245 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/18(金) 20:20:52 ID:/79Fmw6c
ラグーン商会の被雇用者であるレヴィの機嫌は、大変悪かった。
本日のラグーン商会のお仕事は、貨物の運搬。
指定の場所で荷物を受け取り、高速魚雷艇・ラグーン号に積み込んで海上を運航、
指示された小さな田舎町の港で待つ者へ荷物を引き渡し。以上、完了。
積み荷の中身は白い粉だと推測されたが、好奇心は猫をも殺す。
運び屋は、荷物の内容物になど、興味を持たない。
今回の依頼は、赤子の手を捻るように容易いものとなるはずだった。
海上の天候も良好。のどかに晴れて、波は穏やか。
沿岸警備隊に出くわすこともなく、ラグーン号は無事、目的の港に入港した。
ランチボックスは無いが、快適なクルージング気分で、レヴィの機嫌は大層良かったのだ。
ほんの、つい先程までは。

港とは名ばかりの古ぼけた木製の桟橋に接岸して積み荷を降ろす段になって、
レヴィの機嫌はまたたく間に急降下した。
「よう、姉ちゃん、頑張るねェ」
原因は、港で待ち受けていた引き渡し相手の、この三人の男たち。
金で雇われた田舎者のゴロツキだろう。
だらしなく馬鹿笑いをしていた男たちは、レヴィの姿を認めると、
一斉に粘りつくような視線でレヴィの全身を眺め回した。
まず、顔。
それからすぐに、黒いタンクトップに覆われた胸。その裾から覗く腹。
次に、デニムを短く切りつめたホットパンツの尻。
そして、剥き出しの太ももから足先までじっくり下がって、また上がる。
最後は、胸と、太ももの付け根を交互に見て、仲間内で目配せし、下卑た笑いを漏らした。

レヴィは内心嘆息した。
――またあの目か。
あの目は知っている。
好色の目だ。
レヴィをちらちら見ながら卑しい笑いを交わし、
指で卑猥なジェスチャーをしてみたり、腰を前後に突き動かしてみたり。
そんな姿が目に映り、レヴィの腹の底には、たちまちどす黒いもやが溜まっていった。
氷の目で睨みつけたが、男たちはレヴィが見ていることに気づくと、一層大袈裟な動作をして見せた。
下品な笑い声が大きくなって、レヴィの苛立ちもいや増した。

ラグーン号から男たちの乗ってきた日本製のRVへ、
黙々と積み荷を移動させるラグーン商会のメンバーを尻目に、
男たちはにやにやとレヴィの姿を追うだけで、手伝おうともしない。
他のラグーンメンバーであるダッチやベニー、ロックも男たちの態度には当然気づいているが、
ここはさっさと作業を済ませてしまうに限る、と意識的に無視を決め込んでいた。
それをいいことに、男たちは調子に乗って、レヴィが船とRVを往復するごとにこうして近寄ってきて、
馴れ馴れしく肩や腰を触ってきたり、よろけたふりをして尻を掴んできたりする。
レヴィの嫌悪感は喉元までせり上がってきた。
殴り殺してやりたいところだが、今は業務中。
感情にまかせた行動は禁物だ。
取引相手をぶちのめしたとあっては、ラグーン商会の信用に関わる。
どうせこの男たちは使いっ走りだ。
取引先の本元がどんな団体であるのか詳しくは知らないが、
今回の貨物の中身からして、大事にしたら後々面倒なことになりそうな団体であることは明白だ。
それにしても何でまた本元はこんなゴミ虫どもを雇っているのか、下請けを繰り返したなれの果てか、
いよいよこの業界もヤキが回ったかと思ったが、とにかく、軽率は控えるべき。
レヴィは短気だったが、同時に合理主義者でもあった。


246 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/18(金) 20:22:09 ID:/79Fmw6c

だが。
「重そうだねェ。手伝ってやろうかァ?」
その気も無いくせに、脂ぎった手でべたべたと素肌の背中に触れ、捏ねるように撫で回し、
ウエストの隙間からホットパンツの中へ侵入しようとする男の手に、レヴィの我慢の針は振り切れそうになった。
「必要ねえ。どけ」
乱暴にその不潔な手を振り払って作業を続行するが、
懲りずにレヴィが荷物を上げ下ろしをするすぐ横でしゃがみ込み、
下から覗き込んでは醜く唇を歪めてニヤつく男に、
レヴィはコンバットブーツの底をその顔面に思い切りお見舞いしたくなった。

――こんな事はよくある事だ。
レヴィは必死で頭を冷やそうとする。
今でこそ、腕にものを言わせて、自分に手を出したらどうなるのか周知させているが、
非力な子供だった頃は、こんなことは日常茶飯事だったのだ。
さすがにロアナプラ内でここまで命知らずな行動を取る奴はいないが、
それでも、時折好色の目で盗み見られていることには気づいている。
一部の奴らの間では、猥談の対象になっていることも。
そんな奴らの理屈では、そういう目で見られる女の方が悪いらしい。
誰も好きこのんでこんな身体に生まれてきたというわけではないのに。
まったく非論理的だと腹が立つが、そんなことにいちいち拘っているのも馬鹿らしい。
今回だって、あと1,2回往復すれば、こんなクズ共とはおさらばだ。

――だから、こらえろ。
レヴィは、この荷物を運び終わって、一途、ロアナプラに帰還することだけを考えて、嫌悪をなだめた。


「よう、ご苦労だったなァ」
しかし男たちは、そんなレヴィの忍耐には気づかないらしい。
ようやく最後の積み荷を運び終えたレヴィを、汗くさく弛んだ身体が囲んだ。
――図体だけは馬鹿でかい。
「どけよ」
不機嫌をあらわにしてレヴィは睨み付けたが、男たちは引かない。
「そうつれねェこと言うなよ」
「このタトゥー、イカしてるじゃねェか」
「どこで入れたんだ? つか、どこまで入ってんだ?」
「ちょっと見せてみろよ」
男たちは、レヴィの右肩を中心に、腕、首、そして背中から胸部にかけて入っている
トライバル模様の黒いタトゥーを無遠慮に触り、
耳障りな声で笑いながら、タンクトップの肩紐に手を掛けようとする。
レヴィの全身を、ざわりと悪寒が駆けめぐった。
寒くもないのに、鳥肌が立った。
「触んな」
レヴィは男の手を荒々しく肘で払いのける。
「随分みじけェタンクトップじゃねぇか」
「ご自慢の肉体ってか?」
「見せたくてたまんねェのか?」
「サービス精神旺盛だなぁ、おい!」
「おいおい、それ下パンツ見えてねェか?」
「やっぱりわざと見せてやがるぜ、このアマ!」
「そんなに短いホットパンツ穿いちゃってよォ、お前、あれか? 露出癖あんのか?」
顔の筋肉が痙攣するのを感じながら、レヴィがさっさと船に戻ろうとすると、
男はむさ苦しい手でレヴィの二の腕を掴んだ。

