「あの人は、私には何も見せようとはしないから」
そう言って俯いた娘の握り拳が震えていたのを、ソルは覚えている。面倒くさがって踵を返した所に、紙の束を突きつけられた。
「さっき更新された賞金首のリストです。ちょっと印刷しすぎたみたいで」
賞金稼ぎのギルドは情報こそ他より確かに正確だが、提供料もそれ相応である。
黙ってリストを引ったくり読み始めると、彼の森に住む獣の名が目に止まった。
この時代、賞金を懸けられ追われるのは何も人やギアばかりとは限らない。
「最近、森に入った村人を襲うそうです。死者こそ出てはいませんが」
「それで?」
「私は巣の場所を知っています」
「……上等だ」
不安そうに見上げるディズィーの頭をくしゃくしゃ撫でて、ソルは唇の端をつり上げた。
ディズィーが住み慣れた森を出て、快賊団に引き取られてから既に数ヶ月が経っている。彼女に懸けられた賞金も紗夢が得たのだが、その情報を知らない者達が未だに森へ足を踏み入れているという。テスタメントからジョニーに申し入れがあったらしく、以来森にはほとんど帰っていないと聞いた。
「面倒くせぇ」
どういう訳か、ソルはディズィーに懐かれているらしい。森に帰れない自分の代わりに、テスタメントに会って欲しいと頼まれた。
「今の保護者にでも頼めばいいだろうが」
その時彼女の目に宿った翳と低い呟きは、しばらく忘れられそうにない。
「ギアは兵器で、人を殺すものだと聞きました。私もどれほど嫌だ、怖いと思っていても血が流れるのを見ると、あの匂いを嗅ぐと何も考えられなくなって……こればかりはジョニーさんには分からない……私達とは根本的な作りが違う」
未だに森へ入り込む賞金稼ぎ達と、テスタメントが出会えばただではすまない。
ジャスティスの死後も活動している、数少ないギアが目の前にいるのだ。
そうしてまた彼は罪を重ねては、深い嘆きに囚われるのだろう。
――だから俺か。
同じ業を抱えるギアの自分に、白羽の矢を立てたのか。
「……私はまだ子供で、だから、何にも話してもらえないし、頼ってももらえない……私にできるのは笑って元気だよと伝えるくらいで」
言葉を詰まらせたディズィーの頭を、ソルは再びくしゃくしゃ撫でた。
「ガキでもできる事はいくらでもあるだろうが」
「え?」
不思議そうに見上げてくるのに目を逸らして、続ける。
「……奴にはそれだけでも充分だ。それとそうやって心配してやれる分、テメェももうガキじゃねぇよ」
慣れない事を言ってばつの悪そうな顔をするソルに、ディズィーは背を伸ばし抱きついた。
「ソルさん……ありがとうございます」
「テメェもあんまりしつっけぇからだ……嫌なところは似やがって」
凶悪な眼光を放つ男とそれに飛びつくまだあどけなさを残す少女の姿に、通行人達が足を止めて、また歩き出す。
いつまでくっついているのかと溜息をつきながら空を見上げると、夕陽が傾きかけていた。
抱きつく力が少しだけ強くなって、小さな唇がソルの頬に押し当てられる。
「……」
「じゃぁ、私はこれで」
少しだけはにかんで、面食らったソルに手を振りながら、迎えにきたメイと共にディズィーの姿が夕闇に消えた。
「――ヘヴィだぜ」
――満月の夜は嫌いだ。
テスタメントは胸を押さえながら、体を起こした。丸く膨らんだ乳房が、彼には重い。
男として育ったものの女の部分も兼ね備えた彼の体は、ギアとなってからさらに分化が進んだ。
それほど発達している訳でもなかった生殖器ははっきり男女に分かれ、そのどちらも完全に機能する。月の満ち欠けで極端な変調を起こし、薄い胸は丸みを帯び膨らんだ。
「……っ」
首を振って起き上がる。よろめきながら壁を伝い、明るい月の下へ歩き出す。
サキュバスを遊びに出していて正解だったと思った。
この体の時はいつも苛々して落ち着かなくて、心細くて不安になる。また八つ当たりで酷い事をしてしまいそうだ。
