの羅列とはいえ、随分としおらしいおねだりにボスに刺された釘がどこかへ吹っ飛ぶ音がする。
まともな周期を持っていない以上、リスクに対する彼女の言い分が不完全なことは解っている。
でもいいや。きっと今は「そう」するのが自然なのだ。だってこんなにこんなに欲しくてたまらない。

730 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:40:20 ID:CTHtYBJc
入口に自らを擦りつけてレヴィのぬめりを纏わせていると、それだけで漏れ出る甘いため息。
ずぶりと埋め込むや、彼女の右の掌が彼の左の掌を捉える。
手を繋いだまま彼女の両脇に肘をつき、頬と頬とを擦り合わせるとレヴィはくすぐったいと笑い、首を伸ばしてキスを強請る。
―――早く突いて。奥まで。あたしのナカをぐちゃぐちゃに掻き回して。キモチよくさせて。
そんなこと口にはしないが、彼女がそう望んでいるのは明らかで。
だが、レヴィの中へと分け入ったロックはそのまま動くことなく、ぴったりと密着したまま彼女の髪や頬を撫でたり顔に鼻先を擦り
寄せたりと、行為を始める気配すら見せない。
レヴィはそんな態度にもどかしさを感じ始めるとともに彼のカタチや硬さ、細かな痙攣を直接膣で感じ、それに反応して蠢く自らの
内部に今更妙な照れ臭さを覚える。
そんな生娘のような恥じらいを感じ取られてなるものかと、皮肉屋としての顔を崩さぬよう目一杯気を遣いながら、動かないのかと
問い掛ける。
「ん?ああ…、あったかくて気持ちイイなぁ…と思って。今レヴィの中にいるんだなぁって改めてしみじみしてた」
レヴィは自分の顔に血が昇るのを間違いなく感じた。
鈍い痛みとともに子宮のあたりが疼き、膣がぴくぴくと2度痙攣する。
「なっ…!?ぁ…そ、そんなの当たり前だろが!馬っ鹿どうだっていいからよ、その…さっさと終わらせろよ」
自分の上に陣取る男の視線から逃れるように顔を背ける。背けた視線の先には今の自分達と同じように重なる手と手。
そんなものにすら何故だか異様に居た堪れなくなり、たまらずに目を閉じる。
ロックは繋いだ手をそのまま二人の結合部へ拒むように手を引っ込める彼女を嗜めるように耳元で囁く。
「レヴィ?ちゃんと触れよ。……どうなってる?言ってみろ」
「……馬鹿ロック……」
「ほら、言ってみろよ」
結合部をなぞるように指を滑らせる。ぷっくりと膨れた突起に触れると、眉を寄せて微かなため息を一つ。
「…ぁ…あたしの股の間に、お前のが入ってる」
「濡れてる?」
「……………………びしょびしょ。」
「今、奥からまた溢れたね………ああ、奥の方が締まった。壁もひくひくしてる。…感じてるの?」
そんな風に言われると、力を入れることも抜くことも出来ずに余計に結合部を意識してしまう。
「お前、性格ワリぃ」
「でも、好きなんだろ?」
「前言撤回だ。嫌いだ、てめぇなんか」
「なら、やめよっか」
「ヤだ!そのまま…」
身体を離そうとすると慌てて脚で腰を挟み込むレヴィをますます愛しく思いながら、「どうして欲しい?言って」とおねだりを促す。
レヴィはおずおずと目を開き、欲情し潤んだ目でロックを見据えると、逆に彼の手を結合部に這わせて耳元で囁く。
「お前のコックでここを…突いて、掻き回して、キモチヨクさせて」
「上手に言えたね」
褒めると、嬉しそうにはにかんだ。

いつになく穏やかな行為だった。
ロックがいわゆる「溜まっている」状態だったのは事実だが、疲労困憊なのも本当だ。
だから快楽を貪りあうというよりは、ようやく想いを通わせた男と女とで身体を繋げたままいちゃついていたという方が実態に近い。
文字通り抱き合ったまま互いの身体を撫で回し、吐息を絡ませる。
何度も何度も恋情を伝え、その度にレヴィの身体はぶるりと震える。

「レヴィ…キモチイイ?…なぁ、レヴィ…こっち見て。そう。キモチイイ?」
乳房を揉み、乳首をこね回しながら問う男にレヴィは思う。
何故男というのはどいつもこいつもしつこくコンナコトを問いかけるのだろう。
肉体の感じる快感と、キモチの満足は比例しないのに。
だが、不思議なものでキモチが満たされればカラダだってキモチイイ。
「悪くは、無ぇな……お前…は…?」
「キモチイイよ。凄くっ……最高だっ…」
そう答えると、レヴィは少しだけ誇らしげに笑む。
「でも…」
だが『BUT』という否定詞を用いたことで、その笑みは曇る。ロックは固まってしまった彼女の頬を、安心させるように撫でながら告げる。
「声…聞かせろよ、もっと。我慢しなくたっていいから。」

