8 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/14(土) 19:17:29 ID:XWpPoprX

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「よぉ、ロック!ノート貸せ!」
1限目の終わりを見計らって登校したあたしは、席でちまちまとノートを纏めてる間抜け面に開口一番そう告げる。
再来週から定期試験。次に赤点を取れば間違いなく留年だ。
ロックは「ああ、来たんだ」と呟きながら、あたしに告げる。
「……いやだよ。前レヴィに貸したノート、菓子の油でギトギトだったんだ。カスまで挟まってるし」
「ちいせぇヤツだな。黙って読んでてもクソつまんねぇんだから仕方ねぇだろ??」
「エダに借りろよ、寮で同じ部屋なんだろ?」
悪友であり、学内トップの糞ビッチの名前を聞いて顔をしかめる。
「あー、アイツは駄目だ。天才肌っつーかよ。ノートなんざ取ってねぇ。つーか授業だって聞いちゃいねぇ」
アレで学内トップなんだからワケがわからねぇと憤るあたしに、冷ややかな一瞥を寄越すと「だったら教えて貰えよ」とだけ吐き捨てノートに視線を戻す。
「だぁかぁらぁ、アイツはダメなんだよ、思考回路が普通じゃねぇから教えるのにゃ向いてねぇんだってば」
「……まぁ、確かにそうかもな」
とりあえず納得したらしいロックだが、「でも、天才でもないのにエダと一緒になって授業聞かないレヴィの自業自得だよね」とそれ以上取り合わない。
「よぉ、ならよ、お前が教えてくれよ。今日暇か?」
「だから何で俺なんだよ!?他にもいるだろ?鷲峰さんとかベニーとかロベルタさんとか!!」
ベニーは脅せば言うこと聞くが雪緒やクソメガネは論外だ……。
第一『何で』なんて今言えるワケがない。
今日は2月12日。
14日のバレンタインに『礼』と称してチョコをやる口実にするつもりだなんて、口が裂けても言えない。

「ほら、オレンジジュースでいいだろ?」
「シケてんな。酒無ぇの?酒」
「勉強するのに酒飲む馬鹿がどこにいる?第一俺達は未成年だ!」
「ならてめぇが今火ィ点けようとしてる白い紙巻きの中身はナンだっつーんだ」
「うるさい」
結局ロックを丸め込み、ヤツの部屋に転がり込む。
「でさ、ココのXにこの解を代入するんだよ」
「ふーん。意外とカンタンだな」
そう言いながら類似問題を解き始めたあたしをロックがジィッと凝視している。
これはフラグが立ったか!?とチョットばかしドキドキしながら「ナンだよ」と問いかけた。
「お前さぁ、一応うちの学校の生徒なんだな。ずっと不思議だったんだよね、何でコイツがウチの学校いるんだろうって」
フラグがボッキリと折れる音がした。
まぁ、焦っても仕方ねぇと「やるときゃやるんだよ、あたしだって」と鼻を高くしたならば「ならどうして普段からやらないのか全くもって理解不能だ」とため息を吐く。
「受験はどうしたのさ、結構難しいだろ、ウチの入試」
「寮があるだろ?ここ。クソ親父から離れるためならナンだってするさ」
「仲悪いのか?」
「口もききたくねぇ」
「ふ〜ん。でも学費出して貰ってるんだろ?」
「んなワケあるか。アイツにゃ給食費だって払って貰ったコトねぇぞ。バイトだバイト」
「…バイトって…学費が幾らか位は知ってるけど、やたら高いよな、ウチ。ちょっと働いた位じゃ払えないだろ…ましてや寮費や生活費もいるんだろうし」
「…あーまー…………いろいろアんだよ…」
言えねぇ…絶対言えねぇ!場末のSMクラブのショウガールとしてシバいたりシバかれたりしてるなんざ!
ましてや、本番とMはシねぇとはいえ追加料金払った会員のおっさん相手に個人プレイしてるなんざ死んでも言えねぇ!
寧ろそっちの収入がメインだなんて……知られたら生きていけねぇ。
ロックはあからさまな疑惑の目をあたしに寄越しながら「ふ〜ん…」と相槌をうつ。
「頑張って勉強して奨学金借りればいいのに」
「他人に媚びて借り作んのはイヤなんだよ」
「今のコレは借りじゃないのかよ」
「返す気が無いから違う」
「あっ…そ…」

