冬。期末考査が終わった学生達にとって、これ程暇な時間はない。何かに熱中してる者達を除いて。
野球をやっている者は、プロ野球でもそうだが、この時期は体を休めるオフか、或いは基礎体力を身につけるトレーニングしかしない。
サッカー等は冬でもできるのだが、野球の場合はそうとも限らない。体が冷え易いこの時期は、肩を使うとすぐに壊れてしまう事も多々あるのだ。そもそも、この時期は高野連によって練習試合も禁止されている。
そのため、殆どの野球部は自主トレか徹底的に基礎錬か、のどちらかになるわけだ。
そして、それは少女の学校も例外なく当て嵌められている。
既に空は黒く、幾つかの星が輝いていた。冷たい風が、人の心の隙間を縫うように吹いている。
ヴィー・・・
「ありがとうございましたー」
店員からの言葉を背に受けて、少女はコンビニから出てきた。もうすっかり暗いが、コンビニの明りでその長髪が黒に近い青であることがわかる。黒いコートに淡い水色のマフラー、灰色ベースの手袋。
肩に大きなバッグを担ぎ、手にはビニール袋を持って、浮かべている表情は何だか嬉しそうだ。
続けて、少女の後ろから男が出てくる。少女よりも頭一つ分大きい身長。黒い髪は乱雑に伸ばされている。こちらも少女と同じ様に黒いコートを身に纏い、肩からは大きなバッグを担いでいる。表情は・・・少女とは対照的に少し暗い。
「・・・あのなぁ、俺今月やばいんだぞ?」
溜息にも似た声。男は目の前にいる少女に不平を垂らしたのだ。
「へへ〜。ま、いいじゃないの。愛しの彼女のためと思えば」
体は前のまま後ろを振り向いてニカッと笑う少女。大事そうに手に持つビニール袋を、胸に抱えるようにして両手で持つ。
その笑顔を見ただけで何もかも許せてしまいそうになる程、少女の笑顔は輝いていた。もっとも、この男には効かないようだが。
「その大切な彼女とやらのために今月必死なんだけどな、浅人?」
「・・・む」
男・・・沢田賢治の言葉に、流石に表情を改めた少女──浅人。言葉を無くし、前を進む。
──“あの事件”から、丁度三月が過ぎようとしていた。浅人はもうすっかり元気になっていて、野球部の活動も二ヶ月前に再開している。
他に変わったことと言えば、岸田他数名の男子が警察に捕まったことと、浅人と賢治が付き合っているということか。
「そろそろクリスマスだもんなぁ」
手袋を外し、袋をごそごそと漁って何かを取り出した浅人。その手に納められているもの・・・
それは、白い塊。
さらに、それに付いている紙を剥がして、おもむろにあむ、と一口咥える。
「ん〜〜、やっぱり冬は肉まんに限るねぇ〜♪」
賢治の憂鬱も何のその、浅人は口中に広がる温かみに顔を綻ばせた。
「・・・太るぞ」
ポケットに手を突っ込みながら、女に言うには最低のツッコミを飛ばす賢治。浅人も今は女、その言葉にはムッときたらしい。
「ふん、筋肉つけるためだからいいんだよ」
この時期、浅人の学校の野球部は十二月から一月まで自主錬・・・つまり、野球部としての活動は休みになっている。自主錬なのだから、別にグラウンドを使ってもいい、ということなのだ。浅人と賢治他数名の部員達は、こうして遅くなるまで球場で基礎練習に汗を流している。
浅人の発言は、あながち外れてはいない。筋肉をつけるためには、それなりの脂肪が必要となる。
