天気は晴れ
雲ひとつなく、気温も良好
そして、退屈ムードも絶好調
放課後の飛行機
「・・・い〜天気だなぁ〜・・・」
長身を存分に伸ばして、仰向けに寝転んだセンはほのぼのと呟いた
時刻は午後2時
グラウンドから、体育選択の生徒達の声がする
先ほどチラリを見た感じでは、今日の種目は走り高跳びのようだった
でも、進学校であるこの学校でわざわざ体育を選択するなんて、落ちこぼれだ
勉強してるヤツはそんな無駄な事に時間を使わないし、
スポーツ推薦を狙ってるヤツだって自分の得意種目以外は手を出さないだろう
「・・・まぁ・・・俺が一番、時間を無駄にしてるんだろーケド・・・」
本日の天気は晴れ
センはヒトリ、窓ガラスを割って無理やり進入した屋上で空を眺めていた
「退屈だ・・・」
呟きながら、今日帰ってきた数学のテストを寝転がった姿勢で見直す
間違えなんて1つだってない
だって、数学はそうゆう科目だろう?
センはのろのろと起き上がると、おもむろに解答用紙の自分の名前部分を破る
そこから更に、形を修正して、正方形の紙にする
あとは、お決まり
センは紙飛行機を折り上げると、立ち上がって、グラウンドに背を向けて、ヒュっと飛行機を投げる
適当に折った紙飛行機なのに、上手く風を掴んだらしく、スイスイと飛んでいく
そして、屋上の柵を乗り越えて、どこかへ飛び立ってしまった
「・・・しまった、アッチって中庭じゃん・・・」
だれか居たらどうしよ・・・? 拾われたりしたらちょっとヤだなー・・・
「・・・・・・でも、名前もないし・・・俺のだってわかんないよね・・・」
紙飛行機の行方に興味を失ったセンは再び寝転がり、空を見上げる
「・・・・・・退屈ー・・・」
二度目の呟きを零して、センは瞼をさげた
天気は晴れ
雲ひとつない晴れ
いつの間にか、うとうと寝てしまったらしい
・・・まだ、お天道様も出てるし、もう少し寝てしまおう・・・
僅かに戻った意識でそう思って、寝返りをうった瞬間だった
不意に、自分の顔に影が落ちる
・・・あ〜、雲が出てきたかな〜・・・
雨でも降り出したらヤだな、なんて思いながら、センは眼を開けた
「・・・あ、起きた」
「・・・・・・・・・・・・へ?」
眼を開けてみたのは、雲が浮いた空ではなく、見知らぬ誰かの顔
制服を着ているし、胸のピンバッチの色から同学年の生徒だとわかる
・・・が、センには全然見覚えがなかった
「こんなところで寝てると、風邪引くぞ」
寝ぼけた頭で一層、混乱するセンを置いてけぼりに、自分を見下ろす、その見知らぬ男は淡々としゃべる
「・・・・・・・・・・・え、あ、うん」
コクコクと頷いて、センはとりあえず起き上がる
「・・・コレ、お前の?」
「は?」
見知らぬ男は少し土に汚れた紙飛行機を差し出した
「・・・・・・・・・・・あ〜・・・うん、俺の・・・」
・・・拾った人がわざわざ、ご親切に届けに来るというシチュエーションは考えてなかったな・・・
もや〜っとしたセンの返事に、見知らぬ男は僅かに視線を鋭くする
「江成仙一だろ、お前」
「は?」
唐突に名指しで呼ばれ、思わず眼を丸くする
繰り返すが、目の前にいる男に、センは全く覚えがない
自分が有名人だというコトもなく・・・
・・・ん? ・・・有名人・・・?
目の前の男に関して、ふと記憶がよぎる
しかし、それより重要なのは、
「何で俺の名前・・・?」
センの問いかけに、見知らぬ男は紙飛行機を広げて、そのテスト用紙をセンへ突きつける
「満点」
「うん、満点だね」
「俺は99点だった」
「・・・はぁ」
「今回のテスト、俺の上はヒトリしか居なかったんだ
満点で、1-3・江成仙一」
「・・・・・・・・・あ〜、俺、トップだったんだー・・・」
「順位表、見てないのか、お前ッ!!」
「だって、興味ないもん」
しかし、そこから紙飛行機の持ち主がバレるとは盲点だったなー・・・
「興味ないって・・・ッ!!