9 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/14(土) 19:18:56 ID:XWpPoprX
ロックの部屋での時間は楽しかった。
勉強なんざ大嫌いだが、コイツはあたしが理解できないポイントを不思議なくらい理解して、的を射た説明してくれて、面白い位によく解った。
明日はロックは予備校であたしはバイト。
だから明後日の14日にまた教えて貰う約束をしてヤツの家を出た。
ロックが14日の予定を空けてくれたことも嬉しくて、明後日がすっげぇ楽しみだった。

チョコは手作りを渡したかったが、寮のキッチンで作るのはイヤだった。
だから次の日は授業後すぐに着替えて、スーパーで『手作りセット』ってヤツを買い込み(失敗してもいいようにな)早めにクラブに出勤した。
茶を湧かしたり弁当あっためるのにしか使ってねぇが、コンロとレンジくらいはある。
オーナーのローワンっつーテンションたけぇおっさんや、後から来た同僚の嬢達の冷やかしやアドバイスと言う名の口出しにキレたりしながら、何とか2時間くらい
でそれなりのモンが出来た。
溶かして固めるだけのモンなのに、大量の『焦げ墨』と『幕間のおやつ』が出来たのは内緒だ。
ボンテージに着替えて化粧しながら、アイツどんな顔すっかなぁとか、受け取ってくれっかなぁとか考えてるとそわそわして堪らない。
ハタから見てても百面相してたらしく、すっげぇ笑われた。
今日のシフトはシバく方か。シバかれるよかシバく方がまだマシだ。
陰影の濃い化粧を施した、鏡に映る自分を見る。
セーラー服を纏う昼間のあたしとは別のあたしが映ってる。
出番を告げる声に、頭のスイッチをカチリと入れ替えた。
目を細めて立ち上がる。
今からあたしは『女王様』。

スポットライトを浴びた壇上からは、薄暗い客席の様子は殆どわからないが、下卑た視線を向けられていることは解ってる。
薄く笑みを浮かべながら、客席を舐めるように見下ろし、狭いステージをゆっくりと一周する。
安っぽいムードミュージックと安造りのステージをピンヒールで踏み鳴らす音。
音楽が泊まると黒服の男が首輪に繋がれた今日のM嬢を引っ張って来る。
鎖のリードを受け取り、思いっきり引っ張ると、悲鳴と共に倒れこむ身体。
音楽が攻撃的なものに変わる。
音にあわせて身体を翻しながら鞭を振り下ろす。
音は派手だがそれほど痛くもない、ソレ。
被虐される女の悲鳴も予定調和。
全てプログラムされた通りの展開。
コレで普通のバイトの倍以上は金が貰えるのだから、安いものだ。

「よぉ〜レベッカ!サイコーだったゼ!!」
ステージから戻ったあたしを、ローワンのおっさんがテンション高く出迎える。
同様にMにも労いの言葉をかけているのを眺めつつ、とりあえず水で喉を潤す。
「ところでレベッカ。相談なんだけどよぉ。Mでご指名掛かってるんだが、どうよ」
「…言った筈だぜ。クセェおっさんのアレしゃぶるのも、バイブ突っ込まれるのも、ケツをファックされるのも御免だ。」
「けどよぉ、上客なんだわ。新客引っ張って来てくれるしよ。アンタが応じないなら別の店に通うって、そう言ってる」
「ふ〜ん…」
興味が無さそうな風を装いタバコに火を点けるあたしに、ローワンは一言釘を刺す。
「応じないなら応じないで、理由が必要なんだわ。レベッカ嬢は辞めました、とかな」
「………クビ。ってコトか」
「そうは言ってねぇけどよ。17才のアンタを雇ってくれる店なんざ他にねぇってコトは理解しとけよ」
「……………………………何日か考えさせてくれ。客には『生理だ』とでも言っといて…」