女になった浅人にとって、今急ぐべきことは体力と筋力の増強だった。女としての可愛らしさを磨く前に。
「へーへー、そうですか」
そんな言い訳をする浅人を、賢治は苦笑して見つめていた。そんな行動だって、賢治からしてみれば可愛い彼女の可愛らしい仕草の一つなのだから。
・・・まあ、元男ではあるが。
「そう言えば・・・」
はぐはぐ・・・と肉まんを頬張りながら、浅人はふとある顔を思い出した。少し前にひょんなことで出会った男の顔。
「今度さ、良秋さんの大学に行ってみないか?」
「・・・何でだ?」
あからさま、見てわかる程、賢治の表情が曇った。どうやらこの男、話題に出た良秋という人物があまり好きではないらしい。
「ほら、大学の野球部ってどんな練習してんのか気になるじゃん?もしかしたら、一緒に練習できるかもしれないし」
そんな賢治の想いを知ってか知らずか、楽しそうに話す浅人。浅人はその人物の事を気に入っているようだ。
勿論、今浅人が言った事以外に理由があるわけないのだが。その辺、浅人は根っからの野球人である。
「行きたきゃ行ってくればいいだろ」
「・・・何、妬いてんの?」
ニイ、と笑いながら賢治の顔を覗き込む浅人。どうやら、賢治の内心を察してるようである。そんな浅人の態度に、賢治は多少なりとも腹を立てた。
「うるせえな、いいだろ別に」
不満そうな声を吐き捨てた後、浅人の横を通り過ぎて先に行ってしまう賢治。
「あ、おい、ちょっと待てよ!」
その後ろを小走りで追う浅人。
(流石にこのネタでからかうのはまずかったか・・・)
つかつかと行ってしまう賢治の背中を見ながら、浅人は思った。それもそうだろう、自分の目の前で、自分の彼女とキスをした人間なんぞ、好きになれる筈がない。
(男ってのは厄介だなぁ・・・)
そう思ってから、浅人は何だか微妙な感覚に囚われた。自分も男だったのだから、今の呟きはどう取ればいいのだろうか。
否、男の浅人は消えなどしない。それが“彼女”に課せられた鎖であったから。勿論、決意という意味で。
「おい、賢治!」
あの時以来、浅人は沢田の事を賢治、と名前で呼ぶようになった。関係の変化、内心の変化だ。
「そんなに拗ねんなよ。そだ、今から神社に行かないか?」
「・・・神社?」
振り向いたその顔には、まだ少し不満の色が浮んでいた。流石に子供ではないから、声にまで届くことは無かったが。
「そ。これのお詫びと気分転換を兼ねて・・・な?」
これ、と言って持っている齧りかけの肉まんを持ち上げる。その横には、淡い微笑みが浮んでいた。
「・・・しょうがないな」
そう呟いた賢治自身、実際はそれ程怒ってはいなかったのだが。
「寒いねぇ」
手袋の上からでも、手を擦る様にする浅人。時間は七時に少し届かない辺り。冬の寒さは結構なものである。
「そうだな」
二人とも白い息を吐きながら、境内を淡々と歩いていた。暗く静かな雰囲気が、しんみりとした空間を満たしている。木々が生えているお陰で、冷たい風も何とか凌がれて・・・はいなかった。
「さて、と」
神社、賽銭箱の前まで着いた二人。一緒に並んで、財布を取り出す。その中から取り出したのは・・・。
「・・・五円か」
「ま、お約束だけどな」
二人同時に賽銭箱に投入。息がピッタリである。がらんがらんと鈴を鳴らし、手を叩いて合わせる。
・・・暫し、沈黙が降りた。
「・・・よし、と」
「俺もおっけ」
その時には、もう二人とも自然に笑えていた。
「さて、この後だけど・・・キャッチボールでもやるか?」
ここは、浅人と賢治、二人の練習場だった。程よい広さで、キャッチボールでもダッシュでも、軽い運動ならできる。
「それもいいけど・・・今日は」
「え?」
ふいと、無理矢理顔を上げられる。そして、気付けば賢治の顔がその眼前まで迫っていた。
「ま、ままま、ちょ・・・んんっ!」
強引なキス。すぐに腰に手を回され、脱出不可能になる。すかさず舌が浅人の唇を割って侵入してくる。
「んんっ・・・あふ・・・」
口内を犯される感覚。くちゃ、くちゅ・・・と、浅人の鼓膜に卑猥な水音が聞こえてくる。胸が張り裂けんばかりに高鳴り、思考が鈍化してくる。
気が付けば、浅人の方からも舌を伸ばし、賢治のそれと絡めていた。
「んむ・・・ぷはっ・・・はぁ・・・」
潤んだ瞳で賢治を見上げる浅人。全身が火照ったような感覚。冷たい風が頬を撫でる。
「今日は浅人が欲しい・・・いいだろ?」
真剣な眼差しを浅人に向ける賢治。その眼差しに、かつては救われたことも会った。だが、今回は。
「・・・こんな場所でか?誰かに見つかったらどうすんだよ?」
言葉とは裏腹に、まるで自分から求めているような声色。甘い吐息が賢治を擽る。
(う・・・何でだよ・・・)
女になってから、どうも感じ易くなっている。男の時はそんなになかった・・・と思う、ディープキスする相手はいなかったが。
「その時は・・・その時だ」
再び賢治の顔が近づいてくる。殆ど反射的に仰け反り、回避しようとする浅人。
「じ、神社だし・・・神様の前で、そんな・・・」
「隠れるから大丈夫だ」
「で、でも・・・んむっ」
(駄目だ・・・こいつにキスされると・・・女に・・・な、あ・・・)
後頭部にも手を回され、完璧に捕らえられた。同時に、さっきより深く舌が入ってくる。
そのキスだけで、浅人の“女”の部分は、熱く湿っていく。
風に揺らされる木々の葉。ざわ・・・ざわ・・・と重なり合う。本当ならば、そこは静かな空間であっただろう。
「んあ・・・ああうっ!」
浅人の嬌声が、断続的に響いていなければ。
目の前に木に両手を当てて体を支え、その薄い桃色に染まった小振りの尻を突き出していた。
その尻の先には、勿論賢治が構えている。
「こんなに湿らせて・・・本当は求めてたんじゃないのか?」
言いながら、賢治は指を添えていた浅人の秘裂に、つぷっと指を沈める。それは容易く賢治の指を飲み込み、きゅうっと締め付ける。
「くあっ!・・・そ、そんなこと・・・ない・・・はぁうっ!」
否定しても、その湿り具合は逆によくなってくる。何せ指一本じゃもう物足りないくらいだ。
「こんなに濡らして・・・淫乱だな?」
「そ、そんな・・・はくっ!」
ぬちゅっ、という音と共に、浅人の圧迫感が増える。指が一本増え、人差し指と中指で激しく出し入れされる。
「ま、待てっ、て・・・んんっ!そ、そんなに激し・・・ひあっ!」
深く差し込んで、指を開いたり閉じたり、捻ったり。膣の襞を掻き出すように引き摺り出し、再び荒々しく挿入。そうされる度に、浅人の口からは喘ぎ声が発せられる。
ぐちゅっ・・・ぬぷっ・・・と、卑猥な水音がその辺りの空間に響いているようにも感じる。
それだけ激しい責めと、浅人の秘部の濡れ具合が凄いという事なのだろう。
(くあっ・・・ま、待てよ・・・このままじゃ、俺・・・!)
