301 :夢の続き・ロクレヴィ:2010/09/16(木) 19:48:12 ID:jJWdsKqE


これは夢なのか―それとも現実なのか――今の俺には判断がつかなかった。
何故かと言えば――。
まあ後から思えば、何故この時に自らの存在をアピールしておかなかったのかと少々悔やむ事になるのだが―。



目を開いた時、最初に見えたのは白いカーテンだった。
そして簡易ベッドを仕切る、少し開いたその隙間からレヴィが立っているのが見える。
こちらに半ば背を向けて、今日貰ってきたのであろう新型銃の試作品を手に取っていた。
微かに笑みを浮かべながら慣れた手つきでそれを調べる姿はまさに、人食い虎―。
少し靄がかかった頭でそんな事を考える。


少し俯きながら銃に没頭するレヴィの睫が、
船体に嵌め込まれた丸い窓から入る朝日に照らされて艶やかに煌いている。
そしておもむろに銃を置くと、今度は自分の愛銃を抜きバラシ始めた。
鮮やかな手つきでメンテを終えると、ふう、と息を吐き髪をほどく。
流石に眠いのか、欠伸をかみ殺しながら目を擦るレヴィ。
少し微笑ましい気持ちでそれを見ていると、レヴィはホルスターを身体から外し、黒い上着を脱ぎだしだ。


誓って言うが、その時の俺は普通じゃなかった。まあ、ありていに言うと寝ぼけていた訳だが。
面積の少ない上着からその腕を抜き、下着のホックを外し乱暴に放る。
さらりと流れる赤い前髪に睫が隠されていくのを残念に思いながら目で追うと、
古い傷が走る背中が意外と華奢な事に気付く。
その奥から白い胸がちらりと見えて―。

302 :夢の続き・ロクレヴィ:2010/09/16(木) 19:49:52 ID:jJWdsKqE

なんというか、言い訳のようだがようやくここに来て俺の目は覚め始めてきていた。
今まで夢か現実か判別できないままに、なんとなくレヴィが服を脱いでいくのをぼんやりと見ていたが、
カーテン一枚隔たれた目の前で、生身のレヴィがどんどん裸に近づいていく光景を、
俺の鈍い頭はやっと現実だと認識しだしたのだ。


そうだ、何故こんな事になっているかというと、
昨日ロアナプラから少し離れたこの街に、三合会の張さんに依頼された新型銃の積荷を引き取りに来て―。
しかし、いざその問屋に行ってみると、まだ半分しか完成していないという。
なぜその時点で連絡をよこさないのかと、俺たちは当然激怒したが(主にダッチとレヴィが)
そこの親父曰く、張に連絡して命を粗末にするより、俺たちに半殺しにされる方がなんぼかましという事らしい。
まあ依頼主の依頼主を勝手に殺す訳にはいかないという、俺たちの事情と足元を見たこの街らしい選択だった。
その言い草に間髪置かずブチ切れたレヴィを止めつつ、ダッチがその新型銃を何丁か貰う事、
今後の銃のメンテをタダでやる事などを条件に、張さんを取り成し何日かなら待ってやる事を承諾したという訳だ。


そういう事情から、俺たちは予期せぬ数日の休暇を手に入れたわけだが、
その間、ロアナプラを拠点にしている俺たちには仕事が入りにくい。
当然金も入らないといわけだ。
張さんからの仕事は多少金払いは良いにしても、ただ船で待っているだけじゃ能が無い。
という事でダッチは昼夜問わず街へ情報収集に、レヴィは銃器の整備と危険が増す夜中の船の警備担当、
ベニーはひたすら愛する機器のメンテとネットからの情報収集をしている。
俺はといえば、船に経理の書類を常備している訳も無く、いささか手持無沙汰だった。
まあそれでも皆の食料の調達や食事の用意、ベニーやダッチの細々とした手伝いなどやる事は色々とあった。
船の安全面からも、俺とベニーは昼間働き、レヴィとダッチは主に夜動くという事で落ち着いた。


