君の曲、僕の指先、君の想い、僕の思い出

たった、1小節だけど、君に届くでしょうか



連弾


居間の中央に置かれたグランドピアノ

鍵盤の蓋にそっと触れば、そこには薄く埃が積もってしまっている

「・・・雄一」

呟きながら、海之は埃を拭うように手を滑らせた



この部屋は、全てがあの日のままだ

二人で暮していた、あの日のまま

玄関を開けると一番に目に付くのは、居間に陣取ったこのグランドピアノ

それに追いやられるように、隅の出窓のとなりに置かれたテーブルにはコーヒーメイカー

備えられた椅子は2脚だけ

部屋の左右に個人の部屋に続く扉があって、右が雄一の部屋、左が海之の部屋

・・・とは言っても、海之の部屋には読まなくなった本と枕の無いベッドぐらいしかなく、

その外の全て・・・よく読む本や、枕・・・は雄一の部屋に在るのだけど

楽譜や占いの本、音叉やタロットカードなどが散らばっていて、統一感の無い部屋だった

今もきっとそうだろう

思い出が痛くて、今では彼の部屋に入れないのだけれど



そっと、鍵盤の蓋を開ける

その上に敷かれた赤い布を取り去れば、鍵盤の絶妙な白と黒のコントラストが視覚を刺激する

海之は、ピアノの脇に無造作に置かれた楽譜に手を伸ばし、譜面台に広げた

楽譜を眺めながら、たどたどしい手つきでその譜面通りに主旋律の鍵盤を押す

最初は人差し指だけで

たどたどしい指先で奏でられる音は、ぎこちない曲にしかならない

「・・・それが、『オンガク』?」

不意に声がして、顔を上げれば、自分の隣りには、緋色の魔物が居た

魔物と言っても、今は人の形をしているが・・・

「・・・ただの音だな、これは・・・」

くすくすと小さく笑いながら海之は答えた

「『オンガク』とは何が違うんだ?」

「雨音を音楽とは言わないだろう?」

「ミユキのそれは雨音なのか?」

「似たようなものだ」

「雨音は好きだ」

「・・・そうだな、俺も好きだよ」

たどたどしいながらも、指を増やして、音を鳴らし続ける

調律もされないで放置されたピアノは、雄一が弾いていた時とは音が違う気がする

「・・・すまない、せめて俺がピアノが人並み程度に弾ければな・・・」

海之はエビーに謝ってるわけでも、ピアノに謝ってるわけでもない

きっと、今まもう此処には居ない彼の人へ謝っているのだろう

「お前のピアノが無駄になる事はなかっただろう
 お前の曲をもっと多くの人に聴かせる事が出来たのだろう
 少しでも、・・・俺はお前のために、戦う以外の事が出来ただろう・・・
 ・・・俺は、お前が残したものをに、何一つ意味を与えてやれないんだ
 ・・・すまない・・・」

音を奏でていた指先に力がこもり、一際大きな不協和音が部屋に一瞬、響く

「・・・泣くなよ、ミユキ」

「・・・泣いてるか・・・?」

不思議そうに海之は自分の頬に触れる

濡れた感触は無い

「泣いてるよ」

「・・・そうか・・・」

「泣くなよ」

「・・・すまない・・・」



再び、たどたどしい指先で音を奏でる

それでも先程よりは滑らかに音は流れていく

「・・・今のは結構、上手かったんじゃないか?」

エビーが言う

「雄一の方が一万倍は上手い。 いや、1万どころじゃないな」

「ユーイチは『ぷろ』だろう?」

「あぁ、コンクールにも入賞したんだ」

「ミユキは『しろうと』だろう?」

「あぁ、基礎の基礎も成ってない」

「そうゆうのって、『土俵が違う』って言うんじゃないか?」

「そうだな、その通りだ」

そう言いながら、海之は同じ小節をなんども繰り返し弾いた



− いつか、海之と一緒に弾けたらいいのにな

− 2人で弾くのか?

− 連弾っていってね、ちゃんと手法があるんだよ

− ・・・すまんな、音痴で・・・

− そんなこと言ってないよ。 なんて言うかな、今、俺が言った事は『理想』なんだよ

− ・・・?

− 『できたらいいな』って事

− 叶えたいと思わないのか?

− 叶えたいって思う事は『夢』でしょう?

− ・・・よく判らない・・・

− でも、練習すれば、弾けるようになるよ。 まぁ、俺並になるのは無理だろうけど

− 雄一は上手いからな

− 今のは一応、ツッコミ所なんだけどな・・・



「ここだけは、弾けそうだぞ、雄一」

音が曲に変り初めて、海之は笑みを浮かべる

「でも・・・これは哀しい曲だな・・・
 お前が弾いてくれた時は・・・そんな事、感じなかったのに・・・」

独りで弾くには、哀しい曲だな

「泣くなよ」

「泣いてない」

「泣いてるよ」

「・・・嬉し泣きだ」

「嘘吐くな」

「・・・」

「俺はミユキの『オンガク』が好きだ」

「何故・・・?」

「綺麗だから」

「・・・」

「・・・」

「・・・音楽に『綺麗』と言うのは、おかしいらしいそ」

「そうか? でも、綺麗だ」

「・・・俺の音じゃなくて、彼の曲が綺麗なんだよ」

「その曲を、お前の音が弾くから、綺麗な音楽になるんだよ」


− この曲はね、2人で弾くんだ

− 海之と俺の、2人で


「・・・連弾・・・」

そう呟くと、海之は両手で目元を覆った

「すまない、ここしか弾けないんだ
 お前と何度、練習しても駄目だったな
 でも、少しは弾けるようになったよ
 ・・・喜んでくれるか、雄一・・・?」



僕と君、2人の連弾

君の曲、僕の指先、君の想い、僕の思い出

たった、1小節だけど、君に届くでしょうか



綺麗な音楽に全てを織り込んで

片手の『連弾』が響く




精神世界が激しすぎて、意味不明になってますね
いつもの事です



・・・以下、思いっきり反省文です・・・

今まで、書いた中で元の構成から最も離れた作品です
・・・おかしい・・・何が一体・・・
いや、構成通りに書けた事の方が少ないんですけど、今回は抜きんでてます
連弾とか、全く出す気なかったんですよ!
出来上がったら、主題になってるけど・・・
・・・謎!

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