10 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/14(土) 19:19:45 ID:XWpPoprX
化粧も落とさずに、上の空で繁華街を歩く。
別に、高校を卒業してぇワケじゃない。
クビになったって、学校をやめれば衣食住を確保する程度の稼ぎくらい何とかなる。
けど、そんなのはイヤだ。ロックの傍にいたい。学校にさえ通っていればアイツと過ごす時間が担保される。
あたしのクソつまんねー人生の中で、何物にも代え難い楽しい時間。
指名に応じた時のことを想像する。好きでもねぇ野郎に加虐の対象として玩具にされるのだ。
縛られ、いたぶられ、奉仕して。
気持ち悪い。ヤだ。嫌悪に全身があわ立つ。
Sでプレイする時だって、見せることはあれど絶対に性器には触れさせない。
こんなバイトをしてる手前、経験豊富なフリをしているが…男の経験が、無い。
変態オヤジに突っ込まれたバイブで破瓜なんて、冗談じゃない。
けれど、それを選ばなければ学費なんてとても払えない。
涙でドロドロの化粧のまま部屋に戻ったあたしに、ギョっとするエダ。
彼女の手には、ファッション雑誌。勉強なんざしてる様子も無い。
なのに、学内トップで奨学金の返済も不要。
いつもは「コイツはコイツ、あたしはあたし」と割り切っていたが、今は妬ましくてたまらない。
「どうしたよ、変態に犯されたか?泣いてちゃわかんねぇだろ」
エダなりの口の悪い慰めを受けながら、そういえば折角のチョコを忘れて来たと気付く。
馬鹿みてぇだ。みじめで情けなくてたまらなかった。

結局、チョコを取りに夜中に寮を抜け出した。
店でローワンに会ったが、何も言わずに俯いて前を通り過ぎる。
「ウチもさ、売れっ子のアンタをクビにはしたくないんだわ。」
背中から掛けられた声にチョコの包装をギュッと握り締める。
「アンタ、ショウでは両方ウマいじゃねぇか、な?Mもヤレばアンタなら相当稼げる。」
そんな声から逃げるように駆け出した。
そう、『初めて』だからこんなにイヤなんだ。
チョコを胸に抱いて、こいつを作ったハッピーな時間を思い出す。
ロックと一緒にいたい。
けど、貯金切り崩して別のバイトしただけじゃ学費なんざ払えねぇ。
何でちゃんと勉強してこなかったのだろう。今からじゃ頑張ったって間に合わない。

翌日の14日。バレンタイン。
いつも通りの顔で登校したあたしの胸ん中は、どんよりと重苦しく曇っていた。
あちこちからチョコをやったの貰ったのと、浮かれまくった声が聞こえてくる。
あのクソ眼鏡ですら家庭教師をしている良家の坊ちゃんに渡すとかで、随分とお高そうな紙袋を机の横にぶら下げている。
どいつもこいつもそわそわしてた。

昼休みにエダと二人で菓子パンを頬張っていると、雪緒のヤツがいかにも手作りくさいチョコレートケーキを差し出してきた。
「銀次さん…あ、…私の保護者みたいな人なんですけど、その人が『クラスのご友人方と召し上がってくだせえ』って」
似ているのかどうかすらよくわかんねぇ口真似を交えてニコニコと差し出されたソレ。
つーか、コイツんちって確かヤクザだよな。ってコトはヤクザのおっさんがコレ作ったのか???
悶々と、紋切り型のヤクザの姿と、そいつがヒラヒラのエプロンつけてケーキ焼いてる様を想像し、ナンとも言えない気分になる。
適当に礼を言って一切れ口に運ぶ。
カカオの香りが口いっぱいに広がるのにクドくなく、その上なめらかな舌触りが絶品だった。
ヤクザのおっさんでもこんなモンが作れるのに、あたしが作ったのは溶かして固めただけのチョコレート。
見ればロックもヤクザお手製チョコレートケーキを口に運んでいる。
ナンだかよくわからねぇ敗北感で一杯だ。


