558 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/13(土) 20:55:07 ID:tFYKTC0l



始まりは、いつも曖昧だ。

会話がふと途切れた時。
互いの視線が絡んだ時。
指先がかすめるように触れた時。

そんな些細なきっかけで、情事は始まる。


レヴィがロックの部屋でシャワーを浴び、ベッドに腰掛けてぼんやり煙草を吸っていると、
バスルームから出てきた彼が隣に座った。
わずかにベッドがきしんで、レヴィの体がそちらへ傾く。
ロックは煙草をくわえると、ライターを手にして火をつけた。
二人分の煙が白く立ちこめる。

「骨は?」
「もうついたよ」
「痛みは」
「もうない」
「そうか」
「レヴィの方は?」
「問題ない」
「本当に?」
「嘘ついてどうする」
「見せて」
「やめろ」

交わした言葉はどれくらいだったか。
手にしていた煙草は灰皿にねじりつけられ、ロックの気配が近づく。
腕に軽く触れてきたロックの手は、そのうちレヴィの肌の上をすべり出し、くるりと二の腕の内側に入り込む。
シャワーを浴びたばかりで湿った肌の体温と、互いの息づかいが絡む。
触れられたところが熱い。
伏せた視線が交差したあたりから、空気の色が変わり出す。
張りつめて、密度を増す。
呼吸が、混ざる。

目線を上げると、ロックの瞳とぶつかった。
レヴィが目を伏せていた間もずっと、ロックはこちらを見ていたようだった。
正面から視線がぶつかったのは一瞬。
唇は、どちらからともなく重ねていた。

ゆっくりと体を寄せる速度も、わずかに顔を傾け合う角度も、最初に触れ合わせる強さも、
もう、すべて了解している。
互いの唇の感触を味わって、ゆるんだ唇の隙間から差し入れられたロックの舌と、熱を絡ませ合う。
ロックの腕が背中にまわってくるのは、唇が触れ合う直前か、直後か、あるいは同時か。
よく分からないうちにレヴィの体はすでにロックの腕の中にあって、その腕に抱き寄せられる。
レヴィの腕も、気づけば彼の体にまわっている。
すべて、了解している。
ロックの手が、やがてレヴィの肩をゆるりと包んで押してくるのも、
そのあるかなきかの強さにレヴィが自ら体を後ろに倒すのも、
その後に行われることも、全部。


559 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/13(土) 20:55:58 ID:tFYKTC0l

結局、きっかけは何だったのだろう。
始まりは曖昧のまま、レヴィの体はロックのベッドに沈み、
唇を落としてきた男に首筋を撫でられると、体の中がざわめいた。

思えば、初めてこの男と交わった時から、きっかけは曖昧だった。
たぶん、「理由」と呼べるものなど何もなかったのだろう。
その時そこにいたから。
ただの成り行き。偶然。もののはずみ。
あの時二人の間に存在したのは、そんなものだけだったのだろうとレヴィは思う。
故郷を捨てて弱った男のそばにいたのは、故郷を持たない女だけだった。
平和なのか不穏なのかも分からない、すべてを飲み込み尽くす底知れぬ街トーキョーで、
二人は寄る辺ないみなしごのように互いを求めた。
暗くさかまく海流に流されまいとするかのように。
拠り所を失った男が闇雲に伸ばした手の掴んだ藁が、自分だった。
それは分かっていた。
それでも良い、それで良いと思った。
彼の真心がそこになくても、それで良い。
気を紛らわすためであっても、それで良い。
同じところで生きられるのなら、それで良い。
そう思った。

けれど、今では後悔している。
ひどく激しく。

仰向けに横たわった体を、ロックの手がやわらかく這う。
唇をつなげたまま、首筋の線をなぞり、鎖骨のくぼみに親指を沈ませ、肩を包み込む。
二の腕をすべり落ち、脇腹の方へと渡る。
肋骨を数えるように這いのぼり、乳房をすくいあげられると、呼吸が揺れた。
思わず喉の奥で声を漏らすと、ロックが唇を離した。
濡れた唇が、今度は首筋へと寄せられる。
顔をそむけると、ロックの指が髪の中に差し込まれた。
生え際に指先が触れ、ざっくりと奥へともぐってくる。
そして、耳のつけ根に唇の熱が押しつけられた。
そむけた顔が、まるでそこへの口づけを待ち望んでいたかのようで、レヴィは思わず眉をひそめ、
次いで、いや、まさに待ち望んでいたのだと自覚して、更に眉間の皺を深くした。
ロックの唇は何度も首筋に触れ、小さく湿った音をたてた。
皮膚の下に流れる大動脈を、つぅっと舌がなぞった。
ざわり、と。
悪寒に似た震えが全身をよぎって、レヴィは思わず体をこわばらせた。
舌の熱さで、脈動がさらに激しくなる。

──駄目だ。

頭の隅で警鐘が鳴る。
駄目だ。
こんなのは、駄目だ。

頭の中では激しくサイレンが鳴っているというのに、
レヴィの指は、首筋を順々に下がって鎖骨にまでたどりついたロックの髪に差し込まれた。
首もとで突き出ている骨をロックの唇が包み込み、舌がくぼみを探る。鎖骨の裏をなぞる。
自分では見えないのに、その舌によって今どんなに自分の鎖骨が浮いているのかを知らされ、
レヴィはそら恐ろしくなった。
鎖骨の浮き出ぐあいも、首のうしろの骨の存在も、肩胛骨の厚さも、全部全部、この男によって知らされた。
自分の体だというのに、知らなかった。
この男に触れられるまで、ずっと。

560 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/13(土) 20:57:01 ID:tFYKTC0l

ロックの唇が胸もとまで下がってきたあたりで、掌は乳房をやんわりと寄せあげるように包み込んだ。
心臓が温められるように、熱が染みてきた。
唇は丁寧にふもとから曲線を小刻みにのぼり、ようやく先端に到達したところで、じらすように周囲をなぞった。
それから、乳首がゆっくりと熱く濡れた粘膜に包まれた。
まだほのかにやわらかかったそこが、唇の中に取り込まれた瞬間、急激に尖った。
ロックは、唇の内側のなめらかな粘膜で乳頭の輪郭をなぞった。
尖ってかたくなった全体を口に含み、触れるか触れないかの強さで先に向かって唇を沿わせる。
じわじわと、粘膜がすべる。
すぼめた唇から濡れた先端がこぼれ出ると、急に外気にさらされて、ひやりと冷たさを感じた。
しかし、それも束の間、また熱に包まれた。
今度は舌を寄せられる。
唇でそっと挟み込んで、やわらかくした舌でそろりと舐められる。
舌は側面から優しく押しつぶしたかと思うと、今度は乳首のつけ根をくるりと周回する。
掌は、やわやわと乳房を包んで揺らす。
その指先が、ほんの少しだけ、やわらかく肉に沈み込んだ。

──駄目だ。

レヴィは溶けてくる頭の隅で思う。
駄目だ。
このままでは駄目だ。
今すぐやめなければ。

しかし、時はもうすでに遅く、唇に取り込まれた先端を軽く吸いたてられると、
レヴィの腕は反射的に男の頭を抱き込んでいた。
ロックの息で胸もとが熱い。
いや、熱いのはレヴィの体そのものか。
それを証明するかのように、ロックの手は乳房を離れ、肋骨を撫で下ろし、腹を通りすぎて、
薄い下着にゆきついた。
布の上を、指がそっとたどる。
薄布越しに這う指が神経をかすめ、体の芯が疼いた。
ロックの指は、下着の上からくぼみを探る。
指の腹を押しつけて、とろかすように揺らす。
揺らして、そしてなぞり上げた指は、正確に、レヴィの割れた線をたどっていた。
指は一点でぴたりと止まって、くすぐるような強さで撫でてくる。
脳が、溶ける。

またくぼみの方に戻った指に探られると、ぬるりと布がすべった。
レヴィの体がどれほどに溶けているのかを、ロックの指におしえられる。
そして、レヴィの胸の内がもっと蕩かして欲しいと待ち望んでいることも。

──駄目、だ。

サイレンの音はいっそう強くなる。
やめないと。
やめないと、戻れなくなる。
後戻りできなくなる。

561 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/13(土) 20:58:02 ID:tFYKTC0l

ロックの指は、下着が熱を吸って用をなさなくなり、
レヴィの腰が我慢できずに揺らめき始めてようやく、下着のラインを越えてきた。
熱をあふれ出させている源に直接触れられ、
レヴィは思っていたよりもずっと、自分の体がうるんでいたことを知った。
ロックの指がとろけた粘膜にひたされ、そこにあふれていた熱の中で揺らいだ。
まだ、指は表面を撫でるだけだ。
それなのに、まるで体の内側を撫でられているかのような感覚に、レヴィの膝は震えた。
ロックは指先でとろりとした熱を絡めとると、ゆっくりと襞の間をなぞりあげた。
やわらかい襞を押しひろげるように、ロックの指がすべる。
ぞく、と。
神経を剥き出しにされて直に撫でられたかのように、体が震えた。

下着をすべて取り去ったロックの指は、丁寧に襞の間をなぞる。
レヴィの体からあふれる体液をすくいとって、隙間を通って、先端へ。
神経の固まりのような先端を、濡れた指でやわやわとこねる。
根本をなぞり、そっと押しあげ、きゅう、と脇からやわらかくつぶす。
思わず腰を浮かせたくなったところで、指はまた襞の隙間を戻ってゆく。
そうやってたどられるごとに、うるみが更に増していくのが分かった。

ロックは、レヴィが欲しいと思うよりもほんの少しだけ弱い力で刺激を与え続けた。
まるでレヴィの心中が見えているかのような、忌々しくなるほどの正確さで。
もっと触れて欲しいと、レヴィが必死で抑え込もうとしている情欲が無理矢理引きずり出される。
表皮を全部剥ぎ取られて、したたる中身が露わになる。

──駄目。

その「駄目」が、これ以上続けてはいけない「駄目」なのか、
もうこれ以上我慢できなくなった「駄目」なのか、
すべてがないまぜとなって快楽に押し流されそうになった時、
ロックの指がレヴィのなかへとはいってきた。
第一関節、そして第二関節が通過していく。
すっかりとろけて神経が剥き出しになったかのような粘膜のせいで、
体のなかへはいってゆくロックの指のかたちが、はっきりと分かった。
銃を持たない、ロックの指。
ペンを持つのが一番似合う、ロックの指。
ロックの指は男にしては太くなかったが、それでも関節の太さはまぎれもなく男のそれで、
よく知った男の指を待ちかねたように、レヴィの体は震えた。

優秀なロックの指はレヴィのなかの角度を完全に覚えていて、
まったく痛みを感じさせることなく侵入してきた。
根本までうずめてしまうと、今度はゆっくりと引き抜く。
ぬるりと指がすべり出ていく。
そして、抜けきる前に、また沈む。
繰り返されると、さらに熱があふれる。
とろけた内側をかきまわされて、はぁっ、と思わず吐息がこぼれた。


