触れた手のひらから、
一直線に、貴方へ繋がる
温もりも思いも何もかも
指先に願いを
口元に寄せた両手に白い息を吐きかける
「・・・寒い」
街頭の下にポツンと立ち尽くした青年は、独り言さえ白く残る寒さの中で肩を震わせた
腕時計を見れば、時刻はそろそろ、日付を変えようとするトコロ
「・・・寒い・・・」
再び呟いて、白い指先をコートのポケットへ押し込む
「あにき、おそいぃ〜ッ!!!」
僅かに雪を路面に残す、人通りの無い街道で、思わずベルドリトは叫び声をあげた
今日は珍しく、イェスパーへ単独の仕事が入り、彼はひとり、出かけてしまったのだ
ベルドリトもついて行くと言い張ったが、見事黙殺された
そして、その仕事も終わり、今から家へ帰ると連絡が入ったとき、
いてもたってもおれず、ベルドリトはお迎えのために電車の駅まで駆けつけた
これが1時間前の話
「遅い遅い遅い遅い遅ぃ〜・・・」
恨み言の様にベルドリトは呟く
先ほど駅員に聞いたところ、次に来るのが終電で、それには乗ってるだろうとの事
・・・しかし、どうやら雪の影響が少なからず出てるらしい・・・
「軽装備で来すぎたー・・・手袋ほしー、マフラーほしー・・・」
ベルドリトは部屋着に1枚重ねて、コートを着ただけの格好で、
冬で、雪もちらつく、この季節に外へ出歩く格好では到底無い
「・・・『「皆殺しのラキ家」侯爵の双子の弟・まさか駅前で凍死!!』
・・・なんて朝刊の3面記事にもならないよ・・・」
寒さを誤魔化すためか、思わず独り言が増える
「・・・寒」
ため息も呟きも、真白な余韻を残して吐き出された
駅のホームが明るくなり、人の声がする
「・・・来たかな?」
ベルドリトは顔を上げ、駅の改札へ駆け出した
「・・・・・・・・・・・・・・兄貴ッ」
ポツリポツリと改札を抜ける人の中から、兄を見つけ、大げさなくらい手を振る
「・・・ベル」
僅かに驚いたような様子で、イェスパーは弟の下へ歩み寄る
「お迎えにきましたー」
ヘラ〜と表情を崩すベルドリトを見て、イェスパーも穏やかに微笑み、撫でるように髪に触れる
「・・・冷え切ってるぞ」
「手も真っ赤」
ポケットに押し込んでいた両の手をイェスパーの目の前で広げてみせる
「大丈夫か?」
心配そうにその手に触れる
手は、生きていることを感じさせないくらい、冷たくなっていた
「全ッ然、大丈夫じゃないよ。 もう、指先に感覚ないもん」
「・・・手袋はどうした?」
「忘れちゃった」
悪びれなく笑って、ベルドリトは手を兄へ伸ばす
「手、繋いで帰ろ」
「・・・」
「あ、無視しないでよ。 指先寒いんだって」
ホラホラーと、寒さで赤くなった手を見せ付ける
「・・・手袋貸すぞ?」
「ヤダ、手」
一歩もひこうとしない弟の様子に、イェスパーは思わず笑みを零す
笑みの吐息さえ、白く色づき、儚く消える
「しょうがないな」
イェスパーは取り出しかけた自分の手袋を鞄へ戻し、ベルドリトへ手を差し出す
「ん」
ベルドリトは嬉々として、その手をとる
ただ繋ぐだけじゃなくて、指の1つ1つまで絡めて
「兄貴の手、あったかいー」
繋いだことを確認するように、その手を持ち上げる
「・・・さりげない嫌味か?」
「被害妄想ダヨ、兄貴ー」
子供がするように、繋いだ手をブラブラと揺らして歩きはじめた
駅の明かりは消え始め、ポツリポツリと灯った街灯が酷く優しい闇を作っている
「僕さ、兄貴と手を繋ぐの好きなんだ」
不意にベルドリトが呟いた
「一番、兄貴を傍に感じられる気がするから、好き」
「・・・そうか?」
「会話もキスもセックスも好きだけど、手を繋ぐのは別格」
会話は『交わす』
唇は『触れる』
身体は『重ねる』
そして、
「手は『繋ぐ』」
きゅ、っと繋がった指先に力らがこめられる
「この手の平から、兄貴に繋がってるのが解るから」
愛し気に言葉を紡ぐ
幼子が、自分だけのおまじないを呟くように
「・・・俺の手は冷たくないか?」
イェスパーは、手をより深く握り込む
僅かに見下ろすベルドリトの表情は、満面に鮮やかな笑みで・・・
「痛いくらいに、あったかいよ」
繋いだ手のぬくもりは、互いの体温が混ざり合って、
もう、冷たいとも暖かいとも感じなくなっていた
それでも、貴方と手を繋ぎ、歩く、二人きりの夜の道
2000Hitリクエストでした
『手を繋ぐ』というシチュエーションは私自身、とても好きで、
リクエストと自分の文は合ってるのかと自問自答を繰り返しながら書いていました
2000ゲットの陸タスク様のみ、お持ち帰りOKになっています
お気に召しましたら、お持ち帰りくださいませ☆