11 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/14(土) 19:21:06 ID:XWpPoprX
結局学校ではチョコを渡せぬまま、約束通りロックと共にヤツの家へと向かう。
いつも通りを装わなければと、まずは幾つチョコを貰ったのか見せてみろと尋ねてみる。
「貰ってないよ、言うようなモンでも無いし」
そう言って白状しないコイツのカバンを強奪して中を開けると、多くはないが大小のチョコが入っており、ナンだかやたら胸が苦しいのにそんなことを口にも出来ず
「へぇ〜〜」とニヤニヤしながらそれらを机に並べる。
「食いたかったら食っていいよ」
「…別に、食いたいワケじゃねぇぞ」
「なら人のカバン漁るなよな…」
そろそろ悪ふざけが過ぎたかと、謝ろうとしたあたしの目に飛び込む見慣れた包み。
あたしが買った『バレンタイン・簡単手作りセット』のソレ。
「……ロック?これは??」
「ああ、ソレ?政経のバラライカ先生のトコのお嬢さんがくれたんだよ。手作りなんだって。前にグループワークでお邪魔したときに妙に気に入られちゃってね」
男女の双子なんだけど可愛いんだぁと頬を緩めるロックを前に、頭が真っ白になる。
教師でありながらガンマニアのバラ姐とは妙にウマが合って飯食いに押しかけたりすることもあって、クソガキ共もよく知ってる。
あの妙にませたメスガキ。
あたしの『作った』ものは小学生と同じレベル。そりゃそうだ。だって、溶かして固めるだけ。それだって何度も失敗した。
固まってしまったあたしにズイっと手を出すロック。
「ぁんだよ?」
「レヴィのは?無いの?」
出せるワケ…ねぇ。
「……ねぇ…よ」
「………ぁ……そっか」
「……うん」

今日は化学と生物を関連付けながら叩き込まれ、何とか今日の目標の範囲を終える。
「悪ぃな、お前の勉強が出来ねぇだろ」
帰り支度をしながら詫びる。
「別に。人に教えると自分が曖昧に覚えてる部分が見えてくるからそれはそれで意味はあるしね」
迷惑なのは間違いないのに、恩を着せてこないコイツ。
いつだって邪険にするふりをしながら、最後はあたしを気にかけてくれる。
好きで好きで。こんなに大好きで。

見送るよと立ち上がったロックに正面から抱きつく。
「ぇ…ちょ…レヴィ!????」
慌てて引き剥がそうとするこいつに抗っていやいやと首を振る。コイツの側にいたい。だから学校はやめたくない。
今から奨学金を得る見込みが無いのならば、今の稼ぎをキープするしかないじゃないか。
ならばせめて、初めて受け容れるのはコイツがいい。コイツじゃなきゃイヤだ。
「好きなんだよ。どうしようもねぇって程。だから、初めてはお前じゃないとイヤなんだ。頼むから…じゃないと…」
縋りついて抱いてくれと懇願する。
ロックは暫し固まり、「ぁ…ごめん、今俺パニクってるからか…話が見えないんだけど…」と困惑して返す。
「だから!!好きだって!!」
「うん、それは分かった。ありがとう。その後の話から…かな?」
「……………処女貰ってくれって…」
「…あー…その…それも、この先いつか頂くことになるかもだけど、今は…何も、その…準備、してないし。そもそもどうして急に焦ってるのか、わからないんだよね」
「ちょっと待て。いつかって…そりゃどういう意味だ?」
「え?あー……あ…好きなんだ、レヴィのこと」
思わず顔を上げてロックの顔を見ると真っ赤な顔で目を逸らす。
問題は何一つ解決しねぇが、嬉しくって嬉しくってたまらない。
「チョコ…ホントはあるんだろ??」
「うん。けどきっとがっかりするぜ?」
「しないよ。ちょうだい?」
言われて意を決してカバンを開ける。
差し出された見覚えのある包みを前に一瞬きょとんとしたロックだが、すぐに「手作りだ!!ありがとう!」と力一杯抱き締めてくる。
「やめろ、苦しい!!」
そうもがきつつもハッピーでたまらない。
早速食べてもいいかと問うロックに頷き、ドキドキしながら感想を待つ。
「ウマい」
「ホントか?」
「ホント。味見する?」
ロックと初めて交わしたキスは、チョコとタバコの味だった。

