和真の手が令の制服のリボンをほどき、インナーのボタンを一つずつ外していく。
少しずつ制服がはだけて肌が露わになるにつれて、令は自身の動悸が信じられないほど高まってるのを感じた。
とくん、とくんと、そんな鼓動の音が和真にも聞えるんじゃないかというぐらいの激しさだ。
多分、初めて”男”に抱かれるから緊張して……令の心にそんな当たり前な理由が浮かぶ。
しかしその動悸は何かが違った。
緊張や不安ではない……何故ならプレッシャーがまるで感じられないからだ。
とはいえ身体的にまだ高まっているというわけでもないから、運動的要因でもない。
つまり、抱かれる事に対してそれら以外の感情が令の動悸を高めている事になる。
そうなると後考えられるのは精神の高揚。
これから行われるであろう行為に体が歓喜しているという事だ。
だが性的な快楽ならば既に何度となく経験している。
僅かばかりだが、女の体から引出される快楽というものにも少しは慣れたような気がした。
となると今の令が期待しているのは、これまでにない条件がある故なのだ。つまり……
−僕は男に抱かれる事に期待してる? まさかそんな!?−
その答えを導き出してしまった途端、令の心に陰りが落ちそうになった。が……
「あうぅッ!!」
しかしその思考は突然中断される。
いつのまにか和真は令のブラをたくし上げ、その胸を揉み始めたからだ。
「先輩の胸、綺麗です……。すごい……こんなに吸いつくようにふっくらした感触なんて……」
「ああぁ……そ、そんないきなり激し……はうううぅぅッ!」
男の、和真の少々荒っぽい肌の手で加えられる刺激はまたこれまでとは違うものだった。
いささか乱暴だが、力強くて荒々しい責め。そのまま上着も脱がされ令の胸が露わになる。
その不器用さとあいまって、今までとは違う新鮮な快楽が令の体に流れてきていた。
その指が胸全体を揉みあげるようにしながら、人差し指が乳首をこねるように刺激してくる。
その動きに促され胸から熱が体中に広がるような、そんな感覚だった。
「ひゃうッ!」
唐突に別な感覚が胸に加えられ令は悲鳴を上げてしまう。和真が令の胸に吸い付いたのだ。
吸われるような感覚の後、舌が荒々しく乳首を責め上げる。
いや、責められているという感覚とも少し違った。
和真は今、まるで令の全てを味わおうと言わんばかりの激しさで舌を這わせている。
和真は令に与えているのではない。令を求めているのだ。
当然その行為事態が令の体に快楽を刻み込んではいるのだが、それは結果論でしかない。
それは明らかに今まで令が体験したそれとは違う、雄の性行為だった。
「あふッ…はっ、あああああぁぁッ!! ひゃあッ!」
技術も経験も未熟な相手のはずなのに、令は声を出さずにいられない。
まるで求められる事に体が反応するかのように喉から嬌声が漏れる。
令はこれまで女の肉体で快楽を得る時、こんな感じで少しづつ心がぼやけていくのをすでに体験していた。
しかしこれは何かが違う気がする。快楽以外の何かが令の意識に影響を与えている感覚がある。
それが何かはわからないが、その何かが確かに令への支配力を強めているのだ。
それゆえにか、声を抑えようとしても肉体がそれを拒否するかのように喘ぎ悶えさせられた。
「先輩、胸が敏感なんですね。すごくいやらしい声を上げてますよ。」
「やあっ、そ、そんな事は……はうんッ! あああぁぁっ!!」
反論しようにも声を出す事もままならず、もう令は息も続かない状態だった。
そんな延々と続くのではないかとすら思えた和真の愛撫は、
令がこのままでは胸だけでイッてしまいかねないと思い始めた頃にようやく止まった。
「あの……その、下……いいですか?」
そんな事をいちいち聞かなくても……そう思って和真を見上げる令だったが、その手はすでに令のスカートにかかっていた。結局のところその問いは彼に残った微かな理性が令への問いかけという行為で自身の暴走を誤魔化しているというだけにすぎず、内実和真は令の答えを選択肢として待っているわけではないのだ。
そして令にも、それを断ったり抵抗する理由もなかった。
和真の手でスカートが下ろされ、今度はその手がショーツにかかる。
令は脱がせやすいようにと自身の腰を浮かせると、和真は震える手でゆっくりと令のショーツを下ろし始めた。
「あ……あふぅ……」
するりとした感覚に令はそれに甘い息を吐く。人に脱がされるというのは自分で脱ぐのとはまったく異なる感覚だ。
見ると足をなぞるように下ろされたショーツと秘部の間に愛液が糸を張っていた。
そしてそのショーツ自体もすでに愛液でしっとりと濡れている。
和真はショーツを足の先から抜くとそのまま腰を屈め、令の股に割り込むように頭を下ろす。
