夕焼けに染まった、古い音楽室で聞いた

あの、ピアノの音を

今でも未だ覚えてる


アカネ



高校2年生の手塚海之は、非常に浮いた生徒だった

成績は良く、性格に擦れたトコロがある訳でもない

ただ、何ともいえず近寄りがたい雰囲気がある生徒だった

そんな人だったから、友達と呼べる者も居なかった

そして、海之本人も特に気にしていなかったから、その事にさらに拍車をかけていた


放課後は、図書室に寄ってから帰るのが日課だった

何か読みたい本があるわけではないが、図書室という雰囲気が好きだった

その日も、閉館時間まで図書室で本を読み、適当に本を借りて下駄箱に向かって廊下を歩いていた

− 不意に聞こえる、ピアノの音 −

その音は、零れるように小さな音で海之の耳に届く

海之の足は、無意識にその音源へと方向を変えていた

階を上がり、廊下を歩いて、辿り着いたのは音楽室

防音の扉が少し開いていて、そこから音が漏れている

そっと、その隙間から中を覗く

ピアノを引いていたのは、恐らく自分と同じ歳の男子生徒


その曲は知らない曲だったけど・・・とても、綺麗だった

その音が、とても綺麗で、足がそこから離れなくなってしまう

どうしようかと迷った後、

バレて邪魔にならなければ大丈夫だろうと結論を出して、海之はその扉の前でその音を聞く

そして、もっとちゃんと聞きたくなって、その扉の隙間を少しだけ広げようと軽く力をかけると、

思いのほか力が入ってしまったのか、扉が勢い良く開いてしまった

「あ・・・ッ」

しまったと、心の後悔も思わず口に出る

「え?」

ピアノの音が止んで、小さな驚きの声が部屋におちた

「・・・」

「・・・・」

思わず、2人の眼が合って、嫌な沈黙が降りる

「・・・じ・・・邪魔をして、すまなかった・・・」

海之はなんとか、沈黙を破って頭を小さく頭を下げる

「いや、邪魔をするつもりはなかったんだが・・・
 綺麗だったから・・・つい・・・」

しどろもどろと謝りつづける海之に、ようやく、ピアノの前に座っている生徒が口を開く

「綺麗って・・・曲が?」

「・・・曲も綺麗だったし・・・雰囲気とか、音の流れとかも・・・すごく綺麗だった」

海之の感想に、彼はくすくすと小さな音で笑った

「綺麗だなんて感想、初めて聞いた
 ・・・音楽の世界って、上手いか下手かのどっちかだから・・・
 どちらかと言えば、オレは下手な方だし・・・」

声は立てずに複雑なものに変わっていった笑みを見て、海之の声が思わず強くなる

「綺麗だった、すごく綺麗だった
 俺には、音楽の事とか全然わからないけど、お前の音はすごく綺麗だった
 ピアノの事が、本当に好きだって事が伝わる、綺麗な音だ」

怒鳴るような声になりかけて、海之はハッと顔を赤くする

「・・・ごめん
 音楽のことなんて何も知らないのに・・・
 本当に、ごめん」

そういって、海之はこれ以上邪魔をしないように部屋を出ようとする

「なんで謝るんだよ」

その海之を、彼は引き止める

「俺、すごく嬉しかった
 綺麗だって言ってくれて、本当に嬉しい
 褒められたの初めてだし・・・」

顔をかく振りをして、赤くなった顔を隠す

「もう一回、聞いてってよ
 最初から最期まで、ちゃんとさ」

「・・・邪魔じゃないか?」

恐る恐る尋ねると、彼は満面の笑みで答える

「隣りで、聞いてて欲しい
 それで、もう一回、感想、聞かせて?」

「・・・うん」



ピアノの斜め後ろに椅子を置いて、海之はそこに座る

「そういえば、名前は?」

彼は振り返って尋ねる

「・・・手塚、手塚海之」

「俺、斉藤雄一」

ニコーっと笑って、彼、雄一は再び鍵盤に向き直る

夕日が差し込む音楽室のピアノは、その茜色に染まって、とてもキレイで

キラキラ光る鍵盤に、雄一がそっと指を置く

その指が動き出すと、綺麗な、綺麗な音が教室を満たす

長い指が、かるく触れるように鍵盤を弾く度に、気持ちの奥を揺らす

「この曲、俺が作った曲なんだ」

旋律が滞ることなく流れる中、雄一が唇も動かす

「凄いな、作曲もできるのか」

指の動きをずっと追っていた海之の眼が、雄一の顔の方に動かされる

「プロのピアニストになるのが夢なんだ」

それだけ言うと、雄一は再び口を閉じて、曲へ集中し始めた


鍵盤の上を滑る自分の指を見つめる雄一の眼は優しく、表情も暖かい

本当に・・・ピアノが好きなんだな・・・

海之はそう感じて、彼の事が少し羨ましいと思った


音はまだ、続いている




「どうだった?」

弾き終えた雄一は海之の顔をみて感想を聞いた

「・・・すごく・・・綺麗だよ
 やっぱり、そうとしか言えない」

自分の国語力の低さを悔やみながら感想を言う

でも、雄一はその言葉に暖かい笑みを作る

「うん、ありがとう」

そっと、鍵盤のフタを閉じる

「放課後は大抵、ここのピアノを借りて練習してるんだ」

「・・・え」

「また、聞きに来てよ」

「・・・いいのか?」

「イイって言ってんじゃん
 むしろ、聞きに来て欲しい」

「・・・じ---」

「邪魔じゃなから、全然」

「・・・・・」

「あ、ごめん
 嫌なら・・・」

「嫌じゃない
 本当にいいのか? 邪魔じゃないか?」

「海之が聞いてくれると嬉しい」

「・・・うん、ありがとう」



茜色に染まった音楽室は、段々と闇色に表情を変えていった



それからは毎日のように放課後は音楽室へ通い、雄一のピアノを聞いた

雄一は音楽について色んなコトを教えてくれた

俺にピアノを教えてくれた日もあったが、高校卒業までに弾けるようになった曲は『猫踏んじゃった』で限界だった

やっぱり、俺は雄一のピアノを聞いてるだけで良いよ

そういうと、雄一は笑って色んな曲を弾いてくれた

今でも、その全ての曲を覚えてる


あの、夕焼けに染まった、古い音楽室で聞いた

あの綺麗な、ピアノの音を

今でも未だ覚えてる



非常に書きたい話で、
がんばって書いたのですが、コレで限界でした
・・・全然、書き切れてないしッ!!!

2人の出会いは高校時代だったと思います
・・・いや、なんとなく・・・


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