スイートハニー
毎週、雄一が買い出しに行った日の夜に、冷蔵庫を開けるのが密かな楽しみになっている
彼は新しい物好きで、買い物に出かけては、新商品のお菓子やジュースを買ってくる
それだけでなく、ほぼ1週間のペースで『Myブーム』と言う物が変るらしく、
その辺の物も含めて、我が家の冷蔵庫は1週間でその中身をガラリと変えてしまう
そして、今週
「・・・なんだ、コレは・・・」
帰宅と同時に何気なく冷蔵庫を開けると、そこに入っていたのは・・・
「お帰り、海之ー」
「おい、雄一・・・」
俺はすぐさま振り返って、彼の顔を見る
風呂上がりらしく、雄一は濡れた髪を乱暴にタオルで乾かしていた
「コレは一体・・・」
「海之」
俺の言葉を遮って、雄一がニコーっと笑う
「お・か・え・り」
その笑顔に、有無を言わせぬ強制力を感じて・・・
「・・・ただいま」
挨拶を返して、とりあえず、冷蔵庫の戸を閉めた
「・・・で、アレはどうゆう事なんだ?」
食事の準備を終えて席に着くと、一番にその事を口にした
「アレって?」
悪戯を誤魔化すような笑顔で、雄一が首を傾げる
「冷蔵庫の中身」
ビシッと冷蔵庫を指差して、誤魔化しは聞かないと視線で言う
「・・・えっとー・・・」
ツツツーっと、視線を逸らそうとするが、顎を掴んでそれを阻む
「ゆ・う・い・ち」
今度は俺が笑みを向ける番だ
「冷蔵庫の中の、山のようなお菓子は何だと聞いてるんだ」
・・・そう
今週、冷蔵庫の中は頭が痛くなるほど、カラフルなお菓子で埋め尽くされていた
「バイト先のマスターが、『近くに輸入食品のお店ができたよ』って教えてくれて・・・」
「いくら買ったんだ」
「・・・・・・・・・こんぐらい?」
ひょいっと、片手を広げる
「・・・単位は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「雄一」
「・・・・・・・・千・・・・デス・・・」
「なぁ、雄一」
「・・・はい」
「百ぐらいだったら、子供のおやつで許してもいい」
「・・・うん」
「だが、冷蔵庫を埋め尽くすほどとなると、話は別だ」
「・・・はい」
「何考えてるんだ、お前」
「・・・・・・だって、美味しそうだったんだもん・・・」
眼に焼きつくような赤い色の飴に、
可愛らしいクマの形をしたグミ
バカみたいに大きいガムや、甘さだけを追求したようなクッキー
・・・俺も、昔は憧れたものだが・・・
「歳を考えた事はあるか?」
「食欲に歳は関係ないよ!」
・・・何を力説してるんだ、コイツは・・・論点、ズレてるし・・・
「とにかく、今回は大目に見るが、次は勘弁してくれ」
経済的にも、甘いものが苦手な自分の精神的にも、この様な事態はよろしくない
「・・・じゃあ次は、ビターチョコも買ってくるから!」
「俺のお菓子が無いから拗ねてる訳じゃないッ!」
当分、この家には甘い匂いが染み付いて離れなくなるのだろう
甘い、甘い
彼の匂いだ
実は、全然書いた事が無かった『日常』的な話
しかし、散文だなぁ・・・短いし・・・
アメリカ輸入のお菓子は何故にあそこまで、ハデな彩色をしてるんですかね?
あの大雑把(笑)な味付けは案外、好きなんですが、あの色を見てると、おもちゃでも食べてるような気分になりません?