▲目次へ

「茜と水の惑星 第七拾八話」

しかし…。
茜(あれ? 博士ってあんなに大柄だったかしら…。)
ボートに近づくに連れて、次第に人物の様子が分かってきました。
ボートの上には、茜に背を向ける格好で男が立っていました。
ひとりだけというのは間違えありませんでしたが、乗っている男は博士とは明らかに違う
かなり大柄な男でした。
茜(し…しまった!)
男が博士でないと分かった瞬間、茜の心に警告の赤ランプが灯りました。
ドドドド…。
男「んっ!?」ようやく男は、近づいてくるボートに気づきました。
そして背後を振り返ると、急旋回しているボートが目に入りました。
ボートの上には女がひとり…全裸の美少女が乗っています。
男(あのオンナ…。どうやって逃げ出したんだ?)
たちまち男の頭の中は、疑問符で埋め尽くされました。
しかし、身体の方は敏速に反応して、ボートを発進させました。
ドルンッ! ドッドッドッド…。
もちろん、茜を追いかけるためです。
茜(どうしよう…。)
レーダースクリーンを見ると、先程の光点が猛スピードで近づいてきます。
やっと博士に会えると思い、警戒を怠ってしまいました。
その一瞬の隙が、今の状況を呼び込んでしまったのです。
茜は自分のうかつさを呪いました。
もっと慎重にやるべきだったのでは?
ある程度…すぐに逃げ出せる距離まで近づいたら、しばらくエンジンを切って様子をうかがうとか…。
しかし、今更後悔しても遅いのです。
ドキドキドキ…。
茜(逃げ切ってぇ!)茜は祈りつつ、フルパワーでボートを走らせました。
しかし、茜の祈りとは裏腹に、どんどん光点が近づいてきます。
所詮、茜のボートは予備なので、男のボートより性能が低いのでしょう。
ビーッ、ビーッ、ビーッ!
突然けたたましいブザーが鳴ったかと思うと、操作パネル上に”OVER HEAT!”の警告が出ました。
茜(あぁ…。)それを見た瞬間、茜の心は絶望感で満たされました。
茜(もう…おしまいなのね…。)
フゥーン…。
間もなく、エンジンは自動停止してしまいました。

ドッドッドッド……ガツ!
鈍い振動が走り、男のボートが茜のボートに接舷しました。
茜は、恐る恐る男の方を見ました。
男「よお! 元気してたか?」茜と目が合うと、男はらちもない挨拶をしました。
茜「三沢主教…。」茜は、ぽつりと男の名をつぶやきました。
男が三沢とは…最悪の上に最悪でした。
なんせ三沢は、茜に苦痛を与えれば与えるほど快感を感じる、真性のサディストだからです。
茜が3日間も昏睡状態に陥ったのも、この三沢が原因です。
最も敏感なアソコを、神経鞭の最大出力で鞭打ったからです。
茜は、無意識のうちに手で無毛のアソコをかばいました。
三沢「ふん。なんで今更、そんなところを隠してるんだ、ええ?」
三沢は、ぶっきらぼうに言いながら、茜のボートに乗り移ってきました。
カツ、カツ…。
茜「ち…近寄らないで!」茜は叫びつつ、後ずさりしました。
しかし、たいして大きいボートではないので、あっという間に縁まで追い詰められてしまいました。
三沢「おまえは、生かしておいてやる…。」三沢はポツリと言うと、満面に残忍な笑みを浮かべました。
茜「あぁ……。」シャー、ジョロロロー…。
そんな三沢の目を見た瞬間、茜は思わず失禁してしまいました。
三沢の目は、明らかに今までとは違っていました。
三沢のセリフを聞いた瞬間、茜は全てを悟ったのです。
3人乗っているはずのボートに、ひとりしか乗っていなかった理由を…。

ドドドド…。
茜「………。」茜は無言でした。
茜の性格からして、三沢の気に障ることを言って、機嫌を損ねてしまうかもしれないからです。
三沢「………。」一方の三沢も、あれから一言もしゃべりませんでした。
2人を乗せたボート…三沢が乗ってきたボートは、宇宙船目指して進んでいます。
茜(どうしよう…。このままだと、博士をおいて地球に帰ることになるわ…。)
茜の心は絶望感で満たされました。
宇宙船にいる男(?)が言うには、星間航行システムはあと1回しか使えないのです。
聞かされた時は、そんなことはどうでも良いと思いましたが、今は状況が違います。
このまま博士をおいて地球へ帰ってしまうと、二度とこの惑星へ来れなくなってしまうのです。
何とかしなければ…。
考えてみても、何も良い策が浮かびません。
三沢を説得して博士を助けてもらう以外、方法はなさそうですが…。
三沢が説得に応じるような男でないことは、火を見るより明らかです。
そもそも、博士は無事なのでしょうか?
槙原や柏田と同じく…。
三沢に聞けば済みそうなものですが、おいそれと尋ねることはできません。
ところで、茜は身体を拘束されていませんが、華奢な茜が腕力で三沢にかなうはずがありません。
三沢はそのことを承知の上で、茜を拘束しないのでしょう。

