二人と一匹シリーズ
1・拾い物
「しぃ〜、な? しぃ〜」
ベルドリトは窓から自分の部屋へ侵入し、立てた人差し指を唇に当て、胸に抱え込んだモノへ囁きかける
窓辺に腰掛け、泥で汚れた靴を先に室内へ投げいれて、
その後で足元の本やガラクタを踏み荒しながら自分も部屋へ入る
「えっと、とりあえず何か暖かくできるモノ・・・」
未だソレをコートの内側に抱き込んだまま、部屋に適当な物がないか見渡す
「あ、あった」
床におちていたタオルを拾い上げようとした瞬間、
「ベル、帰ってきたのか」
「ひぃッ!!」
控えめなノックの後に、ドア越しに兄の声が続く
「・・・ベル?」
思わずビックリして漏れてしまった声を不審に思ってか、兄・イェスパーは素早くドアノブに手をかける
「あぁあぁぁ〜ッ!! ちょっと待って、駄目、ヤバイ、まだ開けないでーッ!!!」
文が繋がらない言葉を慌てて叫んで、ベルドリトは抱えていたソレをベッドの掛布の下へ隠す
隠して扉へ振り返ったその瞬間に、兄が焦った様子で戸を開け放った
「どうかしたのか?!」
「いや、何でもないッスーッ!!」
勢いのついているイェスパーの声に押されて、知らずに自分の声も力強いものになってしまい、
怪しさに拍車をかけてしまった
「・・・窓から帰ってくるのはやめろと言ってるだろう?」
弟に外見的な負傷や異変がないのをみて少し安心したのか、イェスパーの口調は柔らかくなる
「わざわざ裏通りに入らないと玄関に行けない、この不便なアパートが悪い」
いつもはその理由で表通りに人が余り居ないのを見計らって、
兄ほどではないとしても生体咒式強化された跳躍力でこの3階の窓に飛びついて帰宅しているが・・・
実は今日の理由は違う
「・・・ベル」
「うっ、うん?」
今日は玄関から入って、リビングに居るかもしれない兄の横を通る訳には行かなかった
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「何よ、兄貴??」
この、自分の隠し事が通用しない兄には・・・ッ!!
「・・・・・何か、隠してないか?」
イェスパーの隻眼のその眼が鋭くベルドリトに突き刺さる
「え?! 全ッ然、なんにも?! 気の所為ダヨー!!!」
早口にまくしたてるが、イェスパーの眼は不自然に膨らんだ布団へ移動する
それに気づいて、ベルドリトは視界を遮るようにすり足で横へ移動
「・・・ベル」
「はい?」
「尻尾が隠せてないぞ」
「えッ?! 嘘?!」
ベルドリトは慌てて、背後の布団を確認するが、不自然に膨らんでいるだけで決定的な証拠は見えていない
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハメられた・・・」
ガックリと肩を落とすベルドリトを見て、イェスパーは深々とため息をついた
「お前、今度は何を拾ってきたんだ?」
リビングの食事用のテーブルに向かい合って座る
ベルドリトはイェスパーの視線から逃れるように俯いて、ぽつりぽつりと話しはじめた
「散歩に出かけたら、コイツの声が路地裏で聞こえたわけよ
それで、声に呼ばれるまま路地に入っていくと、ダンボール箱があってね
他のは・・・死んじゃってたんだけど、コイツだけ生きてて・・・
なんか・・・ほっとけなくてさ・・・」
「拾ってきてしまった、と?」
「うん・・・」
「俺に隠してた理由は?」
「・・・兄貴、怒るかなーって・・・」
拾われてきたそれは、今はタオルに包れて机の上にちょこーんと寝そべっている
「・・・飼いたいのか?」
「へ?」
怒鳴られると覚悟していたベルドリトは予想外の言葉に顔をあげる
「ウチで飼いたいのかと聞いている」
「・・・・・・いいの?! 飼ってイイの?!」
「火竜や人食い鬼だって飼ってきるんだ
こんなチビ一匹増えたところで大して気にならん」
・・・まぁ、火竜やら人食い鬼はベルドリトの虚数数域での飼育だが・・・
「・・・・・・・・・・・・」
「どうした、ベル?」
急に黙り込んだ弟の顔を覗き込んだ瞬間、ベルドリトはイェスパーの首に腕を廻す
「あっっりがとーッ!!! 兄貴、大好きーッ!!!」
数瞬溜め込んでいた声と思いを全開して、ベルドリトは叫ぶ
「じゃあさ、じゃあさ、今度、首輪とか買いに行こーよ!
あと、名前も決めてあげなきゃ。 それから・・・」
「少し落ち着け。 それに、色々やる前に一度、病院に連れていった方がイイんじゃないか?」
「うんうん、そーだね!」
未だ首に廻されたままのベルドリトの腕を受け入れながら、子供のようにはしゃぐその頭を優しく撫でてやる
イェスパーの顔にも笑みが浮かんでいた事に本人は気づいていただろうか?
ベルドリトが拾ってきたそれは、
まだ眼も開いていないほど小さな小猫だった
二人の一匹シリーズ、序章でした
私的には、狼と小犬と小猫の3匹気分で書いてます
連載と言うわけでなく、ダラダラネタが向くまま書いていきたいです
因みにコレは、以前も書いたラキ兄弟・アパート二人暮らし設定でいってます
そこんトコよろしく!