7 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:38:24 ID:XlES7GZa


その日、ロックがラグーン商会に出勤してみると、事務所には先にレヴィが来ていた。
少し早めに着いたからまだ誰もいないだろうと思っていたのに、これは予想外だった。
特にレヴィはいつも始業時間ぎりぎりにやって来る。
「おはよう。今日は早いな」
窓際でこちらに背を向けているレヴィに声をかけると、
「おぅ」
彼女は肩越しに振り返った。
「ロック」
「ん?」
「やる」
レヴィが言うと同時に飛んできた物を、ロックは辛うじて受け止めた。
「――っと! 投げるなよ……。で、なにこれ?」
「開けてみりゃ分かるだろ」
普段のぶっきらぼうに輪をかけた無愛想さだったが、
レヴィが投げて寄越した物は両手に収まるぐらいの小箱で、
落ち着いた茶色の箱にブルーのリボンがかかっている。
どう見ても、贈り物。
ロックは不思議に思いながらも、光沢のあるサテンのリボンを、ゆっくりと引っ張ってほどいた。
そして、蓋を開ける。

「……チョコレート? なんでまた」
小箱の中に行儀良く収まっていたのは、小さなチョコレートたち。
甘いカカオの匂いがほのかに漂う。
チョコレートなど最近とんとお目にかかっていないのに加え、
まさかレヴィから渡されるとは思ってもいなかったので、ロックは首をひねる。
レヴィは、こちらには視線を合わせようともせず、ぞんざいに言った。
「下っ端のあんたにもくれてやるんだ。有り難く思え」
「あー、そういえば今日ってバレンタインデー……?」
遅まきながら本日の日付をカレンダーで確認すると、レヴィが軽く眉を寄せて睨んできた。
「か、勘違いすんなよ。同僚としてのコミュニケーションの円滑化、ってヤツだ」
「はは、義理チョコか。そんなの日本だけの習慣かと思ってたよ」
「フン、じゃなかったら誰があんたになんかやるか」
レヴィは腕を組んで、また、ぷい、とあらぬ方を向いた。


8 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:40:06 ID:XlES7GZa

義理だろうと何だろうと、他ならぬ彼女からの贈り物だ。
ロックはソファーに腰を落ち着け、しげしげとそれ見つめた。
一粒ずつ味が違うのだろう、微妙に茶色の濃さが違ったり、
トッピングや造形が違ったりする端正な粒が並んでいる。
「あれ、これ、フランスのメゾンじゃないか。よく手に入ったな」
一緒に入っていたメゾンの小さなカードには、フランス語。
チョコレートには詳しくなかったが、
そんなロックでも、それが高級なものだということくらいは分かる。
ここタイでは、バンコクの大きなデパートにでも行かないと手に入れることは出来ないだろう。
「あ? 作った野郎のことなんて知るか」
ロックとは少し間を置いてソファーの隣に腰掛けたレヴィが、
煙草を取り出して口にくわえながらボソボソと言った。
「高かったろ」
「覚えてねぇ」
レヴィはまともに取り合おうともせず、ライターで煙草に火をつけた。

ロックは箱の中の一粒をつまみ出し、口に入れる。
すぐに舌の上で溶け出すチョコレートに歯を立てると、
中には外側とは別の、ペースト状のものが入っていた。
ナッツのような味のする、なめらかな舌触り。
甘いことは甘いが、カカオのほろ苦さと混ざって、すぅっと舌の上でなじんでゆく。
後に残るべとついた甘さは無く、意外にすっきりとした後味。

「――うまいよ」
「そりゃ良かったな」
脚を組んでくぐもった返事をするレヴィに、ロックは箱を差し出した。
「レヴィもひとつ、どう?」
「いらねぇ。そんなクソ甘いもん食ってられるか。あたしは酒のがいいね」
レヴィはそっけなく言って、
二本の指で煙草をはさみ、大きく煙を吐き出したかと思うと、腰を上げて行ってしまった。


9 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:41:02 ID:XlES7GZa

「今日は暇だな……」
夕方の事務所に、ロックの呟きが漂った。
その言葉に目線を上げたダッチは、
同じように暇を持て余して映画雑誌を眺めているベニーの方もちらりと見た。
「ちょっと早いが、レヴィが帰ってきたら今日は店じまいとするか」
買い出しに出かけた彼女を手持ちぶさたで待つ男衆に、異論などあるわけがない。
「それはありがたいな。気の利く雇用主で助かる」
ベニーが嬉しそうに雑誌から顔を上げた。
ダッチは片頬でにやりと笑う。
「恋人からのプレゼントまでは用意してやれんがな」
「そいつは世話してもらうまでもないな」
「言うじゃねぇか」
気安く言葉を交わす二人の会話から「プレゼント」の単語が耳に入ってきて、
ロックは不意にちょっとした疑問を思い出した。

「そういえば、ここにも義理チョコの慣習ってあったんだね」
思い出したままにそれを口に出すと、ダッチとベニーが怪訝な顔でロックを見た。
「……?」
「……?」
三人の間に沈黙が落ちる。
「――義理……、チョコ。だと……?」
ダッチがロックを凝視しながら、低い声を絞り出した。
「? 日頃世話になってる仲間とかに渡すアレだよ」
ここではそういう言い方はしないのか、と思って説明を加えると、
ダッチはふいとベニーの方へ視線を戻した。
「……ベニーボーイ、教えてくれ、いつからここにそういう慣習ができた?」
「奇遇だな、ダッチ。僕も今それを君に訊こうとしてたとこだ」
「……え? だってレヴィが――――」
事態がよく飲み込めないままに発したロックの言葉は、ガチャリ、と開いたドアで遮られた。


「帰ったぜー……。――――って、なんだよ。あたしの顔になんかついてるか?」
ドアの陰から現れたのは、大荷物を抱えたレヴィ。
彼女の顔に、三人の男の視線が集中した。
言葉もなく呆けた顔をしてレヴィを凝視する三人に、彼女は訝しげな顔をしてドアを閉める。
レヴィは、それぞれの顔を順繰りにうかがう。
三人に無言でじっと見られたのでは、誰だって良い気分はしない。
レヴィの眉が、顰められた。
そんな彼女の不審に答えたのは、硬直から一番最初に立ち直ったベニーだった。
「…………いや、僕らが知らなかった慣習について、ロックから教えてもらってたとこさ」
普段と変わらない、穏和な口振り。
「…………?」
意味が分からない、とレヴィの眉間の皺が更に深くなり、小首が傾げられた。
そんなレヴィの理解を促すように、ダッチが続いた。
「レヴィ、俺は雇用者同士の仲が良好で嬉しいぜ」
暫くの間。
本当に訳が分からない、という風だったレヴィの顔が、ハッと変わった。
目が大きく見開かれ、見る間に首まで真っ赤になる。
「――――――――!! ロォォォォォォック!!! てめなにぬかした!?」
レヴィは抱えていた荷物を放り出すと、鬼の形相でロックに詰め寄ってきた。
「いやっ、俺は何も――っ!」
真正面から、ぐいと胸元を掴み上げられ、そのまま掌で口を塞がれる。
「ふざけんなクソ馬鹿ロック! それ以上一言でも喋ったら殺す! くたばれこの野郎!」