247 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/18(金) 20:23:38 ID:/79Fmw6c
「まァ待てよ」
「一緒に楽しもうぜ」
何を言ってやがるという憎悪と、あぁやっぱりねという軽蔑が、同時にレヴィの血管を駆けめぐった。
レヴィの目の端が、鋭く痙攣した。
「なァ、お前も好きなんだろ?」
「いい身体してんじゃねェか、なかなか」
「そんな格好して誘ってんだろォ? いつもよぅ」
「太いディックが大好き、って身体してるぜ、このアマ」
「俺たち、ちょうどたまってるからな。満足させてやるぜ」
「お前のプッシーに濃いィの沢山くれてやるから、楽しみにしとけよ!」
「お前も欲しいんだろ?」
――最低のクズ野郎だ、こいつら。
レヴィは、不快感で顔を歪ませながら、思った。
仕事中でなければ、すぐにイかせてやったのに。
――二度と戻ってこれないところへ、な。

男たちが下種な言葉を吐き続けるのをBGMに、
レヴィは、目の前の男たちがカトラスの餌食となって横たわるところを想像する。

撃つとしたらどこがいいだろう。
額か? 心臓か?
苦しませずに死なせるのはつまらない。
しかし、腹を撃って出血多量で死ぬ前に助かられてはたまらないし、薄汚い悲鳴を聞くのも不愉快だ。
とすると、喉がいいかもしれない。
声帯をやれば、もうこの醜い声を聞くこともない。
レヴィは、男たちの真っ赤な鮮血が吹き出し、乾いた大地に広がり、
そして染み込んでいく様を思い浮かべた。
それはきっと、済んだ空色と、深い緑、乾燥した大地に、よく映えるだろう。
こんな汚らわしい男の死体を処分する誰かを思うと気の毒だが、
タイ人の死体に対するあっけらかんとした感覚を考えれば、
このカスどもも、死体となれば充分にTVショーの娯楽として人様を楽しませることができるだろう。
ようやく善行をひとつ積めるというわけだ。
――そうすればみんなハッピーなのになァ?
レヴィは頭の中で男たちを速やかに葬った。

248 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/18(金) 20:24:53 ID:/79Fmw6c
「放せ」
そろそろ付き合ってられない。
レヴィが力をこめて男の手首を取り、捻り上げると、
レヴィの腕を掴んでいた男は悲鳴を上げて手を放した。
しかし、他の二人の男が距離をつめてくる。
腕を捻り上げてやった男も、手首をさすりながら目を怒らせている。
「んだよォ、ケチケチすんじゃねェぞ」
「ほんとはヤりてぇんだろ?」
「太いの欲しいのォ、って顔に書いてあるぜ」
「イヤよイヤよもイイのうち、だろ?」
「突っ込めば、グチョグチョにして腰振るんだろ?」
「俺たちがたっぷりイかせてやるからよォ」
「それともマジで不感症か?」
「マジか? だったら俺たちが開発してやるぜ」
「最後には、もっと欲しいのォ、もっと突いてェ、ってよがらせてやるぜ」
ヒャハハ、と下品に口を歪めた男に、ぎゅう、と力まかせに片胸を握られ、
痛みで一瞬レヴィの身体はつめたくなった。

レヴィは男たちの様子で、遅ればせながら理解する。
――こいつら、ヤクやってやがるのか。
さっきからレヴィは、自らの眼だけには、憎悪を思うまま噴出させることを許していた。
レヴィの経験上、チンピラ程度の奴は、この眼で睨んでやれば大人しくなるはずだった。
なのに、ここまでしつこいのは、薬で判断能力を欠いているからだったのか。
――どうしてくれよう、こいつらに言葉は通じない。
……だとしたら、
「レヴィ!」

その時、低い声が大きく響いた。
その声の強さに、レヴィにまとわりついていた男たちの動きも止まる。
ダッチだ。
ラグーン商会のボス。レヴィの雇用主。冷静で知的な、頼りになる黒人の大男。
そのダッチが、古びた木で出来た桟橋のたもとから、黒いサングラス越しにこちらをじっと見つめていた。
レヴィは男たちの動きが止まった隙に、素早く汚らしい腕の間から抜け出した。
「引き上げるぞ」
ダッチは、親指でラグーン号を指し示す。
「ああ」
レヴィは足早に歩きながらタンクトップの乱れを直した。
「ご苦労。後は俺がやっとく」
「どうも」
「お前は船に乗ってろ」
分かった、と短く返して、レヴィはダッチの脇をすり抜けた。

男たちに触られたところは気持ちが悪いし、遠慮会釈のない力で掴まれた胸が鈍く痛む。
卑猥な言葉の数々は頭にくるばかりで、まだ身体中に陰鬱な怒りが渦巻いていたが、
ともあれ一難は去ったのだ。
レヴィは無表情で船に乗り込んだ。

249 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/18(金) 20:27:09 ID:/79Fmw6c
ダッチが事務的な手続を終え、ようやく出港できるとなった時、桟橋から声がかかった。
「なァ、そちらさんのボスにちょっと頼みがあんだけどよォ」
見れば、先程の男たち。
この上、何の用があるというのか。
デッキで出港準備をしていたラグーン商会の四人はうんざりして顔を見合わせたが、
ややあって、ダッチが、しょうがねぇな、といった様子で進み出た。
他の三人に、そこにいろ、と目配せをして。
「なんだ」
威圧感を漂わせながら、ダッチが男たちを見下ろした。
「あのよォ、ガソリン、分けてくれねェか?」
男の一人が、卑屈な笑みを浮かべて言った。
「いくらだ」
「あー、40リッターほど……」
 ダッチは腕組みをしたまま見下ろす。
「いやぁ、入れようと思ったんだけどよ、ガスステーションも無いチンケな街だとは――」
「ロック」
 そんなことは聞いていない、とばかりにダッチが男の言葉を断ち切った。
「予備タンクは積んでるな」
「ああ、積んでるよ」
 ダッチが、フン、と鼻を鳴らして頷いた。
「いいだろう。きっちり料金を払うならな」
高速魚雷艇に、燃料のガソリンを積むスペースはあまり無い。
しかし、万が一足りなければ、途中で別の港に寄港して調達しても良いと思ったのだろう。
ダッチは、いち早くこの男たちを追い払う方を優先したらしかった。
うちは便利屋じゃねェぞ、とレヴィは全く不愉快だったが、ここで怒鳴り散らしても何にもならない。
ぐっと飲み込んだ。

「あとよ……」
まだあるのか、とさすがのダッチもげんなりした表情を見せた。
が、男は恐るべき無神経さで続けた。
「そこの女、ちょっと貸してくれねェか?」
男はちらりとレヴィを見て、顎で示す。

