二重螺旋

 母親のように柔らかく、力強く晶を胸の中に抱く。
 とくんとくん、と心臓が甘いリズムを奏でる。
 今からしばらくは、自分は女なんだと心に決める。母性が心を暖かくしてゆく。
 晶の唾液で濡れた乳房に、空調の風があたってひんやりとする。こんな刺激でも士狼は乳首を固くしてしまう。
 士狼をベッドから足を下ろすようにさせ、晶が彼女の足の間に身を入れようとしていた。かなり積極的な晶のなすがままに、士狼は身を委ねている。

「お姉ちゃん、さっきお風呂に入ったばかりだよね」
「だめだよ‥‥そんなの、汚いし‥‥」

 しかし晶は彼女の言葉が耳に入らなかったかのように、股間に顔を埋めた。髪の毛が股をくすぐり、ぞわっと感じてしまう。続けて信じられないくらいの衝撃が士狼を襲う。おもわず晶の頭を足でしめつけてしまったほどだ。
 晶が彼女の肉芽を舐めた瞬間、少し漏らしてしまったようだった。声も出てしまう。多分、愛液をしぶかせてしまったのだろう。勇気を奮って晶を見ると、口のまわりが何かでべっとりと濡れている。自分でも顔が真っ赤になっているのがわかった。

「わあ、なんか出てきた」
「だめだって。見ないでよ‥‥」
「お姉ちゃん、さっきからだめだめってばかり言ってるね。もうだめっていったらだめだよ?」
「でも‥‥」
「でももだめ。一緒に気持ちよくなろうよ」
「晶はいじわるだよ」

 士狼がそういうと、晶はほっぺたをふくらませて怒ったふりをする。そんな晶の表情がおかしくて、彼女は声をあげて笑った。

「じゃあ、晶も服を脱いで。晶だけ着ているのはずるい」
「そうだね」

 晶が後ろを向いて素直に服を脱ぎ始めると、士狼の頭に閃きが訪れた。ベッドからそっと体を起こして、背後から上半身裸の少年を抱きしめる。肩幅はそんなに広くないが、やはり男らしい骨格の片鱗がある。

「お姉ちゃん、おっぱいが背中にあたってるよ」
「柔らかいでしょ?」
「うん。それにあったかいよ」

 心臓はさっきから、耳の高さまで上がってしまったように激しく鼓動している。

「心臓がね、もう喉から飛び出ちゃいそう。すごくどきどきしてる」
「ぼくもだよ、お姉ちゃん」

 士狼は体を離して、後から晶の半ズボンを脱がし始める。晶は抵抗するが、今度は彼女が力ずくで服を剥ぐ番だ。二人できゃあきゃあ言いながら、晶をベッドに引き倒して、士狼はズボンとブリーフを脱がしてしまった。
 彼女は息を呑んだ。
 まだ汚れのない無毛の陰部なのに、自己主張をし始めているペニスは大きさはともかく、既に大人のものに近い形をしていた。皮を被ったそれは先端がわずかにめくれていて、露がにじんでいる。まるでフキノトウが雪から顔をのぞかせているような趣があった。

「お姉ちゃん、恥ずかしいよう‥‥」

 しかし彼女は、晶に返事をすることができなかった。口の中に唾液が溢れかえっている。パブロフの犬みたいだと思った。この場合は食欲ではなく、性欲だが。
 魅入られるように、晶の足の間に割って入った。さっきとは立場が逆転している。唇を舌で湿した動作はまるで、ご馳走を前にした肉食動物を思わせた。

 どうすれば気持ちいいかは、わかっている。
 少年のペニスを優しく握って、根元へと手を滑らせてゆく。晶が高い声でうめいた。包皮が剥けて初々しい色の亀頭が顔をあらわし、にじみ出た露がこぼれて士狼の手を濡らす。