12 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/14(土) 19:21:55 ID:XWpPoprX
何を言っても怒らないというロックに、今回の事情を掻い摘んで話した。ロックは恥ずかしそうな真っ赤な顔で話を聞いていた。
あたしもきっと真っ赤だった。だって、処女だってカミングアウトした後にこんなバイトの話をしてる、それもたった今好きだと告った相手にだ。
「何か際どいバイトしてるんじゃないかって予感はしてたんだけど、まさかSMクラブとはね…」
そう呆れながらも、「きっと別の方法があるから、無理して今のバイトを続ける必要は無い」と諭される。
「……でも、貯金だって20万くらいしか無ぇし…」
4月から3年生。外部講師を呼んだ入試対策授業や衛星講座がウリの私立。強制参加の模試だって毎週ある。寮費や生活費も考えれば年間合わせて200万近
く必要だ。
「20万かぁ…」
「コレでも結構切り詰めてたんだぜ」
「うん。で、このバイトのこと知ってるのって俺だけ?」
「あと、エダ」
「エダ…ね。」
う〜んと考え込んだコイツを前に、もういいやと、そう思う。
コイツがあたしのこと好きだと言ってくれるのならば、時間を見つけて一緒にいられる。別に学校に拘らなくてもいいじゃねぇか、そんな風に思い始めていた。


「20万?」
「うん、そう。どう思う?」
近所のファミレスにエダを呼び出し、ロックはコトの顛末を説明する。
「どう思うったって、まぁ、そのままじゃどうにもなんねぇわな」
「そうなんだけどさ…君なら何か妙案があるかなぁ、と思って」
ロックとエダが話しているのを他人事のように聞く。そう、こんなことどうこうしようも無ぇ。
「ロックが奨学金とって、それをコイツに廻せば?」
「俺が奨学金取れるほどウチの親は貧窮してないんだ」
「ふ〜ん…よぉ、レヴィ。お前、どうしたい?」
急に話を振られて吃驚しながらも、「どうしたいも何も、どうしようもねぇよ。」と答える。
ついでに「元々家をおん出る理由が欲しかっただけだしよ、あとはフリーターにでもなるわ」とも。
「俺もバイトするからさ、頑張ろう?な?」
そんな馬鹿なことを抜かす間抜け面を力一杯睨みつけてやる。
「何寝惚けたコト言ってんだてめぇ。受験生だろが。そこの金髪みてぇなチートがネェなら大人しくシコシコ机に向かってな」
それでも何か言おうとするロックに「学校なんざアンタと一緒に居たかっただけなんだよ…」と吐き捨てる。
そんなあたしらのやり取りを頬杖ついて眺めてたエダは、やれやれとため息をついて宣言する。
「じゃぁ、おめぇ、その20万はあってもなくても、すぐには困らんワケな」
「生活費要るに決まってんだろ」
「その位ダーリンに貸して貰えよ。ちょっとその20万預けてみ?別に学費なんか分納でいいんだからよ、自転車操業でも取り合えずは何とかなるだろ。ま、無く
 なった時に退学ってコトでいいんでね?」
「何企んでるんだよ」
「ちょっとした財テク」

