32

夢。

『夢を見る』という行為は、記憶や心情や願望などといった、脳内に雑然と放り込まれている

情報を整理するプロセス。
そして『夢』はそのイメージ映像にすぎない。
たしかテレビかなんかでそう言ってたなぁ、とカイトはぼーっとした頭で考えていた。

カイトの目の前にはいくつもの十字架、つまり墓標が立ち並んでいた。
元はなんの建物だったのかわからないほどボロボロに朽ち果てた廃墟の中、
花束を抱えた金髪の少女と一緒にそれ等を眺めている自分。
前にも見たことのある夢だった。

この夢は俺にとってどんな意味を持つ映像だというのだろう?
過去の記憶?
違う・・・俺はそもそも海外に行ったことなどない。
じゃあ、俺の心の底にある願望なのか?
夢の中で墓なんか見ちまうなんて、俺は死にたがってるっていうのか?

「ちがう・・・」
否定の言葉を口にした。
否定の言葉という『錨』がないと、『死にたがってる』という言葉に心が流されてしまいそうだった。
「ちがう・・・」
確かに消えてしまいたいと思った。
自分の存在を横取りした男に犯されて、かわいい女としてすがりよったのに拒絶されて、人間以下の奴隷に過ぎないと罵られた自分。
そんな情けない自分を消してしまいたいと思ったのは本当だ。
でも、それは・・・

「カイトさんは人間でいたいのよね」
「!」

突然、目の前の少女が口を開いたため、カイトはビクッと肩を跳ね上げてしまった。
しかも、カイトの心の中を見透かすかのように、そのままズバリなことを口にしたのだ。
「人にあれこれ言われて、自信がなくなっちゃったんだ」
(なんなんだ、こいつ?)
 夢の登場人物にすぎない少女に偉そうなことを言われてムッとする。
「なっ!」
 言いかえそうとした瞬間、目の前の少女はあとかたもなく消え去ってしまった。
 まわりの風景と共に・・・

(言いっぱなしかよ・・・ずりぃなぁ)
 文句を言う相手がいなくなってしまい、もやもやとしたいらだちを持て余す。
 今、カイトは先程までとはまったく違う場所に立っていた。
 コンクリートのうちっぱなしの壁と床と天井に囲まれた狭苦しい部屋・・・
 調度品はなにひとつなく、ただ天井に照明と、そしてカイトを監視するかのような小さなカメラが備え付けてあるだけの部屋・・・
 しかし、そんな有様でありながら、その部屋は殺風景とはいえなかった。
 その部屋の壁、天井、床、目に映るすべての場所に意味不明な赤色の文字がびっしりと隙間なくペイントされているのだ。
 目眩をおこしそうなほどの文字の羅列、文字の圧迫、文字の重圧・・・
 日本語ではない。
 それゆえに意味はわからない。
 しかし、これを書いた人間の精神はいたいほど伝わってくる。
 狂ってるんだ・・・
 なにかにとりつかれでもしない限り、こんな異様な空間を作りだせるはずがない・・・

「くっ!」
 カイトはどこを向いても目の中に飛び込んでくる文字から逃れるかのように瞼を閉じたが、すでに網膜にまで焼きついたのか、狂った赤い文字は脳裏から消えることはなかった。
 狂った赤い文字がカイトをも狂わさんとしているかのようだ。
(訳わかんねぇ・・・なんだよ、この夢)
 カイトが最近見るようになった夢の多くはリアルな実感を持っているにもかかわらず、その状況は荒唐無稽そのものでおかしなものばかりだったが、それにしても今回の夢は度がはずれすぎている。
 おおよそまともな人間の見る夢とは思えない。
(俺・・・本当に・・・もう人間じゃないのか・・・)

「それを決めるのは自分の心だけだよ」

 ふいに声が聞こえた。
「!」
 目を見開くカイト。
 さっきの少女の声が聞こえたのだ。
 首をめぐらし少女の姿を探すが、どこにもその影すら存在しなかった。
 しかし言葉は続く。

「他人にどう扱われても、他人にどう言われても、自分が人間かどうかを決めるのは自分の心だけだよ」

「どこにいやがる!出てこい!」
 自分よりも年下であるはずの少女に説教じみたことを言われて瞬間的な憤りを感じ、それを怒鳴りつけることで晴らそうとするも、少女の声はそれを無視して次の言葉を続けた。

「人間で居続けてね・・・どんな目にあっても・・・」

 ガコン!