レヴィは自分のことを言われたのだと知り、眩暈がした。
「いやぁ、あんたらもイイ思いしてんだろ?」
「俺ら、こんな売春宿もない辺鄙なとこまわらされてよォ、たまんねえっつぅの」
「船乗りも大変だっつー話だけどよ、その点おたくらはいいよなァ」
「同じ船に慰安婦が乗ってるんだからよォ」
「しかも夜だけじゃなくて昼も仕事させてんだろ?」
「すっげェお買い得じゃねえか!」
「そっちって男が三人か? ちょうどぴったりじゃねェか! うちも三人だからよ!」
「どの穴が一番イイんだ?」
「なぁ、いいだろ? 楽しませてもらったらちゃんと返すからよォ」
「金もちゃんと払うぜ?」

ラグーン号のデッキには、怖いくらいの沈黙が漂っていた。
ダッチもベニーも、そしてロックも、冷え切った鉄のように無表情だった。
静寂の中に、男たちの俗悪な声だけが沸き上がっていた。
レヴィは、両手で頭を抱えたくなった。
眼窩が真っ赤に染まる。
侮辱されたのはラグーンの男三人も一緒だ。
けれど、どうして自分が、ダッチの、ベニーの、そして――ロックの目の前で、
まるでレイプされているかのような屈辱を感じなければならないのだろう。

ゆらり、と殺気が鎌首をもたげた。
殺しはしない。殺してブツが届かなかったら、ラグーン商会の不利益になるのだから。
――そう、ブツだけは、届けさせてやるさ。
お使いに必要な、最低限の機能さえ残っていればいい。
キツさはどうだの、色はどうだの、聞くに耐えない妄言を繰り広げる連中を黙らせたのはしかし、
レヴィではなく、ダッチだった。

250 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/18(金) 20:28:13 ID:/79Fmw6c
「そのへんで黙ってもらおうか」
ダッチの低い声はよく通る。
「うちはしがない運び屋でな。プレイガールを雇う余裕は無えんだ。超過勤務手当を払う余裕も、無え。
それに俺はこう見えて従業員思いでね。契約外労働も時間外労働もさせねえ主義だ」
腕組みをしながら、微動だにせず男たちをねめつける。

「うちの船は魚雷艇だが、魚雷だけじゃなく、高性能の誘導ミサイルも載せてるんだぜ」
ダッチは、ちらりとレヴィの方をうかがって、続けた。
「この誘導ミサイルは一等危険なヤツでな、」
レヴィは、のっそりと歩き出して、胸元のホルスターに収まっているカトラスに手を伸ばし、引き抜いた。
「狙った獲物は絶対に逃さない」
親指で撃鉄を起こす。
「いい仕事をするんだ」
そして、ゆっくりと、桟橋の男に銃口を向けた。
憎悪の炎を燃えたぎらせて、レヴィは低く言った。

「さぁて、どこを撃たれたい? 選ばせてやるぜ。答えろ」
男たちがそれ以上何か言ったら、迷わず撃つつもりだった。
空気が凍りつく。
港には、穏やかな潮騒だけが響いていた。
男たちは、開いた瞳孔で暗い銃口を見つめる。
レヴィの瞳は揺らがない。
遠くで海鳥の鳴く声がした。

「――うちの誘導ミサイルにブレーキがついていたこと、神に感謝しとくんだな」
沈黙を破ったのは、ダッチの一言だった。
「ベニー! ロック! こちらさんにガソリンをくれてやれ」
二人にそう指示し、それからダッチは男たちに向かって言い放った。
「ガソリンは用意してやる。だから、お前たちは今すぐあのRVの中に消え失せろ。今すぐにだ」

251 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/18(金) 20:29:47 ID:/79Fmw6c

男たちが足をもつれさせて退散するのを見ながら、ダッチが溜息をついた。
「……やれやれ。災難だったな、レヴィ。もうキャビンで休んでていいぞ」
ぽん、とレヴィの頭に大きな掌をのせると、ダッチは操舵室の中に消えていった。
レヴィの背後からベニーがやってきて、並ぶ。
「気にすることないさ。
あいつら、ヒラリー・クリントンとモニカ・ルインスキーの区別もつかないに決まってる」
晴れない顔のレヴィを見て、ベニーは眉を下げて小さく笑った。
「ああいう手合いの連中は去勢してやるべきだと思うね、実際。
それか、ジョー・ボナムのような“芋虫”状態も捨てがたいけど。
奴等に選ばせてやろうとしたレヴィは寛大だね」
他人には干渉しないベニーが、レヴィにここまで言うのは珍しい。
「まさかあいつらの言ったこと、真に受けたわけじゃないだろ?」
「……当たり前だろ」
とりあえず何らかの返事を返したレヴィを確認したベニーは、
「じゃ、とっとと片づけに行くとするかな」
そう言って、レヴィの側を離れていった。


レヴィは、キャビンの固い床に座り込んで、カトラスを分解していた。
怒りとも苛立ちとも憎しみともつかない感情は、レヴィの底で低く唸り続け、
身体を流れる血液が熱いのか冷たいのかも分からなかった。
腹立ちまぎれに鉄製の壁に拳を叩きつけてみたものの、痛いのは自分の手ばかり。
まったく、収まらない。
それで、気を落ち着けようとカトラスをバラし始めたのだが、もう手はその手順を覚えきっている。
目をつぶっていても出来るその作業で、頭は勝手に別のことを考え出す。

ベニーの言う通り、あの男たちに言われたことで不愉快な感情に振り回されるのは、まったく馬鹿げている。
あの男たちはレヴィのことなど何も知らないのだし、あんな奴等にどう思われようと、痛くも痒くもない。
ラグーン商会のメンバーは、レヴィをガンマンとして認めている。
何も、問題は無い。

252 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/18(金) 20:31:50 ID:/79Fmw6c

――けれど、耳に残るのは、あの言葉。
あの男が偶然口走った、『慰安婦』という言葉。
軍隊ではそれが結構切実な問題になっているらしいが、
ラグーン商会においては、一切、そのようなことは無かった。
表の世界から転落し続けたなれの果て、最後に行き着く掃き溜めのような街に身を置きながら、
ラグーン商会の待遇は信じられないほど快適だ。

しかし、レヴィがロックとただの仕事仲間という一線を越えてから、もう少なくない時間が経っていた。
二人の間の関係は何であるのか、という点に関しては、あやふやなままに。
それを確認し合うのはタブー。
そんな暗黙の了解が出来ていた。
その根底には、日本で見たあの光景、共に生きようとして死んでいった二人の姿が重苦しく横たわっている。
だが、はっきりとした恋人というわけでもなく、不明確な関係のまま情を交わす二人は、一体何なのだろう。

レヴィに分かるのは、自分にとっての相手はロックだけ、ということのみだ。
他は無い。

しかし、いくらレヴィ自身が、相手はロックだけと思っていたとしても、それはレヴィの主観に過ぎず、
客観的に見れば、ただ一人の男としか交わらない『慰安婦』、ロックの『慰安婦』なのかもしれなかった。