ぎゅうぎゅう締め上げるレヴィと、目を白黒させるロック。
そんな二人の応酬が、すっかり事情を理解したダッチとベニーを楽しませたことは、言うまでもない。


10 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:41:49 ID:XlES7GZa

 * * *

さて、レヴィがその小さな騒動の元凶となったチョコレートを手に入れるに至ったのは、
今から数日遡ったある日。
レヴィが所用で暴力教会を訪れた時のことである。

「レヴィ」
レヴィが教会の前庭を横切っていると、
礼拝堂の入り口でにやにやと不気味な笑いを浮かべて立っているエダに呼び止められた。
悪い顔だ。
この上なく不吉な顔だ。
この顔を見ただけで、もう悪い予感しかしない。
レヴィの頭の中では、アラームがけたたましく鳴り響いた。
「……んだよ」
警戒感を剥き出しにしたレヴィに、エダは立てた人差し指でちょいちょいと招く。
「いいもんやるよ。ちょっとこっち来い」
レヴィの返事も聞かずに、エダは背中を向けて礼拝堂の中へ歩いていく。
「あー? 何だってんだよ。てめぇがそんな顔してる時は大抵ろくなことねェんだ」
しかし、エダはそんなレヴィの文句など歯牙にもかけない。
「いいからとっととついて来な」
「……ったく――」
甘く見られている、とは思うものの、
あのクソ尼が何を企んでいるのか知るには大人しくついて行くしかない、と諦め、
レヴィはのろのろとエダの後を追った。


11 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:43:15 ID:XlES7GZa

「で? なんだよ」
椅子の背を前にして両腕を乗せ、跨るように座ったレヴィに、
祭壇を挟んで向かい合ったエダは、ずい、と小箱を差し出した。
「これをお前にやる」
「はぁー? なんだこれ」
目の前に出された勢いにつられてつい受け取ってしまった小箱は、
やけに品が良く、ご丁寧につやつやしたリボンまでかかっていた。
「チョコレートだよ。M.O.F賞とったパティシエの逸品だ。特別に仕入れてやった」
頼んだ覚えも無いのに、エダは恩着せがましい。
「なんだ突然。興味ねェよ、んなもん」
「お前の興味なんか関係ねェ。お前がこいつを食うなんざ豚に真珠だ」
「……んだと?」
聞き捨てならないセリフにレヴィは睨みをきかせたが、エダは人の悪い笑みを崩さない。

「おっと、怒るのはまだ早いぜぇ。食うのはロックだ」
「……は?」
予想外の方向に話がずれて、レヴィの寄せられた眉は、一気に開いた。
「だから、お前がこいつをロックにやるんだよ」
「冗談言うな。なんであたしが」
「なぁに言ってんだよぅ、もうすぐ2月14日だろ?」
「2月14日? その日がどうした」
話の流れを理解しないレヴィに苛立ったように、エダはバンと平手で祭壇を叩いた。
「バレンタインデーだろうが! 
お前な、2月14日は『血のバレンタイン』だけの日じゃねーんだぞ」
「バレンタインデーだぁ? はッ! 
アル・カポネがバッグズ・モランの奴等をぶっ殺したか、
出刃亀のじじいがお節介焼いてローマ皇帝にぶっ殺されたか、
どっちにしたって大して変わらねェだろ」
何を言い出すのだこの女は、とレヴィが一蹴しようとすると、
エダは、全く嘆かわしい、といった様子で溜息をついた。
「……お前って奴はどうしてそんなに色気がねェんだ!
世間では、この日は愛の誓いの日ってことになってるはずなんだがねぇ!」
レヴィは耳を疑った。
この女の口から「愛」だの何だの聞く日が来ようとは、露ほども思っていなかった。
寝ぼけた事を言っているのは、エダの方だ。
絶対に、エダの方だ。
レヴィは、フン、と思い切り鼻で笑いとばした。

「だとしたって、あたしに関係あるか。そんなめでてぇお遊びにゃ縁がねェな」
「――ああ、そうだろうよ? お前のは『お遊び』なんかじゃねェんだよな、レヴィ?」
下世話な色を滲ませるエダに、レヴィは更に不愉快な気分になる。
「……ヘイ、エダ。おちょくんのもいい加減にしな。
なんであたしがロックにチョコレートなんかやらなきゃいけねェんだよ!
大体バレンタインなんて、男が女に渡すのが普通だろ!」
女からなんて聞いたことねぇ、と顔を背けて床を睨みつけると、
ヒュウ、とエダの高い口笛が響いた。
「顔が真っ赤だぜ、エテ公。猿のくせに随分乙女思考じゃねェか。あぁん?
――待て! 殴んな、バカ! 誰も、口移しでくれてやれとは言ってねェだろ」
「――ったり前だ!」
今にも祭壇を乗り越えんばかりのレヴィを目の前にしても、
エダは人を小馬鹿にした笑みを引っ込めない。
「良いこと教えてやろうか? 
日本でバレンタインデーといやぁ、女が男にプレゼントを渡すのが普通なんだぜ?
お前、ロックから貰うの悠長に待ってたら、石の下だぞ」
「別に待ってねェよ! いらねェし、やらねえ!」
「あー、もぅ、うるっせェな。叫ぶな黙れ。いいか、重要なのはこっからだぜ。よく聞けよ。
バレンタインデーっつーのは、何も恋人のことで頭が一杯の脳味噌煮えた奴等だけのモンじゃない」
エダは楽しそうに声をひそめる。
サングラスの奥の目が細められた。

12 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:44:21 ID:XlES7GZa

「日本にはな、『義理チョコ』って習慣がある」
「『義理』……?」
聞き慣れない言葉にレヴィが問い返すと、エダはしたり顔で大きく頷いた。
「女が、日頃世話になってる男に感謝の気持ちでチョコレートを渡す、儀礼的虚構だ」
「――なんだそりゃ。暇な奴等だな。理解できねェ」
「……それはまったくだが、てめぇが理解する必要はねェんだよ。ロックはその習慣の中で育った」
「…………」
「それで十分じゃねぇか? ん?」
エダは覗き込むようにレヴィの顔を見る。

