■ 大人と子供の間で(薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク/水&金)
朝の光が窓から差し込み、小鳥のさえずりも聞こえてくる。
金子はシャツを着、ズボンを履き、学ランを引っ掛け洗面所に向かう。
鏡に映っているのは...数日前と変わらない自分。
そう思い込むように、顔を洗い、少量の油を付け髪に櫛を入れ撫でつける。
授業にはまだ早い時間だが、独りでいるとどうしてもあの時のことを悶々と考えてしまうので、教室へ向かうことにした。
金子は、ぼーっとしていたのだろうか、気づけば学校の正門ではなく、裏庭に足を進めていた。
たしかに、寮から教室へは、この裏庭の方が近いのだが、独りでいるのが嫌だったのに、どうして人通りの無い方へきてしまったのだろう。
ふと、薔薇の木の陰から、見覚えのある着物とそこから投げ出された足が見えた。
独りでいるのも嫌だが、ここに来て一番会いたくない人物に声を掛けられてしまった。
「金子君。おはよう。相変わらずかわいいねぇ、君は。」
いつもの着流し姿で、水川がニコニコしている。
金子としては、ついおととい成り行きとはいえ、一夜を過ごしたばかりなので、かなりばつが悪い。
なのに、水川はこの余裕ときた。
……かわいいだと。野郎っ!
ムッとして、ついつい眉間にしわを寄せて睨んでしまう。
その様子を見て、水川は更に楽しそうにくすっと笑った。
「あの夜の君も、予想外にかわいかったなぁって、思い出しちゃったよ。そうやって露骨に顔に出るところとか、大人になろうと一生懸命背伸びして髪を固めてみたりするところなんかね。」
「何だとぉ!言わせておけばっ!!」
図星を突かれた為に、金子は二の句が出ない。
「あぁ、大の男にかわいいは、いけなかったね。ごめん、ごめん。お詫びにいいものを見せてあげるよ。」
水川はさらっと謝ると、袂や懐をごそごそとして、何かを探し始めた。
その様子に、金子も作家としての水川を尊敬しているので、「いいもの」というものがどんなものなのか気になって、覗き込んだ。
その拍子に、水川の懐で探し物をしていたはずの手が、金子の首を捕らえた。
バランスを崩した金子は、座っている水川に抱き寄せられる形になった。
「おいっ、何をす…!」
大声を張り上げた金子の口を、唇で塞がれた。
ただ塞げばいいだけだったはずの唇は、熟れた果実を貪るように執拗に動き、舌が上顎を撫でまわす。
首を掴んでいた手も、襟足の辺りから順に顎、こめかみへと指先に髪を絡めては優しく撫でている。
水川の突然の行動に、金子は抵抗することができなくなっていた。
水川は、学ランのボタンをはずし、シャツの上から胸の辺りを弄りはじめた。
「……んっ//////」
金子の押し殺しそびれた声が漏れてしまった。
「ふふっ…やっぱりかわいいね。でもね、僕の目的は違うんだなぁ。いいものを見せると言ったろう?」
そう言いながら、金子シャツの胸ポケットから櫛を取り出し、ニヤニヤと笑う。
「……」
あっけにとられている金子のことを気にも留めずに、水川は金子の髪を梳かしだした。
「よしっ!」
水川はしばらくして独り満足そうにうなずくと、懐から手鏡を取り出して、金子に見せた。
「……」
「ねぇ、いいでしょう。この前も言ったけど、金子君はこっちの方がいいと思うんだよね。」
水川は得意気である。
それとは対照的に、あんなことまでされた金子は腹を立てていた。
「……まさかと思うが、いいものって」
金子が言い終わらないうちに、水川が答えだした。
「そう、鏡に写」
「あーーーー、言うなっ、それ以上言うなっ」
金子はボタンをはめながら制した。
「そう?でもね、僕は単に鏡を見て欲しくて言ったんじゃ」
水川の台詞を最後まで聞かないうちに、金子は裏庭から立ち去っていった。
後に残された水川は、均整の整った黒い姿を見送りながら目を細めていた。
……いずれは大人になるんだからさ、今の美点を消してまで先を急ぐ必要はないよ。
校舎の影まで来て、金子は赤らんだ顔を戻そうと息を整えていた。
……最後まで言わせたら、俺はものすごく情けないじゃないか!
これを機会に、金子の髪はさらさらと風にそよぐようになった。
金子の髪型が気になったので、色々考察しているうちにこんな妄想がでてきました。はい。
それにしても、キャラクターって暴走するんですね。
いや、暴走させたのは、酸塊なのですが...。
書きながら砂吐きましたっ//////