まだハイソックスを履いたままの令の足を肩でかかえるように手で固定すると、無言で秘部に舌を這わせてきた。
「はううッ!! ひゃっ……あああぅッ!」
令は思わず反射的に足を閉じようとしてしまうが、和真の手ががっちりと足を掴んでおりそれを許さない。
いくら相手が素人であっても、こうなってしまっては令はもう快楽を享受するしかないのだ。
少しはおさまったと思っていた悦びのカーブが再び昇りのラインを描き始める。
再び体が火照り始め、また声が上がるのを抑えられなくなっていく。
このままでは女の快楽に体が言う事をきいてくれなくなるのは時間の問題だろう。
そのままイッてしまうのも悪くはないが……令は微かな考えと迷いの後、震える手で和真の頭を半ば無理矢理秘部から遠ざけた。
「え? あ、あの……先輩!?」
「ダメ……これ以上は駄目」
「な……!! そ、そんな! ここまで来てそんな事……」
令の突然の言葉に和真は青い顔で情けない声を上げた。まあ男なら当然だろう。
令だってこんな状況で相手にそんな事を言われたら同じような反応をしかねない。
とはいえ予想外に狼狽している和真を見ると、令はちょっと意地悪の度が過ぎたかと思った。
あえて勘違いするような言い回しをしただけで、令に和真を拒絶する気はないのだ。
ただ今回はどちらかといえばリードする立場で居たかったが故の、ほんの僅か茶目っ気。
とはいえこのままじゃ泣き出しかねないような雰囲気なので、すぐに言い直す事にする。
「これ以上は……その、我慢できないから。だから……ね?」
「あ……」
令の言葉に和真の顔が一瞬迷いを思わせた後、一気に明るくなる。
そのみるみる生気が戻るような様が、まるで映画の映像を見ているようで可笑しい。
「それに比良坂君も、もう我慢できないんじゃない?」
令が軽く視線を落とし、その股間を目で示したのに和真も気が付いたのだろう。
和真は自身のそこに目を下ろすと、もう和真自身がズボンの上からでもわかるほど自己主張していた。
「そう……ですね。じゃあ……」
言うが早いか、和真はそのままベルトを外しズボン、トランクスと一気に降ろす。
その下からは和真のペニスがまるで自身の存在を誇示するかのように上を向いた状態で姿を現した。
「あぁ……」
思わず令は無意識に感嘆の息を漏らす。
僅か数日前までは自身も持っていたはずの男性自身……しかし、令にはそれが随分と懐かしい存在に感じられたからだ。
とはいえそれはあくまで和真のもの。まして令は今まったく別の立場でそれを見ている。
求めていたものを他人が持っている……令は奇妙な寂しさのようなものを心に感じた。
しかし……そんな感傷など塵ほどのものと言わんばかりに、何か別の意識が令の中で爆発的に脹らんでいる。
先程から感じる正体のわからない令の中の意識。それが明らかに猛威を振るいつつあった。
そして”それ”が求めているものは、令自身もすでに理解している。
「先輩、じゃあ……いきますよ?」
和真のペニスが令の秘部にピタリとあてがわれる。その目が令の最後の許しを請うていた。
ほんの一瞬の間、令はその意識を覚醒させて思考する。
これはある意味最後の一線。この先に待っているのは今までの悪戯のような性行為とは違うのだ。
それは”男に抱かれる”という現実。
令の意識が完全に男であるとするならば、本来は絶対に拒否している行為だろう。
しかし……何故だかわらないが、心ですらその答えを否定している。
否、その答えを出そうとしている心を、先程のもう一つの感情が書き換えているのだ。
その要求は至極単純なもの……そう、”抱かれたい”と。
それを意識した令は、半ば無意識に頷いた。最後の一線を自身の意思で跨いでしまった。
微かな間を置いて秘部の入り口に圧迫感を感じる。
そしてそれを令が意識した途端、和真のペニスが一気に令の膣(なか)に突き込まれた。
「かはッ……あああああああぁぁぁぁ―――ッ!!」
挿入した途端、令の絶叫が用具室に響く。
何度経験しても男の意識では決して慣れる事が適わない快楽。それは今回も例外ではなかった。
挿入された途端、体が発火したように熱くなる。理性が一気に蝕まれる。
「せ、先輩の膣……すごくキツいです……。それにいやらしく動いていて……」
和真は恍惚の顔で令を見下ろしていた。
「……動きますよ」
「やあっ! ちょっとまっ……はああああぁッ!!」
挿入で一気に高められた快楽が収まる間もなく和真が律動を開始し、令は休む間もなく悦びの階段を昇らされ始める。
突き上げられるたびに体全体に快楽が流れ、大声で喘ぐ。しかし今回はそれだけではなかった。
「なっ……なんかコレ、ちがっ……あああぁ!! あそこが……脈うって……ひゃうん!!」
