279 :名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 11:56:41 ID:UKgiEw4C

「苦手か?」
「……………………………………………………ぁ?」
「地下鉄。ずっと黙り込んでるから」
六本木に向け、真っ暗闇を進む鉄の塊。
何やらそれに乗り込んだきり黙り込んだレヴィに、ロックの声がかかる。
「別に好いちゃいねぇけど、それだけの話さ。気にするようなことじゃねぇ」
それだけ言って再びレヴィは黙り込む。

この返事に偽りはない。気にかかっているのは地下鉄などではなく、隣に座る男のこと。

たった今、彼の育った町を二人で訪ねた。
いい場所だった。平和だった。
銃声や悲鳴とは無縁で、公園では子供が笑顔で遊ぶ住宅街。
家族に会えば、もう戻って来ないかも。そんな覚悟は決めていた。
ロックにとって、その方がいいのだと。
だから、自分はこの場所を記憶に焼き付けたならば不似合いな場から立ち去ろう。
そう思っていたのだ。
だが、肝心のロックは家族に会うことなく……最低のタイミングでレヴィの目の前に現れた。
ロックの顔を目にした刹那沸き起こった様々な感情。
子供と戯れる姿を見られた羞恥心。
こんなにも早い帰還への怒り。
そして、何よりも大きな安堵。
実家が留守だったというこの男の弁を信じて良いのかわからない。
ばつの悪そうな様子を見るかぎり、嘘である気がしてならない。
だがそれでも、隣で過ごす時間が、ほんの少しだけ、…延びた。
そんな、どこかで喜んでいる女々しい自分がたまらなく嫌いだった。



淡いピンク色に濁った湯に身体を沈める。
この国へやって来た最初の日に二人で立ち寄ったセブン・イレブンで、「日本の入浴剤だ」といくつか買っていたのは知っていたが、
大して興味も無いからリカーコーナーで部屋で飲む酒を物色していたのだ。
が、彼が買った色とりどりのそれは、ロックが自ら入るのではなく連れであるレヴィを楽しませる目的を持っていたらしい。
つまり、毎夜ロックは手ずからバスタブに湯を溜め、レヴィに入浴を勧めてくる。
どれだけ色気の無い間柄とは言え、人目に触れぬホテルの一室で、妙齢の男女が二人きり。
そんな相手に入浴を勧められれば俄かに何かを予感するのはあまりにも当然と言える。

彼女だってはじめはそうだった。

280 :名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 12:00:05 ID:UKgiEw4C
 冬の東京で芯から冷えた身体を甘い香りの湯で温めながら、この後どんな格好で出ていけばいいのだろうとか、歯を磨いておかな
 ければとか、コンドームを用意していないとか…処女のようにそんなことばかりがレヴィの頭をぐるぐると回った。
 日本に来て早速関係を持つのも展開が速い気がするが、ロックとならそれもやぶさかではない。
 そうは言っても、どうせならばがっかりされたくない…もっと言えば喜んでもらいたいのだが、部屋に備え付けの膝丈のパジャマは
 どうにも色気が無い。
 とは言えいきなり裸というのも、いかにもヤる気満々だ。いや、その気ではあるが、あまりがっついて引かれてしまっては実も蓋も
 無い。
 バスタオルを巻いたところで、大して変わらない。というか、かえっていやらしい。
 湯から出て鏡の前であれやこれやと試してみるも、やはりここは自然が一番と胸元を少し肌蹴てパジャマを羽織る。
 ロックの指がこの無粋な夜着を剥がす様を想像し、顔が真っ赤に染まった。
 「よし、行くか」
 そう小さく呟き、ドアを開いた。
 暖房はきいているが、湯気の立ち込める浴室と比べてどこか肌寒い。
 部屋でテレビを眺めていたロックは、湯上りのレヴィを一瞥すると、「ビールは冷蔵庫。湯冷めするから飲んだら寝ろよ」と言い残し
 浴室に消える。
 そんな態度と台詞に肩透かしを食らったのは事実だが、その後に色気のある展開が待っているとまだ信じて疑わなかった。
 ベッドに尻をついてビールを流し込む。
 テレビは日本の報道番組を映していて、どんな内容かなんてさっぱりわからないのに、ロックと共に彼の母国にいるのだと思うとそ
 わそわした。
 心臓がうるさい。今更生娘みたいに緊張するなんて。

 セックスなんて、股を開いて男のモノを突っ込ませてやれば、空しさや情けなさと引き換えに、ほどほどの快楽を得られる、それだ
 けの行為。
 酒やタバコ、そしてドラッグと同じ。
 これといって好きではないが、何となく背伸びで始め、数ある享楽の一つとして営んできた最も原始的で本能的な行為。
 そうは言っても酒とタバコは生活の一部として定着したが、セックスとドラッグは必ずしもそうはならなかった。

 色々なことを覚え始めの時分、ドラッグパーティでの乱交の最中に見た幻覚が無性に気持ち悪かった。
 気が狂いそうになる強烈な快楽の中で目にしたのは、ねっとりと全身を這い回る蛇に絡み取られながら、毛むくじゃらの猿に犯され 
 る光景。
 目玉だらけの天井。
 醜悪な天使と美麗な悪魔、ショッキングピンクと紫のマーブル模様のマネキンの三人組が、ケラケラと高笑う溶けかけのボーイ・ジョ
 ージの口の中からこちらを覗き込んでいた。
 きっと、全身を舐め回されるか撫で回されるかしながら、複数にマワされていたのだろう。
 身動きが取れなかったのは、暴れないように押さえつけられていたからかもしれない。


 怖くてたまらなかった。
 そして、とてつもなく幸運だった。

 ドラッグでハイなセックスに溺れている最中に幻覚までもがハッピーだったなら、きっと自分は元に戻れなかった。
 薬のために身体だって売るようになっただろう。そんな『元・人間』をうんざりするほど見てきた。
 それ以来、クスリといえばせいぜいマリファナを楽しむ程度に控えるようにはなったが、顔も覚えていないような男とは何度も身体を
 重ねてきた。
 だが、言い訳するわけではないが…対価を受け取ったことは無い。
 決して『綺麗』では無い身体だが、どんなに尻軽呼ばわりされようとも職業にしてはならない気がしていた。
 何となくでしかないが、それだけは譲れない気がしたのだ。
 ハタチを過ぎた頃には、空っぽの快楽と空しさの天秤が大幅に後者に傾くようになって自傷のように股を開くことは少なくなり、ロック
 が現れてからは、一度も無い。

 壁を眺めながらぼんやりと反芻していると、シャワーの音が止まる。程なくして聞こえてくるドライヤーの送風音。
 どんな顔で迎えればいいだろうか。
 自分の経験を思うと、先程までの高揚感は消え失せた。
 緊張は相変わらずだ。
 金を受け取って来なかっただけで、ただの男の肉便器だった自分。
 自分が育ったあの街ではそれが当たり前だったとは言っても、惚れてしまった男に差し出すにはあまりに手垢が多すぎる。
 どんな顔をしていればいい。きっと後悔で情けない顔をしている。
 無言で壁をにらみ続けた。

 浴室のドアノブが、回った。

281 :名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 12:06:13 ID:UKgiEw4C
数日前の出来事を思い出し、小さく舌打ちした。
あの日、自前の寝巻きを着たロックは、ビールを飲むと彼女に指一本たりとも触れることなくさっさと寝てしまった。
ありもしない彼との行為を妄想し、勝手に盛り上がっていた自分はまるで道化だと頬を膨らませる。
2日目も同じだった。
タイからの移動、ヤクザとの会合や連れ回してしまったカーニバル。
疲れることばかりだったそれまでの日程。
だから3日目に期待してはみたが、何も変わらなかった。