――信じたくない。そんなことは。

けれど、お互いの思惑を確認したことが無い以上、
それが違うのだという確証は、どこにも無いのだった。
レヴィの色事に対する心証は、お世辞にも良いとは言えない。
あの男たちのような、勘違いした連中の頭の中では、
レイプした女は次第に快感に溺れることになっているらしいが、冗談ではない。
他の女がどうなのかまでは知らないが、
望まない男と交わることに対して、レヴィは嫌悪感しか抱いたことが無かった。
しかし、ロックに対しては、まさに情欲と呼ばれるものを抱いているという事実を、
レヴィは否定できなかった。
あの男たちに揶揄された通り、ロックにとって、レヴィはただの淫蕩な女なのかもしれなかった。
他の誰に、淫売と思われても構わない。
そう思われても致し方ない過去があったことは確かだ。


――けれど、ロックにだけは。
ロックにだけは、そう思われたくはなかった。

ひどく惨めな気分になって、レヴィはとっくに組み立て上がっていたカトラスを手に、うつむいた。

263 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/20(日) 20:28:34 ID:ix7O/yvm
ラグーン号にエンジンがかかって程なくして、キャビンの扉の向こうに足音が響いた。
キャビンに向かってやってくる、規則的な足音。
聞き覚えのある、革靴の。

「やぁ、レヴィ」
金属音をさせて開いた扉の向こうから表れたのは、思った通り、ロックだった。
晴れ晴れとした笑顔を見せるロックが、今のレヴィにはどうにも神経に障った。
口を開くのも億劫で、レヴィは何も言葉を返さなかった。
そんな陰にこもったレヴィの空気に気づいているのかいないのか、
ロックは平然とした様子でドアを閉め、備え付けの簡易ベッドに腰を下ろした。
「面白い話があるんだ」
ロックは自らの足の上に肘をつき、両手を組んだ。
「……今は下らないジョークを聞く気分じゃねえ……」
万が一それが面白いジョークであったとしても――、今は、笑える自信が無かった。
しかし、ロックは怯まない。
「まぁいいから聞けよ。面白いか面白くないかは聞いてから判断してくれていいから」
ふてぶてしくも見える笑いを浮かべるロックに、レヴィは軽く肩をすくめ、
だったら好きにしろよ、と顎で促した。

「あいつらの車、日本製のRVだったな」
「それがどうした」
刺のあるレヴィの言葉をものともせず、
ロックは、そのRVを製造している自動車メーカーの企業名を挙げた。
機能性とコストパフォーマンスの高さに定評がある、世界的に有名な日本の自動車メーカー。
「俺の記憶が正しければ、あの車種には欠陥があるらしくてね。リコール対象になってる。
どうやら、リレーロッドっていう部分が破損することがあるらしい。
ここが破損すると、ブレーキが効かなくなる」
「……何が言いたい?」
「この欠陥リレーロッドというのはとても脆いらしくてね、
大きくハンドルをきったり、急ブレーキをかけたりすると、破損することがある。
怖いよな、もし、高速乗ってる時にブレーキ効かなくなったりすると」
「……あんた、何した?」
段々と、この男の不穏な笑顔の意味が分かってくる。

「さぁね。ただ、今日、この近くで、そんな事故があるかもしれない。そんな話だよ、レヴィ」
「……ダッチは知ってんのか」
「まさか? ラグーン商会は、そんな事故には何の関係も無い。
だって、事故が起こったって、何の利益も無いからね。
それに、事故は不確定だよ。誰も知るはずがない。
仮に、“不幸にも”あいつらの車のリレーロッドがどこかで破損したとしても、
事故が起きるかどうかすら分からない。すべて可能性の話さ」
運が良ければ、何もない荒野のど真ん中で立ち往生、かもね。
と、ロックはあくまでも穏やかな笑顔を崩さない。

レヴィは腰を上げた。自分の口元に、笑いが滲んでいるのを感じていた。
「ラグーン商会の仕事は、あいつらに荷物を引き渡したところで完了だ。
運悪く、その後事故が起きたとしても、そいつはラグーン商会の責任じゃない」
段々と愉快な気分になってきて、レヴィは、腰掛けたロックの正面に立った。
ロックはレヴィの目を見ながら続ける。
「ここの警察は、白い粉を大量に積んだ、リコール対象になっている車両の事故を、どう見分するんだろうね?
とても興味があるな。車を製造メーカーの工場まで送って鑑定するかな? 
あの車、どんなルートで入手したんだろうね。あのメーカーのアフターサービスはどこまでかな。
あそこ、リコール隠ししてたようだけど、今の経営方針はどうなってるだろう。是非知りたいよ」
ロックは、歌うように言う。


264 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/20(日) 20:29:31 ID:ix7O/yvm

――まったく、この男は……。
気抜けした愉快な気分が込み上げ、レヴィの口から笑いが声となってあふれた。
それは、屈託なく、長くキャビン内に響いた。
「……あんたは、あきれた天然ギャンブラーだぜ、ロック。賭事が癖になったか?
侮辱されてそんなに頭に来たか。楽しそうな顔じゃねぇか」
ようやく笑いをおさめて、レヴィがロックを覗き込むように見ると、ロックはふいに、微笑を引っ込めた。

「……楽しい? 俺は楽しくなんてないよ、レヴィ」
ロックは真顔で言う。
意外な返答に、レヴィは怪訝な顔でロックを見た。
「“レヴィが”侮辱された。それで楽しいわけ、ないだろ」
反射的に片眉が歪んだのを、レヴィは感じた。
思わず顔を伏せる。
眉間に皺を寄せるレヴィの指先を取って、ロックは握る。
「……分かってる? レヴィ」
ロックの手は温かくて、レヴィは、自分の指先がひどく冷えていたことに気づいた。
「俺は、別に、振った目がどう出るかなんていう結果はどうでもいいんだ。
そりゃあ、あいつらは殺してやりたいほど憎らしいけどね。
ただ、俺は――、」
レヴィが少しでも笑ってくれれば、あとは、もう――
そう続けられた言葉に、レヴィは更に深くうつむいた。
唇をぎゅっと引き結んで、歯を強く噛みしめる。
寄せた眉が、小さく震えているのを感じた。
きっと自分は今、すごく情けない顔をしている。
それをロックに見られたくなかった。
けれど、いつもはロックに見下ろされる身長差のせいで隠すことができても、
今日はロックが下から見上げていて、無理だった。
「……そんな顔するなよ、レヴィ。笑えよ」
ロックは、レヴィの顔を覗きこんで、
力無く垂れ下がったレヴィの指を握ったまま、軽く腕を揺らした。
レヴィは、ひとつ呼吸を整えると、ゆっくりとロックに視線を合わせた。

「なあ、知ってたか、ロック。
――嬉しいときに出る顔って、笑顔だけじゃないらしいぜ」
「……あとは、どんな顔?」
レヴィは、片膝をロックの脇の簡易ベッドについた。