731 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:45:43 ID:CTHtYBJc
レヴィの声に酔いながら身体を揺らす。
船の中で聞かされたような演技染みた声ではない。
彼女の中から自然にあふれ出る声。
何度も繰り返し呼ばれる名前が嬉しい。
今までだって呼ばれることはあったはずなのに、それでも言葉で想いを通わせた後では嬉しさも一塩だ。
レヴィも名前を呼んでやる度に感じている様子で声を上擦らせて全身を震わせる。
緩やかに緩やかに上り詰め、彼女の息が止まって握り合う手に一際力が篭る。
四肢を強張らせる彼女の耳元で、一言。
囁いた。
組み敷くカラダが大きく震えて弛緩するのを愛しさと共に見届けながら、少し遅れてロックも果てた。

局部と局部を繋ぎ合わせたまま二人だらりと身を投げる。膣の痙攣と呼吸が落ち着いた頃、レヴィがようやく口を開いた。
「……疲れた」
「俺も。」
「…もう一発は、無理だからな」
「流石に…しないよ…でも明日は一日中いいだろ?」
「勝手にしろ…『今日から俺の女』なんだろ?大体何が『今日から』だ。いつも寝ぼけて同じようなコト抜かしやがるクセによ」
ケッっと吐き捨てるレヴィに、鳩が豆鉄砲を食らったような顔でロックは問い返す。
「言ってた?そんなコト」
「言ってる。あと、寝てる時でも撫で回してきやがる……。あぁぁぁぁあっ重い…どけよ」
そう邪険に身体を押し退けようともがく彼女に逆らわずに身体を離しながら、会話を続ける。
「まぁ、確かにいつもそう思ってたけど…口にまで出してるとは思わなかった」
ティッシュを彼女の股間に宛て腹に力を込めるよう言うと、腕で顔を隠しながら羞恥をごまかすように「…腹減った。喉渇いた。
「眠い。」と零す。
空気と共にコポリと音を立てて溢れる粘性の体液を白い紙で受け止めつつ、何気ない風で何を食べたいか聞いてみる。
そう言えば先刻はリクエストを聞いていなかった。

あるものでいいという彼女のため、先刻の残りをレンジで暖め直してベッドへ運ぶと、飲み干した水のボトルを片手にすやすや
と眠っている。
穏やかな寝顔に、起こすべきか否かを逡巡しながら傍らに腰掛け髪を撫でる。
痛んで指通りの悪い髪を根気よく梳いていると、うわ言のように「シャンプー、買ってくれるんだろ?」と呟く口。
起きているのか…と、食事はどうするか尋ねると、「後で食う」と返ってくる。
いくつか問答を繰り返すうちに、どうやら半分寝言のような呟きなのだと気付かされる。しかも随分と素直だ。
これは面白いとアンケートを取ることに決め、まずは「俺のコト、何番目に好きなの?」と尋ねると、少し笑みながら「いちばん」
と返って来る。
可愛すぎる。ならば次だと「今日のセックスには満足した?」と尋ねれば「ん…」と微かに頷き肯定が返る。
これは普段聞き辛いことを聞くチャンスだとばかりに、ローワンの店でのアルバイトの話だの、実はロックに辛く責められるのが
好きなことだのを聞き出す。
普段の彼女ならば絶対に口にしないであろう返答の数々に、どうやら本当に無意識のうちの返答なのだと確信し、本題に入る
ことにした。
「俺さ、子供嫌いじゃないんだ」
「…………しってる」
何となく手を繋ぐ。彼女の手は口以上に正直者なのだ。
「もしさ、本当に出来たら、どうする?」
ドキドキしながら返答を待つロックの眼前で、レヴィの顔はうなされるように歪み、眉間の皺に比例するように手も強く握られる。
そして一言「………やだ」と返る。

きっと寝ぼけて濁った彼女の思考回路の中で何らかの逡巡があったに違いない。
だが、何に対してイヤだと言っているのか。そのような事態になることだろうか。島で彼女が宣言した結論を出すことだろうか。
ロックにはさっぱり理解できなかった。
だが、これ以上詰問するのも趣味が悪い。それに心なしか寝顔が険しい。疲れた彼女にこんな顔をさせたくない。

732 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/09(月) 22:47:47 ID:CTHtYBJc
そう、今日は最高だ。
この麗しきロアナプラへ二人無事に戻って来れた。
レヴィに「一番好き」だと言わせ、自分の恋情も思う様伝えた。
今まで『何となく』のまま宙に浮いていたことにけじめがついたのだ。十分ではないか。
また『何となく』先送りにするこの問題も、いずれまた話す時が来るだろう。
自分が『ちゃんとすれば』いいのだが、愛しい相手とより深く近く繋がりを持ちたいと思ったっていいではないかとも思う。

「いやだよな、ごめんな。疲れたな…いっぱい寝ような。」
耳元で囁くと穏やかに口端を上げる、やつれても尚可愛い顔。
隣に潜り込み、抱き心地の良い身体を引き寄せると、迷いも無く定位置に移動してくる頭。
そんな仕草に、本当に寝てるのかよと呆れつつ、こうやって眠るのが当たり前になっていることの証左のようでくすぐったくて
嬉しくてたまらない。
外はすっかり暗くなり、眠るのに邪魔なものは何もない。
時折遠くで響く銃声だって、日常に戻ったことを実感させてくれるアクセント。
明日は昼まで寝よう。
ゆっくりと朝食兼昼食を摂って、沢山キスをして、抱き締め、鳴かせて、次は起きた彼女の口から「いちばん」と言わせるのだ。
「おやすみ、レヴィ」
そう囁いて目を閉じた。


おわり



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