♂カイトは部屋にあがるなり鞄を開けて宿題を始めた。
カイトはポカンとして問題集を解き進んでいく♂カイトの手元を覗き込んだ。
問題の意味すらカイトにはチンプンカンプンだが、それを♂カイトはスラスラと解いていく。
「このくらいはね。こう見えても僕は大学で数学科だったんだぜ」
(エロゲー以外にも特技があったんだな……)
♂カイトは丸々一ページを解き進んだところでシャーペンを置いた。カイトのほうを振り向き、自分の肩を指した。
「勉強すると肩凝っちゃってね。マッサージ頼むよ」
「あ、うん」
カイトが肩に手を掛けと、
「ノンノン!」
と♂カイトは首を振った。
「もっとふんわりマッサージで頼むよ。ふんわりで」
「……ふんわり?」
「手を使うのは禁止。使うのは……ここ!」
「やぁっ!?」
くにゅ。
突然下側から乳を揉まれてカイトは動揺した。
服の上からでも他人に胸を触られると、くすぐったさと切なさの半ばしたような不思議な感覚だ。
「せっかの巨乳だ、せいぜい有効活用してくれよ」
「そんな……」
「ポチ、返事は?」
「…………」
観念してカイトは小さくはい、と呟いた。
♂カイトが問題集に戻ると、カイトはおずおずとその背中に近寄った。
(うう……こんなのやだ……)
おずおずと胸を突きだし、♂カイトの肩にバストを触れさせた。
ふにゅ……
♂カイトも感じているだろう柔らかい感触は、カイト自身にもやんわりとした快感となって胸に感じられる。
「んっ、んっ……」
体を揺らし、何度もバストを押しつけるようにした。
そのたびにバストが柔軟に変形し、たぷたぷと揺れた。
♂カイトがいったように「巨乳」でないとそもそも成立しないサービスである。
(うあ……なんだか変な気分に……)
バストが♂カイトの肩に押しつけられ、その上で擦れたり変形したりするたびに微妙な快感が生じる。
特に乳首の部分が擦れたりするとたちまち電気のような鋭い刺激になる。そういう過敏さはピアスリングのせいでもある。
「んっ……んっ……」
命じられて嫌々やっていたのに、いつのまにかカイトは随分と熱心に体を動かしていた。
♂カイトはタバコをくわえ、鼻歌混じりで宿題の続きである。
屈辱的な行為だったが、命令と割り切ってやってるうちに女だけが味わえる快感の虜になっていた。
乳房の存在をいやが上にも意識させられる屈辱はあったが、葵の言葉のおかげでカイトは底なしの自己嫌悪に陥らずに済んでいた。
葵はカイトの乳房のことを「可愛い」といってくれた。葵がそういうなら、そうなのかもしれないと思えてくる。
バストによるマッサージはそれからひとときの間、続いた。
そろそろ胸が擦れて痛くなってくる頃、♂カイトがシャーペンを置いてのびをした。
「よーし、終了」
どうやら宿題が全部終わったらしい。
こんな短時間で宿題が全部片付くなんて、カイト本人では考えられないことだった。そもそも真面目に宿題に手を付けたことさえないので話にならない。
カイトは苦役から解放され、床にあぐらをかいて一息ついた。
「ったく、ポチ子はメイドのくせに行儀悪いんだから」
「あんっ、や、やっ!」
足先で胸のいただきをこちょこちょとくすぐられ、カイトは慌てた。
「……ま、オッパイのマッサージは気持ちよかったけどね♪」
「そ、そうか」
カイトは自分自身の気持ちの変化に少し驚いた。
いま、♂カイトに「気持ちよかった」といわれて、心のどこかでカイトは嬉しかったのだ。
旧校舎の教室で、人間ですらないセックスの道具として扱われてきたカイトにとっては、心を惑わされるほど♂カイトの言葉は耳に心地よく響いた。
女であることを受け入れることで、この家に自分の居場所ができるなら……
心の中の、漠然とした無意識の領域でそういう思いが生まれ始めていた。
「ポチはこのCG見てどう思う?」
「え、あ?」
♂カイトはノートパソコンで早くも美少女ゲームを始めていた。
CGというのは、海辺で主人公らしき青年の下半身にかしずくように水着の少女が奉仕をしているシーンだった。
「ビキニってのはなんだかんだで基本だよね、基本」
「ま、まあな……」
「……というわけでさ! 折角だからポチ子にも水着で奉仕してもらおうかと思ってね」
「え!?」
♂カイトは美少女ゲームのお気に入りのシチュエーションを再現しようというのだろう。
カイトはこれから自分が何をやらされるのか、だいたい見当が付くような気がした。
「まさか、水着買ってきたのか?」
「まさか」
と♂カイトは意外にもあっさり否定する。
「なんだ、ビックリした……」
「水着はこれから買いにいくんだよ。ポチを連れて」
「ふぅん……って、ええ! これからかよ!?」
♂カイトはこの上もなく真剣だった。
断る自由があるはずもなく、カイトは外出を急かされた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! こんなメイドの格好で出るわけにもいかないだろ」
「いいよ、別に。メイドを連れて歩くのって憧れだったし」
「そういう問題じゃねえって。近所の噂になっちまうだろ、こういう田舎じゃ」
