418 :ロック×レヴィ ロアナプラ編:2010/10/02(土) 17:30:54 ID:2CnvC5Rm


 ──きっかけというのは、いつだって何だって、ささいなものだ。

 イエロー・フラッグで痛飲し、上機嫌そのもののレヴィに飲み直しを提案され、
じゃあどこへ行こうかと提案した時、彼女が取り出したのは一枚の硬貨だった。
「レヴィ、それは俺に奢れってことなのか?」
「ちッげーよバカ! 表が出たらあたしん家、裏が出たらお前ん家だって──……
ああクソ、ロック、お前、あたしのことそんなしけたツラで見るんじゃねえよ!」
 あっはっは、と表現するにはいささか下品方向へ傾いた笑い声を上げて、何がそんなに可笑しいのか、
レヴィは硬貨を握りこんだまま腹を抱えて笑っている。目尻には涙まで浮かんでいる。
この女が相当──相、ッッッ当にアルコールの回っている状態であることだけは、
誰に問いかけても間違いあるまい。
 一週間ほどの航海を終えて、今日の夕方ようやくロアナプラに戻ってきたのだ。
船に否応なしに慣れさせられた自分は当然疲れていたし、レヴィも同じことだろう。
まあまあ景気のいい依頼主から回された仕事だったこともあり、今夜は飲むぞ、
とイエロー・フラッグへ座を占めて、気づけばダッチもベニーも隣にいない。
 レヴィは基本的に、酒が回るとすこぶる機嫌が良くなる、性質のいい酔っ払いだ。
しかしこんなにも箍が外れた感じに酔っ払うのを見るのは初めてで、
ごく普通に接しながらも、ロックは心の中では三歩ほど引いていた。
大体飲み物はラムで通す彼女に、日本でいうところの“チャンポン”を説明したのが悪かったのだろか。
いやしかし、店を出ようとしたレヴィの前のカウンターに、様々な種類のグラスやらボトルやら、
いかにもそれぞれ違う種類の酒が入っていましたよという容器が複数転がっていたからとて、
そこから喉の奥まで見せて笑う彼女を想像せよというのは無理がある。
 結局、コイントスは提案だけで試みられることはなく、汚泥の海から生まれた云々だの、
鳥も魚も鏖(みなごろし)だの、ひたすら上機嫌に歌って歩いていく彼女のあとを、
ロックは若干とぼとぼとした足取りで追いかけたのだった。

419 :ロック×レヴィ ロアナプラ編 2/4:2010/10/02(土) 17:35:21 ID:2CnvC5Rm
「──……、だからレヴィ、何で話がそんなほうへ行くんだよ?」
「うるせーバカ。姉御から聞いたんだから間違いねェ。イタリア人は女好きの馬鹿で、
 ヤポンスキはHENTAIで、かつ、救いようのねェ大馬鹿だってな。
……ああ畜生、お前“じゃあロシア人はどうなんですか”って聞いて来いよ今から! バーカ!!」
 ──先程まで、騒がしくはあるけれど楽しく飲んでいたというのに、この落差は何なのか。
 今のレヴィはアルコールでバッドトリップしているのか、それとも愚痴上戸であるだけなのか、
ほとんど凶相丸出しにロックを睨みつけながら、左手にラムのボトルを抱き、
右手にグラスを握り締め、いつ果てるともしれない繰言のループに突入している。
 確かレヴィがこうなったのは、ブーゲンビリア商会の女ボス、
彼女が姉御と呼ぶバラライカの話題が出てしばらく経った頃だと思ったが、
話のアウトラインを辿っていても、どうにも彼女の不機嫌の理由が掴みかねる。
確かあそこは、高級コールガールも商売のうちに云々だとか、召抱えられている女たちは、
主な“仕事場”がサンカンパレス・ホテルで羨ましい限りだとか、そんな──
「……どうせお前も、…………みてェなのだいいんだろ」
 まるで“ナナ”のような、衣装と髪に月二千万、下着に三千万、
靴に千二百万、食事に五百万をかける、絵に描いたコルティジャンヌ・オネスタなど、
影を見るのも空恐ろしいとか、そんな──
「どーせ若くて細くてぺったんこなのがいいとか言うんだろバーカ」
 思わず、ロックはまじまじと、唇を曲げたレヴィを見てしまう。
 最初は物凄く迂遠で攻撃的でなおかつ判りづらいが、彼女の情動は、
一度気づいてさえしまえば、仕掛けのバレた騙し絵を見るようなものだ。すぐに気づける。
 すっかり氷の溶けて温くなったラムをちびちび舐めながら、微妙に視線を逸らしている、
それでいて恨み言をこちらに向けてくるレヴィの頬の赤みは、一体何のためか。
 何と言ってもロックは男でレヴィは女。お互いを憎からず思うようになってからは、
幾度か、そんな機会が巡ってきそうになったことはある。
ただ今までは無意識のうちに、二人ともが決定的な瞬間を避けて避けて逃げてきたように思う。
 結局彼女も自分も、相手のほうを見ずにボールを放り、行き違いを繰り返しているのだ。
たとえ向き合っても、彼女が経験してきた今までの人生からは、
顔面を狙うようなボールしか放てず、避けられるかぶつけた相手が昏倒するか、
そんなコミュニケーションしか送って来れなかったのではないか。
 そんな風に分析し類推することの下世話が、だが今は、
思わず唇を緩めたくなるような、くすぐったいものへと変わっていく。
声の調子が弾んだものになったりしないように、細心の注意を払って口を開いた。
「……なあ、……なあ、レヴィ?」
「なんだよバカ」
「あのさ、確かに日本人のセクシュアリティは物凄い種類が多いし、それを否定はしないよ。
けどさ、俺はつるんぺたんとしたのは好みじゃないんだ。
どっちかって言うと、胸もしっかり大きくて重みのあるほうが──」
「…………言うに事欠いておっぱい星人かよテメエ!!」
「な、ん、──なんでそんな言葉知ってるんだよ!?」
「ベニーから聞いたんだよバーカ!!」
 グラスを投げんばかりの勢いで手を振りかざすレヴィをどうにか宥め、
それでもロックは胸中で笑いをかみ殺しきれなかった。
過剰な悋気は鬱陶しいだけだというが、唇を尖らせそっぽを向いているぐらいなら、
後ろから膨れたその頬をつついてみるような、そんな悪戯を仕掛けたくもなる。
 ブツブツ言いながら、今度は背を向けてしまった彼女に、膝でにじり寄る。
肩をばしんとやるぐらいのボディタッチはあるとはいえ、これは大いに賭けだ。
「あのなあレヴィ。──この際だからな、はっきり言っておくぞ」
「手前ェのベッドん中の趣味なんざ聞きたくねぇ」
「……だからなんでそこに拘るんだか……とにかくレヴィ、俺はな──」
「うるせェ黙れ、ッ、──ロ、ォック!?」