「こんな顔」

265 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/20(日) 20:30:13 ID:ix7O/yvm
レヴィは片手でロックのネクタイを、ぐい、と掴みあげると、ロックの方へ身を屈めた。
ゆっくりと。
まっすぐにロックを見て。
ロックの黒い瞳の中に、自らの顔が映っていた。
ネクタイを掴んだ手とは逆の手を、ロックの肩にかける。
ベッドについた膝に体重がかかり、ギッ、とベッドが小さく軋んだ。
焦点が合わなくなる程に互いの顔が近づいたとき、ロックが瞼を閉じた。
それに一瞬遅れて、レヴィは唇を、ロックの唇に重ねる。
温かなロックの唇。
ネクタイを強く引いたまま、静かに口づける。
ただ重ねるだけの口づけを、ロックは黙って受けていた。
互いの呼吸が、頬をわずかにかすめた。
ややあって、下唇をそっと食み、それから唇をずらして上唇も挟み込んでから、
最後に舌先でぺろりとロックの唇をほんの少しだけなめて、レヴィは唇を離した。
同時に吐き出された息が触れ合う距離で、ロックは言った。
「……それだけ?」
「不満か?」
「いや?」
そういうわけではないけれど、という顔をして、ロックは片手でレヴィの後頭部を引き寄せた。
「お返し」

そしてロックも口づける。
唇は熱く重なり、すぐに、ロックの舌はレヴィの唇の隙間からわりこんできた。
レヴィも素直に迎えいれ、自らの舌を寄せる。
ロックの手がレヴィの腰をとらえた。
強く抱き寄せられる。
片膝をベッドについた状態で、このままだとロックの膝に座ってしまうので、
反射的にレヴィは自分の筋肉で身体を支えた。
しかし、ロックはなおも引き寄せされる力を緩めようとしない。
レヴィは諦めて、すとん、とロックの膝の上に腰を下ろした。
床についていた足も、ベットにのせる。
互いの胸と胸が近い。レヴィはつかんでいたネクタイを放し、ロックの首に腕を回した。
ふかく、やわらかく、舌を絡ませ合う。
つるつるした舌下に下を割り込ませてきたり、内頬を舌先でなめたり、
あちこちに動き回るロックの舌を、レヴィも自分の舌で追いかけた。

ロックは、長いこと、レヴィをとらえた腕を弛めなかった。
ようやく唇が離れたときには、二人の口の中は唾液でいっぱいになっていて、
互いの舌先を透明な糸が、つぅ、とつないでいた。
糸がのびて、消えていくまでを二人で見守り、
それからロックは口の中にたまった二人分の唾液を飲み下した。
白いワイシャツからのぞく喉仏が、上下するのが見えた。

266 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/20(日) 20:31:27 ID:ix7O/yvm
ロックは、穏やかにレヴィを見上げた。
「さっき、どこ触られた?」
「――見てたのか?」
「いや、船からはちょうど死角になってて、よくは見えなかった。
けど、何が起こってるのかぐらいは、分かった」
レヴィは曖昧に頷いた。
この男には知られたくなかった。――何となく。
「頭が沸騰しかけたら、止められたよ、ダッチに」
それで、あの時ダッチが呼びに来たのだ。 
この男は、一度ヒューズが飛んだら、次はどこに繋がるか分からない。

「で、どこ触られた?」
ロックは問いを重ねる。
「……別に、どこだっていいじゃねェか。大したとこ触られたわけじゃねえよ」
レヴィが流そうとした途端、ロックは叫んだ。
「大したとこじゃないとか言うなよ、レヴィ!!!」
突然声を荒げたロックに、レヴィは驚く。
その声の大きさに驚いたのは声を上げたロックも同じだったようで、
すぐに、ごめん、と謝りの言葉を口にした。
「怒ってるのは、レヴィに対してじゃない。あいつらに対してさ」
憤懣を露わにしたロックに、レヴィは安らいだ気分になる。

そっと手をロックの頭にのばし、髪に指をさしこんだ。
「ほんとに、大した触られ方してねぇって。ほら、……肩とか」
「肩とか?」
ロックの掌が、そっと肩を包み込む。
温かな熱と、多分自分のものより柔らかい掌。
「腕とか……」
「腕とか?」
ロックの掌は、そのまま腕を撫で下ろす。
親指の腹は二の腕の皮膚の薄い内側をなぞり、肘の脇に飛び出た骨で一瞬止まり、
そして手首まで下がって、掌で包みこまれる。
ゆっくりとした動作。
「腰とか……」
「腰とか?」
ロックの逆の手が脇腹にのばされ、背中の方へすべっていった。
掌全体を、素肌で感じる。
じんわりと熱が伝わってきて、凝った血が温められていく気がした。
「……腹、とか……」
「……腹とか?」
背中で止まっていた手がするりと戻ってくると、円を描くようにゆるやかに撫でられた。

267 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/20(日) 20:31:57 ID:ix7O/yvm

――全然、違う。
さっきの男たちとは、全然違う。熱がしみこむ、ロックの手。
もちろん、ダッチの大きな手は頼りになるし、
ベニーの触れない礼儀正しい距離感には好感が持てる。
けれど、ロックの手だけは、ちがう。
レヴィは、自分が段々と輪郭を取り戻していくような気がした。
「……あとは?」
穏やかに促すロックに、逡巡してから、結局言う。
「………………………………胸、とか…………………………」
「………………」
ロックは今度は何も言わず、ただ触れた。
タンクトップ越しに伝わる、ロックの温度。
乳房というよりは胸に掌を押しあて、そのまま動かない。
レヴィの心臓の鼓動が、ロックの手を下から持ち上げているように見えた。
「……レヴィ、心臓、すごい」
ロックがくすりと笑って言った。
「…………あんたのせいだ」
そうなの?
言って、微笑んだロックは、胸に顔を寄せた。
そして、キスする。
タンクトップの上から、レヴィの心臓へ。

優しいはずのキスを、レヴィの胸の奥は痛いと告げた。

268 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/20(日) 20:32:30 ID:ix7O/yvm

レヴィはたまらず、ロックの頭を抱き寄せた。
ぎゅう、と抱きこんだら、その自分の力の強さのせいで、
先程奴等に思い切り掴まれたところの痛みがぶり返した。
すっかりそんなことは忘れていたため、レヴィの筋肉はうっかり反応した。
その反応を、ロックは見逃さなかった。
レヴィを引きはがすと、ロックは「どうした?」と問い、返事が返って来ないと知ると、
勝手にレヴィのタンクトップをめくった。
そして、その下につけていた機能性を重視したスポーツタイプの下着も、上にずらされる。
乳白色のふくらみには、くっきりと残る赤く鬱血した痕。
それを認めたロックは、レヴィを見上げた。
目が合う。

――気まずい。
「大した触られ方したわけじゃない」と言った手前、非常に気まずい。
これぐらい、騒ぎ立てるようなことではないが、しかし、
だからといって誰にでも「さあどうぞ」と差し出してなんとも思わないわけではなく、
というか実際のところ、不愉快で不快なこと極まりなく、
――つまり、ロックに、自分が誰にでも平気で身体を許すような女だとは思われたくないのだが、
そんなおぼこい願望は最も自分に似合わないもので、まさか口にできるわけなどなく――。
ロックは無言で、複雑な表情を浮かべるレヴィを見つめていたが、やがて、
ふ、とひとつ笑いをこぼすと、赤くなった肌の上に唇を這わせたた。
唇だけで、丹念に。