303 :夢の続き・ロクレヴィ:2010/09/16(木) 19:52:25 ID:jJWdsKqE

しかして2日目の朝になり、警備の終わったレヴィが自分の仮眠室に入って来た事は至極当然のことだった。
ただ、しばらく使っていなかった向こうの部屋の俺のベッドが壊れているという事態を、
果たしてレヴィが納得してくれるかという、実に勝算の薄い望みに賭けるはめになったのだが――。


そんな俺の事情とは関係なしに、レヴィはもう上半身はすっかり裸で、
その手は手馴れた仕草でベルトを外し、小さなジーンズを足から抜かんとしている。
その引き締まった身体、白い胸やこちらに向けられたパンティからこぼれた尻は、
ぼんやりした俺の頭にはもうそれだけで飽和状態だった。
にも関わらず、あの小さな尻の奥には何人の男が通り過ぎたのだろう、恋人はいたのだろうか?それとも見も知らぬ客に――?
つい、そんな勝手な想像と、詮無い嫉妬じみた考えを巡らせてしまう。


しかし意図せずレヴィのストリップを覗き見しているこの状況に、子供じみた優越感も抱く。
ロアナプラの男共の誰もが、一度はやりたいと密かに思っている事は俺も知っている。
機能と美を併せ持つ完璧な身体の相棒を、しばし眩しく見つめる。


だが自分は皆と同じようでいて、少々ベクトルの違う気持ちを抱いている事に、最近気付いていた。
レヴィの気持ちを推し測る事は俺には不可能だが、一度街中でド派手な喧嘩をやらかしてから、
決して自惚れではなく、二人の間には何か言葉では言い表せないものが横たわっているのは確かだった。
「相棒」「バディ」「仲間」そんな言葉の中に胸の奥がもどかしく、もっと近づきたいような、
でなければいっそ離れてしまいたいような正体不明の何か―――。



304 :夢の続き・ロクレヴィ:2010/09/16(木) 19:54:14 ID:jJWdsKqE
そこまで考えるに任せ、はたと、もうそんな場合ではないことに気付いた。
目の前のレヴィはもう黒いパンティに手を掛けていて、今まさに下ろさんとし――。


「レ―っう・・ゴホッ・・・!」


何か言おうとして口を開いたものの、興奮と緊張から喉が張り付いていて、
挙句出たものといえば水分の乏しい咳払いだけだった。
果たして、シャッと勢い良く引かれたカーテンを握るレヴィは、震えるもう一方の手で急いで太腿まで上げかかった下着を握っていた。
初めて見るレヴィの裸に、自分の顔が赤くなっていくのを自覚しながら俺は自問した。
かろうじて、まだ全裸では・・ない。間に合ったのか・・?――いやそんなわけはなかった。
レヴィの恐ろしいまでの笑顔を見れば―――。


ゆっくりと、しかし一見冷静に下着を履き直し、レヴィはやっと口を開いた。
「―――バッカヤロウ!!―何やってんだッ!!お、お前の寝床はあっちの部屋だろーが!!」
ごもっとも。レヴィ、何もかもお前の言う通りだ。だけど
「・・むねっ・・・胸をかくせレヴィ――」
出たのは言い訳ではなくしごく真っ当な忠告だった。少なくとも俺にとっては――。
「あぁん?てめえそんな事言えた義理か!?散々っぱら人の裸見といてよお?ぇえ?」
だがどうやらレヴィにとってはもう今更な事らしかった。


片手でカーテンを、もう一方の手で俺の首根っこをぎりぎりと握り、
怒りもしくは羞恥からか少し顔を赤くして凄むレヴィに、俺は一言も無い。
いや、無いで済まされる話ではないので、一応口を開く。
「ご、ごめんレヴィ、ここに寝てたのは向こうのベッドのスプリングがいかれてたからで―」
「ベッドはもうひとつあるだろうが」間髪入れず返される。
「そっちはベニーが使ってるんだ」
「・・ああそうかい!」
ッチっと舌打ちをして、ようやくレヴィは乱暴に俺のシャツを放してくれた。


