「…逃がすかよ」 血の海に沈む体を捕え、髪を掴んで引きずり戻す。睨みつける赤い目を覆い隠すように、ヘッドギアを巻きつけ四肢をベルトで括る。
仰け反る白い喉に牙を立てると、擦れた悲鳴が聞こえた。
「――テメェが誘ったんだろうが」
何か言いかけてくるのを無視して、ソルはテスタメントの膝を抱え上げ体を反転させた。
死神をモチーフとして『開発』されたテスタメントには、もう一つの本能とも呼べる死への衝動が常に付き纏っていた。
奪い、破壊して、命を刈り取る。
浅ましいまでのその欲求の対象は、自分とて例外ではない。
いくら強靱な意志の持ち主と言えど、それを抑えつけるには限度がある。
そんな夜に、いつもソルは現れるのだった。
きっかけは何だったのか、思い出す気にもならない。
『いっそ壊してくれ』と叫んだ唇を、熱っぽい彼のそれで塞がれた事だけは憶えている。
「…マゾかテメェは」
呆れたように呟いて、肩口に残る赤い筋に舌を這わせる。
「…どうせ死にはせん」
投げやりな答えを返しながら、徐々に熱を帯びてきた体を持て余し小さく息を吐く。
「――面倒くせぇ体だ」
上気して赤く染まり始めた肌を撫で回し、ソルは潤んだ『女』に指を沈めた。
『武器では殺す事ができない』
『物理的に消滅させられない』
テスタメントが改造時に施された呪いとも言える防御プログラムが、死と破壊への衝動を余計に駆り立てた。
暴力を激しく嫌う彼本来の性格が他者を傷つける事を拒絶し、対象を自分へと向けさせる。
今もこうして戒めておかなければ、また自らを傷つけずにはいられないほど。
「…全くだ」
細い眉を顰め乱れる呼吸を整えようと試みるが、徒労に終わる。
淫らに響く水音に混じり、微かな喘ぎが少しずつ聞こえてきた。
それでも湧き上がる快感を認めたくないのか、少しでも男の指から逃れようと腰を浮かせる。
「誘ってるようにしか見えねぇよ」
苦笑しながら薄い耳朶を噛んで、背後から有無を言わせず貫いた。
「…っあ……!」
何度体を重ねても、受け入れ慣れない『女』が軋む。
宥めるように前へ手を回し、震える『男』を扱き上げる。
「――は…ぁっ……」
身を捩る度に緩んできたベルトが肌の上を這い回り刺激を与え、切なげに零れる吐息に自ら煽られる。
「もっとだ…、ソル……!」
その荒れ狂う灼熱で、体の奥から焼き尽くして欲しい。
――何も残らなくなるくらいに。
何度も突き上げられ立て続けに達した時、不意にきつく抱き締められて囁かれた。
「いつか、テメェもちゃんと殺してやる――」
「…ああ、灰も残すな……」
その瞬間の為に生きていける。言葉とは裏腹にどこか優しげな睦言を聞きながら、テスタメントの意識は次第に薄れていった。
END
言い訳
テスタは初代でやたらと無茶をしていたわりに、何の説明もなくXの中ボスをやってます。
アクセルへの勝利メッセージからすると、そういうことなのではないかなと。