 突然耳をつんざく大きな音が部屋に響き、驚きで背中が震える。
「なにが」
 音の方向に首を向けると、そこには人ひとりがやっと通れそうな穴が口を開けていた。
(なんだよ・・・なんでそんなとこに穴開いてんだよ)
 よく考えてみればこの部屋にはドアらしきものは何ひとつなかったはずだ。
 しかし今そこには人が入ってくるための穴が用意されていた。
 他人がこのカイトだけの空間に侵入するための穴が・・・
(!)
 自分の心が訳もなく恐怖で塗りつぶされるのをカイトは感じた。
 握り締めた手のひらは汗で濡れ、歯はうまく噛み合わずカチカチと音をたてる。
(やめろ・・・だれも入ってくんなぁ・・・)
 ただの穴・・・それにどうしてここまで怯えなければいけないのか?
 まったく理由がわからない。しかしわからないはずなのに・・・
(くんな・・・はいってくんなぁ・・・)
 そこから『何者か』が恐怖をたずさえて入ってくることを既に知っているかのようにカイトの『心の一部』は怯えきっていた。
 あきらかに今までのカイトではありえないような重度の恐慌状態なのだが、そんなことに考えを至らせるような心の余裕は持ち合わせていない。
 ただひたすらに、怖い、それだけしか心の中に浮かばず、その壁の穴から逃げだそうと考えることさえできなかった。
(やめろ・・・くんな・・・)
 だが、カイトがどう思っていようとも・・・
(やだ・・・あついのはやだ・・・)
『何者か』の来訪を阻止することはできない・・・
(こわい・・・こわいよ・・・)

 やがてその壁の穴から4人の男が侵入してきた・・・

 その男達は一様に同じ姿をしていた。
 白衣に身を包み、口元には医療用のマスク。
 顔つきは見えない。顔を照らすだけの明かりは充分あるはずなのに、4人が4人とも顔の部分だけは影になっていてその顔を確認する事が出来なかった。
 にもかかわらず、その見えない顔の奥に潜む冷たい眼光だけははっきりと感じることが出来、その視線がカイトをさらなる恐慌へと導いていった。
(やめろ・・・やだ・・あついのやだ・・・)
 そのあまりにも大き過ぎる恐怖の感情によってカイトはあらゆる動きを封じられてしまう。
 逃げ出すどころか、後ずさりすることさえ忘れてしまったみたいにただただひたすらに怯え震えていた。
 ふとカイトは視線の端に男達の手と、その手に握られた物体を捉える。
 4人の男達はこれまたまったく同じ形の『道具』を持っていた。
(!・・・あついの!)
 その道具は外見だけを描写するならば、塗装もなにも施されていない鉄製の筒、もっと端的にいってしまえば表面になんの突起もないバイブ、といったかんじのシロモノで、とてもじゃないがカイトをここまで恐れさせるものとは思えない。
 だが・・・
(あついのやだ・・・あついのやだ・・・あついの・・・)
 カイトはまだそれに触れてもいないのに、それが『熱い物』なのだと認識していた。
 まるで前にも同じ経験をしているかのように・・・

 男達は怯えるカイトに構わず、その服を剥ぎ取りにかかる。
 カイトの服装はいつものメイド服ではなく、また家に一人でいる時の普段着でもなく、病院内で着るようなシンプルな手術着で、下着も一切身につけていなかった。
 つまりカイトのことを全裸にすることなどいとも簡単なことだった。
「!・・や、やめろ!・・・やめぇ」
 混乱した頭でもなんとかそのことに気づいて抵抗しようとするが、恐怖にすくんだ手足はまるで言う事を聞かず、たった一枚の服はあっという間に脱がされてしまう。
「やだ、やだ、あついの」
 その時カイトは再び4人の男達の顔を、目を見た。
「なんで、なんでだよう・・・」
 そして嘆いた。
 その男達の目はどんな感情も持ってはいなかったのだ。
 『人間』を見るような目ではない。それはあたかも実験動物や工業製品を見るような冷たい目だった。
(なんで・・・みんな、おれをにんげんあつかいしてくれないんだよぉ・・・)
 男達が一斉に手に持った道具をカイトの肌に押し当ててくる。
「あつい!」
 それはやはりカイトの思った通りに、熱を持っていた。50℃ぐらいだろうか、やけどはしない程度でなおかつカイトに最大限の不快感を与える、そんな温度だ。
 男達はそれでカイトの胸を下から突き上げ、乳首を押し込み、尻をまさぐり、唇を蹂躙した。

「あ・・・はぁ・・・あう」
(おれがにんげんじゃないから・・・こんなこと・・・するの・・・)
 ひっきりなしに続く熱による責め苦。胸の谷間でその鉄棒をしごくように往復させる男。
「やぁ・・・あつい・・・」
 股間に鉄棒を押し当てそのまま動かさない男。
「うんっ・・・やめて・・・」
 尻の穴に鉄棒を擦り付けるように細かく揺らす男。
「あぁ・・・だめぇ・・・」
 背中を鉄棒でソフトに撫であげる男。
「はぁ・・・もう・・・こんなのぉ・・・」
(あつい・・・あつい・・・あつい・・・)
 あまりにもの熱さにカイトの頭は次第に呆けていく・・・
 男達はカイトの身体のあらゆる場所をその熱で責めあげ、嬲り続けた。
 鉄棒の熱さと、愛撫とおぼしきその動きに、カイトは全身から汗をふきだす。
 額からたれる汗が見開かれた瞳に浸入するも、カイトはそれをぬぐうことが出来なかった。

