夜行演技







 午後十一時。消灯時間はとうに過ぎ、グリフィンドール塔内はかすかな少年 少女の寝息のみを残し、静寂した夜に包まれていた。空には光々と明るい満月が上っ ている。窓から注し込む月光が塔内の夜闇にコントラストをつけていた。
床に落ちた月明かりを二つの人影がよぎった。
静寂をやぶる小さな足音が階段に響く。
「フレッド、もっと足音に注意しろよ。誰か起きでもしたらどうするんだ」
少年の一人が声をしぼって、もう一人の少年に注意を促がした。
「そう言うジョージこそ声が大きいぞ。主席殿が声を聞きつけるぜ」
返事をした少年はもう一人の少年とまったく同じ容姿をしていた。
すらっと長い手足。秘密めいた深みを持つ瞳。形の良い唇。燃えるような赤髪。 おまけに発する声まで同じ音色だった。
「まあいいか。誰かが起きてきたとして、それはそれで」
ジョージが言う。フレッドもその後に続ける。
「また夢の世界にいざなってやればいい訳だ」
フレッドはローブの中から杖を取り出し、指揮者のように三拍子を刻んだ。眠りの 曲を流すとでもいうような素振りである。一見穏やかな対処をするように思われる が、実際は全身かな縛りの術で、相手を固まらせるという無情なものが、双子の考え ている対処法だった。
「パーシーが起きてきたら笑えるよな」
「もしもパーシーを固まらせたら談話室の暖炉横に飾ろうぜ。等身大の石造にな る」
「この少年は主席という大役を見事つとめきったため、ここに石造を設立し、その 名誉を称えます」
ジョージが芝居がかった口調で言う。
「ああ、パーシー!お前はホグワーツに名をのこす偉大で最高な石頭だったぜ!」
双子は声に出さぬよう、肩をゆらして笑い合った。
彼等が夜中に抜け出すことは稀なことではない。夜中に抜け出すことには、多くの 利益があるのだ。禁じられた森に忍び込むにしろ、事務所の没収品の棚を漁るにし ろ、ハグリッドやフィルチの目を掻い潜るには、夜が圧倒的に有利だったのだ。今夜 の双子の悪戯が前者か後者か、はたまた異なるものなのかについてはご想像にお任せ するとしよう。
双子達が階段を下り終えるころフレッドが突然立ち止まった。ジョージが目で疑問 を投げかけると、フレッドは口元に人差し指をあてた。ついでジェスチャーで耳を すませ≠ニ示した。談話室の方から、かすかな息遣いが聞こえてくる。双子達は足音 を忍ばせて階段を下り、談話室の入り口のところまで行き、中の様子をうかがった。
誰かがテーブルに突っ伏して眠っているようだ。双子達はその人物が起きないこと を祈り、意を決して談話室を横切ることにした。猫のような素早い動きで出口に進 む。と、今度はジョージが立ち止まった。フレッドが目で合図するより早く、ジョー ジは口を開いた。
「パーシーだ」
テーブルで寝ていたのはパーシーだった。どうやら徹夜で勉強していたところ、う とうとやってしまったらしい。テーブルの上にはペンや羊毛紙が放置されていた。
「偉大すぎるぜパーシー!」
フレッドがはしゃいでパーシーに駈け寄った。ジョージも続く。
「ああ、愛してるぜパーシー!」
ふざけたジョージが、眠っているパーシーの頬にちゅっとやったが、それでもパー シーは一向に起きる様子がなかった。
双子達は予定変更して、悪戯の標的をパーシーに向けることにした。誰よりも遅く に就寝し、誰より早く起床するパーシーの寝首を掻けるなど、めったにない機会なの だ。双子達の悪戯っ子魂に火がつかない訳もなく・・・。
フレッドはパーシーの胸元から、器用に主席バッジを掠め取った。慣れた手つきで ある。バッジは指でコインのように弾くと、空中で月光に反射して銀色に煌いた。
「劣等性、石頭、次は何が良いと思う?」
フレッドがニヤリと笑う。ジョージはパーシーの顔を見つめながら、フレッドと同 じ表情をつくった。
「なぁ、もっとおもしろいこと考え付いたんだけど」
「何、」
ジョージはパーシーが掛けっぱなしにしている眼鏡をそっとはずした。そして自分 が掛けてみせる。
「ここにあった主席バッジを知らないか?磨くのに外しておいたんだが」
ジョージは不気味なぐらいそっくりなパーシーのものまねをしてみせた。ジョージ の言わんとすることを察し、フレッドは主席バッジをジョージの胸に付けた。ジョー ジはゆるんでいたネクタイをきちっと締めて帽子を深く被り直した。
「完璧だな」
フレッドが歓声を上げた。ジョージはもう誰が見てもそうだと思うほど、パーシー にそっくりだった。年齢もたいしてはなれていない上、容姿も少なからず似た特徴を もったジョージが、パーシーになりきるのは安易なことだった。深く被った帽子と夜 の暗闇のせいで、二人を見分ける細かい特徴は、ほとんど見えなくなっていた。そう でなくてもジョージはパーシーのものまねが大の得意だった。
「今夜はいかがなさるおつもりですかな?主席殿」
フレッドが仰々しい口調ではやし立てた。
ジョージは少し考えるように腕を組んで眉をよせ(その仕草もパーシーそのもの だ)思いついたように手を打った。
「ロンの所に・・・・ゴホン、失敬。ロナルド・ウィーズリーに告げねばならない ことがあるのだよ」
パーシーそっくりなジョージはフレッドと共に、寝室への階段を上った。行きの時 とは打って変わり、ジョージは胸を張っていかにも威厳ありそうに歩いた。フレッド は笑いすぎて何度も階段を転げ落ちそうになった。そのせいで、いくらか時間がか かったが、なんとかロンの寝ているタコ部屋の扉のまえに付いた。
とたんにジョージは、いつも通りの猫のような素早い動きで、身を月光から暗闇に 隠した。フレッドも同じように扉の横の壁に背をつけた。
二人は扉に耳をあてて、中から寝息しか聞こえてこないのを確認して、そっと扉を ひらいた。
ギィ・・・・・
かすかに金属のきしむ音がして、闇色の室内に月の光が床に伸びる。そこに二つの 影がひょっこりと、かぶさった。
「ターゲットの現在位置は?」
「奥から2番目、窓横ベッドの上であります。主席殿」
パーシー姿のジョージがにやりと笑った。まるでパーシーが意地の悪い笑みを浮か べたようで、かなり不自然だ。
双子達は、忍び足で室内を奥へと歩き、ロンのベッドの脇ま

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