269 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/20(日) 20:33:33 ID:ix7O/yvm
触れていた唇を離すと、ロックは言った。
「……痛かった?」
――痛かった。
けど、
「今は痛くねえ」
答えると、ロックは少し目を見開いた。
それから、唇の端に笑いをのせ、やれやれというように首を左右に振ると、
「あいつらやっぱり全然分かってないな。……レヴィは、優しく触れられるのが好きなのに」
今度はじかにレヴィの素肌の上から掌で包みこんだ。
「――――!」

――なんだ、その恥ずかしい優越感は!
――そして、なんだ、その根拠の無い断定は!
レヴィは羞恥のあまり、目の前の頭を平手ではり飛ばしたくなったが、
口に出したことは無いにも関わらず、それは確かに図星で、
だから、それについてはノーコメントを貫くことに決めた。
しかし、これだけは言っておかなくてはいけない。

「分かってねぇのはあんたの方だぜ、ロック。
あんなクソ野郎にそんな風に触られたって、嬉しくもなんともねェ」
睨みつけると、ロックは視線を合わせた。
「……あんなクソ野郎に、は?」
レヴィは憤然と頷いた。
「じゃあ、俺には?」
かあっ、と、レヴィは顔全体が熱くなるのを感じた。
今、自分の顔は絶対に真っ赤だ。
「…………………………ロック……、あんた、分かって言ってんだろ…………」
低くうめくレヴィに、ロックはしゃあしゃあと返す。
「いや? 分からないなぁ。言われないと、分からない」
最後の言葉だけは、どこか真剣な目をしていた。
「……レヴィ。俺は、レヴィの嫌なことは、したくないんだよ」
今は、ロックの目はまったく笑っていなかった。
ロックの黒い目は、深く、真剣な色をしているように思われた。


――今を逃すと、失われるかもしれない。
いつものように、軽口と毒舌に混ぜ込んで流してしまうこともできたが、
レヴィは、今、何かのきっかけが到来しているのを感じて、言葉を選んだ。
「……ロック、大切なのはな、『どこをどんなふうに』触られるか、じゃない。
『誰に』触れられるか、だ」
なぜ自分はこんなことを大真面目に語っているのだろう、という気がしたが、
ロックは真顔でひとつ頷いた。
無言で、その先は? という風に、眉を上げ、促してくる。
レヴィは助けを求めるように中空を見上げたが、もちろん、逃げ道などあるわけがない。

「……………………あんたなら、いい」
意を決する。

「あたしが許すのは、あんただけだ」
レヴィはロックを見下ろして言った。傲然と。


ロックは笑った。
いっそ、無邪気、と言っていいほどに。

270 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/20(日) 20:34:28 ID:ix7O/yvm
レヴィの返事に嬉しそうに笑ってまた胸に顔を寄せるロックに、レヴィは嫌な予感がした。
「――ちょっと待てよ、おい、あたしだけかよ」
「ん? レヴィだけ、って?」
「……あんたはどうなんだよ」
「俺? 俺の事は分かってるだろ?」
なんだこいつ、自分だけ逃げるつもりか、と理不尽さに苛立ちかけたレヴィの顔を見て、ロックは言った。
「さっき、レヴィを侮辱して身体触ったヤツに、地獄への優待券をプレゼントしてきたばっかりなんだけど」
それでも分からない? と言うようにロックはレヴィを見上げる。
「いや、あー、まあ、だから、それはいいとしてだな、その、
あんたは、あたしじゃなくてもこういうことをやらかすんじゃねえか、ってことだよ」
代名詞ばかりの要領を得ない言葉を、ロックは正しく理解したらしかった。
ロックの眉が顰められる。
「そっち?」
顔に、心外だ、と書いてある。
「――そいつは考えてなかったな。俺はふたつ以上のことを同時にできるほど器用じゃないんだよ。
なにしろ、俺のパートナーは超高性能誘導ミサイルだからなぁ。
危険だし、扱いにくいし、整備は大変だし、意外と繊細だし。それだけで手一杯だよ。
他に目をやってる暇は無いし、興味も無い」
「誘導ミサイルって、ロック、あたしが銃で、あんたが弾丸なんじゃなかったのかよ」
「そうだっけ?」
ロックはとぼけた顔でレヴィを見る。
「そうだっけって、その程度だったのかよ!」
「――嘘だよ、レヴィ」
笑ってレヴィをいなしてから、ロックは言葉を切った。
一瞬、考えて、真顔になる。

向けられた目は、真摯だった。
「俺にとって、レヴィは、唯一無二だ。代わりはいない」
レヴィが黙りこくっているのを見て、ロックは困ったように笑った。
「信じてないのか? ――まぁ、言葉の真偽なんて、証明しようが無いからな」
しかし、ロックの瞳は、おそらく真実らしきものを伝えているように、レヴィには思えた。
確かに、言葉など虚しい。
けれど、「唯一無二」。
その言葉に、レヴィは満足した。

――他に何を望む?

「じゃ、行動で証明しろ」


ロックは、応えた。
唇で、すぐに。

292 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/23(水) 20:51:47 ID:6IJuNhTg

この日三度目の口づけも、長いものとなった。
ロックの手がレヴィのタンクトップの背中にさし入れられたのは、
二人の空気を貪る音がキャビン内に響き始めた時だった。
中途半端にずり上げられているレヴィのタンクトップとその下の下着を、ロックは胸元までたくし上げた。
――ああ、今日、レヴィがタンクトップの下に下着をつけていたことが、せめてもの救いだ。
そう思いながら。
「ちょ――っ、ロック、ダッチとベニーもいる――」
「さっき鍵はかけたよ」
「そうじゃねェ!」とレヴィが言葉を発する前に、
ロックは、目の前でふるりと揺れる白い乳房の先端を、唇でそっとはさみこんだ。
反射的に逃げる背中を手でとらえて引きよせる。
ロックの片手をちょうど満たすほどにふっくりした乳房に比べ、その先端はつつましやかだ。
紅色を薄めたような、淡い色。
軽く吸いたてると、レヴィの背中が震えた。
逆のふくらみに手をのばしつつ、ロックは思う。

なんて、いとしい女だろう、と。


自分の人生を丸ごとひっくり返したこの女。
憧れたのは、しなやかな鋼のような強靱さにか、美しい破壊行為にか。
今でもそれはよく分からない。
ただ、肌を焦がす太陽と、目が眩む程の紺碧の中で、自由自在に舞う彼女の強烈な残像だけが、
ロックの脳裏に鮮やかに焼きついていた。
肉食動物のように獰猛な女。
夜の底を生き延びてきた女。
そんなレヴィの抱える闇の深さに気付き、
彼女が自身を堅く鎧えば鎧うほど、中身は柔らかく脆いのだと知るのに、そう時間はかからなかった。
虚勢を崩せない不器用な女。
どうしようもなく、惹かれた。