562 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/13(土) 20:59:10 ID:tFYKTC0l

ロックのぬるついた指は、外側の襞も、その先の突起も、余すところなく蕩かした。
もう内側も外側も分からず、催促するようにうねる体を止めることはできなかった。
なけなしの羞恥心か、それとも更なる刺激を求めてか、脚が内側にきゅっと締まった。
レヴィの膝を割っていたロックの片足は、脚が閉じようとするのを阻止すると、ぐ、と膝を外側に寄せた。
閉じようとした脚は、逆に広げられた。
その開いた体に深く深く指を沈められて、レヴィは呼吸が止まりそうになった。
喉の奥で破裂しそうになった声の塊を、すんでのところで押し殺す。
しかし、唇で温かく包まれていた乳首を急に強く吸いあげられて、胸の中に抑え込んだはずの声があふれ出た。

「──あ…………っ」

不意打ちだった。
胸から意識が外れていたせいで、身構えることができなかった。
痺れのような刺激が体の芯を通って、心臓が肥大化したかのようにどくどくと脈打った。

ロックは静かに乳首から唇を離すと、みぞおちに向かって点々と口づけた。
肋骨からみぞおちに到達すると、くすぐったい。
腹に唇が落ち、へそを通り過ぎ、下腹に到達したところでようやく、
彼がこれから何をしようとしているのかに気づき、レヴィは慌てた。

「ロック、やめ──」

しかし制止は間に合わず、レヴィが上体を起こす前に、ロックは舌を襞の間に這わせていた。
「──────っ」
舌先は襞の奥を探り、そのまま舐めあげる。
指とは違った熱くやわらかい塊が生き物のようにうごめいて、レヴィの背中はシーツの上で反った。
粘膜どうしがぬるりと絡んで、レヴィの感覚を責めたてる。
ロックの唾液とレヴィの分泌液、二人の体液がロックの舌で混ぜ合わされて、ちゅく、と密やかな水音をたてた。

舌は、襞の間を何度も往復し、とろけた奥を探り、先端をころがした。
体がこわばり、膝が震える。
図らずもロックの頭を挟み込む形となった太ももを、ロックは両手で押し広げると、
両の親指でそっとレヴィの襞を開いた。
露出した粘膜をぞろりと舐めあげられて、レヴィは思わず息をもらした。
次の瞬間、剥き出しになった小さな突起を唇で包み込まれた。
腰の裏が甘く震える。
たまらず、手の甲を自分の唇に押しあてた。
そうしないと、胸の中でふくらんだ、情欲まみれの声があふれ出てしまいそうだった。

563 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/13(土) 20:59:47 ID:tFYKTC0l

ロックは、レヴィが手を口元にやったことに気づいているだろうに、構わず唇で包み込んだ突起を舌でつついた。
熱くやわらかい感触に、息が震える。
唇はそのままに、ロックは入り口に指を添えると、静かになかへ沈めた。
舌は押しあげるように突起をやわやわとつぶし、指はゆっくりと抜き挿しを繰り返す。

──やめろ。

レヴィは浮き上がりそうになる腰を抑えつけて、思った。
そこは、口をつけるに値するところじゃない。
何度も傷と汚濁にまみれた。
今は、浅ましい女の情欲が腐臭を放っている。
だから、やめろ。

そう言いたいのに、口を開けば出てくるのは言葉にならない声だけだということは分かりきっていたので、
レヴィはただ手の甲を唇に強く押しあて、目をぎゅっとつぶった。

──なんで。

なんで、こんなことをする?
レヴィは枕に頬を押しあてながら眉をひそめた。
こんなことをしても、男は気持ち良くなんかならない。
これは女が喜ぶやり方だ。
気持ち良くなりたいのならば、そんなことをしていないで、さっさと突っ込めばいい。
突っ込んで、揺さぶって。
濡れていないとやりにくいのだったら、唾でもローションでも何でも使えばいい。

──なんで、こんな──。

一瞬、真偽を問い質したいような気分になったが、その答えがひとつしかないことは承知していて、
だからレヴィは問いを飲み込んだ。

──決まってる。あたしの性欲を満たすためだ。

いくら押し隠そうとしたところで、上昇する体温と早まる鼓動までは隠せるわけもなく、
レヴィの体の奥からあふれる体液はまさに欲情のしるしだった。

564 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/13(土) 21:00:40 ID:tFYKTC0l

──見抜かれてる。

惨めな気分でレヴィは思う。
ロックは銃を持たずに悪徳の街で生き延びることを選んだ。
その為に必要だったのが、手を下してくれる他人。
もしくは、身代わり。
彼の至上命題は、銃になってくれる他人を手なずけること。
それが彼の命の明暗を分ける。
そして、彼は手に入れた。
思うままに動く、銃を。
銃はなかなか手に入らない。
殊に、ホワイトカラー上がりの、育ちの良い男には。
手に入れたものは慎重に飼い慣らし、できるだけ長く使うのがベスト。

誰が自分にとって有益なのかを見定め、
そいつが何を望んでいるのか、どうすれば望み通り動かせるのかを冷静に探る。
生き延びるためには、それが肝要だ。
この男がその理に気づき、そうして見極めた結果が、これなのだ。
レヴィという銃に必要なメンテナンスはこれと、判断した。

それは忌々しいほどに正しかった。
だからこそ、終わらせたかった。
この男に、醜い女の貌など見せたくなかった。
でも、「もう、やめよう」と、それが言い出せなかった。

最初は、好きに使えばいいと思った。
セックスなど反吐が出る。
でも、この男とならば我慢できるかも。
そう思った。

けれど、逆だった。
胸の奥で眠っていた性欲を、引きずり出された。
気づけばいつも、ロックはレヴィの頭の中身を見定めるような目で見ていて、
自分をコントロールできなくなるのはレヴィの方だった。

──どうして、あたしなんだ。

何度もそう訊きたくなって、でも、その答えをロックの口から聞きたくなくて、胸の奥に押し戻した。
訊かなくとも、あの冷静な目がすべてを物語っていた。
日本で出会った可憐な少女に、ロックは照れたような目で笑いかけた。
和やかに、優しげに。
あれこそが、丁重に扱うべき女を見る目だ。
レヴィはそんな目を向けられた覚えがない。
当然だ。
自分には、珠のように白くなめらかな肌も、華奢な肩の線も、高くはかない声も、何もない。
人を安心させる笑顔も、傷ついた精神を癒す手も、優しく包み込んで休ませてやる腕も、何も、何も。
あるのは、人を殺し慣れた血まみれの手と、死体を踏み越えていくための脚。
ロックが自分の方を向いてくれることは、決して、ない。


565 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/13(土) 21:01:22 ID:tFYKTC0l

そうであっても、続けるのか。
レヴィは自嘲に顔を歪めた。
あたしはセックス・フリークなどではない。
そんなことをしなくたって、ちゃんと護ってやる。
役割は心得ている。

それなのに「もう、やめよう」と言えないのは、なぜだろう?
結局、未練のあるのは情事にか?

──ちがう。そうじゃない。

ちがう。

──あたしは、あんただから──。

でもそれは、とても分かって欲しくて、そして絶対に知られたくないことだった。
いつでもやめられると思った。
いつでも戻れると思った。
けれど、いつしか帰る道を見失っていた。

これは成り行き。気まぐれ。それで良い。
そう思っていたはずが、ロックの優しげな手つきに、つい、期待が頭をもたげる。
指を髪に差し入れて、ゆっくりと梳くのはどうして?
首筋をなぞって、そっと口づけるのはどうして?
そんなに優しく触れるのは、どうして?
しかし、どうして、どうして、と繰り返しながら、それは真意を問う疑問などではなく、
結局ただひとつの答えを望んでいるだけなのだということに気づいた時、
レヴィはこの男と肌を重ねたことを、心から後悔した。

知らせないで欲しかった。
セックスが暴力の一形態などではないことも、
特別な男とするセックスがどんなものなのかも、
そのとき、自分の体がどうなるのかも。

──ロック、なんであたしを抱いた。

自分を棚に上げ、レヴィはロックを恨めしく思う。
抱かないで欲しかった。
自分を見てくれることが決してないなら、抱かないで欲しかった。
だって、期待する。
見ろよ、と。
あたしを見ろよ、と。
叶うはずのないことを、期待する。

でも、ロックが救いたいのはいつも別の誰かで、自分はそのための手段なのだ。
そんな女に対してここまでするとは随分と仕事熱心なことだと、皮肉のひとつも言ってやりたくなるが、
生き延びるためならそれぐらいのことは屁でもないことを、レヴィはよく知っていた。

なぜって?

──なぜって、あたしが、そうだった。



566 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/13(土) 21:02:48 ID:tFYKTC0l

 * * *

生き延びるためには何が必要なのか。
それを悟ったのは、レヴィがまだ「レヴィ」と呼ばれることなく、ただの「レヴェッカ」だった頃、
窃盗や傷害を繰り返した末に放り込まれたニューヨークの刑務所でのことだった。

塀の中は、歴然たる弱肉強食の世界だった。
恐ろしいのは看守や懲罰などではない。
囚人だった。
人間が複数いれば、上下関係ができる。派閥ができる。
自然、力のあるものが上にゆき、ヒエラルキーが形成される。

誰が何を望むか、見極めろ。
隙を見せてはならない。
一度弱みを見せれば、弱ったシマウマのようにハイエナにたかられる。
金は確かに力だった。
しかし、そもそもレヴェッカは金など持ってはいなかったし、
シマウマと認定されれば最後、金は交換価値を持たない紙くずとなる。
その日から安眠は保証されず、いつ煙草の火に肌を焼き溶かされるか、歯を何本なくすか、
そんな心配で頭をはち切れさせることになる。
死にかけのシマウマとして認識された者がたどる末路は、外の世界よりも非情だった。
誰が何を望むのか。
何をすれば安全が保証されるのか。
この身ひとつで乗り切らねばならない。
生き残るのに必要なのは、洞察力だ。
レヴェッカはそれを悟った。

だから、ある夜、刑務所の固いベッドで丸くなって眠っていた体をまさぐられた時、
一瞬びっくりしてその手を振り払いそうになったが、すぐに、これはチャンスだと思い直した。
レヴェッカの乳房に手を伸ばし、物欲しげに体を押しつけてくる女の腕を取り、耳元でささやいた。
「……ヘイ、気持ち良くなりたいんだろ?」
あたしが気持ち良くさせてやる。そこに寝転がりな、ハニー。
言って、体を反転させる。
女を見下ろす。

──生き残ってやる。

そのためならこれぐらい、なんてことはなかった。
敵を作るな。
気分良くさせろ。
使える奴だと思わせろ。
レヴェッカはそっと、女の肌を剥いた。


567 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/13(土) 21:03:41 ID:tFYKTC0l

そうやって相手をしたのは、十人か、二十人か。あるいは、もっとか。
一度相手をしてやった女は、決まって二度三度とベッドにもぐり込んできた。
「レヴェッカ、あんた、どんな男より巧いわ」
女たちは口を揃えた。