「でもよ……」
「だぁーっ、お前ロックにゃいつも世話になってんだろ!?」
「そりゃまぁ、時々は……」
「時々ぃ? 昨夜だって酔っぱらったお前を家まで送ってくれたんだろうが!」
「あれは――」
「あ? 毎日毎日ツルんでてよ、毎晩泊まり合ってるくせに、『時々』だと? 死ね」
「………………毎晩じゃねェよ」
この『尼』とは到底思えぬ女の無駄な目敏さに、レヴィはうめいた。
「んなこたどうでもいい。頻度を訊いてるわけじゃねェんだよ。
お前がどうしても言いたいっつーんなら聞いてやってもいいがよ。ん?
毎晩じゃねェなら週に何回だ? あ? ほれ、言ってみ?
レヴェッカちゃんは何回彼をお部屋に泊めてあげたのかなー? 
お部屋で何してるんですかー? 
お姉さんに教えてごらーん?」
エダは下から覗き込むようにしてレヴィを見上げる。

レヴィの拳はふるふると震えてきた。
腹立たしいことこの上ない。
「……っざッけんじゃねーぞ、エダ! その舌引っこ抜いて鳥に食わせんぞ!」
がたん、と椅子を蹴倒してレヴィは立ち上がったが、
「やかましい。ま、その意気だ。いいな、しっかりやれよ」
一言で切り捨たエダは、椅子から腰を上げて踵を返し、片手をひらひらさせて去って行った。
「……お、おう……」
後には、レヴィのすっかり気勢をそがれた呟きだけが、礼拝堂の中に小さく響いた。


13 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:45:29 ID:XlES7GZa

 * * *

そんなこんなで、レヴィが手に入れたチョコレートは、ロックの元へと渡った。
しかし。

――最悪だ……。
事務所での一騒動の後、逃げるように一人で自分の部屋に帰ってきたレヴィは、
がっくりと盛大な溜息をついた。
ダッチとベニーにバレただけでなく、ロックにも、他の二人に渡してなどいないことがバレた。
せっかく二人がいない時を見計らって上手いこと渡せたと思ったのに。
やはり、事務所で渡すというのは選択を誤っただろうか?
けれど、業務後に改めて呼び止めたり、部屋まで訊ねて行ったりなどしたら、
そちらの方がよっぽど意味深ではないか。
業務後だと、誰かに見られる可能性も高い。
となると、ここはダッチやベニーにも渡しておくべきだったか?
いやいや、あの二人のバレンタインデーに対する認識はアメリカン・スタンダードだ。
チョコレートなぞ渡そうものなら、
にっこり笑ってピンを抜いた手榴弾をプレゼントするより驚かれるに決まっている。
聞かれてもいないのに、「訳ありですよ」と言っているも同然。
それこそ、自ら火をおこして煙を立てるようなものだ。

――チクショウ、どうすりゃ良かったってんだ……。
レヴィはとりあえず椅子に腰を落ち着け、ぐるぐると頭を巡らせたが、今更どうしようもない。
自分が男にプレゼント、しかもバレンタインデーにチョコレートだなど、笑い物もいいところだ。
ロックだって、気楽な儀礼なら笑って受け取れるだろうが、そうではなかったとしたら。
――引く。
自慢ではないが、レヴィは、
その手の贈り物が似合わないことにかけては自分の右に出る女はいない、と思っている。
そんな女から半ば本気で渡されたなどということを知ったら、
太平洋の遙か彼方まで引くに決まっている。
ただの仕事仲間というには、少々一線を踏み越え過ぎてはいるものの、
愛の誓いの日だかなんだか知らないが、バレンタインデーなどというふざけた日に
プレゼントを贈るような間柄ではないのだ、自分達は。
ああ、やっぱりあの腐れ尼の口車などに乗せられるべきではなかった。
きっと、あの悪魔のような女は、ここまで見越して持ち掛けたのに違いない。
なぜあの時、自分は小箱を受け取ってしまったのだろう。
レヴィは、はあぁ、とまた大きく後悔を滲ませた溜息をつくと、目の前の木机に突っ伏した。

14 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:47:15 ID:XlES7GZa

机の上に伸ばした腕に頬をのせ、もう今日は酒でも呑んで寝てしまおうか、
とレヴィが現実逃避に入ろうとした時、部屋のドアがノックされた。
軽く二度、ノックされるその音。
いつもの――、
「……レヴィ? いる?」
ロックの訪問を、告げる音。
普段ならば少なからず心を浮き立たせる音も、今は厄介事が到来した音でしかなかった。
一体ロックは何をしに来たというのだろう。
あのプレゼントの真意を問い質す為か?
レヴィの眉間に皺が寄った。

――どうしよう、何と言って誤魔化す?
しかし、レヴィの動揺した頭に、上手い言い訳は思い浮かばなかった。
再度、ドアが二回、ノックされる。
もう居留守をつかってしまおうか?
レヴィがそう思った時、ドアの外でロックの声がした。
「レヴィ、いるんだろ?」
外は暗く、部屋には明かりがついている。
レヴィが室内にいることなど、一目瞭然だ。
レヴィは口の中で小さく舌打ちすると、諦めて立ち上がり、ドアを開けた。


ドアの向こうには、ほっとしたような顔で微笑するロックがいた。
「なんだよ」
ロックの顔をまともに見られず、レヴィの言葉は必要以上に無愛想なものとなった。
「あの、ちょっとレヴィに用があって。……入っても、いいかな」
廊下に筒抜けのまま話をするわけにもいかない。
レヴィは身体を引いて彼を招き入れた。
扉を閉め、さてどうしようか、とレヴィが視線をさまよわせていると、ロックが先んじた。
「あのさ、さっきのチョコレートだけど――」
「あー! あれな!」
やはりそれか、とレヴィは慌ててロックの言葉を上から塗りつぶした。
「ま、あれは、なんだ、忘れろ! 大した意味はねェから! 
その、たまたまあたしの手に渡ってきたんだけどよ、あたしはチョコレートとか食わねぇから、さ!」

「レヴィ」
やけに静かな声が、レヴィの上から降ってきた。
「なんで、『忘れろ』なんだよ」
「それは――」
「俺は、お礼を言いに来たんだけど」
瞬間的に頬が熱くなって、レヴィは顔を上げられなくなった。
「さっき、ちゃんとお礼言ってなかったから」
――ありがとう。
穏やかな声が落ちてきて、ロックの掌がレヴィの頭にのせられた。
礼を言われるのは、慣れていない。
何と返していいのか分からず、レヴィは無言で小刻みに二度、頷いた。