3日目は、バラライカのショッピングに同行し銀座へと赴いたのだ。

 マフィアに身を窶しても軍人としての矜持を崩さぬバラライカであるが、女として装うことに一切の手抜きはない。
 結い上げられた豊かな金髪、手入れが行き届いた爪、目元を引き立てるメイク、艶やかに引かれたルージュ。
 纏うものだって上質だ。スーツはもちろん、繊細で上質なストッキングはシルク、靴だって細身のハイヒール…。
 そんな彼女が、気まぐれで中国人の小娘を連れて異国の地でショッピング。完全な引き立て役。要らないと言っているのにノベルティ
 やら化粧品のサンプルやら、レヴィの持ち物は増えて行く。
 だが、興味の無いそぶりを見せながらも、店に並ぶ煌びやかな服を追わずにいられなかったのは彼女なりに楽しんでいたからだろう。
 東京は寒くてかなわないと愚痴を漏らしていたためか、下着店では防寒用のインナーを買い与えられた。
 もちろんそれも有り難かったのだが、1番嬉しかったのは、ふと凝視してしまったレースとリボンのロマンティックなベビードール。
 要は、男を誘惑する他に使い道の無い下着。
 レヴィがそんなものにいたく気を向けていることに気付いたバラライカは、渋い顔を浮かべながらも、一揃えで用意するようにスタッフに
 伝えた。
 そんな下着の使いみちなど、どうせ誰の目にも明らかだ。
 日本に来て、こんないかにも女みたいな服を着て、加えて男を誘うレースの下着。
 「気持ち悪い」とか「別にいらねぇって」とか「似合わない」とか口では文句を垂れながら、その実少し…いや、相当に嬉しかった。
 そんな彼女の内心を知ってか、ロックやバラライカは彼女が普段選ばないようなものを与えてくる。
 それを受け取れば、冷やかすでもなく、ロアナプラの面々が見れば唖然とするような出で立ちの彼女を当然のものとして受け入れて
 いた。
 当初は照れ臭くてたまらなかったガーリーな服装への違和感も薄れていく。
 こそばゆくて、でも、少しうれしかった。
 だから、ホテルに戻った時にロックに渡されたやけに少女趣味なフリースのパジャマも素直に受け取った。

 レースのランジェリを着け、上からロックに買い与えられたモコモコの夜着を着込む。奇妙な取り合わせだとは思ったが、せっかくロ
 ックに買って貰ったのだから早く着てみたかったのだ。
 ロックはベッドでタバコを燻らせ寛ろいでいた。そんな彼を誘うように、傍らに腰掛ける。
 彼が眺めるテレビからは「カブキチョー」とか「コーサカイ」とかいう単語が聞こえてくる。
 きっと昨日の爆破のニュースが読まれているのだろう、ロックの目は尚も画面に釘付けだった。
 何となく面白くなくて視界を塞ぐように腰に跨ると、微かに身体を震わせ視線を逸らされる。
 頬に触れ、ゆっくり顔を寄せる。ロックの息が浅くなる。あと3センチ、2センチ。微かな吐息すら感じるほどに近い。
 だが。
 「風呂、入って来る」
 言いながら身体を押し退けられた。
 出鼻を挫かれ面白くなかったが、ロックの硬く隆起した下半身を見止め、真面目な彼はマナーとして入浴するのだろうと疑わなかった。
 そんな思考に、自分はそんなにこの男と『したい』のかと呆れるが、惚れてしまったものは仕方ないのだ。
 言葉で想いを伝えられないから、彼を手放す日が来る前に、せめて身体くらいは繋げておきたかったのだ。

 だが結局、何事もなかったかのように振舞われ、明らかな彼からの拒絶にそれ以上踏み込む勇気を持てずに互いに眠りについた。
 真っ暗な部屋の中、惨めで情けなくてたまらなくなる。
 外は風が強くて、時折低音となって部屋の空気を震わせていた。
 ろくでもない経験ばかり重ねてきたくせに、こんなに心底欲している男とはキスすら叶わない。
 頭の中でこっ恥しいばかりの妄想を繰り広げてみたり、馬鹿みたいなランジェリを揃えてみたり、とにかく空回りばかりしている。
 「馬ぁ鹿…」
 消え入るように呟いて、レヴィは瞼を閉じた。

282 :名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 12:09:43 ID:UKgiEw4C
結局何の進展も無いまま更に数日が経ってしまった。
口を尖らせ鼻先まで湯に漬かる。
馬鹿馬鹿しい、自分は何をしにこんな異国の地までロックを追って来た?
決まっている、彼の身を守るためだ。
……守る?笑わせる。ほんの数時間前にチンピラにボコボコにされるロックを助けることすら出来なかったのに。
結局、何に於いても自分だけで独りよがって空回っている。
何だか、惨めさが上塗りされる一方だ。
「コロス…」
暴行を受けるロックの姿を思い出し、一度は収めたはずの怒りがこみ上げ天井を仰ぐ。半分は不甲斐ない自分への怒りだが。
ロアナプラでだってあんなに怪我をさせたことはない。なのに平和なこの国で…ロックの国で怪我をさせた。
許せない。許さない。
二度と彼を傷つけさせてなるものか。
レヴィは沸騰しそうな怒りのまま唇を噛む。ストロベリーミルクの色の湯に一滴の血が滴り落ちて溶けるように消えていく。
ロックにとって自分の存在価値が暴力にしかないのならば、それでもいい。今はただ暴力で応えてロックの役に立つだけだ。
レヴィは切れた唇を一舐めし、怒りのまま立ち上がるとバスタブを跨いだ。
頭上の棚に置かれたバスタオルを取ろうと背筋をぐっと伸ばした瞬間…膝から力が抜けた。

意識が遠のく。

昼間、公園で出会った子供たちへ行ったレクチャーを思い出し『そう、こんなカンジなんだよ』と己の正しさを確認するも、身体のバラ
ンスを立て直すことが出来ない。
何かに掴まるべく咄嗟に伸ばした腕が、アメニティのトレイをひっくり返す。
倒れこんだ床はひんやりして気持ちが良い。

「レヴィ!!??」

浴室のドアが開き、どことなくひんやりした空気が肌に触れた。
「何でも…ねぇ……見んなよ…出て…け…」
言いながら起き上がろうと床に手をつくが、馬鹿みたいに力が抜けてうまくいかない。
「随分長いこと入ってると思ったらっ…」
身体を抱き起こされる。肩を抱きこまれ、膝裏に腕が回された。
「のぼせるまで、入ってるなんてっ…」
身体がふわりと浮く感覚。
抵抗する間も無く抱き上げられて浴室を出たと思えば、何かを考える間もなくベッドに下ろされる。
ハァハァと荒い自分の吐息。
一糸纏わぬ姿を少しでも隠すようにびしょ濡れの身体を丸める。
こんなシチュエーションでフルヌードを晒すなど、何の冗談だ。
出し惜しみするべき身体とは思っていないが、それでもこの男に見られる時は抱かれる時だと勝手に決めていた。
全て晒して尚、欲情すらされないのでは…立ち直れる気が全くしない。
そう身を硬くするレヴィに、フワリとタオルがかかる。ぶっ倒れた女にいきなりのしかかって来る男ではないし、そんな男ならば惚れた
りなどしないが、「お前は対象外」と言われた気がしてますます惨めたらしい。


283 :名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 12:14:13 ID:UKgiEw4C
頬に冷えたペットボトルの感触。
「ほら水。飲めよ」
「……ん。」
とりあえずの気持ち悪さの波は去って、頭も冷えてきている。
嘆息して目を開けると、目の前にはロックの…胸板。
「てめ、何で脱いでんだよ!!」
スラックスはそのままとは言え、思いがけないトップレスに再び顔に血が上る。ロックは殴られた痣の残る顔を真っ赤に染めると「仕
方ないだろ、濡れネズミを抱き上げてびしょ濡れになったんだ!」と抗弁し、それでも紙でパタパタと扇いでくれる。
ロックの身体など、船で見慣れているのにドキドキする。だってこんなに近い。
思わず目の前の裸体を凝視すれば、ノータリン男に受けた暴行の痕が痛々しい。
赤く腫れてきているそこに触れると、「いたっ」と震える身体。
「悪かったな…助けてやれなくてよ」
「お前のせいじゃないだろ、もういい…。気にして無いんだからそんな顔するな」
「うん」