大体、どうやって屋上に入ったんだ、お前!!」
「どうって・・・じゃあ、君はどうやって入ったのさ?」
「俺は、あそこの割れた窓から・・・」
「あぁ、あそこ割ったの俺だから」
「お前かーッ!!」
「戸増も入っちゃったから、同罪ってコトで、先生にチクるのはナシにしてね」
「勝手に俺を犯罪者に-----------って・・・何で俺の名前・・・?」
先ほどのセンと同じ呟きをもらす
「1-5の戸増宝児って言ったら学校の有名人じゃん
入学式でも祝辞読んでたし」
さっきは寝惚けてて思い出せなかったが、おそらく、1年で1番の有名人
全6クラス・総勢180人の生徒でトップの成績を持つ男
人呼んで、『パーフェクト・ホージー』
その容姿から、女子にも絶大な人気を誇っている
「・・・とりあえず、窓の件は黙っといてやるが・・・
こんなトコロでなにやってるんだ、お前・・・?」
ホージーは、手にしたテスト用紙を折り目通りに紙飛行機に戻しながらセンの顔を見る
「何って・・・日向ぼっこ?」
「授業は?」
「俺、理数選択だから今日は午前で終わり。 戸増もそーでしょ?」
「塾は行ってないのか?」
「勉強なんて、学校と宿題だけで十分。 人並みの成績取れればイイし」
「・・・満点がお前の『人並み』なのか?」
「あはは、今回のはマグレだって」
「マグレで満点取られてたまるか!」
「まぁ、数学と国語だけは得意かな。 君と違って、他はからっきし」
「出来ないところを補って、総合順位を上げたとか思わないか?」
「卒業さえ出来れば、順位なんてどーでもイイよ」
センの表情は負け惜しみなんかではなく、本当にそう思っている表情だった
「・・・お前、なんでこの学校に入ったんだ?」
ホージーは眉を寄せて、ため息をつく
勉強は大して好きじゃない
順位に興味はない
成績も人並みでいい
みんながみんな、上へ上へと張り詰めている空気の中で、
この程度でいいと、適当なところで止めて無理しない
全国的にも有名な進学校にはあまりに不釣合いな性格
「・・・さっきから、質問ばっかりだなぁ・・・」
センは再び身体を倒す
「あ、悪い・・・」
今までの会話を思い出して、ホージーは律儀に謝る
その様子を見て、センは口元を上げるだけの笑みを零す
「・・・ここに入るのが、一番難しいって聞いたから」
「え?」
「中学の時、ココの受験が一番難しいって聞いたから、なんとなく受験したんだ」
「・・・なんとなく・・・」
ホージーの頭には、自分の受験戦争時代がリフレインされていた
中学の遊び盛りを捨てて、勉強一筋で目指したこの学校
同じように受験した他の同級生はみな落ちて、受かったのはホージーだけだった
最難関と言われるこの学校に・・・
「それで、受かっちゃったんだよね〜」
「そんなノリで受かってたまるかーッ!!」
ホージーの反応を予想していたのか、センはくすくす笑う
「怒りっぽいなぁ、戸増は〜」
「・・・お前と話してると、自分の努力が無駄に思えてくる・・・」
折角セットの決まっていた髪をクシャクシャとかき混ぜて、ホージーは顔に疲労の色を見せる
「無駄なコトなんかじゃないと俺は思うけどね
あ、俺がそう思わせてるんだっけ、ゴメン」
相変わらずの笑い顔
・・・とりあえず、彼の前でイライラを募らせるのは、それこそこの上なく無駄なのだと、ホージーは悟った
「コレ、どうする?」
紙飛行機を差し出して、センに問いかける
「飛ばしていいよ。 いらないから」
相変わらず、寝転がった姿勢のまま、センは返事を返す
「いらないって・・・」
「よく飛ぶみたい、それ」
満点だからかな?と、冗談めかして言う
「・・・・・・・」
ホージーは思わず、紙飛行機を見つめる
こんなもの手に取ったのは、本当に久しぶりだった
中庭で塾までの時間つぶしのために本を読んでいた時、空からコレが降りてきたあの瞬間、
それは、どこか幻想的で、何故か胸が高鳴って、本を手からすべり落として、手を伸ばした
その紙飛行機が、本日の不機嫌の元であったコトは驚いたが・・・
そして、何となく、会いたくなった
自分が頑張っても後一歩届かなかった満点の回答を、こんな風に投げてしまうヤツ
この学校で、紙飛行機なんて子供じみたコトをするヤツ
ある種の苛立ちと、そして好奇心
自分で望んだものの、この、勉強一色の生活に、
退屈してたのかもしれない
「・・・ホントに投げるぞ?」
「どうぞ、どうぞ」
ホージーが、紙飛行機を構えると、それを見るように、センは身体を起こす
軽く引いてから、手首を使って、鋭く紙飛行機を手から放つ
ツーっと紙飛行機は風を掴んで、飛ぶ
柵を越えた瞬間、空の青と、紙飛行機の白が、綺麗に混ざりあって、消えた
「ナイスショット、戸増〜」
センが笑いながら手を叩く
「苗字で呼ぶな。 気に入ってない」
ホージーはその紙飛行機の余韻を追いながら、センへ言う
「・・・じゃあ?」
「ホージーでイイ」
振り返ると、ホージーは柔らかく微笑む
「じゃあ、俺のコトも、『お前』じゃなくて、名前で呼んでよ」
「・・・センでイイか?」
「うん、ホージー」
センは何となく、ホージーへ手を差し出す
ホージーも何となく、その手を握る
「・・・これって友情?」
センの問いかけに、ホージーは笑って答える
「むしろ、ライバル宣言」
「なるほど」
屋上に、2人分の笑い声が響く
天気は晴れ
気温も良好
気分も上々?
8話で制服モエでした!
それで、思わず、高校パラレル・・・
ブレザーだったので、なんとなく、私立進学校設定
センは怠けても満点取れるわけではなく、勉強はちゃんとしてます
・・・なんか、他のキャラもだして、本格的にシリーズやりたいカモー