15 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:48:08 ID:XlES7GZa

「あと――レヴィは、チョコレート、嫌い?」
不意にロックの声の調子が変わって、いつもの気安いものとなったが、
質問の意図が掴めずにレヴィは首を捻った。
チョコレートなど特に好きでもないが、積極的に「嫌い」という程でもない。
「いや、俺もチョコレートはあんまり食べなかったんだけど、さ……」
ロックは、手に持っていた大きめの紙袋をごそごそとまさぐって、
今朝レヴィが渡した小箱を取り出した。
「これ、うまかったから。レヴィが嫌いじゃなければ、一緒に食べようと思って」
レヴィがもう二度と見たくもないと思った茶色い箱を、ロックは開ける。
「レヴィ、これ、食べたことある?」
「ねぇよ、んなもん。あたしはハーシーズ止まりだ」
チョコレートといえば、子供の頃、中にねっとりとしたヌガーが入ったような、
喉が焼ける程に甘いものしか食べたことが無かった。
「俺も無かった。甘い物はそんなに得意じゃないんだ。でもこれは、ほんとにうまいと思ったから。
うまいものは、一人で食べるより二人で味わった方が、よりうまいだろ?」
そう言って、ロックは箱を差し出す。

そんなに言うのなら、とレヴィは小さな粒のひとつに指を伸ばし、つまみ上げた。
指先の温度ですぐに溶けそうなそれを、口へと運ぶ。
チョコレートは、舌に触れた途端、とろりと溶けだした。
驚くほどなめらかな舌触り。
深いカカオの味がレヴィの口の中に広がった。
昔、臭く汚い路地裏で、
ただエネルギーを補給するためだけに口にしたものと同じ種類の菓子だとは思えなかった。
「どう?」
「――悪くねェな」
口の中にチョコレートを入れたままレヴィが肩をすくめてみせると、ロックは満足そうに頷いた。


16 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:49:25 ID:XlES7GZa

そして、
「味見」
そう言ったかと思うと、ロックは片手でレヴィの顎をとらえ、唇を重ねた。
レヴィの唇の隙間から入り込んできた舌は、表面が溶けて角のとれたチョコレートに寄せられた。
二人分の熱に絡め取られたチョコレートは、いっそう柔らかにとろけていった。
二人の舌に、ほろ苦いカカオが甘く絡まる。
チョコレートのかたまりが、急速に小さくなっていった。
レヴィの舌の上で溶けて液体となったチョコレートを絡め取ると、ロックは舌を引き抜いた。
片手に持っていた小箱を、側にあったテーブルの上へ置く。
それから、ゆるりとレヴィの腰に両手をまわし、レヴィの耳元で低く言った。
「噛んで」
多分、中身は外側と味が違うと思うから。
レヴィが口の中のかたまりに歯を立てると、確かに、ロックの言った通り、内側からは別の味がした。
「何の味だった?」
「……ラム・レーズン」
「へえ?」
「――確かめる、か?」

ロックは頷くより先に、また唇を寄せた。
カカオにラム・レーズンの味が混ざったレヴィの口腔内に、ロックの舌が滑りこんでくる。
小さなふたつのかたまりになっていたチョコレートが、ロックの舌で転がされた。
さっきまで小箱の中でつめたく並んでいた粒はなめらかに溶けて、
その容積のほとんどが液体に変わろうとしていた。
溶けたチョコレートに二人分の唾液が混ざって唇から零れそうになり、
レヴィは慌ててそのあたたかな液体を飲み込んだ。
ロックは、豆粒ほどに小さくなったふたつのかたまりの内のひとつを、舌でさらっていった。
残りのひとつは、自分の熱だけで溶かした。
二人で溶かすのに比べ、随分と減り方が遅いと思った。

口の中のかたまりが全て消えた頃、ロックが言った。
「――やっぱり、」
レヴィが見上げると、満足そうな笑顔にぶつかった。
「二人で味わった方が、うまい」
邪気の無い顔で言われ、レヴィは目を逸らした。
このプレゼントは一体どういうつもりだったのだと問い詰められるのも勘弁願いたいが、
こんなことを言われるのもまた、尻の座りが悪い。
結局、ロックはこのチョコレートを迷惑がっているわけではないと思って良いのだろうか、
と考えていると、ロックは「あ、そうだ」と言って、緩やかにレヴィを囲んでいた腕をといた。
危うく忘れるとこだった、と言いながら、ロックは小箱を入れてきた紙袋にまた手を突っ込んだ。
「これ――」
出てきたものを見て、レヴィはぽかんと口を開けた。
これは――。
今ここでシルクハットから鳩を出されたって、こんなに呆気にとられたりはしなかっただろう。
レヴィはまばたきを繰り返した。

何度見ても、ロックの指の間にあるのは、一本の、薔薇の花。
深紅の、薔薇の花。


17 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:50:51 ID:XlES7GZa

「――誰からもらった?」
レヴィの口をついて出たのは、そんな一言。
ロックはいささかムッとした表情で、レヴィに向かって薔薇を差し出した。
「いや、……レヴィに」
思わずレヴィは一歩下がった。

――何だこれは何だこれは何だこれは!

こんな事態は、まるっきり想定外だった。
――日本じゃ、男が女に贈る習慣なんか無かったんじゃねェのかよ! エダの馬鹿野郎!
レヴィの混乱した頭は、エダへの八つ当たりとも言える恨み言で埋め尽くされる。
――ふざけんな、あのクソビッチ、いい加減なこと言いやがって! 死ね!
頭の中で、エダ本人が聞いたら憤慨すること間違いなしのお門違いな罵倒を浴びせ、
ちらりとロックをうかがうと、彼もまた、居心地の悪そうな顔をしていた。
「――んだよ、リチャード・ギア気取りかよ」
やけに頬が熱いのを忌々しく思いながらレヴィがうつむくと、
ロックは弱々しく溜息をついた。
「言うなよ。……似合わないってことは俺が一番よく分かってる。
日本じゃ、バレンタインデーに男が女にプレゼント渡す習慣なんか無いんだから」
言い訳がましく、ロックは続ける。
よく見ると、ロックの顔も赤い。
これはこれで、ロックの方が気恥ずかしいのかもしれない。
そう思うと、レヴィの心には少しの余裕が生まれた。


差し出されていた深紅の薔薇を、レヴィは受け取った。
幾重にも重なり合ったビロードのような花びらは、まだ開ききってはおらず、
七分咲きといったところだった。
外側の花びらはゆるやかなカーブを描いていて、縁のあたりはくるりと外側にめくれている。
内側は、薄く繊細な花びらが螺旋を描くようにすぼまっていた。
「棘があるから、気をつけて」
ロックが言った通り、薔薇には固くて丈夫な棘が残っていた。
「見りゃ分かる」
しかし、茎は太くしっかりしているし、
茎から枝分かれするように伸びている葉もぴんと張ってみずみずしい。
見るからに高級そうな薔薇だった。
そっと花に顔を寄せると、ふわりと良い香りがした。