『アタシは別に気にしませんよ』
ギア特有の破壊衝動も相まって、何度も手荒に抱いた。
『だってその為にアタシと契約したんでしょ?』
行為の後、乱れた髪を整えてから彼女は笑って彼を抱き締めた。
植え付けられた闘争本能を抑える為に、テスタメントは他の欲求を昇華させる事で解消しようとした。だが、洗脳が解けた直後の彼は食事のほとんどが喉を通らず、目を閉じれば過去の悪夢に苛まれ、自暴自棄になって召喚した淫魔と契約を結んだ。
「つくづく、最低だな」
自嘲めいた笑みを零し、見上げれば空には赤い月。
水でも浴びれば少しは頭も冷えるだろうか。テスタメントは川に向かう事にした。
転移の術を使えば一瞬なのだが、今は歩きたい気分だった。
晩秋の水は突き刺すように澄んで冷たい。
今の彼にはその冷たさが心地好かった。
腰まで浸かり、両手ですくい上げて顔を洗う。少しずつ川の中央まで歩き、肩まで水の中へ入る。
全身を沈め浮き上がった瞬間、黒い影が頭上をかすめた。
「……!」
音もなく、川原に降り立った影の姿が月光に照らされる。焦げ茶の獣毛が赤い光で染まっていた。
どことなく山猫を思わせる姿であったが、獅子を思わせる巨躯と二つに分かれた尾がただの獣でない事を示している。
全身の毛を逆立て低く唸りながら、彼女は躍りかかった。
水飛沫を上げテスタメントは再び水底へ体を沈める。
いつの間にか彼女の縄張り近くに足を踏み入れていたらしく、繰り出される攻撃には容赦がない。
派手な水音を立て、彼女は侵入者を追う。前足が獲物をかすめ、視界が薄い赤に染まった。
――駄目だ。
兵器の嗅覚は、水の中ですら血の匂いを嗅ぎつける。
――流されるな。
彼女の縄張りから離れればそれですむ話だ。巣立つ前の子を抱えているのだから、気が立っていて当然なのだ。
一瞬の逡巡が明暗を分けた。
獣の爪が今は柔らかな彼の胸を引き裂き、捉える。目の前が赤くなるのを感じながら、それでも泳いで逃げ切ろうとした脚に、牙が突き立てられた。
「……っ、……!」
呼吸が乱れ、微かに鉄の匂いがする水を大量に飲み込む。白い腿に牙を突き立てたまま、彼女は川原へ獲物を引き摺り上げた。
「……離せ」
そんな事を言っても聞く筈がない。
「早く離れてくれ、でないと」
こめかみが脈打つ。鼓動が高なるのが自分でも分かる。気分が昂揚して、手がつけられない事になりそうだ。
――みゃあ。
この場には不釣合いな声に、テスタメントは顔を上げた。
狼ほどの大きさの仔猫が母猫に擦り寄ってくる。甘えかかる我が子の顔を舐める為に彼女が体から離れた瞬間、彼は水の中へ身を躍らせた。
小さく唸り声を上げた仔猫が、彼を追って水へ飛び込む。母猫は黙って水面を見つめていた。
おそらくは我が子に狩を覚えさせる為、わざと致命傷を与えず逃がしたのであろう。だが、この獲物は彼女の子にとって少し大物過ぎたようだ。
「大人しく退け……」
水面に浮上したテスタメントの姿が一瞬消え、獲物を見失い戸惑う仔猫の前に右腕に死霊を纏わりつかせて現れ、隙だらけの脇腹を突く。
悲鳴を上げ水中へ没する我が子を見て、母猫が慌てて川へ飛び込む。首を咥えて子を引き上げ、逃げる獲物を追って再び身を躍らせる。
まだ塞がり切らない傷が開き、テスタメントは顔をしかめた。早くこの場を離れないと、血の匂いで暴走してしまう。
水中で動きは鈍っているものの、互いの一撃は重い。母猫の前足がテスタメントを捉えれば、彼の蹴りは獣の腹にめり込む。彼女が肩口を噛めば、彼は自由になる方の手で頬を張る。浮き上がり、水面を走り抜け懐に潜り込み、その首を掴んで持ち上げ――
「いたしかたない」
岸に向かって巨躯を放り投げた。どう、と音を立てて母猫の体が川原に叩きつけられる。
「頼む」
――もう、来ないでくれ。