──当たり前だ。

レヴェッカは思った。
男は自分の快楽しか考えていない。
あたしは逆だ。
あたしは相手の快楽しか考えていない。
同じ女だ。
どこをどうすれば気持ち良くなるかなんて、手に取るようによく分かる。
そこに少しの観察眼と洞察力、そして思い切りがあれば、どんな男よりも気持ち良くさせることができる。

レヴェッカは、欲情してほてった女の肌を、丁寧に唇でなぞった。
首筋、胸もと、肩口。
耳たぶに吸いつく音を聞かせてやり、外耳道に熱い息を吹き込んでやることも忘れない。
這わせる手はあくまでも優しく。そっと。
間違っても、強く乳房を掴んだり、乳首をつねったり、充分に濡れる前の膣に直接触ったりしてはならない。
肌の薄いところを触れるか触れないかぐらいの強さでなぞってやり、その下の血を温める。
いくら早く終わらせたいと思っていても、性急にことを運んではいけない。
触れる手はゆっくりと、じらすように。念入りに。
首筋を吸い上げ、舌を這わせ、手は肩から胸もと、脇に至るまで入念に撫でて、煽る。
肌が熱くなってきたところで、ゆるゆると乳房を揺らす。
そっと包み込んで、掌で温め、ゆっくりとこねる。
豚の尻のように膨らんでいようと、鶏ガラのように貧相だろうと、変わらない。
血液を、リンパ液を、温めてやればいいだけの話。
そして乳首を口に含んでやると、女の体がうねる。
頭上から、欲情した声がもれる。
女の匂いが強くなる。


568 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/13(土) 21:04:29 ID:tFYKTC0l

そう、大切なのは洞察力なのだ。
相手が何を望んでいるのか。
それを見極め、相手が望むよりもわずかに少ない刺激を与え、もっと欲しいと思わせる。
ねだるように体をくねらせ始めるのを待ち、その期待に応えてやる。

勃った乳首を唇で包み込んで、脇腹を撫でてやりながら、
さて、この女はどうされるのが好きなのだろうと、神経を尖らせる。
このゆるい刺激をもっと続けて欲しいのか、それとも、もっと強い刺激がお好みなのか。
もどかしげに体を揺らしてくれば少し強めに吸いたててやり、
頭に手を伸ばされれば、その手の導くように移動する。
お望みとあれば、足の裏だって尻の穴だって舐めてやる。

性器に触れるのは、たっぷりと全身を溶かした、その後だ。
早く触れてほしいとぬらついているそこに、そっと指を這わせる。
ぬるりと生温かい肉の間に指をひたし、ゆるくかき混ぜ、撫で上げる。
乱暴にしてはいけない。
女は男が思うよりもずっと、繊細だ。
やわらかい襞を少しだけ広げてやる、それくらいのつもりでいい。
陰核に触れるときは殊更に慎重に。
充分に濡らした指で、そのぬめりを絡ませてやるように撫でる。
女の腰が物欲しげに突き上げられる。

そうして、女の陰唇と陰核が生ぬるい粘液でたっぷりとぬめった頃、いよいよ、指を挿れてやる。
内側を傷つけないように注意しながら。
女が満足のため息をもらす。
抜いて、また挿れる。
肉壁を撫でて、関節を曲げ、ざらざらしたくぼみを探しあてる。
指の腹でこすってやる。
女がよがる。

色々な女がいた。
やわらかく溶かされるのが好きな女、激しく責めたてられるのが好きな女、奉仕させるのが好きな女。
レヴェッカの体に触れてくる女もいた。
服の中に手がもぐり込んできて、肌を探られる。
乳房を指が這う。
生きた蔦のように這いまわって、絡む。
ねっとりと、浸食されるように指が沈む。
男の乱暴さとはまた違った女の手の不快感に、悪寒が走った。

──触るな。

あたしに、触るな。
叫んで、手を引き剥がしてしまいたくなるが、ぐっとこらえる。
男の手のように痛みを与えてくるわけではない。
これぐらい、どうということはない。
口づけをねだられれば、してやる。
吸いついてくる唇のねとついた粘膜と、獣じみた呼吸が顔にかかるのを気持ち悪いと思いながらも、
唇を吸い、開いた隙間から舌を差し入れてやる。
育ちすぎたなめくじのような舌を絡めとり、口内をかきまわす。

──何が望みだ?

望むことは、何でもしてやる。


569 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/13(土) 21:06:13 ID:tFYKTC0l

そう、どの女も、彼女の望みに応えてやれば良いという点は同じだった。
そして、応えてやれば、どの女もだらしなく蕩けた顔をして浅ましく体をくねらせ、
股を広げて腰を振り、生臭い女の臭気を放つことも同じだった。
レヴェッカは、女のぬるついた膣に指を挿れてかき混ぜ、舌で陰核を舐め上げながら思った。

──この雌犬が。

発酵臭にも似た生臭い女の性器の臭いを嗅ぎながら、レヴェッカはそんな女たちを軽蔑していた。
性欲だけで脳味噌を膨らませ、年中発情している女。
犬ですら発情期があるというのに、人間は犬よりよっぽどたちが悪い。

時折、見当違いのサービス精神を発揮する女もいて、
お返しなどという殊勝なことを思いついたのか、自分だけ快楽に溺れているのが居心地悪くなったのか、
レヴェッカの脚の間に指を伸ばしてくることがあった。

──やめろ。

レヴェッカはそんな女の手を捉えると、引き離した。
触れというなら触ってやる。
舐めろというなら舐めてやる。
胸くらいなら揉まれたっていい。
けれど、性器には触れられたくなかった。
捉えた女の手をシーツに押しつけて、レヴェッカは薄く笑った。
「やめな、ハニー。あんたの仕事はそれじゃないだろ?」
女の耳元で低く言う。
「あたしが気持ち良くさせてやるから、おとなしくしてな」
大抵、それで本当におとなしくなった。

乱暴な物言いは女たちの機嫌を損ねることなく、むしろ好ましいものとして受け入れられた。
「レヴェッカ、あんたの声、すごくそそる」
そう溶けた声で言って、ぐねりと体を押しつけてきた。

──醜い。

自らも荷担しながら、レヴェッカの女たちを見る目は、「軽蔑」の一言だった。
生臭い雌の臭いをぷんぷんさせて、脂肪のつまった体をのたくらせる。
女の体は、それと知らずに触ってしまった腐ったオレンジの感触を思い出させた。
予期せず指が沈み、ぶよぶよした手触りが指先に残る。
組織が崩れ、腐った汁が染み出して、どろりと垂れる。
呆けた顔には、脳味噌の襞の間までもが性欲でいっぱいですと書いてある。
ん、んん、あ、ん、あ、あぁ、もっと──。
女の白痴のような喘ぎ声は不快感を煽り、生きた臓物に突っ込んだかのような指は気持ちが悪い。
饐えた女の性器の臭いは吐き気をもよおす。
腐ったカッテージチーズ、崩れて蝿のたかったショートケイクの臭い。
腐敗した生ゴミの臭い。

──売女が。

レヴェッカは、冷えた頭で女を見ていた。
不快だ。気分が悪い。
それでも、生き残るためだったらこれぐらいのこと、喜んでやってやる。

レヴェッカは、そうして、生き残った。


579 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/18(木) 21:29:58 ID:wZRdb37h


 * * *

──同じだ。

レヴィは、ロックの指に体のなかを探られ、舌と唇で陰核をもてあそばれながら、思った。

快楽に溺れる女を軽蔑していた。
理性も誇りも何もかも投げ捨てたような姿態で喘ぎ、
男の陰茎の代わりなら何でも良いとばかりに腰を振る女を、心底醜いと思った。

自分はちがう。
自分は決して、性欲なんかに溺れたりしない。
セックスのことしか頭にないような連中とはちがう。
そう思っていた。
けれど。

──あたしも、同じだ。

駄目だと思うのに、ロックに触れられると血が騒ぎ、彼の体温を求める。
肌を撫でられ、唇で吸われると、体の奥から湿った吐息がもれる。
全身をなぞられると、いつの間にか体が溶けて、ロックを待ち望むかのように震えている。
触れられるたびに体が波うち、ねだるように腰が浮く。

「────っ、ぁ……」

指をぬるりと差し込まれたと同時に、小さく尖っている突起をゆるく吸われ、声がもれ出た。

──同じだ。

刑務所の黴臭いベッドの上で女たちが上げた声と、何も変わらなかった。
欲情した、女の声。
ロックの指はなめらかに往復し、舌は襞の奥までもぐり込んで、突起を探り出す。
意思に反して、ロックの頭に押しつけるように腰が揺れた。
「……ロッ、ク…………、や、め──」
低く抑えつけたつもりの声は湿った吐息にまみれていて、レヴィはそれを途中で噛みつぶした。
ロックはようやく顔を上げると、レヴィの脚の間に陣取った位置はそのままに、
上半身を伸ばして上に戻ってきた。
そして、避妊具に手を伸ばした。


580 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/18(木) 21:30:56 ID:wZRdb37h

「いい?」
小さく訊かれて頷くと、体のなかにロックがゆっくりとはいってきた。
体は充分に溶けていたが、それでも、ロックは慎重に腰を進めた。
体のなかにぴったりとロックが収まると、ため息がこぼれ出た。
胸を合わせたロックの息と混ざる。
ロックはこめかみに軽く口づけて、それから動き出した。
奥を探るように小さく何度か動かし、それから、ゆっくりと抜く。
とろけた内壁をなめらかに移動される感覚に、胸のあたりまでもがざわついた。
ぎりぎりのところまで抜いて、また沈める。
押しつけるように、かき混ぜる。
外側も一緒にこねられて、レヴィは思わず、自ら腰を浮かせていた。

──駄目だ。

ロックは肘で体を支えたまま、押し上げるように何度も小刻みに揺らした。
そして、レヴィの前髪を寄せ上げ、頭を撫で、眉間に口づける。
首の裏側に手をすべらせ、そこを温めるように掌で包み込む。
深く、深く、体を沈める。
レヴィの体が反り返ると、そのシーツの隙間に手を入れて、抱き寄せる。
体を密着させて、さらに揺らす。

──こんなのは、駄目だ。

レヴィは、ぎゅっと目をつぶりながら思う。
物のように抱いてくれた良かったのに、と思う。
こんなやり方ではなく。
押さえつけて、道具のように。
レヴィの意思など、どこにも入り込む余地のないやり方で。
そうしたら、自分は変わらずにいられた。
セックスなんか下らない、セックスなんか大嫌いだ。
こんなものに溺れる奴の気が知れないと、冷笑して、蔑んで──。

こんな風にされると、快楽に飲み込まれてしまう。
そして、手を伸ばしたくなってしまう。
あるはずのない幻に向かって。

肌が溶けて、汗がにじむ。
密着した肌の上で、ロックの汗と混ざる。
ロックの吐息で、首筋が熱い。
体は、まるで最後のピースを得たかのようになめらかだ。
胸の中に、何か得体の知れないものが満ちる。

レヴィは目の前の体を抱きしめたくなって手を伸ばした。
ロックの背中に腕をまわし、体を寄せて──。
でも、その腕に力を入れようとしてふと、思いとどまった。

『触るな』

あたしに触るな、と。
刑務所の中でねだってきた女に対して、レヴィはそう思った。
満足なら、嫌というほどさせてやる。
だから、あたしに触るな。
触るな。
反吐が出る。
嫌悪をなだめつつ、行為を行う。
女のぬらつく肉の感触と、雌の体臭が蘇った。


581 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/18(木) 21:32:07 ID:wZRdb37h

──ロックも同じ、か?