「……匂い、する?」
「ああ、するな」
これが薔薇というものの匂いか、そういえばちゃんと嗅いだことなど一度も無かった、
と思っていると、ロックの手が、薔薇を持ったレヴィの手に重なった。
そして、自分の顔も近づけてくる。
目を瞑ったロックが、空気を吸い込んだのが分かった。

「どうだ? するだろ?」
「あぁ、する。……好きだよ。――この、匂い」
至近距離で、ロックとレヴィの目が合った。
「……あたしも、好きだ。――この、匂い」
ロックがかすかに笑う。
「気が合うな」
「だな」


18 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:52:22 ID:XlES7GZa

「――で? 薔薇を持ってやってきた尋ね人の頼み事は何だ?」
似合わないプレゼントの空気が気詰まりになってレヴィが言うと、
ロックは心得たとばかりにくすりと笑った。
「『この薔薇を差し上げる代わりに、一晩泊めて頂けませんか?』」
薄汚く狭苦しいこの部屋。
それでもここはレヴィの唯一の『お城』に違い無かった。
「断ると、野獣にされんだろ?」
「……そうだな」
「――じゃあ、断れねェな」
ゆっくりと、レヴィの腰にまわされたロックの片腕に、力がこもった。
二人の手の中には薔薇の花。
これ以上胸を寄せ合うと、つぶれてしまう。
レヴィが薔薇の花に目を落とすと、
ロックは重ねていた手をずらし、レヴィの指から薔薇の茎を引き抜いていった。
そして、テーブルにのせてあった小箱の隣に、そっと置く。

両手を空けたロックは、今度は気兼ねなく、ぴったりとレヴィを抱きしめた。
「随分と話の分かる王子様だな」
身体を密着させたレヴィの頭のすぐ斜め上から、ロックの声が響いた。
「――野獣にされんのは、ごめんだからな」
レヴィはロックの首もとに顔を埋め、さらさらとしたワイシャツの布地越しに言った。
ロックがくつくつと小さく笑う。
「レヴィはすでに、『美女で野獣』だけどね」
ロックの胸が可笑しそうに震えるのが、触れ合ったところからレヴィに伝わってきた。
「……誰が、野獣だって?」
レヴィは身体を起こすやいなやロックの腕を掴み、すぐ側にあったベッドの方に一歩踏み出して、
そのまま体重をかけてロックを押し倒した。

――あたしの狭い『お城』は勝手が良い。

そう思いながら、レヴィはベッドに横たわるロックの腹の上に跨って、見下ろした。


21 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 20:58:46 ID:EF6/Dsh7

 * * *

あ、と思った時にはロックの視界は反転していて、背中に薄いマットレスの感触。
腹の上には、やけに物騒な薄笑いを浮かべる、美しい危険物。
「レヴィ、靴――」
片足はまだベッドの外だったが、勢いよく倒れ込んだせいで、
ロックのもう一方の足はベッドの上に乗ってしまっていた。
ロックに跨ったレヴィの両脚も、コンバット・ブーツを履いたままだ。

「黙れ」
レヴィは正確にマウントを取ってロックの動きを封じると、
自分の履いていたコンバット・ブーツを手荒く脱ぎ、床へ放った。
それからロックの革靴も脱がせ、他人の靴に対する仕打ちとは思えぬ乱暴さで放り投げた。
ベッドの外にあったロックの片足もベッドの上に引きあげさせると、
レヴィはロックに跨ったまま、後ろでひとつに結んでいた髪を、勢いよく片手でといた。
それと同時に振られた首につられ、ばさっ、と長い髪が広がった。

そして、短いタンクトップの裾に両手をかけると、一気に上までたくしあげた。
縦に一本、すうっと割れた見事な腹筋。
腕が上げられたせいで浮き上がった肋骨。
細く硬い肋骨とは対照的に、その上で震える柔らかな乳白色のふくらみ。
彼女の右半身に絡みつく茨のような黒いタトゥーも、その全貌を明らかにした。

レヴィはタンクトップを脱ぎ捨てると、今度はロックのネクタイに指をかけた。
獲物に狙いを定めたような目で、ロックを見据えながら。
爛々と輝くレヴィの瞳は、琥珀を通り越して金色がかって見えた。
レヴィによってネクタイをほどかれ、するするとワイシャツのボタンを外される間も、
彼女の金茶の瞳に射すくめられてしまったかのように、ロックは何も出来なかった。

スラックスの中からワイシャツの裾を引きずり出して、全部ボタンを外したレヴィは、
ロックのベルトに手を伸ばしてきた。
柔らかな尻に腰を圧迫されて、ロックの身体の中心はとっくに熱く疼いていた。
カチャカチャという金属が触れ合う音にも、必要以上に反応してしまう。
レヴィは体重をかけていた腰を上げ、スラックスの前ボタンを外してジッパーを下ろすと、
今度は片手をロックの肩口について、押さえつけた。
向かい合った顔と顔が近い。

ロックの腰は自由になった。
しかし、スラックスの中に滑りこんできたレヴィのひんやりした手が焦らすように絡みついてきて、
思わず腰が震えた。
その震えが伝わったのか、それとも顔にまで出てしまったのか、
ロックの様子を感じ取ったらしいレヴィは嗜虐的な笑みを浮かべると、更に手の圧力を強めてきた。
こすり、撫であげ、かと思うと、ここがいいのだろう? 
というように、ロックの目をじっと見ながらわざと指先で軽くなぞる。


――このままだと、ヤバい。
何も出来ずに終わりそうな気配がして、ロックは押さえつけられていない方の腕を伸ばし、
レヴィの顔の脇で垂れ下がっていた長い髪をかきあげた。
その手に、レヴィが一瞬気を取られた気配がした。
それに乗じて、ロックは髪の中を伝って後頭部まで滑らせた手で、レヴィを引き寄せた。
唇が重なるまで、強く。


22 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 20:59:53 ID:EF6/Dsh7

レヴィの目が一瞬慌てて、スラックスの中にあった手は離れ、ロックの腹の脇に付かれた。
今、レヴィの上半身を支えているのは、ロックの肩とベッドに付いた二本の腕だけだった。
それならば、もう全部の体重をこちらにかけてしまえばいい。
そう思って、ロックは両の手でレヴィを引き寄せたが、レヴィは頑として身体を預けてはこなかった。
意地になったように、腕に力が入った。
――なんでそこで頑張るんだ。
おとなしくしなだれかかってくればいいものを、とも思うが、
そうやって意地になってこそレヴィという女だという気がして、むしろ微笑ましい気分になった。
ロックは更に引き寄せる腕に力をこめる。

すると、レヴィは重なっていた唇を引きはがして、大きく息をついてから、言った。
「あんま引っ張んな、バカ。疲れんだろ」
レヴィは、不安定な位置で支えていた両手を移動させて、ロックの両脇で肘を付く格好になった。
「いや、疲れないように、こっちに全部体重かけていいよ」
「何言ってんだ、ボケ。んなことしたら潰れんだろ」
「潰れないよ、失敬な」
「どうだか」
レヴィは、フン、と半分小馬鹿にした調子で笑う。
ロックにだって男の自尊心というものがある。
ぐい、と先程よりも力を入れて、半ば無理矢理レヴィを引き寄せた。
今度は、胸と胸が合った。
「レヴィ一人分の体重くらい、全く平気だよ」
胸でレヴィの柔らかさを感じながら言うと、
「ハッ、強がりやがって。
あたしは伊達に鍛えてねェよ。あんたと腕立て勝負したら、勝つのはあたしだぜ」
そう、耳の側で言い返された。
「いや、それはそうかもしれないけど……」

確かに、それはかなり信憑性のある言葉だ。
彼女と腕立て勝負をして勝つ自信は無い。
「無い」と言い切らざるをえないのがまた悲しいところだが。
しかし、なぜここで「勝負」なのだ。
そういう話じゃないのではないか。
「それとこれとは、また別だろ」
ほら、まだ腕に力が入ってる、と指摘すると、レヴィは力ずくで上半身を少し上げた。
「いいから、黙れ」
そして、唇を塞がれた。

舌を触れ合わせながら、ロックは、今、一瞬見えたレヴィの表情を頭の中で反芻した。
ちょっと拗ねたような、間が悪そうな、薄く染まった顔。
もしかしたら彼女は、とても照れくさいのかもしれない。
そう思うと、いとおしい想いがつのった。


23 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:02:32 ID:EF6/Dsh7

いつも自分がしているように、ベッドに付いた両肘で体重を支えるレヴィを、
無理に引き寄せるのはやめにした。
代わりに、口づけを交わしながら彼女の体をなぞる。
片手は喉元を包み込んでから、ゆっくりと下げる。
指先に鎖骨の出っ張りを感じながら、胸元へ。
すぐに、しっとりとしたふくらみにゆきあたる。
温かくやわらかなそれは、仰向けになった時よりも溢れるばかりにロックの掌を満たし、
少しの力でかたちを変え、指を沈み込ませる。
それだけで心臓が速くなった。
もう片方の手を伸ばしたレヴィの背中では、肩胛骨が指で掴める程に浮いていた。
背中の真ん中で縦に割れた背筋、その下にある背骨を確かめるように撫で下ろす。
腰の近くにたどり着いたとき、レヴィの背中がぴくりと小さく反った。

くすぐったいのだ。
脇腹や背中を触れるか触れないかの力で撫でると、レヴィは決まって身を竦める。
いつだったか、それがあまりに可愛らしかったのでしつこく絡んだら、本気で両手を拘束された。
あの時の二の舞はごめんなので、ロックはあっさりとそこを通り過ぎ、
くっと締まった腰を経て、レヴィのホットパンツの中へ手を差し入れた。
ウエストはゆるゆる、ベルトもサイズの合わないまま飾りのように巻いているだけなので、
ロックの手は難なくホットパンツの隙間から入っていった。
下着越しに丸い輪郭を確かめてから、薄い布の下に手を差し込み、素肌を掌で包み込む。
吸い付くような、脂肪よりしっかりと手応えのある、それでいて柔らかな感触。
筋肉の上に薄く脂肪がのっているのか、
それとも女の筋肉というのはこんなにも柔らかいものなのか、
ロックにはよく分からないが、滑らかでほんの少し冷たい手触りは、最高に心地よかった。

レヴィの手も、ロックのスラックスをくつろげにかかっている。
主導権を握られる前に、ロックは彼女のホットパンツを下げようとした。
唇をつなげたまま、ベルトの留め金に手をやって、外す。
外し慣れたそれは、本当に、目を瞑っていても外すことができた。
レヴィのホットパンツを下げると、レヴィも、ロックのスラックスのウエストに手をかけた。
ロックは腰を浮かせたが、そこから先は、唇を重ねたままでは互いに腕が届かない。
名残惜しく唇を離し、それぞれ自分ではいていたものを脱いで、ベッドの外に追いやった。


下着一枚になったレヴィに薄布の上から触れると、レヴィもまた、下着越しにロックに触れてきた。
レヴィの丸い尻を片手で包み込み、そのふたつの丸みの隙間に指を落とす。
後ろから探れば、湿った布の感触。
布の上から柔らかい粘膜に指を押しつけると、じわりと湿り気が広がった。
指先で小さく円を描くように動かすと、次第に布がぬるりと滑ってくる。
彼女の身体が、腰を中心に小さく波うった。

レヴィの手は、煽るように下から輪郭をなぞり上げてくる。
ますます血液の流れが速くなって、集中する。
レヴィは、まるであやすように刺激してきた。
指がまとわりつき、揉み込むように圧力を加えられると、ふわりと意識が浮いた。
薄い布越しであっても分かる。
お互いもう準備が出来ていることは明白だった。

レヴィの腹の方から手を差し込むと、レヴィの手もロックの下着の中に入ってきた。
レヴィの手はしなやかに絡みついてきてロックを煽ったが、
彼女のあたたかな体液で濡れた指をとろかすように上下させると、一瞬、手の動きを止めた。
ロックの方も、彼女の指の腹で一番敏感な先端近くを擦られると
簡単に意識が自分の指から離れそうになるので、お互い様ではあったが。


24 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:05:23 ID:EF6/Dsh7

下着を脱がせ合い、前をはだけたのみでまだ袖を通していたワイシャツを脱ぐと、
ロックは避妊具に手を伸ばした。
正方形の薄い包みの封を切ろうとすると、レヴィの指がそれを掠め取っていった。
「貸せ」
ロックの腰の上に乗ったレヴィは、たった今ロックから奪った小さな包みを手に、にやりと笑った。
そして、包みの端に歯を立てると、鋭く頭を振って封を開けた。
反動で、髪がさらりと舞った。
レヴィは中身を取り出すと、二本の指で先端をつまんで、ロックに被せていった。
あの、狩をするような金茶の瞳でロックをひたと見据えながら。
輪を作ったレヴィの指が、徐々に下がってゆく。
わざと、ゆっくりと。
今、お前はこんなにも臨戦態勢なのだと、この先待っているお楽しみの為の準備をしているのだと、
じっくりとロックに確認させるように。
必要な事だからしている。
別に気まずくなる必要などどこにも無いのだが、
それでもこうまじまじと見られたのでは何となく身の置き場が無い。
そんなロックの心の中を覗き込むように、レヴィは愉悦を滲ませた瞳で、ロックを見た。


