「育ったな」
急にしみじみとそう言われ、ラエスリールは胡乱な顔で闇主を見た。
「…何がだ?闇主」
「まあ、色々、な」
「それだけではよく分からん」
「見ていて楽しいのはいいが、しかし羽虫が多すぎるのが気に食わんな」
「話を逸らすな。何のことか全く分からないんだ、もっと分かりやすく説明する気はないのか?」
その言葉に、何を思ったか闇主はいきなりラエスリールを正面から抱きしめた。
途端に例の発作が発症する。
「あ、ああ闇主っ!? な、何を…」
「…やっぱり、育ったな」
うんうんと感慨深そうに勝手にひとりで納得している青年に、ラエスリールは叫んだ。
「だから、何がだっ!!」
「ん? だから」
ここで闇主は…あろうことかラエスリールの胸の位置を指し示したのである。
つん、と指が胸に当たる。
青年の言わんとしていることを理解し、羞恥と怒りで元々赤かった顔を更に真っ赤にした。
「……触るな、馬鹿者っっ!!」
「いいじゃないか、減るもんじゃなし」
「減る!!」
「そもそもお前はおれのものなんだからいくら触ってもいいんだよ」
「何だその理屈はっ!! 大体、私はお前のものではないし、人をもの扱いするなとあれほど言っただろうがっ!」
「お前はおれのなんだよ。いい加減自覚しろ」
「いつ私はお前のものになったんだ!」
「あん? んなの、初めて会ったときからに決まってるだろうが」
馬鹿か、お前はと言わんばかりの闇主に本気で脱力したと同時に悲しくなった。
所詮、わたしは闇主の玩具でしかないのか、と。
「…早く、育てよ」
その言葉と同時にぎゅっとさらに抱きしめられる。
「育ったと言ったり育てと言ったり、なんなんだ」
「……いずれ分かるさ」
分かりたくなくとも、理解出来てしまう時は必ず来る。
暗示のような言葉が頭を巡る。
自分のことに手いっぱいの彼女。
だから、理解できない。青年が「育て」としか言えないことを。
確かに、想いは繋がっている。しかし、それに気づくと気づかないでは天と地ほどの差があるのだ。
まだまだ気づくには程遠いらしい。それでも、青年は楽しそうだった。
さて、次はどんな方向で攻めようか、青年の頭は回る。
逃げようったってそうはいかない。
このおれを本気にさせたのは他でもないお前だ。
どこまでも自分勝手な深紅の魔王は、不敵にそう笑って。
不意打ちで、“それ”を為した。
「――――――っっ!!?」
ぺろり、と。
“そこ”を舐めた後、強く吸った。
赤い、しるしがつく。
「―――な、」
これ以上ないほど真っ赤に染まった顔を面白そうに眺めながら、意地悪く青年が問う。
「顔、赤いぞ」
「〜〜〜誰のせいだっ!!」
「おれだな」
「分かってるならっ…」
「おれだけ、どろう?」
「何…」
闇主は、さっきつけたばかりのそれを指で押さえた。
「抱きしめるのも痕をつけられるのもおれだけだろ?」
「? 当たり前だろ、他のひとにいきなりそんなことされたら嫌に決まってる」
「…………そこまで分かってんのになーんで気づかないかな…」
そう言いながら、青年の体は微かに震えだした。
数瞬の後、大爆笑してくれた青年に、ラエスリールは大いに困惑することになる。
胸に咲いた紅い花が、微かに甘い痛みを発していた。
Fin.
あとがき
はははははι 何やってくれとんじゃいこのエロ魔性…って感じですね。
このお題見た瞬間に「書かねば!」と思ったやつです(笑)ラスのボケっぷりも遺憾なく発揮されたことですし、満足です。