For you

 

 それはある早春の1日。

 

 琴平敏生は朝からうれしそうだった。

「おい、うつけ。何があったのだ?」

 それを不思議に思ったのか、敏生の大家、師匠であり、大切な人でもある天本森の好奇心旺盛な式神、小一郎が寝床にしている羊人形から姿を現した。

「へっ?何、いきなり」

「何故お前はそんなにうれしそうなのだ?」

いきなりの質問に驚く敏生に、小一郎は重ねて問いかけた。

「あのね、今日僕の誕生日なんだ。だから天本さんがおいしいご飯を食べに連れて行ってくれるって」

 秘密を教えるかのように小さい声だった。

「今日がお前の誕生日だと・・・。そうか・・・」

 言うが早いか、小一郎は姿を消した。

「ちょっ、小一郎?もう、いつも勝手なんだから・・・」

 

 

数時間後

 

 森との外出から帰り、部屋着に着替えるために敏生が自分の部屋に入ると、小一郎が姿を現した。

「あっ、小一郎。さっきはどうして急にいなくなったの?」

「これをやる」

 敏生の質問には答えずに、小一郎が差し出したものは数本の花だった。

「何これ?どうしたの?」

「今日がお前の誕生日だと聞いた故、『ぷれぜんと』とか申すやつだ。誕生日は一年に一回の特別な日で、『ぷれぜんと』を渡すものだとお前が以前申していたからな」

 照れくさくなったのか、早口でしゃべり、花を敏生に無理やり渡すとお礼を言われるのが苦手な小一郎はさっさと姿を消した。

「ありがと、小一郎。とってもうれしい」

 羊人形に向かってお礼を言うと、前足がパタンと返事をした。

 

 

 小一郎があげた花は枯れる前に押し花にされ、それから敏生の大切な宝物となった。


(2005/11/5)


 敏生と小一郎のお子様コンビの話です。
 ほんとは言い争う2人も書こうかと思ったのですが、誕生日にそれはかわいそうだと思い直して、このようになりました。
 2人のけんかはまた別の機会に…。

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