その感覚はディルドーとは明らかに異なっていた。無論、無機物のディルドーとペニスは違って当たり前なのだが、それだけでは説明つかないぐらい、令の体は急速に高められていく。
「先輩の膣すごく暖かくて……それにきゅうきゅうって絞めつけてきます。ヌルヌルして、すごくいやらしい動きで、全部搾り取られそうな感じで……」
「そ、そんな事な……やああッ! 比良坂君のが熱い! 熱いよぉ!!」
まるで膣の中で炎を焚かれたかのような熱を令は感じていた。それは冷たいディルドーでは決して味わえない感覚。
そう、今令の膣の中では快楽という炎がペニスという松明で燃やされているのだ。
それでもなお、令の体の快楽は収まる事なく高まり続けていた。
−こ、これが……男のモノを受け入れる感覚……−
ペニスを挿入される事がこうも体を火照らせるとは予想にもしなかった。
令の体は今までのようなまがいモノでない”それ”が挿入された事をあきらかに理解した反応をしている。
膣が歓喜でこれまでにないほどうねり、それに連動するように鋭い快楽が体を貫く。
そして何より、心の制御が利かなくなっていくのだ。
体が求めているのは快楽だけではない。その快楽を与える存在を……ペニスを求めていた。
さらに追従するように、心までもがペニス……和真を求める。
いくら令の中の男の心がそれを止めようとしても無駄だった。もう心ですら言う事を聞かないのだ。
男の心では制御出来ないそれ……そして令はようやく先程から引っ掛かっていた、自分の中にあったもう一つの意思のような存在の正体に気がついた。
それは女の……いや、”雌の本能”だ。
「ふああああぁぁ!! 突き上げてる……比良坂君のが突き上げてくるうぅぅ!!」
「先輩の膣、熱くて……腰が、腰が止まりません!」
「いいっ! いいから突き上げて! 私も……私も止まらないいぃぃ!!」
心の中の男の令が反応するよりも早く、女の令が言葉を返してしまっていた。
すでに体も心も、”女の令”の持ち物なのだ。いくら男の令がそれに抵抗しようと、もはやその権利はない。
いや、すでに令の心はそんな事も意識できないぐらいの快楽に翻弄されていた。
男を受け入れる事によって、より力を増してしまった女の令が男の心を圧迫し、押し潰している。
「先輩、俺……俺もう限界です!」
「わ、私もダメ……あああああぁぁッ!! 私もイっちゃ……あああぁあ!!」
互いにその限界が近づいてきた。和真の腰が凄い勢いで令に打ち付けられる。
どんどんペースアップする和真の責めに、令は狂ったように髪を振り乱して絶叫した。
あとは一気に頂点に上り詰めるだけ。もう歯止めは利かない。
「俺もう……先輩!!!」
「私もイくから……比良坂君もイって! もう……もうダメェ!! 」
令がいよいよ腰を反らせ限界に達しようかという瞬間、和真は素早く令の膣からペニスを引き抜いた。
「くっ!!」
「やああッ、ああああああああぁぁぁぁ―――――ッ!!!!」
絶頂を迎え令は悦びの声を上げ体を震わせる。それと同時に胸や腹に和真の精が降りそそぐ。
雄の白濁した液体に自身の体を汚されるのを令の瞳は満足げに見つめていた。
「先輩、その……ありがとうございました」
事が終わり互いに服を着た後、和真は唐突に礼を言ってきた。
その言葉には色々な意味があるのだろうが、令にはいささかムズ痒かった。
「お礼言われるような事じゃないよ。それに……結局私は比良坂君をふった事になるんだし」
「その事はもういいです。ただ、先輩が俺を嫌いなんじゃなくて、気持ちは理解してもらえて……それだけで十分です」
真っ赤な顔で鼻の頭をかきながら、和真は令から視線を逸らす。
内心は当然残念なんだろう。しかしそれを令に悟られまいとする気遣いは聞かずともよくわかる。
また少し胸が痛くなった。しかし理性の戻った令に、これ以上の事は無理だ。
「それじゃあ俺、もう行きます。今日は本当にありがとうございました」
「うん……じゃあね」
最後に笑顔で頭を下げ、和真は用具室から出ていった。それを見送り、和真の姿が扉の向こうに消えるのを見ながら、令は漠然と心にある妙な満足感と微かな寂しさを感じていた。
今現在、令の心はほぼ男に戻ったようだが、まだどこかに違和感があった。
一度火がついた女の本能というものは、なかなか落ち付かないようもののようだ。
とはいえこのままここでずっと感傷に浸っているわけにもいかない。
そう思った令は足元に倒れた鞄を手に取って立ち上がると、外への扉を開く。
途端に目に入ったのは街灯の明かりと星空……外はもうすっかり日が暮れていた。
「やば……また姉さんに怒られちゃうな……」
用具室の明かりを消して扉を閉めると、令は慌てて校門の方へ駆け出した。