二人の一匹シリーズ

     2・名前



自分たちが住んでいる街の、スラム街に近い路地に、ひっそりと時間から棄てられた様な古い病院がある

本当に小さな病院だが、知る人ぞ知る名医・・・つまりは闇医者である

「心臓と脳みそがある奴なら何でも治せる」が医者の口癖で、
自分たちだけでなく、ベルドリトが飼っている竜やら鬼やらもお世話になった事がある病院だ


「どっもーッ!! ベルドリト君がやって来ったヨー!!」

掛け声と共に、古く壊れかけた木製の扉をトドメを刺すような勢いで開け放つ

案の定、扉は蝶番が壊れ、道側に倒れそうになるが、一緒についてきたイェスパーがそれを受け止める

「・・・ベル」

深いため息には年期が篭もり、兄の苦労が哀愁と共に溢れ出る

「おぉ、騒がしいな、相変わらず」

この病院の主がせせら笑う様な声と共に、奥の診察室から現れた

「お久しぶりです、ドクター・・・」

壊れた扉を入口の脇に立てかけながら、イェスパーが小さく頭を下げた

「今日は兄貴も一緒か。 最近、顔を見ないから死んだかと思ってたところだ」

「僕の心配はしてくれないのー?」

「お前さんは3日に1度は遊びに来てるだろ
 それと、ドアの修理代はキッチリ払ってもらうからな」

白衣を着込んだ初老の医者はベルドリトの額を軽くこついでから、診察室へ入るように促した



医者は人間用の診察台中央にちまっと乗せられた生き物をまじまじと見てイェスパーに声をかけた

「また、妙なモノを拾ってきたな、お前の弟は」

「竜や鬼に比べれば、良識的なモノだと思います」

「そりゃそうだな、コレの方がまだ人間的だ」

「えぇ、まったくです」

2人分の笑い声が響いたあたりで、今まで黙って会話を聞いていたベルドリトが口を挟む

「・・・ねぇ、二人で共謀して、僕の事バカにしてない?」

『気の所為だ』

「・・・・・・・してる、絶対してる」

むぅっと頬を膨らませると、ベルドリトは子供っぽい仕種で二人から視線を逸らした

「しかし、仔猫か・・・生後2週間ぐらいかな? いつ、何処で拾った?」

医者の顔に戻って、ベルドリトに問い掛ける

「昨日、その辺の路地でダンボールに入れられてるのを拾ったんだ」

「居たのは一匹だけ?」

「・・・ううん、他に4匹・・・でも死んでた」

「昨日は何か食ったか?」

「温めた牛乳あげたけど、飲まなかった」

「・・・少し、弱ってるみたいだな」

小猫の脈を指で感じながら、小さく呟く

「・・・死んじゃう?」

「栄養剤を打ってやれば大丈夫だろう。 あと、何かウィルスにやられてる可能性もあるからその薬もだな」

「大丈夫なの!!?」

一瞬沈んだ、ベルドリトの表情がぱっと明るくなる

「心臓と脳みそがある奴なら何でも治せるって、いつも言ってるだろう」

医者の、妙に鋭いが優しい視線が不敵に笑って答えた




「名前は決めたのか?」

医者が猫に処置をしているのを眺めながら、イェスパーが聞いた

「メスだからな、カワイイ名前にしてやれよ」

医者が、仔猫の目やにをとってやりながら言う

「メスなの? じゃぁー」

嬉々とした顔でベルドリトが口を開いた瞬間、

「却下」

イェスパーの冷たい言葉が覆いかぶさる

「僕、まだ言ってないのに!!」

「大体の予想はついた。 却下だ」

「うわー兄貴、ヒドイッ!! 弟虐待だー!!!」

「・・・じゃぁ、言ってみろ」

「メスだから、パスパラパラッタ・テコラッタ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・どっから沸いて出るんだ、その意味不明な単語は・・・」

頭痛がするとイェスパーは額を抑える

「ウチの子だから、フルネームはパスパラパラッタ・テコラッタ・リヴェ・ラキって事だね」

「・・・・・・・・・」

「ねぇ、兄貴・・・黙殺が一番傷つくって知ってる?」

「頼むから、もっと普通の名前を考えてくれ・・・」

「えぇ?! ダメなのッ!?」

「駄目に決まってるだろうッ!?」

結局この後、医者の処置が終っても、仔猫の名前が決まる事はなかった



昨日拾って来たときより、少しばかり元気になった猫を胸に抱え、2人並んで帰路を歩く

「・・・兄貴のワガママ」

不機嫌そうな顔でベルドリトが呟く

猫の小さな頭を指先で優しく撫でてやると気持ち良さそうに手に擦り寄ってくる

「お前がその意味不明の単語を連呼して猫を追い駆けている姿を想像するだけで
 世界の果てでも見に行きたくなりそうなのでな・・・」

時刻はまだ昼を少しすぎた程度で、頭の上には建物に邪魔され、幾ばくか狭くなった空が広がっている

「大体、普通の名前ってなにさ? パスパラパラッタも駄目、チャスラスパタも駄目、クルラクッルレも駄目ー・・・
 大賢人目指したいなら勝手にどーぞ。 もう、僕も限界ー」

そう言いながら、その狭い空に向かって、猫を抱き上げる

不意に聞こえるエンジン音

猫を再び胸の位置へ戻し空を見上げれば、空の蒼と背反するような赤い色の飛行機が飛んでいた

そして、フッと浮かび出る単語

「・・・ライト」

猫に囁くように、ベルドリトが言葉を漏らす

「兄貴! ライト!! ライトにしよう!!」

大発見をしたように、隣りを歩いていた兄の腕を掴み、笑みを向ける

「『光』?」

その名を不思議そうに口にして、イェスパーは首を傾げる

「ブブー、ハズレ」

ベルドリトは空を見上げて言う



「初めて空を飛んだ兄弟の名前だよ」



あの赤い飛行機の軌跡には、白い直線が空を分けるように引かれていた



猫の名前は、ライトか、キティホークかでかなり迷いましたが、
キティホークだと愛称キティで、サ●リオになってしまうので却下
因みに、兄弟の綴りは『Wright』で発音も違うので、『Light』とは間違えないだろうという意見は黙殺の方向で
つーか、なんで飛行機かというと、やっぱりベルの飼い猫だから
魔杖剣も『空渡り』だし・・・
次は3話目にして、番外編の予定

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル