219 :名無しさん@ピンキー:2011/08/31(水) 23:43:46.22 ID:AZBwTctc
人には誰しも「弱点」というものがある。
たとえ男顔負けの銃裁きを見せる無敵の女、二挺拳銃であろうとも。
俺はその日、思いもよらなかった彼女の「それ」を知ることになった。

いつも通りの仕事の後に、俺とレヴィがどちらかの(大抵は俺の)部屋で過ごすのはもう日課のようなものだった。
だらだらと酒を飲み、他愛もない話をしながらグダグダと過ごす。
腹が減ったら適当に食べる。互いがその気になれば求め合う。眠くなったら狭いベッドで一緒に眠る。
絵にかいたようなだらけっぷりだが、それが楽しくて幸せなのもまた事実だ。

酒が尽き、大した話題もなくなるとレヴィは我が物顔でベッドに寝そべって雑誌を広げ始めた。
まだ大して遅い時間でもないし、各々好きなように過ごそうといういつものパターンだ。

それじゃあ俺はテレビでも見ようとリモコンを拾い上げスイッチを押す。

『キャアァァーッ!!!』
途端に絹を引き裂くような女の悲鳴が響き渡った。

「うわっ…、なんだ映画か」
どうやらタイのホラー映画らしい。画面の中では、恐怖に顔をひきつらせた女優が病院内と思われる白い廊下を悲鳴を上げながら逃げ回っている。
そんな彼女を追うもう一人の女は、腰まではあるであろう長い黒髪を揺らしながら、ふらふらとおぼつかない足取りだが確実に彼女を追い詰めている。
口の端からはわざとらしい血の筋、目は窪んで肌は土気色で生気がない。なんともわかりやすい幽霊の造形だ。
さすがにタイ語はよく解らないが、こういったいかにもなB級ホラーは中身があるようでないものだし映像だけでも充分ニュアンスは伝わってくる。
陰鬱でおどろおどろしい雰囲気といい幽霊女の造形といい、日本のホラー映画に通じるものがあるなと思う。
どこか懐かしさを感じながら画面をぼんやり見ていると、

「うるせえ」
とレヴィが勝手にリモコンを手にチャンネルを代えてしまった。途端に他愛のないニュース画面に切り替わる。
「あ、何するんだよ。見てるのに」
「くだらねえ、こんなの何が面白いんだよ」
「たまにはいいだろ、日本では真夏にホラーや怪談話は定番だったんだよ。こういうのって涼しくなるだろ」
レヴィの手からリモコンを奪い返しチャンネルを戻すと、再び女優の悲鳴が上がる。
画面には大袈裟なSEとともにでかでかと幽霊のアップが写し出されていた。

と思えば、レヴィは舌打ちしながらずかずかとテレビの前に歩みより、勢いよく電源を切ってしまった。
「何してんだよ!」
「うるせえっつってんだよ!!」
「あのなあ! テレビくらい好きなの…を…?」

よく見ると、レヴィは言葉とは裏腹に顔面蒼白。かすかに肩が震えて冷や汗まで流している。

これは、まさか…

「………レヴィ、もしかして怖いのか?」

…幽霊が。


いやちょっと待てと自分自身に突っ込みをいれる。普段あんなに笑いながら人を殺しているのに?
骸骨を物のように蹴り飛ばしたり拾い上げてたじゃないか。
存在事態がホラーっぽい掃除人を平気でからかったりしていたし。
…などと掃除人に聞かれたら翌日には綺麗に切り分けられ市場の肉屋に陳列されそうな事まで考えてしまう。

大体、いつも口にする「歩く死人」は「幽霊」とは似て非なるものなのだろうか…。意味合い的に似たものだと思っていたのだが。


「ん、んなわけ、ねえ、だろっ…!」
どんどん声が小さくなっていくレヴィになんとも言えない可笑しさが込み上げてくる。

だって、幽霊が怖いって…あのレヴィが。あのレヴィがだぞ?
駄目だ。今にも床に転げ回って爆笑してしまいそうだ。

220 :名無しさん@ピンキー:2011/08/31(水) 23:44:57.54 ID:AZBwTctc

「こ、怖いんだろ…?」
耐え切れずに肩を震わせる俺にレヴィは今度は顔を真っ赤にして怒鳴り返してくる。
「てめえっ…、何がおもしれえんだよ!! くそっ、帰る!!」
そう言って身を翻したレヴィの腕を慌てて俺は思わず掴む。
「ごめん、ごめん。もう笑わないって」
「うるせえ、触んな! 帰るっつってんだろ!」
俺の手を乱暴に振り払い、ずかずかドアに向かおうとするレヴィに、引き留めたい気持ちと同時に、もう少しからかってやりたいという悪戯心が沸いてくる。
「一人で大丈夫か? 自分の部屋だからって安心できないかもよ?」
「はあ? 何言ってんだてめえ」
「例えばほら、テレビとか」
「テレビがなんだっつーんだよ」