「晶のおちんちん、ピンク色できれいだよ」
「お、お姉ちゃんのも‥‥ピンク色できれいだったよ」
「じゃあ、どっちがきれい?」

 拗ねるような、意地悪っぽい笑みを浮かべて彼女は晶に言った。股間からつう、と何かが足下まで伝い落ちるのがわかった。もう隠すつもりもない。返事がないので、もう一度尋ねた。

「どっち?」
「‥‥お姉ちゃんの方だよ。決まってるじゃない」
「じゃあ、ご褒美」

 添えた手を上下に動かし、ペニスをしごき始める。切なそうな声をあげる晶を見て、まるで少女を犯しているような気分になってしまう。さほど大きくはないが、もう立派に大人のそれだ。
 晶が漏らす樹液を指にまぶして先端のくびれを指でくじる。ペニスががちがちに固くなっているのがわかる。鼻息が小刻みに震えて、晶の体が不意に硬直した。

「お姉ちゃん、ごめん!」

 晶がひときわ高い声で叫ぶと同時に、まるで小用をしているような激しさで、ペニスを震わせながら勢いよく精液が吹き出た。次から次へと、いつまでも尽きないようなおびただしい量の白濁液が、士狼の顔から胸めがけて襲いかかる。
 ようやく噴出が止まった頃には、まるで乳液の瓶を頭からこぼされたような状態になってしまっていた。
 そのなじみのある白い液体を、士狼は驚きをもって受け止めた。量も驚きだが、嫌悪感をまるで感じなかったのだ。弓奈にフェラチオをしてもらった後は彼女にキスをすることすらいやだったのに、他人の精液を顔にぶっかけられたにもかかわらず、嫌な感じどころか、嬉しいとすら思える自分の心変わりが不思議だった。
 唇についた精液を舌で舐める。苦い味なのに、奇妙に甘く感じた。

 ようやく息を落ち着かせた晶が、精液まみれになってしまった士狼を見て驚いた。なんと彼女は、顔に付着したそれを指で拭っては自分の口に運んで舐めとっていたのだ。

「お姉ちゃん、何してるの!?」
「晶のだから舐められるんだよ。晶だから、こうしてエッチなことができるんだよ」

 音をたてながら赤ん坊のように指を吸う士狼に、晶が顔を寄せてほっぺたにキスをした。汚いよ、と士狼は言ったが、彼はお姉ちゃんはどこも汚くないもんと返して、今度は顔を舐め始めた。二人は顔をこすりつけてお互いの顔を舐め、顔中にキスをしあった。
 そうしているうちに精液が乾き始めたので、慌ててタオルで精液をぬぐってから水とせっけんで顔を洗い、シャワー室へと向かう。一人では十分な広さだが、さすがに少年とはいえ、二人も入るとあまり身動きできるような状態ではない。

「狭いからあまり動かないでね」

 一度シャワーを浴びてから、士狼は言った。もちろん、そんなことを守るような晶ではなかった。両手にボディソープを垂らし、彼女の体を揉んでまわる。ごく自然に、笑い声がこぼれ出た。
 晶の指が、士狼の股間に触れる。

「あっ‥‥そこは、優しくしてね」
「ねえ、お姉ちゃん。セックスってどうするの?」

 彼女の足下にしゃがんでいる晶が上を向いて言った。晶の目が笑っている。知らないはずがない。だが、彼女は少年の意図を汲んで言った。

「晶の‥‥おちんちんをね。お姉ちゃんのここに‥‥入れるの」

 士狼は脚を開いて自分の性器に両手を添え、親指で淫花を割り開く。
 濡れた音と共に、淫液が指を伝って晶の顔の上に落ちた。

 互いの体を洗いあってさっぱりした二人は、手を繋いでベッドに向かう。
 士狼が先に座って、両手を広げて晶を迎えた。

「晶。ちゅう、して」

 顔を寄せてくる晶の背中に手を回して強く抱きしめる。やはり嫌悪感はない。不安もなかった。手慣れたディープキスを交わしながら、ベッドに倒れ込む。

「ねえ、晶。早くお姉ちゃんに、ちょうだい」

 晶が困ったような顔をする。士狼は深呼吸をして、自分を落ち着かせる。自分は女性として、この子とセックスをするんだということを強く意識してしまう。
 彼女は脚を大きく開き、晶を間に入れる。彼の包皮を被ったままのペニスに手をやり、ていねいに剥いてやってから少し腰を浮かせて、片手で股間に手をやり、亀裂に沿って人差し指と中指を当てる。アヌスの方までべっとりと濡れてしまっていた。愛液が染み込んだシーツが冷たく感じる。