305 :夢の続き・ロクレヴィ:2010/09/16(木) 19:55:56 ID:jJWdsKqE

「それならそうと、何でもっと早く声かけねえんだよ!」
「だからそれは寝てたからで・・」
最早そうとしか言いようのない言い訳を口にする俺の顔に、レヴィはぐいっと顔を近づけて呟く。
「・・・お前、今さっき起きたわけでもなさそうだな?えぇ?」

―鋭い。やはり顔を見ただけでも判るもんだろうか。
「声の感じでもわかんだよ!なめんな」
心の中を読まれたように言われて、内心苦笑した。
やっぱりレヴィには敵わない――。


でもやはり完全に故意ではない事だけは、名誉の為に主張しておかねばならない。
「その、少し前に起きたのは確かだけど、つまりその、夢かと思ったんだ」だからすぐには声を掛けそびれて・・と言った俺に、
「夢ぇ?なんだそりゃ・・」といぶかしげな顔。
「何で船にあたしがいるのが夢と結びつくんだよ?てめふざけてんじゃねえぞっ」
「そうじゃない、ふざけてないよ。たまたま見てた夢にレヴィが出てきてたんでつい続きかと思って・・・」

焦った俺は急いでそこまで喋って、ふとある事に気が付いた。
自分は何かとんでもなく恥ずかしい事を言っていることに―。
そして、レヴィの顔が何だかさっきよりも赤くなっていることに。


やばい!なんだか途轍もなくやばい。
この、主に俺が恥ずかしい雰囲気は何なんだ――!
「―レ、レヴィこそ、お前ともあろう者が他人の気配に気付かないなんてどうかしてるんじゃないか?」
冷静な態度を努めつつ、懸命に話題をそらす。
「もしかして、どこか身体の調子でも悪いのか・・?」
聞きながら半ば本気で心配になってきた俺に、何故かもっと動揺したレヴィがいた。


306 :夢の続き・ロクレヴィ:2010/09/16(木) 19:59:24 ID:jJWdsKqE

「・・お前の――」
「え・・・?」
レヴィにしては珍しく小さな声で何か言ったと思った。
「――おまえに今更警戒してどーすんだよ!・・はっ笑わせんな」
「身体の調子なんて絶好調だぜ!ふざけんなよっ」
「おまえごときに心配されるいわれなんぞねえ――!!」
なぜレヴィがこうも激しく怒っているのか、なぜ少し泣きそうになっているのか、この時俺には解らなかった。今の俺には―。


ただ、とりあえず目の前のレヴィを抱きしめてみる。
こう見えても俺は子供の扱いには慣れているんだ。
そして、今レヴィはまるで子供に見えた。
なぜ怒っているのかも定かでない、自分の感情に翻弄されている子供――。
そう多分レヴィもこの時、自分でも感情の出所が掴めなかったに違いない。
それだけは俺にもわかった。

「ごめん、レヴィごめん・・・」
訳もわからず、でも俺は真剣に謝った。これ以上ないってくらい真剣に。
何故かそうしないと、いけない気がした。


「・・・レヴィ、泣きやんだか、ん?」
大人しく俺の腕に抱かれている彼女が可愛くて、顔を覗き込み少し意地悪く聞いてやった。
するとレヴィは黙って俺の腕を振りほどき、つけあがりやがってこの野郎、という顔で見上げてくる。
それがおかしくておかしくて、でも愛しくてたまらなかった。
しかし実際に口に出さなかったのは、彼女にしては極めて珍しい事だ。
それに少し気を良くした俺の顔をじとりと一瞥し、無言で備え付けのシャワー室へ向かう。
「レヴィ?」少し焦った俺に「ったく、張り紙くらいしとけっつーんだ!」とようやく捨て台詞を吐いて、ドアは気の毒なくらい勢いよく閉められた。


レヴィ?許してくれた?レヴィ、
そしてお前も、俺と同じ気持ちを抱えているのか?レヴィ――。
実際には聞けない言葉を心の中で問いかけつつ、同時に俺は無意識に、先程の光景を反芻するという不埒なことをやってのけた―。




Fin



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