「日本で結構話題になった映画なんだけどさ、呪われたビデオテープを見た人が次々死んでいく話でね。
ラストシーンで、突然テレビの電源がついたかと思えば画面に幽霊が映って、ゆっくりとこちらに…ごふっ!!」
言い終える前に腹に凄まじい衝撃をくらいそのままベッドに押し倒された。
殴られた訳ではなく、レヴィがしがみついて来たのだ。
(しがみつくというよりは全身で体当たり、アメフトのタックルをまともに喰らったレベルの衝撃だ)
「ふ、ざけんなっ! ぶ、ぶちのめすぞっ…!」

…どうやら本当に怖いらしい。テレビから背を向けようと俺に抱きついたまま(抱きつくというよりベアハッグの域だが)必死で向きを変えている。
「レヴィ、い、痛いって!」
ぎりぎり締め上げられ抗議するが、レヴィはもう言葉も出ないのかそのままの姿勢で黙り込んでしまった。

そんな怖いのか…。下手するとこのままでは本当に泣き出してしまいそうで、笑いよりも若干の焦りが出始めてくる。

あまりにも新鮮だったから面白くてち、ょっとからかってやろう、その程度の悪戯だったというのに。
ここまで肩を震わせ子供のように怖がるレヴィを見ていると、なんだか本当に悪いことをしてしまった気がして、罪悪感さえおぼえだす。

「…レヴィ、 冗談だって。ただの映画の話だよ」
ぽんぽんとあやすように背中を叩いてやる。
「ふざけんな、畜生…」
腕の力がやっと緩む。
「だって、あまりにも意外だったからさ。 レヴィの弱点。怖いものなんてないと思ってたよ」
「……黙れ。もしダッチやベニーに話したら、その貧相なモン潰してローワンのとこにでも売り飛ばしてやるからな」
「…言わないって、勘弁してくれよ。あと…貧相って言うな」
それはさすがに傷つく。

221 :名無しさん@ピンキー:2011/08/31(水) 23:45:39.15 ID:AZBwTctc

「そんなに怖い?幽霊」
「…悪いかよ」
「じゃあさ、俺の幽霊ならどう? 怖い?」
「はあ? なんであたしがあんたごときを怖がらなきゃいけないんだよ。あほか」
やっと顔を上げたレヴィの表情は、ようやくいつも通りに戻っていた。
へえ、と笑って俺は言葉を続ける。
「じゃあ俺が死んだら、レヴィの前に幽霊になって現れてやろうかな。 レヴィがもう幽霊なんて怖くなくなるように俺が毎日驚かせて慣れさせてやるよ」
おどけるようにそう言うと、途端にレヴィの表情が不機嫌丸出しに歪んでしまった。

「冗談じゃねえ。……死んでからもあんたのお守りなんて御免だ」
「なんだよ、冷たいな」
「黙れ、この馬鹿。もう話は終わりだ。これ以上くだらねえ事言うなら犬の糞でも突っ込んでその口縫い付けてやるぞ」
「………そんなに怒らなくてもいいだろ」

レヴィはふん、と鼻を鳴らし俺の胸をぐいと強く押して体を起こすと背を向けてしまった。
「悪かったよ、もう幽霊の話はしないって」
「……」
「レヴィ、怒るなって」
「黙れ、話しかけんな」
「……」
本格的に不機嫌になったらしいレヴィはこちらを見ようともしない。気まずい空気が流れる。背中からなんだか怒りのオーラが見える気がする。

「幽霊が怖い」という概念を変えようと思って切り出した冗談だったのだが、どうも逆効果だったらしい。
いくらなんでもしつこすぎたか?さてどう機嫌をとろうかと考えあぐねていると、レヴィの方から沈黙を破った。


「……簡単に死ぬとか言うな」
「え?」


「あんたが、簡単に…『死ぬ』って言葉を口に出すな」


ああ、そうか。
レヴィの不機嫌はそこにあったんだ。


俺は身体を起こすと、レヴィを背中から包み込むように抱きしめた。

「…勝手だな。お前はいつも俺に死ねとか言うくせに」
「あんたが言うのは気にいらねえ」
「もう言わないよ。お前といる限り俺は…死なない」
腕に力を込めてそう伝えると、レヴィの体からわずかに力が抜け、ふうっとちいさくため息をついたのが解った。


「…こっち向いてくれないか?」
耳元で囁いて抱きしめていた腕を解き、肩に手をかけて体ごとこちらを向かせる。
向かい合うと、どこか戸惑ったようなレヴィと視線が合う。