全ての準備が整うと、レヴィは自ら溶けた入り口にロックをあてがった。
そして、身を沈める。
あたたかく、同時にぴったりと締めつける粘膜に包まれてゆく。
レヴィの頭が息を詰めるように項垂れたが、
全部おさめきってから上げられた顔は獰猛に美しかった。

どうして欲しい?
レヴィはそう目で訊いて、ロックの顔を射るように見ながら、わずかに腰を揺らす。
ぎゅっと強く締めつけられたまま動かされて、揺らぎそれ自体は些細なものであったのに、
ロックの腰は馬鹿正直にもっと欲しいと求め出した。
レヴィの腰を支える手も、汗ばんでいる。
レヴィはそんなロックの望みを読みとって、承知した、とばかりに腰の動きを大きくした。
きつく、きつく、締め上げながら、上下に動く。
抑えきれないロックの腰の動きに合わせて。
ぎりぎりまで引き抜かれて、そこからまた深く落とされる度、ロックの熱は高まる。
もっと強い刺激を求めて、腰が速まっていった。
ロックの胸に両手を付いたレヴィの髪が揺れる。
タトゥーが絡みついた肩にぎゅっと力が入って、短く息が吐き出された。
伏せた睫が頬に影を落とす。

息をつめたレヴィの眉が、ほんの少し苦しげに歪んで、ロックは慌てて腰の動きをゆるめた。
しかし、レヴィは睨むように強い視線を寄越してから身体を起こすと、片腕を後ろ手に付いた。
ちょうど、ロックの太ももを押さえつけるように。
身体を反らせるような姿勢になって、またレヴィは動きを開始した。
じわじわと腰を浮かせて、ゆるやかに沈める。
何度も繰り返すうちに、段々とその間隔が短くなっていった。
レヴィの豊かな乳房も、一緒にやわらかく揺れる。
力の入った腹筋は硬く締まっている。
目線を下にずらせば、二人が繋がったところが見えた。

今、レヴィと繋がっている。
そんなことは薄いラテックス越しでも感じる熱とうごめきで分かっているのだが、
こうして視覚的に、自分の一部が今まさにレヴィの体内に取り込まれているのだと突き付けられると、
それだけで更に熱く身体の芯が昇ぶっていった。
脳髄が、絞り取られる。
思わず眉を寄せたロックの顔を認めたレヴィは、満足そうに唇の端を歪めて、笑った。
そしてまた、ロックの動きに合わせながら、強く締めつけた。


25 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:06:28 ID:EF6/Dsh7

ともすると、このまま勢いにまかせて突き上げ、果てまで流されてしまいたくなる衝動に、
ロックは無理矢理待ったをかけた。
今のレヴィは、自分の快楽など後回しだ。
声ひとつ上げず、唇だけを歪めて薄く笑い、目を細めて硬質な瞳でロックを鋭く見据える。
それは確かにぞっとするほど美しくはあったが、どこかよそよそしかった。

本当に感じている時のレヴィは、こんな顔はしない。
眉は時折きゅっと寄せられ、吐息が鼓膜を震わせる程に荒くなった時、
身体の奥がきしんだように、はかなく掠れた声を漏らす。
行為の最中は瞑られていることの方が多い瞳は、ふいに瞼が上がった時には水っぽく揺れている。
それに、繋がったところだって、いつもだったらもっと、とろけるようにやわらかい。
二人の境界線が無くなって、本当に溶けてしまったのではないかと思えるぐらい。

こんな風に終始きつく締めつけてくるのは、彼女の冷静な作為だ。
彼女自身が良くてそうしているわけでは、ない。
その証拠に、レヴィはさっきから律儀なまでにロックの動きに合わせている。
肌だって、常ほど熱くなってはいない。
もっとしっとり汗ばんで、
彼女の身体の奥から湧き出る熱によって、その肌が薄紅色に染まるところを見たかった。

「レヴィ、もう、いい」
ロックは上半身を起こして、レヴィを抱きしめた。
レヴィから与えられた快楽は強烈だったが、せっかく二人で交わっているのだ。
「ひとりで無理しなくていい」
言って、彼女を押し倒す。

もっと、溶け合いたかった。



26 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:08:15 ID:EF6/Dsh7

 * * *

「もう、いい」
そう言われた時、レヴィの背中はひやりとした。
何か間違えただろうか、『良く』なかっただろうか、そう思った。

けれど、
「無理しなくていい」
その言葉に、ああ、『良く』なかったわけではないのだ、という安堵感と、
結局この男には本当のところを全て見透かされていたのだ、
という悔しさ、それに羞恥心が同時に沸き上がった。
「別に、無理なんかしてねェ、よ――っ」
背中をシーツに押しつけられながら、レヴィは言った。

嘘ではなかった。
ロックが自分の挙動によって、眉を寄せたり、息を飲んだり、
身体を熱くさせたりするのを見ることは、レヴィにとって大変な至福だった。
それに、いつもロックは何もかもお見通しだというように、気付けば主導権を握っている。
レヴィの胸中を、まるで実際に見えているかのようにすくい上げ、的確に煽ってくる。
決まってロックにペースを作られ、追い立てられ、冷静さを失った顔を見せるのはレヴィの方なのだ。
だから、たまにはこの男に、余裕の無い表情をさせてみたかった。

だが、
「本当に?」
上から覆い被さるように深く貫かれ、内側も外側も強く圧迫されると、
埋み火のように穏やかだった熱は、一気に燃え上がった。
さっきまで意のままだった全身の筋肉が、一瞬で、統制不可能になる。
「――――っ!」
口を開いたら言葉にならない声が出てしまいそうで、レヴィはそれ以上反論することは出来なかった。
「レヴィも、一緒に――」
深く繋がったまま、更に奥を突いてくるロックの言葉は、そこで途切れた。
やはりお見通しなのか、とレヴィはバツの悪さを感じたが、
それよりも、いかにもこの男らしい気のまわし方が、くすぐったかった。

――一緒、に。

レヴィの高められた熱は、もう体内だけには留まっていられず、
火照りとなって、ぬるい液体となって、身体の外まで溢れていた。
ロックの腰の動きは段々と大きくなり、レヴィの身体からしみ出た粘液が、
その動きをなめらかにしていた。
もう、息が上がっていて、迂闊に喋ることなど出来ない。
しかし、レヴィは細心の注意を払って、腹筋に力をこめた。

「うまいもの、は、二人で、味わった方、が、いい。――か?」

唇の端で笑ってやると、ロックは動きを止めて、一瞬ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしたが、
すぐに相好を崩した。

