明かりを感じ静かに目を開ける。それは何もかもいつも通りの感覚、自分の部屋の、自分のベットでのいつも通りの目覚め。
意識の霧が少しずつ晴れてくるにつれ、視界が少しずつクリアになってゆく。
見慣れた天井、何も変わらぬその光景、しかし何かが奇妙な違和感となって引っ掛かっている。
−あれ……僕は……?−
何一つ変わらぬ日常の目覚め、だが何故それを変だと思うのか?
いくら考えても寝起きの意識ではどうしても答えが記憶のそこに辿り付かない。
−そういえば時間は……とりあえず起きなきゃ……−
導き出せないそれをもどかしく思いながら、首をタンスの上に置いてある目覚まし時計に向け……
令はようやく全てを思い出した。
「気が付いた?」
そこにはセネアがベットの脇で令を見下ろすように座っていた。
「セネア……さん?」
令の問いかけにセネアは安堵したように笑みを浮かべる。そしてその手を静かに令の髪に添え、慈しむようにそっと頭を撫でた。
「どうやら大丈夫みたいね。良かった……」
その静かで、それでいて優しい手の感触に令はいささか戸惑う。
これまでのイメージからは想像もつかないぐらい暖かく優しいセネアの仕草に、令はいささか気恥ずかしさを覚えながらゆっくりと体を起こした。
「……あ」
上半身にのっていた布団を腰の方に折り曲げた時、令はあの無理矢理破かれた制服の事を思い出す。
あわてて服を見ると、いつのまにやらしっかりとパジャマに着替えさせられていた。
多分にセネアが行ったのだろうが、それは知らないうちに一度裸にされたという事で、いくら一度全てを見られた事があるとはいえ、やっぱり少々恥かしい。
なんとなく気まずい意識で、令は顔を赤くしたままセネアの方に視線を向ける。
しかし当のセネアは、そんな令をその赤い瞳で優しく見つめていた。
「大丈夫よ、やつらの精は全て術で洗浄しておいたわ。怪我をしたような感じもなかったし」
その言葉に令は、意識を失う直前まで令を陵辱していた二人の事、彼らの顛末を令自身は確認していない事に気が付く。そして気を失った後に何があったのかも令自身は知らない。
とりあえずはその辺をはっきりさせたいと思い、令はセネアに話かけた。
「そういえば……あの二人はどうしたの? あの後僕は……」
しかし言いかけの途中で令はすぐに言葉を止める。二人の事を口にした途端、セネアの顔があからさまに嫌悪の曇りを帯びたからだ。
−触れてはいけない事を言ってしまった?−
思わず躊躇した令だったが、セネアはそのまますぐに口を開いた。
「あの二人はね……最後まで激痛に苦しむように命令あるまで死ねない呪法をかけて、腹に穴を空けて臓物を引きずり出し全身の骨を砕いた後に首から上をねじ潰して……」
「……!」
「そのまま全身をすり潰してぺしゃんこになった体を槍や刀で何度も貫き、そのボロ布のようになった腐肉を業火で燃した後に冥界の餓鬼に意識あるまま食らわせ……」
憎悪の口調でまくし立てるように残虐な経過を口にしたセネアだったが……
突然何かに気が付いたように令を見て、ようやく言葉を止めた。
「……冗談よ。そんなに青い顔しないで。」
「へ?」
唐突に肩をすくめて否定するセネアに令は思わず間抜けな返事をしてしまった。
そんな令に、セネアはまだ不満ありげな顔を向け、言葉を続ける。
「本当はそれぐらいやりたかったわ。でも令が殺すなって言った以上、そうするしかないじゃない」
「あ……う、うん……」
どうやらセネアは令の懇願をしっかりと聞いてくれたようだ。