ロックは、自分がレヴィを救えるなどという傲慢なことは思わない。
情けないほど非力だった。
余りにも、足りなかった。
彼女の隣に、並ぶには。
けれど、知りたかった。
彼女のすべてを。


日本語で、「いとしい」と「かなしい」は、同じ字を書く――。
そんなことを、思い出した。


293 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/23(水) 20:52:31 ID:6IJuNhTg
レヴィは、触れると少女になる。

普段の、狂暴で不遜な彼女はどこにも見当たらない。
剣呑な目は静かに伏せられ、うすく開いた唇から深い吐息だけをいくつも零す。

しかし、レヴィが、その行為について本当のところどう思っているのか。
それが、ロックには分からなかった。

彼女が過去どんな目に遭ってきたか。
詳しく聞いたことは無いが、多分、男との交わりに良い思い出などひとつも無いだろう。
レヴィの胸の奥の一番やわらかいところは、少女のまま凍りついているのかもしれなかった。
レヴィが自分から求めてくることは、ほとんど無い。
たまらず手をのばせば拒みはしないものの、腕に感じるわずかな身体の強ばり。
レヴィは何も言わないが、彼女にとっては未だ恐怖なのかもしれない。
忌むべき行為。
それなのに、ロックは自分勝手なこの衝動を抑えることが出来なかった。
レヴィは、一体どんな想いでこの行為に付き合ってくれているのだろうと思うと、罪の意識を感じた。

――本当は、嫌?

その一言が訊けなかった。


294 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/23(水) 20:53:20 ID:6IJuNhTg

けれど、今は。

「――レヴィ」
耳元に唇をよせ、直接、鼓膜へ響かせるように囁いて、
それから耳たぶの根本に口づけると身をすくませるその反応も、
本当に嫌なわけではないのだと、確信を持てる。

レヴィのベルトの留め金に手をのばすと、レヴィの手が掛かった。
「――ほんとにここですんのかよ」
「避妊具なら、持ってるけど?」
「――そうじゃねェ!」
「それも大事な事だろ」
しれっと言うと、レヴィは口ごもったが、すぐに言い返した。
「そうじゃなくて、ダッチとベニーに聞こえ――」
「ダッチとベニーは操舵室だよ」
「こっちに来るかもしれねェだろ!」
「ダッチとベニーは置いといてさ、レヴィ自身はどうなの? 嫌?」
レヴィが、ぐ、と返答に詰まった。
「嫌なの?」
レヴィの顔が赤く染まる。
「ほんとに嫌ならやめるけど?」
目元まで染めて憎々しげに見てくるレヴィに、最後の一言。
「レヴィはいつも、ほとんど声出さないんだから、大丈夫だよ」
つかみかかってくる寸前のところで、抱きとめた。
これ以上は、本当に怒らせる。

「冗談だって。ほんとに嫌ならやめる、っていうのは本気だけど」
耳元で囁くと、レヴィはしばし静止した。
それから、ロックの膝から腰を浮かせて床に降りると、自分でベルトを解いた。
無骨なコンバット・ブーツを脱ぎ捨てる。
そして、デニムのホットパンツとその下にはいている下着も一緒に降ろして、長い脚を引きぬく。
豪快な脱ぎっぷり。
男の情欲を煽ろうとする気が全く感じられないその豪快さが、レヴィらしかった。
レヴィは、胸の上までたくし上げられたタンクトップと下着に目をやって、
どうしようか逡巡していたが、結局、脱ぐことに決めたらしい。これも一緒に頭から抜いた。
ロックがまだ自らのベルトすら外していないのを見咎めると、
レヴィは、はやくお前も脱げ、と手振りで伝えてきた。
バックルを外していると、レヴィの手がネクタイに伸びてきて、
人差し指を根本に差し入れ、ぐっ、と引き下ろされた。
首もとが緩む。


295 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/23(水) 20:53:53 ID:6IJuNhTg

スラックスを脱ぐ前に、指をレヴィの脚のつけ根に持っていき、
中指の腹で浅く奥を探れば、温かいうるみ。
何度かゆるくかきまわすと、すぐに中指はとろりとした液体に覆われた。
その中指を手前にこすりあげ、また、もどす。
レヴィのなかからあふれた液体を、先端の突起にからめるように指先でこねると、
レヴィの太ももに力が入った。
それを繰り返すと、中指は簡単にレヴィのなかへ入っていった。
レヴィは、一瞬息をのんで、あとは首を落として胸を浅く上下させるだけだった。
けれど、その密やかな呼吸しか聞こえない静寂は、ロックの中指がたてる音をいっそう際立たせた。
ラグーン号の低く唸り続けるエンジン音は、どこか妙に遠くに感じられた。
ロックの指が立てる音がさらに高まった頃、指を二本に増やそうとすると、
レヴィはかすれた声で「もういい」と言って、ロックの腕を押しとどめた。

そして、レヴィはスラックス越しにロックの熱を持った中心に触れた。
掌で包みこみ、撫であげ、指を滑らせる。
布を通して、レヴィの手の温度が伝わってきた。
先端に、カリ、と軽く二本の爪を交互に立ててくるレヴィの指。
脳まで快楽が走った。
ジッパーを引き下げ、中にもぐりこんできた手が、今度は薄手の下着越しに触れてくる。
生々しい感触。ますます高まる熱に、ロックはレヴィの手を思わず制した。
今日は限界が近そうだった。
ロックは、スラックスと下着と靴、それから少し迷って靴下も、結局脱ぐことにした。
とても、間抜けな姿だったので。

296 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/23(水) 20:54:22 ID:6IJuNhTg

レヴィは、神妙な顔をして、簡易ベッドに座ったロックの足の横に両膝をついて跨ると、
うるんだ自分の中に、ロックを沈めた。
ロックは彼女の腰と背中に手を添える。
レヴィのペースで進められるように。
ゆっくりと温かいとろみに浸されていく。
最奥まで到達すると、レヴィは吐息とともにロックの首に腕をまわし、頭を寄せてきた。
はぁ、とロックの耳元で湿ったため息をついてから、レヴィは頭を起こし、ロックを見つめる。
レヴィの唇が、紅さを増していた。
ロックの想いはレヴィに伝わって、しずかに唇が寄せられ、重ねられる。
レヴィは唇を離すと、ロックの顔を挟みこんでいた両手を、ゆっくり首へとすべらせた。
やんわりとロックの首を包み、それから、白いワイシャツの両肩へ。
レヴィの指がワイシャツのボタンにかかった。
上からひとつずつ、着実に外していく。
最後のボタンを外し終わると、レヴィはロックのワイシャツの合わせ目を開き、
両腕を差し入れてロックの背中にまわした。
ロックの首筋に、レヴィの顔が埋められる。
直接感じる、素肌のぬくもり。
ロックは、彼女の温かさを全身で味わった。