茜「あのー…。」このままではらちがあかないので、茜は勇気を総動員して三沢に声をかけました。
三沢「………。」しかし、三沢は反応しませんでした。
ドドドド…。消え入りそうな声だったので、エンジン音が邪魔したのでしょう。
茜「あのーっ!」そのことを悟った茜は、今度は大声で叫びました。
三沢「んっ?」今度は反応があり、三沢は茜の方を向きました。
目の前に、息の飲むほどの全裸の美少女がいるのに、三沢はまったく関心をしめしていません。
ひょっとしてインポなのかな…。
茜にはそう思えてしまいます。
犯される心配がないのは、それはそれでありがたいのですが、逆に色仕掛けが通用しないことを意味します。
文字通り身一つの茜にとって、色仕掛けこそが唯一の武器なのです。
それが通じないとなると…打つ手が思い浮かびません。
茜「あのー…、他の主教の方々はどうなさったんですか?」茜は恐る恐る尋ねました。
三沢「知りたいか?」三沢はドスの効いた声で恫喝しました。
茜「ビクッ!」茜は敏感に反応してしまいました。
三沢「ふふ…ぶっはっはっは!」すると、意外なことに、三沢は声高々に笑い出しました。
茜「………。」茜は、キツネに包まれたような表情で三沢を見つめました。
三沢「ぶっはっはっはっは…。」三沢は、狂ったように笑い続けました。
三沢の様子から、茜の予想が当たっていることは間違えなさそうです。
笑いがおさまると…。
茜「は…博士はどうしたの?」茜は、最も聞きたいことを尋ねました。
三沢「なにぃ! 博士ぇ、博士だとぉ?」すると、三沢は表情を変えて茜を睨みました。
茜「ビクッ!」茜は再び反応してしまいました。
三沢「知らねぇな! ぶっはっはっは…。」そう叫ぶと、三沢は再び笑い出しました。
茜「ムッ。いつまでも笑っていないで、茜の質問に答えてよ!」
いいかげん茜は頭にきました。
腰に手を当てて、いかにも挑戦的なポーズを取っています。
三沢「素っ裸ですごんだって、ちっとも迫力がねぇよ。ぶっはっはっは…。」
三沢は、茜の格好を笑い飛ばしました。
茜「ぷるぷるぷる…。」茜は、怒りで打ち震えました。
確かに、こんな格好ですごんでみたところで、まったく迫力がありませんが…。
三沢「オマンコ丸出しで、デカパイ震わせちゃって…。そんなにこのオレが憎いのか?」
三沢は、急に神妙な表情になって問いかけてきました。
茜「憎いに決まってるわよ! 茜を裸にして、散々酷い目に遭わせてっ! この…。」
茜は洗いざらい怒りをぶちまけそうになりましたが、途中でグッとこらえました。
三沢の挑発に乗ってしまったことに、気づいたからです。

