人が生活するような空気のない廃墟。
廃墟と同じぐらいの年の男が一人。
彼は、そういえば、入ってくるときに立ち入り禁止の札がかかっていたなとふと考える。
          ・ ・ ・ ・
「組織」に呼ばれ加賀友之はその場に赴いた。

「組織」に指示された場所はこの、崩されかけたビルの7階。
もはや、機能していないビルはエレベータが作動しているわけもなく
加賀はひたすら非常用の階段を上った。

もう結構年なのだが、加賀の息は乱れもしていない。
確実に一段一段を踏みしめ、目的の7階の扉に手をかける。

何もない部屋が視界を埋めた。ところどころ穴が開いているのか上のほうから光が入ってくる。
埃っぽいため、加賀が歩くとかすかに砂埃が立つ。

あたりを見回してみる…誰もいない何もない。
とりあえず、警戒しつつ反対側の窓まで歩いてみる。
カッカッカッ…自分の靴音だけがこだまする。

「久しぶりですね。689」
不意に後ろより声をかけられる。
                           ナンバー
689…それは加賀の「組織」の一員としての名前。
今まで、何もなかった場所に人が2人。
それが分かるのは、加賀は後ろを向かなくても風の流れの変化で分かるような訓練がされているためである。
例え老いていたとしても、加賀も「組織」の一員なのだ。
一人は青年。
いつもの「組織」の仲介人…加賀に仕事を持ってくる青年である。
そして…もう一人は…
「用事はなんですか?」
加賀は振り向くことなくその男に問いを投げ出す。
仲介人とは顔を合わせないのが「組織」の鉄則であるためである。
仲介人はふっと笑うと、もう一人の肩に手をかけにこやかに話しかけた。
「1973です。話は聞いてますよね?」

「1973だと…」
加賀の声に動揺の色が走る。
                   ナンバー
1973も「組織」の一員としての名前  である。
「組織」のメンバーはこうしてナンバーで呼ばれる。
その中で1973はいろいろな話題になった。
                   ・ ・ 
「組織」の中でも最も困難とする仕事を、難なくこなしまた、ねらった獲物は外さないといわれてる…それが1973。

加賀の額にうっすらと汗が浮かぶ。
それほどの奴が…まだこんな子供だったとは。
加賀は背筋がぞくっとするのを感じた。

そう。加賀の後ろにつれられていたのはまだ、15歳ぐらいの少年であった。
着ている服こそ迷彩柄の軍人のような服でなかったら何処にでもいる少年であろう。
一見そう見える。

カッカッカッ…仲介人が加賀の真後ろまで近づく。
「「組織」よりの任務です。「1973」の面倒を見ていただくように…」
「バカな!!そいつはもう充分やってけるはずだろう?任務も完璧にこなしているじゃないか。」
加賀が仲介人の言葉を遮り叫び、振り向く。
振り向いた先に仲介人はおらず…一人の少年が加賀を見つめている。
「確かに、「組織」としては充分過ぎます。しかし…人としてはどうでしょうかね?」
いきなりうしろから声をかける仲介人。その顔にはほほえみが浮かぶ。
改めて、加賀は少年を真剣に見てみた。
顔は健康そうで肉艶もよい。ただ…表情が欠如している。
まるでロボットのようにも見える。
「分かっただろう。「組織」より任務だ。彼を学校に通わせるために保証人となっていただき。また、彼の世話をしていただきたい。」
加賀の肩に手をぽんとおき耳元で「頼むぞ」と付け加えると仲介人は去っていった。


廃墟となったビルの7階で1973とつけられた少年と加賀だけがとりのこされた。
少年は何いうのでもなく加賀を見つめかえした。
「行くか…1973」
加賀は1973とつけられた少年にいう。
少年の瞳に光がともった。
「はい」

素っ気ない少年の声を聞いた後で加賀は一つ気がついた。
少年は何も持っていなかった。
いままで、生活していたわけなのだから服ぐらいでも、かなりの量があるはずだ。
「荷物は…ないのか?」
「ありません」
少年は即座に答えた。
…証拠隠滅のために捨てたのか…ぼんやりそう考えつつ
街に出るにはちょっと目立ちすぎる。と思い立ったが…
そういえば、車に変装用の服が積んであったな…と思い出し
加賀は少年を連れとりあえず、車まで戻った。

その背後で廃墟が崩れるのを感じながら。

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