君が願えば、きっと・・・
真っ白な世界に立っていた
「・・・あ、俺、死んだんだっけ・・・」
呟いて、胸にまで貫通していた傷を見る
何ともない、血の跡すらない
もしかして、あのコトは夢だったんじゃないだろうか
そんな気さえするほど、今は全てが穏やかだ
・・・いや、それが死なんだろう・・・
この暖かで穏やかな白の世界が『死』なのだろう
「不思議なものだろう?」
ひどく懐かしい声が
「死んで、さらに次がある
ならば、死というものはなんなのだろうな」
視線を声の元へ動かせば、そこに立っていたのは
白い世界に栄える赤色と黒
「------手塚-------」
彼は微笑みながら、歩み寄る
「大人っぽい顔つきになったな」
彼の手が頬を包んだ
「・・・来てしまったんだな」
「うん・・・」
「探してたお前の答えは見つかったか?」
「うん」
真司は大きく頷いた
「・・・そうか、良かった」
「でも、俺・・・全部途中で終っちゃった・・・」
刺された痕をなぞるように、胸に手を当てる
「そんな事ない」
海之の手がその手に重ねられる
「お前はお前の想いを貫き通した、それでいい」
優しく微笑んで、重ねた手から暖かさが伝わる
「おつかれさま」
「・・・うん・・・」
真司も笑みをつくって、頷いた
その時、白い世界が雪のように溶けはじめた
「・・・え・・・? 何?」
「・・・世界が分かれるんだ」
海之はまわりを見ながら静かに言った
「秋山が最期のライダーになって、力を得た」
「蓮が・・・」
「そして、秋山は願ったんだ
『神崎優依の願いを叶えてくれ』と・・・」
「------------------え?」
『誰も傷つかず、誰も傷つける事もなく
ただ私は、お兄ちゃんと一緒に居たい』
「その願いは、過去を変える事によって叶えられようとしている」
2人の兄妹が創り出した鏡のセカイ
そのセカイの意味が変わろうとしている
孤独から逃げ出すためのセカイではなく、ただ2人でずっと一緒にいるためのセカイへ
崩れる白の隙間から見えたセカイ
小さな四角いセカイで、壁一面に貼られたクレヨンの優しい絵
それを描いているのは、優依と、士郎、そして、幼い2人・・・
「あれが・・・?
あれが優依ちゃんの『願い』・・・?」
「現のセカイで叶わなかった願いを、彼女は幻に願ったんだ
ただ純粋に、兄の事だけを想って」
「・・・・・幸せそうだね、優依ちゃん・・・」
「あぁ、ずっと想っていたんだ
深く、自分の兄の事を」
「優依は幼いあの日に死をえらんだ
そして、士郎もそれを受入れ、2人のセカイへ逝ってしまった
ミラーワールドはモンスターとライダーのセカイではなく、
2人のセカイになったんだ」
「・・・これからどうなるんだ?」
「過去が変わった事によって、ライダーのセカイに関わった人々の運命も変わろうとしている」
「それって、どうゆうこと?」
「『今』の俺達は存在し無くなる
優依が死んだあの日からの全ての時間がリセットされるんだ」
「・・・全部、なかった事になるって事?
ライダーの事や、みんなが死んだ事や・・・・・・・・お前や蓮と出会ったことも・・・?」
「・・・そうゆうことだな」
「そんな・・・ッ!」
白いセカイは、もう限界を迎えようとしていた
雪のように粉々に別れた白は立ち上って消えていく
「何を悲しむ事がある?
多くの痛みがこれでなくなるんだ」
「でも、俺はお前や蓮や多くの人に出会ったッ!
痛い事もつらい事もあったケド、でも、全部なくしてしまったら、手塚の事も・・・ッ!
俺はそんなの嫌だッ!」
「もう、会えないと決まったわけじゃない
今とはお互い違うだろうけど・・・会えると決まってる訳ではないけど、
会えないと決まったわけでもない」
「・・・そうゆうことこそ、占ってよ・・・」
「俺の占いはもう当らないよ
お前達が運命をめちゃくちゃにしてくれたからな」
白だけじゃない
自分や相手も、その形を崩しはじめていた
「・・・・・・また、会えるかな」
きっと、最期の言葉になる
涙を必死に堪えて、笑みを作った
「お前がそう 『 願 う 』 なら」
彼は静かな笑みだった
『また、会いたい』
白はもう白でなくなり、セカイはその存在を消してしまった
残るのは、形も色もない微かな余韻
そして、夢の残骸は消えていく
そして、新しいセカイが産声を上げた
『願う』という事は、決して綺麗なものではない
他の誰のものでもでもなく、自分の、自分だけの願い
叶えるということは、自分を貫き通す事
その願いを叶えるためにがむしゃらになり、傷つき傷つけられていく
でも、私はまた願うだろう
ただ、貴方と居たいと
純粋に
まっすぐに
願うのだろう