レヴィに下心があったわけではない。
性欲とか情欲とか、そんなものとは無縁の衝動で、熱を孕む打撲痕へ唇をよせた。
唖然とするロックに一言「ママのキスだ」と薄く笑う。
「お前、明日色が変わるぞ…これ」
「…………………………ああ」
「氷で冷やしながら寝ろよ」
「…腹まで冷えちまうだろ」
レヴィが違いないと笑うと、ロックの指が彼女の頬に触れた。
「…顔も…蹴られて痛いんだ」
言わんとしていることは理解出来るから、何やら期待めいた感情を抱かずにいられない。
ダメ押しするように「キスしてよ」と囁く声に、脳髄が、痺れる。
よたよたと起き上がると申し訳程度に身体を隠していたタオルが滑り落ち、全てがあらわになる。指し示された箇所に無言で口付ける。
赤く腫れ始めの頬の次に、痛々しく切れた口の端。
軽く触れるだけの、ママのキス。
なのにやけに心臓がうるさかった。


322 :名無しさん@ピンキー:2010/01/02(土) 18:11:14 ID:w3Q3AeSe

どちらからそうしたか、なんて論じるのもナンセンスだと、レヴィはロックにしがみつきながらそう思った。
気付けば唇同士が重なっていたのは自然なことで、掌を握り合いながら互いに舐めたり舐められたりしていた。
再びのぼせ始める頭。言いようの無い恍惚感にくらくらする。
男をベッドに引き倒し、頭を両腕で抱え込むと応えるように背中に回される掌。乳房が胸板に押し潰されるほどに密着し、漏れ出る甘
ったるい吐息を抑え切れない。
ロックとこうしたかった。
ロックに抱かれたいと、ずっとずっと思っていた。

「…くしゅんっ」
なまめかしい吐息で埋め尽くされた室内に、妙に控えめなくしゃみが響く。
「………………………レヴィ。髪乾かさないと…風邪ひく」
しばしの痛い沈黙の末、濡れそぼったまま冷たくなった髪を一撫でしてロックはレヴィから目を反らす。
「何でもねぇよ、この部屋乾燥してっし、すぐ乾くって」
「そういう問題じゃなくだな……あー…買ってやったパジャマ着て寝ろ」
「布団の中でヤればいいだろ」
尚も口答えをしてやれば呆れたような、何かを考えるような顔をし、「ごめん、ちょっと、ちょっと待ってて」とそわそわベッドを降りる。
身体を包んでいた体温を失ったレヴィが不満に口を尖らせるのにも構わず、ロックは死角にしゃがみ込んだかと思うと自らの荷物を
ごそごそと漁る。
ついでに空調をいじくりまわすと、いそいそと戻って来て再び布団もろとも覆いかぶさってきた。
そんな浮き足立った不審な動作に何となく冷めてしまいそうになるレヴィだったが、まぁいいかと気を取り直すことにする。
だって、直に触れ合う素肌の温もりが心地好い。
「寒くないか?」
「ああ。あんたも全部脱いじまいなよ」
未だロックの身体に纏わりついている服が邪魔で仕方ない。それに自分だけ素っ裸なのも照れくさい。
「その前に…」
なのに、ロックはベルトに手を掛けることなくそう言うと、さっきまでレヴィの身体にかかっていたタオルを手に取り乱暴に彼女の髪を
拭き始める。
「あ、てめ、いってぇ…!ちょっ…やめ…」
「髪を、乾かさないっ…お前が、ワルいんだっ」
「やっ…はははは…はは…」
セックスの前にこんな風に他愛なくふざけ合うのなど初めてで、それが無性に笑えてケラケラ笑うと、つられてロックも笑い始める。
「ぷっ…ひどいな、髪がボサボサだぜ。このまま乾いたら、明日の朝は大爆発だ」
ヘラっと笑うロックの頭を軽く小突きながら「てめぇの仕業だろ」と口を尖らせるレヴィに、彼は「まぁね」とキスをくれる。

323 :名無しさん@ピンキー:2010/01/02(土) 18:15:16 ID:w3Q3AeSe
逸る気持ちを抑えきれない様子で布団の中で全てを脱いだロックは、そのままレヴィの隣に横になって目の前の身体を抱き寄せる。
「あーすっげー気持ちいい」
「お前…まだ触ってやってすらいねぇぞ」
そんな軽口を叩けど、レヴィ自身も感じていた心地良さを共有しているようでどこか嬉しい。
「別にそれだけがキモチイイことじゃないだろ、柔らかくて抱き心地いいしさ、あったかいし。」
「ふーん…じゃあこのまま寝ちまうか?」
けれど、もっとそれでは意味は無い。意地悪く笑いながらレヴィの指が絶妙なタッチでロックをなぞる。
微かに顔を歪めたロックのソコは、数度扱くだけで放出してしまいそうなほど張り詰めていて、面白がって裏筋のあたりをくすぐると、
もの凄い力でシーツに縫い付けられた。
「そんなにがっつくなよ」
下半身に余裕の欠片も無いくせに、余裕ぶった顔で笑うロックが気に入らずに反論しようとすると唇を塞がれる。
中断してまで文句を言うのも馬鹿馬鹿しくて…というより、中断したくなくて…、もっと欲しいとねだるように甘えるような吐息を漏らす。
乳房を刺激するロックの掌は微かに汗ばんでいる。そして、レヴィの唇から首筋、鎖骨と続いて移動してきた唇が頂を含むなり、乳
飲み子のように熱心に吸い付いて来た。
「野郎ってのはよ、乳触って何が楽しいんだ?」
そんな、嬉しくてたまらないと言わんばかりの様子に、前々からの疑問を問わずにいられない。
大抵の男がやたらと嬉しそうに乳房を揉みたがるが、母乳も出ないそこはただの脂肪の塊だ。
「柔らかくてキモチイイだろ、自分で触ったことないのか?」
「無いワケねえだろ、んなモン触っても面白くもナンともねぇよ」
「えー勿体ない…」
「なんだソレ、わっけわかんねぇ…」
レヴィが自ら乳房を揉み上げながら、「こんなのただのチチだ」と納得出来ない顔をすると「そりゃあそうだろ」と笑われる。
「触られるのは?気持ちイイ?」
再び果実を口に含ませながら問うロックの唇の感触は確かに気持ちよくて、苦し紛れに「……死ね」と返せば「このまま死ねるなんて
本望だな」と真顔で返ってきた。
何と返そうかと考え、自分が優位に立てる返事が咄嗟に思いつかずにそのまま何となくされるがまま流される。
言葉も無くもぞもぞと互いの身体を触り合う度に掛布がめくれ、裸体を余すことなくロックに晒す。
脚が大きく割り開かれ、股間に触れる空気の一際の冷たさに自分がどれほど濡れているかを思い知らされた。
「ん…や…あ…」
笑えてしまうほどに緊張していて、思わずそんな生娘のような声を漏らしてしまう。
そんなレヴィの顔を嬉しそうに一瞥し「…真っ赤だ…」と呟く声。
割れ目に沿ってゆっくりとロックの指が滑っていく。
「うるせぇ………」
撫で付けられるたびにぬめりを増すソコは、ロックの指紋すらも感じ取れそうな位に鋭敏になっていた。
「……どうしてこんなに濡れてるの?すぐにでも入れられそうだ」
嫌らしくニヤニヤしながら指を入れられて奥を掻き回される。
「…ぁ…ぁ…ニヤけやがって…そんなに楽しいかよ…」
「というより嬉しい」
ぴちゃぴちゃとわざと音を立てて指を動かすロックに挙動を観察されることにいたたまれなくなり「そういうメンドくせぇのはいいからよ、
さっさと始めろって」と、逆に押し倒す。
「それとも『犯して』やろうか?ベイビー?」と、腹につかんばかりに立ち上がったモノを手に取りニヤリと笑うと、ロックはきょとんとした
顔の後、呆れたように「一回目くらいは普通に抱かせろって」とぼやく。