「――その通り」
そう言って、笑った。


27 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:08:39 ID:EF6/Dsh7

そこから先は、下らないお喋りなどをしている余裕は無かった。
互いに、追い立て、追い立てられ。
相手の呼吸を読んで、それに合わせ。
吐息。鼓動。脈動。体温。粘膜。視線。輪郭。
すべてが混ざり合って、溶け合った。

確かに、二人一緒でないと、たどり着けない場所があるのかもしれない――。
レヴィがそう思ったのは、白い頂点を見て、そこからゆらゆらと舞い戻ってきた時のこと。

しかし、その後すぐに、レヴィは深い眠りの中へと引きずり込まれていった。



28 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:10:30 ID:EF6/Dsh7

 * * *

レヴィの意識がおぼろげに覚醒して、ゆっくり瞼を上げてみると、部屋の中は暗かった。
隣には、静かに寝息をたてているロック。
霞む目で時計を確認すると、まだ零時をまわってはいなかった。
気を失ったかのようにすとんと深く眠ってしまった気がしたが、
あれからそれほど時間は経っていないようだった。
身体は気怠いし、眠気が全身にまとわりついている。
いつもだったら朝まで一度も目覚めることなく眠りを貪っているところなのに、
なぜ今日に限って、とぼんやりする頭でレヴィは考える。

そう、何か、ひっかかっていた。
何か、気に掛かることがあって――。
「!」
その、気に掛かっていたこと、が急に頭の中で像を結んで、レヴィはがばっと起き上がった。

――薔薇!

ロックに貰った、薔薇。
テーブルの上に置きっぱなしだったのだ。
早く水につけてやらないと、と頭の片隅をかすめたのに、そのままだった。


レヴィは、そろりとベッドを抜け出した。
さすがに夜になると肌寒い。
素っ裸で歩き回る気にはなれない。
しかし、ちゃんと服を着込むのも面倒だ。
そう思ってあたりを見回すと、ロックの白いワイシャツが目に留まった。
これなら、さっと羽織れて丁度だ、とレヴィは勝手に拝借することにした。
今まで散々「いつまでそんなもん着てんだ」「目障りだ」「ダセェ」と馬鹿にし尽くしていたので、
こんなところを見られたら何を言われるか分かったものではないが、
ありがたいことに今、本人は夢の中だ。
レヴィが袖に腕を通すと、思ったよりもそれは大きく、
肩は余るし、半袖なのに肘のあたりまですっぽりと隠れる。
特に鍛えてもいないくせに、と何となく面白くない気分になったが、
太ももが隠れるぐらいの丈は具合が良いと思い直し、
レヴィはひたひたと薔薇の置いてあるテーブルに歩み寄った。

ひっそりと横たわる薔薇を取り上げて、ためつすがめつしてみると、
まだしおれている気配は無かった。
きっと、ロックはここに来る直前に買ったのだろう。
ラッピングはされていないが、根本に水分を含ませた小さな布が巻き付いて固定されている。
そのおかげもあるのかもしれない。
レヴィは水にさそうとキッチンへと向かったが、ふと、花瓶が無いことに思い当たった。
花など買ったことも貰ったことも無いので、そんな気の利いたものがこの部屋にあるわけがない。
何か代わりになるようなものは無いかと考えるが、
背の高いグラスは無いし、ペットボトルというのもあんまりだ。

その時、キッチンの隅にハイネケンの空き瓶があるのが目に入った。
レヴィはその瓶を取り上げ、軽くゆすいでから水を満たした。
そして、薔薇の根本の布を取り払って、水をはった瓶の中にさし込む。
空き瓶が花瓶代わりとは少々不格好だが、とりあえずはこれで良しとすることにして、
レヴィは薔薇をさしたハイネケンの瓶をテレビの横に置いた。


29 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:12:18 ID:EF6/Dsh7

ほのかに差し込む月明かりでは、薔薇本来の色は分からない。
だが、レヴィの脳裏には、先ほど灯りの下で見た鮮やかな深紅が焼き付いていた。
それに、この頼りない光であっても、きめ細かくしっとりとした花びらの質感は充分に分かる。
闇に沈むと、深い香りが更に匂い立つようだった。

この花びらに触れたら、どんなになめらかだろう――。
指を伸ばして、しかしレヴィは寸前で思いとどまった。
自分が触ったら、枯れてしまう。
そんな気がした。

行き場を無くした手で、とりあえず、棘をなぞってみた。
固く、鋭く尖った棘。
――あたしには、これぐらいがお似合いだ。
レヴィは片頬で声もなく笑った。
そう、全く似合わない。
こんなお上品な薔薇をレヴィが貰うのも、ロックがかしこまった様子で渡すのも。
先程ロックが見せた居心地の悪そうな顔を思い出し、自然とレヴィの頬は緩んだ。
それに、レヴィがチョコレートを渡すのだって。
お互い似合わないプレゼントを贈り合って、普通の恋人の真似事めいたことをして。
まったく滑稽なことだ、とレヴィは思った。
けれど、悪い気はしなかった。
なんなら、――――嬉しい、と。言っても良かった。


場違いな暗がりで咲く薔薇を見ながら、レヴィは思う。
明日あたり、マーケットにでも行って、花瓶を買って来るのもいいかもしれない。
シンプルな、ガラスで出来た細身のもの。
どうせ今回一回限りだ。
大袈裟なものでなくて良い。

――一回限り。

それしか使われないなんて、花瓶としてみれば自らの不運を嘆いてもいいところだが、
それでも、誰かから「嬉しい」と思える贈り物を貰うなど、レヴィは初めてのことだったのだ。
施しでも、哀れみでもなく。
今回のものだって、イレギュラーが重なった末の出来事だということは分かっているが。
多分、そんなプレゼントは最初で最後。
――そんなことは分かっている。
だからこそ、ちゃんと、贈り物は贈り物らしく扱ってやるべきだと、レヴィは思った。

こんな事でおめでたく浮かれているなんて、
他の誰かに知られたら、明日ロアナプラに核爆弾が落ちてくると言うより仰天されるに違いない。
レヴィ自身、自分の脳味噌がすべてヌガーにでもなってしまったのではないかと思う。


けれど、まぁ、いいか、とも思う。
薔薇の花の下でのことは、全部『秘密』になるのだから。

お伽噺のように、『真実の愛』とやらは望まない。
その前に、この薔薇は枯れるだろう。
でも、こうして、ただ見ているぐらいは、許されるはずだ。


レヴィは、飽かず、薔薇の花を見つめ続けた。



30 :ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:13:26 ID:EF6/Dsh7

そんな、男物のワイシャツを羽織り、裾からしなやかな脚を伸ばして
月明かりに照らされながら佇む女の後ろ姿を、ベッドからそっと見守る男がいたことなど、
彼女は知らない。



"under the rose"

すべては、薔薇の花の下の『秘密』にて――。








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