お客の居ない

小さな演奏会

きらきらの光りを、いっぱいに含んだその歌は----


no music, no life

「でさー、地学の平沢センセがねー」

今日あった他愛もない出来事を口にしながら、雄一は鍵盤に指を滑らせる

今、弾いているのは少し前に流行ったJ-POP

楽譜はおろか、手元すら見ないで弾いているから、諸所、間違っているが・・・

彼の視線は、ピアノの隣りに座った海之へ向けられている

「弾くのか、喋るのか、俺の顔を見るのか、どれかにしろ」

海之は近くにあった机で頬杖をついて、雄一の手元を見ている

「じゃあ、海之の顔見てるー」

そういうと、雄一はへらっと笑って本当に鍵盤から手を放して、海之へ向き直る

海之は、問答無用にその頭を手元にあった音楽の教科書で殴りつけた


ピアノの音が止まって静かになった音楽室へ、遠くから管楽器の音が聞こえる

たぶん・・・視聴覚室の吹奏楽部の音だろう

「・・・そう言えば」

海之は、次に弾く曲を選んでいるのか、パラパラと楽譜をめくっている雄一に話し掛けた

「ん〜?」

「吹奏楽とか、音楽系の部活に入れば良かったんじゃないか?」

現在、雄一と海之は帰宅部

しかし、音楽の先生と仲のいい雄一が話をつけて、放課後は特別にピアノに触らせてもらっている

だが、部活に入ればそんな回りくどいことしなくてもイイだろうし、

自分に聞かせているより有意義な時間ができるんじゃないかと、海之は言うのだ

「んー・・・でも、吹奏楽だとピアノのパート少ないし、軽音だと音楽ジャンル違うし・・・
 中学の時は、声楽部で弾かせてもらってたんだけど、ココは声楽ないしね」

「・・・そう言われれば、そうか・・・」

妙になっとくして、海之は頷いた

すると、雄一は手にしていたJ-POPの楽譜を閉じて、適当なところへ放る

そして、鍵盤の上に指をそえて・・・

「これが、一番得意だったな」

指が覚えているのか、楽譜なんて必要ない様子で音楽が流れはじめる

それは、海之にも聞き覚えがある懐かしい曲

昔に、歌ったことのある曲だった


−不意に、その歌が口から滑り出る


その歌は、曲に合わせて淀みなく紡がれる

雄一は一瞬だけ海之の顔をみて、それからは無駄口ヒトツたたかずに曲を弾いた

椅子に座ったままの海之は、微かに微笑んで、その歌を歌っていた



「海之、上手だねー」

弾き終えると、途端に雄一が喋り出す

「もしかして、声楽部だった?」

「いや、卒業式の時に歌っただけ」

気恥ずかしそうに、海之は答える

「なんだ、もったいない」

「もったいないって・・・」

「綺麗だからさ、俺ひとりだけ聞いちゃ、もったいないなって」

くすくす笑う

「でも、一人占めって感じもいいかも」

雄一はひとりで納得して、また笑う

「あのな、雄一・・・」

少し頭を抱えて、海之が何か言おうとするが、

「他に歌える歌ってある?」

雄一がそれを遮るように、楽譜を差し出して尋ねてきた

「もう一曲、歌ってよ。 ね、お願い」

ニコーっと笑うその顔に、断る事なんて出来なくて・・・

「・・・しょうがないな・・・」


自分が笑っている事にも気づかず、差し出された楽譜を手に取った



海之が歌うとこが書きたかっただけッス・・・

ちなみに、海之が歌っていた歌は、イメージでは『大地賛唱』(漢字がわからねぇッ!)
桐生自身が好きな歌でもあります
第九の合唱もイイですね

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