悔しいことこの上無いが、やっぱエダは天才ってヤツだった。
携帯を駆使しての株やFXのデイトレード、果てはベニーを脅して組ませた(報酬は昼飯の菓子パンだ)電話発信プログラムを雪緒んトコのダフ屋に売りつける始末。
あたしは、普通のバイトをしながら足りない分を補填する。
実は、元金にロックの貯金とエダの隠し金(コイツ、寮のパソコンからたんまりと稼いでやがった)が付加されていたことを後で知ったが、どうやらすぐに回収したら
しい。
コイツ、働かなくても食っていけるんじゃねぇ?マジでそう思う。


13 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/14(土) 19:22:53 ID:XWpPoprX
エダの趣味も兼ねた尽力で、5月にはどうやら一緒に卒業出来そうだという希望が見えた。
『しっかり準備』したロックと初めての経験持ったのは、そんな初夏に差し掛かる頃だ。
岡島家の留守を狙い、すっかり通い馴れた部屋に通される。
別にヤろうって、申し合わせたワケではないが、「留守だから」と部屋に誘われたからにはそういうモンだとこっちも準備は怠らない。
シャワーも浴びて来たし、エダチョイスの下着だって着けて来た。
見苦しくねぇように、毛の処理もバッチリ。
『フェロモン入り』とかいうフルーツフレーバーのボディクリームも塗りこんで来たからお肌だってもちもちだ。
すっげぇ緊張した顔で隣に座るロックも実は初めてで、あたしはあたしで耳年増故に知識だけは豊富にあったが、そんなの何の意味も無かった。
最中の知識は小一時間語れるほどにあるが、ソコに至る過程ってのがすっぽり抜けてる。
無言で、出されたジュースを啜る。静かな室内に響くのは時計の秒針と、甘ったるい液体を嚥下する喉の音。胸の鼓動がうるさい。ロックにも聞こえているのでは
とすら思う。
どうしよう、やっぱここはあたしがリードするべきか?
そう悶々とするあたしの耳に、「レヴィ」と名前を呼ぶ声が飛び込む。
「んぁ?」
努めて、いつも通りを装う。ロックはそのままぶっ倒れちまうんじゃないかというくらいに耳まで真っ赤だ。
筋金入りの変態ばっか見てきたせいか、童貞って可愛いなと、自分を棚に上げてそう思う。
「ぁ…あ、あの、…あの、あのさ。」
「あー、まぁ、なんだ、落ち着け、な?」
ジュースを差し出し、飲むように促す。コイツのあまりの舞い上がりっぷりに、こっちが居た堪れなくてたまらねぇ。
一気にごくごくと飲み干すと、いきなりあたしの両肩を掴んでくる。
「好きなんだ!!」
「今更だな」
「先の見通しが立たないうちはと思って、ずっとガマンしてたんだ」
「知ってる。まぁ、それ立てたのは金髪のチート遣いだけどな」
「ぁ、その。そうなんだけど…その…」
「気にすんなよ、アイツが反則なんだ。それよか、さっさと押し倒せよ。さっきからずっと待ってんだ」

脱がせやすいように、前開きのパーカーを着てきたのに、コイツは下から手を突っ込んで上に引き上げようとする。
「慌てんな」と笑いながら手をファスナーに促してやると、真っ赤を更に真っ赤にして「ごめん」と呟く。
こいつ、今からこんなにテンパってて大丈夫か?と真剣に心配になってきた。
ゆっくりと下ろされ、露わになる下着。
赤いギンガムチェックに黒いバラのレースがたっぷりの下着は、「高校生らしさといやらしさの両方がある」とはエダの談。
ごくりとツバを飲み込む音と共に大きく動くロックの喉を見上げる。
「ムラムラしただろ、好きにしていいんだぜ、全部お前にやるからよ」

ハァハァと息を荒げて、不慣れな手つきであたしの服を剥いで行くロック。
だが、目の前の女の身体を暴くことに夢中で、自分は一枚も脱いでいないのが、何かずるい。
それを指摘すると、またしても真っ赤な顔で「ごめん、今脱ぐから!!」と慌ててベッドから降りて背中を向けて服を脱ぎ始める。
「脱がせてやろうか?」
そう提案するも、上擦った声で「いい!!自分で脱ぐから!!」と慌ててシャツを脱ぎ捨てる。
ベッドの上に素っ裸で放置されて、『カレシ』の脱衣を眺めるってのも、なかなか間抜けな初体験だ。
ま、初めてだし、あたしだってされるがままでアイツの服を脱がそうとか、そんなことに頭が回らなかった。
初めて同士なんざそういうモンなのかもしれないと薄く笑う。