 むにゅん。

「……レヴィのことが好きなんだよ!!」
「ろ、っ、く…………」

420 :ロック×レヴィ ロアナプラ編 3/4:2010/10/02(土) 17:38:11 ID:2CnvC5Rm
 ──説明せねばなるまい。
 ロックに背を向けたレヴィの格好は、いわゆる三角座りであった。
 それも、腿の裏を抱え込んでいるのではなく、立てた膝に両腕をもたせかけたものであった。
 イタリアの有名なスポーツブランド、フットサルシューズを中心としたラインナップを揃える、
あのメーカーのロゴマークの左側に酷似した姿勢であった。
 肩を両側から包もうとすれば当然振り払われる。ならば、空いているところを狙うしかない。
しかるにロックが選んだのは、彼女の脇腹から手を滑り込ませ腕で抱きしめる、そんな格好だった。
 そして、そんな格好をすれば当然、レヴィが己の胸に携えている、豊満ながら形よいものが、
否応なしに身体の前側で交差する手のひらに触れてしまう。
むしろ、触れてしまう、というか──直前の談義の内容が何しろソッチの方向であったがため、
かなり意図的にした部分はあった。
 大体、命知らずに定評のあるトゥーハンドに、このような悪戯を仕掛けるなど、
理知らずのロアナプラといえども、誰一人存在はしないだろう。
たとえ、もし仮に、億にひとつの確率でもって、そんな人間が存在したとしても、
一瞬後にはソード・カトラスによる乱射で、丁寧にミンチ肉にされているはずだ。
 ロックが触れたそこは、とにもかくにも前人未到の、甘やかな部分なのだ。
「──……ヘイ、ロック。このあたしに──なん、何のマネだ?」
「…………だから言っただろ、レヴィが好きだって。後レヴィ、イントネーションおかしい」
「るせッ……てめェ、今“レヴィ”の後に、絶ッッ対ェ“のおっぱい”って入れただろ」
「入れてない、入れてない。……というか、好きなひとの身体なんて全部好ましいに決まってる」
「ふざけんなロック! ロンリをチョーヤクさせてンじゃねェよ! ファック! とっとと手ぇ離、ッ……」
 レヴィの抗議を無視して、ふに、と柔らかく、両方の乳房を揺らす。
 途端に彼女の背中が跳ねて、びくん、と断末魔のように強張った震えが走る。
全く愛でられた経験を見出せないその箇所は、扱いのぞんざいさを示すかのように、
下着の類に包まれていなかった。今レヴィが着ているタンクトップを脱げば、素肌だ。
酸欠の金魚のごとくレヴィが口をぱくぱくさせている気配だけを感じながら、ロックは慎重に、
たわわで繊細なふくらみに、服の上から指を這わせ始めた。
 脇と腹のほうから軽く持ち上げる。床に座ったレヴィの腰がもがく。
 側面に触れている親指で、先端には触れないように撫で上げる。
 同時に、手のひらに確かな重みを伝えてくる乳房を、人差し指から小指を使って、
犬か猫の毛をかしゃかしゃと掻くように、ごく柔らかく揺らす。
 そうした時に漏れるレヴィの溜息は、深く、そして震えていた。
膝に乗せた腕の上に額を伏せて、ロックの指の呼び起こそうとするものに耐えている。
「──レヴィ、好きだ」
「…………、は、ッ……」
「好きだ、レヴィ。レヴィが好きだ。──俺にしてみたら、世界で一番いい女だ」
「……ロック、──……!」
「大体さ、何でふたりして生殺しになってなきゃいけなかったんだ?
 俺も……だけど、レヴィは全然気づいてないし──気づかない振りしてただろ。
 しないで後悔するより、ヤッて……じゃない、やって後悔したほうが、何倍も……」
「……てめェ、ソレ、女の胸揉みながら言う台詞かよッ……この、クソッタレ!」
 タンクトップ越しの五指に、彼女の乳房がしっとりと張り詰め、湿り気を帯びたのが判る。
憎まれ口はそのままながら、レヴィはロックを振り払おうとはしない。そうしたければ、そうできるにも関わらず。
そのありさまが憎たらしいやら愛しいやらで、ロックの手には自然熱がこもる。
 未だ三角座りのままの彼女の後ろから、足を伸ばしてその腰を抱え込むように座り、
ひくひく震える背中にシャツの胸を密着させる。お互いの鼓動が、熱せられた鉄を叩く槌のようだと思った。
 指を食い込ませるでもなく、柔く、何度も、粘っこく。