「今の、嬉しかった。ありがとう」
正直にそう告げて微笑むと、レヴィは頬を染めて目を逸らし「ばーか」と小さく呟く。
「そうだな」と笑って返し、俺はレヴィの身体を引き寄せた。



222 :名無しさん@ピンキー:2011/08/31(水) 23:47:09.56 ID:AZBwTctc
頬をするりと撫でるとレヴィは少し顔を傾けて目を伏せた。吸い寄せられるように唇を合わせて強く抱き締めると、レヴィの腕も背中に回ってくる。
角度を変え、舌を絡ませながら飽きることなくキスを繰り返し、レヴィの身体を支えながらそっとベッドに押し倒す。そこでふと気づく。
「暗いの怖い? …なんなら明るいままでも…イテッ!」
ゴンっ、と勢いよく拳が脳天に降り下ろされた。
「いつまでも調子にのってんじゃねえぞ」
「……ハイ」
頭をさすりながら立ち上がり、素早く部屋の照明を落として彼女の元へと戻った。

改めてレヴィに覆いかぶさり、もう一度触れるだけのキスを交わす。
タンクトップを脱がせ、鎖骨に舌を這わせながら露になった胸に触れる。
両手でゆっくりとよせあげるように撫で、先端を指で擽るとレヴィは小さく身動ぎした。
その反応に気をよくして、今度は唇を寄せる。舌先で先端をつつき、尖ったそこをちゅっと音を立てて強く吸い上げる。
「はっ…」
抑えようとした声が微かに溢れててしまい、彼女は気まずそうに目を逸らす。
掌で揉みしだき、指の形に沈み込む乳房の柔らかさを堪能し、先端をきゅっと挟むとレヴィは震えた息を吐き出す。
堪らずに胸の間に顔を埋め、早まった鼓動と柔らかな感触を頬に受けとめると身体が疼く。早くも中心に熱が集まり始めているのがわかった。

やっぱり最高に気持ちが良いな、などと思いながら頬ずりしていると、
「ッ…あんたって、ほんと乳が好きだよなあ…マザコンなんじゃねえの?」
クスクスと笑いながらレヴィが髪を梳く。
「…違うって、失礼だな」
お前だって触られるの好きじゃないか、と付け加えれば大事な毛根にダメージを喰らうことは容易に予想できたのでそこは黙っておく。

それでもめげずにしつこい程に乳房に愛撫を繰り返していると、「なあ…」と彼女のもどかしそう掠れた声が聞こえ、太ももがするりと俺の腰に擦り付けられる。
もっと別の刺激も欲しい、と訴えられて身体が更に熱くなる。
「ああ」
俺は短く答えて身体を起こし、彼女のベルトに手をかけた。下着ごと一気に引き抜いて、自分も手早く服を脱ぎ捨てる。


しっとりと汗ばんだ素肌を擦りあわせ、互いの体温を伝え合うように強く抱き合いながらまた深くキスをする。
ぴちゃぴちゃと音を立てながら舌を絡めると痺れるような快感が全身に走る。
片手で彼女の引き締まった太ももを撫で上げ、内側へと移動する。入り口に触れると彼女が息を飲みぴくりと反応した。
既に潤んだそこを何度かやさしく擦りあげ、逸る気持ちを抑え、傷つけないよう中指をゆっくりと沈めていく。
「んん…」
身を捩る彼女の頬に口付け、中をゆっくりと掻き回す。熱く溶け出す感覚。とろりとした液が指に絡まる。
締め付ける中を音を立てながら往復し小さな突起を擦りあげると、彼女の息が不規則に乱れ、体がびくびくと震える。
「もう、いいって…」
レヴィが小さく首を振り訴える。
指を引き抜き手早く準備を整えると、すぐにレヴィの足の間へと移動する。レヴィも自ら膝を立てて俺を迎い入れようと足を開いた。

入口にすっかり硬く立ち上がったそれをするりと擦りつけると、レヴィのそこが待ち望んでいるかのようにひくひくと反応する。
もう限界だと思った。早くこの中を味わいたい、レヴィとひとつになりたい。その欲求のみが頭を支配する。
「いくよ」
思った以上に掠れた声が出てなんだか情けない気がしたが、レヴィはふっと笑うと俺の首に腕を回した。

「…っ」
「んっ…」
ゆっくり中に入っていくと、レヴィが小さく声を洩らしてぎゅっと目を閉じる。
熱く潤んだ柔らかくて狭いレヴィの中。取り込むように絡み付くその感触は、何度味わっても信じられないくらい気持ちが良い。直ぐにでも達してしまいそうな程に。