すでに
カイトの筋肉は自身の思うままには動かせなくなっていたから。
 そう、いつしかカイトの身体は強制的に火照らされていた。こんな状況でもカイトの雌としての本能はその愛撫を受け入れ、その身体は官能の喜びに震えているのだ。
 あるいはこの鉄棒の熱はカイトの抵抗心すらもぐずぐずに溶かしてしまったのだろうか。

 男達が突然カイトの身体から離れ、そして集合した。
(?・・・なに?)
 男達は鉄棒のうちの一本を手にとると、その後端をくるくると捻りだした。懐中電灯の電池を取り出す動作ににている。
 数回まわしたところで引き抜くように動かすと、その鉄棒の後端はスライドし、中からデジタルな表示部分が出現した。
 その表示を食い入るように見る4人の男達。
 やがて男達は満足したように頷きあうと、ぼそぼそと言葉をかわす。
(なに・・・いってるんだ・・・)
 その言葉も壁の文字同様、日本語ではなかった。だが
(あれ?・・・わかる?)
 カイトにはそれを言語として理解する能力はないはずなのに、しかしなぜかその意味をおぼろげにだが判別することが出来た。
(経過・・・順調?)
(完成が近い?)
(理想的な・・・外交カード?)
 聞き取ることはできてもその意味はよくわからなかった。しかし、やはり自分のことを道具としてしか見ていないことは言葉のはしばしから窺い知れた。
(どうぐ・・・ただのどうぐ・・・にんげんじゃない・・・)
 身体の火照りとは裏腹に、カイトの心は悲しみに塗りつぶされていった。
(おれ・・・どうぐなんだ・・・にんげんじゃないんだ・・・)
 そんなことを考えている間に、カイトの身体はいつのまにか4人におさえつけられていた。
 そのうちの一人が鉄棒を構え、それをカイトの膣に差し込もうとしているようだった。

 しかしカイトは別段取り乱すでもなかった。そんなことはどうでもいいとさえ思っていた。
(どうぐだから・・・なにされても・・・いいんだ・・・)
 諦め・・・
 学校で男子生徒達におもちゃにされ、そこから逃げ出せば家で奴隷と罵られ、ついには夢の中ですら道具扱いされる。
 もうカイトの心には一片の希望も残されてはいなかった。
(もういいから・・・じらさないで・・・はやくいれればいいだろ・・・)
 そして男は一瞬の迷いもなくその熱の塊をカイトの中に差し入れた。
「んっ!・・・くぅ」
(あつい!あつい!あついよぉ!)
 それは身体の中からカイトの全身を燃やし尽くさんとするような衝撃だった。
 熱い、以外の感情などまったく消え去ってしまう。
(あついよぉ!あついのぉ!)
 そんなカイトにはおかまいなしに男は鉄棒のピストン運動を開始する。
 陰唇がよじれてそこから大量の愛液を垂らす。
 鉄棒の動きに合わせてカイトの息も荒くなっていく。やがてカイトの身体には熱さだけでなく、女としての快感も駆け巡るようになってきた。
「あっ、だめっ、ああ・・・いい」
 快感がカイトの脳を溶かす。段々と熱さも感じなくなり、気持ちのいい興奮だけが頭の中を占めるようになる。
「あっ、く、あぁぁっ・・・んっ、ンッ、はぁっ・・・」
 身体の奥深くまで貫く鉄棒の量感に、カイトは激しく呻いた。
「あああ・・・・ンッ、ンンンッ!」
(いいよぉ・・・こんなに・・きもちいいなら・・・にんげんでなくても・・いい)
 人間であることを諦めれば、プライドを保つ必要もない。いくらでも快感に溺れることができる。
 カイトの心の中はもはやこの快感をむさぼることしか眼中になかった。
「う・・・んっ、あぁっ、そんなぁ・・・ンンッ」
 膣壁が快楽に狂乱して小刻みに震える。カイトは腰を自分から揺すり立てた。
「あ、あ・・ああぁぁぁっ!」
 どうしようもない快感に身を任せ、カイトは絶頂を迎え、そのまま気を失ってしまった・・・

 次にカイトが目を覚ました時には室内にはカイト以外の存在はなかった。
 赤い文字に埋め尽くされた部屋に、自分の汗と愛液にまみれたカイトだけがぽつんと
倒れていた。

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