レヴィの伸ばした手は、空中でぴたりと止まった。
ロックも、触れられるのが嫌だと、そう思っているのだろうか。
あの時の自分と同じように。
気持ちが悪いと──。

突然、胸の真ん中を刃で貫かれたように痛みが走った。
思わず眉がゆがむ。

──嫌だ。

自分が汚い体をしているのは、動かしがたい事実だった。
日に焼けた肌は傷だらけで、ふさがった傷跡も元通りにはならず、白っぽく盛り上がっている。
自分では見えないが、何人もの男に突っ込まれた性器はきっと、醜く爛れているのだろう。
それなのに、今では欲情した雌の臭いを放ち、男の陰茎をくわえ込む準備を整えている。
汚れた女。
それは自分が一番よく分かっていた。
けれど、この男に汚いと、気持ちが悪いと思われていると、それを考えると耐えがたい痛みが体を貫いた。

思えば、レヴィはロックに、きれいともかわいいとも言われたことがない。
ただの一度も。
そんなことを言われたいわけじゃない。
嘘をつかれるのは嫌いだし、そんな甘言を吐かれても、また何を企んでいるのだろうと思うだけだ。
けれど、一度も言わないということは、──そういうことなのだろう。

きれいだとも、かわいいとも思われなくていい。
それは事実ではないから。
でも、気持ちが悪いと思われるのだけは耐えられなかった。

「レヴィ」
体を揺らしていたロックの動きが止まって、密着していた体が少しだけ離された。
瞼を上げると、ロックの黒い目がレヴィを見ていた。
「……痛い?」
あの、頭の中を覗き込むような目で訊いてくる。
「痛くねェ」
上がった息を抑えつけて低く言うと、ロックの手が眉間に伸びてきた。
「──ここ」
ぴたりと指先が触れる。
「皺寄ってる」
触れられた指の下は、確かに皺が寄っていた。
「うるせぇ」
レヴィはロックの手を払いのけた。
「下らねぇこと言ってないで、さっさと動きな」
耳元で低くささやく。
そして、きゅっと体を締めて腰を浮かせてやると、今度はロックの眉間に皺が寄った。
止まっていた腰が動き出す。
徐々に、スピードが速まる。
一旦収まりかけた汗がまたにじみ出し、体温が上がる。
うるんでいた体のなかをロックにかき混ぜられて、粘着質な水音が響く。
ロックは湿った息をひとつ吐いて、唇を重ねてきた。


582 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/18(木) 21:33:21 ID:wZRdb37h

──痛いかって?

ロックと唇を合わせ、もう気持ちが悪いと思われようと知ったことかと背中に腕をまわしながら、レヴィは思う。

──痛ぇよ。

ロックが決して自分の方を向いてくれないと知りながら、
こうして抱き合うのも、口づけを交わすのも、耳もとで名を呼ばれるのも。
全部、全部、痛い。

──あたしだけか。

ロックは痛くないのか。
こんなに胸の奥が痛むのは、自分だけなのか。
レヴィは奥歯を噛みしめて、ロックの首筋に顔をうずめた。
ひどく惨めなのに、体は更なる快楽を要求するようにうねった。
ロックが与えてくる刺激に、脳内が浸食されてくる。
噛みしめた歯の奥で、喉が高く鳴った。
舌打ちしたいような気分で息を逃がし、また止める。

「レヴィ」
再度、名を呼ばれた。
今度はロックの呼吸も乱れている。
ロックの首に巻きつけた腕をゆるめて目を向けると、乱れた髪の隙間から言われた。
「声、出せよ」
黒々とした目で、射貫かれる。
「嫌だ」
低く、うなった。
「出して」
「嫌、だ」
まだ何か言いたげなロックを、レヴィは強く睨んだ。
この男は、これ以上更に、醜い本性を暴こうというのか。
ねばついた情欲を必死に押し込めようとしているのに、
その外皮を容赦なく剥いで、どろりとした中身を白日の下に晒せというのか。
「黙れ」
それ以上は許さない、とばかりにレヴィはロックの首に腕をまわし、強く拘束した。

──今更隠そうとしてどうする。

ロックを封じ込めながら、レヴィは自嘲する。
あの目に、レヴィの内に巣くう欲望を全部見透かされているというのに、
それでも淫らな本性を知られたくないと?
まったく無駄な足掻きだ。
素直に認めればいい。
自分も雌犬以下の売女だと。
そして今すぐこの男を下敷きにして、むさぼってやればいい。
それが、この世の酸いも甘いも噛み分けた『トゥーハンドのレヴィ』だ。
男に跨って、唇を歪めて言うのだ。
「おとなしくしてな、坊や。今からレヴェッカ姐さんが天国に連れてってやるぜ」
と──。

──でも。


583 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/18(木) 21:34:50 ID:wZRdb37h

やらなければいけないことはすべて分かっているのに、体が動かなかった。
溶け合った肌を離したくない。
目の前の体を、きつく抱きしめていたい。
そして、体にまわした腕を離さないで欲しい──。

結局レヴィは、ロックに絡めた腕をほどくことはできず、ロックの下で、達した。


頭の芯まで蕩かす快楽に体を何度も収縮させながら、
ああ、こうして達したこともすべてこの男に伝わってしまうのだろうと、レヴィは歯噛みしたくなった。
しかし体は何度もすがりつくようにロックへ押しつけていた。
まわした腕は強くロックの背中を抱きしめ、体のなかまでもが離したくないというようにロックを締めつけた。

溶けて混ざって、ひとつに融合してしまっていたかのような体を剥がされると、
まるで自らの内蔵を引きずり出されたような心地がした。
体の内側は、満たされているのか、それとも空虚なのか、それすらもよく分からなかった。
分かるのは、全身が汗でびっしょりなことと、つま先までもがひどく熱いことだけだ。
重なっていた体をほどいて、ベッドの端で横向きに落ち着くと、急激に眠たくなった。
体の内側は温かく溶けて、甘い余韻が満ちている。
首の下に伸ばされたロックの腕を、レヴィは特に何も考えずに迎え入れた。
つい先ほどまで、まるで自分の一部のようだった肌がすぐ近くに戻ってきて、
なんとなくもの寂しさが埋められるような気がした。
よく考えてみればこれは「腕枕」というやつで、何を馬鹿なことしているのだと思うが、
でも、このシングルベッドは狭いので、こうして身を寄せ合っていないと落ちてしまう。
だからこれは合理的なことなのだと自分に言い聞かせたのか、どうだったか。
もしかしたらそんなことは考える暇もなく、レヴィは眠りに落ちてしまっていたのかもしれなかった。



584 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/18(木) 21:36:03 ID:wZRdb37h

 * * *

少しの息苦しさを覚えて、レヴィは目を覚ました。
体はまだ眠りを要求している。
しかし、胸いっぱいに酸素を取り込みたくなって、レヴィは瞼を上げた。
何度かまばたきをして、ぼんやりとしていた意識が固まってくると、
どうやらロックの腕がぐるりと首に巻きついていることが分かった。
逆の腕は腰に絡まっている。
ちょうどロックに取り込まれるような格好で眠っていたせいで、息苦しくなったのだろう。
レヴィは顔の周辺に隙間を作り、大きく息を吸って、吐いた。
ロックは深く眠っている。
至近距離の睫は伏せられたまま動かない。
ただ規則的な呼吸だけが体を通じて伝わってくる。
レヴィは静かに一度身じろぎをし、
こんなにくっついていてこの男は寝苦しくないのだろうかと、まだ朦朧とした頭で考えた。

それとも。

──これもサービスの一環か?

それを考えた瞬間、すぅっと頭の芯が冷えた。
途端に、息苦しさが増す。
二人の間にこもった熱で、息が詰まる。
上掛けの中に立ちこめる情事の後の臭いが、急に迫ってきた。
生温かく、漂って絡みつく。
レヴィは思わず眉をひそめた。
生臭い。
発情した動物の臭い。
それは自分の臭いだった。
ロックはラテックスの中に吐き出した。
だからこれは、全部自分の臭い。
汗とはまた違った、発情した女の──。
首にまわされたロックの手が、顔のすぐそばにあった。
そのロックの指からも、女の臭いがした。
それに気づいたとき、レヴィはたまらなく気分が悪くなった。

刑務所で女の相手をした後の自分の指にも、同じ臭いが絡みついていた。
海の水を腐らせたような、それでいてどこか甘ったるいような、吐き気のする臭いだった。
すぐに洗い流したかった。
流水で手をこすり、石鹸を泡立て、爪の間からもすべて臭いを掻き出して──。
しかし、檻の中では存分に手を洗うことすらままならない。
特に夜ではシーツの端でぬぐうくらいが関の山だ。
そうして、次の朝に目が覚めて顔をこすろうとした瞬間、あるいは煙草を吸おうとした瞬間、
指先からふいに女の臭いが漂うのだ。
レヴェッカはそのたびに頬を引き攣らせた。

──ロックも?

レヴィは息苦しさを覚えながら思った。
ロックも顔をしかめているのだろうか。
交わった次の日の朝、指先から女の臭いがしていることに気づいて、不快感に眉をひそめて?
「やれやれ」とため息をつき、念入りに石鹸で手を洗って?
一人でゆっくり寝たかったと思い切り伸びをして、肌に残った女の臭いをすっきりと洗い流して、
歯を磨き、うがいをして?