レヴィが身体を起こすと、ロックの目の前には柔らかな二つのふくらみ。
ロックは、その白いふくらみの谷間から少し外側にずれたあたり、
ちょうど心臓の上あたりに唇をよせ、強めに吸いあげた。
レヴィの身体がたじろいだが、背中をとらえて十分に長く吸ってから離す。
白い肌には、鮮やかな赤い痕がついていた。
「……にすんだよ、ロック」
怒りというよりは戸惑いの方を多く含んだレヴィの声が降ってきた。
「大丈夫。ここなら見えない」
「……見えるところにつけたら殺すからな」
物騒な、彼女の容認の言葉。
レヴィの腰がゆらめき始める。
ゆっくりと上下に、最初は小さく、だんだんと大きく。
うねるように、かき回す。
あたたかく、やわらかい。
締めつけて、震える。
はじめはレヴィのペースに合わせようと思っていたロックの身体も、自らレヴィを求め出した。
背中を抱き合って、お互いの欲情を混ぜ合わせた。


297 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/23(水) 20:55:06 ID:6IJuNhTg

レヴィは声をあげなかった。
呼吸を激しく乱していても、ロックが下から突きあげても、それはもう、完璧なまでに。
あまりにも徹底していて、ロックは何だか可笑しくなってきた。
――普段からレヴィは声をあまり出さないけど、これはちょっと、徹底しすぎだろ。
短い笑いがロックの口をつき、それに気づいたレヴィは、何? という風に目で訊いてきた。
――何でもない。
ロックは目で返し、そして笑うと、レヴィも目元をほどいて微笑んだ。
安心したように。

レヴィの尋常でない沈黙っぷりに悪戯心がわいたのは、そのすぐ後のことだった。
頑固なまでに一切声をあげようとしないレヴィの腰を支えて、
くるりと回転させ、簡易ベッドに押しつけた。
上になって主導権を握ったロックは、勢いよくレヴィの奥を突いた。
片脚の膝裏を腕ですくい上げ、レヴィを揺らす。
レヴィの肩が内に入り、全身の筋肉に力が入った。
強く締めつけられて、ロックも思わず声をもらしてしまいそうになる。
レヴィは切羽詰まった抗議の表情を浮かべたが、ロックは構わず大きくかき混ぜた。
レヴィが眉を寄せ、瞼を震わせ、ぎゅっと目をつぶるのを、甘美な気分でロックは見た。
甘い声が聞きたいのか、それともこうしてこらえる姿を見たいのか、
それはもう、どちらであるのかよく分からなくなっていた。

と、その時、ロックの腰の自由が急に奪われた。
レヴィが、両脚をロックの腰にまわし、動けないように締めつけたから。
がっしりとロックを固定したレヴィは、呼吸を乱れさせながら、低くささやいた。
「今、わざとやっただろ、ロック」
そうはさせるか、とレヴィは、絡めた脚でギリギリ締めあげてきた。
「ちょっ、レヴィ! わかった! 待てよ! ギブギブギブギブ!」
ロックは無声音で降参を告げる。
レヴィはロックから、絶対もうしない、との確約をとりつけると、ようやく脚を解いた。


298 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/23(水) 20:55:56 ID:6IJuNhTg

その後も、レヴィはまったく声を出さなかった。
しかし、濡れた吐息や、心臓の速さ、ほのかに赤く上気した肌、つま先の熱さ、筋肉のふるえ、
腰のゆらめき、そして二人が繋がったところの蠕動で、
彼女が今、どう感じているのかは、手に取るように分かる気がした。
殊に、合わせた瞳は、雄弁にたくさんのことを伝えていた。
揺れた瞳の奥に何があるのか、ロックはそれに触れたいと思った。
レヴィもまた、ロックの瞳をのぞき込む。
頭蓋の奥まで見通す光で。


ロックは、思わず、口に出してしまいそうになる。
あの、世界中の恋人たちが交わしている、最もポピュラーな言葉を。
今まで何度も口走りそうになり、寸前で飲み込んできた、あの言葉。
レヴィが望まず、しかし無意識に望んでいるであろう、あの言葉。

――俺たちの間には、言えない言葉が多すぎる。

しかし、言葉はむしろ、不完全なものなのかもしれなかった。
こうして合わせた瞳から得られたものを、そして自分が伝えたいすべての事を、
表現しきれる言葉など、存在しないように思われた。
微細な揺れを、震えを、痛みを、感じ取れ。
言葉にすると、見失う。
そんな気がした。


あの言葉は、口にしない。
とりあえず、今は、まだ。
あの言葉が死の宣告であるという呪縛から、二人が解き放たれる日まで。
 
ロックは、心の中だけでその言葉をつぶやき、それを瞳にのせて、レヴィの大きな瞳へ注ぎこんだ。
――少しでも伝わるといい。
そう、願いながら。


レヴィは最後の最後に、喉の奥をちいさく、くぅ、と鳴らした。
ロックの耳の、すぐ側で。
それから、「あ」とも「ん」ともつかぬ震えた声を、わずかにもらした。
それは、甘く、甘く、ロックの鼓膜を揺らした。


299 :ロック×レヴィ 赤  ◆JU6DOSMJRE :2009/12/23(水) 20:57:03 ID:6IJuNhTg

こんなにも、半ば意地になって声をひそめて交わったのは、初めてのことだった。
高揚がおさまってくると、ほとんど修業のようだった行為に何だか無性に可笑しくなって、
二人同時に吹き出した。
みぞおちのあたりから笑いがふつふつと込み上げ、
互いに鼻をつき合わせ、身体を震わせて声を出さずに笑った。
下になったレヴィの手が、ロックの背中をぱしんと叩いた。
しぃーっ、と指を立てるロックに、レヴィが楽しそうに笑う。
「しぃーっ、じゃねェよ。さっき暴走しようとした奴が」
また、声をひそめて肩を揺らした。
ふと思い当たって、ロックは言った。
「……これ、笑い声までひそめる必要、無くないか?」
「あー、そういやそうだな。……でも、いきなり笑い声が響いたら、そっちの方がびっくりされんぞ。
とうとう頭が沸いたかと思われる」
「ていうか、今思ったんだけどさ、
それまで話し声してたのに、突然静かになるって、そっちの方がヤバくないか?」
ロックの言葉に、レヴィが一瞬顔をしかめた。
だが、仕方がない。
あの洞察力に長けたダッチは、そして多分ベニーも、最初からとっくにお見通しだろう。


レヴィは、そこらへんに散乱している服を手早く身につけると、上機嫌で言った。
「よし、今日はロアナプラに帰ったら、レッドラムで祝杯だな!」
「レッドラム……?」
「いつもバカルディじゃ、つまらねェだろ? イカれたあんたのために、今日は特別だ」
「ああ、“REDRUM”か。でも、俺はまだ、ジャック・トランスほどイカれてないぞ」
「ばぁーか。ジャックはバーボンだろ」
あの酒、ちょっと甘ったるいが、ネーミングセンスはなかなかイカしてる、
と、ご機嫌なレヴィを見ながら、ロックは思う。

――レッドラムは、レヴィにこそお似合いだ。
 

美しい赤色に、危険な酩酊。
トロピカル・フルーツの酸味に、甘美な香り。


“REDRUM”

“MURDER”

この、うつくしき、ひとごろし。







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