三沢「そう怒りなさんな…。地球へ帰ったら、おまえには服を与えてやる。
いやそれだけじゃない。欲しいモノは何でも買ってやる。」
しかしここへ来て、三沢は意外すぎる言葉を吐きました。
茜「えっ…?」茜は驚きました。
今までの三沢なら、即暴力に訴えてきたでしょう。
こういう場面は現実でも夢でも何度もありましたが、必ずと言っていいほど、
茜は酷い目に遭わされました。
しかし、今回の反応はいったい…?
茜(どういうことなの…?)
三沢の反応は、まったくの予想外でした。
三沢「地球へ帰れば、オレは次の”総大主教”に就任する。」三沢は続けました。
茜「つまり…。槙原主教と柏田主教をこ…殺したのね?」茜は恐る恐る尋ねました。
三沢「いや、別に殺しちゃいない。」
茜「えっ…? じゃあどうしたのよ?」
三沢「二人とも海へ突き落としてやった。今頃は、海水浴を楽しんでいる最中だろう。」
茜「何でそんな酷いことを…。」途中まで言いかけて、茜は口をつぐみました。
そんなことは聞くだけ無駄だからです。
すでに三沢は答えています。次の総大主教になるためだと…。
茜「じゃあ、博士はどうしたのよ?」茜は質問を変えました。
茜にとっては、槙原達のことよりはるかに重要でした。
三沢「だから、さっき言ったじゃないか。知らねぇって…。」三沢はぶっきらぼうに答えました。
茜「知らないって…。じゃあ、まだ博士には会ってないのね?」茜はすがるように聞きました。
三沢「何度もしつこく聞くな!」三沢は怒鳴りました。
博士のことになると目の色を変える茜に、腹を立てたようです。
茜「そうなの…。博士、生きてるかもしれないの。」
茜は、満面にうれしそうな笑みを浮かべました。
茜「じゃあ、すぐに博士を助けに行きましょうよ!」
茜は目を輝かせながら、三沢にお願いしました。
三沢「おまえ…。まだ、自分の立場ってもんが、分かってないみてぇだな。」
そう言うと、三沢は茜を睨みました。
茜「でもさっきは、欲しいモノは何でも買ってやるって…。」
三沢「それとこれとは話は別だ! 総大主教になったあかつきには、おまえはオレの巫女…いやオンナになる。
オレのオンナをどうしようと、オレの自由だ!」
三沢は偉そうに宣言しました。
茜「だ、誰があなたなんかのオンナに!」
茜はキッと三沢を睨みました。
三沢「おまえには選択の余地はない。嫌なら、力ずくでもオレのオンナにしてみせる!」
三沢は、こぶしを握りしめながら叫びました。
どうやら、三沢は茜に惚れていたようです。
今まで散々乱暴したのも、三沢なりの”愛のかたち”だったのかもしれません。
かなりゆがんでいますが…。
茜「………。」そう考えると、茜は複雑な気持ちになりました。
槙原達がいなくなった今、教団には三沢の権力をはばむものは存在しません。
地球に帰れば、間違えなく総大主教に就任するでしょう。
総大主教と言えば、この教団に君臨する絶対的な存在。
茜も信者である以上、三沢の意志には従わなくてはならないのです。
それならいっそ教団から逃れるか?
あの夢での出来事を思えば、けっして教団からは逃れられないように思えます。
アレは夢だったとは言え、今思えばかなり現実的な内容でした。

ドドドド…。
ボートは、宇宙船目指して真っ直ぐに進んでいます。
茜・三沢「………。」あれから2人は無言でした。
茜(どうしよう…。このままじゃ、博士を助けられないわ。)茜は困惑しました。
三沢が、茜の願いを聞き届けてくれるはずがないことはよく分かりました。
三沢は、茜が博士に好意を寄せていることが気にくわないのです。
しかし、このまま無為に時を過ごすことは許されません。
宇宙船に着いてしまうと、打つ手がなくなってしまいます。
茜「あのー…。」茜は、消え入りそうな声で切り出しました。
何か良い策があるわけではありませんが、何もしないよりはマシだと判断したからです。
三沢「んっ?」茜が話しかけるのを待っていたのか、三沢は即座に反応しました。しかし…。
バシューッ!
三沢「うわぁーっ!」突然、三沢は椅子ごと打ち上がってしまいました。
茜「えっ!?」あまりのことに、茜は声を失いました。
ヒューン…。三沢はそのままボートの後方へ飛んでいき、海に落ちました。
バシャーン!
茜「な…何なの!?」茜はパニックになりかけましたが、とりあえず操縦席の方へ行きました。
ドドドド…。
ボートは自動操縦にしているので、操縦者がいなくなっても宇宙船目指して進んでいます。いや…。
茜「方向が変わってるわ!」レーザーを見ると、宇宙船とは違う方向へ方向転換していました。
茜「どういうことなの…?」茜は考えました。
三沢が打ち上がって、ボートは別の方向へ進み始めた…結論は一つでした。
茜「きっと、槙原主教が細工したに違いないわ。」茜の明晰な頭脳は、そう結論付けました。
彼ら3人がこの惑星に来た理由…。
次期総大主教になるために箔を付けるのと、競争者を排除すること。
三沢は力ずくで競争者を排除しようと試みましたが、策略に長けた槙原に読まれていたようです。
三沢が油断する頃合を見計らって、罠が作動するように細工してあったのでしょう。
茜「こうしちゃいられないわ!」
茜は椅子が無くなった操縦席に飛びつくと、自動操縦を解除しました。
ドドドド…。
もちろん椅子がないので、立ったまま操縦しました。

▲目次へ