585 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/18(木) 21:37:21 ID:wZRdb37h

だったらこんなことはしなくていい。
最後まで義務を完遂するかのように腕枕などしていないで、さっさと洗えばいい。
翌朝顔をしかめるくらいだったら、今すぐ洗えばいい。
疎ましく思うくらいだったら、帰れと言っていい。
気持ちが悪いと思われるよりは、その方がよっぽどましだった。

ひどく苦しくなって、レヴィは起き上がった。
上半身を起こして、ため息をつく。
自分の体に残る女の臭いに我慢できなくなり、レヴィはベッドを抜け出した。
シャワーを浴びたくなった。
他人の部屋で勝手にシャワーを拝借するのもどうかと思ったが、
ロックは熟睡しているし、わざわざ起こして了解をとるまでもないだろう。
きっと駄目とは言わないはずだ。
そう思って、レヴィは一度使ったまま椅子の背に引っかかっていたバスタオルをさらうと、そっとバスルームに向かった。

バスルームの電気をつけてドアを開くと、
暗闇に慣れた目に蛍光灯の光が突き刺さり、レヴィは一瞬目をすがめた。
目を細めたまま中に入ってドアを閉める。
そして手に持ったバスタオルを天井近くに渡っているバーに掛けると、バスタブをまたいだ。
シャワーカーテンを引いて、シャワーノズルを手に取る。
コックをひねると、水がほとばしった。
夜はやたらと音が響く。
シャワーの水は激しくバスタブの底を叩いた。
レヴィは水の温度を調節して、ゆっくりと首もとにあてた。
温かい水がじんわりと肌の奥に染みてきた。
頭を反らせて首の周辺をじっくり温めてから、胸、肩、腕、そして反対側の肩と腕にも温水をあてる。
全身をくまなく流すと、シャワーフックにノズルを戻して、ボディソープを泡立てた。
耳の裏、脇の下、脚のつけ根、隅々まで洗う。
全身泡まみれになった後、シャワーで洗い流す。
シャンプーまでは必要ないかと、頭はただ水をかぶるだけにして、シャワーを止めた。
生乾きのバスタオルでぐしゃぐしゃと髪を拭いて、全身の水気も拭き取る。
そうしてベッドに戻ると、するりとまたロックの隣にもぐり込んだ。


586 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/18(木) 21:38:12 ID:wZRdb37h

すべて洗い流したかと思った臭いは、しかしまだベッドに残っていて、レヴィの気分は再び滅入った。
レヴィはそっとため息をついた。
自分はこんなに情けない女だっただろうか、と思う。
こんなのはもう、終わりにしたい。
終わらせたい。
こんな対価などなくても護ってやると、気前の良いところを見せるべきだ。
レヴィという銃はそんなメンテナンスなど必要のない、優秀な銃なのだと。

──なぁ、本当はどう思ってるんだ?

いっそ正面から問い質してしまいたい言葉、何度も何度も胸の内で問いかけた言葉を、
レヴィは男の寝顔に声もなく投げかけた。

同僚? 相棒? 共犯者? それとも、道具? 手段?  
けれど、娼婦ではないといい。
そう思う。
特別な女だと思っていなくても、女として見られていなくても、
それでも、自分でないといけない何かがあるといい。
金では解決できない、他の誰かでは代替不可能な、何かレヴィでないといけない理由。
ロックから金を渡されたことはない。
レヴィはそれにすがる。

──なぁ、娼婦じゃないって、思っていいんだよな?

レヴィは、物言わぬ男の寝顔に、心の中で問いかけた。

声に出すことはできなかった。
答えを聞くのが恐ろしかったから。



587 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/18(木) 21:40:35 ID:wZRdb37h

 * * *

次の朝、目覚めてみるとだるかった。
筋力トレーニングは欠かさないのに、使う筋肉が違うのだろうか、体の裏側がべったりとだるい。
異物を取り込んだ影響はまわりの器官にも及んでいるのか、体の内側にもだるさは溜まっていた。
それに、睡眠も足りていない。
結局昨晩はあまり眠れなかった。
一度目が覚めても、少し気を抜くと容易に意識がシーツに吸い取られていった。
ロックが起き出したのは分かっていながら、レヴィはなかなかベッドから離れられなかった。

「レヴィ、そろそろ起きないと」
知らないうちにまた閉じてしまっていた目をなんとかこじ開けると、
もうワイシャツにスラックスを着込んだロックが見下ろしていた。
……う、と声にならない声で返事をすると、ロックは片手をベッドについた。
「遅れるぞ」
ロックの手にかかった体重で、ベッドがへこむ。
──ったく時間にうるせェな、ビッグ・ベン。
そう言ってやりたいが、口を開くのも億劫だ。
しかし、起きなければならないのはレヴィも分かっている。
仰向けになって、目の上に片腕を乗せた。
「ほら」
その腕を、ロックに取られた。
手首を掴んで、引っ張り上げてくる。
ブラインドの隙間からもれる光が目に刺さる。
「…………かったよ、引っ張んな」
仕方なくレヴィが体を起こそうとすると、ロックはレヴィの手を握って引き上げた。

レヴィはようやくベッドの上に座り込んだ。
しかし、とりあえず起き上がったは良いものの、頭はまだゆらゆらする。
また倒れ込んでしまいたい──。
その誘惑にそそのかされそうになった時、目の前に煙草が差し出された。
「はい」
目覚ましとばかりに、ロックはレヴィの口元に煙草を寄せてくる。
勧められるままにくわえると、今度はライターの火が差し出された。
条件反射で顔を近づける。
煙草の先端に火がついたのを確認してから深く吸い込むと、
ようやく少し頭がはっきりしてきたような気がした。

レヴィはのろのろと服を着込んで、ベッドに腰掛けた。
手際よくネクタイを締めるロックを眺めながら煙草を吸っていると、
「あ、そうだ」と何事かを思い出した風のロックが、部屋の隅の古びたクローゼットを開けた。
中を探って、ロックはボストンバッグを取り出した。
それを片手に提げて、ベッドに腰掛けるレヴィのところまでやってくる。
「これ、レヴィに渡そうと思ってたんだ」
ロックは、レヴィの足下にボストンバッグを置いた。
そのボストンバッグの開いた口からは、いくつもの札束が覗いていた。
レヴィは目をみはった。


588 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/18(木) 21:42:36 ID:wZRdb37h

「……んだよ、これ」
レヴィは、ぎり、と煙草のフィルターを噛んだ。
低くうなって、ロックを見上げる。
「なんだよ、この金」
残っていた眠気は、瞬時に吹き飛んでいた。
「この前の報酬だよ、張さんからの。ほら、ガルシア君たちの一件で──」
「金の出所はどうだっていい。なんであんたがあたしにそれを渡すのか、訊いてんのはそれだ」
目を細めると、ロックは戸惑ったように首をかしげた。
「あの件ではレヴィに世話になったから──」
「『世話に』? あたしはあんたを世話したつもりはねぇよ。金で雇われたつもりもねえ」
「──そういうわけじゃ……」
「じゃあ、なんだ? 給料ならダッチから貰ってる。あんたがあたしに金を払う理由は、なんだ?」

レヴィは吸っていた煙草を灰皿にねじりつけた。
「いいか、人は意味なく金を他人にくれてやったりはしねえ。
金にはいつも理由がくっついてんだよ。靴底にへばりついたガムみてえにな。
ゴールデン・アーチのカウンターに金を置く奴はビッグマックをお望みで、
貧しい子供とやらにしたり顔で寄付する奴はイメージと自己満足を買う。
金が乗っかった天秤の針はな、いつも平行なんだよ。
──で、今の問題はこれだ。
このアンチョビみてェにぎっしり詰まってる札束は、一体どういうわけだ?
こいつはバーで一杯おごるのおごられるのってェ話とは訳がちがう。
火ぃつけりゃサニーサイドアップのひとつでも焼けそうなこの札束の理由は?」
レヴィがロックの目を見据えると、困ったように眉が寄った。
「レヴィ、裏なんかないよ。勘違いしないでくれ。
今までだってずっと世話になってた。この前の一件だけじゃない。
いつも世話になってるのに、何も礼ができてなかったから──」

──「いつも」?

ひく、と頬が歪むのを感じた。
「……『いつも』って、なんだよ、ロック。『世話』って、なんのことだ」
レヴィはベッドから立ち上がって、ロックをねめつけた。
形良く結んだばかりのネクタイを、ぐいと掴み上げる。
「──『世話』って? どんな『世話』だ? あん?
……あんたのラブドールになってることか? は、今になってただ乗りに気が咎め出したか?」
「──ラブドールって、レヴィ、なに言ってんだ、意味が──」
「こんだけありゃあ立派な高級娼婦が買えるぜ。今度からそっちを買うんだな」
吐き捨てて、どん、とレヴィはロックの胸を突き飛ばした。
「レヴィ、待てよ、いい加減にしろ。俺は娼婦だなんて、そんなつもりは──」
手首を掴んできたロックの手を、レヴィは乱暴に振り払った。
「うるせェ。あんたがどんなつもりかなんて知るか。どうでもいいんだよ、そんなことは。
もう、我慢なんねェんだよ。確かに今まで世話してやったさ。それはあんたがひよこだったからだ。
細っこい脚でぴよぴよ歩くのが危なっかしくて見ちゃいられなかったからだ。
だが、いつまで下の世話までしてやらなきゃならない? もうそろそろ、巣立ちの時期だ。
──銃にはなってやる。……けど、てめぇの寝床はてめぇで探せ」
あたしは、こんなのはもう、御免だ。
低く続けると、ロックは掴んでいた手首を静かに離した。
「……嫌だったのか、レヴィ」

──嫌かって?

歪んだ唇の端から、乾いた笑いがもれた。
「……………………ああ」
「──本当に?」
ロックが探るように覗き込もうとする。
レヴィはその視線を避けるように顔をそらした。
「……ああ。嫌だった」


589 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/18(木) 21:43:51 ID:wZRdb37h

嫌だった。
彼の目が決して自分の上でとまってくれはしないことも、
そうと分かっていながら膨らむ期待を抑えきれないことも、
どんどん自分をコントロールできなくなっていくことも、
醜い本性をさらけ出してしまうことも、
惨めで情けない自分を突きつけられることも。
すべてが嫌だった。

レヴィはうつむいたまま、唇を強く引き結んだ。
古びた床の木の羽目板を睨みつける。
ロックはしばらくの間沈黙していたが、やがて、小さくひとつため息をついた。
「……分かった」
そして、一歩、下がった。
「……ごめん、レヴィ。──今まで、悪かった」
レヴィの頭の上から、いかにも申し訳なさそうな声が落ちてきた。
「──謝んじゃねェよ」
黒いインクの染みが広がるように、レヴィの胸に苦いものが満ちていった。

──謝るようなこと、したのかよ。

だが、それは皮肉というよりは、相手から否定の言葉を引き出すための、
最後の最後まで事実を認めたくない駄々っ子が突っかかっているだけの物言いにすぎず、
それを意識したとき、レヴィの苦みは痛みに変わった。

レヴィはロックの部屋のドアを開けた。
外の廊下に出て、ドアを閉める前に一言、言い残す。
「もう、ここには来ない」
「…………ああ。分かった」
敷居を挟んで向かい合ったロックは、それだけ言った。
顔を上げられなかったので、ロックがどんな表情をしていたのかは分からなかった。


598 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/21(日) 21:18:53 ID:2Uj4fvu5


 * * *

その後の一日をどんな風にして過ごしたのか、はっきりとは記憶にない。
ただ何も考えずに、目の前の仕事だけをこなした。
ロックとは顔を合わせたくなくて、なるべく視界に入らないように動いた。
そんな風にしていたらいつの間にか夜になっていたので、さっさと自分の下宿へと帰った。
帰って、自分の部屋のベッドに腰を下ろすと、どっと疲労感に襲われた。

