マーヤ9

「こりゃあ…世も末だな…」
西暦2000年代初期にありながら、雄介はそう漏らした。
本当に世の中が変わってしまったのか、もっと詳しく調べてみる必要があると感じた。自分自身にかかわる重大すぎる命題だ。めんどくさいなどといっているわけにもいかない。
とりあえず自分の身体のことはどこかにおいておくとして、いつもどおりの生活をしてみようと考えたのである。
そして学生服をしまっているクローゼットを開いた瞬間から、雄介は世界のあまりの変貌ぶりにあきれてしまった。
クローゼットにはいつもハンガーで吊るしてある学生服があった。それはいつもどおりで変わりない。
ただ…これが女子用であったことを除いて。
雄介の通う高校は男女ともにブレザーである。ただ少しだけデザインが異なるだけだが、全体的に女性用のほうがサイズが小さめなので見分けることはそう難しくは無い。
そして雄介の眼前で吊るされているものは紛れもなく女性用のブレザーであった。ご丁寧に隣にはスカートまである。
「こ…これを…俺が?」
自分の着用した姿を想像して…ゾッとした。まるで変態である。弁解のしようもない。
「うげぇ…」
…やはり表を出歩けるような事態ではない。
(やっぱり学校は休もう…)
ため息とともにガクリと頭を落とす。何気なく覗いたクローゼットに据えられた鏡。
「なっ!!!!」
驚愕にカッと目を見開く。不思議な動物でも見るかのようにペタペタと自分の顔を触りまくった。
「こここ、これは!」
鏡の中に写る美少女。「女王」といわれるような女が雄介の学校にもいる。鏡の少女はそれに勝らずとも劣らない、いや、明らかに勝っているといえる絶世の美少女であった。
ぐぐっと鏡に顔を寄せた。その間、実に5ミリメートルといったところだ。
なぜこんな美少女がこんなむさくるしい自分の部屋にいるのか…。
違う。断じて違う。手に感じる自分の顔。これまでとはまったく異なるこの容貌…。
「お…俺、俺かよ!?」
あのつまらない造りの顔など見る影も無い。そこには疑いようの無い美少女が存在していたのだ。
ペタペタと無作法に顔面を撫で回す。鏡の中の女性も動作を同じくした。
この女の子は、この美少女が…自分!?
信じられない。今朝になって何度目かわからないが、やはり信じられない現実だ。
だが、現実なのである。突然やってきた何かが自分の身体を豊満な女性にし、あまりにも好みな顔を勝手に与えていったという現実なのである。
これでは誰が見ても自分は女の子だ。疑う理由などかけらも無い。女子用の学生服を着用したとて誰が好奇の目で見よう。
仮にじろじろ見られるとしても、そんなことをするのはあまりのかわいさに目を奪われた男くらいのものだろう。
「こ、これなら大丈夫そうだな。」
気兼ねなく外に出ることができるということがわかって心から安心した。いや、根本的な問題は何も解決してはいないが。
「と…とはいえ…」
とはいえ、いきなり女子制服を着用しろといわれるのも納得しがたいものがある。
変化したのが外見だけなのだからそうせざるを得ないのだろうが、だからといってすべてを受けいれらるわけるほど融通の利く性格ではない。
そっとブレザーを手に取る。意外なほどに小さいことに気づく。見た目からわかるがこうして手にとって見るとその大きさがよくわかった。
女の子の衣服を手にすることなど男にそうそうあるものではない。
(女はこんなの着てんだなあ…)
両手で目の高さに持つ。真正面から見れば見るほど自分のものだとは信じられない。
(なんとかして…)
この制服を着ないで済む方法がないものか。雄介は熟考した。
季節柄外は寒い。暖房がある程度効いているとはいえ教室内もそれなりの気温の低さだ。
今くらいでは男女ともに上着を脱ぐようなことはしていない。だが自分だけ脱いでいるというのも別にそうたいした問題とはいえないはずだ。
(でも…)
ある程度は自分の周りの社会がどういうふうになっているのかわかりかけてはいるが、正直な話内心ビクビクしている。
当然だ。おいそれとこんな身体に順応してなるものか。だから些細なことでも不必要に注目は集めたくは無い…。
“女の自分”を見られることは耐え難い羞恥なのだ。今後の自分を決めるためとはいえ、できることならば学校にもあまり行きたくも無い。
「雄ちゃん!早くしないとほんと間に合わないわよ!」
階下から再度母の催促。
うじうじと悩み続けていた雄介の心を後押しした。今度また自分の部屋に来ればどんな文句を言われるかわからない。
「うぅ…。き、着るしかないか…」
ブレザーをハンガーに戻す。ゆっくりと上着に手をかけた。
深呼吸を一回だけ行う。すぅ…はぁ…。
「よしっ!着るぞ!」
一気に上着を引っ張りあげる。服を脱ぐと同時、大きな乳房がブルブルと揺れるのを感じた。
一挙動のたびにこの実った果実がプルプルと主張し、自分の目を釘付けにさせるのだ。
おかげでブラジャーを探すのに想像以上に手間取ってしまった。
「こ、これか…。これがブラジャー…」
いちいち口に出さずともそれくらいのことは承知している。心臓をドキドキさせるようなことでもないはずだ。
だが、さすがにこの状況で落ち着けというほうが難しい。なにしろブラジャーを着けるのが自分なのだ。まさかこんな日が来ようとは…。
そっとカップの部分に手を伸ばす。自分の手がすっぽりと収まってしまうような大きさだ。
