星に願いを
ある夏の夜のこと。
星のまたたく空の下、いっぷう変わった家があった。
積み木を組み重ねたようなユニークでアンバランスなその家は、まるで
魔法でささえられているように見える。実際にそうかもしれない。
「まさに願いごとが叶いそうな夜空だな、」
「ああ、僕たちに相応しいロマンチックな夜だ」
声が聞こえる。鳥のさえずりのように明るく、葉のざわめきのように
くすくす笑っている。
屋根の上に二人の少年が座っていた。鮮やかな赤髪に藍銅鉱のよう
に深い瞳。並んで空を見上げる二人の姿は、まるで鏡に映したように
そっくりだった。彼等は双子なのだ。
「フレッド、時間は?」
双子の片方が空を仰いだまま言う。
「1時15分。そろそろだよ、ジョージ」
時計に目を落とし、もう片方の少年が答える。
双子達は肩をよせ合い、一つの毛布に包まっている。彼等の住む英国は、
一年を通して寒冷で、夏でも夜は肌寒かった。
「でもその願いごとを叶える流星ってのは500年に一回しか見られないん
だろ?」
ジョージが言う。
「ああ。ケチだから、500年に一回しか人助けをしたくないらしい」
フレッドが肩をすくめて答える。
「だったら一つくらいは、何か願いごとを考えておくべきじゃないのか?
たとえば、主席殿が彼女にこっ酷くフられて、昇天しますように≠ニかさ」
ジョージが笑って言った。
「そんなのわざわざお願いする必要ないさ。あのカッチカチの石頭に彼女が
どこまでついて行けるもんだか…」
フレッドが言っていると、ジョージがふと後ろを振り返った。双子たちが
屋根に登るのにつかった天扉(かってに自分たちの部屋の天井をぬいて作っ
たもの)の方である。
双子たちは扉に歩み寄った。はしごを上る軋む音が聞こえ、扉が開く。
「ロン!」
双子たちの眼下にあらわれた少年は、まさか扉の向こうに二人がかまえて
いるとは思っておらず、驚いてはしごを踏み外した。
「うわっ!」
ロンの足は中にぶらぶらと浮いていた。落ちる瞬間、双子たちがロンのパ
ジャマの襟をつかんだのだ。ロンが細身であったにしろ、双子たちはその
細い腕からは想像しにくいほど、軽々とロンを屋根まで持ち上げた。それは
怪力というより、双子たちが触れた瞬間、重力から開放されたようにロンは
感じた。
「なんだ、ロニー坊やは、夢の花畑で蝶々を追っかけてる時間じゃないの
か?」
ジョージが言った。
「追っかけてなんかないよっ」
ロンが返すと
「ああ、追っかけるんじゃなくて追っかけられるんだっけ?巨大グモの群に」
と、フレッドが混ぜっ返した。
この二人に口で勝てないことは、重々承知である。何を言っても二人のペー
スに引きずり込まれるだけだ。こういった時は話題を変えるにかぎると、ロン
は思った。
「天井の上から二人の声が聞こえて、目が覚めちゃったんだよ。ねえ、こん
なところで何やってるの?」
双子たちは顔を見合わせ、それからロンに笑いかけた。
「流星を見るんだよ」
ロンは目をぱちぱちさせる。
「流星?」
「そう。願い事を叶えるって噂がある」
「1時15分に空を通るってはなしさ」
「それでここで待ってるわけ」
ロンはくしゅんとくしゃみをした。それから聞く。
「信じてるの、願いが叶うって?」
双子たちは、自分たちがまとっていた毛布をロンにかけてやり答える。
「いや、願い事がどうとか…そんなことは、ぼくらにとっちゃ、どうでもいい
ことさ」
フレッドが言い、ジョージがつづける。
「そう。ただ見てみたいんだよ。それだけのこと」
二人の体温がのこる毛布に包まれ、ロンは微笑む。いかにもこの二人らしい
考えである。
「まあでもせっかくなんだし。もったいないから何か願い事をしてみようか
って、思案してたところだよ」
「家族がずっと幸せで暮らせますようにとか」
「世の中がもっと平和になりますようにとかね」
双子たちは手を組んでみせる。
「さっきパーシーが彼女と破局しますようにって話してたのが、聞こえたよ
うな気がするけど…?」
「それはお前が寝ぼけていただけさ、ロン」
フレッドが時計に目をおとして言う。
「14分だ。そろそろ来るぞ」
双子たちは、予報されている方角に目を向ける。その視線を追ってロンも
流星をさがした。
「ここは一つ、家族の安泰を願うべきかな、フレッド」
ジョージは、視点をそのままに問う。
「もちろん。親孝行だよな、ぼくたちって」
フレッドが答える。
「ほら、お前は何かないのか?」
ジョージに肩をぽんとやられ、ロンは困惑する。
「え、うん…えっと…」
とっさに何を願っていいのかわからない。ロンが言葉につまっている内に、
空の隅が青白い光に照らされた。待っていた流星があらわれたのだ。青く大き
なほうき星は、夜空を切るようにぐんぐん上って行く。
「きれい…」
ロンが目を見開いて、つぶやく隣で、双子たちがさっと身を乗り出した。そして
流れる流星を見つめながら、声をそろえて言ったのだ。
「世界がぼくたちのものになりましように…!」
ロンは驚き、呆気にとられて屋根を滑り落ちそうになった。今度は双子たちは、
毛布の裾をふんずけてそれを阻止した。
言ってる事とやってることが違うっ、とロンは心の中で叫んだ。それは今に始ま
ったことでもなかったが…。
そうこうしている内に流星は、ロンが願い事を考える間もなく、地平線の向こう
に消えて行ってしまった。
「ロン。一体お前は、一晩に何回滑り落ちそうになれば気がすむんだ?」
ジョージが迷惑そうにロンを見て言う。
「だってさっきは、願い事なんてどうでもいいって…!って言うか家族の安泰を
願うんじゃなかったのっ?」
双子たちは顔を見合わせ、それから真顔で返す。
「そんなこと言ったっけ?」
ロンは絶句し、それからため息をついた。この二人に何を言っても無駄
なのだ。
「ぼく、もう部屋にもどるよ…」
ロンはなんだか急に疲れたように、はしごを下りはじめた。
「そっか。いい夢みろよ、」
言ってフレッドがひらひら手を振ったが、それも耳に入らない様子だった。
ロンがいなくなりしばらくすると、ジョージが呟くように言った。
「なんであんなこと言ったんだ?」
フレッドが言い返す。
「そっちこそ。世界がぼくたちのものに…≠ネんてさ」
ジョージがふっと笑う。
「だってすごかったじゃないか、あの流星。まるで本当に願いが叶い
そうな気がして、思わず…」
フレッドも笑う。
「ぼくも。あの流星に気負けない、すごいこと言いたくなったんだ」
ジョージが言う。
「それにしてもぼくたち、たいした野心家だな!」
少年たちは、ふき出し、声をあげて笑った。満天の星を背に笑い合う彼等
は、無邪気で不敵だった。まるで世界を手に入れたかのように…。
もっともそれを知っているのは、星たちとうたた寝しているフクロウと、双
子たちの足元、屋根の下、ベットにもぐり耳をふさいでいる弟だけだった。
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444hitきりリクの「双子」ということで。
もう、何からあやまっていいのかさっぱりわかりません。
すこぶる遅くてすいません!遅いくせにへぼくてすいません!!
気持ちだけはこもっているので、みのがしてくださいっ。
兎にも角にも444hitありがとうございました。泉慶様に捧げます。