──失敗した。

レヴィは暗い部屋の中で頭を落とした。
下手を打った、と思う。
小さく頭を振って、レヴィはため息をついた。

あそこでは、金を受け取るべきだった。
おお、わりィな、あんがとよ、と。そう笑って。
金は力。
そう豪語する無神論者。
金の亡者。守銭奴。それが自分だ。

昔、嫌というほど思い知ったではないか。
金さえあれば。
金さえあればすべては解決。
信用できるのは金だけ。


あれは、十を少しばかり過ぎた頃だった。
深い海の底から小さな泡が浮かび上がるように、レヴィの脳の奥底から記憶が蘇る。


 * * *


レヴェッカは毎晩のように街角に立っていた。
眠らない街ニューヨーク、チャイナタウンの裏通り。花売り娘として。
しかし、売っているのは「花」などではなかった。
街角に立ち、変態オヤジどもが声をかけてくるのを待つ。
稼ぎがないと、もう一人の変態親父に家に入れてもらえない。
冷たい風が吹き抜ける街角で、震えながら立ちすくむ。
満足に着る物もないので、ひどく寒い。
体に合わないぶかぶかの服の間を風が吹き抜け、体温を奪う。
レヴェッカは、いつも寝不足で空腹だった。
肉の薄い体は体温を保っていてはくれず、レヴェッカは枯れ木のような腕で自分を抱いていた。
はやく温かいところに行きたい。
でも、行きたくない。
どうすることもできずに、レヴェッカはただ冷たい街角で震えていた。

やがて、品定めをするような目で男が近寄ってくる。
レヴェッカの前で立ち止まる。
見上げた顔は、覚えていない。
霞がかかったようにおぼろだ。
しかし、言うことは皆同じ。

「お嬢ちゃん、いくら?」

その声を、絶望とともに聞く。



599 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/21(日) 21:20:00 ID:2Uj4fvu5


そこらでむしってきた雑草と同程度のはした金を掴まされて家に戻ると、ようやく食べ物にありつける。
ただし、家で待ち構えている変態親父の相手をした後だ。
「出せ」
何を、とも言わず当然のように差し出す父の手に、よれよれの金を乗せてやる。
「ふん、こんだけか」
蛭のように唇をうねらせて幾枚かの紙幣を数えると、
父は自分の薄汚れたジーパンのポケットにその金をぐしゃりとねじ込んだ。
そして、レヴェッカを睨む。
「今日は何人相手した」
酒臭い息がレヴェッカの顔にかかる。
「ふた、り…………」
その臭気に顔をそむけて答えると、突然、横っ面を平手で張り飛ばされた。
身構える暇もなく床に倒れ込むと、胸ぐらを掴み上げられる。
「あぁ? 二人、だぁ? てめェ、時間見てみろ! まだ十二時もまわってねェだろ!
これからが稼ぎ時だろうが! なに帰ってきてんだ、クソボケが! 時計も読めねェのか!
たったの二人で帰ってきてんじゃねェぞ!」
そしてもう一度、顔を張られる。
口の中が切れて、じわりと生臭い血の味が広がった。
「…………なに見てんだよ。あぁ? なに見てんだ! その目はなんだ!」
父は、グローブのように分厚い手でレヴェッカの顎を掴んだ。
「反抗的な目じゃねェか。あ? 許さねェぞ。俺に反抗すんのは許さねェからな!」
顎を握りつぶすような強さで掴んでから、がん、と乱暴にレヴェッカの頭を固い床にぶちあてた。
そして、レヴェッカの薄い腹の上に馬乗りになる。
ボタンをむしり取るように服を開く。
「しょうがねェから今日はこれで許してやるよ、レヴェッカ。外は寒いもんなァ? ん?
お前も出たくねェだろ? 感謝しろよ、レヴェッカ」
ズボンを下ろされ、下着も剥ぎ取られる。

──ふん、帰りが何時だろうが、稼ぎがいくらだろうが、結局いつもこうして突っ込むくせに。
てめェが今ヤりたくなっただけだろうが、とレヴェッカは唾を吐きかけてやりたい気分になったが、
ここで何か言えば、さらに暴行がひどくなるだけだ。
──考えるな。何も考えるな。
レヴェッカは必死で感情のスイッチを切ろうとする。

しかし、体を押さえつける父の声は、レヴェッカを現実に引き戻す。
「この穴に男のディック挿れてたのか?」
膣に、太い男の指がねじ込まれる。
「ぶっといヤツをよぅ。ん?」
「──ぃ、」
すでに無理矢理挿れられ、遠慮会釈なく奥を突かれていたせいで、内側が炎症を起こしたように腫れていた。
痛い、の声が出かけたが、必死で噛み殺した。
痛がれば、余計に面白がらせるだけだ。


600 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/21(日) 21:21:01 ID:2Uj4fvu5

父はバックルをがちゃつかせてベルトを外した。
中途半端にずり下ろしたジーパンの隙間から、膨張した陰茎を取り出す。
「舐めろ」
レヴェッカの口もとに陰茎の先を突き出す。
小便と精液が入り交じったような臭気が鼻をついた。

──またか。

気が進まなかったが、拒絶という選択肢はない。
レヴェッカは、のろのろと口を開いた。
陰茎の先が口の中に入ってくる。
「もっとだ」
もっと大きく口を開けろと言われ、レヴェッカはしぶしぶ従った。
「歯ァ立てんなよ」
言ったかと思うと、激しく奥まで突っ込まれた。
口の中が陰茎でいっぱいになり、息苦しい。
生臭い臭気が顔のまわりに立ちこめる。
父は両手でレヴェッカの頭をとらえ、腰を前後させた。
床に頭を押しつけ、激しく抜き挿しを繰り返す。
レヴェッカの小さな口で、いびつに肥大化した陰茎をしごく。
唾液が絡む。
歯が触れたら殴られる、その恐怖感だけで口を開けるが、顎は限界だ。
喉の奥を突かれて、レヴェッカはえづいた。
食道が痙攣して、胃がきゅっと縮む。
胃液が遡ってくる。
喉がにがく、熱い。
しかし、ここで吐いたら殴られる。
レヴェッカは喉の方にまで侵入してこようとする陰茎に窒息しそうになりながらも、
必死で胃液を飲み込んだ。

父はレヴェッカの髪を乱暴に掴んで、強く腰を押し込んだ。
髪を掴まれて持ち上がった顔に、何度も陰茎を突きたてる。
引っ張られる髪の痛さと喉の奥の苦しさに、呻き声がもれた。
その声を押し込めるように、父はレベッカの頭を両手で持つと、喉の奥まで陰茎を埋め込んだ。
狭い喉の奥をこじ開けるようにして無理矢理押し込んでくる。
激しい嘔吐感に、涙がにじんだ。
泣きたくない。
泣きたくないのに、反射的に出る涙を止められない。
耐えきれずに、水に溺れた人のような音が喉からあふれた。

気道を塞ぐ陰茎が一旦抜かれると、唾液と胃液が混ざったような液体が糸を引いた。
息継ぎをしようとしたが、その暇もなくまた奥まで突っ込まれる。
喉を塞がれ、呼吸ができない。
掴んだ頭を思い切り引き寄せ、ねじこんでくる。
レヴェッカが苦痛に顔を歪ませるのを楽しむように、何度も何度も繰り返す。
酸欠で頭がぼうっとしてきた頃、頭が床に戻される。
そして、万力のような手で固定される。
固い床に押しつけられた後頭部が痛い。
父はレヴェッカの顔に馬乗りになって、何度も上下した。
苦しい。
でも、どこにも逃げられない。

涙が、目尻を超えた。


601 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/21(日) 21:22:07 ID:2Uj4fvu5

父は陰茎を引き抜くと、ぐい、とレヴェッカの脚を大きく開かせた。
レヴェッカの唾液でべたべたになった陰茎を片手で握り、膣口にこすりつける。
「今日はどんな風に挿れられた? 犬みてェに後ろからか?」
ぬるぬると、先端をこすりつけてくる。
「それとも、こういう風に、か?」
ず、と押し込まれ、レヴェッカは体をこわばらせた。
傷口を開かれるかのような痛みと、体の内部に押し入られる不快感。
悲鳴を上げて蹴飛ばしてやりたくなるが、ぎゅっと目をつぶってこらえる。

「レヴェッカ、突っ込まれる気分はどうだ? ん? 今日お前が相手した男と、どっちがイイ?」
太い陰茎を動かされて、まだ育ちきっていない体がきしんだ。
悲鳴の源が体の中で膨らむ。
「ん? 俺の方がイイだろ?」
分厚い手がレヴェッカの薄い腰を掴んだ。
自由を根こそぎ奪うように、がっしりと。

陰茎が前後する。
狭い内側をこじ開けられる。
体の中がこすれる。
乱暴に奥を突かれる。
ひどく内蔵が痛んで、顔が歪んだ。
腰を動かされるたびに、鈍い痛みが腹の底に響く。
子宮なのか腎臓なのかよく分からないが、臓器の位置を動かされているのかと思うほど苦しい。
これ以上はもう無理。
入らない。
それなのに、無理矢理陰茎を根本まで押し込まれて、レヴェッカは呻き声を上げた。
背中に冷たい汗がぶわっと噴き出し、骨盤がみしみしときしんだ。
けれど、腰を引き寄せるように掴まれているため、逃げられない。
内臓が押しつぶされる。

──痛い、やめて、お願い、やめて、痛い。痛い、お願い、痛い、やめて、痛い、痛い、痛い──。

頭はただ苦痛と懇願で埋め尽くされる。
けれど、「やめて」と言ってみたところで
その願いを聞き届けてくれることは決してないと分かっていたので、
レヴェッカはただ歯を食いしばって耐えた。


602 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/21(日) 21:23:35 ID:2Uj4fvu5

「なぁ、レヴェッカ、お前は俺のもんだぞ」
父は腐った息でレヴェッカの全身を絡め取るように言った。

俺のもんだ。俺のもんだ。レヴェッカ、俺のもんだぞ。俺のもんだからな。

熱に浮かされたように繰り返し、レヴェッカの腰を掴み、何度も陰茎を往復させた。
血が流れ出してもお構いなく、突きたてた。
陰茎を赤くぬめらせ、血の泡がたつほどに。

逃がさねえ。逃がさねえ。絶対逃がさねえ。逃がさねェぞ、逃げたら殺すぞ、いいか、殺すぞ──。

そう言いながら、父はレヴェッカの首に手をかけた。
がさついた手に力が込められ、首が絞まる。
たちまち顔に血がのぼって、頭が破裂しそうになる。
まわりの音が遠のき、頭蓋の内側が脈打つ。
圧迫する手を両手で引き剥がそうとするが、毛ほども動かない。
息ができない。
開いた口が、空気を求めるように喘ぐ。