狂って・・・しまう。間違いなく、そう思った。足はがくがくと震え、手で支えてやっと立っていられる、という状況だ。
「・・・浅人・・いくぞ」
指を抜いて、賢治はおもむろにチャックを下ろし、その限界まで血が巡った逸物を取り出す。
それを察して、浅人が首だけで振り向く。
「ま、まて、よ・・・いま、いれられ・・・たら・・・」
「・・・我慢できない」
浅人の腰を掴んで、先走りの液体で滑った先端を秘裂に重ね、そして。
ぬぷうっ・・・
「あ、ひ!んああああぁぁっ!!」
何の抵抗も無く、岸田の肉棒はすんなりと浅人の中に入っていった。否、抵抗は凄い。挿入(はい)ってきた異物から、余すことなく快楽を受け入れようと、襞はうねり膣は締め付けてくる。
だが、その愛液は果てなく滴り、その最奥まで容易にたどり着けたのだ。
「ふあああっ!け、けんじのが、いっぱいぃ・・・!」
「くっ・・・浅人、やっぱりお前の膣、凄いぞ・・・」
素直に呟き、ともすれば今すぐにでも果ててしまいそうな射精感を歯を食いしばって耐えながら、賢治は荒々しく抽送を始めた。
「な、っぎぃ!や、やあ、そんなに激しく・・・ひあああああっ!!」
抜ける直前まで引き出され、一気に奥まで貫く──そんな激しいピストン運動に、浅人の自我はあっけなく崩壊し、快楽のみにその身を委ねてしまう。
「あふっ、だめ、だ、めぇ・・・おか、おかひくなっちゃ・・・んくうっ!」
次第に、腕でも支えることが叶わなくなったのか、浅人の体がずるりと崩れ落ちた。だが、賢治がしっかりと腰を掴んでいたために、腰だけを浮かして突き出している形になる。さらにその上に賢治が体を被せる。
まるで、獣が交わるような格好。
「あひっ、はくっ!ら、らめぇ、こ、こわれひゃうぅ・・・!!」
叩き付けるような、激しい抽送が続く。最早浅人の呂律が回っていない。快感に脳を支配され、理性を弾き出してしまおうとしている結果か。
と、賢治の手は伸びた。一方は、その大きめな乳房に、もう一方は、秘裂の上の方に存在する、肉芽に。
ビクビクッ!
「かひっ、だ、やあああああーーーーーっっ!!!」
手をぎゅっと握る。賢治が硬くしこった乳首とクリトリスを摘んだ刹那、強烈なフラッシュが浅人を襲った。全身が震え、声を上げずにはいられない。
それに比例して、浅人の膣が急激に締め付けられる。突然の圧迫感に、賢治の我慢は呆気なく限界に達した。
「く、あさ、と──!」
引き抜くか、引き抜かないか──その一瞬の迷いが、命取りになる時だってある。そしてこの時は、迷う暇も与えず目の前が真っ白になった。
「───っ!!」
どぷっ、どくん!
賢治は思い切り腰を押し付けた形で、浅人の膣にその欲望を吐き出した。長く我慢していたのを一気に放出した所為か、浅人の中で賢治のモノは二度跳ね、三度跳ね──まだ、止まらない。
「な、かぁ・・・は、ふ・・・」
半ば放心している浅人は、ただ自分の下半身に感じる温もりだけを意識していた・・・。
「・・・レイプ魔」
ぐさっ、と効果音がつきそうな程、敵意の篭った言葉が賢治の背中に突き刺さる。
「・・・面目ない」
反論の余地は無かった。賢治はがっくりとうなだれて、自分がしてしまった事を後悔した。
そんな背中を見て、後片付けを終えた浅人は深い溜息をついた。
「お前の気持ちはわかるけどよ・・・俺なんかにジェラシー妬いたって意味ないぜ?俺、男だからな」
再び溜息を零して、浅人は立ち上がった。沈んでる賢治の側に近寄っていって、ぽん、と肩を叩く。
「ま、今回は許してやるよ」
「浅人・・・」
「まぁ、その、何だ──」
・・・気持ち、よかったし。
その呟きが聞こえた瞬間、賢治は思いっきり浅人を抱き締めていた。
「うあ、ちょ、ちょっと待てぇ!」
一人うろたえる浅人。焦ってばたばたと暴れて離れようとするが、すぐに抵抗を止めて、黙って抱かれることにした。
(・・・ま、女の時だけの特権みたいなもんだしな)
そう自分に言い聞かす浅人。そんな二人の様子を、月がひっそりと見下ろしていた。
<了>