血の匂いと今の戦闘で、気分が昂揚している。長い間水中にいたにも関わらず、全身が火照って肌が染まっていた。再生を始める肩の傷口を押さえながら、テスタメントは祈るように獣を見つめた。
「――っ!」
弱々しく唸り声を上げながら、子猫が彼の腕に噛りついた。その瞬間に倒れ伏していた母猫が起き上がって飛びかかり、傷口に牙を立て引き倒し、川原まで運ぶ。
微かに獲物が身を震わせたが、動き出す力は残っていないらしい。逃げ出さぬよう四肢を噛み、母猫は獲物の白い腹に舌を這わせた。
ざらつく舌が、肌の上を這い回る。腹を噛まれたが食い千切られるまでには至らない。痛覚や恐怖心といったものが人間と比べるといくらか鈍磨している為か、テスタメントは他人事のように文字通り己を貪っている獣の親子を見つめていた。
よくよく考えてもみれば、どうせこんな程度で死ぬ筈もないのだ。この親子が飢えた腹を満たした後、数時間もすれば体の再生がすんで起き上がるだろう。
「――つまらん体だ」
テスタメントの場合、戦闘能力より生命力に特化した個体として防御プログラムを重点的に組み込まれている。ほとんど呪いと言ってもいいような。
『武器では死なない』
『物理的に消滅させる事ができない』
斬ろうと突こうと、次の瞬間には失われた肉が再生し立ち上がってくる死神の姿は、兵士達の心に恐怖を刻み付けた。
「余計な事まで思い出したな……」
子猫が上手く肉を噛み切れずに四苦八苦している。
早く意識が途切れてくれないだろうか。
血の匂いが、さっきまでの闘いの余韻が、肌を這う舌の感触が彼の理性を蝕んでいく。肌がぞくりと粟立ち、意識が飲み込まれる。
彼の中で、何かが爆ぜる音がした。
腕を伸ばした所へ子猫が飛びついた瞬間、テスタメントはその首を刎ね飛ばす。
悲鳴すら上げる間もなく骸が転がり、母猫が悲痛な叫び声を上げるのをどこか嬉しそうな風情で聞きながら、使い慣れた大鎌を振りかざした。
怒りを篭め振り下ろされる前足の一撃を受け流し、柄で殴りつけ後足を蹴り飛ばす。手から離れた大鎌が獣の腹を裂き、さらに死霊の刃が一閃し、尚も起き上がろうとするのを召喚した妖樹で貫いた。
青白い裸身が返り血で赤く染まり、艶やかな黒髪もべったりと濡れている。手の甲に赤い舌をちろちろと這わせ流れる血を舐め取ると、甘美な熱に全身が包まれた。
――最初からこうすればよかったのだ。
月光の下、四肢を投げ出し横たわる。喰われた部分の再生が完了するまで少し眠るつもりだった。
ふと目を向ければ何が起きたのか分からぬままに逝った幼い獣の首と、辛うじて原形を留めた母の骸。
「…ぁ……ぁあああああ……!」
ディズィーに教えられた道を辿り、ソルは獣の巣を目指していた。
正直気が進まないのだが、先に情報提供という形で報酬を受け取ってしまったのだから仕方ない。
しらばっくれてもよかったのにそれをしないのが、ある意味彼らしかった。
さっさと目当ての賞金首を狩ってから、適当に話を済ませて森を出るつもりだった。
その叫びを聞くまでは。
「――!?」
膨れ上がった闘気が突然消え、川の方から漂ってくる血の匂いと、嘆くような憤るような声。
「……面倒くせぇ」
無意識に封炎剣を握る手に力を篭めると、ソルは川原へ下りた。
辺りを漂う濃厚な血の匂いに、ソルは顔をしかめた。抑制装置を着けていようと、ギアである以上その匂いには心を惹かれるものがある。
――絶対に人選間違ってやがる。
軽く首を振り、匂いを辿って川沿いを走る。
森に入り込んでいるとかいう賞金稼ぎどもとやり合いでもしたのか、既に手をかけてしまったのか。
もしそうなら。
果たして自分はあのギアを殺すことができるのだろうか。
無論、殺すつもりならある。かつての誓いは本能のように彼に染み着いている。
だが。
聖戦中期に量産されたギアの一体であるにも関わらず、テスタメントの防御プログラムは完璧だ。
