値踏みするような視線だと思った
「何か用か?」
読んでいた新聞から顔を上げ、
自分の表情で最上級だと思われる、不快の顔でその男を睨み付ける
「見てるだけだ。 気にするな」
確かにそいつは、定位置になった店の隅から俺をただ見ているだけで、何かしてくる素振りは微塵もない
・・・無いのだが・・・
「その視線がウザイと言ってるんだ」
思わず、俺は席を立ち、その男・・・仲代壬琴を再度、睨み付けた
あいにく、現在の恐竜やには俺と仲代しかいない
凌駕は娘の迎え、アスカとスケさんは買出し、
らんるは赤子を連れて散歩、ワニはその付き添い(ストーキングとも言う)、笑里は学校
そして、店は休み時間で客はいない
そうなれば、この険悪ムードを振り払うものなど何も無いワケで
「その程度のコトでカリカリするなよ。 カルシウムが足りないのか? それとも、高血圧か?」
明らかに俺を小馬鹿にした表情
思わず、こめかみに青筋が浮かぶ
「期待に副えなくて申し訳ないが、カルシウムは足りてるし、血圧も平常値だ」
「じゃあ、性格の問題か。 残念ながら、精神科は専門外だ」
「精神科が専門でも、お前の処置なんて、こっちからお断りだ」
続けて、俺は言う
「因みに俺も、精神科は専門外だからな。 お前のその子供じみた性格は直せんぞ」
相手の眉が僅かに跳ねる
現在、一勝一敗と言うところだろう
「女装趣味があるようなヤツに俺の高等な考えはわからんだろうな」
可愛い女子高生だったな、と仲代は笑う
コノヤロウッ・・・人の思い出したくない過去を・・・ッ!!
「ロクな考えもなくミケラに突っ込んでいって、無様に本の中に閉じ込められたのは何処の誰だ」
仲代は音速で、視線を逸らす
現在、多分、2勝2敗
「・・・」
「・・・」
数瞬、相手の視線を睨むだけの沈黙が降りる
お互いに、次の攻撃を考えているのだ
「「-----------」」
そして、ほぼ同時に口を開きかけた瞬間
「ただいまーッ!!」
恐竜やの戸が勢いよく開け放たれた
2人分の、殺意がこもった視線がタイミング悪く帰ってきた、哀れな犠牲者に突き刺さる
「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ〜・・・え?」
帰ってきた犠牲者こと、凌駕は反射的に愛娘を自らの背後へ隠し、笑った顔のまま冷や汗を流す
「ど、どうか・・・した・・・・・・・・・・・・んですよね、この状況・・・」
いかにも恐る恐るといった感じで、言葉を発する
「別にどうもしてない」
「あぁ、別にな」
そう返答を返す、俺と仲代の意識はすでに、相手へ戻っており、
交わす視線だけで、店内の気温を3度は下げている
「実に平和的に会話を楽しんでいただけだ」
仲代の台詞にはギスギスとした空気をまとっている
「互いの理解を深めるための、非常に有意義な会話だったな」
俺の台詞は、トゲトゲした温度をしている
「三条幸人の性格の悪さは俺の理解の範疇を超えている」
「そういう仲代壬琴の精神年齢は人類と同じ比較は出来ない」
表面上はこの上ない笑顔なのだが、眼が笑っていない
「・・・あの・・・二人とも・・・?」
「お前とは気があわなそうだとは思っていたが、これほどとはな」
「不本意だが、まったく同意見だ」
「一応、仲間なんですから仲良く・・・」
はじめから逃げ腰の凌駕が止めに入るが、『蛇に睨まれた蛙』とでも言うのだろうか?
俺と仲代に同時に睨まれ、一歩下がる
「「コイツと仲間になった覚えはないッ」」
俺たちの口ゲンカは、恐竜やのメンバーが全員帰ってきても収まらず、
その後、決着がつくこともなく、5時間続くこととなる
まるで今後の二人の関係を予感させるような、闘争心を書き立てるような
真っ赤な真っ赤な、夕暮れの日だった
壬琴が来てからの恐竜やの日常・・・みたいな
気持ちは白青白 (青白!?)
この二人は似たもの同士だから、仲が悪い