「あ、そうか。うーむ……」
カイトの存在があまり噂になるようなことがあると、どこでムラタの息の掛かった人間に噂が伝わらないとも限らない。
「しかたないな。早く着替えろよ」
「ああ……わかった」
カイトは昼間着ていた私服に着替えた。
ただし♂カイトが見ているので、胸にサラシを巻いたりはできなかった。
普通にTシャツを着てしまうと、かえってメイド服よりもカイトの巨乳は目立ってしまう。
「いくぞ、ポチ! 急がないと店が閉まっちゃう!」
躊躇する暇すら与えられずカイトは外へ引っ張り出された。
「わかったから、そんな強く引っ張るなよ……」
細い手首をきつく掴まれてカイトは音を上げた。
外の通りに出ると、夕刻ということでそれなりに人出があった。
すれ違う男は皆一様にカイトの巨乳をチラリチラリと視姦していく。
カイトは自分がかつては男だっただけに、男たちが無関心を装いながら横目でしっかりカイトの胸をチェックしてるとわかる。熱いほどの視線が集まるのを感じてしまう。
一歩ごとに胸が大げさに揺れてしまうのが恥ずかしくてたまらなかった。
(こんな、ヤロー共に見られてるのに……)
カイトの意志とは関わりなく、スタイルを誇示するかのように胸が揺れ、ヒップが左右に泳いでしまう。
恨むとしたら、自らの女らしい肉体を恨むしかなかった。
男だけでなく、若い女たちもすれ違いざま、羨望の、あるいは嫉妬の視線を投げかけてきた。
恥ずかしさのあまり顔を赤くさせて歩くカイトの反応を、♂カイトは楽しんでいるようだった。
やがて、二人のカイトは最寄りのスーパーに入った。カイトが服や生理用品を買い揃えたときのスーパーだ。
衣料品売り場になっている二階へと上がっていく。
水着売り場へいくと、♂カイトはさっそく売り場を見回してあれがいいこれがいいと、品定めを始めた。
「わりぃ。なんでもいいから、あんたが買ってきてくれよ」
「冗談。女物の服買うなんて、恥ずかしくってとてもとても」
「そんな、オレだって!」
「なーに言ってんだか。ポチ子は正真正銘オ・ン・ナ・ノ・コだろ?」
「う、ん……」
いまさらどう抗弁しても無駄だった。
言われるままカイトは指示のあった水着を掻き集めた。
レジに向かおうとすると、♂カイトに止められた。
「試着して一番良かった奴を一着だけ買うから」
「試着……オレが!?」
「頭悪いこと言わないの。ポチが試着しないで誰がするんだよ」
カイトは訴えるような目で♂カイトは見たが無駄だった。
覚悟を決めるとカイトは試着室に入った。
試着室の鏡張りの壁に、水着を両腕に抱えて途方に暮れた顔の少女が映っていた。
(信じられない……このオレが女の水着なんて……)
逃げ出したい気持ちを押し殺して試着へと移った。
水着を試着するためには一度全裸にならないといけない。
服を脱ぐと、胸に屈辱的なピアス・チェーンの装飾が露わになった。
「くっ!」
なるべく自分の姿を見ないようにしながら、最初の水着を身につけた。
ワンピース型でありながら大きくヘソの周りが露出した水着だった。
伸縮性の高い生地の水着に足を通すと、それだけでざわりとした。
水着がぴっちりと肌にはりつくと、不思議な快感が生まれた。
第二の肌のように張り付いたすべすべの布地のせいで、ハイレグの股間をもじもじとさせると内腿の付け根にはっとするほどの快感が生まれた。
水着の内側には、股布や胸のカップの部分に当て布が付いていた。男物の水着には無縁のものだが、女のデリケートな体にはそれらが必要なのだと実感できた。
「どんな感じィ?」
と♂カイトが試着室に首を突っ込んでくる。
カイトは顔から火が出そうな思いで水着姿を晒した。
「ど、どう、だ……?」
思わず尋ねてしまい、カイトは自分自身で戸惑った。
(何訊いてんだオレはァ──!)
内心の混乱を見透かすかのように♂カイトはにやついた。
「その調子で全部の試着いってみようね、ポチ子たん♪」
「ふ、ふんっ!」
そっぽを向くとカイトは体に張り付いた水着を脱ぎ、次の水着へと移った。
……十着近くの水着を試着させられ、カイトはあらゆる水着姿を♂カイトに視姦された。
(そんなにジロジロ股間と胸ばっか見るなぁ……濡れちゃったらどうすんだよ!)
グラビアアイドルばりの水着姿を自覚しているだけに恥ずかしく、カイトは俯いて視線に耐えた。無意識のうちに祈るような仕草で胸を隠していた。
♂カイトからの指示が飛ぶ。
「ピンと背筋伸ばして。両手は、脇!」
「う、はい……」
さらけ出された水着姿を♂カイトは涎でも流さんばかりにだらしない表情で鑑賞した。
結局、最後にカイトが着た白のシンプルなビキニが♂カイトに選ばれた。
透けない白の水着は最近の流行だとかで店員も一押ししていた水着である。
胸のチェーンがカップの間から一部覗いて見えてしまうのだが、それも含めて♂カイトの好みらしかった。
レジに運んで金を払うところまでカイトがやらされた。
「お兄さんと一緒に水着のお買い物? とっても仲がいいのね」
まるで店員の笑顔がそんなことを語ってるような気がして、カイトは必要以上に気恥ずかしい思いをしながら包まれた水着を受け取った。