──たすけて。たすけて。誰か、たすけて。

レヴェッカはまじないのように唱えた。
たすけて欲しい「誰か」の顔も思い浮かばないままに。
母はもうすでに亡く、レヴェッカに優しくほほえみかけてくれる者は誰もいなかった。
その汚れた小さな手を握ってくれる者も、骨っぽい体を抱きしめてくれる者も、誰も。
「誰か」が魔法のように現れて、レヴェッカをゴミ溜めから救い出してくれることは、決してなかった。
首を絞める手は、重たい鋼の首輪のようだった。
レヴェッカを家畜のようにつなぎとめる、決して外れない鋼の首輪。

たすけて。
たすけて。
たすけて──。

レヴェッカの声は、誰にも届くことはなかった。



603 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/21(日) 21:24:34 ID:2Uj4fvu5

そんなレヴェッカにとって、学校は唯一の避難所だった。
持って行くランチボックスはなく、
キャンディの包み紙のように色鮮やかな服に身を包んだ同級生はまぶしすぎて目が眩む。
いつもぶかぶかの薄汚れた服を着て、ぼさぼさの頭のまま教室の隅に座るレヴェッカを、
ふんわり甘い匂いさせて高い声ではしゃぐ同級生たちは遠巻きにして見ていた。
いや、「見て」すらいなかったのかもしれない。
レヴェッカは「そこにいないもの」として片づけられていたのかもしれなかった。
それでも、学校は誰かの暴力に怯えないで済む唯一の場所だった。
代数、幾何、生物、地学、アメリカ史、スペイン語……。
こんなものを覚えても役に立つことなどないと分かっていても、
貸し与えられた教科書をめくっていると、その間だけは現実を忘れられる気がした。


しかし、その安寧にも終わりがきた。
「お前、誰にでもヤらせてんだって?」
日が暮れかけた校庭の隅っこで、レヴェッカが金網に寄りかかってしゃがみ込んでいると、
数人の男子生徒に取り囲まれた。
のろのろと顔を上げると、薄笑いを浮かべる顔が並んでいた。
中には、どことなく見覚えのある顔もいた。
同じクラスか、隣のクラスか。
まともに顔を覚えている奴など一人もいなかったので、
レヴェッカにとってはそれが誰であってもどうでも良いことだったが。

無言で睨みつけていると、スニーカーの先で小突かれた。
「立てよ」
眉をひそめると、小突く足が増えた。
「立てっつってんだろ」
仕方なく立ち上がって靴底が当たったところを手で払っていると、取り囲む輪が狭まった。
「なァ、お前、ヤりまくってんだろ?」
肩を掴まれ、後ろの金網に押しつけられる。
下種な好奇心ではち切れんばかりの顔がレヴェッカを囲み、見下ろしていた。
「うるせェ」
レヴェッカは肩を掴む手を振りほどき、体で輪をこじ開けた。
足早に立ち去ろうとすると、後ろからまた肩を掴まれ、囲まれた。
「なぁ、待てよ」
「見たぜ、お前が財布のふくらんでそうなオヤジとしょぼいホテルに入るとこ」
「毎晩立ってんだってなァ、あそこの通りに」
にやにやと、薄笑いが取り囲んでいた。
その顔をぐるりと見回してから、レヴェッカは片頬を歪めて笑った。

「だから?」

唇の端を吊り上げると、取り囲んでいた少年たちは一瞬ひるんだ様子を見せたが、
肩を掴んでいた一人が突然、高く笑い出した。
それにつられて、他の者も笑い出す。


604 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/21(日) 21:26:14 ID:2Uj4fvu5

「面白ェ」

最初に笑い出した少年は、レヴェッカのど真ん前に顔を寄せて言ったかと思うと、
次の瞬間、もの凄い力でレヴェッカの腕を引っ張った。
レヴェッカの体がぐらりとかしぐ。
「な……っ」
振りほどこうとしたが、後から後から手が伸びてきて、引きずられるように体が持っていかれた。
「やめ……っ!」
体を掴む腕を引き離そうとしたが、まったくびくともしなかった。
そのうち、逆に両腕も拘束された。
突っ張ろうとする足はむなしく砂の上をすべるばかり。

引きずり込まれたのは、校舎の裏手だった。
背の高い樹木が立ち並び、藪が生い茂っていて薄暗い。
隅の方に、前年のキャンパス・フェスティバルででも使われたのだろう、
何かを解体した廃材が乱雑に積み重なっているだけで、人ひとり通る気配がない。
露出した土の上に、レヴェッカは仰向けに引き倒された。

「……の、っざけんな──」
両手両足をばたつかせようとしたが、押さえつけられた腕の上に膝で乗られて、骨が悲鳴を上げた。
ちょうど固い膝蓋骨が腕の骨に食い込んで、神経が麻痺するほどに痛んだ。
そうしているうちに脚も拘束され、トレーナーをめくり上げられた。
トレーナーの下はすぐ地肌だ。
剥き出しになった腹と胸がすぅすぅと寒かった。

「うわ、きめェ」
レヴェッカの素肌を見た少年が顔を歪めた。
服の下は、毎日のように殴られ、蹴られるせいで、一面にどす黒い痣が広がっていた。
黒ずんだ痣の間に、赤く鬱血した痕や青く変色した皮膚が混ざって、まだら模様となっていた。
気持ち悪いなら見るな、と思ったが、トレーナーは更に胸の上までめくり上げられる。
少年の頬がうねって、下卑た笑いの形を作った。

「見ろよ、こいつ、ノーブラだぜ!」
レヴェッカの体を、いくつもの目が覗き込んだ。
どろどろとしたタールが広がるように、蔑む笑いが沸き上がった。
少年の手はレヴェッカに向かって伸びてきた。
青白くふくらみ始めた乳房を掴んだかと思うと、乱暴に握る。
まったくの手加減なしに握られ、レヴェッカの喉から思わず悲鳴がもれた。
ふくらみかけの乳房の奥には固いしこりがあった。
ただ何かが触れただけでも痛かった。
なのに、そのしこりを握りつぶすかのように掴まれて、レヴェッカは激しく顔を歪めた。
「そうやって誘ってんのかよ」
「ちげーよ、すぐヤれるようにだろ」
「ミキディーよりもお手軽だなァ、おい」
「ラッピング剥がす手間がねえってか」
そんな言葉と笑い声が体の上で飛び交うのを、レヴェッカはどこか他人事のような気分で聞いていた。

──そうか、もうみんな、ブラしてんのか……。

そんなことをぼんやり思っていた。


605 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/21(日) 21:27:39 ID:2Uj4fvu5

ほとんど食べていないせいで手足は棒のように細く、体にはあばらが浮いているというのに、
胸は如実にふくらんできていた。
服の上からでも分かるようになってきた変化を、レヴェッカはぶかぶかの分厚い服でごまかしていた。
レヴェッカのまわりには下着を買い与えてくれる人などいなかったし、
同じ年頃の女はどうしているのだろうとちらりと思うこともあったが、
それを知ったところで下着を買う金はなかった。
ふくらんできた胸を、父は、名前も知らない男たちは、下卑た目で見て揉み、舐め、いじくりまわした。
女になどなりたくない。
そんなレヴェッカをあざ笑うかのように、胸はふくらみ、腰はくびれ、尻は曲線を描き出した。
体が女に変わろうとしている──。
初めて、傷によるものではない血の染みを自分の下着に見つけた時、
レヴェッカは絶望に似た気分で首を落とした。
父親に知られてはならない──。
レヴェッカはひとり、血で汚れた下着を洗った。
けれど、無駄だった。
すぐに、血のついた下着、使い終わったパッドやタンポンは、商品価値を持つものだと知らされた。

「月経は、女性が子供を産める体になったというしるしです。
 性交は愛を確かめ合い、互いを慈しみ合う行為なのです。
 そうして愛し合った結果に生まれるのが、子供です。
 みなさんも、そうやって生まれてきたのですよ」

もっともらしい笑顔で言う保健体育の教師の言葉が、ひどく鬱陶しかった。
腹の底で、どす黒いかたまりがむくむくと膨らむ。
愛? 慈しみ合う?

──あれの、どこが?

腹の中で膨らんだ黒いものが、胸を浸食し、喉もとまで迫る。
渦巻いて、膨張する。
体の中で、暴れる。
黒いかたまりは体の中だけに留まっていられず、今にも胸を食い破ってあふれ出てしまいそうだった。
レヴェッカは、叫んでしまいかった。
喉が切れて血がにじむほどに。
にこにこと嘘くさい笑顔を振りまく教師、
隠しきれない好奇心を覗かせながら神妙な顔をして席についている生徒、
そんな奴らの目の前で、ファックの現場を洗いざらいぶちまけて、
これのどこが「愛」なのだと、これのどこが「慈しみ合う行為」なのだと、
あたしに分かるように説明してみろと、そう大声で叫んでしまいたかった。



606 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/21(日) 21:29:11 ID:2Uj4fvu5


レヴェッカは大勢の少年の手に押さえつけられながら、必死にもがいた。
「──っざけんじゃねェぞ、離せ!……離せ!」
しかし、少年といえども押さえつける力は男のもので、抵抗はかなわなかった。
レヴェッカの体はがっちりと地面に固定され、穿いていたズボン、そして下着も剥ぎ取られた。
叫ぶ口もとは掌で塞がれた。
体重をかけて押さえてくる掌を振りほどこうと首を左右に振ると、ふいに圧迫がやんだが、
その一瞬後、無理矢理口に何かを詰め込まれた。
歯をこじ開けられて、布が押し込まれる。
──下着だ。
今しがた脱がされた、自分の下着。
気づいたが、すぐに上からダクトテープを貼られて、吐き出すことはできなかった。

「誰が先にいく?」
「どうする?」
「俺がいく。お前らしっかり押さえてろよ」
「おう」
「もっと脚開かせろよ」
「こうか?」
「もっとだよ、もっと」

開かされた脚の間に人の気配。
ベルトを解く音。
剥き出しにされた股間に、生ぬるいものがあてがわれる感触。
体が拒絶するようにこわばった。

「……くそっ、入らねェな」
「もっと思いっきり突っ込めよ」
「やってるよ、バカ」
「お前、実はヴァージンなんじゃねェの?」
「てめぇと一緒にすんな、ボケ」
「唾でもつけろよ」
耳の端に入った言葉通り、指が乱暴に唾をなすりつけていった。
その後、再度、強引に押し込まれる。

──痛…………っ。

先端を侵入させることに成功した少年は、遠慮なく奥まで腰を進めた。
レヴェッカは痛みに声を上げそうになったが、喉の奥の呻き声はすべて口の中の布が吸い込んだ。
体の中に無理矢理侵入され、みぞおちの方まで引き裂かれたかのような痛みが走った。
少年は、固く閉じようとするレヴェッカの体を、何度も大きく突き上げた。

──や、め……!