とはいえ令にはセネアがそこまで嫌悪した対象を素直に逃がすような性格だとは思えなかった。
「えっと、じゃあ……どうしたの?」
「だから素っ裸にひん剥いて馬鹿みたいな格好で緊縛した後、ご自慢の薬と一緒に警察署の前に転がしておいたわ。ついでに呪法で一生インポのオマケつき」
最後にセネアは悪戯っぽく笑う。
「言われた通り、”殺して”はいないわ」
一瞬間を置いて、令も思わずつられてクスリと笑ってしまった。
とはいえ内実彼らにとっては死刑宣告も同然。一瞬不謹慎かとも考えもしたが、立場的に令は彼らを同情する義理もなければその気も浮かばない。
当然それ以上を望んでいたセネアも同じ心境である。
そんな事を考えながら互いに見つめていた二人だったが、結局互いにつられて軽く笑い出してしまった。
しかし互いの気持ちが落ち着いてきた途端、セネアの顔が曇る。どうしたのかと令は声をかけようとしたが、それよりも早くセネアはそのまま令を静かに抱き寄せた。
「ごめんね遅くなって……こんな事なら時を待たずに、ずっと傍にいればよかった」
「そんな、だってセネアさんが来なかったら僕は……」
謝るセネアを慰めようとした令だったが、途中で言葉を止めてしまった。
互いの言葉が再び疑問を思い出させたから、そして忘れていた何かを令の頭が思い出したからだ。
「……そういえばセネアさん、よく僕のいる場所がわかったね。もしかして僕がああいう状況だっていうのもわかっていたの?」
少々意地の悪い言い方だとは思ったが、令は思った事をそのまま口にした。
だがセネアはそれに動じた様子もまるで感じられず、令を抱きしめたまま口を開く。
「一度契りを交わした者だもの、この世にいる限り居場所はわかるわ。
だけど貴方が陵辱されていた事は知らなかった。だけど……時が来るという事は、当然そういう経緯も予想すべきだったのよ。それは完全に私の落ち度だわ」
「時が来るって……?」
「貴方が”男に抱かれる”事。同族の、人間の雄にね」
思わぬ言葉に令は目を丸くする。だがそれは言葉の意味する所に驚いただけで、持った疑問が全て氷解したわけではない。
「男にって……でも、どうして? それにどうしてその……あの……抱かれたってわかったの?」
「契った相手の魂の流れは自分の事のようにわかるわ。それまで流動的だった貴方の魂は、今日の夕刻それによって完全に定着した。つまりそういう事よ」
夕刻、つまりセネアは和真に抱かれた事を言っているのだ。ようするに男に抱かれた事によってセネアが再び令の元に来るだけの動機ができたという事なのだろう。
そしてセネアが再び令の元を訪れる意味……少しづつ令の頭の中でピースが揃ってゆく。
「魂の定着って? それが起こるとどうなるの?」
「肉体の性を変えてもね、魂の性はそれまで肉体によって貯められた”気”によって完全に変わる事はできないの。そしてこれまでとまったく異なる気を注がれるようになった魂は極めて不安定な状態になるわ。そんな魂の性を完全に定着させるには、異性からの性交で今の自身の立場を魂に刻み込むしかない。そうする事によって魂は今自分が別の性である事をようやく認識する……つまり貴方は男に抱かれる事によって本当の意味で女になったの」
「本当の意味で? で、でもどうして!? 何故そんな事をする必要が……」
セネアの意味ありげな説明に令はかすかな焦りを覚えた。特に”本当の意味での女”という単語が奇妙な不安感をつのらせる。それはもう男に戻れないという事か? それとも別な意味があるのか?
その時突然、セネアが令をベットに倒した。そして令を見下ろすように言葉を続ける。
「それは貴方が……令が適合者だからよ」
それはセネアと初めて会った時、夢の中での契約の時にも出た言葉だ。
「我々淫魔の一族はね、性交の意味が”気”の交換である以上、同族でもそれで子を成す事はできない。
もっとも出来たにせよ、すでに神魔族は古の最終戦争ですでに大半が滅しているから、生き残り同士が会う事すらほぼかなわないけど。でもね、奇跡と呼べるぐらい低い確率で淫魔の子を孕める人間族が稀に現れるのよ。それが適合者……淫魔の妃と呼ばれる肉体を持つ者」
「子を……孕める? そ、それってまさか……!!」
「多分その”まさか”ね。ただ子を成すのだから当然女でなくてはならない。それは肉体だけではなく魂もね。
だから貴方には男と交わってもらう必要があったの」
セネアがゆっくりとその顔を令の眼前に近づける。その赤い瞳が目の前で令を見据えていた。
「令……契約履行よ。貴方には私の”妻”になってもらうわ」
一瞬の間を置き、令その言葉の意味する所を理解する。
それは女にしかできない事を令にさせるという事実上の宣言だ。
「あ、あ……うああああぁぁぁ―――ッ!!」
否定とも恐怖ともつかない感情が令の中で爆発し、令はその場でセネアを跳ね除けるように暴れだす。
しかしセネアは軽くそれを払いのけて令を再びベットに押し倒し、そのまま両腕を組み伏せた。
力の差は圧倒的だ。当然令だってそんな事はわかっている。
「やだぁ! そんなの……そんなのはやだあああぁぁぁ!!」
だがそれでも反抗せずにいられない。無駄だとわかっていても令は全力で暴れ、泣き叫んだ。
それでもいくら両腕に力を込めようとセネア腕を払いのける事はできなく、何度足をばたつかせようとセネアを押しのける事はかなわない。
そんな反抗劇がしばらく続いたが……令は体力の限界とともに、その全て徒労に終わった事を悟る。
令にはもう泣く以外の選択肢は残されていなかった。
しかし……
「…………?」
全てが終わって、訪れたのは陵辱ではなく沈黙だった。
体を押えられたまま何も起こる事のない時間が静かに過ぎてゆく。
その奇妙な間にようやく落ち付きが戻ってきた令は、不思議そうな顔で静かにセネアを見上げた。
「……セネア……さん?」
物言わぬ、何もしないセネア。その顔は怒りとも悲しみともつかない微妙な表情をしていた。
そのまま静かに令を見つめていたセネアだったが、しばらくしてようやく口を開いた。
「令、それでは契約が不履行になってしまうわ。魔と結んだ契約を破棄した場合、そのペナルティは……魂なのよ?」
表情を変えず、セネアは淡々と言い伏せる。それは令に言い聞かせるというよりは、単純に言葉を口にしている、そんな感じだった。
「魔に奪われし魂は二度と生命の輪廻に戻れず、永遠に冥府の中で苦しみ続けるわ。
それは単に命を落とすという次元ではない真の地獄……それでも……」
「…………。」
「……それでも貴方は、契約が施行されぬ事を望む!?」
セネアの言葉はそれを紡ぐごとに少しづつ荒くなっていった。
そしてその赤い瞳は静かに何かを訴えるかのように揺れている。
理性ではない爆発しそうな感情を無理矢理押えているような、そんな雰囲気だ。
その感情が何であるのか、令もわからぬ訳ではない。
だが正直セネアがそんな感情を持つなどにわかに信じられなかった。
「……それでも、いいって言ったら?」
「令! 冗談でもやめて!! 言霊だって契約になりうるのよ!!」
半ば自嘲気味に吐いた言葉だったが、セネアは予想外にヒステリックに反論する。
正直令は、これだけの力を持つセネアが感情を暴発させそうになるなど、想像だにしなかった。だがそれはセネアが”その種の感情”を持っているという事を意味する。
そう、彼女は令を殺したくはないのだ。それもただ損得的な感情ではなく。
だがそれでも令は、まだそれを完全に納得できなかった。
「それなら……どうして力ずくで僕を奪わないのさ? それに僕が男に抱かれる事だって、セネアさんなら誰かを無理矢理あてがう事だってできたんじゃない?」
「ならば令はそれを望むというの!? 貴方はそれでも納得できて!?」
「そんな……僕はもちろん……」
当然望まない−無論それは当たり前の結論だ。
だがその問いは彼女の力には関係がない事。令は自身が望む望まないにかかわらず、セネアならば強制的な執行が可能なのではと問うているのだ。しかし彼女は令を力で奪う事を否定した。
そのまま言葉を止め見詰め合う二人……先に口を開いたのはセネアだった。
「……そうね、最初はそのつもりだったわ。貴方を見付けた時の最初の感情は、有り体に言えば”探していた道具が見つかった”という感覚。魔にとって人など、その程度の存在よ」
痛烈なセネアの言葉、しかし初めて会った頃のセネアを思い出すと、それは令の中でのセネアのイメージにそこまで違和感のあるものでもない。
「貴方の目が醒めて肉体変化の不具合が無いのを確認したら、その後すぐ男に抱かれるように事を運ぶつもりだった。だから姿を透化させて、貴方が目を覚ますまで寝顔を見ながら待っていたわ。そう、ただ道具が目覚めるまで監視していただけ。ただそれだけのはずだった……」
冷徹な言葉を吐きながらも、セネアの口調は決して冷淡なものではなかった。
そんなセネアの両手がゆっくりと令の頬を挟むように触れる。
「どうしてかは私にもわからない。でも、いつのまにか鼓動が奇妙に高まっていたわ。最初はただ適合者を見つけて興奮してるだけだと思った……そう思って納得しようとした。”人間相手に何を馬鹿な!”って。けど……もう貴方の顔から目が離せなくなっていたわ」
セネアはそのまま鼻先が触れるぐらいの距離まで顔を近づけてきた。
吐息が唇に触れるような感覚に、令の動悸が高いリズムを刻み始める。
「そして目が醒めたらね……令ったら、目の前でいきなり見せつけるんだもの。あそこまで誘われて、我慢なんで出来るわけないわ」
「な! あ、あれは誘ってとかいう……いや、だってそれは!!……その……」
それはあの時の自慰の事。突然指摘され狼狽した令は思わず叫んで言い訳しようとしたが、すぐに言葉に詰ってしまった。なにしろセネアの姿が見えていなかろうが何だろうが、どう考えても言い繕いようがないからだ。恥かしいやら何やらで令の顔が真っ赤に染まる。
だがそんな令の羞恥を裏腹に、セネアは静かに顔を上げると自嘲気味に笑った。
「その後ね、自分がもうどうしようもない状況に陥っていたと理解したのは。貴方に見とれ、そして抱いてしまった時にもう私はすでに溺れていたのよ」
「……溺れていた?」
「そう、”三木原 令”にね。あの後貴方が男に襲われるような手筈を整えて、事はすぐに運ぶようにするつもりだった。けど……出来なかったのよ。いくら所詮人間ごときに何を躊躇する必要がって考えても、浮かぶのは貴方の顔ばかり。貴方が別な誰かに抱かれると考えるだけで、怒りと悲しみ……嫉妬と罪悪感が同時に心に突き刺さった」
言うとセネアは静かに手を握って自身の胸に当てる。
「ここがね……苦しくて仕方がなかった。でも貴方の魂は絶対安定させねばならない。
そんな葛藤と苦悩の中で結局私は逃げたわ。何もできなくなった私は全ての選択を貴方に預ける事にしたのよ。
そしてその姿を見ないように、遠い次元の狭間で時を待ちつづけた」
静かに紡ぐセネアの言葉は、極めて穏やかでありながらどこか自分を責めているような、そんな語り口だった。自身の存在、動機、感情、行動、そんなあらゆる行いが全て混ざり、その愚考を令に懺悔しているような、そんな感じである。
セネアは令に何もかも全てをさらけ出していた。
「……そういえば、さっきも傍にいなかったからって言ってたよね。どうして僕の傍から……僕の姿を見ないようにしたの?」
何気ない疑問、しかしその言葉を聞いてセネアは微かに顔を曇らせる。
「……また貴方を見てしまうと、二度と離れたくなくなってしまいそうだったから。そのまま貴方が他人に抱かれるのを見るなんて我慢できないと思ったからよ。けど、そのせいで貴方の元に来るまであれだけの時間がかかってしまった……辛い思いをさせてしまった」
陰っていたセネアの顔が少しずつ歪む。それは悲しみを押えている者故の悲痛な表情だ。
「ごめんね、令……」
セネアの手が静かに頬に触れる。それと同時に一筋の涙が頬を伝い静かに令の顔に落ちた。
それは決して欺瞞で作れるものではない心の雫、演技や嘘で流せるような涙では決してない。
そこまで心を明かされた以上、令の疑問はもう確信に変わってたに等しかった。
令の鼓動がゆっくりと高まる。さっき感じた恐怖など、もはや微塵もなく吹き飛んでしまった。
いや、”それ”を拒絶し恐怖する心はまだ確かに令の中に存在する。自身の男はいつまでもそれを否定し続ける。
だがそれ以上に、セネアから向けられた感情が令の心の中で急速に恐怖を覆い隠してゆく。
魔という存在、多分生物としては圧倒的に上位に立ち、人を御する事など造作もないはずの彼女が”三木原 令”という、ただの人である存在に縋っているのだ。
その想いは何よりも深い。そしてその想いの強さが令の鼓動を急速に高めてゆく。
だから令はその思いの正体に確信を得るため、言葉を求めた。
「セネアさん、教えて……」
令はセネアがやったように、静かに手を上げ自身を見下ろしているセネアの頬に触れる。
最初は驚いたように、そしてその後静かに微笑みセネアは令を見下ろした。
「セネアさんは僕が適合者だから必要なの? それとも……」
令の言葉にセネアは静かに頬に当てられた手に触れ返し、口を開く。
「もちろん…………好きだからよ。誰よりも……この世界の誰よりも」
その言葉に、令の中の疑問が確信に、恐怖が想いに塗り潰さてゆく。
本当に女神のような笑顔で、セネアは”それ”を令に伝えた。
しかしセネアの顔は笑顔からすぐ脅えに変わる。静かに不安を訴えた目を向け、セネアは口を開く。
「令は……どうなの?」
今度は令の番だった。その言葉に、これまでのセネアのと今のセネアが頭の中で交錯する。
夢の中で初めて出会い、令を女性へと変えた張本人。そして令の女としての初めてを奪った人。
そこにあったのは恐怖と無力感と、そして圧倒的な快楽。
あの日のセネアには男としての女性に対する本能的な感情こそあれ、決して想いを感じはしなかった。
それはあの陵辱の末に再開したあの場でも同じだったはずだし、先程の宣告の時には恐怖……自身が呑まれるような
感覚に脅え苦しんだのは確かなのだ。そんな感情を持つなど考えもしなかった。
だけどそれを知ってしまった……彼女は本当の想いで令を求めていた。
これはついさっき生まれたばかりの感情なのだ。そしてその選択をするという事は、令に今とは違う生き方を強要する事を意味する。令の心は今でもそれを決して望んではいないはずだった。
それとは別に、頭の中に瑞稀や和真の顔が浮かぶ。想いを受け取るのは、別の想いを裏切るのと同じだ。
だがそれでもその”想い”は強かった。想いが矛盾を、何もかもを押し流す。
生まれたばかりの感情なのに、もう令はこれを否定する事ができなかった。
もう言葉は一つしかない……令はそのまま、素直にその想いを口にした。
「好き……だよ。僕もセネアさんの事、好き」
セネアの顔が、静かに微笑んだ。その頬に再び涙が伝う。
だがそれは先程とは違う雫、想いに満たされた感情が溢れた歓喜の涙。
そのままセネアは静かに顔を近づけてくる。令は何も言わずに静かに目を閉じた。
そして二人は、静かに口付けを交わした。