「で、でけぇな…」
自分のサイズに合わせたものなのだからそれくらいのことはわかっていた。
「こんなサイズ、店で売ってるのしか見たことねえぞ。」
そんなサイズを自分が着用するのだ。何もかもが初体験である。
前にあるホックでとめるようになっており、それほど着方のわかりにくいものでもなさそうだ。
肩、背中とブラジャーの紐を絡ませて肝心のカップの部分を両手に掴む。
ブラジャーで補強する必要などないと思われるほど見事な造型の大鞠が、今か今かと雄介の目を刺激してきた。
余った柔肉のないように、と丁寧にカップですくいあげる。ふわりとしたカップの内側の感触が心地よかった。
乳房の下に隠れてしまって見えないがきちんとできただろう。あとはそのまま前のホックを…
ギュッ…
「おおっ…!」
中央にググッと寄せた分、押し上げられた女肉が眼下からこちらにせり上がってきた。
「す、すげぇ…」
まだ両側のホックに届いておらず、さらに中心に挟み込むと我慢できずにあふれ出す乳房が増量した。
結局のところきちんとホックはとめたのだが、溢れた胸を詰め込まなくはならないようだ。むちゃくちゃに寄せ上がってしまった乳房はそれなりに魅力的だがこのままでは大問題である。
少し力強くカップの部分をひっぱり、開いた隙間に乳房を押し込む。
こんな視点で、しかも自分の身体でこんな作業をするという貴重な経験に熱心に打ち込んでしまった。
「巨乳の女ってみんなこんなことしてんのかな?」
自分で自分のことを巨乳と定義するようでなんだか気恥ずかしかったものの、男としてみれば断じて巨乳に違いない。
詰め込みながら乳房を揉んだりもした。
「ん、はぁ…。すげぇ変な感じ…」
時間が迫っているので急がなくてはならない。わし掴むこの手の中が名残惜しいがそのままさっさと作業をすすめ、なんとか形を整えることに成功した。
それでもなおブラジャーから溢れる部分は無視できない。とはいえ仕方あるまい。このサイズではこれが限界だ。
「うぅ。けっこう苦しいな…」
予想以上の胸の圧迫に少し顔をしかめた。ほかのブラジャーも同じようなものなのだ。今からではどうにもできない。
それよりも早く着替えをすませることが最優先である。
「さあ、次だ」
下半身に目をやる。当然のことながらトランクスである。
確かに男としての名残なのかもしれないが、さきほど確認した美少女の自分の顔と組み合わせるとこっけいとしかいいようがない。
全身を映し出す鏡は雄介の部屋にはないものの、想像するだけで珍妙な格好だ。
いくら心が屈していないといってもトランクスを貫き通すことはやりすぎなのではないか。そもそも下着など普通は他人の目にさらされるものでもない。
ブラジャーなど女としての自分をこれ以上なく語りつくすアイテムだが、それらは衣服の下に隠されるものなのだ。
他人の目こそが頭を抱える第一要因であると考えているのだから、それにさらされない部分はあくまで自分だけの問題といえる。
雄介は悩んだ。自由な選択が与えられている数少ない機会なのである。
(「男」を貫くか…いや、貫くに決まってる。…でもなあ)
悩みに悩み、そしてまた悩み続けた。
そして雷が階下からせりあがってきた。
「雄ちゃん!!あなた、ほんっとに遅刻しちゃうわよ!!!今月何回遅刻してんの!!」
ドカドカドカ
大岩が転がり落ちるような憤怒。土石流のような足音が階段をたたきつけた。
(わ!わわわ、また上がってきた…)
着替え途中、しかも上半身はブラジャーのみ、下半身はトランクスのみ、というなさけない格好だ。こんな姿を親に見られるわけにはいかない。
「わ、わかってるって!!すぐに降りるよ!!母さんは朝飯用意しておいて!」
「もう、早くしなさいよ!朝ごはんなんてもうとっくに用意できてるんですからね!」
自室のドアの向こう側から声が返ってくる。危なかった、部屋に入られる直前だったじゃないか。
「ご、ごめん。ちょっと…朝からいろいろと…その、あってさ…」
確かにいろいろあった。ありすぎた、といったほうが正しい。
なぜかその言葉だけで母はずいぶんと理解を示すようになった。
「そう…そうよね。いろいろあったのね。“女”になったんだもんね…」
「そ、そうなんだ。そうなんだけど…」
なんだかまだ心が通じ合っているといえない状況…のような気がした。
すべてを悟ったかのような母の口調。「母」を続けてきた自分の中の「女」をふと思い出したかのような…
「まぁ、いろいろ大変だとおもうけど。早くしなさいね」
ドア越しで表情は見えないが、なぜかずいぶんと艶のある口ぶりであった。
話すべき肝心な事柄が絶対にあるように思えて仕方ないが、ひとまずは母の怒りはおさまり再び階下へと戻っていったことに安心した。
「やばいな。ほんとにいそがないと…」
もう衣服うんぬんで頭を抱えている場合ではないようだ。そうだ、下着なんかどうでもいいじゃないか。どうせ誰も見ないんだし。
さっさとトランクスの上からスカートを履いてしまう。ブレザーもきちんと着用し、ろくに勉強道具をいれたこともない通学かばんを手にとって自室を飛び出した。
ドカドカドカ!
先ほどの母に負けないほどの勢いで、今度は階段を駆け下りた。

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