クレームドカシス

贈り物(薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク/木&日,土,水,金)

二人分の防具を背負い廊下を歩いていると、後から声を掛けられた。
見ると沢山の書類袋を抱えた要が近づいてきた。
「火浦さんったら、また荷物を押し付けて先に行ってしまったのですか?」
真弓は苦笑いで答えた。
こういうことは多い。特に金子先輩を見かけた時は、必ずといっていい。
「しょうがない人ですね。そういえば、その火浦さんはもうすぐ誕生日ですね。木下さんは何か贈り物をなさるのですか?」
「贈り物?」
真弓はそんなことを今まで考えたことは無かった。
「その顔は、忘れていましたね。」
「いいえ、そういうことではなくて...その、好きな女性にというのなら解るのですが、ただの幼馴染にもするものなのですか?」
真弓は素直に疑問をぶつけると、要は微笑を携えて答えた。
「誕生日というのはきっかけに過ぎないんですよ。日頃の感謝を伝えたいのに、あまりに親しくて照れくさくなってしまう事ってあるでしょう。」
「そんなもんですか?」
「そういうものですよ。」
そう言うと要は立ち去ってしまった。
――僕の場合、感謝というより謝罪なのだろうか?
あずさの事を心の中でどこか蔑んでみてしまう、その思いが感謝よりも謝罪に繋がる。


剣道場の脇に差し掛かった時、真弓はまた呼び止められた。
今度は低く落ち着いた声。主は土田だ。
「おい、あんた確か火浦と親しかったな。」
声は優しく穏やかなのに、目の鋭さについ怯んでしまう。
「はい、何か?」
「金子があまりに火浦を邪慳にしていたものだから、その...落ち込んでいないだろうか?」
土田は真剣に心配しているようだった。
「特にいつもと変わった様子はありませんでしたが。」
真弓がそう答えると、土田の顔に安堵の表情が漏れた。
「それならばいい。金子にも気をつけさせるが、もし火浦が落ち込んだ時には、力になってやって欲しい。俺よりもあんたの方がいいはずだ。」
土田は用件だけ言うと去ってしまった。
――何かと表情に出やすいあずさなのに、土田先輩が心配するほどの事があっても顔に出さずにいたなんて。それだけ金子先輩の事を真剣に想っているということだろうか?
真弓の中に切ない気持ちが溢れた。


「随分とまた大荷物だね。」
裏庭の薔薇の陰から声がした。
着流し姿に金色の長髪の男が、片手をひらひらとさせて座っていた。
「水川先生こそ、また担当さんから逃げてきたのでしょう?」
「まあね。休憩ってところ。少し付き合わない?」
水川が隣をとんとんと叩いたので、真弓はそこに腰を下ろした。
「何か悩んでいそうな顔をしているね。」
先程からあずさの事を考えていたのが顔に出ていたのだろうか、それとも水川の感の良さによるものなのか。
しかし、真弓はただ遠くを見ているだけで口を開くことができなかった。
「気持ちの整理ができていないんだね。何をどうしたらいいのか解らない。違うかい?」
コクリと真弓が頷いた。
「そういう時は、とりあえず思いついたことをやるといい。やらずに逃げて後悔するよりは、やって後悔する方がすっきり諦められるし、うまくいく場合だってある。ここだけの話、僕は逃げたばかりに、未だに後悔し続けている。」
「先生が?」
真弓は信じられないといった目で水川を見つめた。
「だから、信用なさい。経験者は語ると言うでしょう。」
水川はにっこりと微笑んでいたが、瞳の奥には隠し切れない曇った過去の残像が映っていたのかもしれない。
「......まだどうしたらいいか迷っているけど、先生のおっしゃることは、何となく解りました。」
来た時よりは穏やかな表情になって、真弓は腰を上げた。


真弓は寮の前で金子に出会った。
金子は額に汗が光り、少し息が上がっているところを見ると、どうやらあずさを撒いたばかりのようだ。
「こんにちは。」
「やあ。」
金子は真弓を疎ましげに見た。
「先輩、心配しなくても大声であずさを呼んだりしませんよ。」
真弓が言うと、少し金子の表情が和らいだ。
「なかなか話が解るじゃないか。」
金子が額の汗をハンカチで拭いながら言った。
「どうして、あずさをそこまで避けるのですか?」
――どうして僕はこんなことを言っているのだろう? あずさなんてどうでもよかったはずなのに。
真弓は口から自然とこぼれた台詞に、自分自身が驚いていた。
そんな真弓の様子には気づかずに金子が答えた。
「火浦君は、どうやら俺を崇拝しているみたいでね。ところが君も知っているように、俺は火浦君が思っているようないい人間じゃない。四六時中付きまとわれたらボロが出るだろう。それを彼には見せたくはない。」
真弓が噴出した。
金子の答えもおかしかったが、あずさを気にしている自分自身がおかしかった。
「先輩って、あずさのことを避けているくせに、本当はあずさのこと好きなんですね。それに、先輩が心配している程あずさはそこまで子供じゃありませんよ。そうだ、27日はあずさの誕生日なんです。好きなんだったらちゃんと祝ってやってくださいね。それでは失礼します。」
「おいっ!」
金子は弁解しようと真弓を呼び止めたが、真弓は無視して建物の中へ入っていった。
ドサドサと荷物を無造作に置きながら思った。
――今はこれくらいしかできない......面と向かって贈り物なんてできない。
しかし、真弓が今まで感じていた寮の部屋の息苦しさは、もう無くなっていた。





あずさ誕生日記念です。
なのに御本人が出てこない辺り、捻くれてますかね。
間接的にあずさの話を書いてみたいという動機ではじめたのですが、ものすごく難産でした。
ベースは純愛の火金または金火を見ている真弓という設定。
軟派を公認(?)もしくは推奨(笑)している真弓に無理を感じますが、うちの真弓君ということでご勘弁を。


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