324 :名無しさん@ピンキー:2010/01/02(土) 18:15:43 ID:w3Q3AeSe
一度きりで終わらない関係を匂わされて、次はレヴィがにやけそうになる。
「うるせー。ねちねちしつこくいじり回しやがって。大体、次があるってのか?」
あるとしても、今夜一晩だけだ。だってもうすぐあたしはこいつを手放さなくちゃならない。レヴィは自身にそう言い聞かせながら歪み
そうになる顔を皮肉めいた笑みに換える。
「抱かせてくれるならな」
「いいぜ、けどネチっこいのは嫌いだ」
だから細かいことはさておきさっさと突っ込めと、脚を大きく開き、指で性器を割り開いて見せ付ける。だが。
「………………もっと、こう…何ていうか…恥じらいっていうの?さっきみたいに頬を染めて隠された方が燃えるんだけど」
良かれと思って誘ったつもりが心底嫌そうに呟かれ、どうやら何かを間違えたらしいことに気付く。
「……ポルノフィルムじゃみんなこんなんじゃねぇか。野郎は好きなんじゃねぇの?」
そう、今までの相手ならば口笛を吹いて食いついて来たというのに。
「俺はプロと寝てるつもりは無いんだけど…っていうか、だから悩んで………あー…まあ…もういいや…」
口ではごちゃごちゃと言いながらも、シーツに溺れたスラックスのポケットから小さな包みを探り出す。一目見れば判るそれ。つまり
は、スキン。コンドーム。
「……お前、いつそんなん買ったんだよ」
すかさず尋ねるレヴィの声にぎくりと震える身体。日本語で何か書いてあるからには来日してからだろうが、冗談抜きで、いつ用意し
たのか解らない。言葉の通じないこの地でロックと離れたのはお互いの用足しかバラライカとの買い物で下着屋に入った時くらいだ
ろうか。もしや日本では便所でコンドームが買えるのか?などと悶々と考えていると、「怒るなよ」との前置きの後、答え合わせ。
「………さ………最初に行ったコンビニ」
挙動不審に目を泳がせる男の返事に些かコメントに困り、気付くと一番突っ込まれたくないであろうところを突くはめになっていた。
「……………………………………ハナっからヤる気満々だったわけか」
自分のことは棚にあげ、じっとりとロックを眺めやる。
「…違うって!たまたま…その…目に入っただけで…」
「別に悪いなんざ言ってねぇ。責めてもいねぇ。ただ、すましたツラで内心ヤりたくてたまんなかったんだと思うと可笑しくってよ」
でも気に病まなくていい。あたしだって同じだ、あたしだって最初の夜から期待してた。あんたがあたしに手を伸ばしてくるのを待って
いた。
そう告げようとするレヴィだったが、一方のロックは必死に下心を否定する。
「……あーその…違うから!…………ヤりたかったとかそういんじゃなく、単に緊急事態に備えただけというか……」
哀れなくらいにわたわたと慌てる男。しかもヤリたいから今ここでこうしているのではなく、不慮の出来事などと抗弁する。
「…そうか、これはハプニングってわけか。お前の意思じゃなく事故ってわけか。だよなーずっとよそよそしかったたもんなー、誰だっ
て事故りたくは無ぇしよ………」
「あ…ちが…………」
違う。こんなことを言いたいのではない。こんなのはただのわがままだ。いざ欲しかったものを手に入れられそうになって、欲を出し
てもっと深い何かが欲しくなっただけ。
このままでは何も得られない。決めたではないか、少しは正直になると。事故だろうと何だろうと関係無い、せっかくここまで漕ぎ着
けたのだ、別れがやって来る前にこの男と交わっておきたいのではなかったか。
「まぁいいさ、んなこたぁどうだって。悪かったな。からかってよ……まぁ、ナンだ…その……あんたにその気があるならさ、あたしの
方は…いつでもいいから」
「……本当にいいのか?」
「クドい。いいからその大事にしまってたモン着けちまいな」

325 :名無しさん@ピンキー:2010/01/02(土) 18:17:31 ID:w3Q3AeSe
ごそごそと準備を始めるロックを眺めながら、惚れていると言ったならばこの男はどんな顔をするのだろうと考え…今更だと思い直
す。目の前で股を開いてスタンバイしている女が今更そんなことを言ったところで、…ただ重いだけだろう。
ロックは正しい。これはハプニングだ。そういうことにしておけば、何の気負いも無く身体を繋げることが出来て、時が来ればこの男
はあの平和な日常に還っていけるのだ。
膝が押し広げられ、ロックがその間に陣取った。
顔の右側に掌が置かれ、股間に圧し付けられるアレの感触。
「…レヴィ。入れるよ」
言うなり入って来る。
久方ぶりに許した男の進入に、ぞくりと背中が震える。最近は使っていなかったとは言え、昔は散々使い込まれたそこ。緩いと思わ
れるのが嫌で慌てて腹に力を入れる。
だが、頬を撫でてくる男を見上げると、薄く微笑を浮かべながらも明らかな後悔を滲ませていて、さっきまで喜々として人のカラダを
いじりまわしていた男とは別人のようだった。
気楽に目の前の据え膳を食べてしまえばいいというのに、どうしてこの男はこんな苦々しい顔をしているのだろう。
売女のような吐息を漏らしながら、目の前の身体に腕を廻して引き寄せる。顔が見えぬほど密着してしまえば彼の後悔を目の当た
りにせず済む。躊躇いがちにロックの掌も背中に差し込まれ、ぴったりと隙間無く身が重なり合った。抜き挿しが始まり、首筋にかか
るロックの吐息が荒くなり始める。擦られる粘膜で、密着しあう皮膚で、絡み合う舌で、ロックを感じることに集中する。
熱を孕む子宮を突かれる度に全身の神経が鋭敏になって、その度に緩みかける股を締め上げる。
ざらざらした舌で首筋を舐められる度に大仰な喘ぎ声が部屋に響き渡る。
「レヴィ……気持ちいいよ」
耳元にロックの声。直接耳に触れる生暖かい息と舌と唾液の感触に、全身の皮膚がざわめく。
「あたり…まえ…だ…っつーの…」
そうは言っても行為の最中にどう振舞えば悦んでくれるのかがわからなくて、誤魔化すように荒い吐息と唾液を互いの口の中で混
ぜ合わせていると、そのままロックが達した。
腹の中で勢いよく精が吐き出されているのを、薄いゴム越しに感じる。
本当は、身体の奥深くに直接注ぎ込まれたいそれ。別に深い意味なんて無い。きっとそうすればもっと満たされるような気がするだ
け。



326 :名無しさん@ピンキー:2010/01/02(土) 18:18:05 ID:w3Q3AeSe
「……ごめん…」
「何が」
息が落ち着くのも待たずに、ロックは謝罪を口にする。レイプされたわけではないのだから謝られる理由なんか無いはずなのに。
「…………物足りないって顔だ」
「………別に…」
満たされない何かの正体なんて、漠然とし過ぎていて自分でも解らないが、きっとロックが思っているような理由ではない。
だって目的は快楽ではない。抱かれるだけでよかった。それ以上は望まない。なのに満たされない。
不機嫌を隠しもせずに顔を背けると、ため息と共にロックが身体から出て行く。喪失感に顔が強張った。
「明日さ、ベニーに頼まれた買い物に行こうと思うんだけど」
そんな彼女を知ってか知らずか、ロックはさっさと立ち上がって机の上のティッシュを数枚抜き取りレヴィに渡すと、自らも後始末を
しながら明日の話をし始める。男なんてみんなそう。出すものを出せば実に事務的だ。
「………ふーん…」
感傷に浸るつもりなど無い。行為そのものに深い意味なんか無い。愛だの恋だのを語るほど真っ直ぐになんか生きて来なかった。
「行くだろ?」
なのに、数メートル先の生白い背中が妙に遠い。行為の残滓がくずかごに放り投げられる。直前までの営みなどゴミに等しいと言わ
れた気がする馬鹿げた被害妄想と、それを鼻で笑うニヒリストな自分がせめぎあっている。
「気が乗らねぇな、マシーンなんか興味無ぇし…」
ロックはくすりと笑うと「…レヴィは嫌いだもんな、機械。」とそれに同意し「…ならどうする?」と、煙草に火を点けながら問うて来る。
「……別に。映画でも見るかそこらをふらふらする」
顎をしゃくって自分にも寄越せと要求すれば、何故だか自分の吸いかけを寄越して来る。すんと鼻を鳴らして不満を表すが、全く意
に介す様子も無く「気が向いたら行こうな?」と流すから「……………気が向いたらな」と彼女も適当に受け流す。
煙を肺いっぱいに吸い込むと、慣れ親しんだものより弱いながらも、愛してやまない酩酊感。灰皿を片手に再びベッドに潜
り込んで来た男を視界の隅に捉え、無言で煙草を押し付ける。右肩に回される熱い掌。促されるまま身体を傾けると、ロックの唇が
待ち構えていた。
「物足りないって顔してる」
軽く触れ合う唇が紡いだからかい文句に反論する間もなく、唇をぴったりと塞がれた。

