『当たり前』になれなかった事

それを寂しいと思う事はあっても、現状を否定する事は出来ない

せめて、貴方がいればイイと思える強さがあれば・・・

one scene


久しぶりに帰ってきた二人の家だった

十二翼将と言っても、モルディーンの元に常時居るわけではなく、
ラキ家としての仕事の時や、少ないながらもプライベートの日では街中に借りた安アパートで暮している

別に金が無くて安アパートに住んでいるわけではない

たまにしか使う事はないし、たった二人で使うのだから広すぎても手入れが面倒になるだけだ

キッチン付きのリビングと2人の部屋、合計3部屋しかない小さな部屋だが、
双子にとっては唯一ともいえる、安らぎの場所だった



「ベル、昼飯だ」

そう言いながら、家の戸を開けるが返事は返ってこなかった

「・・・ベル?」

食事といえば、飛んで出てくる弟なのに・・・

不審に思って、イェスパーは買ってきた食事をテーブルに置くと、ベルドリトの部屋へ向かう

「注文通りにラズベリーパイも買ってきたぞ」

部屋の中にはベルドリトの気配があるのに、扉に向かって声をかけても返事は返ってこない

「入るぞ、ベル」

返事は相変わらず無いながらも、許可を求めてから、イェスパーは部屋の戸を開ける

「・・・おかえり、兄貴」

ベルドリトは確かに中にいて、部屋の出窓に腰掛けて外を眺めていた

しかし彼の表情は、いつものような笑顔ではなく、どこかぼんやりとしている

「・・・どうかしたのか?」

自分の低い声が彼を威圧するような音にならないように気を付けて、隣りに歩み寄りながら話し掛ける

「ん〜・・・」

相変わらず視線は外に向けられたままで、返事ともいえない声をベルドリトは漏らす

イェスパーもベルドリトの視線を追って外を見れば、そこには手を繋いで歩く、小太りな男と幼い少女の姿

恐らく、親子なのだろう

「・・・さっきね、あの女の子、躓いてコケちゃってさ」

不意にベルドリトが口を開く

「ココまで声が聞こえるほど、泣いちゃって・・・
 そうしたら、ちょっと後ろを歩いてたお父さんが慌てて駆けよって、その子を抱き上げたんだ
 それで、頭撫でて、笑って何かを言ってあげたら、女の子、すぐに泣き止んで・・・
 なんか・・・笑ってた・・・凄く嬉しそうに笑ってた・・・」

いつもの戦闘用の服でなく、お気に入りの飛行眼鏡も武器も無いベルドリトは酷く幼く見える

そして時折、彼は他愛も無い日常の中で、今のような空虚な顔をする

「・・・あぁゆうのが・・・『普通』のオトウサンで・・・『当たり前の幸せ』ってやつなのかな?」

その言葉には、イェスパーも胸のずっと深い所を抉られる気がした



ラキ家に生まれて、その名を受けた時から全ての運命は決まっていた

物心つく前から殺す事を教えられ、激しすぎる修行のために何度も死にかけ、5つになる頃には人を殺した

それが自分たちの『当たり前』で、優しい父の顔も、暖かな母の姿も知らない

自分たちに殺す事を教えたのは父で、自分たちを殺しかけたのは母で

彼らの優しい姿や言葉など、記憶のどこを捜してもありはしない

自分たちは、人の顔をしていて人語を解しても、結局は人殺しの道具であるから

・・・父や母がそうであるように・・・



「・・・羨ましいか?」

あの父子はもう歩き去ってしまって、その姿は視界にはない

イェスパーが問い掛けると、ベルドリトは変わらず窓の外を見ながら答える

「羨ましい・・・っていうか、『IF』かな・・・
 もし当たり前の枠組みに入れたら、もしこんな生活をしてなかったら」

現実から逃避する、儚い頭の中の空想遊びにわずかな笑みを零すが、すぐに、また空虚へ落ちる

「ホントは・・・少し羨ましいのかな・・・
 あんな小さな子が当たり前のように知ってるコトを、僕は知らないんだ」

暖かなぬくもりとか、無条件で与えられる愛情とか

今からそれを理解しようとするには、自分の手は赤色に汚れ過ぎてしまった気がする

後悔なんて有りはしない

振り返ったところで、道は1本で枝わかれする選択肢なんて思い出しようもないから

「・・・ベル」

イェスパーは小さく彼の名を呼ぶと、胸で抱き込むようにその頭に腕を回す

「兄貴・・・?」

「『大丈夫』」

「・・・・え?」

「・・・先程・・・買い物の帰りにあの親子とすれ違ったときに・・・父親が言っていた
 娘を抱きしめ頭を撫でて、何度も・・・『大丈夫』だと・・・」

兄の低いその声は酷く優しく、無性に暖かい

「だいじょうぶ・・・?」

「なぜ、そんな気休めの言葉で、泣いていた娘は笑みまで見せれるのだろうな・・・」

「・・・わかんないね・・・。 ・・・でも・・・」

そっと、ベルドリトは兄の胸に手を回し、心臓へ耳を近づける

「・・・幸せ・・・かもしんない」

イェスパーの指が自分の髪を梳く感触が心地よく、ベルドリトはクスクスと笑みを漏らす



耳から響く、兄の心音が胸の奥まで響いて、何かが満たされていく気がした

ただ、彼が居る事

それだけで、全てがイイような気がした









ラキ兄弟・・・っていうか、兄×弟を意識して書いてみたのですが・・・
・・・ベルの偽者バンザイっぷりには最早なにも言えません

双子は二人暮らしでどこかに住んでるってMy設定も今回披露
『されど』では電車でどっからか来てたしッ!!
十二翼将としての仕事以外にも、ラキ家として暗殺の仕事もやってる、売れっ子の人殺し(はい?!)です

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