私が恐竜やに帰ってきたとき、そこには壬琴さんヒトリしか居なかった

「ただいま、壬琴さん」

私がいつものように、挨拶をする

当然、無視されるものだと思ったのだけど、

「・・・どうしたんだ、お前」

珍しく・・・というか、壬琴さんが初めて反応を返した

「えッ? ど、どうしたって?!」

思わず慌ててしまった

「・・・砂だらけじゃないか」

私の慌てぶりに呆れて、ため息をつきながら服を指差す

・・・あ、そうだった

「さっき、自転車でコケちゃったんです。 あッ、でも大丈夫ですから心配なくッ!!」

大げさなくらい、大振りで両手を振る

でも、壬琴さんの視線は変わらずコッチを見ていて・・・

「・・・腕、痛むんじゃないか?」

「え?」

「自転車で倒れたと言ったな。 右側からいったんだろ?」

「・・・は、い、全くその通りです・・・」

・・・驚いた・・・

なんでわかったんだろう?

「腕、見せてみろ」

壬琴さんはそういうと、自分の隣の席を示す

「あ、でも、全然大丈夫ですから!」

「早くしろ」

・・・私に拒否権はないらしい・・・



砂だらけのジャケットを脱いで、腕を壬琴さんに見せる

壬琴さんはいつもの白いコート姿で、こうして改めて見て、本当にお医者様だったんだと思った

「・・・腫れてるな」

右腕にそっと触れながら、呟く

「でも、ホントに痛くないですから・・・ッ!」

「痛くないわけないだろ、バカ」

その声と共に、壬琴さんは腕の腫れているところに力を込めた

「おっ、圧したら痛いですよ!」

思わず私は悲鳴を上げる

「普通なら痛まない圧力だ。
自転車でって・・・どんな倒れ方たしたんだ、お前・・・」

「飛び出してきた子供を避けようとして・・・こう・・・」

「・・・お人よしだな」

・・・まぁ、確かに、壬琴さんならそのまま轢くだろうな・・・

「骨は大丈夫そうだから、湿布を張っておけばいいだろう。 あるか?」

「あ、じゃあ、とってきま---」

そういって、立ち上がろうとすると、私より先に立ち上がった壬琴さんがそれを制す

「どこにある?」

「・・・ざ、座敷です。 救急箱にまとめて・・・」

・・・今日は驚かされっぱなしだ、私・・・

白いコートを揺らしながら座敷へ行く壬琴さんの後ろ姿を見ながら、実はこれは夢じゃないかと思う

・・・いや、腕の痛みは本物だった・・・



「他に痛むところはないか?」

慣れた手つきで、私の腕に湿布を張りながら、壬琴さんが尋ねる

「他は全然大丈夫です、本当に」

私に触れる、その優しい指先を見つめながら答えた

・・・そっか・・・

・・・本当は、優しいんだ、この人・・・

「2.3日は無理をするなよ」

「でも、恐竜やの仕事もあるし、エヴォリアンもくるだろうし・・・」

「他の男共に任せとけばいいんだ、そんなの」

自分がやるとは言わないのが、妙に彼らしい

思わず笑い出してしまった私を、不審そうな眼で壬琴さんがみる

「頭も打ったか、お前?」

紙テープが切れてて、腕には包帯が巻かれる

見た目は変に大げさだけど、今は、その巻かれる感覚が心地いい

「『お前』じゃないです」

「は?」

「ちゃんと、名前で呼んでくださいよ、壬琴さん」

「・・・お前なんぞ、『お前』で十分だ」





今、その顔が少し赤くなったように見えたのは

差し込む夕日の所為ってことにしといてあげよう

だから、私の顔が赤いのも、

夕日の所為にさせてくださいね





白黄?!
・・・当初はこんなにラブラブになる予定じゃなかったんスけど・・・
とりあえず、『壬琴は本当は優しい人』という裏テーマは完遂出来たと思います・・・

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