深く、浅く、舌と吐息を絡ませる。二回目を求められていることは理解していたし、拒むつもりもない。
ただ、抱いたことを後悔しているくせに、再び求めて来るこの男を心底理解出来なかった。

327 :名無しさん@ピンキー:2010/01/02(土) 18:19:35 ID:w3Q3AeSe
「じゃあ、行って来るから。映画は有料放送で見れるし、フロントの人は英語できるから近くの映画館までの地図をくれる。メシはルー
ムサービスか、下のレストランで食うか…そうだな、そこのコンビニで買ってきてもいい。ああ、そうだ、面倒なら買って来ておこうか?
どうする?」
ベッドで身体を丸めるレヴィの背中に矢継ぎ早に降りかかるロックの声。
「…しつけーな……お前はあたしのママか…適当にやるから、ぐだぐだ言ってねぇでさっさとどっか行っちまえ」
「……その…面倒だからって抜くなよ?あと、今日は寒いから。その………早く服着ろ…」
いまだ裸のままでいることを嗜めるロック。レヴィとて早いところ服を着たい。だが。
「だったらさっさとどっか行け。あんたがそこにいたら出られねぇ」
「…………今更……っ…ォ…オーライ、わかった。じゃあ、夕方までには戻るから。…その後飲みに行こう、な?」
余計な軽口を叩こうとするロックをシーツの隙間からキッと睨みつけると、たじろいだようなはにかんだような微妙な様子で外出を告
げ部屋を出て行く。
……別に恥ずかしいわけではないのだが、この真っ赤な顔をロックは実に自分に都合よく解釈したようだった。
「………ぁっ…たまぃて……」
ベッドを離れるのを躊躇っていたのは裸を見られたくなかったからなんて勿体付けた理由じゃない。身体の変調に気付かれたくなか
っただけ。つけ加えるならば程よく温まった布団からも出たくなかったが。
だが、いつまでもこうしているわけにはいかないこともまた、聡明な彼女は理解していた。
そういえば、この間寒い寒いとぶつくさ喚いていたら、バラライカの部下(名前は忘れたが)にウォトカを貰った。ロックがくれたパジャ
マを着たならば、それでも飲んで寝てしまおう。
レヴィはそれだけ決めるとシーツを被ったままベッドを抜け出す。
「あーダリい…」
立ち上がって頭痛が酷くなった気がする。
床に座り込んだままフリースのパジャマに袖を通す。もこもこして色気が無いくせに妙に女々しいフリル付き。悪趣味極まりないが温
かなそれにどこかほっとする。
ロックが帰って来る前に少しはマシな状態にしておきたかった。彼の後ろをついて見知らぬ土地を歩き回るのは、いつもと逆で、至極
楽しいから。本当は、今だって一緒に行きたかった。一緒に行って、愚にも付かない感想に辟易されながらも後ろをついて回りたい。
残された時間を少しでも長く一緒にいたい。
「……薬……」
養生など柄では無いが仕方ない。フロントに電話をしてスープか何かと一緒に持って来て貰おう。
スラングを使わぬよう丁寧に。こんなに気を使って他人に何かをお願いするなど初めてだ。何で客なのに畏まっているのだろう?教
科書通りの英語しか理解出来ぬ日本人に合わせてるだけさ、アホくさ。
釈然としないまま受話器を置いて再び潜り込んだシーツの中は昨晩の情交の匂いに満ちていた。

328 :名無しさん@ピンキー:2010/01/02(土) 18:27:00 ID:w3Q3AeSe
あんなに好き放題ヤリ倒したくせに、素っ気なくロックは出掛けて行った。いや、ヤリ倒したからこそさっぱりした顔をしていたとも言え
る。異変に気づく前に出て行けと思えど、もう少しだけ気にかけて欲しかった気持ちもどこか否定出来ない。
昨晩は何回したのだっけ。
求められる度、歯の浮くような台詞を囁かれる度、実はロックもまんざらではないのでは、などと淡い期待を抱いては頭を振ってそれ
を打ち消した。
こんなのはこの男なりのベッドマナーだ、期待するほどに裏切られた時の落胆が大きいことは解っているだろう、と。
結局、真面目なあの男は溜まってるという理由で手近な女と寝ることを躊躇っていただけなのだ。好きなだけヤって憑き物が落ちた
ような顔をしていた。どうせああだこうだと気を揉んでいるのは自分だけ。
馬鹿らしい。
確かに始まりこそ、風邪をひくと言って逃げようとしたロックを問題ないと言いくるめた。だがロックも存外あっさりとそれに乗ったでは
ないか。結果的にこうなった一因は、夜通し求めて来たあの男にもある。にも関わらず、それを気取られぬように意地を張って、夕方
帰って来たロックと何食わぬ顔で街に繰り出さんと悪あがきをする自分。本当は夕方までに持ち直すなんて無理なことと解ってる。
けれど、嫌われたくない。面倒な女になりたくない。
だからロックの都合が最優先。自分は我が道を往くよう見せかけながら、はぐれてしまわぬように必死に後ろをついていく。
おかしな関係だ。
でも仕方ない。
ロックの都合で何者にもなる自分はロックが思う様生きるためのロックのための道具。
昨日まで、自分が供することができるものは暴力だけだった。だが、それに色も加わった。
嬉しい。
だって、役立たずだと思われるのは怖いから。だから『マスター』である彼に求められるうちはいくらでも応じよう。
昨晩から何度も言い聞かせたそれ。それでもやっぱり。
「ムナしぃ…」
無意識に口をついた。


343 :名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 19:59:37 ID:WtgXu7qY

秋葉原に向かうべく乗り込んだJRにはちらほらと空席が目立ち、小さな幸運を享受するべくロックは手近な席に腰を下ろした。
昨晩はあのレヴィを抱くという幸運な巡り会わせに馬鹿馬鹿しいほどに舞い上がってしまい、何度も何度も彼女を求めてしまった。正
直、夢中になりすぎて疲れていた。本当は彼女と二人、昼までだらだらし、部屋で何かつまみながらアクション映画でも眺めた後、近
場に飲みに出る…そんな自堕落な一日を過ごすのも悪くは無かった。だが、今日は秋葉原に行くと宣言した手前行かないわけにもい
かず、その上レヴィにはにべもなく同行を断られ、猛烈に後ろ髪を引かれながらも部屋を出たのだ。
レヴィとの一夜は、一人になった今思い出しても最高だった。艶っぽい表情はもちろんそそられるし、中に入れば当然ながらキモチヨ
く、身体だって抱き心地がよくて背中に腕を回して抱きしめれば誂えたかのように肩甲骨の間に腕がはまる。そのまま抱き枕にして眠
ってしまいたいくらいだった。

『…あぁ……ロッ…ク………ぁ…あ、あ…、あ…んっ…ん…はぁ…ぁ……ロック…ロックぅ…』
不意に、レヴィの声が頭の中で再生される。
中を掻き回す度、奥を突く度、控え目に鳴く彼女が可愛くて可愛くて、もっと鳴かせたくてたまらなかった。
レヴィは、直前までの蓮っ葉ぶった態度と裏腹に、行為が進むにつれ何かに戸惑ったように恥じらってみせた。
そうかと思えば、喉の奥まで彼のものを咥えて奉仕する顔はひどく淫靡でそれだけで達してしまいそうだった。

