■ 紅い滴(薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク/木&金)
放課後、木下真弓は学校の倉庫を訪れた。
数冊の小説と葡萄酒を抱えて。
「金子先輩、いらっしゃいますか?」
おなじみの問いかけをして、真弓は中に入った。
「ああ。」
山積みにされた箱の向こうから、そっけない返事が返ってきた。
読書に没頭している時は、たいていこんな返事である。
真弓は金子の傍に腰を下ろし、辺りに積まれている本を眺めていた。
しばらくして、金子が本から顔を上げた。
「読みたい本は、見つかったのか?」
「いいえ。あの、いつも借りてばかりだったので、そのお礼に葡萄酒を持ってきたのですけど。先輩、よかったら飲みませんか?」
「ほう? 殊勝だな。だが、生憎ここにはグラスが無くてね。」
金子はパタリと本を閉じ、そして含み笑いをした。
こうなると、真弓も負けていられない。
「それでしたら、口移しでいかがです?」
「悪くないね。」
真弓は葡萄酒を口に含むと、金子に口付けした。
葡萄の酸味と同時に他の甘いものが互いの口の中に広がってゆく。
うまく受けることができなかった分が、金子の口の端から溢れ首筋を伝う。
真弓は唇を離し、舌で首に伝う紅い滴を辿ってゆく。
「......うっ。」
金子が眉を寄せた。
「おいっ、わざとじゃなかろうな?」
「何がです?」
真弓は微笑をたたえ、そして二杯目を口に含んだ。
「いや、何でもない。」
そう言いつつも、金子は少し釈然としないでいた。
――口付けの口実が飛び込んできて、うまくすればそのまま......と考えていたのだが、真弓に首筋をなぞられ、される方の気配がしたからだ。
「薔薇でほろ酔い」第2弾です。
純愛の活動写真で真弓が金子に酒を持っていったり、倉庫に酒瓶が転がっているなどの表現があったので、そのあたりから想像を広げてみました。
この二人、意地の張り合いが面白くて、書いていて楽しいです。
第1弾に続き、これも途中な感じですが、先が大まかに3パターン浮かんでおりまして、どれを採用しようかと、悩んでいるところです。
ホント幸せな悩みです。(笑)