加賀は、1973と呼ばれる少年に自分の服を着せると車に乗せ、車を発進させた。
少年は助手席に乗り込むと、自分の体を抱え込むように丸めて顔だけちょこんと出し、車の窓の方に向けて外の風景を見ていた。
その姿はひどく、弱弱そうに見えたが、一度敵に回したら命がなくなるというのは肌で感じていた。
外に向けられる鋭い殺意。それは絶え間なく、全方向に向けられていた。
ある程度、訓練した者であればその場より逃げるほどだ。
もちろん、加賀も体の震えを感じていたし、体中が「逃げろ」と信号を送っていることも感じている。
ただ「組織」の任務だからという理由から、殺意が自分に向けられていないと不確かな確信だけで隣に置いているにすぎない。
「1973…」
加賀は車を運転しつ問いかけた。1973とつけられた少年は加賀の方に顔を向ける。
「お前、名前なんというんだ?いや、呼ばれていた名前でいい」
加賀に尋ねられ、少年は少し考えた後、
「私は、1973としか呼ばれたことがありません」
少し、体に合わない加賀の服の裾を折り曲げつつきっぱり答えた。
加賀は急に赤になってしまった信号をにらみつけ、懐より煙草を1本取り出し火をつけた。
「それなら…名前をつけなくてはな…」
「名前?」
視点の定まらない表情で加賀を1973は見た。
名前を知らないような表情で。
1973は小さな頃から「組織」の中で生きてきた。
それは、彼がある事件で「組織」に入ったことにより…
よって、彼は「組織」が必要としなかった「名前」は未だついていなかった。
存在さえしらなかった。
加賀は利き手でハンドルを持ちつつ、火をつけた煙草を吸い一気に煙を吐き出した。
不意に目をそらした窓の外では、曇りの空が広がっており、今にも雨が降りそうである。
立春が過ぎたばかりでまだ、ジャケットがはなせないほどの寒さだ。
…とりあえず、この子の名前を付けなくては…
そう思いつつ加賀は車を急発進させた。
数分車を走らせ、加賀は自分の家の駐車場に車を止めると1973を降ろした。
1973の服はあり合わせのもので彼の肌は鳥肌が立っている。
それでも、表情は寒さ一つ感じさせない。
さっき廃墟で会ったままの表情だ。
カチャ…加賀は自分の店であるアンティークショップの扉を開けるとまず、1973を室内に入れ、すぐ扉を閉じた。
チリリィン…
誰もいない店内にドアにつけられたベルが激しく鳴る。
「ふっ…」
1973が振り向きざまに加賀は1973の唇を自分の唇で塞いだ。
「…うっ…」
加賀が唇を離すとそのまま1973は小刻みにふるいながらその場に座り込んだ。
「…やっぱり、感覚神経を鋭くするため肉体改造をしているようだな…幼いお前が遠くの殺気を肌で感じさせるにはこうするしかない…
しかし…触れるだけでここまで感じるとはな…」
加賀はそう、吐き捨てるようにつぶやくと見下した表情で1973を見る。
1973はうずくまりつつ顔を上げてキッと加賀をにらみ加賀に殴りかかる。
しかし、下半身に力が入らず、すぐにへなっと倒れた。
彼は、加賀のいうとおり体表面が感じやすく肉体改造がされていた。どんなに遠い殺気でも感じ取れるように。
それは、少し愛撫されただけで、イキそうになるほど…
つまり…
「くくぅ………ぅ……」
全身が性感帯も同然だったのだ。
「お前にそんな表情が出来るとは思わなかったな」
薄ら笑いをしつつ、加賀は悶えている1973の服をはぎ取った。
体は寒さで寒気ぼろが立つほどなのに皮膚の表面は汗で濡れていた。
加賀は1973の体表面をもてあそぶかのごとく愛撫した。
その愛撫にいちいち痙攣をもって1973は応答した。
数分、そうやって玩んだ後加賀は奥のベットに1973を運んだ。
1973は全身ぐっしょりしており体全体が微妙に痙攣し続けている。
加賀は1973のラテックスも下着とともに脱がすと1973に馬乗りの状態になった。
そのまま自分の一物をだすと1973の体に押しつけた。
「あぁァ────────────────!!」
1973の体が耐えられずにのけぞる。
加賀はそう若くないが、「組織」の人間である。
確かに見た目は老人かもしれないがまだまだいけるようである。
1973の体を押さえつけ、自らを1973の中に挿入した。
「あぁあああああああああああ…」
1973は耐えられず絶叫する。
その唇に再び加賀は自分の唇を軽く押しつけつつピストン運動を開始する。
出し入れするたび小刻みに反応する1973の体が徐々に濡れていく…
・ ・ ・ ・
「ふ…なかなかの名器じゃないか…これもお前の武器の一つなのか?」
加賀はニヤニヤしながら1973に尋ねる。
しかし、愛撫された1973の体が少し動いた程度で応答はなかった。
どうやら気を失っているようだった。
加賀はその姿に満足した様子で再び煙草に火をつけ大きく吸った。
「須藤…」
それは加賀の前のパートナーの名前だった。
須藤敏(さとし)と呼ばれた彼は加賀とともに、組織のために働いてきた。
10年前のあの事件までは…
加賀は「須藤敏」の体がこれほど簡単に壊れるとはしらなかった。
手も足も体もすべてバラバラに…
そして心も…
自ら欲するものはすべて答え、加賀の欲望さえも受け止めてきた…”須藤敏”。
”須藤敏”の体は今、とある大学病院に横たわっている。
だるまのような状態で。
どうしてそうなったのか加賀は知らない。
そして”須藤敏”自身は自分が自分であることを忘れた。
もう加賀も分からない。
まるでぼけ老人のようにベットで糞尿垂れ流しの状態で横たわっている。
”須藤敏”とは加賀の人形だった。
性欲を処理するだけの人形加賀はそう考えていた。
こいつも…同じじゃないか…?
1973の弱点を知った加賀はそう思った。
・ ・
須藤より丈夫にできているだけだ…
須藤か…俺と同じ名前というのもあれだしな…さとし…
そうあの人形の代わり…加賀はなくしたおもちゃを取り戻した子供のように、にやりと笑った。
さとしを一文字変えて…
「須藤雅史・・・」
たった今つけた名前で1973を呼んでそっと”須藤雅史”の肩をなでた。
”須藤雅史”のほどよく色づいた肌が寒さで震えた…。