昨晩の秘め事を思い出して反応してしまうロック自身。あれだけしてもまだ立つのかと苦笑するが、考えずにいられないのだ。それほ
どまでに普段とのギャップが大きすぎた。
だが、本当はロックだってどこかで気付いていた。
自分と二人の時に彼女がとる可愛いげのない言動の多くが彼女なりの照れ隠しであることに。

 耳たぶを甘噛みしながら名前を囁くと、ひくひくとうごめく彼女の肉。
 頬に掛かる甘く熱い吐息。
 「可愛い。感じたんだ?」
 「…るせ…」
 「可愛い」
 「ぅる…せ……黙らねぇと…テメエの『カワイイ』ナニ…へし折るぜ。」
 可愛いと言われ、あまり頑丈ではない彼の心がえぐられかけるが、いや、待て。そうは言いつつ明らかに感じているではないかと気
 を取り直す。
 「…気持ちいいって顔してるよ」
 「…はっ…可愛すぎて入ってるかどうかもわかんねぇ…つの」
 「はいはい」
 彼女の悪態に余裕ぶって笑いながら音を立てて耳たぶにしゃぶりつく。
 レヴィに気づかれぬよう指を局部に伸ばして二人の境界をなぞった途端彼女の身体はびくりと震え、腰が上へと引けた。
 「ゃぁっ……ゃ…ん…」
 それを許さず、身体を押さえ付けて更に深くまで自身を捩込んだ。
 「声も…可愛い………すごくいやらしい顔してる…可愛いよ…綺麗だ」
 「……っ………はぁ……あんま下らねえコトばっか抜かしてっと…てめぇのケツ、ファックすっからな……」
 「今抱かれてるのはお前だってこと、忘れないでくれよ」
 「誰が…っん…」
 可愛げの無い悪態を、唇を塞ぐことで封じる。憎まれ口ばかり叩いていたくせに、さしたる抵抗も無くロックの舌を受け入れるレヴィ
 の唇。
 自分と同じタバコの味がするのが、意味無くうれしい。
 こうやって、キスをする度、綺麗だよ、可愛いよと囁く度、身体を愛撫する度、ロックを受け入れるレヴィの下の口はきゅっと締まり、
 その熱を増す。口で言うほどロックの賛辞を嫌がっていないのだろう。
 そう思うと、次々と歯の浮くような台詞が口から出て来た。その度にしおらしくなる彼女は最高に可愛かった。


344 :名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 20:02:31 ID:WtgXu7qY
ふと、耳に入る子供の金切り声。そうだ、ここは電車の中だ、これ以上回想に耽ればただの変質者になってしまう。慌てて中吊り広告
に目を向ける。
それにしても、あんなにいい女を何故今まで抱かずにいられたのだろう。
自分の人生を180°変えた女。自身を誘拐し慣れ親しんだ日本での日常から引き離したあのヒトは、自分に新しい生き方を教えてく
れた。運命の女とすら思っている。
運命の女だが、彼女と寝たがっている男がゴマンといることを考えたならばこんな巡り会わせはラッキーとしか言いようが無い。
だが、幸運とは思えど…何も予感していなかったといえば嘘になる。
いや、予感というよりも期待と呼ぶに相応しい。更に踏み込んで言えば、一年ぶりに踏んだ祖国にやはり単に浮かれていただけなの
かもしれない。

 長期滞在中にアメニティだけでは補えない細々したものを調達するつもりで立ち寄ったコンビニ。店内を眺めるロックの目に入る、
 カラフルな箱。
 洒落た外装でごまかしはきいているが、要するに男と女が裸でナニするときに使うアレ。セイフティセックスの必需品。
 何故だかわからないが「買っておこう」と、そう思ったのだ。
 思った後に何を考えているのかと眩暈を覚えるが、この先2週間も「運命の女」と同じ部屋で寝起きするのだ、何かが起こった後に
 慌てたのではもう遅い。
 それに、日本製は質がいい。買っておいてタイに持ち帰ったっていいじゃないかと、自分を納得させる。
 レヴィが熱心に酒を選んでいるのを横目で確認し、比較的穏やかなパッケージの有名メーカー製の箱を素早く籠に放り込む。
 色気のない買い物籠の中で明らかに異質なソレ。間違ってもレヴィに見られてはならない気がして、とりあえず似たような大きさの
 入浴剤やカイロを無作為に放り込む。
 日本人相手にはバレバレのカムフラージュだが日本語の読めぬ彼女ならばこれで騙されてくれるに違いない。
 妙にそわそわしながら早々に会計を済ませる。まるで初めて成人雑誌を買う中学生のようだと自嘲せずにいられない。

 「ナンだよ、もう金払ってんのか」
 不意に背後から声がかかり、内心飛び上がらんばかりに驚いた。
 「あ、ああ…ごめん…」
 肝心のモノは既に紙袋の中。良かった、見られてはいない。
 店員からビニルの手提げを受け取るロックに「日本のビールってのはどれがウマいんだ?バドワイザーもハイネケンもありゃしねぇ」
 と、ビール選定のご要望。
 上の空のまま彼女に伴われてドリンクストッカーへ向かう。
 明らかに挙動不振な有様に、後ろから店員が蔑んで笑う声が聞こえた気がした。

345 :名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 20:04:20 ID:HqoMstPR
 我ながら滑稽だった。
 レヴィの入浴する気配だけで身体が反応し始める。
 大声で叫びながら寒空をジョギングでもしてこようか。だが、そんな不審者一発で逮捕だ、間違いない。
 気を落ち着けようとテレビをつける。
 適当にザッピングしていると、画面に大写しになる、あられもない姿で犯される女。
 音声のボリュームは絞っているのに、静かな室内に卑猥な音がやけに響く。
 思わずごくりと唾を飲み込み、慌てて頭を振ってチャンネルを地上波に変えた。
 もっともらしく報道番組に合わせるが、内容なんか頭に入るはずがない。
 画面の中の女とレヴィを重ね合わせて興奮し始める自分に、罪悪感でいっぱいだ。
 そういえば、半年前に一度だけベニーに伴われて女を買って以降、ずっとそういった色事とは無縁なのだ。つまり、溜まってる。
 いっそのこと歌舞伎町あたりで抜いて来ようか…と悶々と考えていると、背後のドアが開いた。
 丈が長めのシャツから覗く、締まった脚。半端に開いた胸元から素肌が覗く。
 何でホテルのパジャマにはズボンがついてないのだ。いつもより露出控え目のクセにエロさ割り増しなのは何故なんだ?
 何でほんのり頬が赤いんだよ…って、風呂に入ったからだよ、そうに決まってるだろ!
 頭の中で実にヘタレに叫びながらも平静を装いどうにかバスルームへ逃げ込むと、入浴剤の甘い香り。
 バスタブの湯がきっちり抜かれていることに、レヴィの警戒心を感じ取って色々な意味で落胆すると同時に、どこか変態染みた考え
 に自己嫌悪。
 だが、今レヴィの肌に吸い付けば同じ香りがするのだろうと想像し、硬さを増す愚息。
 「あー……何考えてんだよ、俺…」
 頭から、かなり温めの水のような湯を被る。
 深呼吸して気を落ち着けようと試みるも、どうにも静まらない。
 どうやら、文字通り一発抜かないと収まりはつかないだろう。
 「…はぁ…」
 侘しいが仕方がない。日本に着くなりサカって軽蔑されるより遥かにマシだ。
 どうせシャワーの音でバレやしない。
 自ら慰めながら頭の中でレヴィを犯す。
 キスをして、ベッドの上で身体中を撫で回し、乳房に顔を埋める。
 レヴィの舌が自分のモノを這い回り、硬くなったそれを咽の奥まで突き入れる。
 だが、妄想がエスカレートするほど、昔見たAVをそのまま重ねているだけであることに気付き…。
 吐き出したモノが排水溝に吸い込まれるのを眺めながら、この衝動がレヴィが欲しいがためのものなのか、それともただのつまらな
 い性欲でしか無いのか、さっぱり解らなくなっていた。

