きっと、夢を見ていたんだと思う
そこは、自分が望む幸せの全てがある場所
happy days
いつも通りの花鶏
でも、今日は天気が良いせいか、（店主には失礼だとは思うが）珍しく店内は混み合っている
そんな日に限って、店主とその姪はお出かけ中で･･･
「城戸ッ、早く持っていけ！ 冷めるだろう?!」
秋山がカウンターに紅茶を置きながら、いつものように不機嫌な声で言う
「あーッ！ わかってるよッ、もぉ!!」
城戸は皿を下げるついでに、その紅茶を盆に乗せて、客の元へ運ぶ
そして俺は、下げられた食器を秋山の隣りで洗っていた
洗った食器は秋山の手ですぐに拭かれて、温められ、再び紅茶が煎れられる
とはいえ、さすがにお茶の時間も過ぎだして、
そのサイクルも段々とゆるやかなスピードに変りつつある
「手塚」
カップにお湯を注いで温めながら、秋山は俺に話し掛けてきた
「どうした？」
俺は洗い桶にたまっていた、最期の皿の泡を洗い流しながら返事をする
「皿洗いはもういいから、会計を頼む
城戸には任せておけん」
カップの中のお湯を器用に、カップの中で回しながら、秋山は顎で城戸をさした
注文を聞いたり、会計をしたり、食器を下げたりで１人、バタバタしている
「わかった」
泡のついた手を洗い流して、俺は濡れた手に風を当てながらカウンター内から出た
「会計は俺がやるよ」
「あ、ゴメンね、手塚〜！」
「いや、大丈夫」
そういって微笑むと、申し分けなさそうに眉を寄せる城戸から伝表を受け取る
この小さな紅茶屋には、レジカウンターなんて高度なものはなく、席を一つ一つまわって会計をする
「お会計、お願いします」
小さく手を上げたその席の伝表を探しながら、テーブルへ歩み寄る
「えっと、アフタヌーンティーセット2つで、2400円になります」
注文内容と、金額を言うと、その女性２人組のお客さんはちょうどのお金を俺に渡した
「ありがとうございました。 またお越しください」
お客さんが席を立つのを見て、俺は小さく頭を下げながらその背を見送る
今、ここで働いている俺を含む３人の、本当に望む幸せは、これではないのだろうけど、
でも、確かに今、ここには、幸せの欠片のような物がある気がした
もし、この時間が永遠に続くとしたら･･･
「幸せそうだね」
不意に耳に届いた懐かしい声に、俺は顔を上げた
「よかった、心配だったんだ」
さきほど、女性が座っていたハズの目の前の席に座っていたのは･･･
「海之ってさ、１人で何でも背負い込んじゃうトコロあるから･･･
心配だったんだ」
「･･･そうか？」
俺は微笑んで、彼に返事をかえした
「素敵なお店だね」
「そうだろう？ 紅茶も美味いんだ」
「人もイイ人ばっかり」
「あぁ。 秋山も城戸も、意地っ張りだがな･･･
･･･いい奴だよ」
「心配して損しちゃった
海之、笑ってるもん。 俺と一緒に居た時の同じように」
「･･･お前との思い出が、俺を支えててくれるんだよ」
「そう･･･、よかった。
俺にも、誰かを守る事が出来たんだ」
「過去形じゃない。 これまでも、今でも、これからも･･･
俺の事をこんなにも想ってくれるのは・・・お前だけだよ･･･」
「･･･そうやって、欠片でも俺を想い続けてくれる人も、
海之だけだよ」
「･･･多分、もう少ししたら会いに行くと思う」
「･･･そう」
「哀しいか？」
「･･･笑顔で迎えられるように努力する」
「すまんな」
「いいよ」
そう言うと、彼は立ち上がった
「･･･でも、海之には･･･ここで幸せになって欲しいな･･･」
彼は、俺の頬に両手を伸ばし、微笑んだ
「･･･ありがとう･･･雄一」
「手塚、どうかした？」
城戸が、俯いていた俺に声をかけた
「あ、すまない」
俺は慌てて振り返る
「また、何か見えた？」
心配そうに城戸は俺の顔を覗き込む
「･･･いや、すまない･･･。 大丈夫だ」
「うん、そう。 よかった」
城戸は笑みを一度、俺に向けてから、背を向けた
そっと、さっき、雄一が触れた頬に触れる
「･･･俺は、幸せだよ」
触れた指先には、微笑んだ口元の感触があった
永遠が欲しいと望む事は、どれほど愚かな事だろう？
わかっていながら、それでも･･･
消えぬように、消えぬようにと
その幸せを、胸に抱いた
１万ヒットありがとうございました
別に記念と言うわけでもなく、5000の時と同じようにその時に書きあがった物なのですが･･･
･･･あんまり『幸せ』じゃない感じで申し訳ないです･･･
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