14 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/02/14(土) 19:26:43 ID:XWpPoprX
パンツまでしっかり脱ぎ捨て、若干前を隠しながらベッドへと戻って来たロックは、どぎまぎしながら抱き締めてもいいかと聞いてくる。
「好きにしていいっつったろ?」
両手を差し伸べ、「おいで」と誘う。
素っ裸で抱き合いながら、身体を撫で回される。
ぎこちなく乳房を揉みながら乳首に吸い付くロックに、こいつおっぱい星人か、などと彼の嗜好をインプットした。
「レヴィ」と熱に浮かされた声で名前を呼ばれ、股の間がじわりと濡れる。
これからココにロックのが入ってくるのだと思うと、恥ずかしいのにハッピーだ。
何だか異様に疼いてきてもぞもぞと脚をすり合わせていると、割り込んでくるロックの指。
生まれて初めて他人に触れられる感触に、たまらずに溜息が漏れる。
しばらく割れ目のあたりをなぞっていた指がゆっくりと侵入してくる。
初めての指の感触。何度か出し入れされると自然に息が上がってくる。
「どうしよう、指一本だけですごくキツいんだ…入るのかな」
「……入るんじゃね?多分」
不安そうに指を増やすロック。正直、2本目は少し痛かったけど、中を撫でられる度にだんだんほぐれていくのが自分でもワカル。
しばらくの間、キスをしながらあたしの女の入り口を解して、枕の下に手を突っ込むロック。
おお、準備万端じゃん、と感心したのもつかの間。
緊張からか、上手く被せられないで焦っている。
ああ、こっからは耳年増のあたしの出番かと、案の定枕の下にストックしているスキンを手に取り、手早くモノにつけてやる。
「うう、ごめん…」
「謝んなよ…、なぁ、今すっげぇハッピーなんだからよ」
ロックの首に腕を廻して引き倒す。
股の間に、ゼリーの冷たい感触。初めてがコイツで本当に良かった。

その後はナンとも笑い話にしかならない有様だった。
痛ぇ痛ぇと喚くあたしに、ごめんごめんと何度も謝るアイツ。
二人でぎこちなくハメて、ぎこちなく動いて、よくワカンネェうちに終わってた。
キモチイイとか、そんなのわかんねぇ、とにかくヤるだけでいっぱいいっぱいだったんだ。
抜いた瞬間ゴムがとれて穴の中にも零れた精液にロックが真っ青になったこととか、血のついたシーツをどうしようと額をつき合わせて真剣に話し合ったことも、
本当に笑い話だ。

次の日何故か雪緒やクソ眼鏡、果てはバラ姐にまで知れ渡っていて、元凶に間違いの無い金髪チートを追い回す。
「手間賃だ、てめぇの学費増やしたのは誰だと思ってんだ、なぁ?」
捕まえた途端こんなコト言われりゃ何も言い返せねぇ。
とんでもねぇヤツに借りを作っちまったことを後悔しつつ、返すつもりのある自分に少し驚く。
だって、仕方ねぇ。
一緒の大学は無理でも、一緒に東京に出ようと約束したんだ。
大学で何を勉強するとか、そんなのまだ全然ワカンネェけど、同じミリタリーマニアのバラ姐からは「政治や経済、歴史を学べば軍事事情だって掘り下げられる」
と教わった。
兵器のコトは理系かとも思ったが、確かにそんな視点もあるよなと、色々考えたりしてる。
ロックと一緒が当たり前になって、学校に通うことに違う意味が見えてきた。
反りの合わないヤツも沢山いるけど、そんなこともひっくるめて今はすっげーハッピーだ。




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