戦闘能力こそ多少見劣りするものの、その再生能力は他の追随を許さない。
――実際、試したのだ。
死なないギアがいるという噂を聞きつけて、戦場でそれを目の当たりにした。
同じ人型のギアを見かけて彼が嬉しそうに駆け寄ってきたのを捕え、当時使っていた隠れ家に閉じ込めてありとあらゆる方法を試した。
そうして出た結論は、彼の防御プログラムを解除しない限り、破壊する事は不可能というものだった。
その解除方法は未だに見つかっていない。
ソルの足が止まる。
赤い月に照らされて、何か白いものが転がっていた。
引き千切られた白い腕。
その傍らに、赤く彩られた異形の者と、獣の骸。打ち捨てられた大鎌が赤く鈍く光っている。
「……テスタメント?」
問いかける声が擦れていたのは気のせいではない。
答えることなく、テスタメントは血だまりの中に座り込んだままだった。右腕だけが生白いのは再生したばかりだからだろう。
ところどころ塞がりかけた傷を掻き毟り、失血で青ざめた体に何かの文様が浮かんでは消える。おそらくは呪術的なものなのだろうが、今はそれに思いを馳せている場合ではなかった。
――お前が見たのはこれか。
何がきっかけなのかは分からない。だが、ディズィーには見えてしまったのだ。
どれだけ必死に隠しても隠し切れなかった、『父親』の中の狂気が。
「おい」
軽く頬を叩くが反応はない。
泣き出しそうな目で自分を見上げていたディズィーの顔を思い出した途端、何故だか無性に腹が立ってきてソルはテスタメントの赤く濡れた首を掴むと、川へ投げ込んだ。
派手な音を立てて水へ沈んだ体を追い、川へ入る。こびりついた血を拭いながら何度も名を呼ぶ内に、ようやくテスタメントの目の焦点が定まってきた。
「何故……貴様が……」
弱々しくはあるが自分を睨みつけてくるのにソルは安堵し、顎をしゃくる。
「俺の用があったのはそっちの肉だ」
とは言ったものの、あの状態では到底換金などできたものではないだろう。全く何をしに来たのやら。
「ではこの首でも持っていけ……ジャスティス復活の張本人の首だ」
「テメェ」
思わず肩を掴むと、薄い笑みが返ってくる。
「……貴様の獲物だ、好きにするがいい……」
崩れ落ちる体を、ソルは自分の胸で受け止めた。
何かを燃やしているような匂いで、テスタメントは目を覚ました。体には麻布がかけてあり、何故か上流で脱ぎ捨てた服が近くに畳まれて、ブーツまで置いてある。
「――やっと起きたか」
聞き覚えのある不愉快な声に跳ね起きる。焚き火代わりに封炎剣を洞窟の地面へ突き刺し、ソルが暖をとっていた。
「……殺しに来たのか」
その問いには答えず、ソルはテスタメントの横へ座った。
「違うのか?」
「……るせぇ」
――何でそんなに嬉しそうな面をする。
腹が立つ。何故なのかは自分でも分からない。
「ギアは全て殺すのだろう?」
「……寝てろ」
「私を殺しに来たのではないのか!? ギアが目の前にいるんだぞ!?」
「テメェに指図される筋合いはねぇ」
掴み合い、赤と金の目が睨み合う。
「――何故」
息が苦しい。
「『殺す』と言う事すらおこがましいとでも言うのか? こんな生物としても兵器としても出来損なったモノなど……ならそれでいい、さっさと破壊しろ」
睨みつける目の奥に、切望の光を見てしまったから。
「壊してくれ……もう……沢山だ」
それ以上の言葉を続けられるのが怖くて、ソルはテスタメントの薄い唇を塞いだ。
舌を滑り込ませ、逃げる彼を追いかけて吸い上げ、唾液を啜る。
未だに冷たい体にのしかかり、自らの熱を分け与えるかのようにきつく抱きすくめた。
大きな手の平が胸の丸い膨らみを覆い、掴む。柔らかなその感触。少しずつ早さを増す鼓動。
かつて彼の体を調べた時には感じなかった欲望が、ソルの中にこみ上げてきた。
薄い耳を甘噛みしながら低く囁く。
「――どうなっても知らんぞ」