421 :ロック×レヴィ ロアナプラ編 4/4:2010/10/02(土) 17:38:51 ID:2CnvC5Rm
 レヴィの豊かな乳房に、ショートケーキの上に搾り出されるクリームのような、
自分の指による筋がついてしまうぐらいに──途中からは彼女の腰にみっともなく股間を擦り付けさえしながら、
ロックはひたすら、悦びを引き出すためのステップに終始した。
 好きな女が腕の中にいて、抱きしめるだけで素っ頓狂な声を上げて、
しかも普段触れさせないようなところに触っても逃げないのだ。
そこから官能に繋げていくプロセスを、作業だなどとは呼びたくない。決して、絶対に。
 そうして布地に淡い陰影を生む乳首を、やはりタンクトップの上から掠ると、
レヴィはスタッカートの利いた溜息をついた。ためしに押し込んでみると、フェルマータ。
摘まんで捏ねて、指の腹でごくごく軽く抓って、吐息の種類がそのたび増える。
彼女は拗ねたように立膝の上に乗せていた腕を力なく横に落としていて、
その分だけロックの動きは自由自在になっていく。
「レヴィ、俺にもたれて。背中、それじゃ苦しいだろ」
 ロックが促すと、ぎこちなく、実にぎくしゃくと、レヴィの身体がリクライニングしてきた。
汗と、煙草と、アルコールと、発情したおんなの肌の匂い。くらくらする。
矢も盾もたまらなくなって、夢中で唇を吸った。舌を絡めようとして歯がぶつかり、
かちんとお互いの口蓋に火花が散ったが、もうそんなことを気にしている余裕が無い。
 タンクトップをようやくたくし上げて、表面は汗で冷たいのに、
内側に燃えるような熱を孕んだ彼女の素肌に、直接触れる。
「──……、っう……んふ、──はァ、ぁ、ふ…………!」
 接吻はやめられず、しかしレヴィの乳房を愛でることも止められず、
身体の各所のつながりはばらばらにされていく。神経が焼け焦げていく、快感。
指の股で乳首を挟み込んだまま、どこまでも柔らかくとらえどころなく手のひらに吸い付く、
レヴィの胸乳を堪能する。彼女が身を捩ろうとして切なく腰を振るたび、
その裏側で押しつぶされているロック自身までもが揺さぶられて、殺人的に心地よい。
「レヴィ……レヴィ、レヴィ。好きだ、レヴィ。お前のことが好きなんだ」
「……ロック、……クソ、呼ぶなよ、ぅふ、ンッ……! そんな、あッ、声……やめろッ……」
 癒着しかかったような唇をもぎ離して、ひたすらレヴィを呼んだ。
 このままいけば、乳房から送り込まれる快楽だけで彼女の悦びを極めさせられるのではないかと、
そんなことを思うが、自身はもうひとつの脳のように、レヴィの胎内を掻き回したいと叫ぶ。
「…………レヴィ、じゃあ、──二択で答えてくれ。俺は、お前が好きだ」
 好意にはそれに見合った裏事情や、唾棄したくなるばかりの行為が伴う。
その後遺を彼女から取り去ってやれるなどと傲慢は言うまい。
ただ受け取って欲しいから、快楽と苦悶と、相反する表情に染め上げられたレヴィの顔を見ないように、
耳朶に唇を近寄せて、その端をくすぐりながら、ロックは囁いた。
「だからレヴィ、…………“I love you.”か“Me too.”で──答えをくれ。
 ……答えがなかったら、“No”だってことだから──そしたら、止める。」
 レヴィの唇が震える。
 動きを止めてしまったロックの手のひらに、彼女の乳房の揺れが伝わってくる。
 ハイかYesしか突きつけていない、身勝手な男の言葉に、甘く掠れたハスキーな声で女が返した答えは、
すぐに重なる接吻に隠され、ロアナプラのヤモリの耳にも決して届くことはなかった。

fin.



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