体を貫く痛みに、レヴェッカは拳をぎゅっと握り締めた。
痛いのは、自分がまだ子供で、大人の男の陰茎を受け入れられるだけの体ができていないせいだと思っていた。
けれど、相手が大人だろうと子供だろうと、痛みは何も変わらなかった。

──くそ、ガキだって痛ぇじゃねえか……。

レヴェッカは固く目をつぶり、込み上げる吐き気をこらえた。
無遠慮に前後されて、腹の底がずくずくと痛んだ。


607 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/21(日) 21:29:51 ID:2Uj4fvu5

「あ」
腰を振っていた少年が動きを止めて、声を上げた。
「血だ」
傷になっていたところが開いたのだろう。
レヴェッカの股の間には、ひりひりと焼けつくような痛みが張りついていた。
「マジだ」
「やっべぇ」
「汚ねェ!」
沢山の目が、レヴェッカの股に注がれた。
血を流しながら陰茎を突き立てられている股に。

「どうしたんだよ、ビビっちまったのか?」
「バカ言うな。──却って興奮するぜ」
ヒュウ、と口笛がとんだ。
途端、激しく奥を突きたてられた。
ほとんど闇雲と言っていいほどの勢いで、狂ったように前後する。
レヴェッカの喉からくぐもった悲鳴がもれた。
「へへ、すべりが良くなったぜ」
少年はレヴェッカからにじむ血を利用して、めくらめっぽうに突きたてた。
そして、レヴェッカの体の奥で、生ぬるい体液を吐き出した。

「次は誰だ?」

一人が終わって箍が外れたかのように、少年たちはレヴェッカに群がり、突きたて、押しつぶした。
押さえつけられ、ねじ曲げられ、レヴェッカは自分の体がどうなっているのかすらもよく分からなかった。
少年たちは代わる代わるレヴェッカにのしかかり、裏返し、逆流した精液をしたたらせる膣を見ては笑った。
その場にいたのは七人だっか八人だったか。
何人いたのかも、何回突っ込まれたのかも覚えていない。
けれど、「今度はうしろからだ」と言った声、あれは最初に突っ込んだ奴と同じ声だった。

はやく終われ、はやく終われ──。
レヴェッカはそれだけを、壊れたテープレコーダーのように繰り返した。


突然、瞼の裏が、ぱっと白く光った。
強い光に瞼を上げてみると、レヴェッカの上で腰を振る少年の向こうに、カメラが見えた。
それを認めた瞬間、またカメラのフラッシュが光った。
顔をそむけると、その顔を捉えられて無理矢理カメラの方に向かされた。
「ほら、ちゃんと見ろよ」
「記念撮影だぜ」
「いつも撮らせてんだろ?」
そうして、姿勢を変え、角度を変え、少年たちは何枚も何枚もレヴェッカを撮った。



608 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/21(日) 21:31:22 ID:2Uj4fvu5


少年たちがようやく満足した頃には、日はもう完全に暮れていた。
体の拘束が解けてもレヴェッカは起き上がることができず、ただ横向きになって体を丸めた。
体中がひどく痛んだ。
性器だけではない。
腕も、脚も、背中も、体中が打撲と擦り傷や切り傷でずきずきと痛んだ。
しかし、こいつらの前でいつまでも無様に転がっていたくはない。
レヴェッカは無理矢理起き上がって、
口の上に貼られたダクトテープを剥がし、口内に詰められていた布を引きずり出した。
どうしよう、これをまた穿くべきだろうか。
考えながら、とりあえず胸の上でぐしゃぐしゃになっていたトレーナーを引き下ろした。

「おい」
座り込むレヴェッカを、少年が見下ろしていた。
「分かってんだろうな、このこと誰かに言ったら承知しねェぞ」
「誰かにチクってみろ、そんときゃ、この写真学校中にバラ撒くぞ」
レヴェッカは、腫れた唇を歪めて短く笑った。
「……なに笑ってんだよ」
レヴェッカは、腹の底からかすれた声をしぼり出した。
「……それで脅してるつもりか? チキンボーイ」
好きなだけ嬲っておいて、誰かに告げ口されるのが怖くなったのだろうか?
──そんなことで、このあたしがビビるとでも?
淫売と蔑みながら、なんとも甘く見られたものだとレヴェッカは思う。
「ずいぶんとタマが小せェなぁ? てめぇのタマはチェリー並だぜ、かわいい坊や。
てめぇはお家で優しいママのおっぱいしゃぶってミルクでも飲んでな、この童貞野郎が」
少年の顔にみるみる血がのぼり、赤くなった。
その顔を見上げながら、レヴェッカは目を細めて笑った。
途端、側頭部に衝撃がきて、地面に倒れ込んだ。
頭をサッカーボールのように蹴られたのだということは、倒れ込んでから理解した。

その倒れたレヴェッカの目と鼻の先に、ぽい、と紙切れが二枚、放り投げられた。
両手を使ってのろのろ身を起こすと、
しわしわになったアレクサンダー・ハミルトンが二人、レヴェッカを見上げていた。
10ドル紙幣だった。

「拾えよ」
少年のスニーカーが、紙幣の上に乗る。
靴底がアレクサンダー・ハミルトンを踏みつける。
「金が欲しいんだろ?」
じり、とスニーカーがにじる。
紙幣がぐしゃりとよじれる。
にじって、そして離された後の紙幣は、土で汚れていた。
レヴェッカは凍りついてしまったかのように、指一本動かせなかった。


609 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/21(日) 21:32:43 ID:2Uj4fvu5

──ふざけんな、金なんかなくったって、あたしは言わない。

こいつらにされたことなんか、誰にも言いたくない。誰にも知られたくない。
ふざけんじゃねぇと、レヴェッカは今すぐこの紙幣を真っ二つに破り捨ててやりたかった。

「ほら、拾えよ」

くつくつと、笑いの波が広がった。
見上げなくたって分かる。
蔑みの目がレヴェッカを見下ろしている。

──破れ。

今すぐこの金を掴み上げ、破り捨てて、唾を吐いてやれ。

──破れ。破れ。破れ。

けれど、レヴェッカの指は依然としてぴくりとも動かなかった。

この金さえあれば、食事ができる。
駄目になってしまった下着も買える。
レヴェッカは朝から何も食べていなかったし、下着を買いたいなどと言おうものなら、また体に痣が増える。

そして何より、この金があれば、今夜、街角に立たなくていい──。

──行きたくない。


610 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/21(日) 21:33:56 ID:2Uj4fvu5

レヴェッカは、見知らぬ男に体中をべたべたと触られるのも、舐めまわされるのも、
しゃぶらされるのも、性器をいじくりまわされるのも、突っ込まれるのも、
もう、すべてが嫌だった。
この金があれば、これを父親に渡せる。
一回、苦難から逃れられる。
一晩、平和に夜をやり過ごせる。
それに、もしかしたら、ちょっとぐらいは温かいものを食べられるかもしれない。

──行きたくない。

その時、風が吹いた。
かさりと、軽い紙幣が吹き飛ばされそうになる。
レヴェッカは、反射的にその紙幣を手で押さえていた。
頭で考えるより前に、手が伸びていた。
レヴェッカのまわりで哄笑がはじけた。
ぎりぎりまで空気を入れた風船が破裂したかのように、一気に、はじけた。

「雌犬が」

ぺっ、と。
うなだれたレヴェッカの頭に唾を吐きかけると、少年たちは踵を返した。
スニーカーの足音が遠ざかってゆく。
その足音を聞きながら、レヴェッカは手の下にある紙幣を握り締めた。
本当は、破り捨ててやりたかった。
破り捨てて、舐めるなと唾を吐きかけてやるのは自分のはずだった。
でも、できなかった。

レヴェッカは、足音が完全に消え去ってしまっても、顔を上げられなかった。
手の中の金を、ぎり、と握り締めて、うずくまった。
固い土に額をこすりつけ、レヴェッカは思った。
ああ、金が欲しい、と。
喉から手が出るくらい、その手で喉が裂けてしまうくらい、金が欲しい。
そう思った。

"IN GOD WE TRUST"──『我ら神を信ず』

この10ドル紙幣の裏側に書いてある通り、神はこの中にいるのだろう。
神は金。金は神。
金はすべてを救う。
金さえあれば、こんな暮らしも、こんな惨めな思いもしなくていい。

金さえあれば。
金さえあれば。
金さえあれば──。

レヴェッカは、ひとり取り残された暗い校舎の裏側で背中を丸め、静かにすすり泣いた。



611 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/21(日) 21:35:08 ID:2Uj4fvu5

 * * *

レヴィは、暗い自分の部屋でひとり思う。
あの頃は、金さえあれば、と思った。
金さえあれば惨めな暮らしから抜け出せると、そう思っていた。

──けれど、今は。

金など虚しい。
ロックから金を渡されたあの瞬間、レヴィの内で沸騰したのは、怒りに似た何かだった。
自分の価値からすれば、釣りが出るくらいの金だった。
でも、あれを見た瞬間、頭の中が焼き切れるほど腹立たしくなった。
その怒りは、時間が経つごとに虚しさに変わっていった。

レヴィは、もう昔のように空腹で眩暈を覚えることも、冷たい風に凍えて歯を鳴らすことも、
悪夢のような夜に怯えることもない。
自分を切り売りしなくたって、腹はふくれ、屋根のあるところで眠ることができる。

けれど、それだけ。
結局、一番ほしいものは金では買えない。
神は金の中にもいない。
それが再確認されただけだった。


レヴィは、信じたかったのだ。
ロックとの間には、金では片づけられない何かが存在していると。
それがレヴィの本当に望むような形ではなくとも、
ロックが生きるために自分を必要としているなら、それも良いと思った。

あの男は、「お前がもし銃だとすれば、俺は弾丸だ」と言った。
その言葉が意味するところは何なのか、レヴィには正確には分からない。
けれど、必要とされている、と思った。
その一瞬、滅びてもいいと思った。

どうせ行き着く先は泥の中。
だったら、一度くらい他の誰かのために行動するのも悪くない。
そう思った。
たった一人、自分を必要とした誰かのために行動して、それで終わったとしても、悪くない。
この男なら良いかと思った。
だから、体全部を明け渡した。

──でも、あんたはあたしじゃなかったな。


612 :ロック×レヴィ 比翼・第一部  ◆JU6DOSMJRE :2010/11/21(日) 21:35:57 ID:2Uj4fvu5

ロックは、一度もレヴィを乱暴に抱いたことがなかった。
体温を伝えるように触れ、輪郭を確かめるように体をなぞった。
そんな風には、誰もしなかったやり方で。
初めて他人の体温を心地良いと思った。
レヴィは自分の首筋に触れてみた。
掌を押しあて、そのまま肩の方にすべらせる。
ロックの手の感触が思い出された。

けれど、もう、おしまい。
ロックは面倒なお役目から解放され、レヴィのプライドは回復される。
歪んだ関係は、もう、おしまい。
お互い、ハッピー。

──これで良い。

レヴィは思う。
ずっと、終わらせたかった。
終わらせねばならなかった。
それがついに、かなった。
喜ばしい日だ。
大変に、喜ばしい日だ。

──これで良い。

レヴィは暗闇の中、頭を落として、繰り返した。

──これで良い。

爪が肌に食い込むほどに強く自分の腕を握り締め、繰り返した。

これで良い。
これで良い。
これで、良い──。

何度も何度も、繰り返した。





第一部・了



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