 レヴィは可愛い。
 けれどガラが悪い。品が無い。ファッションセンスだって絶望的。
 日本に来て真っ先にしたことは、故郷の空気に懐かしさを感じることではなく、彼女に服を買い与えることだった。
 だって仕方ない。空港への行きがけに寄ったサイアムで彼女が調達した冬服は趣味の悪いスカジャン(しかもピンクだ!)と
 「Kiss my ass」とプリントされたケミカルジーンズで、そんなファッションのレヴィは日本の町並みで明らかに浮いていたのだから。
 何か用意してやらなければ、一緒に歩くのは途方も無く恥ずかしかった。
 「悪目立ち出来ないのだから、日本のストリートファッションに合わせよう」とどうにか言いくるめ、適当に入った店のマネキンが着て
 いた服一式に着替えさせると、…見違えるほどに可愛くなった。
 そう、可愛いのだ。ものすごく。
 普段の粗野な言動では霞んでしまうが、見知らぬ地で一人立っていればナンパもされる。不機嫌な低い声で返答すると、逃げて行
 ってしまうのは、彼女の迫力か相手の英語力の乏しさかは判らないが。
 寒そうに手に息を吹きかける様は、どこか幼くて可愛くて、カイロ(避妊具と一緒に買ったアレだ)を与えて使い方を教えてやれば、
 やけに感心した顔で嬉しそうに両手を暖めていて、そんなロアナプラではありえないほどコロコロ変わる表情が普通の女の子みた
 いで本当に可愛くて、一緒にいるのが楽しくて、買った経緯を思い出すとたまらなく後ろめたかった。
 ヤクザとの会合の最中に若い連中の下卑た視線を受けていたのも知っている。そんな視線に…何故だか自分まで不快になった。
 「いい女」を抱きたいと思うことを悪いとは思わないが、こんな『普通の女の子』にしか見えないレヴィがそんな視線に晒されることが
 許せず、仕事中にも関わらず周りに敵意が芽生える。だが、ならば自分は違うのか?自分はもっと高尚なことを考えているのかと、
 ふと思い直した。

346 :名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 20:05:58 ID:HqoMstPR
 同じだ。
 結局ハダカに剥いて、レヴィの呼ぶところの「ファック」をしたいと、そう思っている。まったくもって他の連中と違わない。
 だから、寒さを言い訳に夜着を買い与えた。
 出来るだけ体型の隠れる色気の無いもの。
 そうでもしないと後先構わずに迫ってしまいそうな自分が嫌だった。







 よこしまなことを考えぬよう睨みつけるテレビの画面は、前の晩の爆破事件を映し出していた。
 辛気臭い老人キャスターの隣に座って訳知り顔で「背後関係」を語る解説者。ただのヤクザ同士の抗争と、そう思っているらしき口
 ぶり。
 まさか、旧ソ連軍の亡霊の仕業であるとは、ご両人とも露ほども想像していないのだろう。

 歌舞伎町。学生時代の飲み会に始まり、社会人になってからも何度も足を運んだよく知る歓楽街。
 レヴィを伴い歩いていたって、「学祭の打ち上げで来た店だ」とか「ここのコースは最悪だった」とか「ここは生演奏を聴かせてくれる
 んだよな」とか「飲み過ぎてそこの電柱に吐いたヤツがいたな、何て言ったっけ…斎藤だっけ…?」とか。
 そんな些細な記憶が次々と蘇った。平和に生きていた日常の一コマ。そんな、恐らくは大いに美化された記憶に上書きされるきな
 臭い現実。日本で生きていれば「物騒な世の中になったものだ」と社交辞令で語り合い、当分歓楽街を避けるかもしれないし、避
 けないかもしれないが、どちらにせよ自分が当事者になることなど露ほども想像しなかっただろう。
 だが、今テレビを眺める自分は紛れも無い当事者。それも、きな臭いコトを起こした側の、だ。
 敵対する勢力を謀殺するなど、深酒した酔っ払いが歌舞伎町の路地裏でゲロを吐き散らすくらいに当たり前の日常を生きている自
 分。それでもここは、ヤクザの事務所に銃弾一発ぶち込まれただけで全国ニュースになる国。銃声がBGMのロアナプラとはわけが
 違う。とは言え、この程度はホテルモスクワにとって稚戯に等しいことも知っている。事実、コトを起こした翌日にバラライカは何食わ
 ぬ顔で銀座でショッピングに興じ 自分もそれに同行した。合間にロシア語で交わされていた会話が今後の破壊行動に関わるもの
 であることも想像に難くない。
 複雑だった。自分がいてもいなくても、もたらされたであろう結果は変わらない。それでもだ。


 浴室から出て来たレヴィに声をかけようか一瞬考え、晴れない気持ちを持て余したまま他人と会話をするのが何となく億劫で、その
 まま目の前の画面を凝視し続けた。それに、何を話せばいいのかも思い付かない。
 視界の外でため息を吐いたレヴィは、おもむろにロックのくつろぐベッドに寄り添うように腰をかけ、日本語のニュースに目を向ける。
 言葉の解らぬ彼女でも、単語の断片と映像で、何を話題にしているかは読み取れるだろう。ますます会話の糸口がわからなくなる。
 考えてみれば、今日の買い物の話でもしていれば、それでよかったのだ。レヴィからふんわりと香る入浴剤とシャンプーの香り。
 頼むからそんなに近寄らないでくれ。
 ロックは必死に念じる。何のためにそんな色気の無いパジャマを買ってやったと思っているのだ。
 腕に押し付けられる柔らかな乳房の感触。甘やかな香りが一層強烈に鼻をくすぐる。彼女を一瞥ともしていないのにいきり立ってし
 まいそうな自身に哀しくなった。
 画面がCMへと切り替わる。
 その刹那、レヴィの身体が翻り、ロックに馬乗りになった。