「ここに、晶のおちんちんを‥‥入れるの」

 指を開くと、亀裂がまるで貝の蓋が熱湯の中で弾けるように、湿った音をたてて割れた。恥かしいという気持ちで心が弾けそうだ。

「ここ?」
「うん、ここ」

 晶が腰を入れてくる。ペニスの先がぬかるんだ彼女のものに触れ、ぴくんと跳ねた。士狼は少し笑って、彼のものを手で導いてやる。晶がそのまま腰を突き入れてきた。
 感傷にふける間もなく、士狼は処女を失った。

 晶が倒れ込んで上にかぶさってくる。
 お姉ちゃん、とうわ言のように繰り返す晶を抱きしめ、一体感を味わう。痛みはほとんどない。腰の辺りがじんわりと痺れるように温かく感じる。
 晶がゆっくりと腰を動かす。
 何度か腰を動かしているうちに、足を持った方がいいと気づいたのか、体を起こしてやや屈曲位に近い体勢にもってゆく。非力に見えてもやはり男だ。遠慮がちだった腰の動きも、やがてコツをつかんで大胆なものへと変わっていった。
 晶が何かを言っているようだが、頭の中がミキサーでかき回されたように混乱している士狼は、晶の言葉にこたえることができない。圧倒的な快感だ。体がまるで何倍にも膨れ上がったような感覚に戸惑う。
 やがて晶の腰の動きが急に早くなり、切なそうな吐息と共に彼が大きな声で叫んだ。

「お、お姉ちゃん‥‥でちゃう、でちゃうよお!」
「うん‥‥うんっ!」

 射精される、胎奥まで男に侵略されてしまうという恐怖など考えることもできない。むしろ晶が逃げられないように足を彼の腰に絡め、ベッドのスプリングで体を弾ませる。ぴたりと押し付けられたペニスは振動だけで士狼を苛む。

「お姉ちゃーんっ!!」
「うんっ!」

 体が海の底へ沈むような、いや、宙に浮いているのだろうか。重力の感覚がなくなったような気がして士狼は晶を抱きしめた。晶の体が硬直したように動かなくなる。そして、胎内に注がれるほとばしりを感じた。
 熱い。誰かにすがっていたい。私を繋ぎ止めて欲しい。
 守ってあげる。慈しんであげる。慰めてあげる。
 頭の中に細切れの思考のカクテルがぶちまけられ、やがてそれは光のハレーションとなって士狼の意識を覆いつくした。

 痛いくらいに晶を抱きしめたまま、士狼は意識を失った。

 士狼が気付くと、晶は枕元でにこにこ笑っていた。
 はっとなって身を起こすと、裸身の上にかけられていたタオルケットがずり落ちる。それを引き寄せて、胸を隠した。

「おはよ、お姉ちゃん」
「どのくらい寝てたの?」

 意識的に女言葉を使う。少し恥ずかしかったが、晶の笑顔が見られるのならばこのくらいは平気だった。

「わかんない。僕もさっき目がさめたばかりだから。でもお姉ちゃん‥‥ほら見てよ」

 晶がベッドに乗っかって膝立ちになり、彼女の視線のあたりに腰をもってきて、固くなり始めているペニスを振って見せた。

「晶のばか! そんなもの見せつけないでよ」
「お姉ちゃーん‥‥また一緒に気持ちよくなろうよ。ね?」

 彼女はタオルケットの下に手を伸ばして、股間を触ってみた。ふたりの出した粘液でべとべとだ。軽い鈍痛というか違和感は感じるだけで、痛みはない。
 多分、顔は真っ赤に染まっているのだろう。