223 :名無しさん@ピンキー:2011/08/31(水) 23:48:07.62 ID:AZBwTctc
奥まで埋め込むと、互いに熱いため息を漏らした。
「…大、丈夫か? 動いていい?」
レヴィはうっすら目を開くと、その切な気な表情とは裏腹な実に彼女らしい切り返しをして来る。
「…さっさと、しろ、この馬鹿」
何でそこで「馬鹿」って言葉が出てくるんだ…といつも思うが、まあ彼女なりの照れ隠しだってのは解っているから今更ツッコミを入れる気はない。
それに、もうまともに言い合いできるような理性などもう欠片も残っていない。

始めはゆっくりとレヴィの中を探るように動き、徐々にスピードを早めていくと、互いの息もどんどん荒くなる。
唇を引き結んで堪えていた彼女も、だんだんと抑えきれずに声を上げ始める。
「んっ、…はあっ」
レヴィの顔の横に手をつき、滑らかに腰を動かし更にスピードを上げて突き上げる。
「うぁっ…、あっ、あんっ…!」
普段のように人目も気にせず大きな声で馬鹿笑いしたり、相手を罵倒するレヴィとはまるで別人のような、囁くような微かな甘い声。
俺だけが聞けるであろう、特別な彼女の声に愛しさが込み上げてくる。
「レヴィ…っ」
「…や」
身体を倒し耳元で名前を囁くと彼女の中がきゅっ、と締まった。
一気に絶頂まで登り詰めてしまいそうなのを何とか耐え、さらにレヴィを激しく揺さぶる。
「レヴィ、…気持ち、良い」
「………うるせ」
「…レヴィ」
「っ、呼ぶな、馬鹿っ…あ、あっ…やぁっ…!」

ベッドの軋む音や繋がった部分の水音、肌のぶつかり合う音、互いの声や息遣い。部屋の中に響く全ての音が互い快感を更に加速させていく。

「ロック、ロッ、ク…!」
すがるような彼女の声に理性は完全に吹き飛んだ。
「くっ…レ、ヴィ…」
腰の動きは機械のように止まらない。ギリギリまで引き抜き、奥深くに打ち付けるとレヴィの中がきつく締まる。
シーツの上に投げ出された手を取り指を絡ませ、固く握り合う。彼女の中を激しく往復しながら、呼吸する暇さえも惜しいかのように何度も唇を重ね合う。

「ロッ、クっ…! もう…駄目、だ」
荒い息遣いのなか、目を潤ませた彼女が限界を訴える。
「俺、も…っ!」
やがて彼女が悲鳴に近い短い声をあげ、びくりと身体を跳ね上がらせて達したことを告げる。
痙攣し締めつける中の感触にすぐに俺も限界を感じ、堪えきれずに果てた。


224 :名無しさん@ピンキー:2011/08/31(水) 23:48:50.19 ID:AZBwTctc

「…くそっ、絶対お前の弱点も見つけてやるからな、覚えとけよ」
今日のことが余程恥ずかしかったのか、腕の中でけだるそうにしていたレヴィが憎々しげに呟く。
「そんなにムキになるなよ…」
「あるだろ。あんたにだって怖いもんくらい」
「…ああ、『怖い』って意味ならまあ…あるかもね。」
「言え」
「絶対に嫌だね」
「何だそりゃ。 ケツの穴が小せえぞロック」
「なんとでも言え」

文句を言いながらもレヴィの目がだんだんとまどろんできた。睡眠を促すように頭をなでてやると、抗うこともなく目を閉じる。
「疲れた…」
「ああ、もう寝よう」
その会話を最後に、やがてレヴィは安らかな寝息を立て始めた。


「怖い」もの、か。

「…そりゃあるよ、俺にだって」
レヴィが眠ったのを確認してから、ぼんやりとつぶやく。

俺は別に死後の世界なんて信じちゃいない。幽霊の存在どころか、天国も地獄も、輪廻とやらも。死ねばそこで終わりだと思っている。
もう二度と「ロック」と「レヴィ」として巡り合うことなどない。共にいられるのはやっぱり、生きている今しかないのだ。

だから、俺が一番「怖い」のは「レヴィが死んでしまうこと」だ。
レヴィを失う以上に怖いものなど、この世にはない。


―こんなこと本人には絶対に言えないけどな。

そんなことを考えながら、レヴィの身体を抱き寄せて俺も眠りにつくことにした。


終わり

225 :名無しさん@ピンキー:2011/08/31(水) 23:50:33.47 ID:AZBwTctc
おまけ ※キャラ完全崩壊注意




その頃、ホテルモスクワでは…

「同志軍曹」
「はっ」

「…よし、そこにいるな。何度も言うが、私が出るまで決してそこから動かないように」
「心得ております。………ですが、あの、大尉」
「何だ」
「………その…やはりあの映画は見ない方がよろしかったのでは…(まさか一人でトイレもいけなくなるほどとは…)」

「 だ ま れ 」
「………はっ、申し訳ありません」

その後、ボリスの苦悩は一週間続くことになる。





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