347 :名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 20:10:23 ID:HqoMstPR
 何が起きたか理解するより早く、ロックが考えたこと。それは、自分の選んだレヴィの夜着のチョイスは間違いであり、そして大正解
 でもあるということ。
 一言で言えば、そう、「可愛い」のだ。やたらともこもこしたシルエット、シンプルだが襟と裾に小さなレースが着いた控え目で少女趣
 味なデザイン。そんな身体の上に少し湿った髪を下ろし、桜色の頬で艶の増した顔が乗っている。しかもいい匂い。そんな生き物
 が自分の腰に跨がっているのだ、勃つなという方が無理だ。
 ああ、変な気を回さずにジャージとトレーナーでも買い与えておけばよかった。今の自分ではそれでも欲情しかねないが。
 レヴィの顔が近付いてくる。射抜くほどに真っすぐな視線。もしかしなくても「誘われて」いる。だが、このままなし崩しでいいのか?
 今はいわゆるアンニュイな状態だ。鬱屈している。性欲だって溜まってる。とは言えこ のまま勢いだけで抱くには、レヴィという女
 はあまりに近すぎる。
 ロックの頭の中で、一瞬のうちに様々なことが駆け巡る。目の前の柔らかな身体を抱いたら気持ちいいだろうとか、改めて見るとい
 い女だよなぁスタイルだっていいし…とか、わざわざ日本まで着いて来てこんな風に誘ってくるからには彼女だって満更でもないの
 ではないか?とか。
 だが、自分には彼女を抱くほどの覚悟が無い。覚悟も無く感傷と惰性で抱いていいほど生半可な女では無い。
 隠し切れぬほどに膨らんだオスに押し付けられる彼女の股間。互いの纏う幾枚かの布の向こうに、彼女の秘めたる場所がある。
 考えただけで流されそうだった。
 「レ…レヴィ…。…風呂、入って来る…」
 唇が触れる刹那、咄嗟に出て来たセリフがこれだった。
 「…え…?」
 唖然とする彼女の肩をぐいと押し返し、ベッドを降りる。あらかじめ用意していた着替えをひっ掴んで一直線に浴室へと逃げ込んだ。
 だが、一人になって一息ついたところで、たまらなく後悔が押し寄せる。もっと他の言い方があったのではないか。あれでは彼女に
 恥をかかせただけではないか。最悪だ。
 彼女とそうなることを予感して買ってしまった避妊具。だが、目の前にその機会が転がってくると尻込みしてしまう自分。
 悪者になりたくないだけなのだ。レヴィが忌み嫌う、彼女をファックしたがっているだけの連中と同じになるまいと、触れることすら憚
 っている。
 彼にとっての命題は至極シンプルだ。
 つまり、性欲さえ満たされれば他の女でもいいのか、それともレヴィでなければ駄目なのか。たったそれだけ。なのに、答えは出な
 い。
 レヴィに謝らなければ。だが、何を?女の子にあそこまでさせて逃げたこと?だが、きっと彼女は単なる謝罪が欲しいとは思ってい
 ないだろう。自分だって人並みの性欲くらいあるし、レヴィにそそられている。なら、今 から仕切り直すか?だが、女を抱いて吐き
 出したいだけならばデリヘルに電話をかけた方がマシだ。ていうか、俺、どうして悩んでるんだ?あんなイイ女に誘われたならヤっ
 ちゃえばいいんだよなぁ、普通に考えれば 誰だってそうするだろ。やっぱりそうだよなぁ、抱いたからって俺は悪く無いよなぁ、いい
 悪いの問題じゃないけど。
 「あー…ヤリてぇ…」
 自問自答するうちに無意識にぽつりと呟き、愕然とする。そう、この「ヤリたい」って衝動だけでレヴィと寝るのが嫌なんだ。排泄行
 為の受け皿にしたいだけだろ。そんなのだめだ。どうして?プロ相手ならいいってのか? そうさ、レヴィは大切だから。いや待て、
 大切だというなら、女を抱く理由になるのではないか?いや、だからそういう問題じゃない。思考が何度も同じところをぐるぐる回る。
 もう明日は実家なんか訪ねずに90分無制限の店にでも行った方がいいのではないか。それでもレヴィを前に我慢ならないような
 ら腹を括ろう。って、問題は今この時をどうするか、だって…。
 結局何の決心もつかぬまま戻ったところで、そんなロックがレヴィに手を出せるはずもなく、そのまま朝を迎える。そんな夜を繰り
 返した後の秘め事だったのだから、ロックが夢中になってしまうのも無理からぬ話であった。

348 :名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 20:11:21 ID:HqoMstPR
雪の電気街を安物のビニル傘をさして歩き回りながら、レヴィに何か土産でも買っていこうとロックはきょろきょろと辺りを見回す。
映画のソフトだろうか。
だが、彼女が映画好きと知ってはいても、いまいち好みを把握していないし、鑑賞済みのものをプレゼントしてもつまらない。
古臭いカセットプレイヤーを使い続ける彼女を思い出し、MDプレイヤーだろうかと中りをつける。
だがしかし、サイアムのソニー直営店の前で買い換えろよと冷やかした時に、「いらねーよ、録り直すのもかったりーし」と興味なさそ
うにそっぽを向かれたことも同時に思い出した。
デジタルカメラなんて喜ぶとは思えないし、気楽に受け取って貰うには少し高すぎる。
昨晩あんなに何度も交わったのに、彼女が喜ぶものが解らない。
雪が酷くなってきた。この街の脆弱な交通網が止まってしまう前に帰らなければ。いや、その前に一服したいところだが、さっき最後
の一本を吸ってしまった。そういえばレヴィの煙草も残り少なかったような気がする。ならば思い出した時に彼女と自分の分の煙草を
調達しようとコンビニに立ち寄ったロックの目に、限定パッケージのリップクリーム。
そういえば、彼女のキスは微かに血の味がした。乾燥で割れてしまったのかもしれない。 とりあえず今日はこれでいいかと、陳列さ
れたそれを手早く取り、何となく店内を一周する彼が無意識に探してしまう、男女の営みの必需品。昨晩夢中になりすぎたおかげで、
残りはあと2つしかないのだから、買い足さなくては今夜の分は足りないと…そんな不埒なことを考える。
彼の命題は解決したように思えた。決して多くは無い経験ではあるが、それでもあんなに相手を欲したのは初めての体験だ。
他の女相手では、ああまで見境無く盛ったりはしなかったろう。
何だか憑き物が落ちたような気分だった。それ故に、重苦しい雲の下妙に晴々した気分で、恐らく今夜も色っぽい事になるであろう女
の機嫌を取ることばかり考える。そういえばカトラスを取り寄せるように言われていたっけと思い出す。
だが、肝心のレヴィが臍を曲げる前に早く帰らなければと逸る気持ちとは裏腹に、無情にも限界を迎える首都交通。
情報を待ちながらかけた、買い物の報告とレヴィの硬く冷たい相棒を取り寄せる国際電話。遠い空の向こうの同僚との穏やかならざ
る会話を終えたロックが『彼女』と再会したのは、その電話を切って一息も吐かぬうちだった。



父はテキ屋だと語った少女。その意味を察することが出来ないほどロックは世間知らずではなかった。加えて彼女を「お嬢」と呼び
付き添っていた長身の男。どんなに世間知らずでも、彼が所謂堅気の人間ではないこと位は容易に察しがつく。早い話、彼女がヤク
ザと呼ばれる人間と浅からぬ関わりがあるということ、更に言えば幹部の令嬢であるということ。その程度は縁日の時点で理解してい
るつもりだった。

『バンドウサン』
彼女の口が呼ぶ聞き覚えのある名前。
よくある名前。決して珍しくなどない。
自らにそう言い聞かせるロックの希望を嘲笑うように…少女は自らを鷲峰と名乗った。

自らの甘さを痛感した。
ヤクザの娘だというのならば、狭い世界での話、今回の件に何らかの関わりがあっても不思議ではない。今のところ鷲峰組とは協力
関係にあるが、ホテルモスクワの過激なやり口に鷲峰の若頭が警戒心を示したことはロックとて把握している。
バラライカがそれを不快に思っていることも。
そして、敵対した相手への彼女の絶対零度の非情さも、ロックは理解しているつもりだった。
昨晩自分を暴行した若い男の存在を思うと、組は一枚岩とは言い難い。それどころか、レヴィはあの男に明らかな殺意を抱き、それを
知っていながら自分はたった今彼女の愛銃の密輸を手配したばかりだ。
残念ながら、このままでは鷲峰組が平穏無事に春を迎える可能性は絶望的に、低い。

349 :名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 20:13:08 ID:HqoMstPR
先程までの浮かれ気分が嘘のように陰鬱だった。浮かれている場合ではなかったのだ。少女と別れた喫茶店から、歩いてホテルを目
指した。一人で考える時間が欲しかった。遠いように思えた距離は呆気ないほどに短くて、ロアナプラでは普通に歩く程度の距離であ
ることを思い出す。
考える時間が、足りない。何を考えるべきかも解らないが、裏社会の人間同士の出来事だと思って傍観していたそれに、あんなに普
通の少女が巻き込まれてしまうのは納得が出来ない。
その片棒の一部が自分であることも、やりきれない。

こんな感傷、レヴィに言えば馬鹿にしたように笑うだろう。だから、さっきまであんなに会いたかった女なのに、何となく帰る気になれず、
結局戻ったのは8時を過ぎた頃。きっと腹を空かせている。それともジャンクフードでも食べながら洋画でも見ているかもしれない。
どちらにせよ何らかの制裁を覚悟して入った部屋は、予想に反して真っ暗で、奥から聞こえて来たのは押し殺したような鳴咽だった。


後悔した。
昨晩、倒れた彼女と関係を持ったことを。
朝、照れのあまりろくに会話もせずに彼女を置いて部屋を出たことを。
さっき、ホテルにたどり着いた時点で戻らなかったことを。
明かりを点したロックの目の前には、ベッドと壁のわずかな隙間で目を真っ赤にして泣き腫らしているレヴィの姿があった。








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