「ん‥‥いいよ」

 晶のペニスに手を伸ばした。そして、くるみのような先端にキスをして、そのまま口の中に含んだ。晶が泣きそうな声で、お姉ちゃんと呼び続けている。喉の奥まで飲み込み、大きく顔を前後に動かす。
 自分でもこんなことができるなんて思わなかった。
 そしてわかった。驚くほど素直な心になっていた。

 −−私は、晶が好きなんだ。

 根元まで飲みこんで、時には袋まで口に含んで吸う。嫌悪感はもう、微塵もなかった。隅から隅まで、晶のことを知りたかった。愛したかった。やがて晶が彼女の頭を押さえつけるようにして精液を出しても、彼女は拒まなかった。3回目だというのに、まだかなりの量と粘っこさがある。
 口の端からこぼれる粘液をすくいとって、わざと見せつけるように舐めとって見せる。もし士狼が今の自分の姿を見たら、あまりの妖艶さに絶句しただろう。それほどまでに雰囲気が一転していた。

「今度はね‥‥わんちゃんの格好でエッチしようね」

 腹這いになってから腰を突き上げ、お尻を振って晶を誘う。自分でしていることに、自分で興奮していた。まるで、どこまで落ちることができるか試しているようだった。
 晶が近寄ってきて、お尻に手を添える。
 彼女は脚を開き、また指で陰唇を割って見せた。胎内から晶が注ぎ込んだものが溢れ出てくる。これだけのものを注いでくれた晶が愛しく、また注いで欲しいという欲望が心の底から突き上がってくる。

「晶ぁ‥‥早くぅ!」

 甘い媚びた声が自分でも信じられない。羞恥が心臓の鼓動を早め、全身が興奮で染め尽くされてゆく。挿入された瞬間から、甘い声を上げて自ら興奮を高めてゆく。
 どんどん落ちてゆく。それがたまらない快感だった。
 その後も二人は、心身共に疲れ果てるまで何度も睦みあった。

「お姉ちゃん、大好きだよ‥‥」

 晶の何十回目かの愛の言葉を耳にしながら、彼女は深い眠りの底へ沈んでいった。

 薄暗がりの中、晶が目をさまして起き上がった。
 士狼が疲れ果てて寝息を立てているのを確かめ、彼はそっとベッドから下り、ドアの方へ向かった。廊下に通じるドアは問題なく開く。だが廊下から出る扉は‥‥なんなく開いた。
 軽くきしむ音がして晶は後を振り向くが、ドアが開く気配はない。そのまま開けた扉を潜って小部屋の中に入った。
 そこには一人の白衣を着た男が立っていた。彼の背後には同じく白衣の男と、身長が軽く2メートルを越しているだろうブラックスーツの大男がボディーガードのように突っ立っていた。

「どうでした?」
「うん‥‥すごくよかった。男ってこんな風に感じるんだね」

 晶が妙な事を言った。彼に声をかけた男、士狼にマイク越しに声をかけた人物はなぜか、哀れみともとれるような表情をわずかに浮かべていた。

「それでは最後の調整に入ります。よろしいですね」

 だが、眼鏡の奥に隠された瞳は、本当の感情を容易にはつかませない。

「いいも悪いもないでしょ。僕がこうなるのは決められた事、ううん、自分で決めたことなんだから。でも、僕は士狼を巻き込んじゃった。このことを知ったら、彼は許してくれるのかな。それとも‥‥」
「そろそろ御時間ですので」

 男が時計を見ていった。晶はうなずく。

「お願いします。そう。士狼と生きていけるなら、それだけでも幸せなのかもしれないね。許してくれるのならば‥‥の話だけど」

 男は小さくため息をついて、晶と共に扉の向こうへと消えた。
 扉が閉まる。
 あとにはただ、静寂だけがあった。

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