貴方の幸せの色を教えて下さい
白黒二重奏
自分以外、誰も居なくなったホールの客席
座り心地の良いその椅子に深く身を沈めて、舞台の上で黒光りしているグランドピアノを眺めた
先程、彼が弾いていたグランドピアノを眺めた
「来てくれたんだね」
小さな軋む音を立てて、一席、間を置いた椅子を下げる
「どうだった? 今日の演奏」
一張羅のタキシードに皺が付かないように、注意して、彼はそこに腰掛けた
「・・・綺麗だったよ」
「海之はいつもそう言うんだから」
「雄一の弾く曲はいつも綺麗だから」
「・・・ありがと」
雄一は泣きそうな顔で笑った
「・・・今回も駄目だったな・・・」
「少し、緊張していただろう
いつもより、少しだけ指先が重かった」
「・・・うん」
「大丈夫。 まだ、終わりじゃないだろう?」
「うん」
雄一が力強く頷くのを見て、海之は優しく微笑んだ
「ねぇ、海之」
雄一は急に立ち上がると、海之の手を引いた
「雄一?」
首をかしげながらも、その手に引かれて立ち上がり、そのまま舞台へと歩みを進めた
「客席じゃなくて、目の前で聴いて」
端の階段から、舞台に上がる
「勝手に弾いたら、怒られるんじゃないか?」
「ココのピアノ、すごく音がイイんだ」
海之の忠告なんて、耳にも入れず、彼の手をぐいぐい引っ張って、ピアノの前まで連れてきた
雄一は、ピアノの蓋を開けて、椅子に座る
そして、試すように、人差し指で鍵盤を1つ叩く
ミの音が高く、ホールに響く
「ね、綺麗でしょ?」
「・・・すまない、家のとの違いがわからない・・・」
「うん、そうだろうなって思った」
クスクス笑って、改めて指先を鍵盤の上に置く
ゆっくりと指が動き出して、奏でる曲は、先程も弾いた曲
とても、穏やかな、優しい曲
・・・題名は、なんと言っただろう・・・?
「・・・海之の前なら、全然緊張しないで弾けるのにな」
指先は止まることなく、雄一の唇が動く
「いっそ、ピアニストになる事なんて諦めちゃおうかな」
「雄一?」
「ピアノと全然関係無い仕事に付いて、働いて、
それで、帰ってきたら海之のためだけにピアノを弾くの
曲は何がいい?
下手かもしれないけど、何でも弾けるよ」
「・・・」
「誰に認められなくても、海之が今みたいに隣りで聴いててくれれば・・・」
「雄一」
不思議と優しい声で、海之が名前を呼ぶ
「そんな事、微塵も思ってないんだろう」
「・・・海之は、そんな風に俺に依存されるのは嫌?」
「嫌じゃないよ」
この綺麗な音が、自分だけの物になる・・・
− なんて、幸せなことだろう −
「・・・でも、それはお前の幸せじゃないだろう?」
曲は途中だったが、雄一の指は不意に動きを止めた
「・・・ごめん・・・」
「なんで謝るんだ」
「・・・さっきの話、半分、嘘」
「うん、わかってる」
「・・・次、頑張るね」
「あぁ、頑張れ」
その声に促されるように、再び、指先が動き出す
「・・・でもね、海之」
ゆっくりとした言葉が、曲に合わせるように紡がれる
「ピアノを君のためだけに弾く事・・・
・・・それも、本当に・・・幸せだと思うんだ・・・」
「・・・うん、
・・・俺も、幸せだよ・・・」
あぁ、そうだ
この曲の名前は------
海之は「人の幸せが自分の幸せ」的な所が強いと思う
でも、雄一はあんまり、そんな海之が好きじゃなかったり・・・
もっと、自分の感情とか、願いとか、もっと出して欲しいと思ってる
結局、海之はただ雄一の為に命を懸けてしまうのだけれど・・・
因みに、雄一が弾いてた曲が何かは考えていません(え)
クラシックは好きだけど、マジメに聞いた事ないので
漠然とこの曲ってヤツはあるんですけど、題名がわからない・・・