「おらおらもたもたしてんじゃねえぞ」
大柄な少年が背にいくつものブロックを背負わされて教室中を這いずり回っている。
「ほんととれえなあ山田、おらてめえらもぼけっとつったってないでこのブタのケツ蹴っ飛ばしてやれ」
遠巻きにこの惨状を無言のまま見ていた少年たちは促されるままに一人また一人と山田と呼ばれた少年の汗だくの尻を蹴り上げていく。
「なんだお前ら、全然力はいってないじゃないか」
先ほどから荒々しい声で指示を与えているのはクラスの中でも一際小柄で色白な美少年だ。
少年は教室の隅に立てかけてあったバットを手にとって、山田の大きな尻に振り下ろした。
「ぎゃあああ」
山田の泣き叫ぶ声が放課後の教室中に響き渡り、バットを手にした少年の高らかな笑い声がそれに続く。
「ゆるひてください、ゆるひてください」
体格だけは立派な山田が醜態をさらして床の上であがけばあがくほど容赦なくバットは振り下ろされる。
ひどい惨状の中少年たちはなすすべもなくただ憮然とした表情で美少年を睨みつけていた。
カイトが東京からこの田舎の男子校へ転校してきてからクラスの連中を手下にするまで一ヶ月もかからなかった。体つきこそ高校一年生の男子にしては華奢で背が低く顔もそこらの女の子より愛らしかったが、性格は凶暴で残忍きわまりなかった。東京でもかなりな悪だったカイトにしてみれば、こんな田舎の一クラス二十人程度の小さな学校の連中を僕にすることは雑作もないことだ。
クラスメートの誰もがカイトに反感を抱いていたが、誰一人として彼に抵抗できるものはいなかったのである。