労るつもりなどなく。
慰めるつもりなどもなく。
ただ、喰らい尽くす為の交わり。
噛みつくように口腔を貪り合い、弱い所を探る。
体のあちこちに走る赤い筋に舌を這わせる。痺れるような甘い痛みに、テスタメントが身を震わせ、口に含んだソルの指を吸った。
前に付いているものが少々気になりはしたが、微かに震える吐息と挑発するように光る赤い目に狂わされ、そんな事はどうでもよくなってくる。
「抵抗しねぇのか?」
「――好きにしろと、…言……た筈…だ……」
「殊勝なこった」
途切れ途切れに返ってきた応えに満足したのか、ソルは喉を鳴らし胸の膨らみに吸いつく。息を呑む音が聞こえる。
淫魔と契約しているだけあって、滑らかな肌は敏感だ。ほんの僅かな刺激に反応して、華奢な男の部分が硬さを増す。
その先端を親指の腹で擦り上げ耳元に息を吹きかけると、白い体が一際大きく跳ねた。
「ちったぁ気分出せ」
「誰が…っ……」
低く甘く囁かれ荒い息が耳にかかる。体の中を暴れまわる熱に呑み込まれそうになりながらも、流され切る事ができない。
「声くらい聞かせろ」
「……っ!」
指を下げ、奥に息づく女の部分を撫で上げゆっくり沈ませる。
「……抜け……っ」
普通の女に比べるとかなり狭いそこに異物を押し込まれ鈍い痛覚でも痛むのか、それとも男としての意識が言わせるのか。
潤んだ目で睨む。そうした仕草が余計に男を煽るのだという事に、男のつもりでいながら気づかないようだ。
「――出せって……」
「嫌だと、言……」
不毛な睦言を繰り返し、二つの影が絡み合う。必死に閉じようとする脚に体を割り込ませ、中を探りながら白い内腿を撫で回す。
「……っ! 貴様何を……っ」
一本目の指にようやく慣れてきた所で、胎内を弄る指が増やされようとする。
「待……、入らな……」
「後でこれよりもっと太ぇもん咥えるんだろうが。ごちゃごちゃ言うんじゃねぇ」
ほんの少しだけ怯えを含んだ声に、意地悪く応えてやる。無論耳元で。
テスタメントにとってそれは死刑宣告のように聞こえたらしく、腕の中でじたばた暴れ出す。
それすらも楽しい。
「――入らな…い……」
「入ってんだろうが」
もう少しで陥落しそうだ。硬くなった胸の飾りを舌先で転がし張り詰めた男の先端を擦り、利き手で狭い内部を滅茶苦茶に掻き回す。
「ぁ……」
遂に堪えきれず小さく鳴いた体を抱き締めた。柔らかな波に上手く乗れるよう、少し手を緩める。
困ったように見上げてくるのを軽く口づけ、促すように丁寧な愛撫を繰り返す。
「んんっ……、…く……ぁ――」
流されまいと首を振る度に長い黒髪がうねり、熱っぽい体に絡みついた。
引き抜いた指を舐め腰を抱く。逃げようともがく体を自らの重みで押さえつけ、耳朶を噛む。
「俺の獲物なんだろう?」
「……っ…う……」
大人しくなった所で潤ってきた女に滾る自身を押し付ける。恐れと緊張で体が強張っているのを無視して、ソルは容赦なく貫いた。
先ほどまでの狂乱が、嘘のように静まり返っている。
ソルは腕の中で眠るテスタメントの寝顔を、飽きもせず眺めていた。
充分に慣らしたつもりではあっても、やはり普通の女と比べてかなり狭いそこに男を受け入れたのは相当な負担だったらしく、突き上げている内にあっけなく気を失ってしまった。
本音を言えばまだ物足りないのであったが、今はただ眠らせてやりたい。
――願わくは安らかな眠りを。
低く、忘れかけた祈りの言葉を、久方ぶりにソルは呟いていた。
END
言い訳
私の脳内でのソルテスお初です。……暗っ(汗)
テスディズやってる時のテスタはぎりぎりの所で踏み止まってますが、ジョニテスやソルテスだと素でテスタの頭がおかしくなっている罠。
ソルのように人間やめてから二〇〇年近く経てば諦めがつくかもしれませんが、半端に生々しい歳だと割り切れないんじゃないかなとか、そんなお話。