クレームドカシス

ぬくもり(薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク/木&土)

「アイン、ツヴァイ、ドライッ! ストォーームッ!!」
叫び声や太鼓の音が、夜の寮に響き渡っていた。
そんな光景は別段珍しくも無いことだが、この幟や太鼓を持った鉢巻き姿の集団が入った部屋が稀であることは確かだった。

寝巻きの浴衣、首に手ぬぐいを引っ掛け、洗面器を片手に持ち、風呂上りの土田が廊下を歩いていると、二つ先の扉から鉢巻き姿のむさくるしい集団が出てきたのが見えた。
――ストームか。あの部屋は、確か1年の......火浦と木下! 火浦はまだ風呂に居るはずだから、狙いは木下かっ!
明るく可愛らしい顔立ちをしている火浦あずさは上級生にも人気があり、彼の部屋はストームの対象からは外されていたのだが、同室で幼馴染というだけの木下真弓は、あずさがいないのをいいことに、どうやらストームの対象にされてしまったようだ。
心配になった土田が扉を開けると、酒と煙草の臭いが鼻を衝いた。
覗き込んでみると、奥の壁にもたれるようにして真弓が座っていた。
横顔に髪が覆いかぶさって、入り口からでは表情が見えない。
「おいっ!」
土田が駆け寄って声を掛けたが、真弓は気だるそうに閉じていた瞼を開けるのが精一杯だった。
「木下、しっかりしろっ!」
もう一度土田が声を掛けると、今度は返事が返ってきた。
「あれ? 土田...先輩? ストームは?」
相当量の酒を飲まされたのだろうか、わずかに開いただけの唇から酒の臭いが伝わってきた。
「奴らなら、もう出て行った。」
土田の答えを聞いて、真弓は安堵のため息を漏らした。
そして、両手を床に着けると壁から背を起こし立ち上がろうとしたが、バランスを崩して土田に抱きとめられた。
「部屋も煙草で煙っているから、動けるようなら、少し外に出て夜風に当たって酔いを醒ますといい。肩ぐらい貸そう。」
「ありがとうございます。先輩。」
肩を借りるというより、半ば抱えられて寮の外へと出て行った。
まだまだ暴れ足りないでいる、ストームの太鼓の音や叫び声が外にまで響いてきていた。
その音が酔った頭に響いて痛み、真弓が耳を押さえ顔をしかめた。
「大丈夫か?」
「あの音が響いて、頭が痛くて......もう少し静かなところまで歩いてもいいですか?」
「ああ。」


歩いているうちに二人は裏の林まで来てしまった。
「少し座って休むか?」
まだ足腰に力が入らす千鳥足の真弓を気遣って土田が言った。
真弓は土田にもたれかかるようにして腰を下ろした。
「あいつらに、かなり飲まされたのか?」
ぽつりと土田が尋ねた。
「いいえ、日本酒を一合だけです。たったあれだけの酒で酔ったことなんて無いので、言われるがままに枡を空けていったら、どういうわけか酔ってしまいました。」
真弓の答えを聞いて、土田が納得したような顔をした。
思い当たることがあったのだ。
「原酒を手に入れたという話を今日の昼に耳にしたが、おそらくそれを飲まされたのだろう。売られている日本酒は水で薄められているから、同じつもりでそれを飲んだのなら酔うこともあるだろう。」
言い終わるか否かというところで、土田がくしゃみをした。
真弓を抱えるようにして歩いた為に、浴衣の襟元がだいぶ乱れて開いていた。
「先輩、その格好、風呂上りですよね。すみません。でも、まだ歩けそうにないので...」
真弓は土田の襟を整えると、抱きつくように座り直した。
伝わってくる土田の心音と風呂上りの石鹸の香りが心地よい。
そして、触れ合うだけで得られるぬくもりで、全身が安らいでゆく。
「あの...これなら少しは暖かいですか?」
「すまん。」
仏頂面ばかりの土田が目を丸くしていた。
――もう少し甘えてもいいですか?
真弓は喉から出かかった言葉をすんでの所で飲み込んで、別の言葉を発した。
「もう少しここにいてもいいですか?」
「ああ。」
土田もまた、真弓の背中に手を回し華奢な身体をそっと包み込むと、一時のぬくもりを感じていた。





「薔薇でほろ酔いシリーズ」第7弾です。
今回のお酒は、日本酒です。
原酒なのでアルコール度数は20%ぐらいのやや高め。
真弓はそこそこ飲めると思うのですが、それは15%ぐらいの酒のお話で、きつい酒を飲んだら酔うんじゃないかというmy設定。
それから説明の為、妙に酒に詳しい土田がいますが、気になさらないで下さい。


テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル